(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126075
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】燃料電池用電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240912BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240912BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240912BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034223
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】北川 寛
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 良太
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE17
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】中温域(100~180℃)の無加湿条件下において使用することが可能な新規な燃料電池用電極及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】燃料電池用電極は、少なくとも一方の表面が親水化処理面からなるガス拡散層と、親水化処理面上に形成された触媒層とを備えている。触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含む。プロトン伝導体は、オキソアニオン及びプロトン配位性カチオンの少なくとも一方が金属イオンに配位している配位高分子を含む。配位高分子は、アモルファス構造を備えている。このような燃料電池用電極は、オキソアニオン及びプロトン配位性カチオンの少なくとも一方が金属イオンに配位している配位高分子を準備し、配位高分子と電極触媒とを水に分散させて触媒インクとし、ガス拡散層の親水化処理面に触媒インクを塗布し、乾燥させることにより得られる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面が親水化処理面からなるガス拡散層と、
前記親水化処理面上に形成された触媒層と
を備え、
前記触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含み、
前記プロトン伝導体は、金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を含み、
前記配位高分子は、アモルファス構造を備えている
燃料電池用電極。
【請求項2】
前記親水化処理面の水の接触角が110°以下である請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
次の式(1)で表される触媒利用率が30%以上である請求項1に記載の燃料電池用電極。
触媒利用率(%)=ECSA×100/ECSA0 …(1)
但し、
前記「ECSA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、サイクリックボルタモグラム(CV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積、
前記「ECSA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりCV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積。
【請求項4】
次の式(2)で表されるMA比率が0.9%以上である請求項1に記載の燃料電池用電極。
MA比率(%)=MA×100/MA0 …(2)
但し、
前記「MA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性、
前記「MA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりLSV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性。
【請求項5】
次の式(3)で表される前記ガス拡散層の露出面積割合が10%未満である請求項1に記載の燃料電池電極。
露出面積割合(%)=S×100/S0 …(3)
但し、
前記「S」は、前記触媒層の形成領域内において、前記ガス拡散層の表面が露出している領域の面積、
前記「S0」は、前記形成領域の面積。
【請求項6】
前記配位高分子は、アルミニウム(dema)リン酸である請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
前記電極触媒は、
担体と、
前記担体に担持された前記触媒粒子と
を備えている請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項8】
金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を準備する第1工程と、
前記配位高分子と、電極触媒とを水に分散させ、触媒インクを得る第2工程と、
ガス拡散層の親水化処理面に前記触媒インクを塗布し、乾燥させる第3工程と
を備えた燃料電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、中温域(100~180℃)の無加湿条件下において使用することが可能な燃料電池用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の種類に応じて、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池に大別される。これらの内、固体高分子形燃料電池は、常温で作動させることができ、小型軽量化が可能であるという利点がある。
