(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126010
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240911BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240911BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240911BHJP
C08F 10/06 20060101ALI20240911BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08K3/34
C08F10/06
C08F210/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020491
(22)【出願日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023033750
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 博之
(72)【発明者】
【氏名】板倉 啓太
(72)【発明者】
【氏名】金子 将寿
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀幸
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB052
4J002BB121
4J002DJ046
4J002FD016
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AA16Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA10
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA15
4J100DA42
4J100DA43
4J100DA49
4J100DA51
4J100FA10
4J100FA22
4J100JA28
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性、引張伸び、および成形収縮率にバランスよく優れる成形体を製造し得る樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】プロピレン系重合体(A)30~99質量部と、下記要件(1)~(4)を満たすエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)1~30質量部と、無機充填剤(C)0~40質量部とを含む樹脂組成物(ただし、前記(A)、(B)および(C)の合計は100質量部である。):(1)温度190℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(I2)が0.9~10g/10分である;(2)前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)が6.0~8.0である;(3)1-ヘキセン由来の構成単位の含有量が5~20モル%である;(4)密度が855~890kg/m3である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体(A)30~99質量部と、
下記要件(1)~(4)を満たすエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)1~30質量部と、
無機充填剤(C)0~40質量部と
を含む樹脂組成物(ただし、前記成分(A)、(B)および(C)の合計は100質量部である。):
(1)温度190℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(I2)が0.9~10g/10分である;
(2)前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)が6.0~8.0である;
(3)1-ヘキセン由来の構成単位の含有量が5~20モル%である;
(4)密度が855~890kg/m3である。
【請求項2】
前記要件(4)の密度が855~865kg/m3である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(A)が、
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~200g/10分であるプロピレン系単独重合体(a1)、および
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~150g/10分であり、室温n-デカン可溶部量が5~35質量%であり、室温n-デカン可溶部のエチレン含有量が25~50モル%であり、室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]が2.0~9.0dl/gであるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)
からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロピレン系重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(A)が、室温n-デカン不溶部のメソペンタッド分率(M)が97.5%よりも大きく99.9%以下であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤(C)がタルクである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、引張伸び、および成形収縮率にバランスよく優れる成形体を製造し得る樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより得られる成形体は、その優れた機械物性や成形性、さらには他材料に比べて相対的に有利なコストパーフォーマンスの点から、自動車部品や家電部品など様々な分野での利用が進んでいる。
【0003】
自動車部品分野では、ポリプロピレンを単体で用いるほか、ポリプロピレンにエチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ポリスチレン-エチレン/ブテン-ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)等のゴム成分を添加して衝撃性を改善した材料、タルク、マイカ、ガラス繊維等の無機充填剤を添加して剛性を改善した材料、またゴム成分と無機充填剤を共に添加することにより、バランス良く機械物性が付与されたブレンドポリマー類が使用されている。
【0004】
近年では、主に金属材料の代替品として使用することを目的として、高い機械物性を維持しつつ、寸法安定性に優れた材料の開発ニーズが高まりつつある。しかし、ポリプロピレン成形品は一般に温度に対する寸法変化が大きいので、寒暖の差が大きな環境下で適用する場合は、部品の合わせ目に隙間ができる、あるいは部品組み立て時の建てつけ性が悪化するなどの問題を抱えていた。
【0005】
ポリプロピレン成形品の寸法安定性を改良する為の方策として、従来からポリプロピレンに、タルクに代表される無機充填剤、またはエラストマー成分等をブレンドした様々なプロピレン樹脂組成物が提案されている。例えば、メルトフローレートが500g/10分以上の結晶性ポリプロピレンを含んでなるプロピレンブロック共重合体と、低分子量ポリオレフィンとの併用を特徴とした低線膨張材料の製造方法(特許文献1)、プロピレンブロック共重合体に特定のエチレン・ブテン-1共重合体がブレンドされた樹脂組成物(特許文献2)、プロピレンブロック共重合体の非晶部と結晶部の配合比および粘度を規定することを特徴とする樹脂組成物(特許文献3)、平均粒子径が3μm以下であるタルクを用い、射出成形後の塗装外観に優れることを特徴とする樹脂組成物(特許文献4)、チーグラー触媒で製造したプロピレン系樹脂と特定形状のタルクを含んでなる樹脂組成物(特許文献5)、メルトフローレートの異なる二種類のプロピレンブロック共重合体と特定形状のタルクとを用いることを特徴とした樹脂組成物(特許文献6)等である。また、低温下における面衝撃性を改善するものとして、プロピレン系ブロック共重合体、プロピレン単独重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体および無機充填剤を特定量比で含む樹脂組成物が提案されている(特許文献7、8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-077396号公報
【特許文献2】特開平5-051498号公報
【特許文献3】特開2000-095919号公報
【特許文献4】特開2007-91789号公報
【特許文献5】特開2013-159709号公報
【特許文献6】特開2014-58614号公報
【特許文献7】特開2016-84386号公報
【特許文献8】国際公開第2017/082358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐衝撃性、引張伸び、および成形収縮率に優れる成形体を製造し得る樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体に特定のI10/I2および密度等を有するエチレン・1-ヘキセン共重合体を混合することが有効であることを見出し、本発明を完成した。本発明の態様例を以下に示す。
【0009】
[1]プロピレン系重合体(A)30~99質量部と、
下記要件(1)~(4)を満たすエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)1~30質量部と、
