(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126035
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】超音波流量計及び流量計測方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20240912BHJP
【FI】
G01F1/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034154
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小貝 和史
(72)【発明者】
【氏名】市毛 祐也
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035DA08
2F035DA14
2F035DA23
(57)【要約】
【課題】従来に対し、より精度よく流量を計測可能とする。
【解決手段】超音波を送信する送信部11と、送信部11に対して対向配置され、当該送信部11により送信された超音波を受信する複数の受信部12と、受信部12による受信結果に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向から配管2における流体の流量を算出する演算部13とを備え、送信部11は、出射方向を演算部13により算出された出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する送信部と、
前記送信部に対して対向配置され、当該送信部により送信された超音波を受信する複数の受信部と、
前記受信部による受信結果に基づいて、前記送信部における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向から配管における流体の流量を算出する演算部とを備え、
前記送信部は、出射方向を前記演算部により算出された出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行う
ことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記演算部は、
前記受信部毎に設けられ、当該受信部による受信結果における代表値を検出する複数の代表値検出部と、
前記代表値検出部により検出された代表値の差を算出する比較部と、
前記比較部により算出された差に基づいて、前記送信部における超音波の出射調整方向を算出する出射調整方向演算部と、
前記出射調整方向演算部により算出された出射調整方向に基づいて、前記配管における流体の流速を算出する流速演算部と、
前記流速演算部により算出された流速に基づいて、前記配管における流体の流量を算出する流量演算部とを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記送信部は、超音波としてバースト波を送信する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の超音波流量計。
【請求項4】
超音波を送信する送信部と、前記送信部に対して対向配置され、当該送信部により送信された超音波を受信する複数の受信部とを備えた超音波流量計による流量計測方法であって、
演算部が、前記受信部による受信結果に基づいて、前記送信部における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向から配管における流体の流量を算出するステップを有し、
前記送信部は、出射方向を前記演算部により算出された出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行う
ことを特徴とする流量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体の流量を計測する超音波流量計及び流量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流量を計測する超音波流量計が知られている。この超音波流量計としては、例えば、伝播時間差を用いる方式及びドップラー現象を用いる方式の他に、音響強度分布を用いる方式がある。音響強度分布を用いる方式は、振幅式とも呼ばれる。
【0003】
従来、音響強度分布を用いる方式の超音波流量計では、流体の流れによって音響強度分布が変化することを利用し、流体の流量の計測を行っている(例えば特許文献1参照)。このような音響強度分布を用いる方式の超音波流量計では、音響強度分布が放物線状であると仮定し、信号強度のピークを算出している。そして、この超音波流量計では、そのピーク位置の変化から流量換算を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音響強度分布の変化は非線形な要素が多い。すなわち、従来の音響強度分布を用いる方式の超音波流量計では、音響強度分布が放物線状であると仮定して信号強度のピークを算出しているが、実際には音響強度分布はピーク付近以外では放物線状にはなっていない。よって、この音響強度分布を用いる方式の超音波流量計では、超音波が流体により流される量を正確に算出できず、流量計測に誤差が生じやすい。