IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カシオ計算機株式会社の特許一覧

特開2024-126042印刷装置、印刷制御方法及びプログラム
<>
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図1
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図2
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図3
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図4
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図5
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図6
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図7
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図8
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図9
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図10
  • 特開-印刷装置、印刷制御方法及びプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126042
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】印刷装置、印刷制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A45D 29/00 20060101AFI20240912BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A45D29/00
B41J2/01 109
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034169
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 修一
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB38
2C056EC43
2C056EC73
2C056EE18
2C056FD20
2C056KC01
(57)【要約】
【課題】安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させる。
【解決手段】印刷装置は、インクが充填されたカートリッジ(インクカートリッジ)を格納する格納部と、格納部に格納されたカートリッジのインクを使用して印刷対象に印刷を行う印刷部(ノズル)と、印刷部が単位面積当たりにインクを吐出する回数である吐出回数を、カートリッジを格納部に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する制御部と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが充填されたカートリッジを格納する格納部と、
前記格納部に格納された前記カートリッジの前記インクを使用して印刷対象に印刷を行う印刷部と、
前記印刷部が単位面積当たりに前記インクを吐出する回数である吐出回数を、前記カートリッジを前記格納部に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する制御部と、
を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記印刷部が行う1回の印刷において単位面積当たりの前記インクに含まれる所定の成分の吐出量が一定となるように、前記吐出回数を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記カートリッジを前記格納部に格納した後に前記印刷部が初めて行う印刷における前記吐出回数を、前記所定の成分の吐出量が一定となるように制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷対象はユーザの爪であり、
前記制御部は、前記印刷対象が同一のユーザの爪である間は、前記印刷部による印刷における前記吐出回数が一定となるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
インクが充填されたカートリッジを格納する格納部と、前記格納部に格納された前記カートリッジの前記インクを使用して印刷対象に印刷を行う印刷部と、を備える印刷装置における印刷制御方法であって、
前記印刷部が単位面積当たりに前記インクを吐出する回数である吐出回数を、前記カートリッジを前記格納部に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する、
ことを特徴とする印刷制御方法。
【請求項6】
インクが充填されたカートリッジを格納する格納部と、前記格納部に格納された前記カートリッジの前記インクを使用して印刷対象に印刷を行う印刷部と、を備える印刷装置のコンピュータに、
前記印刷部が単位面積当たりに前記インクを吐出する回数である吐出回数を、前記カートリッジを前記格納部に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する機能を実現させる、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、印刷制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式の印刷装置では、インク中の顔料・染料が凝集・沈降し、顔料・染料の濃度変動により印刷濃度が変動したり、ノズルの目詰まりが発生したりする場合がある。
そこで、例えば、インク中の染料の凝集を防ぐために、プリント開始から所定の経過時間ごとに、インクタンク内のインクを撹拌する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3190540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、白インクは、材料に酸化チタンを用いているため、インク中で沈降が生じやすい。白インク内の酸化チタンを均一に分散させるためには、インクの撹拌が必要であるが、インクの撹拌の終了と同時に、酸化チタンの沈降が始まる。そのため、インクを撹拌せずに印刷を続けていると、次第にノズル付近の酸化チタンの割合が増加し、白濃度(印刷対象に対する隠蔽性)が初期より高くなっていくという問題があった。
