(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126017
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】土構造物の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20240911BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
E02D1/00
E02D17/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028460
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023033762
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 裕正
(72)【発明者】
【氏名】高尾 智仁
(72)【発明者】
【氏名】湊 太郎
(72)【発明者】
【氏名】東川 奏馬
【テーマコード(参考)】
2D043
2D044
【Fターム(参考)】
2D043AC03
2D043AC05
2D043BA10
2D044CA00
(57)【要約】
【課題】土構造物の施工において、盛土施工に並行して測定可能であり、それぞれの土質に固有な値である比抵抗値に着目することにより、対象とする土構造物の品質管理を簡便かつ正確に行うことが可能な土構造物の品質管理方法を提供すること。
【解決手段】標準材料土を締固める室内試験と、標準材料土を締固める試験施工と、現地材料土を締固める本施工とを有する土構造物の品質管理方法であって、室内試験は、最大乾燥密度取得工程と、密度比取得工程とを備え、試験施工は、試験含水比または試験体積含水率取得工程と、Nt-γd線取得工程と、Nt-ht線取得工程と、目標転圧回数取得工程とを備え、本施工は、現地含水比または現地体積含水率取得工程と、現地比抵抗値取得工程と、現地乾燥密度取得工程と、密度比比較工程とを備え、現地比抵抗値取得工程、現地乾燥密度取得工程及び密度比比較工程を繰り返し行うことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準材料土を締固める室内試験と、標準材料土を締固める試験施工と、現地材料土を締固める本施工とを有する土構造物の品質管理方法であって、
前記室内試験は、
前記標準材料土の含水比または体積含水率を変化させながら締固め試験を行い、得られた締固め曲線から最大乾燥密度(γdmax)を取得する最大乾燥密度取得工程と、
管理指標とする密度比(Dc)を取得する密度比取得工程とを備え、
前記試験施工は、
前記標準材料土の試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)を取得する試験含水比または試験体積含水率取得工程と、
前記標準材料土について現場転圧試験を行い、前記試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と乾燥密度(γd)との関係を示すNt-γd線を取得するNt-γd線取得工程と、
前記標準材料土について前記現場転圧試験を行い、前記試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と試験表面沈下量(ht)との関係を示すNt-ht線を取得するNt-ht線取得工程と、
前記Nt-γd線及び前記Nt-ht線から目標転圧回数(N)を取得する目標転圧回数取得工程とを備え、
前記本施工は、
前記現地材料土の現地含水比(wf)または現地体積含水率(θf)を取得する現地含水比または現地体積含水率取得工程と、
前記現地材料土を締固めながら、前記目標転圧回数(N)に達するまで、現地比抵抗値(ρf)を取得する現地比抵抗値取得工程と、
前記現地比抵抗値(ρf)と前記現地体積含水率(θf)から構造特性値(Γ)を算出するとともに、該構造特性値(Γ)を用いて現地乾燥密度(γdf)を取得する現地乾燥密度取得工程と、
前記現地乾燥密度(γdf)と、前記室内試験における最大乾燥密度(γdmax)とから本施工による密度比(Dcf)を取得し、該密度比(Dcf)と前記密度比(Dc)とを比較する密度比比較工程とを備え、
前記本施工による密度比(Dcf)が、前記密度比(Dc)を満足するまで、前記現地比抵抗値取得工程、前記現地乾燥密度取得工程及び前記密度比比較工程を繰り返し行うことを特徴とする土構造物の品質管理方法。
【請求項2】
前記目標転圧回数取得工程における目標転圧回数(N)を、前記Nt-γd線及び前記Nt-ht線から、前記試験表面沈下量(ht)が収束する試験転圧回数(Nt)、または前記密度比(Dc)を満足する試験転圧回数(Nt)を求め、これら試験転圧回数(Nt)の多い方を本施工における目標転圧回数(N)として取得することを特徴とする請求項1に記載の土構造物の品質管理方法。
