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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126074
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034221
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(71)【出願人】
【識別番号】519375136
【氏名又は名称】株式会社ティイソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 章秀
(72)【発明者】
【氏名】松田 良平
(72)【発明者】
【氏名】潘 超
(72)【発明者】
【氏名】金 潤石
(72)【発明者】
【氏名】高 兄均
(72)【発明者】
【氏名】崔 在究
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD06
3J048BF10
3J048CB22
3J048DA04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】減衰機能を有する小型TMDとしての制振装置を提供する。
【解決手段】柱部材20の制振装置10は、撚線ワイヤー11と、撚線ワイヤー11に接続された重錘12と、を有し、撚線ワイヤー11と重錘12とは、柱部材20に設けられたクランプ21を介して柱部材20に接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚線ワイヤーと、
撚線ワイヤーに接続された重錘と、を有する制振装置であって、
前記制振装置は構造物に取付けられている、制振装置。
【請求項2】
前記重錘の重心位置と前記撚線ワイヤーの固定点との長さをLとし、前記撚線ワイヤーの径をDとしたとき、
L/Dが14以上22以下である、請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記重錘の重心位置と前記撚線ワイヤーの固定点との長さをLとし、前記撚線ワイヤーの径をDとしたとき、
L/Dが18以下である、請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記構造物は柱部材を含む、請求項1に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線ワイヤー用のダンパーとしてストックブリッジダンパー(SBダンパー)が実用化され、例えば、特許第5864007号公報(特許文献1)に開示されている。これは、架空線に取付けるクランプと、クランプの両側に設けられた一対の鋼の撚線を備えており、撚線を用いたダンパーの一種であると考えられる。
【0003】
一方、制振装置として、同調質量ダンパー(Tuned Mass Damper, 略称「TMD」)が知られている。これは、対象とする構造物に対して副振動系(TMD)を形成することにより、構造物本体の振動を制御するものである。図19にTMD系の振動モデルを示す。TMDの質量mは、構造物の質量mSの数%程度である。TMDの固有振動数は、制振対象構造物の固有振動数にほぼ等しい数値に調整されることから、何らかの外乱により構造物が揺れ始めると、それに連成してTMDも揺れ始める。その際、TMDに設置される減衰器CTにより振動エネルギーが吸収されることから、構造物の振動も抑制される。TMDによる制振効果を効率よく発揮させるためには、TMDと構造物の固有振動数の比やTMDの減衰定数を最適な数値に調整する必要がある。「最適な数値」は振動発生の原因となる外乱の特性によって変化し、種々の理論式が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
なお、この明細書においては、発明を実施するための形態においても非特許文献を引用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5864007号公報
【非特許文献1】山口宏樹:構造振動・制御、共立出版(1996)
【非特許文献2】濱崎、岡田、山口、藤野:ケーブルのモード減衰評価における伸びと曲げの損失係数、土木学会論文集A Vol. 62No.2, 279-287, 2006. 4
【非特許文献3】小堀、小形:鋼心 アルミ撚線の振動特性、日立評論、第 38 巻、第 2 号、昭和 31 年
【非特許文献4】三雲、会田、鷺海:鋼索の曲げ易さ(可撓性)について、日本鉱業会誌、68巻、770号、昭和27年8月
【非特許文献5】清田、岡田、宮里、廣石、宮本:建築構造ケーブルの可とう度に関する実験的研究、日本大学理工学部、学術講演会予稿集、平成27年度
