(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126065
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】イオン発生素子
(51)【国際特許分類】
H01T 23/00 20060101AFI20240912BHJP
H05F 3/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01T23/00
H05F3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034205
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】394018225
【氏名又は名称】フィーサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】天野 信孝
(72)【発明者】
【氏名】高森 雅己
【テーマコード(参考)】
5G067
【Fターム(参考)】
5G067AA25
5G067DA01
5G067DA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン発生器(除電器、イオナイザー、脱臭、除菌等)に用いられる板状のイオン発生素子であり、電極の剥離による塵の発生が無く半導体製造工場等のクリーンルーム下においても使用可能なイオン発生素子を提供する。
【解決手段】板状の基板2の表面に線状の放電電極3が配設されると共に裏面に線状の誘導電極4を配設され、放電電極3と誘導電極4との間で放電してイオンを発生する構成のイオン発生素子1であって、放電電極3の表面にセラミックコーティング5が施された構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基板の表面に線状の放電電極が配設されると共に裏面に線状の誘導電極を配設され、放電電極と誘導電極との間で放電してイオンを発生する構成のイオン発生素子であって、
放電電極の表面にセラミックコーティングが施された構成であることを特徴とするイオン発生素子。
【請求項2】
セラミックコーティングに用いるファインセラミックスがアルミナであり、該アルミナが溶射によりコーティングされた構成であることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生素子。
【請求項3】
セラミックコーティングの範囲が、電極端子部分を除く板状の基板の表面の略全面であることを特徴とする請求項2に記載のイオン発生素子。
【請求項4】
コーティングされたアルミナの膜厚が8~12μmであることを特徴とする請求項3に記載のイオン発生素子。
【請求項5】
板状の基板が厚み0.5~0.8mmのセラミック製板材であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のイオン発生素子。
【請求項6】
放電電極がチタン製であり、蒸着・無電解メッキ・スパッタ・貼付けのいずれかにより基板に形成する構成であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のイオン発生素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン発生素子に関し、詳しくは、イオン発生器(除電器、イオナイザー、脱臭、除菌等)に用いられる板状のイオン発生素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からイオン発生器には、先鋭な針形状のイオン発生電極に高電圧電源により高電圧を印加して、コロナ放電を生じさせ、空気をイオン化する構成を有するイオン発生素子が多く採用されていた。
【0003】
針形状のイオン発生素子は、先端部における局所的な電界によって空気を電離させるため、イオン濃度が先端部に集中し、発生するイオン濃度分布に偏りが生じるという課題を有していた。
【0004】
また、針形状のイオン発生素子は、対極する接地電極との間で、コロナ放電を効率的に発生する必要があるため、ある一定の絶縁距離を確保することが必要となり、イオン発生を構成するためのスペースに制約があり、イオン発生器の小型化に限界が生じるという課題を有していた。
【0005】
更に、針形状のイオン発生素子は、使用するにしたがって針形状のイオン発生電極は、チリなどの堆積や物理スパッタリングによる摩耗などの影響により、コロナ放電が生じ難くなり、イオン発生効率が低下する傾向にあるため、定期的に針形状のイオン発生素子先鋭部の清掃または交換を行ない、イオン発生効率を改善するためのメンテナンス作業を強いられていた。かかるメンテナンス作業は、先鋭部を有すると共に高電圧が印加されている部分でもあるため、作業は危険かつ煩わしいものとなっていた。
【0006】
そこで本発明者は、針形状のイオン発生素子に代えて、板状のイオン発生素子を研究・開発し、先に提案した(例えば、特許文献1~4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4608630号公報
【特許文献2】特許第4917781号公報
【特許文献3】特許第4963624号公報
【特許文献4】特許第5240706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
板状のイオン発生素子は、低電圧・低消費電力でイオン発生が可能であり、針形状のように物理的な先鋭構造を持たず、フラットな形状となっているため、針形状のイオン発生素子に比べ、摩耗が少なくなる等、針形状のイオン発生素子が抱えていた問題が低減されている。
【0009】
