(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126009
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】バランスばねの有効長の自律的調整デバイス
(51)【国際特許分類】
G04B 18/06 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
G04B18/06
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024018357
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】23160132.9
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】パウロ・ブラーボ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・カベサス ジュラン
(57)【要約】
【課題】 単純で、正確で、自律的な形態で、重力の影響、特に発振器のバランスの等時性の阻害、を打ち消す。
【解決手段】 本発明は、ばね仕掛けバランスタイプの発振器(4、5)のための、バランスばね(5)の有効長の自律的調整デバイス(6)に関し、計時器用ムーブメント(2)のプレート(13)に取り付けられるコック(12)と、バランスばね(5)の有効長を変更する手段とを備え、コック(12)において、バランス(4)のスタッフ(7)が回転し、バランスばね(5)には、バランススタッフと一体化された内端と、スタッドホルダー(10)に留められた第1のスタッド(8)と一体化された外端とがあり、スタッドホルダー(10)は、バランススタッフと同心にコック(12)に回転可能に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね仕掛けバランスタイプの発振器(4、5)のための、バランスばね(5)の有効長の自律的調整デバイス(6)であって、
前記自律的調整デバイス(6)は、計時器用ムーブメント(2)のプレート(13)に取り付けられるコック(12)と、前記バランスばね(5)の有効長を変更する手段とを備え、
前記コック(12)において、バランス(4)のスタッフ(7)が回転し、
前記バランスばね(5)には、前記バランス(4)の前記スタッフ(7)と一体化された内端と、スタッドホルダー(10)に留められた第1のスタッド(8)と一体化された外端とがあり、
前記スタッドホルダー(10)は、前記バランス(4)の前記スタッフ(7)と同心に前記コック(12)に回転可能に取り付けられ、
前記バランスばねの有効長を変更する手段は、レバー(60)と、弾性応力付与手段(70、71、72、73)と、慣性ブロック(40)と、減衰手段とを備え、
前記レバー(60)は、前記自律的調整デバイスの休み位置と2つの補正位置の間で前記スタッドホルダー(10)にて回転することができ、
前記レバー(60)には、第1の自由端(610)と、2つのくちばし部(601、602)がある第2の端(600)とがあり、
前記弾性応力付与手段(70、71、72、73)は、前記レバー(60)に対して弾性復帰作用を与えるように構成しており、
前記慣性ブロック(40)は、カム(31)が取り付けられた軸(30)を中心に回転可能であり、
前記慣性ブロックは、重力に応じて前記軸のまわりを自由に回転するように構成しており、
前記慣性ブロック(40)の回転は、前記カム(31)の回転及び前記レバー(60)の回転を発生させ、これによって、前記くちばし部(601、602)の1つが前記バランスばねに作用して、同時に前記バランスばね(5)の有効長を変更し、
前記減衰手段は、前記慣性ブロック(40)と同軸であり前記慣性ブロックに取り付けられた歯車(34)と、急な加速又は減速があったときに前記歯車を介して前記慣性ブロックと連係して前記バランスばね(5)の有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイス(20)とを備える
ことを特徴とする自律的調整デバイス(6)。
【請求項2】
前記スタッドホルダー(10)には、前記レバー(60)のための回転ピン(102)が通り抜ける開口(101)がある
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項3】
前記レバーには、その第2の端(600)に、前記回転ピン(102)が通り抜けるボールベアリング(603)がある
ことを特徴とする請求項2に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項4】
前記開口(101)は、前記バランスばね(5)に対する前記レバー(60)の位置を調整することを可能にするように長円状である