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歩道橋や照明柱等に適用する小型TMDとして、マス、バネおよび減衰器の個々のパーツで構成される装置を実現することは非常に難しい。特に、小型TMDに適用できる減衰器は市販品がなく、粘性減衰ダンパーを持つTMDが実用化されている。しかしながら、このような構成では構造が複雑となり、うまく作動しないという問題があった。
【0007】
この発明は、上記の様な問題点を解消するためになされたもので、減衰機能を有する小型TMDとしての制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る制振装置は、撚線ワイヤーと、撚線ワイヤーに接続された重錘と、を有し、制振装置は構造物に取付けられている。
【0009】
好ましくは、重錘の重心位置と撚線ワイヤーの固定点との長さをLとし、撚線ワイヤーの径をDとしたとき、L/Dが14以上22以下である。
【0010】
さらに好ましくは、重錘の重心位置と撚線ワイヤーの固定点との長さをLし、撚線ワイヤーの径をDとしたとき、L/Dが18以下である。
【0011】
この発明の一実施の形態によれば、構造物は柱部材を含む。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、撚線ワイヤーの曲げ剛性によりバネ要素を、撚線のねじれに伴う摩擦減衰により減衰要素を実現しているため、減衰機能を有する小型TMDとしての制振装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】撚線ワイヤーを重錘で吊る構造のTMD(制振装置)を示す図である。
図2】等価剛性KよびKとL/Dの関係を示すグラフである。
図3】剛性比K/KとL/Dの関係を示すグラフである。
図4】撚線ワイヤーの断面構成図である。
図5】重錘重心位置と固定点間距離が303mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図6】重錘重心位置と固定点間距離が283mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図7】重錘重心位置と固定点間距離が263mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図8】重錘重心位置と固定点間距離が243mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図9】重錘重心位置と固定点間距離が223mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図10】重錘重心位置と固定点間距離が203mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図11】重錘重心位置と固定点間距離が193mmにおける加振減衰波形を示す図である。
図12】計測データおよび解析範囲AおよびBを示す図である。
図13】折れ曲がり点を示す図である。
図14】固有振動数および減衰定数とL/Dの関係を示す図である。
図15】減衰定数とL/Dの関係を示す図である。
図16】実験装置を示す図である。
図17】TMDが無い場合の柱部材の加振減衰波形を示す図である。
図18】TMDがある場合の柱部材の加振減衰波形を示す図である。
図19】TMD系の振動モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、この発明の理論的背景について説明する。発明者は、梁部材としての撚線ワイヤーに重錘を設置するだけの簡単な構造の制振装置は、ロープ構造ではなく、曲げ剛性を有する曲げ部材(梁部材)としてみた場合、ロープ構造よりも部材長が短いことと、部材に作用する張力(軸力)もロープ構造よりもはるかに小さいことから、曲げ変形に伴い素線間の摩擦減衰が大きくなり、制振装置として必要とされる減衰を得ることができると考えた。ちなみに、ロープ構造だと、せいぜい1%程度であることが非特許文献2に記載され、曲げ部材として計測した場合、10%前後の減衰定数となることが、非特許文献3に示されている。このように梁部材として扱えば、バネ要素と減衰要素を同時に実現できる。以下、過去に発表された複数の非特許文献(論文)も引用して説明する。
【0015】
構造力学の理論として、「梁部材」を明確に定義することは難しいが、ここでは、図1に示すような制振装置10の構成を想定した。図1を参照して、制振装置10はここでは、構造物を柱20として考え、その揺れを制御するために、柱20から張り出したクランプ21に撚線ワイヤー11で重錘12を吊る構造を想定した。
【0016】
ここで、撚線ワイヤー11の径をD、長さをL´とし、重錘12の質量をmとし、撚線ワイヤー11の固定点(吊り点)から重錘12の重心位置までの長さ(重錘重心位置とワイヤー固定点間距離)をLとする。Lは振動系の曲げ剛性に寄与する片持ち梁の梁長さに相当する。
