(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126026
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】早期発症型孤発性パーキンソン病の分子シグネチャの診断及び薬物スクリーニング
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240911BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20240911BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240911BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240911BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240911BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20240911BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6883 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/68
C12N5/0793
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090584
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2020560893の分割
【原出願日】2019-04-05
(31)【優先権主張番号】62/664,888
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/664,827
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/664,942
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/755,365
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/816,795
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ-サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ラペール アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ユジェール ヌール
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンセン クライヴ エヌ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パーキンソン病をモデル化及び治療するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】パーキンソン病(PD)患者由来の人工多能性幹細胞(iPSC)をドーパミン作動性(DA)神経運命に向けて分化させることにより、これらの細胞が、PD患者の黒質で著しく変性することが観察されるDAニューロンの分子的及び機能的特性をインビトロで呈することが明らかになった。他の関連する細胞型の生成を駆動する臨床症状も、PDを有する患者のための新しい治療手段につながる可能性のある、インビトロでの新規のPD特異的表現型をもたらし得る。これらの患者からの分化した神経組織は、患者らの早期発症及び非家族性起源に起因して、ニューロンサブタイプ特異的な病態形成機序を発見するため、また重要なことに、PDへの感受性における患者らの遺伝的背景の寄与を調査するための重要な機会を提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物のスクリーニング方法であって、
ある量のニューロンを1つ以上の試験化合物と接触させること、
1つ以上のパラメータを測定すること、及び
測定された前記1つ以上のパラメータに基づいて1つ以上の試験化合物を選択すること
を含み、前記ニューロンが、血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)から分化したものである、前記方法。
【請求項2】
前記ニューロンが中脳ニューロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中脳ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のパラメータがPKC活性化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のパラメータが、TFEB活性化及びZKSCAN3不活性化のうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のパラメータがα-シヌクレインタンパク質レベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上のパラメータが、LAMP1、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの活性のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上のパラメータが、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの発現レベルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記血球由来のiPSCが、
ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のoriP/EBNA1ベクターと接触させること、
ある量の再プログラミング因子を前記血球内に送達すること、及び
前記血球を再プログラミング培地中で培養すること
を含む方法によって作製され、前記再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来のiPSCが生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ある量の血球が、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パーキンソン病が早期発症型パーキンソン病である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ニューロンが、
ある量の血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)を提供すること、
形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤の存在下で前記iPSCを培養すること、
スムーズンドアゴニスト、RHOキナーゼ(ROCK)阻害剤、及び少なくとも2つの成長因子の存在下でさらに培養すること、
レチノイン酸の存在下でさらに培養すること、ならびに
少なくとも3つの追加の成長因子の存在下で培養を継続すること
を含む方法によって血球由来のiPSCから分化したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤がLDN-193189を含み、前記アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤がSB431542を含み、前記スムーズンドアゴニストがプルモルファミンを含み、前記少なくとも2つの成長因子がソニックヘッジホッグ及び線維芽細胞成長因子8を含み、前記ROCK阻害剤がCHIR99012を含み、前記少なくとも3つの追加の成長因子が、脳由来神経栄養因子、グリア由来神経栄養因子、及びTGF-ベータ3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
診断方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する前記1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象のパーキンソン病を診断すること
を含む、前記方法。
【請求項16】
予後診断方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する前記1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象のパーキンソン病を予後診断すること
を含む、前記方法。
【請求項17】
治療レジメンを選択する方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象の治療レジメンを選択すること
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究に関する声明文
本発明は、National Institutes of Healthから授与されたNS105703のもと、政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