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従来に対し、より精度よく流量を計測可能となる超音波流量計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る超音波流量計、超音波を送信する送信部と、送信部に対して対向配置され、当該送信部により送信された超音波を受信する複数の受信部と、受信部による受信結果に基づいて、送信部における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向から配管における流体の流量を算出する演算部とを備え、送信部は、出射方向を演算部により算出された出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、上記のように構成したので、従来に対し、より精度よく流量を計測可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る超音波流量計の構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1における演算部の構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1における演算部の動作例を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る超音波流量計の動作例を説明する図であって、流速が0である場合を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係る超音波流量計の動作例を説明する図であって、流速が0ではなく且つ超音波の出射方向の調整を行わない場合を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る超音波流量計の動作例を説明する図であって、流速が0ではなく且つ超音波の出射方向の調整を行う場合を示す図である。
【
図7】
図7A~
図7Cは、実施の形態1における演算部による出射調整方向の算出方法を説明する図であって、
図7Aは流速が0である場合を示す図であり、
図7Bは流速が0ではなく且つ超音波の出射方向の調整を行わない場合を示す図であり、
図7Cは流速が0ではなく且つ超音波の出射方向の調整を行う場合を示す図である。
【
図8】
図8A、
図8Bは、実施の形態2に係る超音波流量計において超音波としてバースト波を用いた場合の効果を説明する図であって、
図8Aは側面図であり、
図8Bは正面図である。
【
図9】
図9A、
図9Bは、実施の形態2に係る超音波流量計において超音波としてバースト波を用いた場合の効果を説明する図であって、
図9Aは連続波を用いた場合での波形例を示す図であり、
図9Bはバースト波を用いた場合での波形例及び流体伝播波の抽出動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
超音波流量計1は、配管2を流れる流体における流量を計測する。この超音波流量計1は、例えば
図1に示すように、送信部11、複数の受信部12、及び、演算部13を備えている。
また、以下では、
図1に示すように、超音波流量計1に、複数の受信部12として第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2が設けられた場合を例にして説明を行うが、受信部12が3つ以上設けられた場合についても同様である。
【0011】
送信部11は、配管2の側壁に取り付けられ、超音波を送信する送信側トランスデューサである。この送信部11は、配管2の側壁外側に接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁に設けられた穴に挿入されて配管2内の流体に直接接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁内側で流体に囲まれるように取り付けられていてもよい。また、実施の形態1における送信部1では、超音波の駆動方法については限定されず、どのような形状の波であってもよいが、ここでは一例として連続波を用いる場合を想定する。
【0012】
なお、
図1では、送信部11は、超音波の基本の出射方向を、配管2において流体が流れる方向に対して垂直(略垂直の意味を含む)な方向としている(θ=0)。
そして、送信部11は、演算部13により算出された出射調整方向に応じ、出射方向を当該出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行う。この出射調整方向は、送信部11における超音波の出射方向を調整するための方向であり、基本の出射方向に対して配管2における上流側に傾く方向である。なお、出射調整方向の初期値は0である。
【0013】
この送信部11としては、超音波の出射方向を調整可能な構成であればよく、フェーズドアレイ構成とされたものを用いることができる。例えば、送信部11としてPMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いることができる。
【0014】
第1の受信部12-1は、配管2の側壁における送信部11に対向する箇所に取り付けられ、送信部11により送信された超音波を受信して電気信号に変換する受信側トランスデューサである。この第1の受信部12-1は、配管2の側壁外側に接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁に設けられた穴に挿入されて配管2内の流体に直接接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁内側で流体に囲まれるように取り付けられていてもよい。
この第1の受信部12-1により得られた電気信号は、演算部13に出力される。
【0015】
この第1の受信部12-1としては、超音波を受信可能な構成であればよい。例えば、第1の受信部12-1として、PMUT、又は、PZT等を用いた通常の超音波素子を用いることができる。
【0016】
第2の受信部12-2は、配管2の側壁における送信部11に対向する箇所に取り付けられ、送信部11により送信された超音波を受信して電気信号に変換する受信側トランスデューサである。この第1の受信部12-2は、配管2の側壁外側に接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁に設けられた穴に挿入されて配管2内の流体に直接接するように取り付けられていてもよいし、配管2の側壁内側で流体に囲まれるように取り付けられていてもよい。
