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特開2024-126048抗菌性繊維およびこれを用いた不織布
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126048
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】抗菌性繊維およびこれを用いた不織布
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/15 20060101AFI20240912BHJP
   D06M 13/352 20060101ALI20240912BHJP
   D01F 8/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
D06M15/15
D06M13/352
D01F8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034179
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】506276907
【氏名又は名称】ES Indorama Ventures株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506275575
【氏名又は名称】イーエス インドラマ ベンチャーズ リミテッド パートナーシップ
(71)【出願人】
【識別番号】506276332
【氏名又は名称】イーエス インドラマ ベンチャーズ デンマーク アーペーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 華代
【テーマコード(参考)】
4L033
4L041
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AB07
4L033AC10
4L033BA56
4L033CA08
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA09
4L041BA21
4L041BA22
4L041BC10
4L041BD11
4L041CA36
4L041CB13
4L041CB15
4L041CB17
(57)【要約】
【課題】 抗菌性およびカード加工性に優れた繊維を低コストで提供すること。
【解決手段】 少なくとも1種の熱可塑性樹脂から構成された繊維であって、前記繊維の表面に、ポリリジンまたはその塩、およびカチオン界面活性剤が付着しており、前記ポリリジンまたはその塩の付着量が繊維重量に対して0.02~0.06重量%以上であり、前記カチオン性界面活性剤の付着量が0.01重量%以上である繊維による。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂から構成された繊維であって、前記繊維の表面に、下記成分Aおよび成分Bが付着しており、前記成分Aの付着量が繊維重量に対して0.02~0.06重量%であり、前記成分Bの付着量が繊維重量に対して0.01重量%以上である繊維。
成分A:ポリリジンまたはその塩
成分B:カチオン界面活性剤
【請求項2】
前記ポリリジンがε-ポリリジンである、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
下記成分Cが付着した、請求項1または2に記載の繊維。
成分C:ポリアルキレンオキシド付加型ノニオン界面活性剤または多価アルコール型ノニオン界面活性剤
【請求項4】
前記カチオン界面活性剤が、一般式(1)で表されるアルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩である、請求項1または2に記載の繊維。
(式中、Rは炭素数7~21のアルキル基、Rはメチル基またはエチル基)
【請求項5】
前記繊維が、同心鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、または並列型複合繊維である、請求項1または2に記載の繊維。
【請求項6】
前記複合繊維を構成する少なくとも一方の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項5に記載の繊維。
【請求項7】