【請求項3】
前記現地乾燥密度取得工程における現地乾燥密度(γdf)を、測定した前記現地比抵抗値(ρf)と現地体積含水率(θf)を下記式(1)に代入して構造特性値(Γ)を算出し、
前記現地比抵抗値(ρf)と前記構造特性値(Γ)を下記式(2)に代入して取得することを特徴とする請求項1に記載の土構造物の品質管理方法。
【数1】
(式中、Rは測定機器が形成する電場の形状によって決定される形状係数を表す)
【数2】
(式中、α、βは、複数の土質を用いて実施した室内試験の結果から得られた定数を表す)
【請求項4】
前記現地乾燥密度取得工程における前記構造特性値(Γ)が、現地で計測した前記現地比抵抗値(ρf)と現地体積含水率(θf)を用いて、気層、液層、固層からなる地盤の3相構造モデルから導出されることを特徴とする請求項1に記載の土構造物の品質管理方法。
【請求項5】
前記現地体積含水率(θf)が、所定の体積を有する容器内に、現地材料土を充填して乾燥炉で炉乾燥させ、該充填した現地材料土に含まれる水分の体積から求められることを特徴とする請求項1に記載の土構造物の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土構造物の品質管理方法に関し、詳しくは、盛土の締固め管理に用いる土構造物の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土構造物は、土又は岩石などを材料として構築された構造物及びこれに接する小構造物の総称である。土構造物で取り扱う地盤材料は、岩から粘土まで時間とともに変化する密度や強度変形特性を有する。
【0003】
現在、土構造物の施工において盛土を造成する場合には、土の締固め等について品質管理を行う必要がある。この品質管理の指標としては、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」に準拠して実施される室内試験から得られる最大乾燥密度と、施工現場で実際に測定される乾燥密度の比である土の密度比が多く用いられている。施工現場で実施される具体的な密度測定方法としては、古くから砂置換法、突き砂法、水置換法、コアカッター法が知られている。
【0004】
このうち、砂置換法及び突き砂法は、対象とする土構造物から土を取り除いて穴を空け、取り除いた土の重量及び含水比測定を行い、空いた穴に密度が既知である砂を入れることで、入れた砂の量から穴の体積を測定する方法である。水置換法は、対象とする土構造物から土を取り除いて穴を空け、取り除いた土の重量及び含水比測定を行い、空いた穴に非透水性のシートを被せてその上に水を入れ、入れた水の量から穴の体積を測定する方法である。また、コアカッター法は、コアカッターを用いて一定体積の土構造物を抜き取り、重量を測定する方法である。
【0005】
このように、施工現場で実施される密度試験は何れも測定地点の土構造物を掘り起こすなどの作業が必要となり、測定に時間とコストがかかり、特に夏季における測定作業が重労働となる。
【0006】
このため、近年では、ラジオアイソトープ(RI)計測器を用いたRI法が多く用いられている(例えば、特許文献1、2)。このRI法では、先端に放射線源を備えた線源棒を土構造物に打込み、放射線源から放射される放射線を地表に設置した検出器で測定し、放射線のエネルギー減少率から土構造物の密度と含水比などを算出して求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-115114号公報
【特許文献2】特開2018-096824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このRI法を用いた従来の提案においても、RI機器を設置する工程と、放射線を測定する工程の2工程が必要であり、測定には時間を要し、短時間で多数地点の計測データを収集することができないという問題があった。また、対象とする土構造物の品質を一つの測定地点を代表として管理することになるため、多様な土質から構成される土構造物全体を適切に管理できないという問題もあった。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、土構造物の施工において、盛土施工に並行して測定可能であり、それぞれの土質に固有な値である比抵抗値に着目することにより、対象とする土構造物の品質管理を簡便かつ正確に行うことが可能な土構造物の品質管理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の土構造物の品質管理方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、本発明の土構造物の品質管理方法は、標準材料土を締固める室内試験と、標準材料土を締固める試験施工と、現地材料土を締固める本施工とを有する土構造物の品質管理方法であって、
