(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126040
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】飼料又は飼料用組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 10/30 20160101AFI20240912BHJP
A23K 50/75 20160101ALI20240912BHJP
A23K 10/38 20160101ALI20240912BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K50/75
A23K10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034162
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】595093474
【氏名又は名称】日本振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096758
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100114845
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 雅和
(74)【代理人】
【識別番号】100148781
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁久
(72)【発明者】
【氏名】白木 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】松川 哲也
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005DA05
2B150AA05
2B150AB05
2B150CC04
2B150CC08
2B150CE23
2B150CE25
2B150DD32
2B150DD42
2B150DD57
(57)【要約】
【課題】本発明は、品質が向上された鴨肉を提供すること、またそのための飼料や育成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】含むチンピ又は相当する素材・組成物と、醤油粕及び/又は酒粕、さらにはソヨウ、サンショウ、トチュウ、ウコンのいずれか1種以上をさらに含む飼料または飼料用組成物として構成することからなる。また、チンピ、ソヨウ、サンショウ、トチュウ(又はこれらに相当する素材・組成物)の2種以上を含んで構成すること、さらに、醤油粕及び/又は酒粕、さらにはウコンを含む飼料または飼料用組成物として構成することからなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チンピ、ミカン属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物と、
醤油粕及び/又は酒粕を含むことを特徴とする、鴨属に給餌可能な飼料又は飼料用組成物。
【請求項2】
ソヨウ、シソ属の植物の葉、又はこれらの抽出物からなる組成物、
生薬であるサンショウ、サンショウ属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、
トチュウ属の植物の葉または樹皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、
のいずれか1種以上をさらに含む、請求項1に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項3】
生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含む、請求項1に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項4】
生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含む、請求項2に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の飼料又は飼料用組成物を
鴨属に与えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法により育成された鴨属の部位からなる食用の鴨肉。