請求項1または2に記載の繊維を含む、不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリリジンまたはその塩を付着させた抗菌性およびカード加工性に優れる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症の流行や消費者の衛生状態への意識が向上している環境下で、抗菌性を有する繊維の需要が高まっている。このような繊維として、優れた抗菌性を示し、安全性の高いポリリジンを添加した抗菌繊維が知られている。例えば、特許文献1には、人体に対する毒性が極めて低く、優れた抗菌性を示し、かつ長期間にわたって抗菌性が持続することを特徴とした、ポリリジンまたはその塩を含む抗菌繊維が開示されている。特許文献1では、熱可塑性樹脂に対し、ポリリジンを紡糸時に直接混合する方法や、ポリリジンと分散剤を予め樹脂に高濃度に添加してマスターバッチを作製し、紡糸時に原料ペレットと混ぜ合わせる方法が記載されている。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂からなる繊維におけるポリリジンまたはその塩の存在量が、該繊維の内層部より外層部に多いことを特徴とする抗菌繊維が開示されている。ポリリジンまたはその塩の付着は通常紡糸工程、延伸工程で用いる各種繊維処理剤に混ぜて使用することにより、ポリリジンを均一、かつ簡便に付着することができると記載されている。
【0003】
一方、吸収性物品や医療衛生材料に用いられる不織布や繊維製品は、肌に長時間触れるため、風合いが滑らかで嵩高いことが重視される。このような不織布や繊維製品を形成するには、ウェブ形成方法として、湿式法、スパンボンド法などに比べてカード法が最も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-310935号公報
【特許文献2】特開平9-132869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、繊維表面のみではなく繊維内部にもポリリジンが存在するため、添加量に対する抗菌効果が非効率的となる他、ペレット溶融時の加熱によって抗菌性が低下するという問題がある。また、特許文献2の方法では、使用する繊維処理剤によっては、抗菌性やカード加工性が阻害されるという問題がある。さらに、抗菌性を高めるために、高価なポリリジンの付着量を増加させると、製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、抗菌性およびカード加工性に優れた繊維を低コストで提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、繊維処理剤に含まれる界面活性剤のイオン性によって、ポリリジンの抗菌効果に違いがあることを見出した。そして、特定の付着量のポリリジンと、特定の付着量のカチオン界面活性剤を併用し、繊維表面に付着させることで、抗菌性およびカード加工性に優れた繊維を低コストで得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
[1]少なくとも1種の熱可塑性樹脂から構成された繊維であって、前記繊維の表面に、下記成分Aおよび成分Bが付着しており、前記成分Aの付着量が繊維重量に対して0.02~0.06重量%であり、前記成分Bの付着量が繊維重量に対して0.01重量%以上である繊維。
成分A:ポリリジンまたはその塩
成分B:カチオン界面活性剤
[2]前記ポリリジンがε-ポリリジンである、[1]に記載の繊維。
[3]下記成分Cが付着した、[1]または[2]に記載の繊維。
成分C:ポリアルキレンオキシド付加型ノニオン界面活性剤または多価アルコール型ノニオン界面活性剤
[4]前記カチオン界面活性剤が、一般式(1)で表されるアルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩である、[1]~[3]のいずれかに記載の繊維。
(式中、Rは炭素数7~21のアルキル基、Rはメチル基またはエチル基)
[5]前記繊維が、同心鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、または並列型複合繊維である、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維。
[6]前記複合繊維を構成する少なくとも一方の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、[5]に記載の繊維。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の繊維を含む、不織布。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極めて少量のポリリジンの使用で優れた抗菌性を有しながら、カード加工性とコストパフォーマンスに優れた繊維を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂から構成され、下記で詳述する成分Aおよび成分Bが繊維の表面に付着しており、成分Aの付着量が繊維重量に対して0.02~0.06重量%であり、成分Bの付着量が繊維重量に対して0.01重量%以上であることを特徴としている。
【0011】
(成分A)
