(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126056
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】両回転式スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
F04C18/02 311M
F04C18/02 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034189
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】管原 彬人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 友次
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕之
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭史朗
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA13
3H039BB05
3H039CC02
3H039CC08
3H039CC11
3H039CC32
3H039CC35
(57)【要約】
【課題】軸受によって回転可能に支持される被支持部が軸受荷重に耐えることができ、かつロータの耐久性を低下させることなく駆動スクロールに対するロータの抜け止めを実現可能な両回転式スクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】駆動スクロール30における駆動軸心R1方向の一方側において、駆動端板31の圧縮室55とは反対側の端面311に駆動端板31よりも高強度の軸受カバー体36が固定され、駆動スクロール30における駆動軸心R1方向の他方側において、駆動周壁32に規制部811が設けられている。軸受カバー体36は被支持部38を一体に有する。駆動機構10は、駆動スクロール30を外周側から囲みつつ駆動スクロール30の外周面に配置されたロータ11を有する。ロータ11は、駆動軸心R1方向の一方側への移動が軸受カバー体36で規制され、駆動軸心方向の他方側への移動が規制部811で規制される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備え、
前記駆動スクロールは、前記駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動され、
前記従動スクロールは、前記駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで前記駆動スクロール及び前記従動機構によって回転従動され、
前記駆動スクロールは、前記駆動軸心と交差する方向に延びる駆動端板と、前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって筒状に突出する駆動周壁と、前記駆動周壁内で前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって渦巻状に突出する駆動渦巻体とを有し、
前記従動スクロールは、前記従動軸心と交差する方向に延びる従動端板と、前記従動端板から前記駆動スクロールに向かって渦巻状に突出する従動渦巻体とを有し、
前記駆動スクロール及び前記従動スクロールは、前記駆動渦巻体と前記従動渦巻体とが互いに対向することで圧縮室を形成するとともに、前記回転駆動及び前記回転従動によって前記圧縮室の容積を変化させる両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の一方側において、前記駆動端板の前記圧縮室とは反対側の端面に前記駆動端板よりも高強度の軸受カバー体が固定されるとともに、前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の他方側において、前記駆動周壁に規制部が設けられ、
前記軸受カバー体は、軸受を介して前記ハウジングに回転可能に支持された被支持部を一体に有し、
前記駆動機構は、筒状をなし、前記駆動スクロールを外周側から囲みつつ前記駆動スクロールの外周面に配置されたロータを有し、
前記ロータは、前記駆動軸心方向の前記一方側への移動が前記軸受カバー体で規制されるとともに、前記駆動軸心方向の前記他方側への移動が前記規制部で規制されていることを特徴とする両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記駆動スクロールは、前記駆動端板及び前記駆動周壁に設けられ、その外周面に前記ロータが配置されたロータ収容部と、前記駆動周壁に設けられ、前記ロータ収容部よりも大きい外径の周壁肩部とを有し、