【0005】
また、白インクのように沈降しやすいインクの場合、ノズル周辺を含む範囲でインクを常時循環させる構造を用いて、ノズルの目詰まりや濃度変動を抑える技術があるが、専用の構造が必要であるため、装置が高価となるとともに、小型化には不向きであった。
【0006】
本発明は、上記の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の印刷装置は、
インクが充填されたカートリッジを格納する格納部と、
前記格納部に格納された前記カートリッジの前記インクを使用して印刷対象に印刷を行う印刷部と、
前記印刷部が単位面積当たりに前記インクを吐出する回数である吐出回数を、前記カートリッジを前記格納部に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する制御部と、
を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態における印刷装置の要部外観構成を示す斜視図である。
図2】印刷装置の概略の制御構成を示す要部ブロック図である。
図3】(a)は、印刷装置の内部要部構成を示す平面図である。(b)は、Y方向と直交する切断面における印刷装置の概略断面図である。
図4】インクカートリッジの断面の概略構成を示す模式図である。
図5】経過時間とSW塗布量との関係の例を示す図である。
図6】第1の実施形態における第1の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
図7】第2の実施形態における経過時間と制御用塗布量との関係の例を示す図である。
図8】第2の実施形態における第2の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
図9】第3の実施形態における経過時間とSW塗布量との関係の例を示す図である。
図10】第3の実施形態における第3の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
図11】第4の実施形態における第4の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る印刷装置、印刷制御方法及びプログラムの実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0011】
[第1の実施形態]
まず、本発明に係る印刷装置の第1の実施形態について説明する。
【0012】
<印刷装置の構成>
図1は、第1の実施形態における印刷装置1の要部外観構成を示す斜視図である。以下の実施形態において、上下、左右及び前後は、図1に示した向きをいうものとする。また、X方向、Y方向、Z方向は、図1に示した方向をいうものとする。
図2は、印刷装置1の概略の制御構成を示す要部ブロック図である。
図3(a)は、印刷装置1の内部要部構成を示す平面図であり、図3(b)は、Y方向と直交する切断面における印刷装置1の概略断面図である。
【0013】
ここでは、印刷装置1が手の指U1の爪U2(図3(a)及び(b)参照)を印刷対象として、これに印刷するネイルプリンタである場合を例に説明するが、印刷装置1の印刷対象は手の指U1の爪U2に限るものではなく、例えば、足の指の爪等を印刷対象としてもよい。また、ネイルチップや各種アクセサリの表面等、爪以外のものを印刷対象としてもよい。
印刷装置1は、ネイルサロンや美容サロン等の店舗に設置されたものでもよいし、ユーザの自宅等で使用されるものであってもよい。
【0014】
図1に示すように、印刷装置1は、略箱形に形成された筐体2を有している。
印刷装置1の筐体2の前面側(Y方向の手前側)であって装置の左右方向(X方向)の略中央部には、開口部21が形成されている。開口部21は、印刷対象となる爪U2に対応する指U1を装置内に挿入する指挿入口であり、指U1を出し入れ可能な程度の幅及び高さを有している。
また、筐体2の内部であって開口部21の内側に、印刷対象となる爪U2に対応する指U1を配置する指配置部3が設けられている。
【0015】
図3(a)及び(b)に示すように、指配置部3の下側面は、開口部21から挿入された指U1の腹部分を受ける指受け部31となっている。なお、指受け部31には、例えば樹脂等の柔軟性を有する材料で形成されたクッション部材が設けられていてもよい。
指配置部3の上方(少なくとも図1におけるY方向の奥側の上方)は開放されており、指配置部3内に挿入された指U1の爪U2の表面が露出するようになっている。
指配置部3の手前側(図1におけるY方向の手前側)には、指U1の上方を囲うような枠状部32が設けられている。指配置部3に配置された指U1の上側は、この枠状部32の天面に突き当てられるように構成されている。これにより、枠状部32の天面が指U1の上方向の位置を規制する指押えとして機能し、指U1が上方向に押し上げられすぎるのを防ぎ、指U1の高さ方向を位置決めすることができる。
【0016】
筐体2の上面(天板)には、操作部22が設置されている。
操作部22は、ユーザからの各種入力を受け付ける受付手段である。
操作部22は、例えば、印刷装置1の電源をON/OFFする電源スイッチ釦、動作を停止させる停止スイッチ釦、印刷開始を指示する印刷開始釦等、各種の入力を行うための操作釦で構成されている。
また、操作部22は、表示部23の表面に一体的に設けられたタッチパネルによって構成され、ユーザの指先やスタイラスペン等によるタッチ操作に応じて、各種の入力・設定等を行うことができるようになっている。
操作部22が操作されると、操作に応じた操作信号が制御装置10の制御部11(図2参照)に出力され、制御部11が操作信号に従った制御を行い、印刷装置1の各部を動作させる。
また、制御部11は、操作部22の操作によらず、スマートフォンなどの外部機器にて入力・設定された情報を通信によって所定の取得部を介して取得し、取得した入力・設定された情報に基づいて操作信号に従った制御を行い、印刷装置1の各部を動作させてもよい。
【0017】
筐体2の上面には、表示部23が配置されている。
表示部23は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、その他のディスプレイを含んでいる。表示部23は、制御部11から入力される表示信号に基づいて、ディスプレイに各種画像や情報を表示する。
【0018】
また、図2に示すように、印刷装置1は、前述の操作部22、表示部23を備える他、印刷機構4、撮影部5、タイマー24、通信部25及び制御装置10等を備えている。
【0019】