本発明に用いる成分Aは、ポリリジンまたはその塩である。成分Aを用いることで、繊維に優れた抗菌性を付与することができる。ポリリジンとしては、α-ポリリジン、またはε-ポリリジンを例示でき、抗菌に優れるε-ポリリジンが好ましい。ε-ポリリジンは、例えば、放線菌(Streptomyces albulus)の発酵により製造することができる。また、ε-ポリリジン25%水溶液(JNC株式会社製)などとして市販されているものを使用してもよい。
【0012】
本発明においては、遊離のポリリジンを用いてもよく、塩酸、硫酸、リン酸、もしくは臭化水素酸などの無機酸との塩、または酢酸、クエン酸、プロピオン酸、フマル酸、もしくはリンゴ酸などの有機酸との塩を用いてもよく、これらの混合物を用いてもよい。
【0013】
本発明における成分Aの付着量は、繊維重量に対して0.02~0.06重量%であり、0.02~0.04重量%であることが好ましい。成分Aの付着量が0.02重量%以上であれば、優れた抗菌効果が得られ、0.06重量%以下であれば、ポリリジンの使用量を減らすことができる他、加工機を汚染する恐れがなく、繊維を低コストで製造することができる。
【0014】
(成分B)
本発明に用いる成分Bは、カチオン界面活性剤である。成分Aに加えて成分Bを併用することで、繊維にカード加工性を付与しつつ、成分Aの使用量を極少量とした場合でも優れた抗菌性を有する繊維が得られる。カチオン界面活性剤としては、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、もしくはオクチルトリメチルアンモニウムクロリドなどの四級アンモニウム塩、ラウリルアミンアセテートなどのアミン塩、またはアルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩を例示でき、安全性の点から、アルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩であることが好ましい。
【0015】
本発明に用いるアルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩は、特に限定されないが、一般式(1)で表されるアルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩を例示できる。
【0016】
一般式(1)中のRは、炭素数7~21のアルキル基であり、炭素数は耐久親水性及びカード加工性の観点から、好ましくは炭素数15~19のアルキル基である。また、一般式(1)中のRは、メチル基またはエチル基であり、本発明においてはいずれの場合でも好適に使用できる。アルキルイミダゾリウムアルキル硫酸エステル塩は、RまたはRが異なるものを併用してもよい。
【0017】
本発明における成分Bの付着量は、繊維重量に対して0.01重量%以上であり、0.01~0.25重量%であることが好ましく、0.03~0.14重量%であることがより好ましい。成分Bの付着量が0.25重量%以下であれば、繊維にべたつきを感じにくくなるため風合いが良好になり、0.01重量%以上であれば、カード加工性に優れた繊維が得られる。
【0018】
(成分C)
本発明の繊維は、特に限定されないが、耐久親水性を向上させる目的で、成分Cとして、ポリアルキレンオキシド付加型ノニオン界面活性剤または多価アルコール型ノニオン界面活性剤が付着していてもよい。ポリアルキレンオキシド付加型ノニオン界面活性剤としては、特に限定されず、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、またはポリオキシアルキレンアルキルアルカノールアミドを例示でき、耐久親水性の向上の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、またはポリオキシアルキレンアルキルアルカノールアミドであることが好ましい。また、多価アルコール型ノニオン界面活性剤としては、特に限定されず、グリセリン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルを例示でき、耐久親水性の向上の観点から、グリセリン脂肪酸エステル、またはポリグリセリン脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0019】
成分Cの付着量は、特に限定されないが、繊維重量に対して0.005~0.6重量%であることが好ましく、0.02~0.5重量%であることがより好ましい。0.005重量%以上であれば、耐久親水性に優れ、0.6重量%以下であれば、初期親水性の低下を抑制できる。
【0020】
(成分D)
本発明の繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分Dとして、アニオン界面活性剤が付着していてもよい。アニオン界面活性剤としては、特に限定されず、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、またはリン酸エステル塩を例示できる。
【0021】