前記周壁肩部における前記駆動軸心方向の前記一方側を向く肩部端面が前記規制部を構成している請求項1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記軸受カバー体は磁性体よりなり、
前記軸受カバー体と前記ロータとの間には、非磁性体よりなる中間部材が介在されている請求項1又は2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記軸受カバー体は非磁性体よりなる請求項1又は2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記駆動端板の前記端面と、前記端面と対向する前記軸受カバー体の対向面とが面接触している請求項1又は2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は両回転式スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の両回転式スクロール型圧縮機が開示されている。この両回転式スクロール型圧縮機は、駆動機構、駆動スクロール、従動機構、従動スクロール及びハウジングを備えている。
【0003】
駆動スクロールは、駆動機構によって駆動軸心周りで回転駆動される。従動スクロールは、駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで駆動スクロール及び従動機構によって回転従動される。
【0004】
駆動スクロールは、駆動端板、駆動周壁及び駆動渦巻体を有している。駆動端板は、駆動軸心と交差する方向に延びている。駆動周壁は、駆動端板から従動スクロールに向かって筒状に突出している。駆動渦巻体は、駆動周壁内で駆動端板から従動スクロールに向かって渦巻状に突出している。
【0005】
従動スクロールは、従動端板及び従動渦巻体を有している。従動端板は、従動軸心と交差する方向に延びている。従動渦巻体は、従動端板から駆動スクロールに向かって渦巻状に突出している。
【0006】
駆動スクロール及び従動スクロールは、駆動渦巻体と従動渦巻体とが互いに対向して圧縮室を形成するとともに、回転駆動及び回転従動によって圧縮室の容積を変化させる。
【0007】
駆動端板及び従動端板には、圧縮室の背面側において、ハウジングに対して軸受を介して回転可能に支持される被支持部が一体に形成されている。
【0008】
また、駆動機構は、筒状をなし、駆動スクロールを外周側から囲みつつ駆動スクロールに固定されたロータを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の両回転式スクロール型圧縮機では、駆動スクロールに対してロータが駆動軸心方向に抜けないようにする必要がある。この際、例えばボルトを利用してロータの抜け止めをしようとすると、ボルト穴の形成によりロータの強度が低下するため、ロータの耐久性が低下するおそれがある。
【0011】
一方、軽量化の観点より、例えば駆動スクロールをアルミニウム合金製とする場合がある。この場合、駆動端板に一体に設けられるとともに軸受によって回転可能に支持された被支持部が強度的に軸受荷重に耐えられなくなるおそれがある。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、軸受によって回転可能に支持される被支持部が軸受荷重に耐えることができ、かつロータの耐久性を低下させることなく駆動スクロールに対するロータの抜け止めを実現可能な両回転式スクロール型圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機は、ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備え、
前記駆動スクロールは、前記駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動され、
前記従動スクロールは、前記駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで前記駆動スクロール及び前記従動機構によって回転従動され、
前記駆動スクロールは、前記駆動軸心と交差する方向に延びる駆動端板と、前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって筒状に突出する駆動周壁と、前記駆動周壁内で前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって渦巻状に突出する駆動渦巻体とを有し、
前記従動スクロールは、前記従動軸心と交差する方向に延びる従動端板と、前記従動端板から前記駆動スクロールに向かって渦巻状に突出する従動渦巻体とを有し、