印刷機構4は、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)と、インクカートリッジ41を格納する格納部42と、インクカートリッジ41(インクカートリッジ41を保持する格納部42)を移動させるX方向移動モータ45及びY方向移動モータ47とを備える。
【0020】
インクカートリッジ41は、格納部42に対して着脱可能となっており、印刷時には、格納部42に格納された状態で使用される(図3(a)及び(b)参照)。
【0021】
図4に、インクカートリッジ41の断面の概略構成を模式的に示す。インクカートリッジ41は、インク60を貯留するインク貯留部43を内蔵しており、インク60が充填されている。本実施形態において、インクカートリッジ41は、インク貯留部43内のインク60をノズル44から微細な液滴として吐出させ、印刷対象面に印刷を施すインクジェット方式のインク吐出機構(図示せず)を一体的に備えたカートリッジ一体型の印刷ヘッドである。
【0022】
図3(b)及び図4に示すように、インクカートリッジ41における印刷対象面(爪U2の表面)に対向する面には、インク吐出面441が一体に形成されている。インク吐出面441には、それぞれの色のインクを噴射する複数のノズル44からなるノズルアレイの吐出口が列状に形成されている。
インクカートリッジ41は、制御部11がインク吐出機構を制御することで、適宜所定のインクをノズル口から吐出させ、印刷を行うようになっている。
なお、インクカートリッジ41がインクを吐出させる構成等、印刷を行うための具体的な構成は、特に限定されない。
【0023】
インクカートリッジ41(印刷ヘッド)は、例えば、シアン(C;CYAN)、マゼンタ(M;MAGENTA)、イエロー(Y;YELLOW)等の各色のインクを吐出可能となっている。また、インクカートリッジ41として、印刷対象となる爪U2にネイルの下地を印刷する下地用ヘッドと、印刷対象となる爪U2にネイルデザインを印刷するデザイン用ヘッドと、が設けられていてもよい。下地用のインクとしては、デザインを印刷するときにインクの発色が良くなるように、白色等(白色若しくはこれに近いピンクやブルー等)であることが好ましい。
【0024】
図4は、顔料として酸化チタン61を含む白インク(下地用のインク)を用いた場合を示している。白インクによる印刷を行う場合、インク60中に酸化チタン61を均一に分散させるため、事前にインク60の撹拌が必要である。インク60に含まれる酸化チタン61は、撹拌が終了した時点から、時間の経過に応じて沈降していく。
印刷時において、ノズル44は、重力方向においてインク60より下方に存在している。そのため、酸化チタン61の沈降により、インクカートリッジ41の下部の酸化チタン61の濃度が次第に濃くなっていき、ノズル44から吐出されるインク60に含まれる酸化チタン61の割合(含有率)が次第に増加していく。印刷対象(爪U2)に付着する酸化チタン61の量を一定とするためには、時間の経過に伴い、インク60の塗布量を減らしていく必要がある。
【0025】
なお、撹拌終了からの時間の経過に伴い、ノズル44付近のインク60に含まれる酸化チタン61の量がどのように変化していくか、ノズル44の目詰まりが発生するまでの時間等は、酸化チタン61の粒径の違いや最初に含まれている酸化チタン61の量等によって、設計時に決定される。
以下、ネイルデザインを印刷する印刷装置1(ネイルプリンタ)において、白インクで下地印刷を行う場合について説明する。
【0026】
インクカートリッジ41は、格納部42に格納された状態で、装置の左右方向(X方向)及び前後方向(Y方向)に移動可能となっている。X方向移動モータ45は、インクカートリッジ41をX方向に移動させるX方向移動機構450(図3(a)及び(b)参照)を構成し、Y方向移動モータ47は、インクカートリッジ41をY方向に移動させるY方向移動機構470(図3(a)参照)を構成する。X方向移動モータ45、Y方向移動モータ47は、例えば、ステッピングモータである。
また、印刷機構4は、図示しない位置検出センサ(原点センサやエンコーダセンサ等)を有しており、制御部11は、センサからの出力情報に基づいてインクカートリッジ41の位置を正確に把握しつつ、インクカートリッジ41を適宜X方向、Y方向に移動させる制御を行う。
【0027】
撮影部5は、カメラ51と、光源52とを備えている(図2図3(b)参照)。
カメラ51は、印刷対象である爪U2や爪U2を含む指U1を撮影して爪画像のデータを生成する。
光源52は、例えば、白色LED等の照明灯である。
【0028】
タイマー24は、ある時点からの経過時間を測定し、測定した経過時間を制御部11に出力する。
【0029】
通信部25は、ネットワークインターフェース等により構成され、通信ネットワークを介して接続された外部装置との間でデータ通信を行う。
【0030】
印刷装置1に搭載される制御装置10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを有する制御部11と、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等(いずれも図示せず)を有する記憶部12とを備えるコンピュータである。
記憶部12には、制御部11が各種処理を行うための各種プログラムを記憶するプログラム記憶領域121が設けられている。また、記憶部12には、処理を行うのに必要な各種情報が記憶されている。
制御部11が、プログラム記憶領域121に格納された各種プログラムをRAMの作業領域に展開して実行することによって、印刷装置1の各部の動作を統合的に制御する。すなわち、制御部11は、プログラムとの協働により、印刷装置1が印刷処理等を行うための各種機能を実現する。
【0031】
制御部11は、印刷機構4の各部の動作を制御する。具体的には、制御部11は、位置検出センサからの出力に応じてインクカートリッジ41(印刷ヘッド)の位置を把握し、X方向移動モータ45、Y方向移動モータ47を動作させて適宜インクカートリッジ41をXY方向に移動させる。また、制御部11は、印刷データに従ってインクカートリッジ41を制御し、印刷対象である爪U2に適宜インクを吐出させる。
【0032】
印刷部としてのノズル44は、格納部42に格納されたインクカートリッジ41のインクを使用して印刷対象に印刷を行う。なお、前述したように、インクカートリッジ41は、ノズル44及びインク吐出機構を一体的に備えたカートリッジ一体型の印刷ヘッドであるから、ノズル44及びインク吐出機構を含むインクカートリッジ41自体を、印刷部として扱ってもよい。
制御部11は、ノズル44(印刷部)が単位面積当たりにインクを吐出する回数である吐出回数を、インクカートリッジ41を格納部42に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する。
【0033】