前記室内試験は、
前記標準材料土の含水比または体積含水率を変化させながら締固め試験を行い、得られた締固め曲線から最大乾燥密度(γd
max)を取得する最大乾燥密度取得工程と、
管理指標とする密度比(Dc)を取得する密度比取得工程とを備え、
前記試験施工は、
前記標準材料土の試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)を取得する試験含水比または試験体積含水率取得工程と、
前記標準材料土について現場転圧試験を行い、前記試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と乾燥密度(γd)との関係を示すNt-γd線を取得するNt-γd線取得工程と、
前記標準材料土について前記現場転圧試験を行い、前記試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と試験表面沈下量(ht)との関係を示すNt-ht線を取得するNt-ht線取得工程と、
前記Nt-γd線及び前記Nt-ht線から目標転圧回数(N)を取得する目標転圧回数取得工程とを備え、
前記本施工は、
前記現地材料土の現地含水比(wf)または現地体積含水率(θf)を取得する現地含水比または現地体積含水率取得工程と、
前記現地材料土を締固めながら、前記目標転圧回数(N)に達するまで、現地比抵抗値(ρf)を取得する現地比抵抗値取得工程と、
前記現地比抵抗値(ρf)と前記現地体積含水率(θf)から構造特性値(Γ)を算出するとともに、該構造特性値(Γ)を用いて現地乾燥密度(γdf)を取得する現地乾燥密度取得工程と、
前記現地乾燥密度(γdf)と、前記室内試験における最大乾燥密度(γd
max)とから本施工による密度比(Dcf)を取得し、該密度比(Dcf)と前記密度比(Dc)とを比較する密度比比較工程とを備え、
前記本施工による密度比(Dcf)が、前記密度比(Dc)を満足するまで、前記現地比抵抗値取得工程、前記現地乾燥密度取得工程及び前記密度比比較工程を繰り返し行うことを特徴とする土構造物の品質管理方法。
第2に、上記第1の発明の土構造物の品質管理方法において、前記目標転圧回数取得工程における目標転圧回数(N)を、前記Nt-γd線及び前記Nt-ht線から、前記試験表面沈下量(ht)が収束する試験転圧回数(Nt)、または前記密度比(Dc)を満足する試験転圧回数(Nt)を求め、これら試験転圧回数(Nt)の多い方を本施工における目標転圧回数(N)として取得することが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の土構造物の品質管理方法において、前記現地乾燥密度取得工程における現地乾燥密度(γdf)を、測定した前記現地比抵抗値(ρf)と現地体積含水率(θf)を下記式(1)に代入して構造特性値(Γ)を算出し、
前記現地比抵抗値(ρf)と前記構造特性値(Γ)を下記式(2)に代入して取得することが好ましい。
【数1】
(式中、Rは測定機器が形成する電場の形状によって決定される形状係数を表す)
【数2】
(式中、α、βは、複数の土質を用いて実施した室内試験の結果から得られた定数を表す)
第4に、上記第1から第3の発明の土構造物の品質管理方法において、前記現地乾燥密度取得工程における前記構造特性値(Γ)が、現地で計測した前記現地比抵抗値(ρf)と現地体積含水率(θf)を用いて、気層、液層、固層からなる地盤の3相構造モデルから導出されることが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明の土構造物の品質管理方法において、前記現地体積含水率(θf)が、所定の体積を有する容器内に、現地材料土を充填して乾燥炉で炉乾燥させ、該充填した現地材料土に含まれる水分の体積から求められることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の土構造物の品質管理方法によれば、室内試験において管理指標となる密度比を決定し、試験施工において土構造物の各種パラメータを測定し、本施工において測定した各種パラメータから乾燥密度を算出することにより、比抵抗値を用いた密度比による品質管理が可能になる。また、比抵抗値の測定は比較的短時間で容易に行うことができるため、RI測定のように放射線を扱うなどの危険性もなく、土構造物の管理作業にかかる時間及び労力を軽減し、作業者の安全性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る土構造物の品質管理方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図2】Nt-γd線の一実施例(現場測定値抜粋)を示すグラフである。
