(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126037
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】高熱伝導性焼結体、及びその製造方法、並びに、高熱伝導性焼結体を用いた複合材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/581 20060101AFI20240912BHJP
C04B 35/587 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C04B35/581
C04B35/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034157
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(57)【要約】
【課題】強度を高めることができるとともに、良好な切断性も併せ持ち、樹脂との複合材としたときの熱伝導率を効果的に向上させることができる、高熱伝導性焼結体、及びその製造方法、並びに、高熱伝導性焼結体を用いた複合材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高熱伝導性焼結体は、AlN、或いはSi
3N
4からなる高熱伝導性焼結体であって、棒状からなり、径が、0.3mm以上1.0mmの範囲内である、ことを特徴とする。本発明における複合材は、高熱伝導性焼結体と、所定厚の樹脂材と、を有し、複数の前記高熱伝導性焼結体が、前記樹脂材の表面から裏面にかけて貫通するように、前記樹脂材内に埋設されてなる、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN、或いはSi3N4からなる高熱伝導性焼結体であって、
棒状からなり、
径が、0.3mm以上1.0mmの範囲内である、
ことを特徴とする高熱伝導性焼結体。
【請求項2】
前記径は、0.5mm以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の高熱伝導性焼結体。
【請求項3】
前記高熱伝導性焼結体の表面粗さRaは、1μm以上10μm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の高熱伝導性焼結体。
【請求項4】
支点間距離を30mmとした3点曲げによる曲げ破壊荷重評価試験において、破壊荷重が、20gf以上である、ことを特徴とする請求項2に記載の高熱伝導性焼結体。
【請求項5】
長さが、20mm以上100mmの範囲内である、
ことを特徴とする請求項1に記載の高熱伝導性焼結体。
【請求項6】
請求項1に記載の高熱伝導性焼結体と、
所定厚の樹脂材と、を有し、
複数の前記高熱伝導性焼結体が、前記樹脂材の表面から裏面にかけて貫通するように、前記樹脂材内に埋設されてなる、
ことを特徴とする複合材。
【請求項7】
前記高熱伝導性焼結体が、前記樹脂材に圧入されて保持される、ことを特徴とする請求項6に記載の複合材。
【請求項8】
前記樹脂材には、複数の高熱伝導性フィラーが分散して埋設されている、ことを特徴とする請求項6に記載の複合材。
【請求項9】
AlN或いはSi3N4からなる粉末と、焼結助剤とを混合した原料から成形体を得る工程、
前記成形体を焼結する工程、
を経て、径が、0.3mm以上1.0mmの範囲内である棒状の焼結体を得る、
ことを特徴とする高熱伝導性焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の高熱伝導性焼結体の製造方法によって製造された高熱伝導性焼結体を用意する工程、
所定厚の樹脂材の表面から裏面にかけて複数の貫通孔を形成する工程、
前記高熱伝導性焼結体を前記貫通孔に圧入する工程、
前記樹脂材の表面及び裏面を研磨する工程、