無機充填剤(C)0~40質量部と
を含む樹脂組成物(ただし、前記成分(A)、(B)および(C)の合計は100質量部である。):
(1)温度190℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(I2)が0.9~10g/10分である;
(2)前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)が6.0~8.0である;
(3)1-ヘキセン由来の構成単位の含有量が5~20モル%である;
(4)密度が855~890kg/m3である。
【0010】
[2]前記要件(4)の密度が855~865kg/m3である、項[1]に記載の樹脂組成物。
【0011】
[3]前記プロピレン系重合体(A)が、
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~200g/10分であるプロピレン系単独重合体(a1)、および
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~150g/10分であり、室温n-デカン可溶部量が5~35質量%であり、室温n-デカン可溶部のエチレン含有量が25~50モル%であり、室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]が2.0~9.0dl/gであるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)
からなる群より選ばれる少なくとも1種のプロピレン系重合体である、項[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[4]前記プロピレン系重合体(A)が、室温n-デカン不溶部のメソペンタッド分率(M)が97.5%よりも大きく99.9%以下であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)である、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0013】
[5]前記無機充填剤(C)がタルクである、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0014】
[6]項[1]~[5]のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐衝撃性、引張伸び、および成形収縮率に優れる成形体を製造し得る樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の製造における重合装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
<樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)30~99質量部と、特定のエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)1~30質量部と、無機充填剤(C)0~40質量部とを含む(ただし、前記成分(A)、(B)および(C)の合計は100質量部である。)。
【0018】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、特に限定されないが、例えば、
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~200g/10分であるプロピレン系単独重合体(a1)、および
温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートが0.1~150g/10分であり、室温n-デカン可溶部量が5~35質量%であり、室温n-デカン可溶部のエチレン含有量が25~50モル%であり、室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]が2.0~9.0dl/gであるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)
などが挙げられる。プロピレン系重合体(A)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよく、前記プロピレン系単独重合体(a1)および前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
≪プロピレン系単独重合体(a1)≫
前記プロピレン系単独重合体(a1)における温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(MFR)は0.1~200g/10分、好ましくは1~180g/10分、より好ましくは10~160g/10分、さらに好ましくは20~140g/10分である。前記プロピレン系単独重合体(a1)のMFRが前記範囲内であることにより、成形加工性および物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
前記プロピレン系単独重合体(a1)は、1種の重合体であってもよく、全体として上記のメルトフローレートを満たす範囲内において2種以上のプロピレン系単独重合体を任意に組み合わせてもよい。
【0020】
上記のプロピレン系単独重合体(a1)は、実質的にプロピレンのみを重合したポリマーであればよい。例えば、プロピレンのみを重合したホモポリマー、あるいはプロピレンと6モル%以下、好ましくは3モル%以下の他のα-オレフィンとを共重合した結晶性のポリマーを使用できる。中でも、プロピレンのみを重合したホモポリマーが好ましい。
【0021】
本発明に用いるプロピレン系単独重合体(a1)は、バイオマス由来プロピレンを含んでいてもよい。重合体を構成するプロピレンがバイオマス由来プロピレンのみでもよいし、バイオマス由来プロピレンと化石燃料由来プロピレンの両方を含んでもよい。バイオマス由来プロピレンとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、炭素として14C同位体を10-12程度の割合で含有し、ASTM D-6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC)が100(pMC)程度である。バイオマス由来プロピレンは、従来から知られている方法により得られる。本発明に用いるプロピレン系単独重合体(a1)がバイオマス由来モノマーを含むことは環境負荷低減の観点から好ましい。重合用触媒、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、原料プロピレンがバイオマス由来プロピレンを含んでいても、14C同位体を10-12程度の割合で含む以外の分子構造は化石燃料由来プロピレンからなるプロピレン系単独重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0022】
本発明に係るプロピレン単独重合体(a1)は、ケミカルリサイクル由来プロピレンを含んでいてもよい。重合体を構成するプロピレンがケミカルリサイクル由来プロピレンのみでもよいし、ケミカルリサイクル由来プロピレンと化石燃料由来プロピレンおよび/またはバイオマス由来プロピレンとを含んでもよい。ケミカルリサイクル由来プロピレンは、従来から知られている方法により得られる。本発明に係るプロピレン単独重合体(a1)がケミカルリサイクル由来プロピレンを含むことは環境負荷低減(主に廃棄物削減)の観点から好ましい。原料モノマーがケミカルリサイクル由来モノマーを含んでいても、ケミカルリサイクル由来モノマーは廃プラスチックなどの重合体を解重合、熱分解等でプロピレンなどのモノマー単位にまで戻したモノマー、ならびに該モノマーを原料にして製造したモノマーであるので、重合用触媒、重合プロセス、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、分子構造は化石燃料由来モノマーからなるプロピレン単独重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0023】
≪プロピレン系単独重合体(a1)の製造方法≫
前記プロピレン系単独重合体(a1)は、公知の方法によりプロピレンを主とするモノマーを重合することにより製造できる。例えば、後述する固体状チタン触媒成分(I)と有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合用触媒、あるいは通常チーグラーナッタ型触媒と呼称される三塩化チタンおよびアルキルアルミニウム化合物との組合せ触媒の存在下に、プロピレンを主とするモノマーを重合することにより得られる。重合反応は連続式で行ってもよく、バッチ式で行ってもよい。また例えば、後述する重合工程1のみを行うことにより好適に製造できる。
【0024】
重合反応において、重合温度は、通常0~200℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは50~90℃である。圧力(ゲージ圧)は、通常常圧~100kgf/cm2(9.8MPa)、好ましくは2~50kgf/cm2(0.20~4.9MPa)である。
【0025】
≪プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)≫