前記駆動スクロール及び前記従動スクロールは、前記駆動渦巻体と前記従動渦巻体とが互いに対向することで圧縮室を形成するとともに、前記回転駆動及び前記回転従動によって前記圧縮室の容積を変化させる両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の一方側において、前記駆動端板の前記圧縮室とは反対側の端面に前記駆動端板よりも高強度の軸受カバー体が固定されるとともに、前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の他方側において、前記駆動周壁に規制部が設けられ、
前記軸受カバー体は、軸受を介して前記ハウジングに回転可能に支持された被支持部を一体に有し、
前記駆動機構は、筒状をなし、前記駆動スクロールを外周側から囲みつつ前記駆動スクロールの外周面に配置されたロータを有し、
前記ロータは、前記駆動軸心方向の前記一方側への移動が前記軸受カバー体で規制されるとともに、前記駆動軸心方向の前記他方側への移動が前記規制部で規制されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機では、駆動スクロールにおける駆動軸心方向の一方側において、駆動端板の圧縮室とは反対側の端面に軸受カバー体が固定されるとともに、駆動スクロールにおける駆動軸心方向の他方側において、駆動周壁に規制部が設けられている。そして、駆動スクロールの外周面に配置されたロータは、駆動軸心方向の一方側への移動が軸受カバー体で規制されるとともに、駆動軸心方向の他方側への移動が規制部で規制されている。このため、軸受カバー体及び規制部により、駆動スクロールに対してロータが駆動軸心方向に抜け出ることを防ぐことができる。
【0015】
この際、ボルト穴の形成等によりロータの強度が低下することがなく、ひいてはロータの耐久性が低下することもない。
【0016】
また、この両回転式スクロール型圧縮機では、軸受を介してハウジングに回転可能に支持された被支持部が軸受カバー体に設けられており、この軸受カバー体は駆動端板よりも高強度である。このため、被支持部は軸受荷重に耐えることができる。
【0017】
したがって、本発明の両回転式スクロール型圧縮機によれば、軸受によって回転可能に支持される被支持部が軸受荷重に耐えることができ、かつロータの耐久性を低下させることなく駆動スクロールに対するロータの抜け止めを実現できる。
【0018】
駆動スクロールは、駆動端板及び駆動周壁に設けられ、その外周面にロータが配置されたロータ収容部と、駆動周壁に設けられ、ロータ収容部よりも外径の大きい周壁肩部とを有していることが好ましい。そして、周壁肩部における駆動軸心方向の一方側を向く肩部端面が規制部を構成していることが好ましい。
【0019】
この場合、ロータ収容部に配置されたロータは、駆動軸心方向の一方側への移動が軸受カバー体により規制され、駆動軸心方向の他方側への移動が周壁肩部の肩部端面により規制される。
【0020】
軸受カバー体は磁性体よりなり、軸受カバー体とロータとの間には、非磁性体よりなる中間部材が介在されていることが好ましい。
【0021】
この場合、低コストの磁性体により軸受カバー体を構成したとしても、軸受カバー体を介する磁束漏れの発生を中間部材により抑えることができる。
【0022】
軸受カバー体は非磁性体よりなることが好ましい。
【0023】
この場合、軸受カバー体を介する磁束漏れの発生を防ぐことができる。
【0024】
駆動端板の圧縮室とは反対側の端面と、この端面と対向する軸受カバー体の対向面とが面接触していることが好ましい。
【0025】
この場合、駆動端板に対して軸受カバー体を正しい姿勢で固定するのに有利となり、駆動軸心と被支持部との同軸性を確保するのに有利となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機によれば、軸受によって回転可能に支持される被支持部が軸受荷重に耐えることができ、かつロータの耐久性を低下させることなく駆動スクロールに対するロータの抜け止めを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機に係り、
図1のA-A線断面図である。
【
図3】
図3は、実施例2の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。
【0029】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機(以下、単に圧縮機という)は、ハウジング60、電動モータ10、駆動スクロール30、従動スクロール40及び従動機構20を備えている。電動モータ10は、本発明における「駆動機構」の一例である。この圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両用空調装置を構成している。