この第2の受信部12-2により得られた電気信号は、演算部13に出力される。
【0017】
この第2の受信部12-2としては、超音波を受信可能な構成であればよい。例えば、第2の受信部12-2として、PMUT、又は、PZT等を用いた通常の超音波素子を用いることができる。
【0018】
なお、
図1に示す超音波流量計1では、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2として、PMUTによる二分割素子が用いられた場合を示している。
【0019】
演算部13は、第1の受信部12-1による受信結果及び第2の受信部12-2による受信結果に基づいて、配管2における流体の流量を算出する。この際、演算部13は、上記受信結果に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向に基づいて流量を算出する。この演算部13の構成例については後述する。
【0020】
演算部13は、例えば
図2に示すように、複数の代表値検出部1301、比較部1302、出射調整方向演算部1303、流速演算部1304、及び、流量演算部1305を備えている。
また、以下では、
図1に示すように、演算部13に、複数の代表値検出部1301として第1の代表値検出部1301-1及び第2の代表値検出部1301-2が設けられた場合を例にして説明を行うが、代表値検出部1301が3つ以上設けられた場合についても同様である。すなわち、演算部13は、超音波流量計1が有する受信部12の数に対応した数だけ代表値検出部1301を有していればよく、その数は限定されない。
【0021】
なお、演算部13は、システムLSI(Large Scale Integration)等の処理回路、又はメモリ等に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等により実現される。
【0022】
第1の代表値検出部1301-1は、第1の受信部12-1による受信結果に基づいて、当該受信結果における代表値を検出する。すなわち、第1の代表値検出部1301-1は、第1の受信部12-1により得られた電気信号における代表値を検出する。
この第1の代表値検出部1301-1により検出された代表値を示す信号は、比較部1302に出力される。
【0023】
第2の代表値検出部1301-2は、第2の受信部12-2による受信結果に基づいて、当該受信結果における代表値を検出する。すなわち、第2の代表値検出部1301-2は、第2の受信部12-2により得られた電気信号における代表値を検出する。
この第2の代表値検出部1301-2により検出された代表値を示す信号は、比較部1302に出力される。
【0024】
比較部1302は、第1の代表値検出部1301-1により検出された代表値と、第2の代表値検出部1301-2により検出された代表値との差を算出する。
この比較部1302により算出された差を示す信号は、出射調整方向演算部1303に出力される。
【0025】
出射調整方向演算部1303は、比較部1302により算出された差に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出する。この出射調整方向演算部1303は、例えば
図2に示すように、積分部1306及び出射調整方向算出部1307を有している。
【0026】
積分部1306は、比較部1302により算出された差を、時間に対して積分する。
この積分部1306による積分結果を示す信号は、出射調整方向算出部1307に出力される。
【0027】
出射調整方向算出部1307は、積分部1306による積分結果に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出する。
この出射調整方向算出部1307により算出された出射調整方向を示す信号は、流速演算部1304に出力される。
【0028】
流速演算部1304は、出射調整方向算出部1307により算出された出射調整方向に基づいて、配管2における流体の流速を算出する。
なお、この流速演算部1304による出射調整方向に基づく流速の算出では音速が必要となるが、この音速は従来から知られている方法で得ることが可能である。具体的には、流速演算部1304は、送信部11による超音波の送信から第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2による超音波の受信までの時間に基づいて音速を算出することができる。また、流速演算部1304は、流体の音速温度特性が既知である場合には、流体の温度から当該音速温度特性に基づいて音速を算出することができる。
この流速演算部1304により算出された流速を示す信号は、流量演算部1305に出力される。
【0029】
流量演算部1305は、流速演算部1304により算出された流速に基づいて、配管2における流体の流量を算出する。この際、流量演算部1305は、流速演算部1304により算出された流速に対し、対象とする配管2の断面積を乗算することで、配管2における流体の流量を算出する。
【0030】
なお、
図1に示す超音波流量計1では、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2が、送信部11における基本の出射方向に対して対称(略対称の意味を含む)に取り付けられた場合を示している。
しかしながら、これに限らず、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2は、送信部11における基本の出射方向に対してずれて配置されていてもよい。すなわち、実施の形態1に係る超音波流量計1では、複数の受信部12が送信部11に対してずれて配置されていたとしても、演算部13において送信部11における超音波の出射調整方向を算出することで、送信部11は出射方向を適切に調整可能であり、上記ずれによる流量計測への影響を回避可能となる。