【請求項7】
チンピ、ミカン属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、
ソヨウ、シソ属の植物の葉、又はこれらの抽出物からなる組成物、
生薬であるサンショウ、サンショウ属の植物の葉または果皮と、又はこれらの抽出物からなる組成物、
トチュウ属の植物の葉または樹皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、
の少なくとも2種以上を含む、鴨属に給餌可能な飼料又は飼料用組成物。
【請求項8】
酒粕及び/又は醤油粕をさらに含む、請求項7に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項9】
生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含む、請求項7に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項10】
生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含む、請求項8に記載の飼料又は飼料用組成物。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載の飼料又は飼料用組成物を
鴨属に与えることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により育成された鴨属の部位からなる食用の鴨肉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料又は飼料用組成物に関する。より詳細には、鴨属に給餌可能な飼料又は飼料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く食用に利用されている鴨肉だが、明治維新前の日本では肉食が一般的ではないなか、古くから食用された数少ない動物のひとつである。しかしながら、鴨肉は獣臭が強いため、鴨鍋や、すき焼き、鴨南蛮など鍋料理で使用されることが多く、ネギやセリと一緒に煮ることで煮て臭みを取ることが多い。
【0003】
また、鴨に関しては、「飼育鴨」を養殖して食用にすることが多く、鴨肉として流通しているものの多くは、マガモを家禽化したアヒルの肉、またはマガモとアヒルを交配させた合鴨(アイガモ)である。
【0004】
鴨肉は肉質の固さを忌避する者がいるほか、鶏肉、牛肉および豚肉と比して強い肉の獣臭さが苦手という意見も多く、好みが分かれる要因にもなっている。しかし、鴨は鶏、牛、豚と比して研究は少なく未だ育成や飼料、品質には改善の余地がある。また、鴨肉は輸入が殆どを占めるが、食料安全保障や食料多様性を考慮すると、牛肉等と同様に国産の高品質な鴨肉を提供することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、品質が向上された鴨肉を提供すること、またそのための飼料や育成方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、チンピ、ミカン属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物と、醤油粕及び/又は酒粕を含むことを特徴とする、鴨属に給餌可能な飼料又は飼料用組成物からなる。
【0007】
また、ソヨウ、シソ属の植物の葉、又はこれらの抽出物からなる組成物、生薬であるサンショウ、サンショウ属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、トチュウ属の植物の葉または樹皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、のいずれか1種以上をさらに含むことが好適である。また、生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含むことが好適である。
【0008】
さらに、本発明は、チンピ、ミカン属の植物の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、ソヨウ、シソ属の植物の葉、又はこれらの抽出物からなる組成物、生薬であるサンショウ、サンショウ属の植物の葉または果皮と、又はこれらの抽出物からなる組成物、トチュウ属の植物の葉または樹皮、又はこれらの抽出物からなる組成物、の少なくとも2種以上を含む、鴨属に給餌可能な飼料又は飼料用組成物からなる。また、酒粕及び/又は醤油粕、または生薬であるウコン、ウコン属の植物の根茎、又はこれらの抽出物からなる組成物をさらに含むことが好適である。