具体的には、制御部11は、ノズル44(印刷部)が行う1回の印刷において単位面積当たりのインクに含まれる所定の成分の吐出量が一定となるように、単位面積当たりの吐出回数を制御する。所定の成分として、酸化チタンを用いる。「1回の印刷」とは、印刷対象ごとの印刷である。同一の印刷対象に対して同一のインクカートリッジ41を使用して重ねて吐出を行う場合には、複数回分の吐出が「1回の印刷」となる。
【0034】
白インクを使用した印刷における既定の濃度のことを、「既定白濃度」と定義する。既定白濃度は、印刷対象に対する所定の隠蔽性に対応している。隠蔽性は、印刷対象を覆い隠す度合いであり、インクの発色の良さを示す指標でもある。
また、既定白濃度を実現するために必要なインクの塗布量を、「SW塗布量」という。以下、全ベタ印刷に対応するインクの塗布量を100%と表現する。全ベタ印刷は、全てのノズル44からインクを吐出した状態の印刷である。また、ノズル44から1回の吐出で噴射されるインク量(液滴の量)は、一定とする。例えば、新品のインクカートリッジ41を撹拌した直後の状態において、300%の塗布量で印刷した結果(例えば、全ベタ印刷を3回繰り返した結果)を既定白濃度とする。
【0035】
図5に、経過時間に応じたSW塗布量(%)の例を示す。図5において、横軸は撹拌終了からの経過時間であり、縦軸はSW塗布量(%)である。
ここでは、説明を分かりやすくするために、インクカートリッジ41を撹拌後24時間は、ノズル44の目詰まりが発生することなく印刷が可能であることとする。
印刷の有無にかかわらず、インク中で酸化チタンは徐々に沈降していき、撹拌直後と同じ塗布量で印刷を続けると、結果として白濃度が濃くなってしまう。そのため、既定白濃度を実現するには、インク塗布量を初期より減らしていく必要がある。
塗布量を減らす割合(図5に示すグラフの傾き)は、使用する酸化チタンの粒径等、インクの設計によって異なるが、一定の設計条件では、経過時間と、既定白濃度を実現するために必要な塗布量(SW塗布量)は、リニアな関係(図5において直線で示される関係)となる。
【0036】
ここでは、図5に示すように、撹拌終了直後のSW塗布量を300%、撹拌終了から24時間経過後のSW塗布量を200%とする。
インク内での酸化チタンの沈降速度は略一定である。ネイルプリンタの場合、塗布量300%で印刷した時のインク量は1爪あたり約2.5μlと少なく、印刷可能範囲(撹拌不要の時間)におけるインクの使用量は、インクカートリッジ41内のインクの全量と比べて微量である。そのため、インクの使用は、経過時間とSW塗布量との関係に大きな影響を与えないと考えられる。よって、インク撹拌終了(インクカートリッジ41の格納)からの経過時間を計測しておき、印刷時に経過時間に応じてSW塗布量を決定する。
例えば、撹拌終了から12時間経過後のSW塗布量は、300%と200%の中間の250%になる。
【0037】
インクの塗布量(%)は、ノズル44(印刷部)が単位面積当たりにインクを吐出する回数(吐出回数)に相当する。ここで、単位面積は1画素(各ノズル44)である。
例えば、塗布量が300%の場合、各ノズル44により3回ずつインクを吐出することになる。
塗布量が200%の場合、各ノズル44により2回ずつインクを吐出することになる。
塗布量が250%の場合、全てのノズル44により2回ずつインクを吐出し、半数(50%)のノズル44により追加で1回インクを吐出すればよい。つまり、2回インクを吐出するノズル44と、3回インクを吐出するノズル44の割合に応じて、塗布面積全体として「250%」を実現できればよい。
【0038】
インクの塗布量(%)において、100%に満たない部分は、間引き印刷のようなイメージである。各ノズル44に対して吐出するか否かを制御して、間隔をあけて印刷することで、全体で見たときの塗布量を狙った値にすればよい。
【0039】
制御部11は、表示部23の動作を制御する。具体的には、制御部11は、表示部23のディスプレイに表示させる表示データを生成し、表示部23に出力する。例えば、制御部11は、撮影部5により取得された爪画像を表示させるための画像データや、デザイン(ネイルデザイン)等を表示部23に表示させるための表示データ、各種メッセージ画面、案内画面、エラー画面等を表示部23のディスプレイに表示させる表示データ等を生成する。
【0040】
制御部11は、撮影部5のカメラ51及び光源52の動作を制御して、光源52によって爪U2やその周辺を照明させ、カメラ51によって爪画像等を取得させる。
具体的には、印刷処理に先立ち、制御部11は、撮影部5を制御して、ユーザの指U1を撮影させ、撮影により得られた画像データに対して画像処理を行うことにより、爪領域を検出する。制御部11は、印刷データを爪領域の形状及び大きさに合わせておく。そして、制御部11は、印刷機構4を制御して、指配置部3に置かれた指U1の爪領域に相当する領域に対して、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)でデザインを印刷させる。
【0041】
なお、スマートフォン、タブレット端末等の端末装置を、印刷装置1の操作部22及び表示部23として使用することとしてもよい。この場合、端末装置は、端末装置の通信部を介して印刷装置1との間でデータの送受信を行うことで、印刷装置1から提供された操作画面を端末装置の表示部に表示するとともに、端末装置の操作部から入力された操作指示を印刷装置1に送信する。
【0042】
<印刷装置の動作>
次に、第1の実施形態における動作について説明する。
図6は、第1の実施形態の印刷装置1において実行される第1の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
【0043】
まず、制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたか否かを判断する(ステップS1)。例えば、制御部11は、格納部42に設けられたセンサによりインクカートリッジ41が新たに検出された場合に、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたと判断する。また、制御部11は、筐体2の蓋の開閉動作が検出された場合に、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたと判断してもよい。また、インクカートリッジ41が格納部42に格納された場合に、ユーザが操作部22から所定の操作指示を入力してもよい。
制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されていないと判断した場合には(ステップS1;NO)、処理をステップS1に戻す。
【0044】