【0031】
次に、
図1,2に示す実施の形態1における演算部13の動作例について、
図3を参照しながら説明する。
なお、以下では、第1の代表値検出部1301-1が第1の受信部12-1による受信結果における代表値としてピーク値を検出し、第2の代表値検出部1301-2が第2の受信部12-2による受信結果における代表値としてピーク値を検出する場合を示す。
【0032】
ここで、実施の形態1に係る超音波流量計1では、配管2における流体の流れによって受信側での音響強度分布の中心が変わらないように、すなわち、複数の受信部12で受信される超音波の強度が均等になるように、送信側での超音波の出射方向を配管2における上流側に偏向する。そして、実施の形態1に係る超音波流量計1では、送信側の偏向角を流速に換算して流量を求める。これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1では、従来に対し、放物線状以外の音響強度分布に対しても考慮することができ、より正確に流量を計測することが可能となる。
【0033】
なお、近年、マイクロマシニング技術を用いて、アレイ状のピエゾ素子であるPMUTを作成することが可能となった。この技術では、ピエゾ素子を一次元又は二次元のアレイ状に構築可能である。
そして、このようにして作られたアレイ状の各々のピエゾ素子に対して独立に信号を送ることにより、超音波の出射角度を振るビームステアリング、及び、超音波を特定の位置で一点に集めるビームフォーカシング等が実現可能である。
【0034】
図1,2に示す実施の形態1における演算部13の動作例では、例えば
図3に示すように、まず、演算部13は、出射調整方向の初期化を行う(ステップST101)。すなわち、出射調整方向であるθを0とする。
【0035】
そして、送信部11は、演算部13により算出された出射調整方向に応じ、出射方向を当該出射調整方向となるように配管2における上流側に傾け、予め設定された期間、超音波を送信する。なお、初回では、出射調整方向は0である。
そして、第1の受信部12-1は、上記期間、送信部11により送信された超音波の受信を行って電気信号に変換する。この第1の受信部12-1により得られた電気信号は、演算部13に出力される。
同様に、第2の受信部12-2は、上記期間、送信部11により送信された超音波の受信を行って電気信号に変換する。この第2の受信部12-2により得られた電気信号は、演算部13に出力される。
【0036】
次いで、第1の代表値検出部1301-1は、第1の受信部12-1による受信結果における代表値としてピーク値を検出し、第2の代表値検出部1301-2は、第2の受信部12-2による受信結果における代表値としてピーク値を検出する(ステップST102)。なお、第1の受信部12-1による受信結果におけるピーク値をPAで表し、第2の受信部12-2による受信結果におけるピーク値をPBで表す。
この第1の代表値検出部1301-1により検出されたピーク値を示す信号、及び、第2の代表値検出部1301-2により検出されたピーク値を示す信号は、比較部1302に出力される。
【0037】
なお、ここでは、第1の代表値検出部1301-1及び第2の代表値検出部1301-2が検出対象とする代表値が、受信信号におけるピーク値である場合を示している。
しかしながら、これに限らず、第1の代表値検出部1301-1及び第2の代表値検出部1301-2が検出対象とする代表値は、受信信号の振幅を代表する値であればよい。例えば、第1の代表値検出部1301-1及び第2の代表値検出部1301-2は、代表値として、受信信号におけるピークトゥピーク値(p-p)、受信信号における絶対値の平均値、又は、受信信号における二乗平均値の平方根(RMS)を検出してもよい。
【0038】
次いで、比較部1302は、第1の代表値検出部1301-1による検出結果及び第2の代表値検出部1301-2による検出結果の差を算出する(ステップST103)。この際、比較部1302は、下式(1)に従い、ピーク値の差を算出する。
PB-PA (1)
この比較部1302により算出された差を示す信号は、積分部1306に出力される。
【0039】
次いで、積分部1306は、比較部1302により算出された差を、計測期間分だけ積分する(ステップST104)。この際、積分部1306は、下式(2)に従い、積分を行う。なお、式(2)において、Δtは計測周期であり、kは積分感度定数であって予め設定される。
k(PB-PA)Δt (2)
この積分部1306による積分結果を示す信号は、出射調整方向算出部1307に出力される。
【0040】
なお、
図2では、積分部1306が積分を行っているが、これに限らず、積分部1306は、計測間隔毎に分割して計測を実行している場合には区分求積法とみなして足し算を繰り返すことで積分を行うことができる。また、より精度よく積分するのであれば、積分部1306は、例えば台形公式又はシンプソン公式等を使うことも可能である。
【0041】
次いで、出射調整方向算出部1307は、積分部1306による積分結果に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出する(ステップST105)。すなわち、出射調整方向算出部1307は、下式(3)に従い、出射調整方向を算出する。これにより、送信部11は超音波の出射方向を更新可能となる。
θ←θ+k(PB-PA)Δt (3)
この出射調整方向算出部1307により算出された出射調整方向を示す信号は、流速演算部1304に出力される。
【0042】