しかしながら、固体高分子電解質がプロトン伝導性を発現するには、固体高分子電解質を適度な含水状態に維持する必要がある。また、固体高分子電解質は耐熱性が低い。そのため、固体高分子形燃料電池は、無加湿条件下において作動させるのが難しく、効率の点で有利な中温域(100~180℃)において作動させることもできない。
【0003】
この問題を解決するために、プロトン伝導性を示す配位高分子(Coordinationpolymer, CP)を燃料電池用の電解質として使用することが提案されている。
ここで、「配位高分子(CP)」とは、多座配位子と金属イオンからなる連続構造をもつ錯体をいう。CPは、多座配位子の種類を最適化することにより、中温域の無加湿条件下においてもプロトン伝導性を示すプロトン伝導体として機能する場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、
(a)溶媒(例えば、メタノール)にPt/Cを分散させ、
(b)分散液にメチルイミダゾール及び酸化亜鉛を添加し、Pt/Cの表面を配位高分子前駆体で被覆し、
(c)分散液にイミダゾールを添加し、配位高分子前駆体のメチルイミダゾールをイミダゾールで置換し、
(d)分散液にリン酸を導入し、Pt/Cを被覆する配位高分子前駆体を配位高分子に転換し、
(e)溶媒(例えば、エタノール又はプロパノール)に、配位高分子で被覆されたPt/Cを分散させて触媒インクとし、
(f)触媒インクを拡散層の表面に塗布し、乾燥させる
触媒層の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、
(a)ジエチルメチルアミン(dema)とトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)とを反応させることにより、プロトン性イオン液体であるトリフルオロメタンスルホナート-ジエチルメチルアンモニウム([dema][TfO])を作製し、
(b)エタノール中においてAl(TfO)3と、[dema][TfO]とを反応させる
ことにより得られる配位高分子(アルミニウム[dema][TfO])が開示されている。
同文献には、
(A)このようにして得られた配位高分子(CP)は、プロトン伝導体として機能する低粘度のゲル状物質である点、及び、
(B)[dema][TfO]、及び、アルミニウム[dema][TfO]は、いずれも、蒸気圧が低く、100℃以上でも揮発しないため、高い耐熱性を有している点
が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、
(a)Pt/C粉末及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む電極インクを作製し、
(b)電極インクをガス拡散層(GDL)の表面にスプレー塗布して電極材料とし、
(c)電極材料に、上記の配位高分子を滴下する
ことにより得られる電極が開示されている。
さらに、特許文献2には、リン酸をドープしたポリベンゾイミダゾール薄膜に、上記の電極を接合した膜電極接合体が開示されている。
同文献には、このようにして得られた膜電極接合体は、ECSAの初期値が高く、150℃で10時間保持した後においてもECSAが低下しない点が記載されている。
【0007】
特許文献1には、CPをプロトン伝導体として使用することが提案されているが、電極を作製した例は記載されていない。また、特許文献1には、電極の作製方法としてエタノールを溶媒とする触媒インクにCPを分散させる方法が提案されている。しかしながら、このような方法では、CPが変質する場合がある。
【0008】
特許文献2に開示されている配位高分子(アルミニウム[dema][TfO])は、固体化しにくいため、燃料電池用の電解質として安定性が低い懸念がある。また、同文献では、先ず触媒/PTFEをGDLに塗布し、その後、CPの分散液を滴下しているが、この方法では、電極内にCPが均一に分散していない可能性がある。さらに、CP分散液には溶媒としてエタノールが含まれており、CPが変質している可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-224514号公報
【特許文献2】特開2022-088856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、中温域(100~180℃)の無加湿条件下において使用することが可能な新規な燃料電池用電極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る燃料電池用電極は、
少なくとも一方の表面が親水化処理面からなるガス拡散層と、
前記親水化処理面上に形成された触媒層と
を備え、
前記触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含み、
前記プロトン伝導体は、金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を含み、
前記配位高分子は、アモルファス構造を備えている。
【0012】
本発明に係る燃料電池用電極の製造方法は、
金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を準備する第1工程と、
前記配位高分子と、電極触媒とを水に分散させ、触媒インクを得る第2工程と、
ガス拡散層の親水化処理面に前記触媒インクを塗布し、乾燥させる第3工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0013】
電極触媒及び配位高分子(CP)を水に分散させて触媒インクとすると、CPの変質を抑制することができる。また、ガス拡散層の少なくとも一方の表面を親水化処理し、親水化処理面に水を分散媒とする触媒インクを塗布すると、親水化処理面に触媒インクを均一に塗布することができる。このようにして得られた燃料電池用電極は、CPの変質が抑制されており、かつ、電極触媒の凝集体が少ないので、高い触媒利用率、及び/又は、高いMA比率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エタノール添加前後の配位高分子(CP)のXRDパターンである。