ことを特徴とする請求項2に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項5】
前記レバーに対して弾性復帰作用を与えるように構成している前記弾性応力付与手段(70、71、72)は、前記プレート(13)と一体化されている
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項6】
前記レバーに対して弾性復帰作用を与えるように構成している前記弾性応力付与手段(73)は、前記スタッドホルダー(10)と一体化されている
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項7】
前記カム(31)は、外側輪郭があるラジアルカムである
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項8】
前記自律的調整デバイス(6)が休み位置にあるときには、前記カム(31)の平坦部分が前記レバー(60)と接触しており、前記自律的調整デバイス(6)が補正位置にあるときには、前記カム(31)のコーナーないし角部分が前記レバー(60)と接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項9】
前記カム(31)は、前記慣性ブロック(40)の位置にかかわらず、前記レバー(60)の前記自由端(610)と常に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項10】
前記慣性ブロック(21)は、固体の半円ディスクからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項11】
前記自律的調整デバイス(6)は、エアダンパーを備え、
前記エアダンパーは、前記慣性ブロックの形状と同様な形状の空洞がある本体の形態であり、
前記慣性ブロックは、前記空洞内にて回転するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項12】
前記自律的調整デバイス(6)は、前記軸(30)に取り付けられたハート形のカム(32)を備え、
前記ハート形のカムは、ばね(24、25)と連係するように構成しており、
前記自律的調整デバイス(6)のアセンブリーは、前記レバー(60)の位置をリセットするためのデバイスを形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項13】
前記ハート形のカム(32)は、前記カム(31)に重なり合っている
ことを特徴とする請求項12に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項14】
ばね仕掛けバランスタイプの発振器(4、5)と、請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)とを備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(2)。
【請求項15】
請求項14に記載の計時器用ムーブメント(2)を備える
ことを特徴とする計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばね仕掛けバランスタイプの発振器のための、バランスばねの有効長の自律的調整デバイスに関する。
【0002】
本発明は、さらに、バランスばねの有効長の自律的調整を有するデバイスと、ばね仕掛けバランスタイプの発振器とを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、前記計時器用ムーブメントを備える、計時器、特に、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)、に関する。
【背景技術】
【0004】
ばね仕掛けバランスタイプの機械式発振器が取り付けられた携行型時計において、バランスばねの有効長を手動で調整するための機構が知られている。
【0005】
例えば、通常の手動式の調整機構において、バランスばねの外端は、コックと一体化されたスタッドホルダーに留められたスタッドによって不動化される。スタッドホルダーに対して回転することができるインデックスを用いて、バランスばねの有効長を調整して、ばね仕掛けバランスの振動数を調整することが可能になる。このインデックスは、通常2つのアームを備える、回転レバーであり、このレバーは、バランススタッフの座標を中心とする。インデックスの第1のアームには、例えば、2つのピンがあり、その間にてバランスばねが自由になっている。インデックスの第2のアームを手動で操作して、バランススタッフを中心として特定の角度分インデックスを回転させることができる。これによって、カウント点の実際の位置を変更することができる。インデックスが回転するに従って、バランスばねの有効長が短縮又は増加する。しかし、このような手動調整デバイスには、対応する計時器用ムーブメントの向きに応じて地球の重力がばね仕掛けバランスの発振の振動数に影響を与えてしまうという課題がある。結果として、携行型時計のレートは、特にその水平姿勢と鉛直姿勢の間で、大きく変動する。また、バランスばねがピンの間をそれらの間の遊びに起因して動くときに、ばね仕掛けバランスの振動は、その有効長を変更して、ばね仕掛けバランスのアセンブリーの振動数をわずかにばらつかせてしまう。