【0009】
さらに、本発明は、上記飼料又は飼料用組成物を鴨属に与えることを特徴とする方法からなり、当該方法により育成された鴨属の部位からなる食用の鴨肉からなる。
【0010】
本発明者は、鴨の肥育時の飼料を変えることにより、鴨肉の長所を保持したまま、鴨肉の獣臭さを含めた肉質がどの様に変化するかを明らかにすることで、高品質で消費者の嗜好にあった鴨肉を開発できる可能性があると考えた。選択肢として、薬草及び未使用資源に着目し、肥育上の課題を解決できる薬草を選定し、それら薬草(又は相当する植物成分)と、他の未使用資源から処方を検討し、本発明の構成に至った。
【0011】
また、研究の結果、鴨肉特有の香気成分が、ノナナールに起因している可能性が高いことを見出した。さらに、ノナナールの由来を明らかにするため、鴨肉を皮下脂肪とロース部分に分け、それぞれの香気成分をGCにより分析したところ、主にロース部分由来であることがわかった。ノナナールは鴨の体内で脂肪酸の代謝物として生合成されるため、本発明の飼料の給餌が脂肪酸代謝に影響を及ぼした結果、ノナナールの減少が引き起こされたと考えられる。
【0012】
本発明において「鴨属」は鳥綱カモ目カモ科のマガモ属の鴨を意味し、マガモ、カルガモ、アヒル等を含む。日本では「アイガモ」が食用に供されることが多いが、「アイガモ」はマガモとアヒルとの交雑交配種であるところ、アヒルはマガモを品種改良した家禽品種であり、生物学的にはマガモの1品種であるから、アイガモもマガモ属の一種となる。本発明の飼料及び鴨肉は、マガモ属の鴨に適用可能であるところ、食用に品種改良されたアイガモにおいては、高級食材として顕著な効果がある。
【0013】
本発明に利用されるチンピ(陳皮)は、漢方薬及び生薬として用いられ、ウンシュウミカン又はマンダリンオレンジの成熟した果皮と定義される。漢方では芳香性健胃、鎮咳薬として、食欲不振、嘔吐、疼痛などに対して用いられる。チンピは精油成分としてリモネンを多く含むが、香り成分であるリモネンが鴨肉に蓄積されることで、肉の香気に影響を及ぼすことが見出された。この点において、本発明では生薬としての各種効果を期待できるチンピの使用が望ましいが、未成熟の青い皮を乾燥させた青皮、オレンジ色に熟れた皮を乾燥させた橘皮も使用可能である。また、代替としてリモネンを多く含むミカン属の植物の葉または果皮を使用することが可能である。また、これらから抽出された抽出物(リモネン等)などを使用することができる。ミカン属は、ムクロジ目ミカン科の属(学名:Citrus)であり、イヨカン、ウンシュウミカン、オレンジ、カボス、キシュウミカン、キノット、グレープフルーツ、コウジ、サンボウカン、シトロン、ジャバラ、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンゴール、ナツダイダイ(ナツミカン)、ハッサク、ハナユズ、ヒュウガナツ、ヒラミレモン(シークヮーサー)、ブンタン、ポンカン(マンダリンオレンジ)、ユズ、ライム、レモン、クレメンタイン等が含まれる。
【0014】
生薬であるソヨウ(蘇葉)は、シソ科シソの葉および枝先であり、発汗作用、胃液分泌の促進作用、胃腸の働きをよくする作用、鎮静(精神安定)効果などが知られ、鴨の落ち着いた行動に反映されることが見出された。精油成分としてぺリルアルデヒド及びリモネンを含んでおり、チンピと同様の効果も期待できるほか、他の薬草との相性が良い。代替として、シソ属の植物の葉、又はこれらの抽出物からなる組成物を採用できる。シソ属の食用にする葉の色により赤ジソと、その変種の青ジソがあり、大葉は青ジソの別名である。シソ属にはチリメンジソ、マダラジソ、アカジソ、アオジソ、カタメンジソ、チリメンアオジソ等が含まれる。
【0015】
生薬であるサンショウ(山椒)は、サンショウの成熟した果皮で,果皮から分離した種子をできるだけ除いたものである。サンショオールなどの成分を含み、血流改善、健胃,整腸,駆風,止痛,駆虫などの作用があるとされ,食欲不振,胃下垂,消化不良,回虫駆除などに用いられる。山椒の辛味の刺激が、内臓を活性化し、芳香成分が消臭に役立っている。葉にも独特な香りを有し、香辛料として使われる場合がある。したがって、サンショウ属の葉または果皮、又はこれらの抽出物からなる組成物を採用できる。サンショウ属には、サンショウ、アサクラザンショウ、ヤマアサクラザンショウ、リュウジンザンショウ、ブドウザンショウ、タカハラサンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、イワザンショウ、カホクザンショウ、テリハサンショウ、フユザンショウ等が含まれる。