【
図2】スプレー塗工後のGDL表面の反射電子像(上段)及び二次電子像(下段)である。
【
図3】実施例1~2、及び、比較例2で得られたセルのサイクリックボルタモグラム(CV)である。
【
図4】実施例1~2、及び、比較例2で得られたセルのIV特性である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[構成1]
少なくとも一方の表面が親水化処理面からなるガス拡散層と、
前記親水化処理面上に形成された触媒層と
を備え、
前記触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含み、
前記プロトン伝導体は、金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を含み、
前記配位高分子は、アモルファス構造を備えている
燃料電池用電極。
【0016】
[構成2]
前記親水化処理面の水の接触角が110°以下である構成1に記載の燃料電池用電極。
【0017】
[構成3]
次の式(1)で表される触媒利用率が30%以上である構成1又は2に記載の燃料電池用電極。
触媒利用率(%)=ECSA×100/ECSA0 …(1)
但し、
前記「ECSA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、サイクリックボルタモグラム(CV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積、
前記「ECSA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりCV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積。
【0018】
[構成4]
次の式(2)で表されるMA比率が0.9%以上である構成1から3までのいずれか1つに記載の燃料電池用電極。
MA比率(%)=MA×100/MA0 …(2)
但し、
前記「MA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性、
前記「MA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりLSV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性。
【0019】
[構成5]
次の式(3)で表される前記ガス拡散層の露出面積割合が10%未満である構成1から4までのいずれか1つに記載の燃料電池電極。
露出面積割合(%)=S×100/S0 …(3)
但し、
前記「S」は、前記触媒層の形成領域内において、前記ガス拡散層の表面が露出している領域の面積、
前記「S0」は、前記形成領域の面積。
【0020】
[構成6]
前記配位高分子は、アルミニウム(dema)リン酸である構成1から5までのいずれか1つに記載の燃料電池用電極。
【0021】
[構成7]
前記電極触媒は、
担体と、
前記担体に担持された前記触媒粒子と
を備えている構成1から6までのいずれか1つに記載の燃料電池用電極。
【0022】
[構成8]
金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を準備する第1工程と、
前記配位高分子と、電極触媒とを水に分散させ、触媒インクを得る第2工程と、
ガス拡散層の親水化処理面に前記触媒インクを塗布し、乾燥させる第3工程と
を備えた燃料電池用電極の製造方法。
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 配位高分子]
本発明において、「配位高分子(CP)」は、金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、オキソアニオン及びプロトン配位性カチオンの少なくとも一方が金属イオンに配位している高分子からなる。
【0024】
[1.1. 成分]
[1.1.1. 金属イオン]
金属イオンは、オキソアニオン又はプロトン配位性カチオンとの間で配位結合を形成可能なものであれば良い。金属イオンは、高周期の遷移金属イオン、及び、典型金属イオンが好ましい。金属イオンとしては、例えば、アルミニウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ガリウムイオンなどがある。CPは、これらのいずれか1種の金属イオンを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0025】
[1.1.2. オキソアニオン]
オキソアニオンは、プロトンと結合しやすい。そのため、配位高分子がオキソアニオンを含む場合、プロトンはオキソアニオンを介して配位高分子内を伝導する。
配位高分子に含まれるオキソアニオンは、縮合が起こっていない単量体の形態で金属イオンに配位しているものが好ましい。この場合、オキソアニオンを含む配位高分子は、プロトンを高濃度で保持することができ、水に対する安定性にも優れている。
【0026】
オキソアニオンとしては、例えば、リン酸イオン(PO4
3-)、リン酸水素イオン(HPO4
2-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)などがある。
特に、リン酸イオン、リン酸水素イオン、及びリン酸二水素イオンは、水素に対する化学的安定性が高いので、配位高分子を構成するオキソアニオンとして好適である。
【0027】
[1.1.3. プロトン配位性カチオン]
「プロトン配位性カチオン」とは、分子内に、プロトンを配位するための配位点を持つ分子(プロトン配位性分子)にプロトンが配位したものをいう。配位高分子がプロトン配位性カチオンを含む場合、プロトンは配位点を介して配位高分子内を伝導する。
【0028】
プロトン配位性カチオンの原料となるプロトン配位性分子としては、例えば、
(a)アゾール類、