【0030】
本実施例では、
図1に示す実線矢印によって、圧縮機の前後方向を規定している。なお、前後方向は説明の便宜のための一例であり、圧縮機は搭載される車両に応じて、自己の姿勢を適宜変更可能である。
【0031】
ハウジング60は、ハウジング本体61とカバー65とによって構成されている。ハウジング本体61は、外周壁62及び底壁63を有する有底筒状部材である。外周壁62は、駆動軸心R1を中心とする円筒状をなしており、内周面62Bを有している。駆動軸心R1は前後方向と平行である。以下の説明において、前方は駆動軸心R1方向の一方のことであり、後方は駆動軸心R1方向の他方のことである。
【0032】
底壁63は、ハウジング本体61の後端に位置している。底壁63は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。底壁63の外周縁は、外周壁62の後端に接続している。底壁63の内面中央には、従動軸心R2を中心として前方に向かって突出する円柱状の第2軸支部64が凸設されている。従動軸心R2は、駆動軸心R1に対して偏心しつつ駆動軸心R1と平行に延びている。第2軸支部64には、ベアリング71の内輪が外嵌している。
【0033】
なお、ハウジング本体61の後方には、コネクタ部が設けられたインバータケースが結合されている。インバータケース内には、回路基板及びスイッチング素子等を有するインバータ回路が収容されている。インバータ回路は、コネクタを通じて車両のバッテリと電気的に接続されるとともに、底壁63に設けられた気密通路を通じて後述するステータ17と電気的に接続されている。これにより、インバータ回路は、バッテリから供給された直流電流を交流電流に変換しつつステータ17に給電を行う。なお、コネクタ部、インバータケース、インバータ回路及びバッテリの図示は省略する。
【0034】
カバー65は、ハウジング本体61の前方に配置されている。カバー65は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。カバー65は、その外周縁がハウジング本体61の外周壁62の前端に当接する状態で、図示しないボルトによって外周壁62に締結されている。これにより、カバー65は、ハウジング本体61を前方から塞いでいる。こうして、ハウジング本体61内に吸入室61Aが形成されている。
【0035】
カバー65の内面中央には、駆動軸心R1を中心とする円筒状の第1軸支部66が凸設されている。第1軸支部66には、ニードルベアリング72の外輪が内嵌している。ニードルベアリング72は、本発明における「軸受」の一例である。
【0036】
カバー65には、吸入連絡口65A及び吐出連絡口65Bが形成されている。吸入連絡口65Aは、カバー65における外周縁と第1軸支部66との間に位置し、駆動軸心R1と平行な方向においてカバー65を貫通している。吸入連絡口65Aは、吸入室61Aと圧縮機の外部とを連通している。吸入連絡口65Aには、配管が接続されている。これにより、吸入室61Aには、配管を通じて蒸発器を経た低温低圧の冷媒ガスが吸入される。
【0037】
吐出連絡口65Bは、カバー65の中央の位置で、第1軸支部66内に開口するように、駆動軸心R1と平行な方向においてカバー65を貫通している。吐出連絡口65Bには、図示しない配管が接続されており、吐出連絡口65Bは、後述する吐出部38Bに吐出された冷媒ガスを凝縮器に向けて流通させる。なお、配管、蒸発器及び凝縮器の図示は省略する。
【0038】
電動モータ10は吸入室61A内に収容されている。これにより、吸入室61Aは、電動モータ10を収容するモータ室を兼ねている。電動モータ10は、ステータ17及びロータ11によって構成されている。
【0039】
ステータ17は、駆動軸心R1を中心とする円筒状であり、巻き線18を有している。ステータ17は、ハウジング本体61の外周壁62の内周面62Bに嵌入することにより、ハウジング本体61、ひいてはハウジング60に固定されている。
【0040】
ロータ11は、駆動軸心R1周りで円筒状をなしており、ステータ17内に配置されている。ロータ11の中心Oは、駆動軸心R1と一致する。ロータ11は、前面111と、前面111の反対側に位置する後面112とを有している。詳細な図示を省略するものの、ロータ11は、ステータ17に対応する複数個の永久磁石12と、各永久磁石12を固定する積層鋼板とで構成されている。
図2に示すように、複数個の永久磁石12は、駆動スクロール30の周方向に等間隔で配置されている。
【0041】
駆動スクロール30は、駆動端板31と、駆動周壁32と、駆動渦巻体33とを有している。駆動端板31と、駆動周壁32と、駆動渦巻体33とは一体に形成されている。駆動スクロール30は、非磁性体よりなる。具体的には、駆動スクロール30はアルミニウム合金製である。