次いで、流速演算部1304は、出射調整方向算出部1307により算出された出射調整方向に基づいて、配管2における流体の流速を算出する(ステップST106)。すなわち、流速演算部1304は、下式(4)又は下式(5)に従い、配管2における流体の流速を算出する。なお、式(4)及び式(5)において、Vは配管2における流体の流速を示し、Cは音速を示している。
θ=sin-1(V/C) (4)
V=Csinθ (5)
この流速演算部1304により算出された流速を示す信号は、流量演算部1305に出力される。
【0043】
次いで、流量演算部1305は、流速演算部1304により算出された流速に基づいて、配管2における流体の流量を算出する(ステップST107)。この際、流量演算部1305は、流速演算部1304により算出された流速に対して、対象とする配管2の断面積を乗算することで、流量を算出する。なお、配管2における流体の流量をQで表す。
【0044】
その後、演算部13は、次の計測まで待機し、上記の処理を繰り返す。
【0045】
ここで、
図4に示すように、配管2における流体に流れがない状態(V=0)で送信部11が基本の出射方向(θ=0)で超音波の送信を行った場合、送信部11により送信された超音波は、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2で均等に受信される。すなわち、第1の受信部12-1における出力信号であるV
Aと、第2の受信部12-2における出力信号であるV
Bとは等しくなる。
【0046】
一方、
図5に示すように、配管2における流体に流れがある状態(V≠0)で送信部11が基本の出射方向(θ=0)で超音波の送信を行った場合、送信部11により送信された超音波は配管2における下流側に流され、音響強度分布に偏りが生じる。その結果、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2での出力にも変化が生じる。すなわち、第2の受信部12-2における出力信号であるV
Bは、第1の受信部12-1における出力信号であるV
Aよりも大きくなる。
【0047】
そこで、実施の形態1に係る超音波流量計1では、
図6に示すように、送信部11における超音波の出射方向を配管2における上流側に傾けるように調整し、すなわちθ≠0とする。これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1では、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2における音響強度分布の偏りを小さくすることができる。すなわち、配管2における流体に流れがある場合であっても、超音波の出射方向を適切に調整すれば、第1の受信部12-1における出力信号であるV
Aと、第2の受信部12-2における出力信号であるV
Bとは等しくなる。
【0048】
そして、
図1に示すように、超音波流量計1に対してフィードバックループを設けることで、この超音波流量計1は、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2での出力信号の振幅が自動的に等しくなるようにすることができる。
【0049】
ここで、従来技術では、音響強度分布が放物線状となっていると仮定して信号強度のピークを算出している。しかしながら、実際には、音響強度分布はピーク付近以外では放物線状にはなっていないので、従来技術では、超音波が流れにより流される量を正確に算出できない。
これに対し、実施の形態1に係る超音波流量計1では、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2で受信される信号強度が等しくなるように超音波の出射方向を変化させる。このため、この超音波流量計1では、超音波が流れにより流される量を正確に求めることができる。
【0050】
なお、
図7は実施の形態1における演算部13による出射調整方向の算出方法を説明する図である。
上述したように、配管2における流体に流れがない場合には、
図7Aに示すように、送信部11により送信された超音波は当該流体に流されず、そのまま第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2に到達する。
一方、配管2内における流体に流れがある場合には、
図7Bに示すように、送信部11により送信された超音波は配管2における下流側に流され、音響強度分布に偏りが生じる。
そのため、実施の形態1に係る超音波流量計1では、
図7Cに示すように、送信部11における超音波の出射方向を上流側に傾ける。この場合、θとVとの関係は式(4),(5)のようになる。
【0051】
なお、上記では、演算部13が積分部1306を有し、フィードバックとして「積分要素」(I)のみを用いた制御を行う場合を示した。
しかしながら、これに限らず、演算部13は、積分部1306に代えて、比例制御、比例制御及び積分制御、並びに、比例制御、積分制御及び微分制御を行う制御部を有し、フィードバックとして「比例要素」(P)、「比例要素+積分要素」(PI)又は「比例要素+積分要素+微分要素」(PID)を用いた制御を行ってもよい。これにより、フィードバックとして「積分要素」(I)のみを用いた制御を行う場合に対し、応答性が向上するものと考えられる。一方で、この場合、フィードバックとして「積分要素」(I)のみを用いた制御を行う場合に対し、制御が不安定になる可能性もある。そのため、この制御方法については適宜選択することが望ましい。
【0052】
また、上記では、送信部11が、ビームステアリングとも呼ばれる出射角度の偏向のみを行う場合を示した。
しかしながら、これに限らず、送信部11は、上記に加え、ビームフォーカシングとも呼ばれる超音波を集中させる処理を組み合わせて実施してもよい。すなわち、例えば、
図7において実線で示すように、ビームフォーカシングを行わない場合には、超音波は末広がり状に広がりながら送信される。これに対し、