制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたと判断した場合には(ステップS1;YES)、タイマー24により測定されている経過時間をリセットする(ステップS2)。そして、制御部11は、タイマー24による経過時間のカウントを開始させる(ステップS3)。
なお、格納部42に格納されたインクカートリッジ41は、撹拌された直後の状態であることとする。インクカートリッジ41の撹拌は、公知の撹拌装置を用いて行えばよい。
【0045】
次に、制御部11は、ユーザによる操作部22からの操作により、印刷指示があったか否かを判断する(ステップS4)。
制御部11は、印刷指示がないと判断した場合には(ステップS4;NO)、処理をステップS4に戻す。
【0046】
制御部11は、印刷指示があったと判断した場合には(ステップS4;YES)、インクカートリッジ41が格納部42に格納されてからの経過時間を、タイマー24から取得する(ステップS5)。
【0047】
次に、制御部11は、経過時間に基づいて、既定白濃度を実現するために必要なインクの塗布量であるSW塗布量(%)を算出する(ステップS6)。例えば、制御部11は、図5に示した経過時間とSW塗布量との関係から、SW塗布量を求める。経過時間とSW塗布量との関係は、予め記憶部12に記憶されている。制御部11は、計算式を用いてSW塗布量を求めてもよいし、経過時間とSW塗布量とが対応付けられたテーブルを用いてSW塗布量を求めてもよい。図5に示すように、SW塗布量は、経過時間に応じて減少していく。
【0048】
次に、制御部11は、算出されたSW塗布量(%)に応じて、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)に印刷を行わせる(ステップS7)。SW塗布量(%)によって各ノズル44の吐出回数が決まるから、制御部11は、経過時間に応じて、ノズル44が単位面積当たりにインクを吐出する回数(吐出回数)を制御していることになる。
制御部11は、ステップS7の後、処理をステップS4に戻す。
【0049】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、印刷装置1の制御部11は、ノズル44(印刷部)が単位面積当たりにインクを吐出する回数である吐出回数を、インクカートリッジ41を格納部42に格納してからの経過時間が長い程減少させるように制御する。これにより、所定の成分が沈降しやすいインクに対して、安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させることができる。白インク中の酸化チタンは時間の経過に伴い沈降していくが、経過時間が長い程吐出回数を減少させることで、酸化チタンに係る濃度変動を防ぐことができる。
【0050】
例えば、制御部11は、ノズル44(印刷部)が行う1回の印刷において単位面積当たりのインクに含まれる所定の成分(酸化チタン)の吐出量が一定となるように、吐出回数を制御する。具体的には、制御部11は、単位面積当たりの酸化チタンの吐出量が一定となるように、インクの塗布量(%)を減少させていくので、酸化チタンに係る印刷濃度や隠蔽性を一定に保つことができる。
【0051】
なお、制御部11は、各ノズル44からインク(液滴)を吐出する吐出回数を制御するので、1吐出における液滴量を制御する必要はない。
また、インクを常時循環させる構造等、特殊な構造は不要であるため、安価かつ小型の装置を実現できる。
【0052】
[第2の実施形態]
次に、本発明を適用した第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態における印刷装置は、第1の実施形態に示した印刷装置1と同様の構成であるため、図1図4を援用し、その構成については図示及び説明を省略する。以下、第2の実施形態に特徴的な構成及び処理について説明する。
【0053】
第1の実施形態のように、撹拌終了からの経過時間に対してリニアに塗布量(%)を制御することが難しい場合には、インクの塗布量(%)を減少させる際に、横軸を時間、縦軸を塗布量(%)とした場合に塗布量(%)が階段状になるように制御する。ここでは、この階段状に制御される塗布量を、「制御用塗布量」という。
【0054】
図7に、経過時間に応じた制御用塗布量(%)の例を示す。図7において、横軸は撹拌終了からの経過時間であり、縦軸は制御用塗布量(%)である。例えば、撹拌終了から8時間経過時までは300%、8時間経過後から16時間経過時までは250%、16時間経過後から24時間経過時までは200%というように、インク塗布量を階段状に制御する。つまり、図7は、図5に示した関係を、3段階の近似値で示している。
【0055】
次に、第2の実施形態における動作について説明する。
図8は、第2の実施形態の印刷装置1において実行される第2の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
ステップS11~S15の処理は、第1の塗布量制御処理(図6参照)におけるステップS1~S5の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
ステップS15の後、制御部11は、経過時間に基づいて、既定白濃度を実現するために必要なインクの塗布量の近似値である制御用塗布量(%)を取得する(ステップS16)。例えば、制御部11は、図7に示した経過時間と制御用塗布量との関係から、制御用塗布量を求める。経過時間と制御用塗布量との関係は、予め記憶部12に記憶されている。制御部11は、計算式を用いて制御用塗布量を求めてもよいし、経過時間と制御用塗布量とが対応付けられたテーブルを用いて制御用塗布量を求めてもよい。図7に示すように、制御用塗布量は、経過時間に応じて減少していく。
【0057】
次に、制御部11は、取得された制御用塗布量(%)に応じて、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)に印刷を行わせる(ステップS17)。制御用塗布量(%)によって各ノズル44の吐出回数が決まるから、制御部11は、経過時間に応じて、ノズル44が単位面積当たりにインクを吐出する回数(吐出回数)を制御していることになる。
制御部11は、ステップS17の後、処理をステップS14に戻す。
【0058】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様、安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させることができる。
特に、第2の実施形態では、経過時間に応じてインクの塗布量(%)を減少させる際に、階段状になるように制御するので、第1の実施形態と比較して、制御が容易になる。
【0059】