パーキンソン病に関連するものを含む中脳ニューロンの生成に関連する方法及び組成物が本明細書に記載されている。
【背景技術】
【0003】
背景
パーキンソン病(PD)は、二番目に多く診断される神経変性疾患であり、現在の老齢人口の間で相当な経済的負担となっている。PDにおける古典的に関連付けられる病理は、黒質緻密部におけるドーパミン作動性ニューロン(DaN)の進行性の消失、ならびにレビー小体及びレビー神経突起として知られる細胞質内封入体の存在を特徴とする。これらの封入体は、主にタンパク質α-シヌクレインで構成される。α-シヌクレインをコードする遺伝子(SNCA)の変異または三重化は、これらの特定の家族性PD症例の原因である。その本来の状態では、α-シヌクレインは、ヒトの脳全体のニューロンのシナプス前終末に見られ、小胞輸送、神経伝達物質の放出及び再取り込みにおいて機能を果たす。
【0004】
α-シヌクレインなどの多くの遺伝子及びタンパク質がPDに関連付けられているが、患者から生きたニューロンを抽出できないこと、及び効果的なPDモデルがないことから、疾患の開始及び進行に関する未解決の問題が残っている。患者由来の細胞をiPSCに再プログラミングすることで、疾患の進行及び病理学的表現型を分子レベルで観察することができる。興味深いことに、より大きな非家族性(孤発性)集団に関する以前のiPSC研究において、対照個体に由来するものと比較した場合、明白な違いが示されていない。このため、パーキンソン病の病理を裏打ちする複雑な生物学的背景を表すiPSC疾患モデルが、当該技術分野において強く必要とされている。
【0005】
パーキンソン病をモデル化及び治療するための組成物及び方法が本明細書に記載される。重要なことに、中脳ニューロンの生成、発達を忠実に反映した様式での底板誘導により、神経変性につながる細胞キューを特定することができ、これには、iPSCモデルでまだ十分に活用されていない孤発性PD症例の背後にある複雑な病因が含まれる。そのようなモデルを確立したところ、本発明者らは、本明細書において、PKCによって一部媒介されるものとして、α-シヌクレイン及びリソソーム分解機能障害のこれまで未知であった役割を特定した。アゴニストを介してPKCをターゲティングすることで、測定可能な結果が改善され、これにより、パーキンソン病の新しい治療手段が提案された。
【発明の概要】
【0006】
ある量のニューロンを1つ以上の試験化合物と接触させることと、1つ以上のパラメータを測定することと、測定された1つ以上のパラメータに基づいて1つ以上の試験化合物を選択することと、を含む方法が本明細書に記載され、ここで、ニューロンは、血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)から分化したものである。他の実施形態では、ニューロンは中脳ニューロンである。他の実施形態では、中脳ニューロンはドーパミン作動性ニューロンである。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、PKC活性化を含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、TFEB活性化及びZKSCAN3不活性化のうちの少なくとも一方を含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータはα-シヌクレインタンパク質レベルを含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、LAMP1、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの活性のうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの発現レベルのうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のoriP/EBNA1ベクターと接触させること;ある量の再プログラミング因子を血球内に送達すること;及び血球を再プログラミング培地中で培養すること、を含む方法であって、再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来のiPSCが生成される、方法によって、血球由来のiPSCが作製される。他の実施形態では、前記ある量の血球は、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られる。他の実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病である。他の実施形態では、パーキンソン病は早期発症型パーキンソン病である。他の実施形態では、ニューロンは、ある量の血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)を提供すること;形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤の存在下でiPSCを培養すること;スムーズンドアゴニスト、RHOキナーゼ(ROCK)阻害剤、及び少なくとも2つの成長因子の存在下でさらに培養すること;レチノイン酸の存在下でさらに培養すること;ならびに、少なくとも3つの追加の成長因子の存在下で培養を継続することを含む方法によって、血球由来のiPSCから分化したものである。他の実施形態では、形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤はLDN-193189を含み、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤はSB431542を含み、スムーズンドアゴニストはプルモルファミンを含み、少なくとも2つの成長因子はソニックヘッジホッグ及び線維芽細胞成長因子8を含み、ROCK阻害剤はCHIR99012を含み、少なくとも3つの追加の成長因子は、脳由来神経栄養因子、グリア由来神経栄養因子、及びTGF-ベータ3を含む。
【0007】
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象のパーキンソン病を診断することと、を含む、診断方法も、本明細書に記載される。
【0008】
また、パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象のパーキンソン病を予後診断することと、を含む、予後診断方法が本明細書に記載される。
【0009】
さらに、パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象の治療レジメンを選択することと、を含む、治療レジメンを選択する方法が本明細書に記載される。
[本発明1001]
化合物のスクリーニング方法であって、
ある量のニューロンを1つ以上の試験化合物と接触させること、
1つ以上のパラメータを測定すること、及び
測定された前記1つ以上のパラメータに基づいて1つ以上の試験化合物を選択すること
を含み、前記ニューロンが、血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)から分化したものである、前記方法。
[本発明1002]
前記ニューロンが中脳ニューロンである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記中脳ニューロンがドーパミン作動性ニューロンである、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記1つ以上のパラメータがPKC活性化を含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記1つ以上のパラメータが、TFEB活性化及びZKSCAN3不活性化のうちの少なくとも一方を含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記1つ以上のパラメータがα-シヌクレインタンパク質レベルを含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記1つ以上のパラメータが、LAMP1、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの活性のうちの少なくとも1つを含む、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記1つ以上のパラメータが、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの発現レベルのうちの少なくとも1つを含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記血球由来のiPSCが、
ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のoriP/EBNA1ベクターと接触させること、
ある量の再プログラミング因子を前記血球内に送達すること、及び
前記血球を再プログラミング培地中で培養すること
を含む方法によって作製され、前記再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来のiPSCが生成される、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記ある量の血球が、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られる、本発明1009の方法。
