(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126090
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】補強材及び地盤補強工法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20240912BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
E02D5/80 101
E02D17/20 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034249
(22)【出願日】2023-03-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月1日に、ウェブサイト https://confit.atlas.jp/guide/event/jgs57/top において掲載された第57回地盤工学研究発表会の講演予稿集にて公開した。 また、令和4年7月22日第57回地盤工学研究発表会にて発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三上 登
【テーマコード(参考)】
2D041
2D044
【Fターム(参考)】
2D041BA54
2D041CA05
2D041CB01
2D041DB08
2D041GA02
2D044CA06
2D044DB01
2D044EA01
(57)【要約】
【課題】二重管削孔用の様な大型な削孔機械を必要とせず、狭隘な現場でも施工出来、しかも、掘削孔にセメントミルクを充填する必要がない補強材と地盤補強工法の提供。
【解決手段】本発明の補強材(10)は、芯材(1)と、芯材の外周に設けられた螺旋形状のスクリュー羽根(2)を有しており、スクリュー羽根は回転して地中にねじ込まれる形状であり、スクリュー羽根は芯材の全長に亘って延在せず、施工現場のすべり面(SS)よりも地中側に断続的に設けられ、隣接するスクリュー羽根間の距離(NP)はスクリュー羽根のピッチ(SP)の整数倍であり、スクリュー羽根の外径寸法(WD)は、芯材を地中に圧入した際の芯材周囲で圧縮される領域(PA)の外径寸法(PD)と同等或いはそれよりも大きく、且つ、土壌にねじ込み可能な寸法であり、すべり面よりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板(3)と組み合わせて用いられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、芯材の外周に設けられた螺旋形状のスクリュー羽根を有しており、
前記スクリュー羽根は、芯材を回転することにより地中にねじ込まれる形状であり、
前記スクリュー羽根は芯材の全長に亘って延在されてはおらず、
施工現場におけるすべり面よりも地中側に断続的に設けられており、
断続して設けられたスクリュー羽根と隣接するスクリュー羽根との芯材中心軸方向の距離はスクリュー羽根のピッチの整数倍であり、
前記スクリュー羽根の外径寸法は、芯材を地中に圧入した際には芯材の周囲で圧縮される領域の外径寸法と同等或いはそれよりも大きく、且つ、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な寸法であり、
すべり面よりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板と組み合わせて用いられることを特徴とする補強材。
【請求項2】
前記支圧板の厚さ寸法は、当該支圧板の剛性により、芯材の摩擦係数が概略1.0となり、すべり面よりも地上側に作用する力が無視できる様に設定されている請求項1の補強材。
【請求項3】
芯材と、芯材の外周に設けられた螺旋形状のスクリュー羽根を有しており、
前記スクリュー羽根は、芯材を回転することにより地中にねじ込まれる形状であり、
前記スクリュー羽根は芯材の全長に亘って延在されてはおらず、
施工現場におけるすべり面よりも地中側に断続的に設けられており、
断続して設けられたスクリュー羽根と隣接するスクリュー羽根との芯材中心軸方向の距離はスクリュー羽根のピッチの整数倍であり、
前記スクリュー羽根の外径寸法は、芯材を地中に圧入した際には芯材の周囲で圧縮される領域の外径寸法と同等或いはそれよりも大きく、且つ、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な寸法である様な補強材を選択し、
係る補強材を、すべり面よりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板と組み合わせ、
前記補強材を地盤中にねじ込んで固定し、