【0017】
まず、撚線ワイヤー11の曲げ剛性EIを考慮すると、重錘-撚線ワイヤー系の固有振動数の近似式は次式により与えられる。梁長さをLとする片持ち梁の固有振動数を算定する式である。 簡単のために、撚線ワイヤー自身の質量は無視した式になっている。
【0018】
【数1】
【0019】
ここに、L:片持ち梁の梁長さ、EI:曲げ剛性、E:鋼材のヤング係数、I:断面2次モーメント、m:重錘質量である。
【0020】
次に、撚線ワイヤー11の曲げ剛性が微小な場合、撚線ワイヤー11の吊り点11aを固定点とする振子運動することになり、その場合の固有振動数は次式で与えられる。
【0021】
【数2】
【0022】
後述する実施例を参考に、f=5Hz、m=10kg、L=0.25mとすると、f, fの各振動系に対する等価剛性Kiは以下のようになる。振子については、振子長さL=0.25mに対する等価剛性を与えている。
【0023】
【数3】
【0024】
本例では、振子運動に対する等価剛性は曲げ剛性の4%程度となり、ほぼ撚線ワイヤー11の曲げ剛性によって与えられる振動系となる。
【0025】
次に、K=9869.6N/mに対する曲げ剛性EI(=51.4N/m)を固定として、梁長さに応じた等価剛性KとK2を計算した。結果を図2、および図3に示す。図3の縦軸は剛性比(K/K)を示している。図の横軸はワイヤー長さ(片持ち梁の梁長さ)Lとワイヤー公称外径Dで除して無次元量L/Dで示している。 この図は同じ断面形状を有するワイヤーの長さを長くすれば、片持ち梁としての等価剛性(3EI/L)が低下することと、振子構造としての等価剛性(mg/L)を比較した図になる。この例で言えば、L/Dが25ぐらいまでなら、1オーダー程度値が異なるので、撚線ワイヤー11の曲げ剛性が支配的な振動系と言える。
【0026】
以上はあくまでも一例であるが、このように、撚線ワイヤー11の曲げ剛性が支配的となる梁長さと断面高さの比率L/Dが数十までの撚線ワイヤー11により構成されるTMD を対象とするのが良いことが分かった。後述するようにこの程度の撚線ワイヤー11であれば、曲げ変形に伴い撚線間の摩擦による減衰効果が大きくなり、TMDとして機能するだけの減衰を得ることができる。詳細なL/Dの設定については、実験データの傾向を踏まえ後ほど検討する。
【0027】
以下、具体的な実施例をもとに撚線ワイヤー11による固有振動数や減衰定数について説明する。
【0028】
撚線ワイヤー11に重錘12を設置するだけの簡単な構造のTMDを用いた具体的な制振装置10の模式図は、図1に示したとおりである。柱20から張り出したクランプ21に重錘12を撚線ワイヤー11で吊るす形式のTMDであり、柱20の 曲げ振動に伴い重錘12は水平方向に振動することになる。前述の通り撚線ワイヤー11の断面諸元は柱の曲げ振動の固有振動数に合わせて計算される曲げ剛性を想定して選定される。また、重錘12の位置を上下させることで、固定点から重錘の重心までの距離が変化するので、前述の通り、片持ち梁の等価剛性が変化し、固有振動数を調整することができる。
【0029】
まず、制振装置10の振動特性(固有振動数と減衰定数)について説明する。図1に示したTMDの基本諸元を表1に、撚線ワイヤー11の諸元を表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
撚線ワイヤー11の断面構成図を図4に示す。
【0033】
まず、重錘12を手で加振して、振動波形を計測し、固有振動数と減衰定数を計測した。この時、重錘12の重心の位置を変化させて、その位置の変化による固有振動数と減衰定数を調査した。表3に計測結果を示し、計測データを図5図11に示す。
【0034】
図5においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離 303mmであり、図6においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離 283mmであり、図7においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離263mmであり、図8においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離243mmであり、図9においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離 223mmであり、図10においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離203mmであり、図11においては、加振減衰波形(重錘重心位置-固定点間距離193mmである。
【0035】
この実施例の梁長さ(重錘重心位置とワイヤー固定点間距離)と公称外径の比率L/Dは12~19となっている。
【0036】