[本発明1011]
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、本発明1010の方法。
[本発明1012]
前記パーキンソン病が早期発症型パーキンソン病である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記ニューロンが、
ある量の血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)を提供すること、
形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤の存在下で前記iPSCを培養すること、
スムーズンドアゴニスト、RHOキナーゼ(ROCK)阻害剤、及び少なくとも2つの成長因子の存在下でさらに培養すること、
レチノイン酸の存在下でさらに培養すること、ならびに
少なくとも3つの追加の成長因子の存在下で培養を継続すること
を含む方法によって血球由来のiPSCから分化したものである、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤がLDN-193189を含み、前記アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤がSB431542を含み、前記スムーズンドアゴニストがプルモルファミンを含み、前記少なくとも2つの成長因子がソニックヘッジホッグ及び線維芽細胞成長因子8を含み、前記ROCK阻害剤がCHIR99012を含み、前記少なくとも3つの追加の成長因子が、脳由来神経栄養因子、グリア由来神経栄養因子、及びTGF-ベータ3を含む、本発明1001の方法。
[本発明1015]
診断方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する前記1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象のパーキンソン病を診断すること
を含む、前記方法。
[本発明1016]
予後診断方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する前記1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象のパーキンソン病を予後診断すること
を含む、前記方法。
[本発明1017]
治療レジメンを選択する方法であって、
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすること、
前記対象からの前記1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較すること、及び
前記対象の治療レジメンを選択すること
を含む、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2-1】分化スキーム(a)。THの発現及び形態を示す代表的な画像(b)。分化効率を示すフローサイトメトリーデータであり、各点は、独立した分化の3つの別個のウェルの平均を表す(c)。
【
図2-2】総ドーパミン含有量のHPLC検出(d)。株ごとに分化効率で正規化したドーパミン含有量のHPLC検出(e)。30日齢のDaNにおけるbACT(ハウスキーピング)及びシヌクレインの発現を示すウエスタンブロット(f)。各点は別個の分化からのバンドであり、色はipsc株を示し、データは各分化について02i対照で正規化した、複数のウエスタンブロットからの相対強度(g)。30日齢のDaNにおけるqPCRによるSNCA発現(h)。
【
図3-1】RNA-Seq及びプロテオミクスの組み合わせからの重複した転写物及びタンパク質の複合検出(a)。一致するトランスクリプトームデータ及びプロテオミクスデータのPCAプロット(b)。PDにおいて上方調節されたPC1成分のGSEA分析(c)。
【
図3-2】PDにおいて下方調節されたPC1成分のGSEA分析(d)。
【
図4-1】シクロヘキシミドによる阻害下でのシヌクレイン分解を示す代表的なウエスタンブロット(a)。02i対照及び190iPD細胞からの3つの別個の分化のウエスタンブロットの平均強度であり、時間=0のシヌクレイン(b)、シナプトフィジン(c)、及びTH(d)に対する変化倍率として提示する。
【
図4-2】24時間のMG132プロテアソーム阻害剤下でのシヌクレイン分解を示すウエスタンブロット(e)。PD DaNにおけるLAMP1タンパク質の減少を示すウエスタンブロット(f)。GCase活性であり、各点は、単一の分化からの3つの別個のウェルの平均である。データは、各分化について02i対照で正規化し、変化倍率として表した(g)。D30 DaN溶解物からの酸化ドーパミンのNIRF検出(h)。
【
図5-1】PD株におけるリソソームアゴニストによる処理及びp-PKCaの上昇。指定の化合物で72時間処理したd30 DaNのウエスタンブロット及び相対バンド定量化(a)。d30 DaNにおけるp-PKCaのベースラインレベル(b)。
【
図5-2】複数のPD株及び対照株からの、PEPで処理した30日目のDaN(c)。PEP処理のタイムコースおよびシヌクレインレベル(d)。
【
図5-3】SNCA(e)およびTH(f)の遺伝子発現のPEP処理のタイムコース。
【
図5-4】追加の対照株及びPD株におけるシヌクレイン及びp-PKCaの上昇の確認(g)。
【
図6a】4段階のタイムコース(a)および成熟(b)を含む分化プロトコル。
【
図7】パーキンソン病の症状の早期発症(DaTscanによって確認)を呈する3人の患者ボランティアを、Cedars Sinai Medical Centerで評価した。いずれの患者もパーキンソン病の家族歴を報告しなかったため、孤発性疾患起源が示される。詳細な臨床評価及び患者の病歴データが記録されており、インビトロの疾患モデリング研究が将来行われるため、重要な臨床情報を提供し続ける。3人の患者全員がホーン・ヤールスケールで1を呈し、片側の関与及び最小限の機能障害が示される。 末梢血単核細胞(PBMC)を、Yamanaka再プログラミング転写因子OCT4、KLF、SOX2、MYC、及びLin28を含む4つのプラスミドを伴うエピソームヌクレオフェクション技法を使用して再プログラミングした。トランスフェクション効率を高めるために、EBNA1も含めた。マウス胚性線維芽細胞(MEF)のベッドを含むゼラチンコーティングした組織培養プレートに細胞を播種し、18~26日間おいた。3つの株すべてでiPSCコロニー形成が発生し、複数のクローンを収集して、複数の継代にわたって増殖させた。アルカリホスファターゼ(AP)染色(20×)により、未分化組織を示す患者株の細胞膜におけるレベルの上昇が明らかになった。(B)多能性遺伝子Oct4発現を示す免疫細胞化学(20×)。ヒト特異的細胞表面抗原マーカーSSEA4も発現しており、多能性細胞と一致する分子プロファイルが示されている。 患者由来のiPSCは、ドーパミン作動性(DA)ニューロンに分化させることができる。画像は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現し、典型的なニューロン形態を示す40日齢の培養物を示す。これらの細胞は、パーキンソン病を有する患者のレビー小体にも見られるα-シヌクレインを内因的に発現する。20倍の倍率で撮影した画像。
【
図8】正常に凍結バンクされたDAN(02i対照)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本明細書で引用されるすべての参考文献は、完全に記載されているのと同じように、全体が参照により組み込まれる。別途定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed.,Revised,J.Wiley & Sons(New York,NY 2006)、及びSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,NY 2012)は、本出願で使用されている用語の多くに対する一般的なガイドを当業者に提供する。
【0012】
当業者であれば、本発明の実施に使用することができる、本明細書に記載されるものと同様または同等である多くの方法及び材料を認識するであろう。実際に、本発明は、記載されている方法及び材料に決して限定されるものではない。
【0013】
説明したように、患者由来の細胞をiPSCに再プログラミングすると、疾患の進行及び病理学的表現型を分子レベルで観察することができる。ドナーと遺伝的に同一であるiPSCは、インビボで臨床像に関係することが分かっている遺伝的背景を保有する、インビトロでのパーキンソン病の組織特異的モデルを提供するDaNに分化させることができる。近年、同様のiPSCモデリング技法を使用してPDの始まり及び進行におけるα-シヌクレインの役割を解明するために、多大な努力が払われている。いくつかの研究では、SNCAの三重化ならびにLRRK2及びGBA1遺伝子の変異を含む単一遺伝子変異を有するPD患者に由来するiPSCが用いられている。これらのiPSC株に由来するDAニューロンは、いくらかの表現型異常を示し、α-シヌクレインの蓄積を実証するが、家族性単一遺伝子変異はPD患者のごく少数にしか存在せず、これらの症例の病態生理は容易にはPD集団全体と関連しない。興味深いことに、より大きな非家族性(孤発性)集団に関する以前のiPSC研究において、対照個体に由来するものと比較した場合、明白な違いが示されていない。