(b)一般式:R-NH2で表される第一級アミン、
(c)一般式:R1(R2)-NHで表される第二級アミン、
(d)一般式:R1(R2)(R3)-Nで表される第三級アミン、
(e)炭素直鎖ジアミン、
(f)飽和環状アミン、
(g)飽和環状ジアミン
などがある。
なお、R、R1、R2、R3は、それぞれ、アルキル基、アリール基、脂環式炭化水素基、又は、複素環基である。
【0029】
アゾール類としては、例えば、イミダゾール、トリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、ヒスタミン、ヒスチジンなどが挙げられる。
【0030】
第一級アミンとしては、例えば、
(a)メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等の低級アルキルアミン、
(b)アニリン、トルイジン等の芳香族アミン
などが挙げられる。
【0031】
第二級アミンとしては、例えば、
(a)ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等のジ低級アルキルアミン、
(b)N-メチルアニリン、N-メチルトルイジン等の芳香族二級アミン
などが挙げられる。
【0032】
第三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン(dema)等のトリ低級アルキルアミンが挙げられる。
炭素直鎖ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、そのN-低級アルキル誘導体(例えばテトラメチルエチレンジアミン)などが挙げられる。
【0033】
飽和環状アミンとしては、例えば、
(a)ピロリジン、N-低級アルキルピロリジン(例えばN-メチルピロリジン)、
(b)ピペリジン、N-低級アルキルピペリジン(例えばN-メチルピペリジン)、
(c)モルホリン、N-低級アルキルモルホリン(例えばN-メチルモルホリン)
などが挙げられる。
【0034】
飽和環状ジアミンとしては、例えば、ピペラジン、N-低級ジアルキルピペラジン(例えば、N、N-ジメチルピペラジン)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(別名:トリエチレンジアミン)などが挙げられる。
【0035】
[1.1.4. 配合比率]
「オキソアニオンの配合比率」とは、金属イオン1モルに対する、オキソアニオンのモル数をいう。
オキソアニオンの配合比率が少なくなりすぎると、配位高分子が形成されない場合がある。従って、オキソアニオンの配合比率は、1モル以上が好ましい。
一方、オキソアニオンの配合比率が過剰になると、プロトン伝導体は、固体にならず、非常に高い吸湿性を示し、形状安定性が著しく低下する場合がある。従って、オキソアニオンの配合比率は、4モル以下が好ましい。
【0036】
「プロトン配位性カチオンの配合比率」とは、金属イオン1モルに対する、プロトン配位性カチオンのモル数をいう。
プロトン配位性カチオンの配合比率が少なくなりすぎると、配位高分子が形成されない場合がある。従って、プロトン配位性カチオンの配合比率は、1モル以上が好ましい。
一方、プロトン配位性カチオンの配合比率が過剰になると、プロトン伝導体は、固体にならず、非常に高い吸湿性を示し、形状安定性が著しく低下する場合がある。従って、プロトン配位性カチオンの配合比率は、3モル以下が好ましい。
【0037】
[1.2. 結晶性]
金属イオン、オキソアニオン、及び、プロトン配位性カチオンを含む配位高分子を水に分散させ、乾燥させた後、配位高分子のXRD測定を行うと、明瞭な回折ピークは観察されない。すなわち、水に分散させた配位高分子は、アモルファス構造を維持している。
これに対し、金属イオン、オキソアニオン、及び、プロトン配位性カチオンを含む配位高分子をエタノールに分散させ、乾燥させた後、配位高分子のXRD測定を行うと、アモルファス相とは異なる明瞭な回折ピークが多数観察される。これは、配位高分子をエタノールに分散させると、配位高分子が変質することを示している。
【0038】
本発明に係る触媒層は、後述するように、水を分散媒とする触媒インクを用いて製造される。そのため、触媒層に含まれる配位高分子は、アモルファス構造を備えている。この点が従来とは異なる。
【0039】
[1.3. 配位高分子の具体例]
配位高分子としては、例えば、
(a)アルミニウム(dema)リン酸、
(b)亜鉛イミダゾールリン酸、
(c)アルミニウム(dema)[TfO]
などがある。
配位高分子は、特に、アルミニウム(dema)リン酸が好ましい。アルミニウム(dema)リン酸は、固体化しやすく、燃料電池用の電解質としての安定性が高いので、触媒層に添加するプロトン伝導体として好適である。
【0040】
[2. 燃料電池用電極]
本発明に係る燃料電池用電極は、
少なくとも一方の表面が親水化処理面からなるガス拡散層と、
前記親水化処理面上に形成された触媒層と
を備えている。
前記触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含む。
【0041】
[2.1. ガス拡散層]
[2.1.1. 材料]
本発明において、ガス拡散層の材料は、導電性及びガス拡散性を有するものである限りにおいて、特に限定されない。ガス拡散層は、特に、導電性及びガス拡散性を有する基材と、基材表面に形成された撥水層とを備えているものが好ましい。
【0042】
基材の材料としては、例えば、
(a)カーボンペーパー、カーボンクロス、ガラス状カーボン等のカーボン多孔質体、
(b)金属メッシュ、発泡金属等の金属多孔体
などがある。
【0043】
撥水層は、基材の導電性及びガス拡散性を損なうことなく、基材の表面に撥水性を付与することか可能なものである限りにおいて、特に限定されない。撥水層は、一般に、導電性粒子(例えば、カーボンブラック)と、疎水性粒子(例えば、ポリテトラフルオロエチレン粒子)との複合体からなる。
【0044】
撥水層は、
(a)導電性粒子と疎水性粒子を含むペーストを基材表面に塗布し、乾燥させることにより得られたものでも良く、あるいは、