また、図12において、解析範囲をAとBとに分けて示し、左側に解析範囲Aを示し、右側に解析範囲Bを示している。
【0037】
計測結果より、加振振幅に依存し、解析区間AおよびB(図12参照)において固有振動数および 減衰定数が変化する(表3)。振幅依存はあるものの減衰性能を有することを確認することができた。 減衰定数の平均値を見ると、5~10%程度の減衰が得られている。想定するTMDの質量比を2%程度と仮定して、調和外力振動に対するTMDの最適減衰を計算すると、8.5%となり、 オーダー的にはTMDにおいて必要とされる減衰を確保することができる。
【0038】
なお、ここで解析区間をAとBとで分離したのは、区間AとBとで加振後の波形の周期が明らかに変化しているためである。図12に示すように図の左側に時刻歴グラフにおける加振データを示し、そのうちの、円で囲んだ1つのデータを拡大して解析範囲(区間)Aとそれに連続する解析範囲(区間)Bを示している。図13に区間Aにおける重錘の動きのイメージを示す。区間Aでは撚線ワイヤー11と重錘12との接続部分である折れ曲がり点を中心として重錘12が大きく振れるが、区間Bでは折れ曲がり点で折れ曲がることなく、撚線ワイヤー11を吊り下げているクランプで曲がるような揺れ方になる。区間Aでは、錘が折れ曲がり点で大きく揺れることで見かけ上、質量が重くなる効果をもたらすことになり、その分、周期が長くなる。ここで、折れ曲がり点を図13に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
次に、TMD単体の固有振動数とL/Dの関係について説明する。
【0041】
参考までに、素線構成から与えられる曲げ剛性を試算し、TMD単体の固有振動数に推定値を計算した。 有効断面積Aeを円形断面の断面積と仮定し、円形断面としての断面 2次モーメントを計算し、 丸鋼棒としての曲げ剛性EI(E=2.05×10N/mm)を計算した。
【0042】
【数4】
【0043】
参考までに、素線構成から与えられる曲げ剛性を試算し、固有振動数に推定値を計算した。 有効断面積Aeを円形断面の断面積と仮定し、円形断面としての断面2次モーメントを計算し、 丸鋼棒としての曲げ剛性 EI(E=2.05×10N/mm)を計算した。
【0044】
過去のワイヤーの曲げ剛性に関する研究例(非特許文献4および5)を見ると、ワイヤーの曲げ剛性は、その断面を円形鋼棒と仮定した場合の曲げ剛性よりもかなり小さいことが示されており、可とう度と呼ばれる数値で整理されている。可とう度は次式のケーブルの曲げ剛性と同一径の丸鋼棒の剛性の比で定義されている。
【0045】
【数5】
【0046】
ここで,E:丸鋼棒のヤング係数 [N/mm],I:丸鋼棒の断面二次モーメント [mm],E: ケーブルの曲げ剛性 [N・mm]
【0047】
非特許文献5によると、可とう度Fは素線数と線形関係にあることが示されており、本実験で用いられたスパイラルワイヤー(素線数:19)の場合、およそ30となる。なお、可とう度はワイヤーのたわみ量に依存する非線形性を示すことが知られており(非特許文献4)、参考資料に示されているのは、支点間距離に対するたわみ量が1/50の時の数値である。たわみ量が大きくなるに従い、素線間のすべりが大きくなるので、曲げ剛性も小さくなる。前述の実験結果では、比較的大きく加振した解析区間Aにおいて固有振動数が低下し、逆に減衰定数が増加する傾向にあるが、素線間すべりに起因する曲げ剛性の低下や摩擦の増大と符合している。
【0048】
以上より、丸鋼棒とした場合の曲げ剛性と可とう度を用いて、前述の実験条件に応じた片持ち梁の固有振動数を計算した。表4に結果を示す。実験値としては解析区間Bの数値を用いている。加振初期は重錘が撚線ワイヤーと接続する箇所で図13に示すように折れ曲がるので、折れ曲がり点を回転中心とする極慣性が発生する。極慣性分だけ、等価質量が増加し、固有振動数は低下する。単純に撚線ワイヤーの剛性影響を確認するため、区間 Bの実験値と比較した。また、横軸をL/Dとして、図化したものを図14および図15に示す。
【0049】
ここで、図14は固有振動数の比(f/f)とL/Dの関係を示す図である。L/D=18を境に勾配が変わっている。
【0050】
なお、本装置の振動特性がL/Dの関係で整理されることと、その背景に撚線ワイヤー11の素線間のずれの影響が大きいことから、図14では解析区間Bの固有振動数を用いたが、TMDの性能評価を行う上においては、解析区間AとBの平均値を用いることを想定している。なお、後に説明する実験例(図16)においては、照明柱や標識柱をイメージした柱部材を対象として本装置の制振効果を示しており、その項では、解析区間AとBの平均値を用いた評価を行っている。
【0051】
【表4】
【0052】