前記補強材を排土が生じない様に地盤中にねじ込むことを特徴とする地盤補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば軟弱地盤を補強するための補強材と、当該補強材を用いる地盤補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤補強用の長尺の補強材としては、例えばロックボルトが存在する(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
盛土の補強や軟弱地盤の補強のため地盤にロックボルトを打設する場合、掘削孔の孔壁崩壊による上部地盤の変状が生じ、また、設計通り造成できないという問題が生じる場合がある。係る問題を防止するため、ロックボルトの施工の際には二重管削孔を行う場合が多い。
しかし、二重管削孔を行うに際しては、施工に必要な削孔機械が大型化するという問題が存在する。また、削孔機械が大型化すると、狭隘な現場では、施工が困難になってしまう。
また、ロックボルトの耐力を増加するため、削孔にロックボルトを挿入した後、セメントミルクを充填して、セメントミルクと土壌との接着力によりロックボルトの引抜抵抗力(耐力)を向上させる場合がある。しかし、セメントミルクを充填すると、セメント製造過程も含めて二酸化炭素発生量が大きくなり、いわゆる「カーボンニュートラル」の方向性に逆らうことになるという問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-192100号公報
【特許文献2】特開2005-314993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、二重管削孔の様な大型な削孔機械を必要とせず、狭隘な現場でも施工できて、しかも、掘削孔にセメントミルクを充填する必要がない補強材と地盤補強工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の補強材(10)は、芯材(1)と、芯材(1)の外周に設けられた螺旋形状のスクリュー羽根(2)を有しており、
前記スクリュー羽根(2)は、芯材(1)を回転することにより地中にねじ込まれる形状であり、
前記スクリュー羽根(2)は芯材(1)の全長に亘って延在されてはおらず、
(補強材10の)施工現場におけるすべり面(SS)よりも地中側に断続的に設けられており、
断続して設けられたスクリュー羽根(2)と隣接するスクリュー羽根(2)との芯材中心軸方向の距離(NP)はスクリュー羽根(2)のピッチ(SP)の整数倍であり、
前記スクリュー羽根(2)の外径寸法(WD)は、芯材(1)を地中に圧入した際には芯材(1)の周囲で圧縮される領域(PA)の(芯材中心軸に対する)外径寸法(PD)と同等或いはそれよりも大きく、且つ、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な寸法であり、
すべり面(SS)よりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板(3)と組み合わせて用いられることを特徴としている。
【0006】
また本発明の地盤補強工法は、
芯材(1)と、芯材(1)の外周に設けられた螺旋形状のスクリュー羽根(2)を有しており、
前記スクリュー羽根(2)は、芯材(1)を回転することにより地中にねじ込まれる形状であり、
前記スクリュー羽根(2)は芯材(1)の全長に亘って延在されてはおらず、
(補強材10の)施工現場におけるすべり面(SS)よりも地中側に断続的に設けられており、
断続して設けられたスクリュー羽根(2)と隣接するスクリュー羽根(2)との芯材中心軸方向の距離(NP)はスクリュー羽根(2)のピッチ(SP)の整数倍であり、
前記スクリュー羽根(2)の外径寸法(WD)は、芯材(1)を地中に圧入した際には芯材(1)の周囲で圧縮される領域(PA)の(芯材中心軸に対する)外径寸法(PD)と同等或いはそれよりも大きく、且つ、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な寸法である様な補強材(10)を選択し、
係る補強材(10)を、すべり面(SS)よりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板(3)と組み合わせ、
前記補強材(10)を地盤中にねじ込んで固定し、
前記補強材(10)を排土が生じない様に地盤中にねじ込むことを特徴としている。
【0007】
本発明において、芯材(1)の径(Φ)が25mmであれば前記スクリュー羽根(2)の外径寸法(WD)は100mmであるのが好ましい。
【0008】
また本発明において、前記支圧板(3)は、一辺が1mの正方形形状であるのが好ましい。