(b)導電性粒子と疎水性粒子の混合粉末を基材表面にドライ塗工し、塗膜をプレスすることにより得られたものでも良い。
【0045】
[2.1.2. 親水化処理面]
ガス拡散層は、少なくとも一方の表面が親水化処理面からなる。親水化処理面は、触媒層を形成するための面である。そのため、ガス拡散層が撥水層付きガス拡散層である場合、撥水層の表面に親水化処理面が形成される。ガス拡散層の他方の面は、親水化処理面であっても良く、あるいは、親水化処理面でなくても良い。
【0046】
後述するように、親水化処理面には、水を分散媒とする触媒インクが塗布される。一般に、親水化処理面の親水性が高くなるほど、水を分散媒とする触媒インクの濡れ性が向上し、ガス拡散層の露出面積割合を低減することができる。このような効果を得るためには、親水化処理面の水の接触角は、110°以下が好ましい。接触角は、さらに好ましくは、100°以下、あるいは、90°以下である。
【0047】
[2.2. 触媒層]
触媒層は、触媒粒子を含む電極触媒と、プロトン伝導体とを含む。電極触媒は、触媒粒子のみからなるものでも良く、あるいは、担体と、担体に担持された触媒粒子とを備えているものでも良い。
【0048】
[2.2.1. 触媒粒子]
[A. 材料]
本発明において、触媒粒子の材料は、酸素還元反応及び/又は水素酸化反応に対して活性を有する材料である限りにおいて、特に限定されない。
【0049】
触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む貴金属合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む貴金属-卑金属合金、
などがある。
触媒粒子は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上の混合物であっても良い。
【0050】
これらの中でも、触媒粒子は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni合金、Pt-Pd合金、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金などがある。
【0051】
[B. 結晶子径]
「結晶子径」とは、X線回折ピークに基づいて、シェラーの式により算出される結晶子のサイズをいう。
【0052】
触媒粒子の結晶子径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子の結晶子径が小さくなりすぎると、触媒粒子が溶解しやすくなる。一方、触媒粒子の結晶子径が大きくなりすぎると、触媒粒子の有効表面積が低下する。触媒粒子の結晶子径は、2~10nmが好ましい。
【0053】
[2.2.2. 担体]
[A. 材料]
本発明において、担体の材料は、電子伝導性を有する材料である限りにおいて、特に限定されない。ここで、「電子伝導性を有する」とは、電子伝導度が1.0×10-5S/cm以上であることをいう。
【0054】
担体の材料としては、例えば、
(a)カーボン、
(b)TixO2x-1(x≧1)、SnO2などの導電性酸化物、
(c)TiN、ZrN、TaNなどの導電性窒化物、
(d)TiB2、ZrB、TaB2、NbB2、WB、MoB、CrBなどの導電性ホウ化物、
(e)TiC、SiC、WC、ZrCなどの導電性炭化物、
などがある。
担体は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上の混合物であっても良い。
【0055】
[B. 平均粒径]
「平均粒径」とは、100個以上の担体について顕微鏡観察を行うことにより測定された、担体の短軸方向の長さの平均値をいう。
【0056】
本発明において、担体の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、担体の平均粒径が小さくなりすぎると、触媒層内の空隙のサイズが小さくなり、物質移動抵抗が増加する場合がある。一方、担体の平均粒径が大きくなりすぎると、担体表面に触媒粒子を高分散に担持できなくなる場合がある。従って、担体の平均粒径は、10~500nmが好ましい。
【0057】
[C. 触媒担持量]
「触媒担持量(mass%)」とは、触媒粒子が担体表面に担持されている場合において、電極触媒の総質量に対する触媒粒子の質量の割合をいう。
【0058】
触媒担持量が少なくなりすぎると、電極性能が低下する。従って、触媒担持量は、10mass%以上が好ましい。触媒担持量は、さらに好ましくは、20mass%以上、あるいは、30mass%以上である。
一方、触媒担持量を必要以上に多くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、触媒担持量は、70mass%以下が好ましい。触媒担持量は、さらに好ましくは、60mass%以下、あるいは、50mass%以下である。
【0059】
[2.2.3. プロトン伝導体]
触媒層は、プロトン伝導体として配位高分子を含む。触媒層は、プロトン伝導体として、配位高分子のみを含むものでも良く、あるいは、配位高分子以外のプロトン伝導性を有する化合物がさらに含まれていても良い。配位高分子の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0060】
[2.2.4. 組成]
[A. 目付量]
「目付量(mg/cm2)」とは、触媒層に含まれる単位面積当たりの触媒粒子の質量をいう。
【0061】
触媒層に含まれる触媒粒子の目付量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な目付量を選択することができる。一般に、触媒粒子の目付量が少なくなりすぎると、電極性能が低下する。一方、触媒粒子の目付量を必要以上に多くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、目付量は、これらの点を考慮して、最適な値を選択するのが好ましい。
【0062】
[B. 配位高分子の含有量]