【0014】
本明細書では、本発明者らは、早期発症型孤発性PD(EOSPD)患者のコホートからのiPSC株を生成する。本発明者らは、早期発症型孤発性の患者が、より侵攻性の疾患形態に影響し得る未知の遺伝的危険因子を有し得るため、これらの株が孤発性PDをよりよく理解するための有望な機会を示すと仮定した。本発明者らは、EOSPD患者株及び非罹患対照株のいずれかからの分化DaNを比較することにより、α-シヌクレインタンパク質の異常な蓄積が実際にPD患者コホートにおいて特異的に再現されることを示す。プロテオミクスアッセイ、全トランスクリプトームアッセイ、及び酵素活性アッセイを含むこれらの組織の分子的及び生理学的プロファイリングにより、分解経路の調節不全が見出され、EOSPD培養における以前に報告されていないリン酸化PKC-αの上方調節が示唆される。最後に、この経路を標的とすることにより、本発明者らは、インビトロ及びインビボの両方での小分子PEP005による処理後のα-シヌクレイン蓄積の逆転を観察する。本明細書に記載のiPSCベースのモデルにより、PDに寄与する孤発性PDの遺伝的起源の証拠が得られ、可能性のある臨床診断及びEOSPD患者のための新しい治療標的の開発用のプラットフォームが得られる。
【0015】
ある量のニューロンを1つ以上の試験化合物と接触させることと、1つ以上のパラメータを測定することと、測定された1つ以上のパラメータに基づいて1つ以上の試験化合物を選択することと、を含む、化合物をスクリーニングする方法が本明細書に記載され、ここで、ニューロンは、血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)から分化したものである。他の実施形態では、ニューロンは中脳ニューロンである。他の実施形態では、中脳ニューロンはドーパミン作動性ニューロンである。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、PKC活性化を含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、TFEB活性化及びZKSCAN3不活性化のうちの少なくとも一方を含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータはα-シヌクレインタンパク質レベルを含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、LAMP1、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの活性のうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの発現レベルのうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、ある量の血管細胞をわたる試験化合物の透過性、細胞の電気生理学的特性の変化、例えば神経伝達物質の産生及び放出を含む細胞の代謝プロファイルの変化を含む。他の実施形態では、ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のoriP/EBNA1ベクターと接触させること;ある量の再プログラミング因子を血球内に送達すること;及び血球を再プログラミング培地中で培養すること、を含む方法であって、前記ある量の血球が、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られ、さらに、再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来のiPSCが生成される、方法によって、iPSCが作製される。
【0016】
他の実施形態では、ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のoriP/EBNA1ベクターと接触させること;ある量の再プログラミング因子を血球内に送達すること;及び血球を再プログラミング培地中で培養することを含む方法であって、再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来のiPSCが生成される、方法によって、血球由来のiPSCが作製される。他の実施形態では、前記ある量の血球は、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られる。他の実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病である。他の実施形態では、神経変性疾患は、家族性、孤発性、及び早期発症型PDを含む、パーキンソン病(PD)である。他の実施形態では、パーキンソン病は、早期発症型パーキンソン病である。iPSC再プログラミングに関するさらなる情報は、Barrett,R.et al.Reliable Generation of Induced Pluripotent Stem Cells from Human Lymphoblastoid Cell Lines.Stem Cells Transl Med.2014 Dec;3(12):1429-34に見出され、これは参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0017】
他の実施形態では、ニューロンは、ある量の血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)を提供すること;形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤及びアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤の存在下でiPSCを培養すること;スムーズンドアゴニスト、RHOキナーゼ(ROCK)阻害剤、及び少なくとも2つの成長因子の存在下でさらに培養すること;レチノイン酸の存在下でさらに培養すること;ならびに、少なくとも3つの追加の成長因子の存在下で培養を継続することを含む方法によって、血球由来のiPSCから分化したものである。他の実施形態では、形質転換成長因子(TGF)-ベータ阻害剤はLDN-193189を含み、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)阻害剤はSB431542を含み、スムーズンドアゴニストはプルモルファミンを含み、少なくとも2つの成長因子はソニックヘッジホッグ及び線維芽細胞成長因子8を含み、ROCK阻害剤はCHIR99012を含み、少なくとも3つの追加の成長因子は、脳由来神経栄養因子、グリア由来神経栄養因子、及びTGF-ベータ3を含む。様々な実施形態において、前述の薬剤の濃度は、表1に示すとおりである。他の実施形態では、ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のベクターと接触させること;ある量の再プログラミング因子を血球内に送達すること;及び血球を再プログラミング培地中で培養することを含むプロセスによって、iPSCが作製される。他の実施形態では、1つ以上のベクターはoriP/EBNA1ベクターである。他の実施形態では、iPSCの培養は約3日間である。他の実施形態では、さらなる培養は約4日間である。他の実施形態では、追加の培養は約4日間である。他の実施形態では、培養の継続は、少なくとも3日間である。他の実施形態では、供給及び培地の取替を含む分化スケジュールは、表1及び
図6に従う。追加情報は、米国仮出願第62/653,697号及び同第62/755,282号、米国仮出願第62/653,697号、米国仮出願第62/755,282号、米国仮出願第62/816,785号、米国仮出願第62/664,888号、米国仮出願第62/664,827号、米国仮出願第62/816,795号、米国仮出願第62/664,942号、米国仮出願第62/755,365号に見出されることができ、これらは参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0018】
パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象のパーキンソン病を診断することと、を含む、診断方法も、本明細書に記載される。
【0019】
また、パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象のパーキンソン病を予後診断することと、を含む、予後診断方法が本明細書に記載される。
【0020】
さらに、パーキンソン病に罹患している疑いのある対象における1つ以上のバイオマーカーをアッセイすることと、対象からの1つ以上のバイオマーカーの発現レベルを、パーキンソン病を有しない健康な対象に由来する1つ以上のバイオマーカーのベースラインと比較することと、対象の治療レジメンを選択することと、を含む、治療レジメンを選択する方法が本明細書に記載される。
【0021】