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における温度230℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(MFR)は0.1~150g/10分、好ましくは1~140g/10分、より好ましくは5~130g/10分、さらに好ましくは10~120g/10分である。前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)のMFRが前記範囲内であることにより、成形加工性および物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0026】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)は、実質的には、5~35質量%の室温n-デカン可溶部と65~95質量%の室温n-デカン不溶部とを含む。室温n-デカン不溶部とは、一般にn-デカン溶剤に室温(23℃)で不溶な成分であり、通常は前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)中に占めるプロピレン単独重合体部(プロピレン単独重合体成分)と等価である。室温n-デカン可溶部は、プロピレン単独重合体部以外の部分と等価であり、好ましくはプロピレンとエチレンとの共重合体部(プロピレン・エチレン共重合体成分)である。
【0027】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における室温n-デカン可溶部は5~35質量%、好ましくは5~30質量%、より好ましくは5~25質量%であり、室温n-デカン不溶部は65~95質量%、好ましくは70~95質量%、より好ましくは75~95質量%である(ただし、室温n-デカン可溶部の含有量と室温n-デカン不溶部の含有量の合計は100質量%である。)。前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の室温n-デカン可溶部の含有量と室温n-デカン不溶部の含有量がそれぞれ前記範囲内であることにより、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0028】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における室温n-デカン可溶部のエチレン含有量は25~50モル%、好ましくは30~50モル%、より好ましくは35~50である。前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の室温n-デカン可溶部のエチレン含有量が前記範囲内であることにより、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0029】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]は2.0~9.0dl/g、好ましくは4.5~9.0dl/gである。前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]が前記範囲内であることにより、剛性および耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0030】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における室温n-デカン不溶部のメソペンタッド分率(M)は97.5%よりも大きく99.9%以下である。前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)における室温n-デカン不溶部のメソペンタッド分率(M)が前記範囲内にあることで、剛性や耐熱性に優れた樹脂組成物となる。
【0031】
本発明に用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)は、少なくとも1種以上のバイオマス由来モノマーを含んでいてもよい。重合体を構成する同じ種類のモノマーがバイオマス由来モノマーのみでもよいし、バイオマス由来モノマーと化石燃料由来モノマーの両方を含んでもよい。バイオマス由来モノマーとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、炭素として14C同位体を10-12程度の割合で含有し、ASTM D-6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC)が100(pMC)程度である。バイオマス由来モノマーは、従来から知られている方法により得られる。本発明に用いるプロピレン系重合体(A)がバイオマス由来モノマーを含むことは環境負荷低減の観点から好ましい。重合用触媒、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、原料オレフィンがバイオマス由来オレフィンを含んでいても、14C同位体を10-12程度の割合で含む以外の分子構造は化石燃料由来モノマーからなるプロピレン系重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0032】
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)は、ケミカルリサイクル由来プロピレンを含んでいてもよい。重合体を構成するプロピレンがケミカルリサイクル由来プロピレンのみでもよいし、ケミカルリサイクル由来プロピレンと化石燃料由来プロピレンおよび/またはバイオマス由来プロピレンとを含んでもよい。ケミカルリサイクル由来プロピレンは、従来から知られている方法により得られる。本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)がケミカルリサイクル由来プロピレンを含むことは環境負荷低減(主に廃棄物削減)の観点から好ましい。原料モノマーがケミカルリサイクル由来モノマーを含んでいても、ケミカルリサイクル由来モノマーは廃プラスチックなどの重合体を解重合、熱分解等でプロピレンなどのモノマー単位にまで戻したモノマー、ならびに該モノマーを原料にして製造したモノマーであるので、重合用触媒、重合プロセス、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、分子構造は化石燃料由来モノマーからなるプロピレン単独重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0033】
≪プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の製造方法≫
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)は、公知の方法により製造できる。例えば、以下に説明する固体状チタン触媒成分(I)と有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合用触媒を用いてプロピレンを重合し、さらにプロピレンとエチレンを共重合させることにより、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)が得られる。
【0034】
[固体状チタン触媒成分(I)]
オレフィン重合用触媒を構成する固体状チタン触媒成分(I)は、例えば、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び必要に応じて電子供与体を含む。この固体状チタン触媒成分(I)には公知の成分を制限無く用いることができる。
固体状チタン触媒成分(I)の調製には、マグネシウム化合物及びチタン化合物が用いられる例が多い。
【0035】
マグネシウム化合物の具体例としては、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、フェノキシ塩化マグネシウム等のアルコキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウム等のアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウム等のアリーロキシマグネシウム;ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウムのカルボン酸塩;等が挙げられる。マグネシウム化合物は一種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。またマグネシウム化合物は、他の金属との錯化合物、複化合物あるいは他の金属化合物との混合物であってもよい。
【0036】
中でも、ハロゲンを含有するマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン化マグネシウム、特に塩化マグネシウムがより好ましい。他に、エトキシマグネシウム等のアルコキシマグネシウムも好ましい。またマグネシウム化合物は、他の物質から誘導されたもの、例えばグリニャール試薬等の有機マグネシウム化合物とハロゲン化チタンやハロゲン化珪素、ハロゲン化アルコール等とを接触させて得られる化合物であってもよい。
【0037】
チタン化合物としては、例えば下記式で示される4価のチタン化合物が挙げられる。
Ti(OR)gX4-g
(式中、Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、gは0≦g≦4である。)
チタン化合物の具体例としては、TiCl4、TiBr4等のテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(O-n-C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(O-i-C4H9)Br3等のトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2等のジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(O-n-C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Br等のモノハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(OC4H9)4、Ti(O-2-エチルヘキシル)4等のテトラアルコキシチタン;等が挙げられる。チタン化合物は一種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。中でも、テトラハロゲン化チタンが好ましく、四塩化チタンがより好ましい。