【0016】
トチュウ(杜仲、トチュウ属)は、古くからその葉がお茶として利用され、滋養強壮、高血圧予防、血栓予防、血中脂質や内臓脂肪蓄積の抑制、コレステロール低下、心臓や肝臓などの負担の軽減し、血行障害等に効果があるとされる。樹皮も生薬として利用されており、滋養強壮、肝機能・腎機能の強化、高血圧等に効果があるとされる。水溶性成分が多い点で、本発明の他の薬草成分と異なる部位等への効果を狙い、鴨の健康的育成に効果があり、肉質に好影響を与える。
【0017】
生薬であるウコンは、ウコンの根茎をそのまま又はコルク層を除いたものを,通例,湯通ししたものをいい、秋ウコン(鬱金)、春ウコン(姜黄)、紫ウコン(莪朮)を含む。精油成分に健胃作用、肝臓機能の回復、動脈硬化の予防、抗菌等が効能として挙げられ、消化機能を介して消臭に役立っている。
【0018】
醤油粕は、醤油の製造過程において、もろみを圧搾した後に残る副産物である。醤油粕は有効な利用法が少ないとされ、産業廃棄物として破棄している場合も少なくない。しかしながら、醤油粕は、食物繊維を多く含み、かつ発酵物であることのほか、大豆由来の脂肪分、ビタミンE、ビタミンK、イソフラボン類など機能性成分を含んでおり、内臓機能の活性化をもたらし、結果として鳥類特有の糞尿の悪臭抑制につながったものと推測された。したがって、チンピをはじめその他本発明で使用する生薬の機能との相乗効果性が高い。
【0019】
酒粕は、日本酒などの製造工程において、もろみを圧搾した後に残る白色の副産物のことである。形状や工程に応じて板粕、ばら粕、練り粕、踏込み粕、成形粕などの種類がある。酒粕は、食物繊維を多く含み、かつ発酵物であることのほか、たんぱく質、各種ビタミンなど機能性成分を含んでおり、内臓機能の活性化をもたらし、結果として鳥類特有の糞尿の悪臭抑制につながったものと推測された。したがって、チンピをはじめその他本発明で使用する生薬の機能との相乗効果性が高い。
【0020】
そこで、本発明においては、好ましくはリモネンを多く含むチンピ又は相当する素材・組成物と、醤油粕及び/又は酒粕、さらにはソヨウ、サンショウ、トチュウ、ウコン(又はこれらに相当する素材・組成物)のいずれか1種以上をさらに含む飼料または飼料用組成物として構成することができる。
【0021】
さらに、本発明は、チンピ、ソヨウ、サンショウ、トチュウ(又はこれらに相当する素材・組成物)の2種以上を含んで構成することができる。さらに、醤油粕及び/又は酒粕、さらにはウコン(又はこれらに相当する素材・組成物)を含む飼料または飼料用組成物として構成することが好ましい。
【0022】
給餌方法としては、上記の成分の混合物と、主飼料として穀物を含んだ成分を配合・混合し、鴨に与える。または、既知の飼料に対し、本発明の飼料を添加する形で混合して又は別々に鴨に与える。また、飼料用組成物は、固形状・液体状を問わず鴨に経口で給餌可能なあらゆる形態を含む概念である。鴨は60~70日前後で成鳥と同等の大きさまで成長する(食肉提供に適する状態になる)ところ、本発明はヒナ用の餌または成鳥用の餌いずれにも適用可能であるが、成鳥用の餌として又は成鳥用の餌に含有/混合して給餌することが好ましい。給餌期間は問わないが、ふ化後20日程度が経過し成鳥用の餌の給餌が始まってから10日以上、望ましくは30日以上継続的に給餌する。生産効率を考慮すると、固形の飼料素材を適当な大きさに切断・粉砕して混合した混合物であることが好ましいが、ヒナ用の場合は消化のためパウダー状・液体状等にすることが好ましい。また、本発明は専ら鴨属において特に顕著な効果が生じるように構成されているが、他の家禽に給餌することを排するものではない。
【0023】
本発明の飼料または飼料用が与えられた鴨の鴨肉は、肉質が柔らかくジューシーで、独特の獣臭が十分に低減されており、かつ香りが良く、これまでにない高級な品質の鴨肉として提供することが可能になる。なお、本発明の(飼育)方法により育成された鴨の肉質は、鴨の個体差や部位差、種族差があること、主飼料として使用される穀物類や添加物の相違から肉成分として規定することは困難である一方、地理的表示保護制度の食肉に係る登録例にあるように、育成方法により対象を規定及び判別することは食肉分野においてむしろ一般的である。
【0024】