を有することを特徴とする複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlNなどの高熱伝導性焼結体、及びその製造方法、並びに、高熱伝導性焼結体を用いた複合材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、AlNウィスカーに関する発明が開示されている。この発明によれば、樹脂材料との密着性が高いAlNウィスカー及びそれを用いた樹脂成形体を提供できるとしている。
【0003】
特許文献1によれば、AlNウィスカーの直径は、0.1μm以上50μm以下とされている(引用文献1の段落0027)。また、実施例では、直径1μm以上3μm以下で長さ200μm以上500μm以下のAlNウィスカーを作製したことが記載されている(引用文献1の段落0113)。
【0004】
AlNウィスカーは、高い熱伝導性と高い絶縁性を備えており、AlNウィスカーが樹脂を貫く樹脂成形体を形成でき、これにより熱伝導パスを形成できるとしている(引用文献1の段落0065、0066、
図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すAlNウィスカーは、径が非常に小さく、強度が低い。例えば、特許文献1の
図4に示すような樹脂成形体を作製するとき、樹脂に貫通孔を形成し、その貫通孔にAlNウィスカーを圧入できれば簡単な手法により樹脂成形体を作製できるが、AlNウィスカーは、強度が非常に低いために圧入の際に折れやすく、実際の製造は限られた手法となる。
【0007】
また、AlNウィスカーの製造方法は、CVD法であり生産性に課題がある。すなわち、AlNウィスカー及びそれを用いた樹脂成形体の製造費用は、非常に高価となり、現実的ではない。
【0008】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、強度を高めることができるとともに、良好な切断性も併せ持ち、樹脂との複合材としたときの熱伝導率を効果的に向上させることができる、高熱伝導性焼結体、及びその製造方法、並びに、高熱伝導性焼結体を用いた複合材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、AlN、或いはSi3N4からなる高熱伝導性焼結体であって、棒状からなり、径が、0.3mm以上1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【0010】
本発明では、前記径は、0.5mm以上であることが好ましい。また、本発明では、前記高熱伝導性焼結体の表面粗さRaは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、支点間距離を30mmとした3点曲げによる曲げ破壊荷重評価試験において、破壊荷重が、20gf以上であることが好ましい。また、本発明では、長さが、20mm以上100mmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明における複合材は、上記に記載の高熱伝導性焼結体と、所定厚の樹脂材と、を有し、複数の前記高熱伝導性焼結体が、前記樹脂材の表面から裏面にかけて貫通するように、前記樹脂材内に埋設されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記高熱伝導性焼結体が、前記樹脂材に圧入されて保持されることが好ましい。また、本発明では、前記樹脂材には、複数の高熱伝導性フィラーが分散して埋設されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明における高熱伝導性焼結体の製造方法は、AlN或いはSi3N4からなる粉末と、焼結助剤とを混合した原料から成形体を得る工程、前記成形体を焼結する工程、を経て、径が、0.3mm以上1.0mmの範囲内である棒状の焼結体を得る、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明における複合材の製造方法は、上記に記載の高熱伝導性焼結体の製造方法によって製造された高熱伝導性焼結体を用意する工程、所定厚の樹脂材の表面から裏面にかけて複数の貫通孔を形成する工程、前記高熱伝導性焼結体を前記貫通孔に圧入する工程、前記樹脂材の表面及び裏面を研磨する工