予後診断、診断、または治療法選択の支援のための様々な方法において、バイオマーカーは、ドーパミンなどの神経伝達物質を含む代謝酵素である。様々な実施形態において、バイオマーカーは、転写産物及びタンパク質レベルを含む、α-シヌクレイン発現レベルを含む。様々な実施形態において、バイオマーカーはPKC活性化を含む。他の実施形態では、バイオマーカーは、TFEB活性化及びZKSCAN3不活性化のうちの少なくとも一方を含む。他の実施形態では、1つ以上のパラメータは、α-シヌクレインタンパク質レベルを含む。他の実施形態では、バイオマーカーは、LAMP1、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの活性のうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、バイオマーカーは、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンの発現レベルのうちの少なくとも1つを含む。様々な実施形態において、バイオマーカーは、リソソーム機能不全などの異常なタンパク質分解のマーカーを含む。様々な実施形態において、バイオメーカーは、なかでも、ネスチン、Tuj1、MAP2、GFAP、S100B、CD11B、PU.1、GLUTA-1、ZO-1、SMI31/Isl1、TH/PITX3、ホスホ-TDP、FASリガンド、及びSOD1を含む。
【0022】
前述の様々な実施形態において、神経変性疾患由来の人工多能性幹細胞(iPSC)及びその分化細胞は、健康な対照に由来するiPSCとは異なる分子シグネチャを有する。様々な実施形態において、当該分子シグネチャは、代謝経路及び代謝産物の差異を含む。例えば、これには、例えば、L-キヌレニン、トランスアコニット酸、アデニン、イノシン、及びl-チロシンのうちの1つ以上の濃縮など、代謝産物が含まれる。
【0023】
分化iPSCの凍結保存の方法が本明細書に記載される。様々な実施形態において、分化iPSCは、培養培地で処理され、タンパク質分解剤及びコラーゲン分解剤で処理され、分化iPSCを凍結防止剤に入れ、分化iPSCを開始温度に曝露し、分化iPSCを冷却し、分化iPSCを固相に過冷却し、分化iPSCを加熱し、分化iPSC固相の温度を低下させる。他の実施形態では、凍結防止剤は血清を含む。他の実施形態では、開始温度は約-4℃~約40℃である、他の実施形態では、開始温度は約2℃~約20℃である。他の実施形態では、開始温度は約-1℃~約15℃である。他の実施形態では、開始温度は約3℃~約7℃である。他の実施形態では、分化iPSCを冷却することは、約-5~-15℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSCを冷却することは、約-3~-7℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSCを冷却することは、約-5℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSCを過冷却することは、約-20~-90℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、BMECを過冷却することは、約-40~-75℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSCを過冷却することは、約-58℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、過冷却は、約-20~-60℃/分の速度である。他の実施形態では、過冷却は、約-45℃/分の速度である。他の実施形態では、分化iPSCを加熱することは、約-23℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSCを加熱することは、約+10℃/分~約-26℃及び/または+3℃/分~約-23℃の速度である。他の実施形態では、分化iPSC固相の温度を低下させることは、約-30℃~約-50℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSC固相の温度を低下させることは、約-40℃の温度に到達させることを含む。他の実施形態では、分化iPSC固相の温度を低下させることは、約-3~-0.05℃/分の速度である。他の実施形態では、分化iPSC固相の温度を低下させることは、約-0.8℃/分の速度である。他の実施形態では、低温の急速冷却は、約-10℃/分~約-100℃及び/または約-35℃/分~約-160℃の速度で、iPSC固相を分化させた。他の実施形態では、本方法は、分化iPSCの液体窒素への移動を含む。様々な実施形態において、培養培地はニューロン成熟培地である。様々な実施形態において、培養培地は、ROCK阻害剤を含む。様々な実施形態において、タンパク質分解剤及びコラーゲン分解剤はアキュターゼである。
【0024】
様々な実施形態において、分化したiPSCは中脳ニューロンである。様々な実施形態において、分化したiPSCは底板細胞である。様々な実施形態において、分化したiPSCは、チロシンヒドロキシラーゼ及び/またはドーパミンを産生する。様々な実施形態において、分化したiPSCは、健康な対象に由来する対照と比較して、より高いレベルのα-シヌクレインを発現する。様々な実施形態において、分化したiPSCは、リソソーム機能不全を含む異常なタンパク質分解を呈する。様々な実施形態において、分化した細胞は、LAMP1及び/またはGcaseの異常なレベルまたは活性を呈する。前述の方法によって調製された分化細胞の凍結保存された溶液が本明細書に記載される。
【実施例0025】
実施例1
早期発症型孤発性パーキンソン病患者(EO-sPD)からのiPSCの生成
PDの家族歴が報告されていない30~39歳の早期発症型孤発性パーキンソン病患者3人を、iPSC産生のために選択した(
図1)。NeuroXプラットフォームによる分析に基づくと、患者株において、EIFG1、PARK2、LRRK2、GBA、SNCA、PINK1、PARK7、VSP35、ATP13A2の単一遺伝子変異、またはSNCA遺伝子座の増幅は検出されなかった。3人の患者全員が、PDの診断と一致して、線条体のDAT(フェニルトロパン)シグネチャの減少を示した(
図1)。比較のために、収集時に神経疾患のない正常な個体から3つの対照株を生成した。
【0026】
末梢血単核細胞(PBMC)を収集し、続いて非組み込み型エピソーム技法を使用してiPSCに再プログラムした(
図1)。すべてのiPSC株は、核型が正常であり、典型的な多能性マーカーを発現した。
【0027】
実施例2
EOSPD iPSCからDANへの効率的な分化
PDの決定的な特徴は黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの特定の消失であるため、この細胞系譜に沿ってiPSCを分化させることは関心を引くものである。PD患者と対照患者の両方からのiPSC株を、表1、
図2A及び
図6に記載のプロトコルを使用してドーパミン作動性ニューロンに分化させた。
【0028】
端的には、iPSC株を、改変した二重SMAD阻害ベースの底板誘導プロトコルに供した。LDN/SB、続いてSHH/パルモルファミン/FGF8及びCHIR99021に曝露させ、その後、SBの除去及びレチノイン酸の追加を含めると、中脳FP及びDAニューロンの産生が支援される(
図1dを参照)。AA、BDNF、GDNF、TGFβ3、及びdbcAMPを補充したNeurobasal/B27培地中でさらなる成熟を行った。レチノイン酸を含めること、分化の初期段階からはレチノイン酸を除外することは、いずれの他の既知の技法とも異なる。注目すべきことに、報告されているプロトコルはドーパミン産生細胞を産生するのに80~130日かかり得るところ、前述の技法では、わずか30日での産生が可能である。
【0029】
【0030】
30日目に、分化した細胞は、TH、Nurr1、及びGRIK2を含むドーパミンニューロンのマーカーを発現し、細胞の約15%がTHを発現した(補足
図2a)(
図2b、c)。フローサイトメトリーを使用してTH発現細胞の数を計数することにより、全体的な分化効率を6つの株すべてで比較した(
図2c)。PD株のうちの2つは、対照で見られるものと同様の数のDAニューロンを示した。しかしながら、190iPD株の分化ではTH陽性ニューロンの産生が少なく、これらの細胞では、底板前駆マーカーであるFOXA2及びLMX1Aの発現はより少なかったが、成熟神経マーカーであるGRIK2及びNEFHの発現はより多かった。
【0031】
発達中のニューロンにおけるドーパミンのレベルがTH酵素によって変わるかどうかを判定するために、30日齢のDANを溶解し、ドーパミン産生についてHPLCで分析した。総ドーパミンの違いは株ごとに存在し、またもや190iPD株においてドーパミンの生成が少なく、WP3i対照株ではより多く生成された。しかしながら、TH発現ニューロンの数で正規化すると、すべての株が同等のレベルでドーパミンを生成した(
図2d、e)。発達中のニューロンの電気生理学的機能及び可能性のある疾患シグネチャを決定するために、多電極アレイの記録を培養中に経時的に行った。分化の20日目に自発的活動が観察され、30日目までにPD細胞と対照細胞の両方が活動の同期バーストを生じた。すべての株にわたって活動を定量化すると、疾患DaN培養と対照DaN培養との間で同様のレベルの自発的スパイクが観察された。まとめると、これらのデータは、EOSPD患者由来のiPSCが、罹患していない患者株と同様の神経活動を保有する機能的なドーパミン作動性ニューロンに効率的に分化したことを示す。
【0032】
実施例3
α-シヌクレインはEOSPD DANにおいて特異的に蓄積する