本発明の飼料はその効果が高いが故に、むしろ低用量の方が高品質な食肉提供には適しているという知見が得られた(ただし高用量でも十分な効果がある。)。詳細には、穀物類と混合薬草(本発明の飼料から醤油粕・酒粕を除いた薬草・生薬成分)の重量比が2:1~20:1、さらには5:1~15:1程度であること、混合薬草に対して醤油粕・酒粕(重量)が2倍~20倍程度、さらには10~15倍程度であること、穀物類と醤油粕・酒粕を含めた飼料との比(重量)がほぼ同量(±20%)程度であることは、総合的な肉の美味しさに対してより好ましい効果を奏すると解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】実験2の食味による結果(雌雄による食味の相違)を示す図である。
【
図3】実験1の鴨ロース肉の外観評価を示す図である。
【
図5】給餌による鴨肉中のノナナールの変化を示す図である。
【
図6】GC-MSによる香気成分の個体間変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実験1
1.実験材料
被検飼料の材料として、薬草、醤油粕を用いた。薬草は福田商店(奈良県桜井市)から購入したソヨウ(和歌山県産)、トチュウ葉(奈良県産)、秋ウコン(宮崎県産)、サンショウ(和歌山県産)およびチンピ(和歌山県産)を、醤油粕は株式会社 角長(和歌山県湯浅町)から供与されたものを、また、固形飼料は合鴨B(日和産業株式会社)を用いた。合鴨Bは、穀類53%(マイロ、とうもろこし、(大麦))、植物性油かす類22%(大豆油かす、なたね油かす)、そうこう類15%(ふすま、米ぬか油かす)、動物質性飼料5%(魚粉)、その他5%(炭酸カルシウム、食塩、無水ケイ酸、ユッカエキス、酵素処理ヤシ油粕、唐辛子、飼料用酵母、着香料、枯草菌、(デキストリン)、(リン酸カルシウム))からなる市販飼料である。
【0027】
2.実験用合鴨
実験には合鴨(チェリバレー種、すべて雌)を用いた。実験期間中は近畿大学附属農場生石農場の鴨舎内で体重計測の管理や行動異常の有無を確認しながら肥育した。
【0028】
3.給餌方法本発明給餌群(高用量および低用量)および対照群の3群を設けた。本発明給餌群は、固形飼料に細切した5種の薬草および醤油粕を表1の割合(2,010g/day/4羽)で混合し、餌箱に入れ生後22日から46日間給餌した(自由摂食)。一方、対照群は固形飼料を給餌した(自由摂食)。また、薬草給餌群飲料に梅エキス1%(w/v)を加えた。
【0029】
【0030】
4.屠畜方法およびサンプリング
兵庫県にある鴨専門の屠畜場にて屠殺・解体した合鴨から、ロース肉、モモ肉およびササミ肉をサンプリングした。サンプリングした肉は個体ごとに真空パックし、肉質評価時まで-18℃以下の冷凍庫で保存した。
【0031】
5.食味による評価
テスター22名(20~70代、男女)で実施した。サンプリングして得た合鴨のロース肉およびモモ肉のスライスをホットプレートで加熱し、それらを食して評価した。食味の評価方法は総合的な美味しさを指標に検討した。なお、評価法については、対照群のロース肉およびモモ肉の美味しさを1点とし、本発明給餌群の各肉を-2~5点の8段階評価した。
【0032】
実験2
1.実験材料
被検飼料の材料として、薬草、醤油粕、酒粕を用いた。薬草は福田商店(奈良県桜井市)から購入したソヨウ(和歌山県産)、トチュウ葉(奈良県産)、秋ウコン(宮崎県産)、サンショウ(和歌山県産)およびチンピ(和歌山県産)を用いた。醤油粕は株式会社 角長(和歌山県湯浅町)から供与されたものを用い、酒粕は近大酒製造時の副産物として取り出されたものを用いた。また、固形飼料は合鴨Bを用いた。
【0033】
2.実験用合鴨
実験には合鴨(チェリバレー種)を供した。雌雄の性差による肉質の差異を検討する目的で、雌雄の本発明給餌群を設けた。なお、今回の対照には雌の合鴨を用いた。また、実験期間中は近畿大学附属農場生石農場の鴨舎内で体重計測の管理や行動異常の有無を確認しながら肥育した。
【0034】
3.給餌方法
本発明給餌群(雌雄)および対照群の3群を設けた。本発明給餌群は、固形飼料に細切した5種の薬草、醤油粕及び酒粕を表2の割合(2,024g/day/4羽)で混合し、餌箱に入れ、生後22日から46日間給餌した(自由摂食)。対照群は固形飼料を給餌した(自由摂食)。また、薬草給餌群飲料に梅エキス1%(w/v)を加えた。
【0035】
【0036】
4.屠畜方法およびサンプリング