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高熱伝導性焼結体によれば、強度を高めることができるとともに、良好な切断性も併せ持ち、樹脂との複合材としたときの熱伝導率を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施の形態における高熱伝導性焼結体の斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態における複合材の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、複合材を製造する際に使用する樹脂材の平面図であり、(b)は側面図である。
【
図4】
図4は、複合材を製造する中間工程を示す複合材の断面図である。
【
図5】
図5は、曲げ破壊荷重の実験方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方の数値を含む。
【0018】
<本発明に至る経緯>
電子機器の高性能化に伴い、半導体デバイスの高密度実装化が進むにつれ、発熱密度の増加など熱対策が大きな課題となっている。そこで、放熱性樹脂基板や放熱シート、放熱グリースなどの需要が急激に伸びている。
【0019】
従来において、これら放熱材料は、例えば、熱伝導性の低い高分子材料に、高熱伝導性フィラーを充填し熱伝導性を高めていた。しかしながら、高伝導性フィラーを緻密に充填しても、粒子界面の熱抵抗により、フィラー本来の熱伝導率に比べて、放熱材料の熱伝導率は、大幅に低下することがわかっている。
【0020】
このような課題を克服すべく、特許文献1では、AlNウィスカーを、樹脂材に埋め込み、このとき、樹脂材の厚み方向に貫くように配置することで、熱パスを形成し、熱伝導性を向上させることができるとしている。
【0021】
特許文献1では、AlNウィスカーをCVD法にて製造する。CVD法では生産性に問題が生じる。しかも製造されるAlNウィスカーは、その径が0.1μm~50μm程度であり、極細で強度が非常に低い。このため、樹脂材との複合材を形成する際に折れやすいなどの問題が生じる。例えば、樹脂材に貫通孔を形成して、この貫通孔にAlNファイバーを圧入できれば、簡単な手法で、複合材を形成できるが、AlNファイバーの強度が低すぎて、圧入することは不可能である。
【0022】
すなわち、AlNファイバーは、セラミック特有の脆性破壊を起こすため、アスペクト比が高くなるに従い、その強度は著しく低下し、成型加工時や熱による変形などにより破断が起こりやすいという問題があった。また、放熱シートや放熱基板などは、例えば、0.2mm以上の厚みが一般的であるが、上記課題のために、加工が困難であり、熱伝導率を効果的に向上させることができなかった。
【0023】
そこで、本発明者らは、上記課題を鑑み、鋭意研究の結果、強度を高めることができるとともに、良好な切断性も併せ持ち、樹脂との複合材としたときの熱伝導率を効果的に向上させることができる高熱伝導性焼結体を得るに至った。
【0024】
<本実施の形態における高熱伝導性焼結体について>
図1は、本実施の形態における高熱伝導性焼結体の斜視図である。
図1に示す高熱伝導性焼結体1は、断面が円形の棒状であり、高熱伝導性焼結体2は、断面が四角形の棒状であり、
図3は、断面が八角形の棒状である。本実施の形態において、断面形状を限定するものではない。
【0025】
本実施の形態では、各高熱伝導性焼結体1~3の径φ1は、0.3mm以上1.0mm以下の範囲内で調整される。ここで、「径φ1」は、高熱伝導性焼結体1のように断面が円形である場合は、直径を示し、高熱伝導性焼結体2、3のように断面が多角形である場合は、断面の中心を通って相対向する辺間の距離、或いは、断面の中心を通って相対向する辺と角との間の距離を指す。このように、径φ1を、0.3mm以上1.0mm以下に調整することで、強度を効果的に高くできるとともに切断加工性にも優れる。例えば、樹脂材に形成した貫通孔に、本実施の形態の高熱伝導性焼結体を圧入する際、強度が高いため折れにくく、また、圧入後、樹脂材の表裏面から突出する高熱伝導性焼結体を適切に切断することが可能である。