【
図3】Nt-ht線の一実施例(現場測定値抜粋)を示すグラフである。
【
図4】土構造物の乾燥密度の測定方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図5】土を構成する空気、水、土粒子の3要素に、電流の流れに対して並列になる部分と直列になる部分に分けた土の3相モデル図である。
【
図6】表1に示す土質1~7に対して、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」及び比抵抗値の測定を行い得られた、乾燥密度(γd)、比抵抗値(ρ)及び構造特性値(Γ)の関係を表す関係式(2)を示すグラフである。
【
図7】測定を行った各測点の乾燥密度差率とその時の体積含水率(θ)の関係を表す補正式(5)及び(6)を示すグラフである。
【
図8】関係式(2)より算出した算出乾燥密度が1.5g/cm
3以上のときについて、補正式(5)および(6)の適用前後の乾燥密度差率を比較したグラフである。
【
図9】関係式(2)より算出した算出乾燥密度(算出乾燥密度が1.5g/cm
3以上のときは、補正式(5)及び(6)を使用して求めた補正乾燥密度)と現地でIR計器を用いて測定した実測乾燥密度の相関関係を示すグラフである。
【
図10】実施例の試験施工における測定結果のNt-γdを示すグラフである。
【
図11】実施例の試験施工における測定結果のNt-htを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る土構造物の品質管理方法の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る土構造物の品質管理方法の一実施形態を示すフロー図である。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
本実施形態の土構造物の品質管理方法は、標準材料土を締固める室内試験と、標準材料土を締固める試験施工と、現地材料土を締固める本施工とを有する土構造物の品質管理方法であり、所謂品質規定方式に関連する土構造物の品質管理方法である。
【0016】
(室内試験)
本実施形態の土構造物の品質管理方法における室内試験は、最大乾燥密度取得工程及び密度比取得工程を備えている。
[最大乾燥密度取得工程]
最大乾燥密度取得工程は、標準材料土の含水比または体積含水率を変化させながら締固め試験を行い、締固め曲線を取得して、この締固め曲線から最大乾燥密度(γdmax)を取得する。なお、本工程における締固め試験は、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」に準拠して行うことが好ましい。
【0017】
[密度比取得工程]
次の密度比取得工程では、管理指標とする密度比(Dc)を取得する。管理指標とする密度比(Dc)は各施工現場の設計によるが、例えば、国土交通省が発行する「土木工事施工管理基準及び規格値」により決定することができる。
【0018】
(試験施工)
試験施工は、試験含水比または試験体積含水率取得工程と、Nt-γd線取得工程と、Nt-ht線取得工程及び、目標転圧回数取得工程を備えている。
[試験含水比または試験体積含水率取得工程]
試験含水比または試験体積含水率取得工程では、任意の撒き出し厚で撒き出した標準材料土の試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)を測定して取得する。試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)の測定は、JIS A 1203:2020「土の含水比試験方法」に準拠して行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0019】
[Nt-γd線取得工程]
次に、標準材料土について、現場にて転圧機械により現場転圧試験を行い、前記試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と乾燥密度(γd)を測定する。そして、その測定結果から試験転圧回数(Nt)と乾燥密度(γd)の関係を示すNt-γd線を作成する。具体的には、
図2に示すNt-γd線の一実施例(現場測定値抜粋)のグラフを例示することができる。
【0020】
[Nt-ht線取得工程]