兵庫県にある鴨専門の屠畜場にて屠殺・解体した合鴨からロース肉およびモモ肉をサンプリングし、各被検肉を約7mmの厚さでスライスした。スライスした肉は個体ごとに真空パックし、肉質評価時まで-18℃以下の冷凍庫で保存した。
【0037】
5.食味による評価
テスター26名(20~80代、男女)に、本発明給餌肥育合鴨(雌および雄)および慣行肥育合鴨(対照;雌)のロース肉およびモモ肉のスライスをホットプレートで加熱し、それらを食して評価した。食味の評価方法は総合的な美味しさを指標に検討した。なお、評価法については、ブラインド下で実施し、普通に美味しいと感じたものを評点5として、不味いもの(評点0)→普通(評点5)→最高に美味しい(評点10)として評価した。
【0038】
結果
合鴨に被検飼料を自由摂取させたところ、今回実験に供したいずれの合鴨も被検飼料を能動的に摂食したことから、被検飼料に用いた材料が合鴨の嗜好性に合致していると考えられた。また、合鴨肥育時に体重や行動量の増減を測定・調査したところ、対照群の合鴨と比して本発明給餌群の合鴨は体重の増減、異常行動を含め行動量の変化は認められなかった。むしろ、本発明給餌群の合鴨は終始落ち着いた様子であったことが印象深く、肥育中盤以降の体重増加および神経質により暴れることで生じやすい足の怪我を防ぐ意味合いでも有効と思われた。これについては、鎮静(精神安定)効果をもつソヨウを配合しているため、過剰に神経質になることを防いだと推察された。
【0039】
対照群の合鴨と比して本発明給餌群の合鴨の糞尿の臭いが抑えられていた。全給餌量のおよそ1/2~1/3量が本発明の飼料(血流向上、胃薬、肝機能向上、血液サラサラ効果を有する薬草もしくは醤油粕(発酵物))であることが内臓機能の活性化をもたらし、結果として鴨特有の糞尿の悪臭抑制につながったものと予想される。
【0040】
実験1の食味による結果は
図1のごとく、ロース肉、モモ肉とも対照群のスコアを1としたとき、低用量給餌群のスコアはそれぞれ4.0±0.2(ロース肉)、3.7±0.3(モモ肉)となり、対照群よりも美味しいという評価が得られた。さらに、給餌量のちがいによる食味のちがいを比較したところ、ロース肉、モモ肉ともに低用量給餌の方がさらに美味しいという評価が得られた。
【0041】
美味しさの理由についてアンケート調査も併せて行ったところ(実験1)、対照群の肉質は硬く、パサつく傾向にあり、かつ獣臭いとあった。一方、本発明を給餌することで、肉質が柔らかく、その臭みが軽減し、さらに甘みも増しているというコメントがあった。また、本発明の飼料の給餌量による差異については、ロース肉、モモ肉とも高用量給餌に比べ、低用量給餌の方が美味しいという結果であった。これらのコメントから対照の合鴨肉より、ロース肉、モモ肉ともに本発明の飼料の給餌の合鴨肉が美味しくなったことが確認された。さらに、給餌量に最適な量があることも示唆された。
【0042】
実験2の食味によるの結果は
図2のごとく、ロース肉、モモ肉とも慣行肥育群の食味スコアよりも本発明給餌群(雌雄共)のスコアの方が美味しいという評価が得られた。さらに、合鴨肉の雌雄による肉質の差異について、本発明給餌群食味スコアを比較したが、雌雄による有意な差は認められなかった。
【0043】
本発明給餌による美味しさの理由についてアンケート調査も併せて行ったところ(実験2)、対照群の肉質は硬く、パサつく傾向にあり、かつ獣臭いとあった。本発明を給餌することで、肉質が柔らかく、その臭みが軽減し、さらに甘みも増しているというコメントがあった。また、雌雄による肉質の差異についても検討したところ、ロース肉では若干、雄の食味スコアが雌の食味スコアよりも低かったが有意な差は認められなかった。モモ肉についても同様、雌雄による食味の差は認められなかった。
【0044】
したがって、合鴨に薬草の給餌、及び/又は、醤油粕および/又は酒粕の混合飼料を給餌することで、鴨肉の食味が向上し、かつ、雌雄による差異はなく、美味しい鴨肉に仕上がることが明らかになった。すなわち、上記複数の薬草の組み合わせ又は薬草と醤油粕・酒粕の組み合わせが相乗的な効果を奏するほか、穀物類と混合薬草(本発明の薬草・生薬成分から醤油粕・酒粕を除いたもの)の重量比が2:1~20:1、さらには5:1~15:1程度であること、混合薬草に対して醤油粕・酒粕(重量)が2倍~20倍程度、さらには10~15倍程度であること、穀物類と醤油粕・酒粕を含めた飼料との比(重量)がほぼ同量(±20%)程度であること、又は全給餌量のおよそ1/2~1/3量が本発明の飼料であることは、総合的な肉の美味しさに対してより好ましい効果を奏すると解される。