【0006】
重力の悪影響を抑えるために、特にスイス特許CH705605B1によって知られている1つの手法は、バランスばねの有効長を調整するためのデバイスを実装しており、これにおいては、バランスばねの有効長を定めるためにバランスばねの端部分をクランプするように設計されているクランプ手段をインデックスが担持している。また、バランスばねの外端は、インデックスに対して運動可能に取り付けられインデックスと連係するように構成している留めシステムと一体化されている。クランプシステムは、例えば、バランスばねの端部分がクランプされているピン/偏心クランプシステムからなり、時計技師が所望のときに緩めたりきつくしたりすることができる。時計技師がピン/偏心クランプシステムを緩めると、工具を用いて留めシステムを動かすことができ、したがって、固定されたままのインデックスに対して、したがって、ピンに対して、バランスばねを動かすことが可能になり、これによって、バランスばねの有効長を変更することができる。そして、時計技師は、クランプシステムをきつくすることによってピンに対してバランスばねをクランプして、調整デバイスをその動作位置に戻すことができる。しかし、このような手法は依然として手動の調整手法であり、このために、重力の影響を打ち消すために用いられる調整の精度を大幅に制限してしまうという課題がある。また、このような手法は、調整を行うために時計技師が行う様々な手動の調整ステップに起因して、実装に多くの労力が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、単純で、正確で、自律的な形態で、重力の影響、特に発振器のバランスの等時性の阻害、を打ち消すことを可能にするような、ばね仕掛けバランスタイプの発振器のための、バランスばねの有効長を調整するためのデバイスを提供し、従来技術の前記課題を軽減することを目的とする。
【0008】
このために、本発明は、ばね仕掛けバランスタイプの発振器のための、バランスばねの有効長の自律的調整デバイスに関し、前記自律的調整デバイスは、計時器用ムーブメントのプレートに取り付けられるコックと、前記バランスばねの有効長を変更する手段とを備え、前記コックにおいて、バランスのスタッフが回転し、前記バランスばねには、前記バランスの前記スタッフと一体化された内端と、スタッドホルダーに留められた第1のスタッドと一体化された外端とがあり、前記スタッドホルダーは、前記バランスの前記スタッフと同心に前記コックに回転可能に取り付けられる。
【0009】
本発明によると、前記バランスばねの有効長を変更する手段は、レバーと、弾性応力付与手段と、慣性ブロックと、減衰手段とを備え、前記レバーは、前記自律的調整デバイスの休み位置と2つの補正位置の間で前記スタッドホルダーにて回転することができ、前記レバーには、第1の自由端と、2つのくちばし部がある第2の端とがあり、前記弾性応力付与手段は、前記レバーに対して弾性復帰作用を与えるように構成しており、前記慣性ブロックは、カムが取り付けられた軸を中心に回転可能であり、前記慣性ブロックは、重力に応じて前記軸のまわりを自由に回転するように構成しており、前記慣性ブロックの回転は、前記カムの回転及び前記レバーの回転を発生させ、これによって、前記くちばし部の1つが前記バランスばねに作用して、同時に前記バランスばねの有効長を変更し、前記減衰手段は、前記慣性ブロックと同軸であり前記慣性ブロックに取り付けられた歯車と、急な加速又は減速があったときに前記歯車を介して前記慣性ブロックと連係して前記バランスばねの有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイスとを備える。
【0010】
本発明の他の有利な実施形態においては、以下の特徴を有する。
- 前記スタッドホルダーには、前記レバーのための回転ピンが通り抜ける開口がある。
- 前記レバーには、その第2の端に、前記回転ピンが通り抜けるボールベアリングがある。
- 前記開口は、前記バランスばねに対する前記レバーの位置を調整することを可能にするように長円状である。
- 前記レバーに対して弾性復帰作用を与えるように構成している前記弾性応力付与手段は、前記プレートと一体化されている。
- 前記レバーに対して弾性復帰作用を与えるように構成している前記弾性応力付与手段は、前記スタッドホルダーと一体化されている。