「配位高分子の含有量(mass%)」とは、触媒層の総質量に対する配位高分子の質量の割合をいう。
【0063】
配位高分子の含有量が少なくなりすぎると、触媒層のプロトン伝導性が低下する。一方、配位高分子の含有量が過剰になると、電極触媒の含有量が相対的に少なくなり、活性が低下する場合がある。従って、配位高分子の含有量は、これらの点を考慮して、最適な値を選択するのが好ましい。
【0064】
[2.3. 特性]
[2.3.1. 触媒利用率]
触媒利用率とは、次の式(1)で表される値をいう。
触媒利用率(%)=ECSA×100/ECSA0 …(1)
但し、
前記「ECSA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、サイクリックボルタモグラム(CV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積、
前記「ECSA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりCV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の電気化学的有効表面積。
【0065】
ECSAの測定は、具体的には、以下のようにして行った。すなわち、まず、本発明に係る燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池を作製した。次いで、温度:80℃、湿度:30%RH、アノードガス:10%水素、カソードガス:100%窒素、掃引速度:20mV/mの条件下において、0.1V(RHE)⇔1.0V(RHE)の電位範囲で燃料電池のCV測定を行った。その際の水素脱離ピークの電気量を単位白金表面積あたりの水素吸脱着電気量で除した後、その値を触媒層内の白金質量で除すことでECSAを求めた。
【0066】
ECSA0の測定は、具体的には、以下のようにして行った。すなわち、まず、電極触媒をディスク電極上に担持させた。次いで、ディスク電極(作用電極)を、Ar飽和下、30℃、0.1M HClO4電解液に浸漬し、0.05V(RHE)⇔1.1V(RHE)の電位範囲でCV測定を行った。その際の水素脱離ピークの電気量を単位白金表面積あたりの水素吸脱着電気量で除した後、その値をディスク電極上の白金質量で除すことでECSA0を求めた。
【0067】
本発明に係る燃料電池用電極は、水を分散媒とする触媒インクを用いて製造されているにもかかわらず、触媒層内において触媒粒子が均一に分散している。また、触媒層の形成過程において、配位高分子が変質しにくい。そのため、本発明に係る燃料電池用電極は、高い触媒利用率を示す。製造条件を最適化すると、触媒利用率は30%以上となる。製造条件をさらに最適化すると、触媒利用率は35%以上となる。
【0068】
[2.3.2. MA比率]
「MA比率」とは、次の式(2)で表される値をいう。
MA比率(%)=MA×100/MA0 …(2)
但し、
前記「MA」は、前記燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池について、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性、
前記「MA0」は、前記電極触媒を担持したディスク電極を作用電極に用いて、回転ディスク電極(RDE)法によりLSV測定を行うことにより得られた前記触媒粒子の質量活性。
【0069】
MAの測定は、具体的には、以下のようにして行った。すなわち、まず、本発明に係る燃料電池用電極をカソードに用いた燃料電池を作製した。次いで、温度:150℃、湿度:無加湿、アノードガス:100%水素、100mL/min、カソードガス:100%酸素、100mL/minの条件下において、燃料電池のLSV測定(掃引方向:正方向掃引、掃引速度:5mV/s)を行った。IR補正電圧:0.84V(RHE)での電流量を、触媒層内の白金質量で除すことでMAを求めた。
【0070】
MA0の測定は、具体的には、以下のようにして行った。すなわち、電極触媒を担持したディスク電極を作製した。次いで、ディスク電極(作用電極)を、O2飽和下、30℃の0.1M HClO4電解液に浸漬し、ディスク電極を400rpmで回転させながら、0.05V(RHE)⇔1.2V(RHE)の電位範囲で10サイクルの電位掃引を行った。
その後、ディスク電極を1600rpmで回転させながら、LSV測定(掃引方向:正方向掃引、掃引速度:10mV/s)を行った。IR補正電圧:0.9V(RHE)での電流量を、ディスク電極上の白金質量で除すことでMA0を求めた。
【0071】
本発明に係る燃料電池用電極は、水を分散媒とする触媒インクを用いて製造されているにもかかわらず、触媒層内において触媒粒子が均一に分散している。また、触媒層の形成過程において、配位高分子が変質しにくい。そのため、本発明に係る燃料電池用電極は、高いMA比率を示す。製造条件を最適化すると、MA比率は0.9%以上となる。
【0072】
[2.3.3. 露出面積率割合]
ガス拡散層の「露出面積割合」とは、次の式(3)で表される値をいう。
露出面積割合(%)=S×100/S0 …(3)
但し、
前記「S」は、前記触媒層の形成領域内において、前記ガス拡散層の表面が露出している領域の面積、
前記「S0」は、前記形成領域の面積。
【0073】
「形成領域」とは、触媒層の形成を意図した領域をいう。例えば、触媒インクをスプレーすることにより触媒層を形成する場合、「形成領域」とは、触媒インクをスプレーした領域をいう。
水を分散媒とする触媒インクをガス拡散層の表面に塗布する場合において、ガス拡散層の表面が親水化処理面でないときには、触媒インクがはじかれ、層状の触媒層を形成することができない。その結果、露出面積割合が増大する。
これに対し、ガス拡散層の表面が親水化処理面であるときには、水を分散媒とする触媒インクが親水化処理面に均一に塗布され、層状の触媒層を形成することができる。製造条件を最適化すると、露出面積割合は、10%未満となる。
【0074】
[3. 配位高分子の製造方法]