【0045】
さらに、理化学分析による評価を下記に示す。
1.理化学分析用サンプルの調製
実験材料は実験1で使用した素材を夫々採用した。一般的にロース肉部分を肉質評価に用いることから、理化学的分析には合鴨のロース肉を使用した。分析前日に冷凍(-30℃)保存した合鴨肉を4℃の冷蔵庫に移動し、一晩(14~18時間)かけて解凍した。
【0046】
1)外観評価方法
ロース断面が見えるよう包丁で5mm程度にスライスし、スキャナで外観を撮影した。肉色、脂肪色比較用のポークカラースタンダード(PCS)、ポークファットスタンダード(PFS)を同時に撮影した。
【0047】
2)色差の測定
ロース断面の赤み部分の色(以後、肉色と記す)と内層脂肪(いわゆる、脂身の部分)の色を分光測色計(CM-2500d、コニカミノルタ)で測定した。評価法はロース肉スライスで3ヶ所測定し、それらの平均値を色差とした。
【0048】
3)香気成分の分析
サンプルから皮下脂肪とロース肉を凍ったまま、約3g(±0.5g)を切りとった。包丁でミンチにした後、飽和食塩水3mLを加え、密閉した。密閉後の試料を70℃で45分加熱した後、SPME-GCMS法により香気成分の分析を行った。ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)には島津製GCMS-QP2010untraを、カラムにはRtx-5MSを用いた。SPMEファイバーはDVB/CBX/PDSを用い、70℃で60秒間吸着させた。イオン化は70eVで行い、スキャン範囲はm/z85で行った。
GC用サンプル;ロース、皮下脂肪をそれぞれミンチにし、20mLバイアル瓶に入れ、飽和食塩水3mLを加えた。RCC18活性炭を針先にセットした後、ゴム栓にさし、密閉した。マイクロミキサーで撹拌させながら75℃で45分間処理した後、香気成分を活性炭に吸着した。取り出したRCC18活性炭を1.5 mLバイアル瓶にいれ、200μLのn-ヘキサンで溶出した。GCは島津製GC-2014を用いた。
【0049】
結果
1.外観評価
対照群と低用量給餌群に比べ、高用量給餌群では皮下脂肪の厚さが薄くなっていた(痩身効果が高いためと考えられる)が、低用量給餌群においてはそのような現象は見られなかった(
図3)。また、肉色、脂肪色には大きな差異は認められなかった。
【0050】
2.色差
いずれの実験も給餌により赤身に影響はなく、むしろ黄色い色味が用量依存的に減少する傾向がみられたものの、外観評価で人の目でわかるほど色は変化しておらず、給餌による肉質のちがいが色差上判定できる変化はないと考えられた。
【0051】
3.香気成分の分析
鴨肉らしさを示す香気成分を探索するため、ガスクロマトグラフ(GC)により牛、豚のロース肉と比較した。牛と豚は非常に良く似た香気成分のプロファイルを示したのに対し、鴨肉は特有のパターンを示した。その結果、ノナナールがその特長香気成分のひとつであることがわかった(
図4)。
【0052】
さらに、これら鴨肉特有の香気成分(ノナナール)の由来を明らかにするため、鴨肉を皮下脂肪とロース部分に分け、それぞれの香気成分をGCにより分析した。その結果、ロース部分由来であることがわかった(
図5)。
【0053】
皮下脂肪とロース部分のミンチについてGC-MSを用いて香気分析を行った。個体間変動を見たところ、リモネンは対照群で全く検出されなかった。本発明の飼料を給餌するとリモネンが用量依存的に増加した。一方、ノナナールは対照群で多く、本発明給餌群では減少した(
図6)。
【0054】
上述の通り、鴨と他の畜種との香気成分を比較したところ、鴨肉特有の香気成分であるノナナールを見いだした。ノナナールは本発明の飼料の給餌により減少することがわかった。ノナナールは餌由来成分でもあろうが、鴨の体内でも脂肪酸の代謝物として生合成されるため、本発明の飼料の給餌が脂肪酸代謝に影響を及ぼした結果、ノナナールの減少が引き起こされたと考えられる。さらに、本発明の飼料を給餌することで、対照群には見られないリモネンが検出されたが、リモネンはチンピやサンショウなどのミカン属植物及びその生薬に多く含まれる芳香性精油成分であり、鴨肉に蓄積されることで、肉の香気成分に好影響を及ぼしたと考えられる。したがって、本発明は鴨肉中のノナナール低減方法、含有リモネン増加方法、旨味増加方法でもある。
【0055】
そして、本発明の飼料の原料は国内でも十分に調達可能であり、かつ未利用資源(酒粕・醤油粕)を含んでいることから、地産地消・廃棄物削減・食料安全保障・地域ブランド化などの目的にも沿うものである。