- 前記カムは、外側輪郭があるラジアルカムである。
- 前記自律的調整デバイスが休み位置にあるときには、前記カムの平坦部分が前記レバーと接触しており、前記自律的調整デバイスが補正位置にあるときには、前記カムのコーナーないし角部分が前記レバーと接触している。
- 前記カムは、前記慣性ブロックの位置にかかわらず、前記レバーの前記自由端と常に接触している。
- 前記慣性ブロックは、固体の半円ディスクからなる。
- 前記自律的調整デバイスは、エアダンパーを備え、前記エアダンパーは、前記慣性ブロックの形状と同様な形状の空洞がある本体の形態であり、前記慣性ブロックは、前記空洞内にて回転するように構成している。
- 前記自律的調整デバイスは、前記軸に取り付けられたハート形のカムを備え、前記ハート形のカムは、ばねと連係するように構成しており、前記自律的調整デバイスのアセンブリーは、前記レバーの位置をリセットするためのデバイスを形成する。
- 前記ハート形のカムは、前記カムに重なり合っている。
【0011】
本発明に係る調整デバイスの利点の1つは、自由に回転するように取り付けられ、かつ、バランスばねの外側コイルに作用するように構成している可動アームと間接的に連係する慣性ブロックを備えることに基づいている。したがって、自由に重力の影響を受ける慣性ブロックの回転は、デバイスの休み位置と補正位置の間のアームの運動を発生させ、同時にバランスばねに作用してバランスばねの有効長を変更し、これによって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するためにバランスばねの有効長を調整することが可能になる。結果として、本発明に係る調整デバイスのおかげで、自律的な形態で、重力に起因するバランスの等時性に対する阻害をオフセットすることによって、発振器のレートをその空間における位置に応じて正確に補償することが可能になる。
【0012】
本発明は、さらに、従属請求項14に記載されている特徴を有する上記の調整デバイスを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0013】
本発明は、さらに、従属請求項15に記載されている特徴を有する上記の計時器用ムーブメントを備える計時器に関する。
【0014】
例として与えられる好ましい実施形態についての下記の説明を図面を参照しながら読むことによって、他の特徴や利点を理解することができる。
【0015】
図面を用いて説明される少なくとも1つの実施形態に基づく以下の説明において、バランスばねの有効長を調整するためのデバイス、そして、それを備える計時器用ムーブメントと計時器についての目的、利点及び特徴が一層わかりやすく説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るバランスばねの有効長を調整するためのデバイスを備える携行型時計の計時器用ムーブメントを上方から見た斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るバランスばねの有効長を調整するためのデバイスを備える携行型時計の計時器用ムーブメントを下方から見た斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る
図1の調整デバイスを上方から見た斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る
図1の調整デバイスを上方から見た分解斜視図である。
【
図5】
図5a及び5bはそれぞれ、本発明の第2の実施形態に係る
図1の調整デバイスを上方から見た斜視図及び分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、ばね仕掛けバランスタイプの発振器のための、バランスばねの有効長を調整するためのデバイスを備える計時器用ムーブメントに言及して説明する。当業者によく知られている計時器用ムーブメントの通常の構成要素は、簡単にしか説明しないか、あるいはまったく説明しない。実際に、当業者であれば、これらの様々な構成要素を適応させて計時器用ムーブメントの動作のために連係させることができる。具体的には、以下において、計時器用ムーブメントのエスケープ機構について、本発明に係る調整デバイスと連係することがある可能性があっても、関連することすべては説明していない。
【0018】
図1には、計時器用ムーブメント2を備える計時器1の一部を示している。
図1の特定の例示的実施形態において、計時器1は携行型時計である。計時器用ムーブメント2は、バランス4とバランスばね5を備える発振器と、バランスばね5の有効長の自律的調整デバイス6とを備える。伝統的には、バランスばね5は、その内端(図示していない)によってバランス4のスタッフ7に留められる。バランス4のスタッフ7は、バランスブリッジにおいて、回転可能に取り付けられるがある(バランスブリッジは、明瞭さのために図示していない)。バランスばね5の外端は、伝統的な方法で、スタッドホルダー10に留められたスタッド8に留められ、このスタッドホルダー10は、軽いクランプによってコック12と一体化されている。特に、