本発明に係る配位高分子は、金属イオン源、オキソアニオン源、及び、プロトン配位性分子を混合攪拌することにより得られる。原料の混合攪拌を行う場合、全原料を一度に混合攪拌することが好ましい。また、混合攪拌は、各原料を溶媒に溶解又は分散させた状態で行っても良く、あるいは、無溶媒下において行っても良い。
【0075】
金属イオン源、オキソアニオン源及びプロトン配位性分子の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
金属イオン源としては、例えば、オキソ酸塩、金属酸化物などがある。
オキソアニオン源としては、例えば、リン酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのオキソ酸がある。
プロトン配位性分子の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0076】
混合攪拌条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。但し、オキソアニオン源としてリン酸を用いる場合において、反応温度が高くなりすぎると、リン酸イオンの縮合が起こることがある。そのため、オキソアニオン源としてリン酸を用いるときには、反応温度は、200℃以下が好ましい。
【0077】
[4. 燃料電池用電極の製造方法]
本発明に係る燃料電池用電極の製造方法は、
金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を準備する第1工程と、
前記配位高分子と、電極触媒とを水に分散させ、触媒インクを得る第2工程と、
ガス拡散層の親水化処理面に前記触媒インクを塗布し、乾燥させる第3工程と
を備えている。
【0078】
[4.1. 第1工程]
まず、金属イオンと、オキソアニオンと、プロトン配位性カチオンとを含み、前記オキソアニオン及び前記プロトン配位性カチオンの少なくとも一方が前記金属イオンに配位している配位高分子を準備する(第1工程)。配位高分子の製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0079】
[4.2. 第2工程]
次に、前記配位高分子と、電極触媒とを水に分散させ、触媒インクを得る(第2工程)。触媒インク中の配位高分子の含有量及び電極触媒の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
【0080】
[4.3. 第3工程]
次に、ガス拡散層の親水化処理面に前記触媒インクを塗布し、乾燥させる(第3工程)。これにより、本発明に係る燃料電池用電極が得られる。
ガス拡散層の表面に親水化処理面を形成する方法及び形成条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
同様に、触媒インクの塗布方法及び塗布条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な方法及び条件を選択することができる。
【0081】
親水化処理面を形成する方法としては、例えば、
(a)ガス拡散層を低圧プラズマ処理する方法、
(b)オゾンによる酸化反応を利用する方法、
などがある。
触媒インクの塗布方法としては、スプレー塗布などがある。
【0082】
[5. 作用]
ガス拡散層の表面は、通常、撥水性である。そのため、ガス拡散層の表面に触媒インクを塗布して触媒層を形成する場合、電極触媒及びプロトン伝導体の分散媒として、撥水面に対する濡れ性が良好な溶媒(例えば、アルコール)を用いる必要がある。しかしながら、プロトン伝導体が配位高分子(CP)である場合において、CPをアルコール中に分散させると、CPが変質する場合がある。一方、これを回避するために分散媒として水を用いると、ガス拡散層の撥水面に触媒インクを均一に塗布するのが困難となる。
【0083】
これに対し、電極触媒及びCPを水に分散させて触媒インクとすると、CPの変質を抑制することができる。また、ガス拡散層の少なくとも一方の表面を親水化処理し、親水化処理面に水を分散媒とする触媒インクを塗布すると、親水化処理面に触媒インクを均一に塗布することができる。このようにして得られた燃料電池用電極は、CPの変質が抑制されており、かつ、電極触媒の凝集体が少ないので、高い触媒利用率、及び/又は、高いMA比率を示す。
【実施例0084】
(実施例1~2、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
[1.1.1. ガス拡散層(GDL)の低圧プラズマ処理]
低圧プラズマ処理チャンバー内に設置したガラス板上に、撥水層が形成されている面が上向きになるようにGDLを置いた。圧力が20Pa以下になるまでロータリーポンプでチャンバー内を減圧した後、圧力が35Paになるように流量を調節してArガスをチャンバー内に導入した。その後、周波数:13.56MHz、出力:100Wでプラズマを発生させた状態で30分保持した。
【0085】
[1.1.2. 触媒インクの調製]
白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E):0.2gに水:15gを加え、攪拌しながら配位高分子(CP):0.255gを加えた。CPには、アルミニウム(dema)リン酸を用いた。さらに1h攪拌した後、超音波ホモジナイザー処理を行い、触媒インクを作製した。
【0086】
[1.1.3. スプレー塗工]
GDLの親水化処理面に触媒インクをスプレーすることで触媒層を形成し、CP含有電極を得た。触媒インクのスプレー塗工は、GDLの親水化処理から4日後に行った。触媒層中のPt目付量は、0.3mg/cm2とした。
【0087】
[1.2. 実施例2]
GDLの低圧プラズマ処理の保持時間を10分とした以外は実施例1と同様にして、CP含有電極を得た。
【0088】
[1.3. 比較例1]
触媒インク作製時に溶媒としてエタノールを用いるための予備検討として、CPをエタノールに添加し、状態を分析した。CPには、アルミニウム(dema)リン酸を用いた。なお、後述するように、予備検討の結果、CPが変質したことが明らかとなったため、触媒インクの作製及びスプレー塗工は行わなかった。