成分Dの付着量は、特に限定されないが、0.1重量%未満であることが好ましく、成分Dが付着していないことがより好ましい。特定の理論に拘束されるものではないが、ポリリジンの抗菌性は、プロトン化した側鎖のアミノ基の静電的な効果に由来すると考えられており、プロトン化したアミノ基とイオンコンプレックスを形成しやすいアニオン界面活性剤の付着量を多くすると、ポリリジン由来の抗菌性を阻害しやすいと考えられる。
【0022】
(その他成分)
本発明の繊維は、上述した成分A~D以外の成分(その他成分)が付着していてもよい。その他成分は、特に限定されず、pH調整剤、スクワラン、またはヒアルロン酸ナトリウムなどの皮膚保護剤、アルキルベタイン、またはポリオキシアルキレン変性シリコーンなどの親水剤、ジメチルポリシロキサン(シリコーンオイル)、またはパーフルオロアルキル基含有化合物などの撥水剤、エチレンオキシド(EО)および/またはプロピレンオキシド(PО)などを繰り返し単位とするポリエーテル、ポリエーテルとポリエステルのブロック共重合体、多価アルコールのポリエーテル付加物、フェニルエチルアルコールなどを挙げることができ、これらを2種以上混合して使用することもできる。ここで、エチレンオキシドの繰り返し数nの場合にEО(n)、プロピレンオキシドの繰り返し数mの場合にPО(m)として表記する場合がある。また、乳化剤、平滑剤、香料、防腐剤、防錆剤、消泡剤などを添加してもよい。
【0023】
(繊維)
本発明の繊維は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂から構成されたものであり、単一の熱可塑性樹脂で構成された繊維(単一繊維)であっても、2種類以上の熱可塑性樹脂から構成された複合繊維であってもよい。本発明の繊維を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン系樹脂、または塩化ビニル系樹脂を例示できるが、不織布や繊維製品に優れた風合いを付与する観点から、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、もしくは高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン系樹脂、または、結晶性ポリプロピレン(PP)、もしくはプロピレンを主成分とするプロピレンとエチレンもしくはα-オレフィンとの共重合体(Co-PP)などのポリプロピレン系樹脂を例示できる。
【0024】
本発明の繊維が複合繊維の場合、その複合形態は、特に限定されず、同心鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、並列型複合繊維、放射型複合繊維または海島型複合繊維を例示できるが、風合いや強度の観点から、同心鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、または並列型複合繊維が好ましい。また、複合繊維を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、不織布や繊維製品に優れた風合いを付与する観点から、少なくとも一方の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。また、複合繊維を構成する熱可塑性樹脂の組み合わせとしては、特に限定されないが、融点差が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。融点差を有することで、複合繊維に熱接着性を付与することができ、接着剤などの肌への刺激性を少なからず有する成分を用いずに不織布化できることから、肌への刺激性を低減することが可能となる。具体的な高融点成分/低融点成分の組み合わせとしては、PP/HDPE、PP/Co-PP、ポリエチレンテレフタレート(PET)/HDPE、PET/LLDPE、PET/共重合ポリエチレンテレフタレート(Co-PET)、PET/PP、またはポリ乳酸(PLA)/HDPEを例示できるが、風合い、原料コスト、生産安定性などの観点から、PP/HDPEまたはPET/HDPEの組み合わせであることが好ましい。また、複合繊維の熱接着性の観点から、複合繊維の表面に低融点成分が50面積%以上占めていることが好ましく、70面積%以上占めていることがより好ましい。
【0025】
また、高融点成分と低融点成分の体積比としては、特に限定されないが、高融点成分の比率が大きいと、不織布や繊維製品の風合いが向上する傾向にあり、低融点成分の比率が大きいと、複合繊維同士の接着点強度が向上して強度が高い不織布が得られる傾向にある。かかる観点から、高融点成分と低融点成分の体積比は、20/80~80/20であることが好ましく、30/70~70/30であることがより好ましい。
【0026】