図7において破線で示すように、ビームフォーカシングを行うことで、超音波の集中させて上記広がりを抑制可能となる。なお、このビームフォーカシングについては、配管2の口径又は流体の音速等の情報をもとに事前に若しくは計測と並行して設定される。
このビームフォーカシングによって、超音波流量計1では、超音波が集中することで受信側での音響強度が高くなり、S/Nが高まることから、ビームステアリングのみを行う場合に対して流量計測の精度が向上する。
【0053】
また、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2として、PMUTではなく、PZT等を用いた通常の超音波素子を2つ並べたものを使用してもよい。これにより、超音波流量計1では、感度が高い超音波素子を使うことでS/Nが良くなり、流量計測の精度が高まる。
【0054】
また、第1の受信部12-1及び第2の受信部12-2として、PMUTによるフェーズドアレイ構成としたものを用いてもよい。これにより、超音波流量計1では、フェーズドアレイにより目的としない方向からの超音波の影響を受信信号から排除することができるため、S/Nが高まり、流量計測の精度が高まる。
【0055】
以上のように、この実施の形態1によれば、超音波流量計1は、超音波を送信する送信部11と、送信部11に対して対向配置され、当該送信部11により送信された超音波を受信する複数の受信部12と、受信部12による受信結果に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出し、当該算出した出射調整方向から配管2における流体の流量を算出する演算部13とを備え、送信部11は、出射方向を演算部13により算出された出射調整方向に変更した上で、超音波の送信を行う。
また、実施の形態1によれば、演算部13は、受信部12毎に設けられ、当該受信部12による受信結果における代表値を検出する複数の代表値検出部1301と、代表値検出部1301により検出された代表値の差を算出する比較部1302と、比較部1302により算出された差に基づいて、送信部11における超音波の出射調整方向を算出する出射調整方向演算部1303と、出射調整方向演算部1303により算出された出射調整方向に基づいて、配管2における流体の流速を算出する流速演算部1304と、流速演算部1304により算出された流速に基づいて、配管2における流体の流量を算出する流量演算部1305とを備えた。
これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1は、従来に対し、より精度よく流量を計測可能となる。
【0056】
実施の形態2.
実施の形態1に係る超音波流量計1では、送信部11により送信される超音波の駆動方法については限定していないが、実施の形態2ではこの駆動方法について示す。
【0057】
実施の形態2における送信部11では、超音波として、バースト波を用いる。
【0058】
ここで、送信部11が、超音波として、連続波ではなく、バースト波を用いた場合での効果について説明する。
送信部11が超音波としてバースト波を用いた場合、連続波を用いた場合に対し、計測レートを下げることができ、消費電力を下げることができる。
また、送信部11が超音波としてバースト波を用いた場合、受信計測タイミングに制限を加えることができ、配管2内の流体を伝わる超音波と配管2等を伝わる超音波とを時間的に分離できるようになるため、連続波を用いた場合に対して流量計測の精度が高まる。以下、この点について
図8及び
図9を参照しながら説明する。
【0059】
ここで、例えば
図8に示すように、送信部11から受信部12に伝わる超音波には、配管2における流体を介して受信部12に伝わる流体伝播波以外に、配管2を介して受信部12に伝わる配管伝播波、及び、配管2外を介して受信部12に伝わる配管外伝播波が存在する。そのため、超音波流量計1では、この配管伝播波及び配管外伝播波による影響を無視できない場合、受信部12により受信された超音波から、上記流体伝播波を抽出することが望ましい。
なお、配管伝播波は、通常、流体伝播波に対し、振幅は大きく、早く受信部12に伝わる。また、配管外伝播波は、通常、流体伝播波に対し、振幅は小さく、遅く受信部12に伝わる。
【0060】
しかしながら、例えば
図9Aに示すように、超音波流量計1が超音波として連続波を用いた場合には、初回の計測においても、流体伝播波は配管伝播波と混ざってしまい分離できない。更に、2回目以降の計測では3つの波がすべて重なってしまう。そのため、このような波形から流体伝播波を抽出することは困難である。
これに対し、例えば
図9Bの上段に示すように、超音波流量計1が超音波としてバースト波を用いた場合には、流体伝播波が配管伝播波及び配管外伝播波と混ざってしまうことを回避できる。そのため、例えば
図9Bの下段に示すように、超音波流量計1では、例えば受信部12において、受信波形を時間的に切り分けることで、流体伝播波だけを抽出可能となる。
【0061】
以上のように、この実施の形態2によれば、送信部11は、超音波としてバースト波を送信する。これにより、実施の形態2に係る超音波流量計1は、実施の形態1に係る超音波流量計1に対し、配管伝播波又は配管外伝播波による影響が無視できない場合であっても、精度よく流量を算出可能となる。
【0062】
なお、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは各実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 超音波流量計
2 配管
11 送信部
12-1 第1の受信部
12-2 第2の受信部
13 演算部
1301-1 第1の代表値検出部
1301-2 第2の代表値検出部
1302 比較部
1303 出射調整方向演算部
1304 流速演算部
1305 流量演算部
1306 積分部
1307 出射調整方向算出部