本発明者は、かかる板状のイオン発生素子について更なる研究を続けたところ、板状のイオン発生素子であっても高圧を掛け続けることによって電極が基板から少しずつ剥がれ、針形状のものに比して頻度は低いが塵(粉塵)が生じるため、僅かな塵の発生も許されない半導体製造工場等のクリーンルーム下では使用が困難乃至は使用不可であった。
【0010】
そこで本発明の課題は、電極の剥離による塵の発生が無く半導体製造工場等のクリーンルーム下においても使用可能なイオン発生素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は下記構成を有する。
【0012】
1.板状の基板の表面に線状の放電電極が配設されると共に裏面に線状の誘導電極を配設され、放電電極と誘導電極との間で放電してイオンを発生する構成のイオン発生素子であって、
放電電極の表面にセラミックコーティングが施された構成であることを特徴とするイオン発生素子。
【0013】
2.セラミックコーティングに用いるファインセラミックスがアルミナであり、該アルミナが溶射によりコーティングされた構成であることを特徴とする上記1に記載のイオン発生素子。
【0014】
3.セラミックコーティングの範囲が、電極端子部分を除く板状の基板の表面の略全面であることを特徴とする上記2に記載のイオン発生素子。
【0015】
4.コーティングされたアルミナの膜厚が8~12μmであることを特徴とする上記3に記載のイオン発生素子。
【0016】
5.板状の基板が厚み0.5~0.8mmのセラミック製板材であることを特徴とする上記1~4のいずれかに記載のイオン発生素子。
【0017】
6.放電電極がチタン製であり、蒸着・無電解メッキ・スパッタ・貼付けのいずれかにより基板に形成する構成であることを特徴とする上記1~4のいずれかに記載のイオン発生素子。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に示す発明によれば、電極の剥離による塵の発生が無く半導体製造工場等のクリーンルーム下においても使用可能なイオン発生素子を提供することができる。
【0019】
特に、放電電極の表面をセラミックコーティングした構成により放電電極の剥離による塵の発生を防止することができるため、塵を除去する等の清掃が不要となるだけでなく、半導体製造工場等のクリーンルーム下においても問題なく使用可能である。
また、セラミックコーティングによれば、シリコンコーティングやエポキシコーティング等の他のコーティングに比してイオン発生量への影響が極めて少ない。
【0020】
請求項2に示す発明によれば、セラミックコーティングのファインセラミックとしてアルミナを用いたコーティングとすることによってイオン発生数を減少させることなくコーティング効果を発揮させることができる。
また、コーティング手段として溶射を用いることによって放電電極の防錆性・耐食性・耐薬品性等の効果が得られると共に放電電極の剥離による塵の発生を防止することができる。
【0021】
請求項3に示す発明によれば、コーティング範囲として放電電極部分のみを選択してアルミナ溶射によるコーティングするよりも、基板表面の略全面をコーティングした方が容易に且つ確実にコーティングすることができる。特に、放電電極の電極線が細く、且つコーティングの膜厚も極めて薄いため、コーティングを行う際の放電電極に対する位置調整及び範囲調整は細かく煩雑であり、またコーティングした後のコーティングされているか否かの確認作業についても同様に煩雑であるが、基板の略全面にコーティング施す構成とすることによって前記の煩雑な作業を著しく減じることができる。
【0022】
請求項4に示す発明によれば、コーティングされたアルミナの膜厚を8μm以上とすることにより放電電極の剥離による塵の発生防止効果が確実に得られ、膜厚を12μm以下とすることによりイオン発生量の減少を抑えることができる。尚、中央値である10μm程度が塵の発生防止効果が得られた上でイオン発生量も充分な量となる最適値である。
【0023】
請求項5に示す発明によれば、基板に対するアルミナ溶射によるコーティングの接着性が高い。特に、基板材として一般的であるマイカやガラスに比べて強度・耐熱性の点で極めて有効である。
【0024】
請求項6に示す発明によれば、放電電極の厚みを薄くできると共にアルミナ溶射との相性が極めて良好である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係るイオン発生素子の一実施例を示す概略7面図(概略正面図、概略背面図、概略平面図、概略底面図、概略左側面図、概略右側面図、概略正面図(コーティング部分の図示を省略))
【
図2】
図1に示すイオン発生素子の電極構成を示す概略正面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明に係るイオン発生素子の実施例について添付の図面に従って説明する。
図1及び
図2はイオン発生素子の構成について示す図である。
【0027】
本発明に係るイオン発生素子1は、
板状の基板2の表面に線状の放電電極3が配設されると共に裏面に線状の誘導電極4を配設され、放電電極3と誘導電極4との間に高圧を印加することで放電させてイオンを発生する構成であって、
放電電極3の表面にセラミックコーティング5が施された構成であること、
を主構成とするものである。
【0028】
放電電極3にセラミックコーティング5を施すことによって該放電電極3の剥離による塵の発生を防止することができるため、塵を除去する等の清掃が不要となるだけでなく、半導体製造工場等のクリーンルームのように発塵が許容されない環境下においても使用可能である。
また、セラミックコーティング5によれば、シリコンコーティングやエポキシコーティング等の他のコーティングに比してイオン発生量への影響が極めて少ない。
【0029】
セラミックコーティング5のファインセラミックとしては、イオン発生数を減少させることなく発塵防止効果を発揮させることができる点でアルミナが特に好ましい。