繊維の断面形状は、特に限定されず、円や楕円などの丸型、三角や四角などの角型、星型や八葉型などの異型、または分割や中空などのいずれも使用することができる。また、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、または可塑剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0027】
繊維の繊度は、特に限定されず、0.6~5.0dtexを例示できる。特に紙おむつなど吸収性物品の表面材に用いる場合、繊維をより低い繊度とすることで、不織布や繊維製品の風合いが良好となる。さらに、繊度が低いと風合いが滑らかになることから、肌との摩擦が低減し、かぶれ等を抑制できる。一方、加工性、ハンドリング性、生産コストなどの観点から、ある程度の繊度を有することが好ましい。かかる観点から、繊維の繊度は、1.3~2.6dtexがより好ましい。
【0028】
(不織布)
本発明の不織布は、上述した繊維を含んでいるため、優れた抗菌性を有し、嵩高で風合いが滑らかであり、低コストで得ることができる。
【0029】
本発明の不織布は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて本発明の繊維以外の繊維を含んでいてもよく、その割合は、特に限定されないが、不織布重量に対して1~30重量%とすることができる。本発明の繊維以外の繊維の割合が1重量%以上であれば、使用に見合う効果が得られ、30重量%以下であれば、満足できる抗菌性が得られる他、繊維の分散不良や排出性などのカード加工工程で生じる不具合を低減できる。この際、不織布全体での成分Aの付着量を0.02重量%以上とし、成分Bの付着量を0.01重量%以上とすることが好ましい。具体的には、繊維重量に対して、成分Aが0.06重量%、成分Bが0.05重量%付着した繊維を70重量%と、成分Aも成分Bも付着していない繊維を30重量%とを混合した場合、成分Aが不織布全体の0.02重量%以上となるため、抗菌性に優れる。また、成分Bが不織布全体の0.01重量%以上となるため、カード加工工程での不具合を低減できる。本発明の繊維以外の繊維としては、成分Aおよび成分Bが上述した付着量の範囲外である、天然繊維(コットンなど)、再生繊維(レーヨンなど)、半合成繊維(アセテートなど)、合成繊維(ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、もしくはナイロン)、または複合繊維を例示できる。
【0030】
本発明の不織布は、一種類の(単層の)不織布であっても、繊度、成分、密度などが異なる2種類以上の不織布の積層体であってもよい。2種類以上の不織布の積層体である場合、例えば、繊度や成分の異なる繊維から構成された不織布を積層することによって、繊維間に形成される隙間の大きさや親水性の度合いが変化する不織布とし、風合いや親水性などをコントロールすることができる。
【0031】
本発明の不織布は、特に限定されないが、本発明の繊維を含まないシート(本発明の不織布以外のシート)との積層体であってもよい。本発明の繊維を含まないシートとしては、ウェブ、スルーエアー不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、フィルム、メッシュ、ネット、または織編物を例示できる。このようなシートと積層することで、風合い、耐久親水性、強度などの各種物性をコントロールすることができる。このような積層体を得る方法としては、本発明の繊維を含むウェブと、本発明の繊維を含まないウェブとを積層し、スルーエアー法などによって積層一体化する方法、本発明の不織布と、本発明の繊維を含まないシートとを別々に準備し、接着剤やカレンダー加工などによって積層一体化する方法を例示できる。
【0032】
本発明の不織布は、本発明の効果を損なわない範囲で、制電加工、撥水加工、親水加工、抗菌加工、紫外線吸収加工、近赤外線吸収加工、またはエレクトレット加工などを目的に応じて施されていてもよい。
【0033】
不織布の目付は、特に限定されないが、8~40g/mとすることができ、10~30g/mであることがより好ましい。
【0034】
不織布の厚みは、特に限定されないが、0.2~4.0mmとすることができ、0.4~2.0mmであることがより好ましい。
【0035】
不織布の抗菌活性値は、特に限定されないが、抗菌活性値が2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。抗菌活性値の評価方法は、実施例にて説明する。
【0036】
本発明の不織布は、特に限定されず、おむつ、ナプキン、または失禁パットなどの吸収性物品、マスク、ガウン、または術衣などの衛生材、壁用シート、障子紙、または床材などの室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、または生ごみ用カバーなどの生活関連材、使い捨てトイレまたはトイレ用カバーなどのトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、またはペット用タオルなどのペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、またはインクタンク用吸着剤などの産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など、抗菌性が要求される様々な繊維製品に好適に使用することができる。特に、おむつ、ナプキン、または失禁パットなどの風合いの滑らかさが重視される吸収性物品の表面材に好適である。