これより片持ち梁の梁長さが短くなるに従い、実験値は計算値よりも小さくなる傾向が認められる。これは加振振幅を25mmと固定しており、梁が短くなるに従い、撚線ワイヤーの変形が大きくなり(曲率半径が小さくなり)、曲げ剛性が低下することが原因と考えられる。さらに、細かく見ると、L/D=18を境に直線の傾きが変化する様子が伺える。後述する減衰定数との関係で言えば、L/D=18を境に撚線ワイヤーの素線間のずれ量が変化することが影響していると考えられる。
【0053】
次に、TMD単体の減衰定数とL/Dの関係について説明する。ここでは、TMD単体の減衰定数とL/Dの関係について整理した。図15にL/Dと減衰定数の関係を示す。減衰定数については、TMDの性能評価に用いる数値として区間AとBの平均値を用いている。固有振動数の関係図と同様に、L/D=18を境に数値が急変していることが分かる。L/D<18の領域は素線のずれ影響が大きく、摩擦の影響が大きい領域、L/D≧18の領域は、L/D<18と比較して相対的に素線のずれ影響とともに 摩擦の小さい領域と考えられる。表4は、片持ち梁としての固有振動数の計算値と実験値TMDの可動部の質量mは、制振対象となる構造物の質量mS(一般化質量)の1~2%として用いるケースが多い(非特許文献1)。この質量比u=m/mSに対してTMDの減衰定数の最適値hT,opt(対象は調和外力振動)が示されており、以下の式で与えられる。
【0054】
【数6】
【0055】
質量比1~2%の場合、最適減衰hT,optは、6.1~8.6%となる。前述の実験結果と比較すると、 質量比1%程度なら、L/Dが18よりも大きくても(18≦L/D≦22)、ほぼ最適値に近い調整状態となるが、質量比2%程度になると、L/Dを18以下(14≦L/D≦18)で用いる必要がある。 このようにL/Dの領域における固有振動特性を考慮して用いれば、ほぼ最適状態に近いTMDとして用いることができる。
【0056】
次に、柱部材を用いた制振効果について説明する。図16は柱部材を用いた実験装置を示す図であり、この装置を用いて本TMDの制振効果を確認した。
【0057】
図16を参照して、ここで用いた柱部材は、図1に示した制振装置をモデル化したものであり、柱部材の基本諸元を表5に示す。柱部材単体の加振減衰波形を図17に示す。柱の固有振動数は6.41Hz、減衰は0.25%であった。
【0058】
なお、図16においては、図1と異なり、付加質量22を追加している。これは、図1に示した構成だけでは実構造物として想定される質量に足りないため、付加質量22を追加している。
【0059】
【表5】
【0060】
次に、TMDを設置した状態での加振減衰波形を計測し、制振効果を確認した。質量比約10%からTMDの最適振動数は5.824Hz(=6.41*0.90859)となり、調整の結果、重錘位置203mmの調整位置において最も大きな減衰を得ることができた。重錘位置203mmのTMDの固有振動数(解析区間A&Bの平均値)は6.47Hzとなっており、最適な同調状態とはなっていないが、およそ最適に近い位置に重錘位置を調整することで、制振効果を得ることができる。参考までにTMDを設置した状態での加振減衰波形を図18に示す。得られた減衰は約3.5%となった。TMDを設置しない状態から約14倍の減衰増となっており、照明柱や標識柱のような構造物に生じる振動を抑制することが可能である。
【0061】
以上から、撚線ワイヤーの曲げ剛性を期待するために、ワイヤー長さ(片持ち梁の梁長さ)Lとワイヤー公称外径Dで除して無次元量L/Dとして14≦L/D≦22のワイヤーを想定し、曲げ変形に伴う素線間の摩擦影響によりTMDとして付与すべき減衰を得る。
【0062】
ここで、質量比1%程度を想定する場合はL/Dを22以下とし、さらに、質量比2%程度を想定する場合はL/Dを18以下とすれば最適値に近い減衰状態で使用することができる。
【0063】
なお、ここで表示している計測結果データは、発明者らが以下に示すMATLAB(登録商標)と呼ばれる科学技術計算用プログラミング言語を用いて制作したソフトを用いて得たものである。
【0064】
MATLAB(登録商標) (http://jp.mathworks.com/products/matlab.html)
【0065】
なお、具体的な実施の形態として、水平方向および鉛直方向TMDとしては、必ずしも吊り下げて使用する必要はない。また、図示は省略しているが、両片持ち梁であってもよい。1本の撚線ワイヤーの両端に重錘を設置し、そのワイヤーの中間点を支持することで、2つの片持ち梁の構成を実現することができる。
【0066】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示する実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 制振装置
11 撚線ワイヤー
12 重錘
20 柱部材
21 クランプ
22 付加質量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19