【0042】
駆動端板31は、駆動軸心R1と直交して略円板状に延びている。駆動端板31は、前面311と、前面311の反対側に位置する後面312とを有している。前面311は、本発明における「駆動端板の圧縮室とは反対側の端面」に相当している。
【0043】
駆動端板31の前面311には、吐出弁室34が形成されている。吐出弁室34は、前面311が後述する圧縮室55に向かって部分的に凹む凹部により形成されている。吐出弁室34は、後述する吐出弁機構56を収容可能なように吐出弁機構56の外形状にほぼ対応した内面形状を有している。また、駆動端板31の中央付近には、駆動端板31を前後方向に貫通する吐出口35が形成されている。吐出口35は圧縮室55と吐出弁室34とを連通している。
【0044】
吐出弁室34内には吐出弁機構56が配設されている。吐出弁機構56は、吐出リード弁57、リテーナ58及び固定ボルト59を有している。吐出リード弁57及びリテーナ58が固定ボルト59によって吐出弁室34の底面に固定されている。吐出リード弁57は、吐出口35を開閉可能となっている。また、リテーナ58は、吐出リード弁57の開度を調整可能となっている。
【0045】
駆動渦巻体33は、駆動周壁32の内側に位置している。駆動渦巻体33は、駆動端板31の後面312から後方に向かって駆動軸心R1と平行に延びている。駆動渦巻体33は、インボリュート曲線に基づいて形成されており、駆動軸心R1周りで渦巻状をなしている。
図2に示すように、後方から見て、駆動渦巻体33は、渦巻中心から駆動軸心R1周りで左巻きに形成されている。駆動渦巻体33における外周側の端部は駆動周壁32につながっている。なお、
図2においては、本来は後方から見えるはずの吐出口35の図示を省略している。
【0046】
駆動周壁32は、駆動端板31の外周縁から後方、すなわち従動スクロール40に向かって駆動軸心R1と平行に延びている。駆動周壁32は、駆動軸心R1を中心とする略円筒状をなしている。
【0047】
駆動スクロール30における前方側において、駆動端板31の前面311に軸受カバー体36が固定されている。軸受カバー体36は、磁性体よりなる。具体的には、軸受カバー体36は、駆動スクロール30よりも高強度の鉄系合金よりなる。
【0048】
軸受カバー体36は、カバー部37と、カバー部37に一体に形成された第1ボス38とを有している。第1ボス38は、本発明における「被軸支部」の一例である。
【0049】
カバー部37は、駆動軸心R1と直交して略円板状に延びている。カバー部37の中央には貫通孔37Bが形成されている。
【0050】
第1ボス38は、カバー部37の内周縁、すなわちカバー部37の中央から前方に向かって突出している。第1ボス38は、駆動軸心R1を中心として駆動軸心R1方向に円筒状に延びている。第1ボス38の円柱状の内部空間は吐出部38Bを構成している。なお、この圧縮機では、吐出弁室34及び吐出部38Bにより吐出室が構成されている。
【0051】
軸受カバー体36のカバー部37及び駆動スクロール30の駆動端板31は、駆動軸心R1と平行に延びる複数本のボルト50によって締結されている。このボルト50による締結状態で、駆動端板31の前面311と、前面311と前後方向に対向するカバー部37の後面371とが面接触している。カバー部37の後面371は、本発明における「対向面」に相当する。
【0052】
従動スクロール40は、従動端板41と、従動渦巻体42とを有している。従動端板41と、従動渦巻体42とは一体に形成されている。従動スクロール40は、非磁性体よりなる。具体的には、従動スクロール40はアルミニウム合金製である。
【0053】
従動端板41は、従動軸心R2と直交して略円板状に延びている。従動端板41は、前面411と、前面411の反対側に位置する後面412とを有している。後面412の中央には、底壁63に向かって突出する第2ボス43が形成されている。第2ボス43は、従動軸心R2を中心とする円筒状をなしている。
【0054】
従動端板41には、吸入口44が形成されている。吸入口44は、第2ボス43よりも外周となる位置で、従動端板41を従動軸心R2方向、すなわち前後方向に貫通している。
【0055】
従動渦巻体42は、従動端板41の前面411から前方に向かって従動軸心R2と平行に延びている。従動渦巻体42は、インボリュート曲線に基づいて形成されており、従動軸心R2周りで渦巻状をなしている。より具体的には、
図2に示すように、後方から見て、従動渦巻体42は、渦巻中心から従動軸心R2周りで左巻きに形成されている。
【0056】
従動機構20は、4つの自転阻止ピン21と4つのリング22とで構成されている。なお、自転阻止ピン21及びリング22は、それぞれ3つ以上であればその個数は適宜設計可能である。また、