また、同様に標準材料土について、現場にて転圧機械により現場転圧試験を行い、試験含水比(wt)または試験体積含水率(θt)における試験転圧回数(Nt)と試験表面沈下量(ht)を測定する。そして、その測定結果から試験転圧回数(Nt)と試験表面沈下量(ht)の関係を示すNt-ht線を作成する。具体的には、
図3に示すNt-ht線の一実施例(現場測定値抜粋)のグラフを例示することができる。
【0021】
[目標転圧回数取得工程]
次に、取得したNt-γd線及びNt-ht線から、本施工における標準材料土の目標転圧回数(N)を取得する。ここで、目標転圧回数(N)は、Nt-ht線において、試験表面沈下量(ht)が収束する試験転圧回数(Nt)、または密度比(Dc)を満足する試験転圧回数(Nt)を求め、これら試験転圧回数(Nt)の多い方を本施工における標準材料土の目標転圧回数(N)として取得し設定することができる。
【0022】
(本施工)
次の本施工は、現地含水比または現地体積含水率取得工程と、現地比抵抗値取得工程と、密度比比較工程を備えている。
[現地含水比または現地体積含水率取得工程]
現地含水比または現地体積含水率取得工程では、現地材料土の現地含水比(wf)または現地体積含水率(θf)をそれぞれ測定器等を用いて測定して取得する。
【0023】
現地含水比(wf)または現地体積含水率(θf)の測定は、JIS A 1203:2020「土の含水比試験方法」に準拠して行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。また、現地含水比(wf)又は現地体積含水率(θf)の測定は、施工性の観点から可能な限り現地で行うことが好ましく、具体的には、対象とする土質を一定質量(一定体積)採取し、一定質量(一定体積)のグリセリンと混合し、その混合物の屈折率を測定することで含水比および体積含水率を推定することができる。また、この他にも室内試験として、採取した土質を炉乾燥し減量を水分量として求める方法などがあるがこれに限定されるものではない。
【0024】
[現地比抵抗値取得工程]
次の現地比抵抗値取得工程では、前記現地材料土を締固めながら、前記目標転圧回数(N)に達するまで、該現地材料土の現地比抵抗値(ρf)を取得する。具体的には、試験施工にて確認した撒き出し厚で、盛土した土構造物の現地材料土に対して、目標転圧回数(N)に達するまで転圧機械での転圧を行い、その際に、現地材料土に通電する電流値と現地材料土に生じる電位差を測定することで求める。
【0025】
具体的な測定器の機構は、電流電極と電位電極を共通とした二電極法や、一対の電極から電流を流し、もう一対の電極で電位を測定する四電極法を利用した測定機器を用いた測定が一般的であるがこれに限定されない。また、比抵抗値の測定は、対象とする土構造物の任意の点を中心にして3点測定し、これらの平均値を採用することが好ましい。
【0026】
[現地乾燥密度取得工程]
以下に、本発明の現地乾燥密度取得工程で用いる土構造物の乾燥密度の測定方法の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図4は、土構造物の乾燥密度の測定方法の一実施形態を示すフロー図である。
【0027】
本実施形態の乾燥密度の測定方法は、造成盛土や道路の路床、路体、河川堤防といった土構造物に用いられる土の乾燥密度を把握する方法であり、土構造物の比抵抗値(ρ)と体積含水率(θ)を計測する工程と、これらを用いて土構造物が有する構造特性値(Γ)を算出する工程と、計測した比抵抗値(ρ)と算出した構造特性値(Γ)を関係式に代入することにより、土構造物の乾燥密度(γd)を算出する工程を有している。
【0028】
図4に示す実施形態では、まず、対象とする土構造物の比抵抗値(ρ)と体積含水率(θ)をそれぞれ測定器等を用いて測定する。比抵抗値(ρ)の測定は、土質に通電する電流値と土質に生じる電位差を測定することで求めることができる。
【0029】
(土の3相モデルにおける構造特性値(Γ)の定義)
ここで、本実施形態の現地乾燥密度取得工程では、土構造物の構造特性を定量的に評価するために、
図5に示す気層11、液層12、固層13からなる地盤の3相構造モデル1を適用する。この3相構造モデル1では、気層11(空隙)及び固層13(土粒子)に流れる電気は、液層12(間隙水)に流れる電気に対して極めて小さいため、液層12(間隙水)にのみ電気が流れると考える。また、電気の流れる方向に対して並列部分2と直列部分3に分け、構造係数(F)を定義する。この3相構造モデル1において、並列部分2と直列部分3の割合は同等と考えるのが自然であり、上下方向の電気の流れを考えたとき、土構造物の比抵抗値(ρ)を求める式として下記式(3)を用いることができる。
【数3】
また、上記式(3)から構造特性値(Γ)を求める式として、下記式(1)を用いることができる。
【数4】
【0030】