【0026】
本実施の形態では、径φは、0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。これにより、より効果的に、強度が高い高熱伝導性焼結体を得ることができ、ハンドリング性を高めることができる。
【0027】
本実施の形態における高熱伝導性焼結体1~3の表面粗さRaは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。表面粗さRaの調整により、高熱伝導性焼結体1~3の強度を保ちつつ、樹脂材5(
図2参照)との接着性を向上させることができる。表面粗さRaは、3μm以上5μm以下とすることがより好ましい。
【0028】
表面粗さRaの測定方法を限定するものでないが、例えば、JIS B 0601の触針法で測定する。
【0029】
本実施の形態における高熱伝導性焼結体1~3は、支点間距離を30mmとした3点曲げによる曲げ破壊荷重評価試験において、破壊荷重を、20gf以上、好ましくは、50gf以上、より好ましくは、55gf以上、さらに好ましくは、60gf以上にできる。例えば、シャープペンシルの芯の破壊荷重は、約60gf程度であるため、シャープペンシル(φ0.5mm、HB)の芯と同等以上の破壊荷重を得ることが可能である。
【0030】
本実施の形態における高熱伝導性焼結体の長さ寸法Lは、20mm以上100mm以下であることが好ましい。ハンドリング性を高めることができ、放熱シートや放熱基板などの厚さに応じて貫通する熱伝導パスを確実に形成できる。限定するものではないが、長さは、30mm以上80mm以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施の形態では、高熱伝導性焼結体のアスペクト比(長さL/径φ)は、限定するものではないが、20~300の範囲内であることが好ましい。また、アスペクト比は、30~160の範囲内であることがより好ましく、50~150の範囲内であることがさらに好ましい。本実施の形態では、径φ1を大きくできることで、アスペクト比を従来に比べて小さくでき、脆性破壊を抑制できる。
【0032】
本実施の形態における高熱伝導性焼結体は、AlN、或いは、Si3N4であることが好ましい。これらの高熱伝導性焼結体であれば、強度が高く、後加工にて樹脂材に高熱伝導性焼結体を挿入することが出来るなど高い汎用性を得ることができる。
【0033】
AlN、或いは、Si3N4の主成分は、XRDの定量分析で、90wt%以上99wt%以下であることが好ましい。また、残りの成分は、焼結助剤を構成する金属元素などである。また主成分は、93wt%以上97wt%の範囲であることがより好ましい。焼結助剤(金属元素)を一定量残留(例えば、3~4wt%)させることで、強度を高く保つことができる。残留した焼結助剤は、AlNやSi3N4の表層酸化物と結合して、焼結助剤の金属元素と化合物を形成する。例えば、AlNは、焼結助剤がY2O3であるとき、イットリウムアルミネート相を形成し、Si3N4はイットリウムシリケート相が形成される。なお、分析はXRDか、微量でXRDでは検出できないとき、XRFによる定量分析が可能である。
【0034】
<本実施の形態における複合体について>
図2は、本実施の形態における複合材10の断面図である。
図2に示すように、樹脂材5は、所定厚Tで形成される。限定されるものではないが、樹脂材5の厚さ寸法Tは、0.2mm以上5.0mm程度である。本実施の形態の高熱伝導性焼結体を用いた複合体であれば、樹脂材5の厚さ寸法Tが厚くても高い熱伝導性を保つことができ、例えば、厚さ寸法Tを、1.0mm以上5.0mm以下に設定でき、或いは、2.0mm以上5.0mm以下に設定できる。
【0035】
樹脂材5は、放熱シートや放熱基板などであり、材質としては、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂の別を問わない。限定されるものではないが、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などを例示できる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂などを例示できる。
【0036】
図2に示すように、樹脂材5には、表面5aから裏面5bにかけて、複数の高熱伝導性焼結体4が貫通すように埋設されている。したがって、高熱伝導性焼結体4は、樹脂材5の表面5a及び裏面5bに露出している。なお、高熱伝導性焼結体4の形状を限定するものではないが、
図1に示す高熱伝導性焼結体1~3から選択される2種以上を選択できる。
【0037】
このように、本実施の形態では、高熱伝導性焼結体4が樹脂材5の表面5a及び裏面5bに露出するため、高分子との粒界が無く高い熱伝導性が得られる。また、本実施の形態のように、複数の高熱伝導性焼結体4を、間隔をあけて樹脂材5に埋設することで、樹脂材5との接合面を増やすことができ、熱伝導パスを増やすことができるとともに、剥離などの欠陥が起こる可能性を低く抑え、さらに、熱による歪の影響も効果的に抑えることができる。
【0038】
また、放熱シートなどの柔軟性が求められる形態にも適切に対応することができる。また、本実施の形態では、高熱伝導性焼結体4を任意の長さ寸法に調整できるから、樹脂材5の厚さ寸法Tに応じて樹脂材5が確実に貫通するように配置できる。
【0039】
また、
図2では、複数の高熱伝導性焼結体4が、樹脂材5の全体にわたって、所定の間隔にて配置されるが、例えば、部分的に、本実施の形態の高熱伝導性焼結体4を配置して、選択的な熱伝導領域を形成することもでき、排熱利用などへの応用も期待できる。
【0040】
本実施の形態では、複数の高熱伝導性焼結体4を、樹脂材5に圧入して保持することができる。すなわち、樹脂材5には、表面5aから裏面5bに至る複数の貫通孔が形成されており、各貫通孔に、高熱伝導性焼結体4を圧入することで、簡単な方法で、高熱伝導性焼結体4を樹脂材5中に確実に保持できる。特に、本実施の形態では、高熱伝導性焼結体4の径φ1を大きくでき、強度を高くできるため、圧入の際、高熱伝導性焼結体4が折れるなどの不具合を抑制でき、熱伝導率が高い複合材10を、歩留まりよく製造できる。
【0041】
また、本実施の形態では、多数の高熱伝導性フィラーを、樹脂材5中に分散し埋設できる。これにより、熱伝導率を効果的に向上させることができる。高熱伝導性フィラーの材質を限定するものではないが、高熱伝導性焼結体4の材質に合わせることができる。よって、高熱伝導性焼結体4がAlNであれば、高熱伝導性フィラーもAlNを選択できる。
【0042】
図2では、高熱伝導性焼結体4は、樹脂材5の表面5aから裏面5bにわたって垂直方向に配置されるが、傾斜していてもよい。また、各高熱伝導性焼結体4の間は等間隔であっても等間隔でなくてもよく、各高熱伝導性焼結体4の径φ1は同じ大きさであっても異なっていてもよい。
【0043】
<本実施の形態の高熱伝導性焼結体の製造方法>
本実施の形態における高熱伝導性焼結体は、以下の工程を経て形成することができる。すなわち、AlN、或いはSi3N4からなる粉末と、焼結助剤とを混合した原料から成形体を得る工程と、成形体を焼結する工程、を有する。
【0044】
AlN、或いはSi3N4からなる粉末の平均粒径D50は、0.5μm~3μm程度であることが好ましい。焼結助剤の材質を限定するものではないが、例えば、Y2O3、CaO、CaCO3、SrCO3、BaCO3、La2O3、CeO2、PrO2、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Yb2O3等を例示できる。これらは、AlN、及びSi3N4の焼結助剤として適用できる。なお、Si3N4の焼結助剤として、MgOを用いることができる。
【0045】
AlN、或いはSi3N4からなる粉末と、焼結助剤とを、湿式混合後、乾燥処理を行う。焼結助剤として、Y2O3を用いた場合、限定するものではないが、Y2O3を約5wt%程度混ぜる。続いて、該原料から、押出成形にて、径φ1が、0.4mm~1.5mm程度の成形体を形成する。次の工程の焼結にて、約10%~30%程度(20%程度が中央値)の収縮が見込まれるため、それを見越して、径φ1を最終形態よりも多少大きく形成しておくことが好ましい。なお、押出成形とすることで、製造コストの低減を図ることができるが、押出成形以外であってもよい。例えば、CIM(射出成形)、金型プレス成型、スリップキャスト成型、ゴム型成型等であってもよい。