図1では、各自転阻止ピン21及び各リング22について、それぞれ2つを図示している。
【0057】
各自転阻止ピン21は、駆動スクロール30の後述する周壁肩部81の後面に固定されている。各リング22は、各自転阻止ピン21に対向するように従動端板41の前面411に固定されている。
【0058】
この実施例1の圧縮機では、駆動端板31及び駆動周壁32の外周面にロータ収容部80が設けられている。ロータ収容部80は、駆動端板31の前面311から後方に向かって延びて駆動周壁32に及んで設けられている。ロータ収容部80の外周面はロータ11の内周面に対応する円柱形状をなしている。ロータ収容部80の外周面にはロータ11が配置されている。ロータ収容部80の外径はロータ11の内径よりも若干小さい。すなわち、ロータ11とロータ収容部80との嵌め合いは、すきまばめとされている。
【0059】
また、駆動周壁32の後端部の外周面には、環状の周壁肩部81が設けられている。周壁肩部81は、ロータ収容部80の後方に、ロータ収容部80と連続して設けられている。周壁肩部81の外径はロータ収容部80の外径よりも大きい。具体的には、周壁肩部81の外径は、ロータ収容部80の外径よりも、ロータ11の径方向の厚さ分だけ大きい。周壁肩部81の前面、すなわち周壁肩部81の前方を向く肩部端面811は、ロータ11の後面112に当接している。肩部端面811は、本発明における「規制部」の一例である。
【0060】
図2に示すように、駆動スクロール30は、駆動スクロール30の周方向において、第1領域Sと、第1領域S以外の第2領域とを外周面に有している。第1領域Sは、駆動渦巻体33における外周側の端部と、駆動周壁32との接続部82を含む。また、第1領域Sは、駆動周壁32の一部を含む。第2領域は、第1領域Sにおける駆動周壁32以外の駆動周壁32を含む。
【0061】
そして、第1領域Sにおける駆動周壁32は、駆動スクロール30の径方向の内方を向く第1内面83が第2領域における駆動周壁32の径方向の内方を向く第2内面84よりも径方向の内方に位置する肉厚部85とされている。
【0062】
また、第1領域Sにおける駆動周壁32の第1内面83は、駆動渦巻体33の内側面331が描くインボリュート曲線がそのまま延びたインボリュート曲線に沿って形成されている。すなわち、駆動渦巻体33の内側面331が描くインボリュート曲線がそのまま延びたインボリュート曲線と、第1領域Sにおける駆動周壁32の第1内面83が描くインボリュート曲線とが一致している。このインボリュート曲線は第1領域Sの全体に延びているが、インボリュート曲線の巻き終わりは第2領域までは延びていない。
【0063】
第1領域Sにおける駆動スクロール30の径方向の外方を向く外面86には、凹部87が形成されている。駆動スクロール30の外面86に径方向に対向するロータ11の対向内面113には、凹部87に係合する凸部114が形成されている。
【0064】
凹部87及び凸部114は、略矩形状の一定の断面形状で前後方向に延びている。凹部87及び凸部114は、駆動端板31の前面311の位置から周壁肩部81の肩部端面811の位置まで前後方向に延びている。また、凹部87及び凸部114は、駆動スクロール30の径方向において、一つの永久磁石12に対向して配置されている。すなわち、凹部87及び凸部114は、隣り合う永久磁石12同士の隙間を避けて配置されている。
【0065】
ロータ収容部80におけるロータ11の前方にはエンドリング51が配置されている。エンドリング51は、本発明における「中間部材」の一例である。エンドリング51は、非磁性体よりなる。具体的には、エンドリング51はアルミニウム合金製である。エンドリング51は、軸受カバー体36とロータ11との間に介在され、カバー部37の後面371とロータ11の前面111とにより挟持されている。
【0066】
以上のように構成されたこの圧縮機では、図示しないインバータ回路がステータ17に給電を行いつつ電動モータ10の作動制御を行うことにより、電動モータ10が作動する。これによりロータ11が回転することで、吸入室61A内において、駆動スクロール30が駆動軸心R1周りで回転駆動する。つまり、ロータ11を一体的に含む駆動スクロール30が回転駆動する。この際、従動機構20において、各自転阻止ピン21は各リング22の内周面に摺接しつつ各リング22を各自転阻止ピン21の中心周りで相対的に回転させる。こうして、従動機構20は、従動スクロール40に駆動スクロール30のトルクを伝達する。
【0067】
その結果、従動スクロール40は、従動軸心R2周りで駆動スクロール30及び従動機構20によって回転従動される。この際、従動機構20は、従動スクロール40が自転することを規制する。これにより、駆動スクロール30及び従動スクロール40は、その回転駆動及びその回転従動によって従動スクロール40が駆動スクロール30に対して駆動軸心R1周りで相対的に公転することで、圧縮室55の容積を変化させる。