あらゆる形態のパーキンソン病においてα-シヌクレインタンパク質がレビー小体内に異常蓄積し、SNCA遺伝子の二重化または三重化を通した蓄積によってPDが生じることが知られている。しかしながら、孤発性PDにおけるその正確な役割は依然として不明であり、これまでの研究では、成人発症型孤発性PDにおける一貫した違いは示されていない。早期発症型孤発性PD起源の培養物においてα-シヌクレインタンパク質が蓄積するかどうかを判定するために、6つの株を30日間分化させて、ウエスタンブロットにより可溶性α-シヌクレインについて調査した。
【0033】
驚くべきことに、3つすべてのEOSPD DAN溶解物は、対照と比較した場合、α-シヌクレインタンパク質のレベルの増加を呈した(
図2f、g)。α-シヌクレインの蓄積を検証するために、培地上清と細胞溶解物との両方にELISAを行った。上清中のα-シヌクレイン濃度は検出限界を下回り、細胞溶解物は罹患株におけるα-シヌクレインタンパク質の有意な増加を裏付けた。iPSCステージにある株からのタンパク質溶解物は、α-シヌクレインの増加を呈さず、蓄積は分化した培養物に特異的であったことが示された。
【0034】
タンパク質の増加がSNCA遺伝子の転写の増加に起因し得るかどうかを判定するために、30日目のDAN培養物についてQPCRを行った(
図2h)。これらのデータは、EOSPD株のうちの2つである190iPD及び200iPDは対照株と比較してSNCA発現の増加を呈するが、3つ目の194iPDは呈さないことを示しており、転写の増加だけがα-シヌクレイン蓄積の唯一の原因ではなかったことを示唆している。
【0035】
実施例4
EOSPD DANにおいてリソソームタンパク質が異常調節される
SNCA遺伝子の転写の増加はEOSPDに特異的なα-シヌクレインタンパク質の蓄積を完全には説明できないため、本発明者らは次に、同じ培養ウェルに由来する対になった試料セットのRNAシーケンシング及びプロテオミクスの両方を通して、この効果に寄与し得る他の要因を決定することを試みた。全トランスクリプトームRNAシーケンス(RNA-Seq)によって27384個のユニークな転写産物が検出され、一方でプロテオミクス分析では、再現性閾値を満たす2478個のタンパク質が得られた。ピアソン相関係数は、試料複製間で高い一貫性を示した。
【0036】
プロテオミクス及びRNA-Seqの両方のデータセットに共通するタンパク質及び転写産物の組み合わせ分析により、2つの分析モード間で2437個の一致した遺伝子が得られた(
図3a)。一致した遺伝子セットの教師なし主成分分析(PCA)により、トランスクリプトームとプロテオミクスの両方のデータセットからのPC1に沿ったPD細胞と対照との間の明確な線引きが明らかになった(
図3b)。RNA-Seqデータセット全体を分析すると、同様のPCAが得られた。この分離に寄与した重要な経路を決定するために、mRNAまたはプロテオミクスの両方のPCA分析からのPC1遺伝子重み付けによって、すべての一致した遺伝子をランク付けした。次に、ランク付けした各リストの個別のGSEA分析をマージして、PD細胞と対照細胞との間で有意に異常調節されている共通経路を明らかにした(
図3c)。α-シヌクレイン、ならびにシナプシン(SYP)、シナプス小胞2A(SV2A)、及びSNAP25などのドーパミン放出に関連する他のシナプス小胞遺伝子が、そのターム、ならびにGO_EXOCYTIC_VESICLEなどの一般的なシナプス機構及び機能に関連するタームにおいて有意に濃縮された(
図3c)。KEGG_OXIDATIVE_PHOSPHORYLATIONに含まれる代謝遺伝子も、ESOPD株において有意に上方調節されていた。加えて、PD、アルツハイマー病、及びハンチントン病などの神経変性疾患に関連するタームがPD DANにおいて有意に上方調節されており、神経変性の重要な側面が培養系で捕捉されたことが示唆された(
図3c)。有意に下方調節されたタームであるGO_LYSOSOMAL_LUMEN及びGO_ENDOPLASMIC_RETICULUM_LUMENは、非罹患対照と比較したタンパク質形成及びリソソームタンパク質分解の欠陥を示した(
図3f)。
【0037】
実施例5
α-シヌクレインの分解はPD DANにおいて損なわれる
EOSPD DANにおけるリソソームタンパク質の減少により、α-シヌクレインの蓄積が分解機能の低下の結果であったかどうかを判定するに至った。全体的な分解速度を試験するために、DANにおいてシクロヘキシミド処理を介して転写機能全体を48時間阻害し、α-シヌクレインタンパク質を経時的に定量化した(
図4a、b)。対照株02i対照では、α-シヌクレインは48時間の処理の過程で分解され、約10時間の半減期が観察された(
図4b)。しかしながら、最も重篤なEOSPD株(190iPD)では、α-シヌクレインはむしろこの処理の期間にわたって蓄積した。この著しい二分により、α-シヌクレインの特異的分解における根本的な欠陥が示唆された。これは、TH(
図4a、c)またはシナプトフィジン(
図4a、d)などの他のタンパク質の対照細胞とPD細胞との間の同様の分解プロファイルによって裏付けられる。
【0038】
タンパク質分解は、主にプロテアソーム分解経路とオートファジー/リソソーム分解経路とに分けられる。プロテアソーム分解がα-シヌクレインのタンパク質分解の原因であることを判定するために、DaN培養物をプロテアソーム阻害剤MG132で24時間処理したところ、典型的にはプロテアソーム手段を介して分解されるタンパク質であるP53が蓄積したが、α-シヌクレインレベルには実質的な変化がなかった(
図4e)。この結果は、プロテアソーム分解が、DAN培養におけるα-シヌクレインの分解の重要な一因ではなかったことを示す。
【0039】
α-シヌクレイン分解におけるリソソームの関与を判定するために、本発明者らは、グルコセレブロシダーゼまたはGCaseの活性及び総LAMP1タンパク質について調査した。本発明者らは、プロテオミクス分析と一致して、3つのEOSPD株すべてでLAMP1の量の減少を観察した(
図4f)。GCaseは、一部のPD患者の末梢血において活性の低下が報告されているリソソーム加水分解酵素のクラスである。EOSPD患者からの30日齢のDaNでは、対照と比較してGCase活性の有意な低下が観察された(
図4f)。他の研究者らは、iPSC由来のDaNにおけるGCase活性の低下が、酸化ドーパミンの増加によって引き起こされることを見出した。しかしながら、酸化ドーパミンの同様の増加は、本発明者らの30日齢のPD DaNでは見られなかった(
図4h)。リソソーム経路タンパク質の有意な下方調節を考慮すると、これらの結果により、EOSPD DANにおけるα-シヌクレイン蓄積の推定原因として、リソソーム分解の機能不全の証拠がもたらされた。
【0040】
実施例6
PKCシグナル伝達の調節によりEOSPD表現型が救済される
本発明者らは、リソソーム特異的経路の活性化を通して本発明者らのEOSPD DANのシヌクレインレベルを低下させ得るかどうかを試験するために、3つのリソソームアゴニストを選択した。本発明者らが選択した化合物は、PKCアゴニストであり、HEP14薬物の構造類似体であるPEP005、PC12細胞モデルでハンチントン及びα-シヌクレイン凝集体を減少させることが示されている小分子TFEBアゴニストであるSMER28、ならびにα-シヌクレインのクリアランスを促進することが示されている別の生体化合物であるトレハロースであった。27日目から、DaNを上記のリソソームアゴニストで3日間処理した。トレハロースではなく、PEP005での処理及びSMER28での処理の両方で、対照株からのDaNにおいてα-シヌクレインタンパク質の量が有意に減少した(
図5a)。しかしながら、ESOPD DaNでは、PKCアゴニストPEP005のみが有意にシヌクレインレベルを低下させた。興味深いことに、対照及びPD両方のDaNにおいて、PEP005処理により、存在するTH酵素量の増加も生じた(
図5a)。
【0041】
PEP005に応答して対照及びPD両方のDANでシヌクレインレベルを低下させながら同時にTH発現を増加させるという興味深い複合効果により、薬物の作用機序を調査するに至った。PEP005は、確立されたPKCδアゴニストであり、PKCリン酸化の短期バースト、それに続くより長期的なリン酸化されたPKCの強力な減少を生じさせる。この研究の終点で、本発明者らは、未処理の190iPD DaNにおける基礎レベルのPKCαリン酸化の増加を観察し(
図5a)、PEP005処理は、このシグナルを対照及びPD両方のDaNにおいて完全に除去した(
図5a、c)。
【0042】
190iPD株におけるベースラインのリン酸化PKCaの増加を観察した後、本発明者らは、この観察が複数の株にわたって実証されるかどうかを確かめるために、すべての追加のDANを確認した。本発明者らは、3つのEOSPD株すべてからの30日目のDANにおいてより高いレベルのp-PKCaを見出した(
図5b)。本発明者らはまた、3つの追加の新たに誘導したEOSPD株(172iPD、183iPD、192iPD)、3つの追加の対照(0771i対照、1034i対照、1185i対照)、及び通常発症型PD株(78iPD、発症時67歳、PDの家族歴)を、α-シヌクレインの蓄積及びp-PKCaの増加の両方について確認した(
図5g)。
【0043】