マグネシウム化合物及びチタン化合物としては、例えば、特開昭57-63310号公報、特開平5-170843号公報等に詳細に記載されている化合物も使用できる。
【0038】
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)の好ましい調製方法の具体例としては、以下の(P-1)~(P-4)の方法が挙げられる。
(P-1)
マグネシウム化合物及びアルコール等の電子供与体成分(1)からなる固体状付加物と、後述する電子供与体成分(2)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させる方法。
(P-2)
マグネシウム化合物及び電子供与体成分(1)からなる固体状付加物と、電子供与体成分(2)と、液状状態のチタン化合物とを、複数回に分けて接触させる方法。
(P-3)
マグネシウム化合物及び電子供与体成分(1)からなる固体状付加物と、電子供与体成分(2)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させ、且つ複数回に分けて接触させる方法。
(P-4)
マグネシウム化合物及び電子供与体成分(1)からなる液状状態のマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、電子供与体成分(2)とを接触させる方法。
【0039】
固体状チタン触媒成分(I)を調製する際の反応温度は、好ましくは-30~150℃、より好ましくは-25~130℃、特に好ましくは-25~120℃である。
固体状チタン触媒成分(I)の調製は、必要に応じて公知の媒体の存在下に行うこともできる。媒体の具体例としては、やや極性を有するトルエン等の芳香族炭化水素、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の公知の脂肪族炭化水素または脂環族炭化水素化合物が挙げられる。中でも、脂肪族炭化水素が好ましい。
【0040】
固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物の形成に用いられる電子供与体成分(1)としては、室温~300℃程度の温度範囲でマグネシウム化合物を可溶化できる公知の化合物が好ましく、例えばアルコール、アルデヒド、アミン、カルボン酸及びこれらの混合物等が好ましい。これらの化合物としては、例えば特開昭57-63310号公報、特開平5-170843号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0041】
マグネシウム化合物を可溶化できるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、2-メチルペンタノール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール等の脂肪族アルコール;シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等の脂環族アルコール;ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール等の芳香族アルコール;n-ブチルセルソルブ等のアルコキシ基を有する脂肪族アルコール;等が挙げられる。
【0042】
カルボン酸の具体例としては、カプリル酸、2-エチルヘキサノイック酸等の炭素原子数7以上の有機カルボン酸類が挙げられる。アルデヒドの具体例としては、カプリックアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド等の炭素原子数7以上のアルデヒド類が挙げられる。アミンの具体例としては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の炭素原子数6以上のアミン類が挙げられる。
【0043】
電子供与体成分(1)としては、上記のアルコール類が好ましく、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、デカノールが好ましい。
【0044】
得られる固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物のマグネシウムと電子供与体成分(1)との組成比は、用いる化合物の種類によって異なるので一概には規定できないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム1モルに対して、電子供与体成分(1)は、好ましくは2モル以上、より好ましくは2.3モル以上、特に好ましくは2.7モル以上、5モル以下である。
【0045】
固体状チタン触媒成分(I)に必要に応じて用いられる電子供与体の特に好ましい例としては、芳香族カルボン酸エステル及び/又は複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「電子供与体成分(2)」という。)が挙げられる。
【0046】
電子供与体成分(2)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、例えば特開平5-170843号公報や特開2001-354714号公報等に記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0047】
芳香族カルボン酸エステルとしては、具体的には安息香酸エステルやトルイル酸エステル等の芳香族カルボン酸モノエステルの他、フタル酸エステル類等の芳香族多価カルボン酸エステルが挙げられる。中でも、芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n-ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、フタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0048】
ポリエーテル化合物としては、具体的には下記化学構造式(1)で表わされる化合物が挙げられる。
【0049】
【0050】
上記式(1)中、mは1≦m≦10の整数、より好ましくは3≦m≦10の整数であり、R11~R36は、それぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素、水素、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、硫黄、リン、ホウ素及びケイ素から選択される少なくとも1種の元素を有する置換基である。mが2以上である場合、複数個存在するR11及びR12は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。任意のR11~R36、好ましくはR11及びR12は共同してベンゼン環以外の環を形成していてもよい。
【0051】
この様な化合物の具体例としては、2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-クミル-1,3-ジメトキシプロパン等の1置換ジアルコキシプロパン類;2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジブトキシプロパン、2,2-ジ-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジネオペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-シクロヘキシルメチル-1,3-ジメトキシプロパン等の2置換ジアルコキシプロパン類;2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、2,3-ジイソプロピル-1,4-ジエトキシブタン、2,4-ジフェニル-1,5-ジメトキシペンタン、2,5-ジフェニル-1,5-ジメトキシヘキサン、2,4-ジイソプロピル-1,5-ジメトキシペンタン、2,4-ジイソブチル-1,5-ジメトキシペンタン、2,4-ジイソアミル-1,5-ジメトキシペンタン等のジアルコキシアルカン類;2-メチル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-エトキシメチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン等のトリアルコキシアルカン類;等が挙げられる。ポリエーテル化合物は一種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。中でも、1,3-ジエーテル類が好ましく、特に、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)1,3-ジメトキシプロパンが好ましい。
【0052】
固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2~100、好ましくは4~90であり、電子供与体成分(1)/チタン原子(モル比)は0~100、好ましくは0~10であり、電子供与体成分(2)/チタン原子(モル比)は0~100、好ましくは0~10である。マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2~100、好ましくは4~50である。
【0053】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、電子供与体成分(2)を使用する以外は、例えば、EP585869A1や特開平5-170843号公報等に記載の条件を好適に用いることができる。
【0054】
[有機金属化合物触媒成分(II)]