【0068】
このため、吸入室61A内の冷媒は、吸入口44によって圧縮室55に吸入され、圧縮室55で圧縮される。そして、圧縮室55で吐出圧力まで圧縮された冷媒は、吐出口35から吐出弁室34に吐出され、吐出部38Bを通過して、吐出連絡口65Bから凝縮器に吐出される。こうして、車両用空調装置による空調が行われる。
【0069】
ここで、この圧縮機では、駆動スクロール30における前方側において、駆動端板31の前面311に軸受カバー体36が固定されるとともに、駆動スクロール30における後方側において、駆動周壁32に周壁肩部81が設けられている。そして、駆動スクロール30におけるロータ収容部80に配置されたロータ11は、前方側への移動が軸受カバー体36のカバー部37で規制されるとともに、後方側への移動が周壁肩部81の肩部端面811で規制されている。このため、軸受カバー体36及び周壁肩部81により、駆動スクロール30に対してロータ11が前後方向に抜け出ることを防ぐことができる。
【0070】
この際、抜け止めのためにロータ11にボルト穴等を形成していないため、ロータ11の強度が低下することがなく、ひいてはロータ11の耐久性が低下することもない。
【0071】
そして、ニードルベアリング72からの軸受荷重を受ける第1ボス38が軸受カバー体36に一体に設けられており、この軸受カバー体36は駆動端板31よりも高強度である。このため、第1ボス38はニードルベアリング72からの軸受荷重に耐えることができる。
【0072】
したがって、実施例の圧縮機によれば、ニードルベアリング72によって回転可能に支持される第1ボス38が軸受荷重に耐えることができ、かつロータ11の耐久性を低下させることなく駆動スクロール30に対するロータ11の抜け止めを実現できる。
【0073】
また、この圧縮機では、ロータ11と軸受カバー体36との間に、非磁性体よりなるエンドリング51を介在させている。このため、エンドリング51により磁束漏れを抑えることができる。その結果、コスト的に有利な鉄系合金で軸受カバー体36を構成することができる。
【0074】
さらに、この圧縮機では、駆動端板31の前面311と、前面311と前後方向に対向するカバー部37の後面371とが面接触している。このため、駆動端板31に対して軸受カバー体36を適正な姿勢で固定し易く、駆動軸心R1と第1ボス38との同軸性を確保するのに有利となる。
【0075】
また、この圧縮機では、駆動スクロール30の外面86に形成された凹部87と、ロータ11の対向内面113に形成された凸部114とが係合している。このため、ロータ11から駆動スクロール30へのトルク伝達力を凹凸係合により良好に確保することができる。
【0076】
そして、ロータ11と駆動スクロール30との圧入によってロータ11から駆動スクロール30へのトルク伝達力を確保していないため、圧入代に因り駆動スクロール30が変形することもない。また、駆動周壁32における肉厚部85に凹部87が設けられているので、凹部87を形成することに因る駆動周壁32の強度低下の影響が少ない。その結果、駆動スクロール30の変形を良好に抑えることができる。
【0077】
さらに、凹部87及び凸部114は、隣り合う永久磁石12同士の隙間を避けて配置されている。このため、凹部87及び凸部114の形成に因る磁力線の乱れを抑えることができる。
【0078】
(実施例2)
図3に示すように、実施例2の圧縮機では、実施例1の圧縮機における軸受カバー体36の代わりに軸受カバー体36Aとしている。この軸受カバー体36Aは、非磁性体よりなる。具体的には、軸受カバー体36Aは、駆動スクロール30よりも高強度の非磁性鋼としての鉄系合金よりなる。この軸受カバー体36Aは、実施例1の圧縮機における軸受カバー体36と同様、カバー部37Aと第1ボス38Aとを有している。
【0079】
そして、ロータ11と軸受カバー体36Aとの間にエンドリングを介在させていない。すなわち、ロータ11の前面111が軸受カバー体36Aのカバー部37Aの後面371に当接している。
【0080】
このため、この圧縮機では、エンドリングを省略しつつ、軸受カバー体36Aを介する磁束漏れの発生を防ぐことができる。その結果、実施例1の圧縮機と比べて、部品点数の削減を図ることができる。
【0081】
この圧縮機における他の構成及び作用は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0082】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0083】
例えば、実施例1、2の圧縮機では、駆動周壁に周壁肩部を形成して肩部端面により規制部を構成している。しかし、これに限らず、駆動周壁に非磁性体よりなるサークリップ等を取り付けることで規制部を構成してもよい。