PKCaのリン酸化の上昇は未分化のiPSCには存在せず、分化したDaNへの特異性を示す個々の患者からの末梢血において明確なパターンはなかった。PKCaのリン酸化の上昇は、すべてのiPSC株からのDaNに1uMのPEP005を3日間添加することにより、明らかに除去される(
図5c)。この除去は処理したすべての株におけるシヌクレインの減少と相関するが、LAMP1もLC3も、PD細胞におけるPEP処理に応答しないように見受けられ(
図5c)、PD細胞における作用機序がリソソームタンパク質の典型的な上方調節とは異なり得ることが示される。対照及びPDのDaNにおけるPEP処理のタイムコースは、p-PKCaとα-シヌクレインとの両方が約24時間以内に薬物処理に反応して分解されることを示す(
図5d)。この同じタイムコースは、PD細胞に存在する切断されたカスパーゼ3(CC3)の著しい減少も示す。この同じタイムコースに沿った対になった試料からの遺伝子発現データは、SNCAがPEP処理の4時間後に下方調節され(
図5e)、THが最初の曝露の約8時間後に上方調節されることを示す(
図5f)。
【0044】
実施例7
WTマウスにおけるα-シヌクレインのインビボでの減少
インビボで、PEPはシヌクレインの分解を刺激する。0.3、3、及び30uMのPEPの投与量研究を、WTマウスの脳室に注入した。注射後1及び5日目のマウス線条体におけるシヌクレインの減少及びTHの増加。
【0045】
実施例8
考察
本発明者らは、早期発症型孤発性PD患者のiPSCから分化したドーパミン作動性ニューロンにおけるパーキンソニズムのシグネチャを探すためにこの研究を開始した。本発明者らは、無作為に選択された家族歴のない早期発症PD患者中3人の個体からのPBMCを再プログラムした。結果として得られたiPSC株は、遺伝的に正常であり、既知の単一遺伝子PD変異の多くを欠いていた。これを評価するために使用したゲノムチップアッセイは、神経変性疾患に関連する約260,000個の既知のSNPを網羅する。可能性は非常に低いとしても、PD iPSCを生成するために使用した3人の特発性個体が、NeuroXスクリーンで見逃された未だ知られていない単一遺伝子変異をすべて有することは可能である。いずれにせよ、これらのEOSPD iPSCの複雑な背景遺伝学により、わずか30日齢のDaNにおいてα-シヌクレインの蓄積が生じた。これは、孤発性パーキンソン病患者に由来するiPSCにおいて最初に特定された表現型である。
【0046】
次に、本発明者らは、トランスクリプトーム及びプロテオミクス両方の技法を使用するこれらの分化した細胞の詳細な分析の完了に移った。トランスクリプトーム分析により、PD細胞における多くのシナプス及びエキソサイトーシス転写産物の発現の増加が明らかになった。これらの転写産物の増加は、翻訳されて、PD DaNにおけるタンパク質レベルの上昇に直接的につながり、これはシナプス機構の過剰を示している。しかしながら、より多くのシナプス機構の存在にもかかわらず、MEA記録もライブカルシウムイメージングも、PD DaNと対照DaNとの間の活性の違いを示さなかった。逆に、プロテオミクスデータは、PD DaNにおけるリソソーム内腔タンパク質の量の減少を示す。この減少は、このシグナル伝達経路の断絶を示す同じ細胞のRNAには反映されなかった。タンパク質は少ないが、細胞はより多く作製するという応答はしない。このリソソームタンパク質の減少は、PD DaNにおけるGCase活性の減少、ウエスタンブロットによるLAMP1タンパク質の減少、及びシクロヘキシミドによる阻害下でのα-シヌクレインの蓄積によってさらに確認され、これらのすべてが、PD DaNにおけるタンパク質分解のなんらかの欠損を指摘する。また、プロテアソーム分解の阻害がα-シヌクレインレベルの変化をもたらさなかったので、この欠損はリソソーム分解経路に特異的であると思われる。
【0047】
本発明者らは次に、この観察された欠損を補正するように、一連のリソソームアゴニストを選択した。試験した3つのアゴニストのうち、PEP005小分子のみが、対照及びPD両方のDaNにおいてα-シヌクレインレベルを低下させた。興味深いことに、PEP処理により、対照及びPD両方のDaNの処理済み培養物に存在するTHの量の増加も生じた。ここで観察された細胞内α-シヌクレインレベルの低下及びTHの増加という二重の効果により、PEP005は、可能性のある治療薬として非常に魅力的な候補となる。
【0048】
PEP005(インゲノール-3-アンゲレート)は、抗白血病活性も有し、かつ潜伏HIVの再活性化に役割を果たし得る、光線性角化症の局所治療用のFDA承認薬である。これは、インゲノール-3-アンゲレート及びインゲノールメブテートとしても知られ、チャボタイゲキ(Euphorbia peplus)植物の樹液から最初に抽出された最も研究されているインゲノール誘導体である。この小分子はナノモル以下の親和性でPKC C1ドメインに結合し、インビトロで個々のPKCアイソフォームに対する選択性を示さないものの、PEP005によって誘導されるPKCアイソフォームの移行及び下方調節のパターンは、ときに細胞株依存的な様式で、異なり得る。本研究では、これを、MTOR経路とは無関係にTFEBアゴニストとして作用する、Li及び同僚によって特定されたHEP14(5β-O-アンゲレート-20-デオキシインゲノール)化合物と同じチャボタイゲキ植物に由来する構造類似体として選択した。
【0049】
PEP005で処理した対照細胞において、本発明者らは、リソソームのマスター調節因子TFEBの活性化と一致するリソソームタンパク質LAMP1の増加を観察したが、この増加は、薬物で処理したPD DaNにおいて再現されるようには見えない。PEPは、アポトーシス促進性PKCδの活性化因子とPKCαの阻害因子の両方として説明される。PEP005は、様々ながん細胞株及び原発性急性骨髄性白血病(AML)細胞の増殖を阻害すると説明されている。白血病細胞株及び原発性AML細胞において、PEP005は、PKCδを活性化し、続いてERK1/2の持続的な活性化を誘導することによって、アポトーシスを誘導する。
【0050】
本発明者らは、自身のDaN培養において、強力なPKCδシグナルを観察せず、また本発明者らが細胞死を誘発していた場合に予想され得るような薬物治療におけるLDHの増加も見ることはなかった。実際、本発明者らは薬物治療における活性なカスパーゼ3の量の減少を観察したものの、この効果は、初めから切断されたカスパーゼ3のレベルが高いPD DaNにおいて最も容易に観察されたものであった。本発明者らの分化したニューロンは主に有糸分裂後のものであるのに対し、PEPの毒性は高度に増殖性の細胞により特異的である可能性が高い。
【0051】
本発明者らのDaNにおけるPEP005小分子の作用機序を調査すると、本発明者らは、PD DaNにおけるリン酸化PKCαのレベルの増加を観察した。シヌクレインは、TFEB活性化に関与する典型的な14-3-3タンパク質に結合してそれと相同性を共有するだけでなく、PKCαにも結合することが示唆されており、本発明者らの観察したシヌクレイン蓄積、リソソーム生合成、及びPKCアゴニストPEP005の間の関連性が示唆される。PKCは、TFEB転写因子の活性化とZKSCAN3転写抑制因子の不活性化とを、2つの並行したシグナル伝達カスケードを介して繋げる。活性化したPKCは、GSK3を不活性化させて、TFEBのリン酸化、核移行、及び活性化を減少させるが、PKCは、ZKSCAN3をリン酸化して、これを核外への移行により不活性化させる。したがって、PKCの活性化は、凝集タンパク質のクリアランスを含む多くの細胞外キューへのリソソーム適応を媒介し、それにより、本明細書で概説するパーキンソン病の機序などのリソソームネクサスによる疾患及び障害の実行可能な治療選択肢を提供する。
【0052】
α-シヌクレイン分解には議論の余地があるが、ニューロン細胞系における少なくとも単量体WTα-シヌクレインの分解の大部分は、シャペロン媒介オートファジー(CMA)及びマクロオートファジーのリソソーム経路を介して発生するように見える。これらの分解経路の機能異常はPD病因の要因となり得る。本明細書では、PKCのターゲティングは、内因性分解系による過剰なα-シヌクレインのクリアランスの亢進を促進するための戦略の実行可能性を実証し、α-シヌクレインがその機能に与える異常な影響も緩和できるという利点を有し得る。
【0053】
この研究は、早期発症患者からのiPSCにおける孤発性パーキンソン病の分子シグネチャを特定した最初のものである。本発明者らは、これらの細胞がα-シヌクレインを蓄積し、リソソームの生合成及び機能の調節異常を有しており、またより重度にリン酸化されたPKCαを示すことを見出した。これらの3つのバイオマーカーを総合すると、PDの根本的な機序に影響を与え得る新しい治療薬をスクリーニングするためのプラットフォームが得られる。本発明者らは、このシグネチャを排除し、対照及びPD両方の細胞において細胞内α-シヌクレインを減少させる、PDにおける新規薬物の特定に乗り出した。これらの発見は、PDの根本的な機序のうちのいくつかを最終的に治療する機会を提示する特異的かつ新規な創薬可能な経路を示唆する。
【0054】
実施例9
凍結プロトコル
本発明者らは、ドーパミン作動性ニューロン細胞の凍結保存技法を開発した。そのような技法により、前述のスクリーニング技法及び他の用途のために細胞を調製することが可能になる。
【0055】
凍結プロトコル:
DAニューロン(中脳培養)プロトコルの14日目:
1.培養物をDAニューロン成熟培地(DAN MAT)+ROCKi(1:1000)で30分間処理する。