なお、図7では、インク塗布量(%)を階段状に制御する際に、3段階の値を取る場合について例示したが、階段の数や段差は、上記の例に限定されない。制御用塗布量(%)に用いる階段の数や段差は、使用するインクにおいて、時間の経過に伴う印刷結果の濃度変動が認識できない程度にすることが好ましい。
【0060】
[第3の実施形態]
次に、本発明を適用した第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態における印刷装置は、第1の実施形態に示した印刷装置1と同様の構成であるため、図1図4を援用し、その構成については図示及び説明を省略する。以下、第3の実施形態に特徴的な構成及び処理について説明する。
【0061】
インクカートリッジ41の撹拌後、酸化チタンの沈降は続き、ノズル44付近における酸化チタンの量は次第に増加していく。これにより、ノズル44から吐出されるインクに含まれる酸化チタンの割合は、他の部分のインクに含まれる酸化チタンの割合より高くなる。
また、ノズル44(印刷部)が単位面積当たりにインクを吐出する回数(吐出回数)を経過時間に応じて減少させていくと、単位面積当たりに吐出される酸化チタンの量はほぼ一定になるのに対し、単位面積当たりに吐出されるインクの溶媒の量は経過時間に応じて減少していく。
そのため、印刷後に再度インクカートリッジ41を撹拌した場合、前回の撹拌後と比較して、インク中の酸化チタンの割合は低く、白濃度が薄く(隠蔽性が低く)なってしまう。よって、インクカートリッジ41の撹拌後の初期の塗布量を、前回の撹拌後より多くする必要がある。
第3の実施形態では、インクカートリッジ41の撹拌後、初めて印刷を行う際の、既定白濃度を実現するために必要なインクの塗布量(SW塗布量)の設定方法について説明する。
【0062】
印刷装置1の制御部11は、インクカートリッジ41を格納部42に格納した後にノズル44(印刷部)が初めて行う印刷における吐出回数(単位面積当たりにインクを吐出する回数)を、所定の成分の吐出量が一定となるように制御する。
【0063】
撹拌後のインクカートリッジ41における印刷で、既定白濃度を実現するために必要なインクの塗布量の初期値(以下、「初期SW塗布量」という。)は、これまでに使用したインクの量と、これまでに吐出した酸化チタンの量と、から求められる。ここでは、インクカートリッジ41に残っているインクの量(インク残量)と、インクカートリッジ41に残っているインク中に含まれる酸化チタンの量(酸化チタン残重量)と、に基づいて、初期SW塗布量を求めることとする。
【0064】
初期SW塗布量の求め方の一例について説明する。
インクカートリッジ41の使用開始時のインク量(体積)をN、インクカートリッジ41の使用開始時にインクに含まれる酸化チタンの重量をTとする。
ノズルから吐出される1吐出分のインク量(体積)をPとする。Pは固定値である。
使用開始時において、全ベタ印刷に対応するインクの塗布量100%に対し、300%の塗布量で既定白濃度が実現される場合、印刷対象の1画素当たりに3回吐出を行うことになる。
【0065】
使用開始時において、既定白濃度を実現するために1画素当たりに必要な酸化チタンの重量Tは、3回分の吐出であることを考慮して、式(1)により求められる。
【数1】
この酸化チタンの重量Tは、時間の経過等によらず、一定である。
【0066】
ここで、既定白濃度を実現するために、使用開始時は300%の塗布量(吐出回数3回)が必要であり、24時間経過後は200%の塗布量(吐出回数2回)が必要であったとする。
使用開始からh時間経過後に印刷する時、h時間経過時におけるSW塗布量M(%)は、式(2)により求められる。
【数2】
【0067】
既定白濃度を実現するために1画素当たりに必要な酸化チタン重量Tは変化しないので、酸化チタンの沈降に伴い、経過時間に応じてSW塗布量(%)は次第に減少していく。
式(2)で用いる300%、200%等の値は、インクの特性により設計時に決まるものであり、記憶部12に記憶されている。
【0068】
1吐出分のインク量(体積)はPであるから、h時間経過時に既定白濃度を実現するために必要な1画素当たりのインク量(体積)Pは、式(3)により求められる。
【数3】
【0069】
h時間経過後の印刷時の印刷画素数をDとすると、h時間経過後の印刷時に使用されるインク量(体積)Nは、式(4)により求められる。
【数4】
【0070】
h時間経過時の印刷後のインク残量(体積)Nは、式(5)により求められる。
【数5】
複数のタイミングで印刷が行われる場合には、使用開始時のインク量Nから、印刷のタイミングごとに印刷に使用されるインク量Nを引いていくことで、インク残量Nが求められる。
【0071】
h時間経過時の印刷後にインク内に残存する酸化チタンの重量(酸化チタン残重量)Tは、式(6)により求められる。
【数6】
複数のタイミングで印刷が行われる場合には、使用開始時の酸化チタンの重量Tから、印刷のタイミングごとに吐出される酸化チタンの重量(T×D)を引いていくことで、酸化チタン残重量Tが求められる。
【0072】
印刷時にノズル44付近の酸化チタンの割合が高いインクが吐出されることで、インクカートリッジ41に残されたインク内の酸化チタンの割合は次第に低くなっていく。
既定白濃度を実現するために1画素当たりに必要な酸化チタン重量Tは一定であるため、インク内の酸化チタンの割合が減少するに従って、撹拌直後のインク塗布量(%)を増やすことになる。つまり、インクカートリッジ41の撹拌直後において、酸化チタンの割合とインク塗布量(%)の積は一定になっている。
【0073】
インクカートリッジ41の撹拌終了時に設定する初期SW塗布量をM(%)とすると、式(7)に示す関係が成立する。
【数7】
【0074】
したがって、撹拌終了時における初期SW塗布量M(%)は、式(8)により求められる。
【数8】
【0075】
インクカートリッジ41の使用と撹拌を繰り返す場合には、上述した処理と同様に、インクカートリッジ41の撹拌終了時における初期SW塗布量(%)を求めればよい。
インクカートリッジ41が再撹拌され、初期SW塗布量が設定された後も、経過時間に応じてSW塗布量(%)は次第に減少していく。この時のSW塗布量が減少していく割合は、インクの特性と、撹拌終了時のインク残量及び酸化チタン残重量とにより決まる。
【0076】
図9に、経過時間に対するSW塗布量(%)の例を示す。図9において、横軸はインクカートリッジ41の使用開始からの経過時間であり、縦軸はSW塗布量(%)である。なお、図9において、インクカートリッジ41を撹拌中の時間については除いている。
【0077】
インクカートリッジ41が撹拌され、使用が開始された時刻A1から時刻A2までは、SW塗布量(%)が300%から200%までリニアに減少している。時刻A1から時刻A2の間に印刷が行われ、インクカートリッジ41内のインクが減少していることとする。この間のインク塗布量(%)の制御については、第1の実施形態における制御と同様であり、例えば、上記式(2)に従う。