図2に示しているように、スタッドホルダー10は、バランス4のスタッフ7と同心にコック12に回転可能に取り付けられている。バランス4のスタッフ7は、コック12において回転可能に取り付けられる。
【0019】
バランスばね5の有効長を変更する手段6は、バランスばね5の外側コイルの長さに作用することによって、バランスばね5の有効長を変更することができる。
図1~4と、
図5a及び5bに示している2つの例示的実施形態それぞれにおいて、バランスばね5の有効長を変更する手段6は、デバイスの休み位置と2つの補正位置の間を動くことができるレバー60を備える。このレバーには、第1の自由端610と、2つのくちばし部601、602がある第2の端600とがあり、各くちばし部601、602は、バランスばねの外側コイルに対して互いに独立に作用し、かつ、バランスばねの有効長を変更するように構成している。
【0020】
図に示しているように、スタッドホルダー10には、開口101が形成された拡張部分100があり、この開口101をピボットピン102が通り抜け、このピボットピン102を中心にレバーが回転して、その休み位置から補正位置へと動く。
【0021】
ボルト103とナット104によって形成されたピボットピン102を中心に回転するために、レバーには、その第2の端600において、ボルト103のシャンクが通り抜けるボールベアリング603がある。
【0022】
なお、レバー60の位置をバランスばね5に対して調整することができるように、開口101は長円状である。レバーの補正位置が決まると、単にボルト103とナット104をきつくすることによってレバーの第2の端600をスタッドホルダーの拡張部分100に留めることだけが必要となる。
【0023】
バランスばねの有効長を変更するための手段6は、さらに、カム31が取り付けられた軸30を中心に回転可能な慣性ブロック40を備え、このカム31に対向するようにレバー60の自由端610が休む。慣性ブロック40は、それが受ける重力に応じて軸30を中心に回転することができるように構成しており、この慣性ブロック40の回転は、カム31を回転させレバー60を動かして、バランスばね5の外側コイルに作用し、同時にバランスばねの有効長を変える。
【0024】
調整手段は、さらに、慣性ブロック40と同軸であり慣性ブロック40と一体化された歯車34と、急な加速又は減速があったときに歯車34を介して慣性ブロック40と連係してバランスばね5の有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイス20とを備える。
【0025】
調整デバイスは、前記少なくとも1つのアーム60に弾性作用を与えるように構成している弾性復帰手段を備える。弾性応力付与手段は、ストリップばね70、73の形態である。
図1~4に示している第1の実施形態において、ストリップばね70には、レバー60の自由端610と接触してカム31の輪郭に対向するように自由端610を保持する第1の端71と、プレート13と一体化された第2の端とがある。
図5a及び5bに示している第2の実施形態において、ストリップばね73は、スタッドホルダー10と一体化されており、さらに、自由端610がカム31の輪郭に押されることを可能にする。
【0026】
バランスばね5の有効長を変更する手段には、第2のスタッド8’に留められた2つのピン19があり、アーム60の第2の端601は、2つのピン19の間を摺動して、補正位置において、バランスばね5の外側コイルと接触し、したがって、バランスばねの有効長を変更するように構成している。
【0027】
慣性ブロック40は、カム31が取り付けらた軸30にて自由に回転するように取り付けられ、これによって、慣性ブロック40の回転が、レバー60を動かして、同時にバランスばね5の有効長を変更する手段に作用する。レバーは、自身が重力の影響を受ける慣性ブロック40の回転の影響下で、デバイスの休み位置とデバイスの2つの補正位置の間を動き、レバー60のくちばし部601、602は、携行型時計の位置に応じて別個の補正が行われることを可能にする。図に示しているように、慣性ブロック40は、例えば、半円ディスクからなる。図示していない代替的実施形態において、慣性ブロック40は、固体のバイマテリアルディスクからなり、そのディスクの2種類の材料は、異なる密度を有する。