【0046】
本実施の形態では、上記にて形成した成形体を、窒素雰囲気下で、焼結する。このとき、焼結温度を、1500~2500℃の範囲内、焼結時間を2時間~10時間程度で調整する。また、大気圧にて焼結することができる。AlNを焼結する場合、還元焼結して粒界を減らし、熱伝導性を上げるために、カーボン質のセッター(容器)や、カーボンヒーターを使用することが好ましい。BNからなる治具を使用して、焼結時の反りや変形を抑えてもよい。
【0047】
これにより、径φ1が0.3~1.0mmの棒状からなる高熱伝導性焼結体を形成できる。上記のように成形体を押出成形で形成することで、成形体の形成→焼結を経て、所望の高熱伝導性焼結体を得ることができ好ましい。また、押出成形では、製造プロセスを少なくでき、製造効率を高めることができる。
【0048】
あるいは、上記した金型プレスに成形体を形成したとき、板状あるいはブロック状の成形体を焼結して得られた高熱伝導性焼結体を、0.3~1.0mmの径φ1を有する棒状に切断してもよい。なお、成形体の状態で、切断加工した後、焼結してもよい。ただし、寸法精度を高めるためには、焼結後の切断であることが好適である。
【0049】
<本実施の形態の複合材の製造方法>
本実施の形態では、例えば、
図3に示す樹脂材5を準備する。
図3に示すように、樹脂材5には、予め、表面5aから裏面5bに通じる複数の貫通孔6を形成する。このとき、貫通孔6の径φ2は、高熱伝導性焼結体4の径φ1と同等か、或いは、径φ1よりもやや小さくできる。そして、
図4に示すように、樹脂材5の各貫通孔6に、高熱伝導性焼結体4を圧入する。高熱伝導性焼結体4の長さは、樹脂材5の厚さ寸法以上であるため、高熱伝導性焼結体4は、少なくとも樹脂材5の表面5a或いは裏面5bのどちらか一方から突出する。そして、突出した高熱伝導性焼結体4を切断する。切断方法を限定するものではないが、例えば、研削砥石を用いることができる。
【0050】
さらに、高熱伝導性焼結体4と樹脂材5の貫通孔6との間の隙間を埋めるために、複合材10を真空チャンバ内に設置し、樹脂を真空含侵する。樹脂は、樹脂材5と同じ材質であっても違っていてもよいが、樹脂には、少なくともエポキシ樹脂を含むことが好ましい。そして、樹脂材5の表面5a及び裏面5bを平面研削及び研磨し、表面5a及び裏面5bに高熱伝導性焼結体4を露出させる。これにより、
図2に示す複合材10を得ることができる。
【0051】
例えば、樹脂材5に形成する貫通孔6の断面を円形で形成し、高熱伝導性焼結体には、
図1に示す断面が正方形の高熱伝導性焼結体2を用いる。このとき、高熱伝導性焼結体2の径φ1を、貫通孔6の径φ2と同程度にする。そして、高熱伝導性焼結体2を貫通孔6に圧入する。圧入の際、高熱伝導性焼結体2の側面が貫通孔6に対してどの向きであっても、高熱伝導性焼結体2を、貫通孔6にスムースに圧入できるととも、高熱伝導性焼結体2の角が貫通孔6の側壁に接触して、高熱伝導性焼結体2が貫通孔6から抜き出るのを防止できる。高熱伝導性焼結体2と樹脂材5の貫通孔6との間に隙間ができても、上記したように樹脂の含侵により隙間を埋めることが可能である。
【0052】
また、高熱伝導性焼結体4を樹脂材5に圧入する以外に、例えば、複数の高熱伝導性焼結体4を樹脂に含侵させ、樹脂に熱を加えて硬化させた後、樹脂材5の表面5a及び裏面5bを平面研削及び研磨して、表面5a及び裏面5bに複数の高熱伝導性焼結体4を露出させてもよい。
【実施例0053】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
<高熱伝導性焼結体の曲げ破壊荷重について>
実験では、
図1に示す断面が略正方形のAlNからなる高熱伝導性焼結体2を作製した。実験では、一辺の長さ(径φ1)が、0.3mm、0.5mm、1.0mmの高熱伝導性焼結体2を作製した。なお各高熱伝導性焼結体2の長さ寸法Lを、35mmに設定した。
また、三菱鉛筆(株)製のシャープ芯ユニHB(径φは0.5mm、長さは60mm)を参照例とした。