また、セラミックコーティング5を施す手段としては、放電電極3の防錆性・耐食性・耐薬品性等の効果が得られると共に放電電極3の剥離による塵の発生を防止効果の点から溶射が特に好ましい。
【0030】
セラミックコーティング5によるコーティング範囲としては、放電電極3部分のみを選択してアルミナ溶射によるコーティングするよりも、基板2表面の電極端子6部分を除く略全面をコーティングした方が容易に且つ確実にコーティングすることができる。特に、放電電極3の電極線が細く、且つコーティングの膜厚も極めて薄いため、コーティングを行う際の放電電極3に対する位置調整及び範囲調整は細かく煩雑であり、またコーティングした後のコーティング品質状態の確認作業についても同様に煩雑であるが、基板2の略全面にコーティング施す構成とすることによって前記の煩雑な作業を著しく減じることができる。
【0031】
コーティングされたアルミナの膜厚は8~12μmの範囲であることが好ましい。即ち、コーティングされたアルミナの膜厚が8μm以上であれば放電電極の剥離による塵の発生防止効果が確実に得られ、膜厚が12μm以下であればイオン発生量の減少を抑えることができる。尚、中央値である10μmm程度が塵の発生防止効果が得られた上でイオン発生量も充分な量となる最適値である。
【0032】
板状の基板2は、形成材料としてはセラミック、マイカ、ガラス等を挙げられるが、セラミックが最も好ましい。セラミック製の基板2は、該基板2に対するアルミナ溶射によるコーティング5の接着性が高い。特に、基板2の材料として一般的であるマイカやガラスに比べて強度・耐熱性の点で極めて有効である。
また、基板2の厚みは、0.5~0.8mm程度であることが好ましく、0.6~0.7mm程度がより好ましい。
尚、基板の幅及び長さについては適用するイオン発生器の仕様に応じて適宜決められるが、概ね、厚み0.7mm、長さ70mm・120mm・280mmの3種類、が本発明者が使用するイオン発生器に用いられる好ましい仕様サイズとして例示することができる。
【0033】
放電電極3の材質としては、導電性を有するもの、例えば、チタン、ステンレス、タングステン、ニッケル、導電性セラミックス等を挙げることができるが、チタンが最も好ましい。放電電極3をチタン製とすることによって、該放電電極3の厚みを薄くできると共にアルミナ溶射との相性が極めて良好であるためセラミックコーティング5のコーティング品質が向上する。
放電電極3をチタン製とした場合、蒸着・無電解メッキ・スパッタ・貼付けのいずれかにより基板2に高精度で微細な放電電極3を形成することができる。
【0034】
尚、誘導電極4は特に限定しないが、放電電極3と同様の構成を採ることが好ましい。
尚また、誘導電極4側のコーティングについては、アース側であるためイオン発生する必要がない等のことから製造コストが上がるコーティングは必須ではないが、コーティングによって誘導電極4の断線が抑止乃至は防止できる。従って、該誘導電極4の長寿命化を図ることができる。
【0035】
次に、下記構成を有するイオン発生素子を用いて除電速度を測定することによってイオン発生具合を確認した。尚、除電は発生したイオンを使って除電することから除電速度を測定することとイオン発生量とは実質的に等価であると想定できる。
【0036】
[イオン発生素子の構成]
(1)資料1
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:アルミナ溶射 厚さ約8μm
【0037】
(2)資料2
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:アルミナ溶射 厚さ約10μm
【0038】
(3)資料1
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:アルミナ溶射 厚さ約12μm
【0039】
(4)比較資料1
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:無し
【0040】
(5)比較資料2
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:アルミナ溶射 厚さ約6μm
【0041】
(6)比較資料3
基板:セラミック製 厚み0.7mm 幅約7mm 長さ70mm
放電電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
誘導電極:チタン製 厚さ約1μm 幅0.1~0.3mm
セラミックコーティング:アルミナ溶射 厚さ約14μm
【0042】
上記資料1~3、比較資料1~3のイオン発生素子を用い、3kVの電圧を印加し、150mmの金属プレートに帯電させた1kVが除電される速度について各々測定した。測定は、チャージプレートモニター(測定器)を用いた。
【0043】
資料1、資料2、資料3、比較資料1、比較資料2については0.2秒以下で除電することができ良好な結果が得られたが、比較資料3については除電が1.0秒超かかりイオン発生量の減少が見られた。
比較資料1については繰り返し放電によって放電電極の剥離による塵の発生が生じていた。
比較資料2については繰り返し放電によって放電電極の剥離が一部分で見られ、更なる繰り返し使用によって塵が発生するおそれがあることが判った。
塵の発生の計測は、パーティクルカウンター(微粒子計測器)を使って0.3μm以上の塵の単位体積当たりの個数を計測した。
【0044】
上記の実験結果から、放電電極の表面にセラミックコーティングを施した本発明のイオン発生素子では、発塵防止効果が得られた上でイオン発生量の減少も抑えることができることが判った。
従って、半導体製造工場等のクリーンルームのように発塵が許容されない環境下においても使用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 イオン発生素子
2 基板
3 放電電極
4 誘導電極
5 セラミックコーティング
6 電極端子
7 電極端子