有機金属化合物触媒成分(II)は、周期表の第1族、第2族及び第13族から選ばれる金属元素を含む成分である。例えば、第13族金属を含む化合物(有機アルミニウム化合物等)、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物等を用いることができる。中でも、有機アルミニウム化合物が好ましい。
有機金属化合物触媒成分(II)としては具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物触媒成分を好適に用いることができる。
【0055】
本発明の目的を損なわない限り、以上説明した電子供与体成分(1)や電子供与体成分(2)の他、公知の電子供与体成分(3)を組み合わせて用いてもよい。
電子供与体成分(3)としては、有機ケイ素化合物が好ましい。この有機ケイ素化合物は、例えば下記式で表される化合物である。
RnSi(OR')4-n
(式中、R及びR'は炭化水素基であり、nは0<n<4の整数である。)
【0056】
上記式で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシラン等が用いられる。中でも、ビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが好ましい。
【0057】
また、国際公開第2004/016662号パンフレットに記載されている下記式で表されるシラン化合物も有機ケイ素化合物の好ましい例である。
Si(ORa)3(NRbRc)
上記式中、Raは、炭素原子数1~6の炭化水素基である。例えば炭素原子数1~6の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基であり、特に炭素原子数2~6の炭化水素基が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。中でも、エチル基が特に好ましい。
【0058】
Rbは、炭素原子数1~12の炭化水素基又は水素である。例えば炭素原子数1~12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基又は水素である。具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。中でも、エチル基が特に好ましい。
【0059】
Rcは、炭素原子数1~12の炭化水素基である。例えば炭素原子数1~12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基である。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。中でも、エチル基が特に好ましい。
【0060】
上記式で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、ジメチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリn-プロポキシシラン、ジn-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルn-プロピルアミノトリエトキシシラン、t-ブチルアミノトリエトキシシラン、エチルn-プロピルアミノトリエトキシシラン、エチルiso-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルエチルアミノトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0061】
さらに、有機ケイ素化合物の他の例として、下記式で表される化合物も挙げられる。
RNSi(ORa)3
上記式中、RNは、環状アミノ基である。具体例としては、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリノ基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリノ基、オクタメチレンイミノ基等が挙げられる。Raは前記と同じである。
【0062】
上記式で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、(パーヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4-テトラヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、オクタメチレンイミノトリエトキシシラン等が挙げられる。
以上説明した各有機ケイ素化合物は、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0063】
[重合]
プロピレン系重合体(A)の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)は、上述したオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンを重合し、次いでプロピレンとエチレンを共重合させるか、又は予備重合させて得られる予備重合触媒の存在下にプロピレンを重合し、次いでプロピレンとエチレンの共重合を行う等の方法で製造できる。
【0064】
予備重合は、オレフィン重合用触媒1g当り通常0.1~1000g、好ましくは0.3~500g、特に好ましくは1~200gの量でオレフィンを予備重合させることにより行われる。予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりも高い濃度の触媒を用いることができる。
【0065】
予備重合における固体状チタン触媒成分(I)の濃度は、液状媒体1リットル当り、チタン原子換算で、通常0.001~200ミリモル、好ましくは0.01~50ミリモル、より好ましくは0.1~20ミリモルである。
【0066】
予備重合における有機金属化合物触媒成分(II)の量は、固体状チタン触媒成分(I)1g当り通常0.1~1000g、好ましくは0.3~500gの重合体が生成されるような量であればよく、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常0.1~300モル、好ましくは0.5~100モル、より好ましくは1~50モルである。
【0067】
予備重合では、必要に応じて前記電子供与体成分を用いることもでき、この際これらの成分は、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常0.1~50モル、好ましくは0.5~30モル、より好ましくは1~10モルである。
【0068】
予備重合は、不活性炭化水素媒体にオレフィン及び上記の触媒成分を加え、温和な条件下に行うことができる。不活性炭化水素媒体を用いる場合は、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
【0069】
不活性炭化水素媒体の具体例としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;あるいはこれらの混合物等が挙られる。中でも、脂肪族炭化水素が好ましい。
【0070】
オレフィン自体を溶媒として予備重合を行うこともできる。また、実質的に溶媒の無い状態で予備重合することもできる。この場合は、予備重合を連続的に行うことが好ましい。
予備重合で使用されるオレフィンは、後述する本重合で使用されるオレフィンと同一であっても異なっていてもよい。オレフィンとしては、特にプロピレンが好ましい。
予備重合の際の温度は、通常-20~100℃であり、好ましくは-20~80℃、より好ましくは0~40℃である。
【0071】
次に、予備重合を経由した後に、あるいは予備重合を経由することなく実施される本重合について説明する。
本重合は、プロピレン単独重合体成分を製造する工程及びプロピレン-エチレン共重合体成分を製造する工程に分けられる。
【0072】
本重合(及び予備重合)は、バルク重合法、溶解重合、懸濁重合等の液相重合法あるいは気相重合法のいずれにおいても実施できる。プロピレン単独重合体成分を製造する工程としては、バルク重合や懸濁重合等の液相重合あるいは気相重合法が好ましい。プロピレン-エチレン共重合体成分を製造する工程としては、バルク重合や懸濁重合等の液相重合あるいは気相重合法好ましく、気相重合法がより好ましい。
【0073】
本重合がスラリー重合の反応形態を採る場合、反応溶媒としては、上述の予備重合時に用いられる不活性炭化水素を用いることもできるし、反応温度・圧力において液体であるオレフィンを用いることもできる。
【0074】
本重合において、固体状チタン触媒成分(I)は、重合容積1リットル当りチタン原子に換算して、通常は0.0001~0.5ミリモル、好ましくは0.005~0.1ミリモルの量で用いられる。また、有機金属化合物触媒成分(II)は、重合系中の予備重合触媒成分中のチタン原子1モルに対し、通常1~2000モル、好ましくは5~500モルの量で用いられる。電子供与体成分が使用される場合は、有機金属化合物触媒成分(II)1モルに対して、通常0.001~50モル、好ましくは0.01~30モル、より好ましくは0.05~20モルの量で用いられる。
【0075】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節する(下げる)ことができ、メルトフローレート(MFR)の大きい重合体が得られる。分子量を調整するために必要な水素量は、使用する製造プロセスの種類、重合温度、圧力によって異なるため、適宜調整すればよい。
【0076】
プロピレン単独重合体成分を製造する工程では、重合温度、水素量を調整してMFRを調整できる。また、プロピレン-エチレン共重合体成分を製造する工程においても、重合温度、圧力、水素量を調整して、極限粘度を調整することができる。
【0077】