【0037】
(繊維の製造方法)
本発明の繊維の製造方法は、特に限定されないが、成分Aと成分Bを混合した繊維処理剤を繊維に付着させる方法、成分Bを繊維に付着させた上から成分Aを付着(上塗り)させる方法を例示できる。また、付着させる方法は、特に限定されず、繊維の紡糸工程後、延伸工程後、または乾燥工程後に、オイリングロールとの接触、浸漬槽への浸漬、またはスプレー噴霧などの公知の方法により付着させることができる。中でも、紡糸工程後または延伸工程後に、成分Aと成分Bを混合した繊維処理剤を、オイリングロールとの接触により繊維に付着させる方法を採用すると、成分Aおよび成分Bを均一に付着させることができ、本発明の効果が一層顕著になるため好ましい。
【0038】
(不織布の製造方法)
本発明の不織布の製造方法は、特に限定されないが、カード法により、上述した本発明の繊維を含むウェブを作製し、得られたウェブをスルーエアー法、スパンレース法、またはニードルパンチ法により、ウェブを一体化する方法を例示できる。本発明の不織布は、カード法でウェブを作製するため、風合いが滑らかで嵩高いという特徴を有する。ウェブを一体化する方法は、風合いが滑らかになるスルーエアー法であることが好ましい。なお、本発明において、「ウェブ」とは、シート状を保持できる程度に繊維が緩く絡まった状態の繊維集合体を言い、繊維同士が接着していない状態、または繊維同士がしっかり絡んでいない状態を意味する。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。尚、実施例中に示した物性値の測定方法または定義を以下に示す。
【0040】
<繊維処理剤>
本発明の繊維に付着させる繊維処理剤(1)~(12)の組成を表1に示す。なお、表1の各成分の数値は繊維処理剤中の重量%を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1中の繊維処理剤の成分を以下のように略号で示す。
A1:ε-ポリリジン
B1:1-(2-ヒドロキシエチル)-1-エチル-2-ペンタデシル-2-イミダゾリウムエチル硫酸エステル塩
B2:トリメチルテトラデシルアンモニウムクロリド
C1:ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル
C2:ステアリン酸アミドEO(20)付加物
C3:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C=12~15)
C4:ヒマシ硬化油オレイン酸付加物
C5:炭素数14~18の脂肪酸(ただし、炭素数18の脂肪酸は不飽和脂肪酸)の(モノ、ジ)グリセリド
D1:ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム
D2:スルホコハク酸ジオクチルエステルナトリウム塩
他1:ポリエーテル化合物(EO(20)・PO(10))
他2:(-CO-)を繰り返し単位とするポリエーテルと、(-C10COO-)を繰り返し単位とするポリエステルのブロック共重合体
他3:ポリオキシアルキレン変性シリコーン
他4:トリメチロールプロパンPO・EО共重合体付加物
【0043】
<繊維の繊度>
JIS L 1015に準拠し、繊維の繊度を測定した。
【0044】
<繊維処理剤の付着量>
繊維をローラーカード試験機にてウェブとしたもの2gを用いて、インテック株式会社製迅速残脂抽出装置ОC-1型で測定を行った。抽出溶媒としてはメタノール25mlを用いた。底部の孔より滴下した液体を加熱したアルミ皿で受け、メタノールを蒸発させた。アルミ皿にある残留物の重量(g)を測定し、以下の式により付着量を算出した。
付着量(重量%)=(残留物の重量(g)/2(g))×100
【0045】
<成分A、成分B、成分C、成分Dおよびその他成分の付着量>
繊維処理剤の付着量と表1の組成比率から、各成分の付着量を算出した。
【0046】
<抗菌性試験>
JISL1902:2015 菌液吸収法に準じて、抗菌性試験を行った。UV照射により滅菌した不織布に対し、試験菌液を均一に接種して、滅菌したキャップを締め付けた。これを37±1℃で18時間培養し、培養後の生菌数を測定した。試料には標準綿布と各実施例で作製した不織布の2種類を用い、試験菌としては大腸菌(Escherichia coli NBRC3301)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)を用いた。そして、以下の式により抗菌性の指標である抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値=(logC-logC)-(logT -logT)