時刻A1から時刻A2の間に吐出されたインクは、酸化チタンの割合が高いものであるから、時刻A2においてインクカートリッジ41内に残ったインク中の酸化チタンの割合は、初期(時刻A1)より低くなる。
そのため、時刻A2の時点でインクカートリッジ41が撹拌されると、撹拌終了時のSW塗布量は300%より多くなる。
【0078】
同様に、時刻A2から時刻A3まで、SW塗布量(%)がリニアに減少する。時刻A2から時刻A3の間に印刷は行われていないこととする。この場合、時刻A3におけるインクカートリッジ41内のインクの量及び酸化チタンの量は、時刻A2から変化していない。
時刻A3の時点でインクカートリッジ41が撹拌されると、撹拌終了時のSW塗布量は、時刻A2の撹拌終了時と同じになる。
【0079】
次に、第3の実施形態における動作について説明する。
図10は、第3の実施形態の印刷装置1において実行される第3の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
【0080】
まず、制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたか否かを判断する(ステップS21)。具体的な判断方法については、第1の塗布量制御処理(図6参照)のステップS1と同様である。
制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されていないと判断した場合には(ステップS21;NO)、処理をステップS21に戻す。
【0081】
制御部11は、インクカートリッジ41が格納部42に格納されたと判断した場合には(ステップS21;YES)、格納されたインクカートリッジ41が新品であるか否かを判断する(ステップS22)。
【0082】
例えば、制御部11は、格納部42に設けられた読み取り部に、インクカートリッジ41に設けられたICチップからインクカートリッジ41の識別情報を読み取らせる。制御部11は、このインクカートリッジ41の識別情報が記憶部12に記憶されていない場合に、インクカートリッジ41が新品であると判断する。制御部11は、ICチップから読み取ったインクカートリッジ41の識別情報を記憶部12に記憶させる。
また、インクカートリッジ41に設けられたICチップに、新品であることを示す情報が記憶されていてもよい。この場合、制御部11は、格納部42に設けられた読み取り部により、インクカートリッジ41に設けられたICチップから、新品であることを示す情報を読み取ったときに、インクカートリッジ41が新品であると判断する。なお、制御部11は、一旦新品であることを示す情報を読み取った後は、インクカートリッジ41のICチップ内の情報を「使用履歴あり」に書き換える。
また、格納部42に格納されたインクカートリッジ41が新品であることを、ユーザが操作部22等から手動で入力してもよい。
【0083】
制御部11は、格納されたインクカートリッジ41が新品であると判断した場合には(ステップS22;YES)、記憶部12に記憶されているインク残量N及び酸化チタン残重量Tをリセットする(ステップS23)。なお、インクカートリッジ41ごとにインク残量N及び酸化チタン残重量Tが記憶されている場合には、今回格納したインクカートリッジ41に該当するインク残量N及び酸化チタン残重量Tをリセットする。
そして、制御部11は、初期SW塗布量Mを、新品時の値に設定する(ステップS24)。例えば、制御部11は、新品のインクカートリッジ41についての初期SW塗布量として、「300%」を設定する。
【0084】
制御部11は、格納されたインクカートリッジ41が新品でないと判断した場合には、(ステップS22;NO)、初期SW塗布量Mを、記憶部12に記憶されているインク残量N及び酸化チタン残重量Tに応じた値に設定する(ステップS25)。例えば、制御部11は、上記式(8)、式(5)、式(6)等により初期SW塗布量Mを算出する。
【0085】
ステップS24又はステップS25において得られる初期SW塗布量Mによって、各ノズル44の吐出回数が決まるから、制御部11は、インクカートリッジ41を格納部42に格納した後に初めて行う印刷における吐出回数(単位面積当たりにインクを吐出する回数)を、酸化チタンの吐出量が一定となるように制御していることになる。
【0086】
制御部11は、ステップS24又はステップS25の後、タイマー24により測定されている経過時間をリセットする(ステップS26)。そして、制御部11は、タイマー24による経過時間のカウントを開始させる(ステップS27)。ここでは、ステップS27において測定が開始された経過時間を、インクカートリッジ41が格納部42に格納されてからの経過時間とみなすこととする。
なお、格納部42に格納されたインクカートリッジ41は、撹拌された直後の状態であることとする。
【0087】
次に、制御部11は、ユーザによる操作部22からの操作により、印刷指示があったか否かを判断する(ステップS28)。
制御部11は、印刷指示がないと判断した場合には(ステップS28;NO)、処理をステップS28に戻す。
【0088】
制御部11は、印刷指示があったと判断した場合には(ステップS28;YES)、撹拌済みのインクカートリッジ41が格納されてからの経過時間を、タイマー24から取得する(ステップS29)。
【0089】
次に、制御部11は、経過時間に基づいて、SW塗布量(%)を算出する(ステップS30)。SW塗布量(%)の算出方法については、第1の塗布量制御処理(図6参照)のステップS6と同様である。例えば、上記式(2)等を用いることができる。
【0090】
次に、制御部11は、算出されたSW塗布量(%)に応じて、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)に印刷を行わせる(ステップS31)。SW塗布量(%)によって各ノズル44の吐出回数が決まるから、制御部11は、経過時間に応じて、ノズル44が単位面積当たりにインクを吐出する回数(吐出回数)を制御していることになる。
【0091】
次に、制御部11は、インク残量N及び酸化チタン残重量Tを更新する(ステップS32)。具体的には、制御部11は、上記式(5)及び(6)により、今回の印刷後のインク残量N及び酸化チタン残重量Tを算出し、記憶部12に記憶されているインク残量N及び酸化チタン残重量Tの値を書き換える。
制御部11は、ステップS32の後、処理をステップS28に戻す。
【0092】
以上説明したように、第3の実施形態によれば、印刷装置1の制御部11は、インクカートリッジ41を格納部42に格納した後にノズル44(印刷部)が初めて行う印刷における単位面積当たりの吐出回数を、所定の成分(酸化チタン)の吐出量が一定となるように制御する。これにより、インクカートリッジ41が撹拌された後、格納部42に再度格納された場合に、単位面積当たりのインクに含まれる所定の成分の吐出量が一定となるので、印刷濃度や隠蔽性を一定に保つことができる。