本重合において、オレフィンの重合温度は、通常0~200℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは50~90℃である。圧力(ゲージ圧)は、通常常圧~100kgf/cm2(9.8MPa)、好ましくは2~50kgf/cm2(0.20~4.9MPa)である。
【0078】
プロピレン系重合体(A)の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の製造においては、重合を、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。さらに反応器の形状は、管状型、槽型のいずれも使用できる。さらに重合を、反応条件を変えて二段以上に分けて行うこともできる。この場合、管状と槽型を組合せることができる。
【0079】
プロピレン系重合体(A)の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)中のプロピレン・エチレン共重合体部を得るためには、後述する重合工程2においてエチレン/(エチレン+プロピレン)ガス比を制御する。エチレン/(エチレン+プロピレン)ガス比は、通常5~80モル%、好ましくは10~70モル%、より好ましくは15~60モル%である。
【0080】
先に述べたように、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)の室温n-デカン不溶部は、主としてプロピレン単独重合体成分から構成される。一方、室温n-デカン可溶部は、主としてゴム状成分であるエチレン・プロピレン共重合体成分から構成される。例えば、以下の二つの重合工程1及び2を連続的に実施することによって、プロピレン系重合体(A)の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a2)が得られる。
【0081】
(重合工程1)
固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレンを重合し、プロピレン単独重合体成分を製造する工程(プロピレン単独重合体製造工程)。
(重合工程2)
固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレン及びエチレンを共重合してエチレン・プロピレン共重合体成分を製造する工程(共重合体ゴム製造工程)。
【0082】
特に、重合工程1を前段で行い、重合工程2を後段で行うことがより好ましい。各重合工程1および2は二槽以上の重合槽を用いて行うこともできる。室温n-デカン可溶部の含有量は、重合工程1と重合工程2の重合時間(滞留時間)により調整できる。また、前段の重合工程1は、二段以上の直列した重合器で行ってもよい。その場合、各段のプロピレンと水素との比が重合器ごとに異なっていてもよい。
【0083】
<エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)>
本発明で用いられるエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)は、下記要件(1)~(4)を満たす。
(1)温度190℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(I2)が0.9~10g/10分である;
(2)前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)が6.0~8.0である;
(3)1-ヘキセン由来の構成単位の含有量が5~20モル%である;
(4)密度が855~890kg/m3である。
【0084】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における温度190℃、荷重2.16kgで測定されたメルトフローレート(I2)は0.9~10g/10分、好ましくは0.9~8g/10分、より好ましくは0.9~5g/10分である。前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)のメルトフローレート(I2)が前記範囲内であることにより、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0085】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)は6.0~8.0、好ましくは6.5~8.0である。前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における前記メルトフローレート(I2)に対する、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(I10)の比(I10/I2)が前記範囲内であることにより、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となり、かつ、成形収縮率が小さく寸法安定性に優れた樹脂組成物となる。
【0086】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における1-ヘキセン由来の構成単位の含有量は5~20モル%、好ましくは8~19モル%、より好ましくは10~18モル%、さらに好ましくは14~18モル%である。前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における1-ヘキセン由来の構成単位の含有量が前記範囲内であることにより、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となる。
【0087】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における密度は855~890kg/m3、好ましくは855~880kg/m3、より好ましくは855~868kg/m3、さらに好ましくは855~865kg/m3、特に好ましくは857~865kg/m3である。前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の密度が前記範囲内にあることで、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となり、かつ、成形収縮率が小さく寸法安定性に優れた樹脂組成物となる。
【0088】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)は、好ましくはさらに下記要件(5)を満たす。
(5)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した分子量分布(Mw/Mn)が1.5~2.7である。
【0089】
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)における分子量分布(Mw/Mn)は1.5~2.7、好ましくは1.7~2.5、より好ましくは1.9~2.3である。前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲内にあることで、耐衝撃性が向上して物性バランスの優れた樹脂組成物となり、かつ、成形収縮率が小さく寸法安定性に優れた樹脂組成物となる。分子量分布(Mw/Mn)は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0090】
<エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の製造方法>
前記エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、国際公開第2007/039420号の段落[0043]~[0088]に記載の方法で製造することができる。
【0091】
本発明に係るエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)は、バイオマス由来モノマー(エチレン、1-ヘキセン)を含んでいてもよい。重合体を構成するモノマーがバイオマス由来モノマーのみでもよいし、バイオマス由来モノマーと化石燃料由来モノマーの両方を含んでもよい。バイオマス由来モノマーとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、炭素として14C同位体を10-12程度の割合で含有し、ASTM D 6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC)が100(pMC)程度である。バイオマス由来モノマーは、従来から知られている方法により得られる。本発明に係るエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)がバイオマス由来モノマーを含むことは環境負荷低減(主に温室効果ガス削減)の観点から好ましい。重合用触媒、重合プロセス重合温度、などの重合体製造条件が同等であれば、原料モノマーがバイオマス由来モノマーを含んでいても、14C同位体を10-12~10-14程度の割合で含む以外の分子構造は、化石燃料由来モノマーからなるエチレン・1-ヘキセン共重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0092】
本発明に係るエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)は、ケミカルリサイクル由来モノマー(エチレン、1-ヘキセン)を含んでいてもよい。重合体を構成するモノマーがケミカルリサイクル由来モノマーのみでもよいし、ケミカルリサイクル由来モノマーと化石燃料由来モノマーおよび/またはバイオマス由来モノマーとを含んでもよい。ケミカルリサイクル由来モノマーは、従来から知られている方法により得られる。本発明に係るエチレン・1-ヘキセン共重合体(B)がケミカルリサイクル由来モノマーを含むことは環境負荷低減(主に廃棄物削減)の観点から好ましい。原料モノマーがケミカルリサイクル由来モノマーを含んでいても、ケミカルリサイクル由来モノマーは廃プラスチックなどの重合体を解重合、熱分解等でエチレンなどのモノマー単位にまで戻したモノマー、ならびに該モノマーを原料にして製造したモノマーであるので、重合用触媒、重合プロセス、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、分子構造は化石燃料由来モノマーからなるエチレン・1-ヘキセン共重合体と同等である。従って、性能も変わらないとされる。