【0089】
[1.4. 比較例2]
GDLの低圧プラズマ処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、CP含有電極を得た。
【0090】
[2. 試験方法]
[2.1. XRD測定]
エタノールに添加する前後の配位高分子について、XRD測定を行った。
【0091】
[2.2. 水の接触角]
親水化処理前後のGDL表面の水の接触角を測定した。水(イオン交換水)の滴下量は0.5μLとした。各サンプルとも水の接触角を5点測定し、その平均値を求めた。また、実施例1~2については、水の接触角の測定は、低圧プラズマ処理から4日後及び32日後に行った。
【0092】
[2.3. SEM観察]
スプレー塗工後のGDL表面のSEM観察を行った。
【0093】
[2.4. セル評価]
電解質膜の両面をカソード及びアノードで挟み込んで、セルとした。電解質膜には、リン酸ドープポリベンズイミダゾール(PBI)膜を用いた。カソードには、上記のCP含有電極(CP含有触媒層/GDL電極)を用いた。アノードには、別途作製した電極(リン酸含有触媒層/GDL電極)を用いた。アノードに水素、カソードに窒素を流した状態でCVを測定した。また、アノードに100%水素、カソードに100%酸素を流した状態で、150℃無加湿条件における発電性能(IV特性)を調べた。
【0094】
[3. 結果]
[3.1. XRD測定]
CPをエタノールに添加したところ、CPが沈殿し、分散できなかった。
図1に、エタノール添加前後の配位高分子(CP)のXRDパターンを示す。エタノール添加前のCPは、アモルファス相であった。一方、エタノール添加後のCPのXRDパターンには、
図1に示すように、元のアモルファス相とは異なる何らかの結晶ピークが多数観察された。
図1は、CPをエタノールに添加すると、CPが変質することを示している。そのため、比較例1については触媒インクの作製を中止し、以後の試験を行わなかった。
【0095】
[3.2. 水の接触角]
表1に、実施例1~2、比較例2で得られたGDL表面の、水の接触角の測定結果を示す。表1より、低圧プラズマ処理時の保持時間が長くなるほど、水の接触角が小さくなることが分かる。なお、未処理GDL(比較例2)の表面は、撥水性が非常に高いため、滴下した水滴が付着せず、表面を転がってGDLから落下した。そのため、比較例2は、接触角の測定ができなかった。
【0096】
【0097】
[3.3. SEM観察]
図2に、スプレー塗工後のGDL表面の反射電子像(上段)及び二次電子像(下段)を示す。比較例2(未処理GDL)においては、GDL表面に100μmサイズの凝集体が形成されていた。これらの凝集体は、反射電子像(上段)で明るくなっていることから、触媒のPtを含んでいることが分かった。従って、100μm程度の凝集体は、触媒/CPからなり、それ以外の領域は、露出したGDLであると考えられる。以上から、未処理のGDLでは、均一な触媒層を形成できなかったことが分かった。
【0098】
他方、実施例2(親水化処理時間:10分)においては、ひび割れが多いものの、層状構造となっており、比較例2とは明らかに異なる構造であることが確認できた。実施例1(親水化処理時間:30分)においては、10分処理の場合よりもひび割れが少なく、さらに均一な構造となっていた。以上より、GDLの親水化処理によって、触媒層の均一性が向上し、未処理GDLの場合に観察された凝集体構造を解消できることが分かった。
【0099】
[3.4. セル評価]
[3.4.1. CV及びECSA]
図3に、実施例1~2、及び、比較例2で得られたセルのサイクリックボルタモグラム(CV)を示す。なお、
図3には、水素脱離量(斜線部分)から算出した白金のECSAも併せて示した。比較例2(未処理GDL)は、CVの電流値が全体的に非常に小さく、触媒層中の電気化学的に活性なPtの表面積が非常に小さいことが分かる。この理由として、
図2で観察された凝集体において白金担持カーボンが緻密に凝集し、活性な表面積が小さくなったことが考えられる。
【0100】
これに対し、GDLの親水化処理を行うことで、CVの電流値が大きくなった。これは、GDLを親水化することで触媒層が均一に形成されたためと考えられる。また、これと関連して、白金担持カーボンの凝集が解消されたことが示唆される。
【0101】
[3.4.2. IV特性]
図4に、実施例1~2、及び、比較例2で得られたセルのIV特性を示す。なお、
図4には、質量活性(MA)も併せて示した。
図4より、GDLの親水化処理がIV特性の向上に効果があることが分かる。また、
図4より、IV特性に及ぼす親水化処理時間の影響も大きいことが分かる。
以上から、CP含有電極を作製する際に、触媒インクの分散媒として水を用いると同時に、GDLを親水化処理することにより、触媒層の均一性が向上すると共に、白金の利用率及び発電性能が向上することが分かった。
【0102】
[3.4.3. 触媒利用率、MA比率]
回転ディスク電極(RDE)法を用いて、電極触媒(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E)単体での電気化学有効表面積(ECSA0)及び質量活性(MA0)を測定した。ECSA0及びMA0の詳細な測定条件は、上述した通りであるので、説明を省略する。その結果、ECSA0=83m2/g、MA0=524A/gであった。
【0103】
中温域での運転時の性能を示す指標として、燃料電池セルで測定されたECSA及びMAを、電極触媒単体の性能に対する相対値で表した相対指標が考えられる。これらを、それぞれ、触媒利用率(=ECSA×100/ECSA0)、及び、MA比率(=MA×100/MA0)とする。表2に、実施例1~2、比較例2について算出したこれらの相対指標を示す。表3より、GDL表面の親水性が高くなるほど、触媒利用率が高くなり、かつ、MA比率も高くなることが分かる。
【0104】
【0105】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。