【0093】
また、インクカートリッジ41を格納部42に格納した後は、インクカートリッジ41を格納部42に格納してからの経過時間が長い程吐出回数を減少させるように制御するので、安定した印刷濃度や隠蔽性を実現させることができる。
【0094】
また、第3の塗布量制御処理(図10参照)では、ステップS30において、第1の実施形態に示した図5と同様、経過時間に応じてインクの塗布量(%)をリニアに減少させることとしたが、第2の実施形態に示した図7のように、インクの塗布量(%)を階段状に制御してもよい。
【0095】
インクカートリッジ41を撹拌するタイミングについては、印刷開始前、印刷終了後等であってもよい。また、インクカートリッジ41内のインクにおいて、酸化チタンの沈降の度合いが所定値を超えた場合に、インクカートリッジ41の撹拌を促すようにしてもよい。
【0096】
[第4の実施形態]
次に、本発明を適用した第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態における印刷装置は、第1の実施形態に示した印刷装置1と同様の構成であるため、図1図4を援用し、その構成については図示及び説明を省略する。以下、第4の実施形態に特徴的な構成及び処理について説明する。
【0097】
印刷装置1の制御部11は、印刷対象が同一のユーザの爪U2である間は、ノズル44(印刷部)による印刷における吐出回数(単位面積当たりにインクを吐出する回数)が一定となるように制御する。
【0098】
一つの爪U2が1回の印刷になるので、爪U2ごとに経過時間に応じてインク塗布量(%)を制御することが考えられる。しかし、同じ人の10本の指U1の爪U2に対して印刷をしている間に関しては、インク中の酸化チタンの沈降により生じる白濃度(又は隠蔽性)の差は小さいので、インク塗布量は変化させず、最初の爪U2に対するインク塗布量を最後の爪U2まで維持する。
【0099】
次に、第4の実施形態における動作について説明する。
図11は、第4の実施形態の印刷装置1において実行される第4の塗布量制御処理を示すフローチャートである。
ステップS41~S44の処理は、第1の塗布量制御処理(図6参照)におけるステップS1~S4の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0100】
制御部11は、印刷指示があったと判断した場合には(ステップS44;YES)、同一ユーザの爪U2に対する印刷中であるか否かを判断する(ステップS45)。具体的には、制御部11は、今回印刷対象とされている爪U2と、前回の印刷指示において印刷対象とされていた爪U2とが同一ユーザのものであるか否かを判断する。例えば、制御部11は、あるユーザに対して同じネイルデザインセットを使用して印刷する際に、1本目の指U1の爪U2に印刷を行う場合には、同一ユーザの爪U2に対する印刷中でないと判断し、2~9本目の指U1の爪U2に印刷を行う場合には、同一ユーザの爪U2に対する印刷中であると判断する。また、同一ユーザの爪U2に対する印刷中であるか否かの判断には、その他の利用可能な情報を用いてもよい。
【0101】
制御部11は、同一ユーザの爪U2に対する印刷中でないと判断した場合には(ステップS45;NO)、インクカートリッジ41が格納部42に格納されてからの経過時間を、タイマー24から取得し(ステップS46)、経過時間に基づいて、SW塗布量(%)を算出する(ステップS47)。SW塗布量(%)の算出方法については、第1の塗布量制御処理(図6参照)のステップS6と同様である。
次に、制御部11は、算出されたSW塗布量(%)に応じて、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)に印刷を行わせる(ステップS48)。
【0102】
ステップS45において、制御部11が、同一ユーザの爪U2に対する印刷中であると判断した場合には(ステップS45;YES)、制御部11は、現在設定されているSW塗布量(%)(直近のステップS47で算出されたSW塗布量)を使用して、インクカートリッジ41(印刷ヘッド)に印刷を行わせる(ステップS48)。
制御部11は、ステップS48の後、処理をステップS44に戻す。
【0103】
以上説明したように、第4の実施形態によれば、印刷装置1の制御部11は、印刷対象が同一のユーザの爪U2である間は、ノズル44(印刷部)による印刷における単位面積当たりの吐出回数が一定となるように制御する。すなわち、制御部11は、同一人の爪U2に対して印刷を続けている間は、インクの塗布量(%)を変化させない。
同一人の複数の爪U2に対して印刷を行う間にインクの塗布量(%)を変化させると、爪U2によって濃度に差が出てしまうおそれがあるが、第4の実施形態によれば、同一人の爪U2同士の間における濃度差を防ぐことができる。
【0104】
なお、第4の実施形態では、両手分の10本の指U1の爪U2に対して、インク塗布量(%)を変更しない場合について説明したが、片手分の5本の指U1の爪U2に対して、インク塗布量を変更しないこととしてもよい。
【0105】
また、第4の塗布量制御処理(図11参照)では、第1の実施形態に示した図5と同様、経過時間に応じてインクの塗布量(%)をリニアに減少させることとしたが、第2の実施形態に示した図7のように、インクの塗布量(%)を階段状に制御してもよい。塗布量を階段状に減少させる場合は、特に、塗布量の変化による濃度差が大きくなる可能性があるため、同一人の複数の爪U2に印刷を行っている間は、インク塗布量を維持することが望ましい。
【0106】
なお、上記各実施形態における記述は、本発明に係る印刷装置、印刷制御方法及びプログラムの例であり、これに限定されるものではない。装置を構成する各部の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
例えば、各実施形態に特徴的な処理を組み合わせてもよい。
【0107】
また、上記各実施形態では、インクに含まれる所定の成分として酸化チタンを用いる場合について説明したが、これに限定されない。インクの顔料・染料として、沈降しやすい材料が含まれる場合に、本発明は特に効果がある。
【符号の説明】
【0108】
1 印刷装置
4 印刷機構
10 制御装置
11 制御部
12 記憶部
22 操作部
23 表示部
24 タイマー
25 通信部
41 インクカートリッジ
42 格納部
43 インク貯留部
44 ノズル
121 プログラム記憶領域
441 インク吐出面
U1 指
U2 爪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11