ここで、(ρ)は比抵抗値(Ω・m)、(θ)は体積含水率(%)、(V)は土の体積、(Vw)は水の体積、(ρwa)は間隙水の比抵抗値、(F)は不飽和状態において地盤中を電気が流れる場合の構造係数(m)、(Γ)は間隙水の比抵抗値(ρwa)と構造係数(F)に関するパラメータ(Ω)を示す値である。
【0031】
また、(R)は比抵抗値(ρ)を測定する測定器が形成する電場の形状により決定される供試体の形状係数である。形状係数(R)は、主な測定方法である2電極法、4電極法、地盤貫入4電極法における、下記式(4-1)~(4-3)の何れかにより求めることができる。
【数5】
ここで、rは電極間隔(m)、dは貫入ロッドの半径(m)を表す値である。
【0032】
本実施形態の現地乾燥密度取得工程では、試験体積含水率(θt)と、試験含水比(wt)の現地材料を目標転圧回数(N)で転圧したときの現地で計測した現地比抵抗値(ρf)と、測定器の形状により決定される形状係数(R)を、3相構造モデル1から求めた上記式(1)に代入することで、目標転圧回数(N)のときの現地材料土の構造特性を定量的に表す構造特性値(Γ)を算出することができる。
【0033】
本発明者らは、現在までに複数の土質において比抵抗値(ρ)、構造係数(F)と体積含水率(θ)に関するパラメータである構造特性値(Γ)、乾燥密度(γd)の測定を繰り返し行い、これらの間に高い相関性があることを見出し下記式(2)の計算式を得た。
【数6】
ここで、式中のα、βは、室内試験の結果から得られた定数である。
【0034】
以下に、上記式(2)の導出に用いた下記表1に示す土質1~7の土についての測定結果を示す。測定に使用した土質1~7の土について、室内試験において、JIS A 1202:2020「土粒子の密度試験方法」、JIS A 1203:2020「土の含水比試験方法」、JIS A 1204:2020「土の粒度試験方法」、JIS A 1205:2020「土の液性限界・塑性限界試験方法」、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」に準拠し各種性状試験を実施した。土質1は珪砂と粘土をある割合で混合した混合土であり、土質2~7はある施工現場にて採取した現場土である。
【0035】
【0036】
それぞれの土質について、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」を行い、それぞれ含水比(w)を調整した試料について、乾燥密度(γd)、飽和度(Sr)を得た。さらに、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」に基づいて作製した供試体に対して、任意の測定器を用いて比抵抗値の測定を行い比抵抗値(ρ)を得た。また、これらの測定結果から、乾燥密度(γd)を比抵抗値(ρ)で除した値(γd/ρ)を求めた。それぞれの土質の測定結果を下記表2~8に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
上記土質1~7の測定結果から、飽和度(Sr)が85%以上かつ95%未満の際の、乾燥密度(γd)を比抵抗値(ρ)で除した値γd/ρと、値構造係数(F)と、体積含水率(θ)に関するパラメータである構造特性値Γとの間に、高い相関性があることを見出し、上記関係式(2)を得た。γd/ρとΓ値の関係を
図6のグラフに示す。ここで、α、βは土質1~7を用いて実施した室内試験の結果から得られた定数であり、1≦α≦100、0.5≦β≦1.5の範囲という結果を得ている。これらに高い相関性が見られた理由として、関係式(2)を得た飽和度(Sr)が85%以上かつ95%未満の範囲は、一般的な土質における最大乾燥密度の時の飽和度である最適飽和度付近であるため、この範囲の飽和度の試料を用いた供試体は、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」によって密実に締め固められたため、安定した比抵抗値を得られたと考えられる。
【0045】
本発明においては、上記式(2)に測定した現地比抵抗値(ρf)と算出した構造特性値(Γ)を代入することで、現地乾燥密度(γdf)を算出することができる。即ち、上記式(1)、(2)を用いることにより、土構造物の乾燥密度を求める際に、従来の密度試験を行う必要がなく、比抵抗値と体積含水率から容易に乾燥密度を算出することが可能となる。
【0046】
[乾燥密度の補正]
本発明においては、対象とする土構造物を測定し得られた比抵抗値と体積含水率を、上記式(1)、(2)に代入して求めた乾燥密度について、求めた乾燥密度の値が一般的な乾燥密度の値から外れている場合、下記補正式(5)及び(6)を用いて補正を行うことが好ましい。
【数7】
式中、γdcは補正後の乾燥密度である。
【数8】
【0047】