【0093】
<無機充填剤(C)>
本発明に用いる無機充填剤(C)としては、公知の無機充填剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、タルク、炭酸カルシウム、天然マイカ、合成マイカ、ワラストナイト、モンモリオナイト等が挙げられる。無機充填剤(C)は一種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。中でも、タルクが好ましい。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物が無機充填剤(C)を含むことにより、該樹脂組成物から得られる成形体の機械物性が優れたものとなる。
【0094】
無機充填剤(C)は、樹脂組成物中に分散されるものであればよく、特に限定されるものではないが、その平均粒子径は、例えば1μm~20μm、好ましくは3.0μmを超え、10.0μm以下であり、好ましくは3.0μm~8.0μm、より好ましくは3.0μm~7.0μmである。この平均粒子径はレーザー回折法で測定した値である。具体的には、レーザー回折散乱方式粒度分布計等の粒度分布計によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、測定装置としては、例えばMicrotrac社製MT3300EXII、堀場製作所製LA-920型等が挙げられる。
【0095】
無機充填剤(C)のアスペクト比は特に制限されないが、通常3以上15未満、好ましくは4~13、より好ましくは5~11である。一般にアスペクト比とは、充填剤の長径と厚みの比率、または長辺と短辺の比率を表す値である。このアスペクト比が3以上であれば、成形体の剛性および寸法安定性が低下し難い傾向にある。また15未満であれば、機械物性のバランスが低下し難く、さらに耐衝撃強度も低下し難い傾向にある。具体的には、このアスペクト比は、電子顕微鏡を用いて写真撮影を行い、粉体の長径と厚みを測定し、平均値を求め、平均粒子径/平均厚みの比から求めた値である。
【0096】
無機充填剤(C)は、樹脂組成物から得られる成形体の寸法安定性の向上(成形収縮率の低減)に寄与すると共に、剛性および耐衝撃強度などの機械的物性の向上に寄与する。無機充填剤(C)が上述した平均粒子径(及びアスペクト比)を有する場合には、他成分との相乗効果によって、特に優れた寸法安定性を有しかつ剛性および耐衝撃強度に優れた高度な物性バランスが発現しやすいため好適である。
【0097】
無機充填剤(C)としては、粒状、板状、棒状、繊維状、ウィスカー状など、いずれの形状の無機充填剤も使用することができる。また、ポリマー用フィラーとして市販されている無機充填剤も使用できる。さらに、一般的な粉末状やロービング状の他に、取り扱いの利便性等を高めたチョップドストランド状、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状等の形態のものも使用できる。中でも、粉末状、圧縮魂状、顆粒状が好ましい。
【0098】
無機充填剤(C)は、二種以上の無機充填剤の混合物であってもよい。
無機充填剤(C)の製造方法は特に限定されず、公知の各種方法により製造できる。無機充填剤(C)として例えばタルクを用いる場合、特定の平均粒子径及びアスペクト比を有するタルクは、粉砕または造粒により製造できる。具体的には、例えばタルクの原石を衝撃式粉砕機やミクロンミル型粉砕機で粉砕したり、その後さらにジェットミルで粉砕し、サイクロンやミクロンセパレータ等で分級調整する方法がある。タルクのアスペクト比及び平均粒子径は、粉砕装置および粉砕時間により適宜調整でき、必要に応じて分級することにより形状が制御されたタルクが得られる。
【0099】
無機充填剤(C)としては、原石を粉砕して得たものを直接用いてもよく、また、少なくとも一部を表面処理したものを用いてもよい。表面処理には、例えば、有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等の各種表面処理剤を使用できる。表面処理剤は一種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0100】
<他の添加剤>
本発明に係る樹脂組成物には、必要に応じて、核剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、滑剤、顔料などの他の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。添加剤の混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合するというような多段階の混合方法を用いることもできる。
【0101】
<樹脂組成物からなる成形体>
本発明の樹脂組成物からなる成形体は、上述した本発明の樹脂組成物から得られる成形体である。このような本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を適宜成形することにより得ることができる。樹脂組成物の成形法は特に限定されず、樹脂組成物の成形法として公知の様々な方法を用いることができる。本発明の成形体の成形法としては、特に射出成型、プレス成型が好ましい。
【0102】
本発明の成形体は、耐衝撃性、引張伸びに優れているとともに、成形膨張率が低く、温度変化による寸法変化が小さく寸法安定性に優れている。
【0103】
本発明の成形体はドアトリム、インストゥルメントパネル、天井、コンソールボックス、ピラー、グローブボックス等の自動車内装材;バンパー、サイドガード、エアースポイラー、サイドプロテクター、フェンダー、ドアパネル、バックドア等の自動車外装部材、家電部品、建材等の工業部品などとして好適に利用することができる。
【実施例0104】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
各物性の測定および評価は以下の方法により行った。
(1)重合体または樹脂組成物
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D-1238に準拠して、2.16kg荷重でメルトフローレート(MFR)を測定した。測定温度は、エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)は190℃とし、プロピレン系重合体(A)および樹脂組成物は230℃とした。
【0106】
[I10/I2]
ASTM D-1238に準拠して、190℃、10kg荷重で測定したMFR(I10)と190℃、2.16kg荷重で測定したMFR(I2)との比をI10/I2とした。
【0107】
[密度]
ASTM D-1505に準拠して、23℃で密度を測定した。
【0108】
[コモノマー含有量]
13C-NMRによりエチレン・1-ヘキセン共重合体の分子鎖中におけるエチレン含量および1-ヘキセン含量を測定した。
測定は、日本電子(株)製Lambda500型核磁気共鳴装置(13C:500MHz)を用いた。積算回数1万~3万回にて測定した。直径10mmの市販のNMR測定石英ガラス管中に、サンプル250~400mgと和光純薬工業(株)製特級ヘキサクロロブタジエン2mlとを入れ、120℃にて加熱、均一分散させた溶液についてNMR測定を行った。NMRスペクトルにおける各吸収の帰属は、化学の領域増刊141号NMR-総説と実験ガイド[I]、132頁~133頁に準じて行った。なお、測定温度120℃、測定周波数125.7MHz、スペクトル幅250,000Hz、パルス繰返し時間4.5秒、45°パルスの測定条件下で測定を行った。
【0109】
[分子量分布(Mw/Mn)]
分子量分布(Mw/Mn)は、ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ allianceGPC2000型(高温サイズ排除クロマトグラフ)を用い、以下のようにして算出した。
<使用装置および条件>
解析ソフト;クロマトグラフィデータシステムEmpower2(Waters社、登録商標)
カラム;TSKgel GMH6-HT×2+TSKgel GMH6-HTL×2(内径7.5mm×長さ30cm,東ソー(株))
移動相;o-ジクロロベンゼン(和光純薬工業(株) 特級試薬)
検出器;示差屈折計(装置内蔵)
カラム温度;140℃
流速;1.0mL/分
注入量;500μL
サンプリング時間間隔;1秒
試料濃度;0.15%(w/v)
分子量較正;単分散ポリスチレン(東ソー(株))/分子量495~分子量2060万
Z.Crubisic,P.Rempp,H.Benoit,J.Polym.Sci.,B5,753(1967)に記載された汎用較正の手順に従い、ポリエチレン分子量換算として重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを求め、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0110】
[室温n-デカン不溶部量と室温n-デカン可溶部量]
室温n-デカン不溶部量と室温n-デカン可溶部量は以下の方法により求めた。
試料5gにn-デカン200mlを加え、145℃で、30分間加熱溶解を行い、溶液(1)を得た。