【0028】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40は、その回転軸を中心に回転して、したがって、レバー60を動かすことができる。その際に、慣性ブロック40の回転は、バランスばね5の有効長を変更する手段に同時に作用し、これによって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するようにバランスばねの有効長を連続的に調整することができる。
【0029】
慣性ブロックが緩い車を形成し、発振器4、5を修正するのではなく狂わせてしまうことを防ぐために、調整デバイス6は、慣性ブロックと同軸であり慣性ブロックと一体化された歯車34を含む減衰手段を備える。減衰手段は、急な加速又は減速があったときに歯車を介して慣性ブロックと連係してバランスばね5の有効長の変更を制限又は防ぐように構成している減衰デバイスを備える。
【0030】
図に示しているように、減衰デバイス20は、エアダンパーの形態であり、このダンパーには、空洞が形成された本体22があり、この空洞においては、空洞と同様な形状である錘21が軸24を中心に回転する。軸24は、さらに、歯車34の歯列と連係するように構成しているピニオン23を備える。したがって、慣性ブロック40は、動くときに、ピニオン23とと噛み合う歯車34を駆動し、減衰デバイス20の錘21を回転させる。したがって、慣性ブロック40が急に動いた際に、減衰デバイス20のおかげで、錘21が慣性ブロック40の回転を制動するように理解した。当然、シリンダー内を動く錘や磁気ダンパーのような他のタイプのダンパーを用いることもできる。
【0031】
なお、慣性ブロック40、歯車34及びカム31を担持する軸30には、さらに、軸30と一体化されておりカム31に重なり合うハート形のカム32がある。このハート形のカム32は、ばね24、25と連係するように構成しており、このばね24、25の端は、ハート形のカム32の輪郭と連係し、したがって、これらのアセンブリーは、慣性ブロックが重力の影響を受けないようになったときに、レバー60の位置をリセットしてそのレバーをその自然な休み位置へと戻すデバイスを形成する。
【0032】
好ましくは、前記カム31は、外側輪郭があるラジアルカムである。
図1~5bにおいて実質的に長方形の外側輪郭を有するラジアルカムを示しているが、実際には、カムの外側輪郭について考えられる形状は、用いられるバランスばね5のタイプ、そして、そのバランスばね5に対して行われる補正に依存する。例えば、三角形、長円状又は楕円形の外側輪郭を有するラジアルカムも、本発明の文脈において用いることができる。好ましくは、調整デバイス6が休み位置にあるときには、カムの平坦部分がレバー60の自由端610と接触しており、デバイス6が補正位置にあるときには、カム31のコーナーないし角部分がレバー60の自由端610と接触している。より好ましくは、カム31は、慣性ブロック40の位置にかかわらず、レバー60と接触している。
【0033】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40は、その回転軸を中心に回転して、したがって、レバー60を動かすことができると考えられる。その際に、この慣性ブロック40の回転は、バランスばね5の有効長を変更する手段に同時に作用し、これによって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するようにバランスばねの有効長を連続的に調整することができる。慣性ブロック40の回転は、軸30を回転させ、軸30と一体化されているカム31を動かし、このときに、このカム31は、レバー60の自由端610に作用して、レバー60を動かし、これによって、レバー60の第2の端600がピボットピン102を中心に回転し、くちばし部601、602の1つがバランスばね5と接触して、バランスばねの有効長を変更する。
【0034】
慣性ブロックが位置の変化の後に安定化すると、デバイスは、同様に軸30と一体化されているハート形のカム32に対するばね24、25の作用のおかげで、自身で休み位置に戻る。
【0035】
本発明は、さらに、ばね仕掛けバランスタイプの発振器4、5と、前記のようなバランスばね5の有効長を自律的に調整するためのデバイス6とを備える計時器用ムーブメント2に関する。
【0036】
本発明は、さらに、前記のようにバランスばね5の有効長を自律的に調整するためのデバイス6を備える計時器用ムーブメント2を備える計時器1に関する。
【符号の説明】
【0037】
2 計時器用ムーブメント
4 バランス
5 バランスばね
6 自律的調整デバイス
7 スタッフ
8 第1のスタッド
10 スタッドホルダー
12 コック
13 プレート
20 減衰デバイス
21 慣性ブロック
24、25 ばね
30 軸
31 カム
32 ハート形のカム
34 歯車
40 慣性ブロック
60 レバー
70、71、72、73 弾性応力付与手段
101 開口
102 回転ピン
600 第2の端
601、602 くちばし部
603 ボールベアリング
610 自由端
【外国語明細書】