(補正式について)
以下、補正式(5)及び(6)について説明する。
関係式(2)から算出した乾燥密度(算出乾燥密度)は、実際に盛土について測定して得られた乾燥密度(実測乾燥密度)と値が異なる場合がある。そこで、本実施形態においては、算出乾燥密度と実測乾燥密度の差を実測乾燥密度で除して100を掛けた値を乾燥密度差率として求めることができる。
【0048】
求めた乾燥密度差率とその体積含水率(θ)の関係を
図7に示す。また、
図7にプロットした点から補正式(5)及び(6)を求め、補正した乾燥密度(補正乾燥密度)の算出を行った結果、補正式(6)中のa、b、cはそれぞれ-50≦a≦50、-1500≦b≦-700、-30≦c≦-10という値を得ている。
【0049】
ここで、補正式の適用範囲を算出乾燥密度が1.5g/cm
3以上に限定した際に、測定した各種土質について、補正乾燥密度と実測乾燥密度の差を実測乾燥密度で除し、100を掛けた値を補正乾燥密度差率として求めたところ、補正乾燥密度差率の絶対値が小さくなり、最も良好な結果となった。その結果を
図8及び下記表2に示す。
図8は乾燥密度差率と補正乾燥密度差率を表した図であり、表9は
図8中から抜粋したものである。
【0050】
【0051】
また、算出乾燥密度が1.5g/cm
3以上のときに補正式(5)及び(6)を使用して求めた補正乾燥密度と現地でIR計器を用いて測定した実測乾燥密度の関係を
図9に示す。
【0052】
[密度比比較工程]
次に、密度比比較工程として、現地乾燥密度取得工程において算出した現地乾燥密度(γdf)と室内試験により取得した最大乾燥密度(γdmax)とから、本施工による密度比(Dcf)を取得する。ここで、現地密度比(Dcf)は、現地乾燥密度(γdf)を最大乾燥密度(γdmax)で除して100倍することにより求めることができる。そして、取得した現地密度比(Dcf)と、管理指標としての密度比(Dc)とを比較する。
【0053】
そして、現地密度比(Dcf)と密度比(Dc)とを比較しつつ、本施工による現地密度比(Dcf)が密度比(Dc)を満足するまで、現地比抵抗値取得工程、現地乾燥密度取得工程及び密度比比較工程を繰り返し行い、施工した土構造物が十分に締固められたことを確認する。これにより土構造物の転圧を完了する。
【実施例0054】
以下、本発明の土構造物の管理方法について、実際の現場で適用した実施例をより詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[室内試験]
室内試験では、対象とする盛土材料を用いて、JIS A 1210:2020「突固めによる土の締固め試験方法」に準拠し試験を実施し、最大乾燥密度(γdmax)=1.331g/cm3を取得した。また、管理指標とする密度比(Dc)をDc=90%に決定した。
【0056】
[試験施工]
試験施工では、試験盛土の試験体積含水率(θt)、転圧時の試験転圧回数(Nt)、試験乾燥密度(γd)、試験表面沈下量(ht)を測定し、それらからNt-γd線、Nt-ht線を作成した。測定結果を表10に、Nt-γd線、Nt-ht線を
図10、11に示す。ここで、
図10、11から目標転圧回数を6回に決定した。なお、体積含水率(θt)の測定は試験施工終了後に試験盛土から採取した所定の体積の試料を炉乾燥させることで、試験乾燥密度(γd)はRI計器を用いて、試験表面沈下量(ht)はレベル測量により求めた。
【0057】
【0058】
[本施工]
本施工では、目標転圧回数で転圧した後、現地体積含水率(θf)、現地比抵抗値(ρf)を測定し、式(1)から構造特性値Γを算出した。そして、式(2)から乾燥密度(γd)を算出し、必要に応じて補正式(5)および(6)を用いて乾燥密度の補正を行った。測定結果及び計算結果を表11に示す。なお、現地体積含水率(θf)は本施工盛土から採取した所定の体積の試料を炉乾燥させることで、現地比抵抗値(ρf)は4電極式の導電率計を用いて導電率を計測しその逆数として求めた。
【0059】
【0060】
算出した乾燥密度(γd)がγd=1.304g/cm3となり、管理指標とした密度比Dc=90%を満足したため、測定した盛土が十分に締め固められたことを確認した。
【0061】
なお、試験施工において、本施工と同様に式(1)、(2)、(5)及び(6)を用いて乾燥密度を算出したところγd=1.326g/cm3となった。本実施例の測定を実施した室内試験、試験施工及び本施工で使用した試料の土質特性を表12に示す。
【0062】
ここで、室内試験、試験施工及び本施工は同じ山から採取した材料を使用しており、施工上は同様の土質材料として扱っているが、実際には異なる土質特性を示している。そのため乾燥密度の違いは、室内試験、試験施工及び本施工で用いた土質の違いを反映したものといえる。
【0063】