次に約2時間かけて、溶液(1)を23℃まで冷却し、23℃で30分間放置し、析出物(α)を含む溶液(2)を得た。その後、溶液(2)から析出物(α)を目開き約15μmの濾布でろ別し、析出物(α)を乾燥させた後、析出物(α)の質量を測定した。析出物(α)の質量を、サンプル質量(5g)で除したものを、室温n-デカン不溶部量とした。
【0111】
また、析出物(α)をろ別した溶液(2)を、溶液(2)の約3倍量のアセトン中に入れ、n-デカン中に溶解していた成分を析出させ、析出物(β)を得た。その後、析出物(β)をガラスフィルター(G2、目開き約100~160μm)でろ別し、乾燥させた後、析出物(β)の質量を測定した。析出物(β)の質量をサンプル質量(5g)で除したものを室温n-デカン可溶部量とした。
【0112】
[メソペンタッド分率(M)]
NMR測定により、プロピレン系重合体(A)の13C-NMRスペクトルを得て、これによりメソペンタッド分率(M)を算出した。具体的には、o-ジクロロベンゼンと重水素原子化ベンゼンとの4/1混合溶媒(o-ジクロロベンゼン/重水素原子化ベンゼン、体積比)0.6ml中、サンプル50mgを溶解し、日本電子製A500型核磁気共鳴装置を用いて、120℃、45°パルス、繰返し時間5.5秒、積算回数16000回の条件で13C-NMRスペクトルを測定した。ケミカルシフトの基準値は、メチル基のmmmm由来シグナル21.59ppmとした。そして、2,1-結合量:F(2,1)×100(モル%)、1,3-結合量:F(1,3)×100(モル%)、メソペンタッド分率(M):F(mmmm)×100(%)を、それぞれ下記式より算出した。なお、0.01%未満を検出限界以下とした。
【0113】
【0114】
上記各式中の記号の意味は次のとおりである。I(X)は、Xに帰属される19~22ppmのメチル基由来ピーク面積を示す。I(CH3)は、19~22ppmのメチル基由来全ピーク面積を示す。R1、R2は、2,1-挿入に帰属される以下の構造(R)のピークを表す。なお、以下の帰属はerythro体であるが、threo体の場合も同様に計算することができる。S1、S2は、1,3-挿入に帰属される以下の構造(S)のピークを表す。A1、A3、C1、C2、C3は、ポリマー末端の以下の構造(A、C)に帰属されるピークを表す。
【0115】
【0116】
その他のピークはA. Zambelli, D. E. Dorman, A. I. Richard Brewster and F. A. Bovey, Macromolecules, Vol. 6, No.6, 925 (1973)を参考に帰属した。
【0117】
特に、プロピレン系重合体(A)として二種以上のプロピレン系重合体のブレンド体を用いた場合は、各々のプロピレン系重合体について測定したメソペンタッド分率(M)に加成性が成り立つものとして計算した。すなわち、ブレンド体が合計n種類のプロピレン系重合体から構成され、i個目の重合体がブレンド体全量に占める質量比率をwi、その立体規則性(mmmm)すなわちメソペンタッド分率をMi(%)とした場合、ブレンド体のメソペンタッド分率(M)(%)は下記式で求めた。
【0118】
【0119】
(2)成形体の評価
[引張強度、引張破壊呼びひずみ]
JIS K7161に準拠して、実施例および比較例で得た樹脂組成物からそれぞれ試験片を作製し、下記の条件で引張強度、引張破壊呼びひずみを測定した。
(測定条件)
試験片:ISO-1Aダンベル
引張速度:50mm/分
【0120】
[曲げ強度、曲げ弾性率]
JIS K7171に準拠して、実施例および比較例で得た樹脂組成物からそれぞれ試験片を作製し、下記の条件で曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
(測定条件)
試験片:10mm(幅)×80mm(長さ)×4.0mm(厚さ)
曲げ速度:2mm/分
曲げスパン:64mm
【0121】
[シャルピー衝撃強さ]
JIS K7111に準拠して、実施例および比較例で得た樹脂組成物からそれぞれ試験片を作製し、下記の条件でノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
(測定条件)
温度:23℃およびー30℃
試験片:10mm(幅)×80mm(長さ)×4mm(厚さ)
ノッチは機械加工である。
【0122】
[成形収縮率]
長さ120mm、幅130mm、厚み3mmの金型キャビティーに射出成形して作製した平板試験片を、室温で48時間放置後長さ方向(MD)、幅方向(TD)の寸法を測定し、収縮後平板寸法とした。(収縮後平板寸法-金型キャビティー)/金型キャビティーより成形収縮率を求めた。
【0123】
[重合例A]
<予備重合触媒(a)の調製>
前記固体状チタン触媒成分(i-1)120.0g、トリエチルアルミニウム88.9mL、ジエチルアミノトリエトキシシラン25.3mL、ヘプタン10Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15~20℃に保ちプロピレンを720g挿入し、100分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた固体成分を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で1.0g/Lとなるようヘプタンにより調整を行い、予備重合触媒(a)を得た。
【0124】
<プロピレン系重合体(A-1)の製造>
内容量58Lの攪拌機付きベッセル重合器に、プロピレン45kg/h、水素450NL/h、予備重合触媒(a)0.60g/h、トリエチルアルミニウム3.3mL/h、ジエチルアミノトリエトキシシラン2.5mL/hを連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.5MPa/Gであった。
【0125】
得られたスラリーを内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを43kg/h、気相部の水素濃度が8.9mol%になるように水素を連続的に供給した。重合温度66.5℃、圧力3.2MPa/Gで重合を行った。
【0126】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.239(モル比)、水素/エチレン=0.0043(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.7MPa/Gで重合を行った。
【0127】
得られたスラリーは失活、気化後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行った。これにより、ポリプロピレン部とエチレン・プロピレン共重合体部とを有する、プロピレン系重合体(A-1)を得た。得られたプロピレン系重合体(A-1)の特性は次のとおりであった。
MFR(230℃、2.16kg)=85g/10分
Mn=22000
Mw/Mn=5.4
室温n-デカン不溶部メソペンタッド分率(M)=97.8%
室温n-デカン可溶部量=11質量%
室温n-デカン可溶部エチレン含量=40mol%
室温n-デカン可溶部極限粘度[η]=7.8dL/g
【0128】
<エチレン・1-ヘキセン共重合体(B)の製造>
図1に示すとおり、温度制御のできるジャケットを付した内容積100Lの撹拌翼付耐圧反応装置に、未反応のガスを循環出来る様なコンプレッサーとバルブを付したライン(以後、単に「循環ライン」ともいう。)、前記循環ラインの反応装置近傍部に設置したガスパージ装置、前記循環ラインに設置したガスクマトグラフ、溶媒(n-ヘキサン)のフィードライン、原料ガス(エチレンと水素)のフィードライン、コモノマーのフィードライン、触媒のフィードライン、生成物抜出しラインを付した装置を用いて、エチレン、α-オレフィンおよび触媒を連続的に供給して、エチレンとコモノマーとの連続共重合を行った。この中で、エチレンと水素のフィードラインは、前記循環ラインと連結した形状とした。
【0129】
重合条件は以下の通りとし、循環ラインのバルブの開度を調節して未反応ガス(エチレン、コモノマーおよび水素)を循環させ、前記ガスパージ装置を用いて必要に応じ所定量のガスを抜き出すことで、定常条件となる様に調整した。
(重合条件)
重合温度:160℃
圧力 :2.85MPa
液量 :28L
遷移金属化合物錯体触媒:下記式の化合物
トリイソブチルアルミニウム:5mmol/時間
ガスクロマトグラフ:プロセスGCシステム(横河電機製:GC1000 MarkII型装置)
【0130】
【0131】
(B-1)~(B-6)および(D-1)~(D-3)のその他の条件と、得られた重合体の物性(I2、密度)とを表1に示す。
【0132】
【0133】
[実施例1]
重合例Aにより得られたプロピレン系重合体(A-1)を60質量部、製造例1で得たエチレン・1-ヘキセン共重合体(B-1)を20質量部、無機充填剤(C-1)(タルクJM-209、浅田製粉製、アスペクト比=7)を20質量部、分散剤としてステアリン酸カルシウム(日油(株)製)を0.1質量部、ならびに酸化防止剤としてIRGANX1010(商品名、BASFジャパン(株)製)を0.1質量部およびIRGAFOS168(商品名、BASFジャパン(株)製)を0.1質量部配合してタンブラーミキサーにてドライブレンドした。その後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX(登録商標)30α)により、シリンダー温度180℃、スクリュー回転750rpm、押出し量60kg/hの条件で溶融混練してペレット化した。このペレットを射出成形機にて試験片に成形し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0134】
[実施例2~6、比較例1~11]
共重合体の種類または組成を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットおよび試験片を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0135】