2.処理中、アキュターゼを室温で解凍し、氷上に置く。
3.ROCKi DAN MATをアキュターゼと交換し、37℃で20~30分間(細胞が浮遊するまで)インキュベートする。
4.3mlのステージDAN MATを各ウェルに加え、細胞を取り出し、15mlのコニカルチューブの中に置く。
5.細胞を1060RPM(300g)で5分間遠沈する。
6.上清を取り除き、Cold CryoStor保管培地と交換する。
7.標準的な過冷却プロトコルを使用する制御速度冷凍庫を使用する。
【0056】
解凍プロトコル:
1.バイアルをLN2から取り出し、解凍するまでドライアイス上で保管する。
2.水浴に入れ、ほぼ完全に解凍するまで
図8に移動させる。
3.P1000を使用して、すべての細胞をバイアルから取り出し、15mlコニカルの中に置く。コニカルあたりのバイアルは2つ以下である。
a.約300μlをゆっくりと一度トリチュレートし戻し(back out)、再収集して、バイアルの底に付着したあらゆる細胞を払い落す。
4.すべてのバイアルがコニカルの中に入ったら、1:1vol:volのDAN成熟培地(DAN MAT)をすべてのコニカルに加え、一緒に振盪して、混合を確実にする。
a.例:1バイアル500ulで加えた場合は、500μlのDAN MATを加える。2つのバイアルが合計1mlの細胞である場合は、1mlのDAN MATを加える。
5.各コニカルに戻り、1:2vol:volを加え、混合を繰り返す。コニカルの先端が混合されるように注意するが、15秒以上かけない。
a.例:1バイアルの場合、1mlを加える。
6.最後に、1:2vol:volのDAN MATを加える。すべてのキャップを元どおり締め、一度反転させる。遠心分離機に置き、1060RPMを5分間遠沈する。
a.例:合計2mlとなった1バイアルの場合、4mlを加えて合計6mlにする。
7.上清を取り出し、所望の体積のDAN MAT+ROCKi(1:2000)で懸濁させる。
8.播種密度を高くする必要がある(96ウェルプレートの場合は300,000、またはチップの場合は12E6/ml)。
【0057】
上記の種々の方法及び手法は、本発明を実施する多数の手段を提供する。当然、記載の目的または利点の必ずしもすべてが、本明細書に記載の任意の特定の実施形態に従って達成されるわけではないことを理解すべきである。したがって、例えば、方法が、本明細書で教示または示唆され得るように、他の目的または利点を必ずしも達成することなく、本明細書に教示の1つの利点または利点群を達成または最適化する仕方で実施することができることを、当業者らは認識するであろう。様々な有利及び不利な代替物が、本明細書で述べられる。好ましい実施形態の一部が、1つの、別の、またはいくつかの有利な特徴を具体的に含む一方、他のものは、1つの、別の、またはいくつかの不利な特徴を具体的に除外するが、さらに他のものは、1つの、別の、またはいくつかの有利な特徴を含むことにより、本不利な特徴を具体的に軽減することが理解されるべきである。
【0058】
さらに、当業者は、異なる実施形態の種々の特徴の適用性を認識するであろう。同様に、上述した種々の要素、特徴、及びステップ、ならびにそのような要素、特徴、またはステップそれぞれのための他の既知の等価物は、本明細書に記載の原理に従って方法を実施するために、当該技術分野の当業者が組み合わせ、一致させることができる。多様な実施形態では、種々の要素、特徴、及びステップ中に、一部が具体的に含まれ、残りのものが具体的に除外されるであろう。
【0059】
本発明は、特定の実施形態及び実施例の文脈で開示されるが、本発明の実施形態が、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替実施形態及び/または使用ならびにその修正及び等価物にまで及ぶことは、当業者らに理解されるであろう。
【0060】
本発明の実施形態では、多くの変形及び代替要素が開示されている。さらに別の変形及び代替要素は、当業者には明らかであろう。これらの変形には、限定されないが、人工多能性幹細胞(iPSC)に関連する組成物及び方法、中脳ニューロン、底板ニューロン、ドーパミン作動性ニューロンを含む分化したiPSC、前述の組成物の使用に関連した方法及び組成物、それらに使用される技法及び組成物及び溶液の使用、ならびに本発明の教示により作製される生成物の特定の使用がある。本発明の種々の実施形態は、これらの変形または要素のいずれかを具体的に含むか、または除外し得る。
【0061】
一部の実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明及び特許請求するために使用される成分の量、濃度などの特性、反応条件などの特性を表す数字は、一部の場合、「約」という用語で修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、一部の実施形態では、書面による説明及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、特定の実施形態により得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る近似値である。一部の実施形態では、数値パラメータは、報告された有効桁数の数を考慮してかつ通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。本発明の一部の実施形態の広い範囲について記載する数値範囲及びパラメータは、近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、実行可能な限り正確に報告される。本発明の一部の実施形態で提示される数値は、それぞれの試験測定値に見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含み得る。
【0062】
一部の実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明する文脈で(特に、以下の特許請求の範囲の特定の文脈で)使用される「a」及び「an」及び「the」という用語ならびに類似の指示対象は、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈することができる。本明細書の値の範囲の列挙は単に、範囲内に入るそれぞれの別々の値を個々に指す簡単な方法として役立つことが意図される。本明細書で別途指示のない限り、各個別値は、本明細書で個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別途指示のない限り、または別途文脈により明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で特定の実施形態に関して提供される任意の及びすべての例の使用、または例示的な言語(例えば、「など」)は、本発明をより適切に表すことが意図され、別途特許請求される本発明の範囲に制限を課さない。本明細書の言語は、本発明の実施に必須の、特許請求されていない任意の要素を示すと解釈されるべきではない。
【0063】
本明細書に開示されている本発明の代替要素または実施形態のグループ化は、制限として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、またはグループの他のメンバーもしくは本明細書に見られる他の要素と任意の組み合わせで、参照して、特許請求することができる。グループの1つ以上のメンバーは、便宜上の及び/または特許性の理由により、グループに含まれるか、またはグループから削除され得る。そのような任意の包含または削除が生じた場合、本明細書は、本明細書にこのように修正されたグループを含有するとみなされ、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのMarkushグループの書面による説明を満たす。
【0064】
本発明を実施するための本発明者に既知の最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変形は、上述の説明を読むと当業者らに明らかになるであろう。当業者らが、必要に応じて、そのような変形を用い得ることが企図され、本発明は、本明細書に具体的に記載される以外で実施することができる。したがって、本発明の多くの実施形態は、適用法により許可されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙された主題のすべての修正及び同等物を含む。さらに、そのすべての可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別途指示のない限り、または文脈により明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0065】
さらに、本明細書を通して、特許及び印刷された出版物に対して、多数の参照がなされている。上記で引用された参考文献及び印刷された刊行物のそれぞれは、全体が参照により本明細書に個々に組み込まれる。
【0066】
最後に、本明細書に開示の本発明の実施形態は、本発明の原理の例示であることを理解すべきである。用いることができる他の修正は、本発明の範囲内であり得る。したがって、限定ではなく例として、本発明の代替構成を、本明細書の教示に従って利用することができる。したがって、本発明の実施形態は、厳密に示され記載されるものに限定されない。