【0084】
実施例1、2の圧縮機において、駆動端板31の前面311とカバー部37の後面371との間にガスケットを介在させてもよい。
【0085】
実施例1、2の圧縮機では、凹部87及び凸部114の凹凸係合によりロータ11から駆動スクロール30への所定のトルク伝達力を確保しているが、本発明はこれに限られない。例えば、ロータ11と駆動スクロール30とを圧入したり、ボルト、ピンやキーを利用したりすることで、所定のトルク伝達力を確保してもよい。
【0086】
実施例1、2の圧縮機では、従動機構20が自転阻止ピン21及びリング22によって構成されている。しかし、これに限らず、従動機構20は、2本のピンが1つのフリーリングの内周面に摺接するピン・リング・ピン方式、2本のピンの外周面同士が摺接するピン・ピン方式、オルダム接手を用いる方式等によって構成されていても良い。
【0087】
(付記1)
ハウジング、駆動機構、駆動スクロール、従動スクロール及び従動機構を備え、
前記駆動スクロールは、前記駆動機構によって駆動軸心周りに回転駆動され、
前記従動スクロールは、前記駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで前記駆動スクロール及び前記従動機構によって回転従動され、
前記駆動スクロールは、前記駆動軸心と交差する方向に延びる駆動端板と、前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって筒状に突出する駆動周壁と、前記駆動周壁内で前記駆動端板から前記従動スクロールに向かって渦巻状に突出する駆動渦巻体とを有し、
前記従動スクロールは、前記従動軸心と交差する方向に延びる従動端板と、前記従動端板から前記駆動スクロールに向かって渦巻状に突出する従動渦巻体とを有し、
前記駆動スクロール及び前記従動スクロールは、前記駆動渦巻体と前記従動渦巻体とが互いに対向することで圧縮室を形成するとともに、前記回転駆動及び前記回転従動によって前記圧縮室の容積を変化させる両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の一方側において、前記駆動端板の前記圧縮室とは反対側の端面に前記駆動端板よりも高強度の軸受カバー体が固定されるとともに、前記駆動スクロールにおける前記駆動軸心方向の他方側において、前記駆動周壁に規制部が設けられ、
前記軸受カバー体は、軸受を介して前記ハウジングに回転可能に支持された被支持部を一体に有し、
前記駆動機構は、筒状をなし、前記駆動スクロールを外周側から囲みつつ前記駆動スクロールの外周面に配置されたロータを有し、
前記ロータは、前記駆動軸心方向の前記一方側への移動が前記軸受カバー体で規制されるとともに、前記駆動軸心方向の前記他方側への移動が前記規制部で規制されていることを特徴とする両回転式スクロール型圧縮機。
【0088】
(付記2)
前記駆動スクロールは、前記駆動端板及び前記駆動周壁に設けられ、その外周面に前記ロータが配置されたロータ収容部と、前記駆動周壁に設けられ、前記ロータ収容部よりも大きい外径の周壁肩部とを有し、
前記周壁肩部における前記駆動軸心方向の前記一方側を向く肩部端面が前記規制部を構成している付記1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0089】
(付記3)
前記軸受カバー体は磁性体よりなり、
前記軸受カバー体と前記ロータとの間には、非磁性体よりなる中間部材が介在されている付記1又は2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0090】
(付記4)
前記軸受カバー体は非磁性体よりなる付記1又は2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0091】
(付記5)
前記駆動端板の前記端面と、前記端面と対向する前記軸受カバー体の対向面とが面接触している付記1乃至4のいずれか1項記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は車両の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0093】
10…電動モータ(駆動機構)
11…ロータ
20…従動機構
30…駆動スクロール
31…駆動端板
311…前面(端面)
32…駆動周壁
33…駆動渦巻体
80…ロータ収容部
36…軸受カバー体
37…カバー部
371…後面(対向面)
38…第1ボス(被支持部)
81…周壁肩部
811…肩部端面(規制部)
40…従動スクロール
41…従動端板
42…従動渦巻体
51…エンドリング(中間部材)
55…圧縮室
60…ハウジング
72…ニードルベアリング(軸受)
R1…駆動軸心
R2…従動軸心