ここで、logC:標準布の接種直後に回収した菌数の平均値、logC:標準布の18時間培養後回収した菌数の平均値、logT:加工布の接種直後に回収した菌数の平均値、logT:加工布の18時間培養後回収した菌数の平均値を示す。
抗菌性は、以下の基準で判断した。
◎:大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値のいずれか小さい方が4以上
〇:大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値のいずれか小さい方が2以上、4未満
×:大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値のいずれか小さい方が2未満
【0047】
<カード加工性>
繊維をローラーカード機に通過させた時に、原綿の絡みが弱く舞い上がってしまう現象(フライ)や、静電気によりロールからウェブが排出されない現象、ウェブに繊維の固まり(ネップ)が生じる現象を目視で確認し、以下の判断基準でカード加工性の評価を行った。
〇:8時間以上運転しても、フライ、ネップ、または静電気によるカード加工性不良の現象が発生しなかった。
×:運転開始から8時間未満で、フライ、ネップ、または静電気によるカード加工性不良の現象が発生した。
【0048】
[実施例1]
高密度ポリエチレンを鞘側に、ポリエチレンテレフタレートを芯側に配した同心鞘芯型の複合繊維を体積比50/50で溶融紡糸した。延伸工程を経た後、繊維処理剤(1)の付着量が繊維重量に対して0.5重量%程度となるように、繊維処理剤(1)をイオン交換水で希釈した水溶液をオイリングロールに接触させて、繊維表面に付着させた。その後、捲縮を付与して乾燥させ、繊維長51mmにカットすることで繊維を得た。
次いで、該繊維をローラーカード機にてカードウェブとし、このウェブをサクションドライヤーにて130℃で加工して不織布を得た。
【0049】
[実施例2]
高密度ポリエチレンを鞘側に、ポリプロピレンを芯側に配した同心鞘芯型の複合繊維を体積比50/50で溶融紡糸した。延伸工程を経た後、捲縮を付与し、繊維処理剤(1)の付着量が繊維重量に対して0.5重量%程度となるように、繊維処理剤(1)をイオン交換水で希釈した水溶液を噴霧することで、繊維表面に付着させた。その後、乾燥させ、繊維長51mmにカットして繊維を得た。次いで、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0050】
[実施例3~5、比較例1~8]
表2に示す通り、繊維処理剤を変更した以外は、実施例1と同様にして繊維及び不織布を得た。
【0051】
実施例1~5、比較例1~8で得られた繊維の繊度、各成分の付着量、抗菌性、およびカード加工性の結果を表2および表3に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表2の結果、実施例1、3、4に対して、比較例4は成分Aを含んでおらず、比較例8は成分Aの付着量が0.01重量%と少ないため抗菌性が低かった。このことから、成分Aが繊維重量に対して0.02重量%以上付着している場合、優れた抗菌性を示すことがわかる。また、成分Bが付着していない比較例5はカード加工性が悪かった。 そして、成分Aおよび成分Bが付着していない比較例6は、抗菌性、カード加工性いずれも不良であった。
このことから、優れた抗菌性およびカード加工性を示すためには、成分Aおよび成分Bの両方が所定量付着していることが必要である。
また、成分Dが多く付着された比較例1~3では、抗菌性が低かった。これは、成分Dによってポリリジンの抗菌効果が阻害されたためと考えられる。
また、実施例1と実施例2の対比から、繊維への付着成分が同等でも、付着方法によって抗菌性に差があり、実施例1の方法では付着の均一性が向上するために高い抗菌効果が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の抗菌繊維は、優れた抗菌性とカード加工性を有し、かつ低コストで得られるため、おむつ、ナプキン、または失禁パットなどの吸収性物品、マスク、ガウン、または術衣などの衛生材、壁用シート、障子紙、または床材などの室内内装材、カバークロス、清掃用ワイパー、または生ごみ用カバーなどの生活関連材、使い捨てトイレまたはトイレ用カバーなどのトイレタリー製品、ペットシート、ペット用おむつ、またはペット用タオルなどのペット用品、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材、またはインクタンク用吸着剤などの産業資材、一般医療材、寝装材、介護用品など、抗菌性と風合いの滑らかさが要求される様々な繊維製品に好適に使用することができる。