各サンプルは、それぞれ10個ずつ用意した。
【0055】
実験では、
図5に示す曲げ破壊荷重の測定装置20を用いた。
図5に示すように、測定装置20は、秤部21と、秤部21の表面に間隔をあけて配置された台22、23と、台22、23の上に設置された高熱伝導性焼結体4の中心位置を上面側から下方に向けて荷重を加える錘部24と、を有して構成される。
【0056】
図5に示すように、台22、23の間隔を、30mmに固定した。実験では、錘部24を徐々に大きくしていき、高熱伝導性焼結体4が破壊した時の荷重を、秤部21にて測定した。各サンプルの曲げ破壊荷重を10個ずつ、測定し、その平均値を求めた。その実験結果が以下の表1に示されている。
【0057】
【0058】
表1に示すように、径φ1を0.3mm以上1.0mmとすることで、曲げ破壊荷重を10gf以上にできることがわかった。
【0059】
また、従来に比べて、径φ1を0.3mmとした高熱伝導性焼結体は、強度を保つことができるが、必ずしも強度が十分でなくハンドリング性もやや劣るため、高熱伝導性焼結体の好ましい径φ1を、0.5mm以上1.0mm以下に設定した。なお、高熱伝導性焼結体の径φ1の上限であるが、1.0μmとした。これにより、
図4のように突出した高熱伝導性焼結体4を切断する際の加工性に優れ、
図2に示す複合材10を精度よく製造することが可能である。また、樹脂との接触(接着)面積を適度に確保でき、よって接着強度を十分に保つことができ抜け防止を図ることができる。すなわち、高熱伝導性焼結体の径φ1が大きくなると、樹脂材との間にできる隙間が大きくなりやすい。そこで、高熱伝導性焼結体の径φ1を1.0mm以下とすることで、樹脂材との間で隙間が広がることを抑制でき、高い接着強度を保つことができる。
【0060】
なお、表1に示すAlNからなる高熱伝導性焼結体の表面粗さRaは、約3.2μm(平均値)であった。なお、各焼結体の表面粗さRaは、2.8~3.5μm程度であった。また、表面粗さRaは、JIS B 0601の触針法で測定した。また、高熱伝導性焼結体を、XRD(Rigaku製 MinFlex 600―C)にて測定し、PDXLにて積分強度比による定量分析したところ、主組成(AlN)は、95wt%であった。
【0061】
<複合材における熱伝導率の評価試験>
次に、実施例1~実施例6、及び比較例1、2からなる複合材を作製した。各実験例で使用した樹脂材やフィラー(フィラー有の場合)は以下の通りである。
樹脂材の形状:φ10mm×2.5mmのコイン状のエポキシ樹脂製のブロック
混錬フィラー:AlNフィラーD50=1μm((株)燃焼合成製:AN-HF01LG-HT)を50vol%
【0062】
樹脂材には、68ヶ所或いは26ヶ所に貫通孔(丸穴)が空いており、実施例では、各貫通孔に、表1で作製した焼結体を圧入して複合材を得た。以下に実施例1~実施例6、及び比較例1、2の具体的な構成を以下に示す。
実施例1:フィラー無 焼結体□0.3mm(68ヶ所 丸穴φ0.4mm)
実施例2:フィラー有 焼結体□0.3mm(68ヶ所 丸穴φ0.4mm)
実施例3:フィラー無 焼結体□0.5mm(68ヶ所 丸穴φ0.7mm)
実施例4:フィラー有 焼結体□0.5mm(68ヶ所 丸穴φ0.7mm)
実施例5:フィラー無 焼結体□1.0mm(26ヶ所 丸穴φ1.4mm)
実施例6:フィラー有 焼結体□1.0mm(26ヶ所 丸穴φ1.4mm)
比較例1:フィラー無 焼結体無
比較例2:フィラー有 焼結体無
【0063】
実験では、密度、比熱、及び熱伝導率を以下の装置を用いて測定した。
密度測定装置:QURNTACHROME INSTRUMENTS社製 ウルトラピクノメータ 1000型
熱伝導率及び比熱測定装置:アドバンス理工製 全自動レーザーフラッシュ法熱定数 TC-7000
実験結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表2に示すように、実施例1~6では、いずれも比較例1、2に比べて飛躍的に熱伝導率を高めることができた。また、フィラーを加えた実施例2、4、6は、フィラー無しの実施例1、3、5に比べて、熱伝導率を高くできることがわかった。