そして当該支圧板(3)の厚さ寸法は、当該支圧板(3)の剛性により、当該支圧板(3)の法面工低減係数(μ)が概略1.0となり、すべり面(SS)よりも地上側に作用する力が無視できる様に設定されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成を具備する本発明によれば、前記スクリュー羽根(2)を有しているので、セメントミルクを充填しなくても十分な引き抜き抵抗力(耐力)が得られる。そのため、本発明ではセメントミルクが不要であり、少なくともセメント製造の際に発生する二酸化炭素の量だけ、二酸化炭素発生量を低減させることが出来る。
そして、セメントミルクが不要であることから、本発明によればセメントミルク或いはグラウト充填作業も不要となり、工期が短縮される。それに伴い、施工に際して消費されるエネルギーが減少し、二酸化炭素排出量が減少する。
そのため本発明は、カーボンニュートラルに寄与出来る。
【0010】
そして本発明によれば、前記スクリュー羽根(2)により、従来のロックボルトと同様に、地盤と一体化して、必要な引き抜き抵抗力を発揮することが出来る。
また本発明によれば、前記スクリュー羽根(2)は(補強材10の)施工現場におけるすべり面(SS)よりも地中側に断続的に設けられており、地上まで連続していないので、補強材(10)を土壌中にねじ込んだ際に補強材(10)により押し除けられた排土は、スクリュー羽根(2)により地上側まで搬送されることはなく、スクリュー羽根(2)が設けられていない領域に貯留される。排土が地上側には排出されないため、上部地盤に変状を生じてしまうことが防止される。また、排土処理が不要となり、その分、施工コストが節減される。さらに、排土処理に際して発生する二酸化炭素の分だけ、二酸化炭素排出量が減少する。
【0011】
本発明によれば、剛性を有する支圧板(3)と組み合わせて使用するため、支圧板(3)の剛性が大きく、当該支圧板(3)の法面工低減係数(μ)が概略1.0であれば、すべり面(SS)よりも地上側の領域における引き抜き抵抗を無視することが出来る。
その場合には、すべり面(SS)よりも地中側の領域における引き抜き抵抗のみを考慮すれば良くなるので、前記スクリュー羽根(2)は施工現場におけるすべり面(SS)よりも地中側にのみ設けることも可能である。
【0012】
本発明において、前記スクリュー羽根(2)の外径寸法(WD)は、芯材(1)を地中に圧入した際には芯材(1)の周囲で圧縮される領域(PA)の(芯材中心軸に対する)外径寸法(PD)と同等或いはそれよりも大きく設定されているので、前記スクリュー羽根(2)は芯材(1)を地中に圧入した際に芯材(1)の周囲で圧縮された領域(PA)により確実に地中で支持され、必要な引き抜き抵抗力を確実に得られる。
また、前記スクリュー羽根(2)の外径寸法(WD)は、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な範囲に設定されているので、地中にねじ込んだ際にスクリュー羽根(2)が破損することや、芯材(1)が折曲してしまうことが防止され、ねじ込まれた補強材(10)が地盤中に存在する礫やその他の障害物と干渉する可能性が低くなり、施工現場の土壌が粘性土であってもスクリュー羽根(2)と粘性土との摩擦が大き過ぎてしまうことが防止される。
さらに、スクリュー羽根(2)の外径(WD)が大き過ぎて、製造が困難になることも防止される。本発明の補強材(10)においては、隣接したスクリュー羽根同士の芯材軸方向間隔(NP)は、スクリュー羽根(2)のスクリューピッチ(SP)の整数倍にすることによりスクリュー羽根製造を容易にしている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る補強材の斜視図である。
【
図2】図示の実施形態において作用する力を説明する説明図である。
【
図4】スクリュー羽根のピッチと隣接するスクリュー羽根との間隔を示す説明図である。
【
図5】図示の実施形態に係る補強材による補強工法の一工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図示の実施形態に係る補強材は、グラウンドアンカーではなく、ロックボルトに属している。
図1において、図示の実施形態に係る補強材10は、芯材1とスクリュー羽根2を有している。
明確には図示されていないが、芯材1は、中実の棒鋼でも、中空の管材でも良い。また、芯材1の断面形状は円形に限定されない。換言すれば、芯材が中空の環状部材である場合には、芯材は円筒形状の円管のみならず、角パイプであっても良い。
【0015】
図1において、芯材1の外周にはスクリュー羽根2が取り付けられている。芯材1の外周にスクリュー羽根2を取り付ける態様としては、例えば溶接その他の公知の手法を用いることが出来る。
図1において、芯材の外径は記号φで示され、スクリュー羽根2の外径は記号WDで示されている。
図1から明らかな様に、スクリュー羽根2は芯材1の軸線方向の全長に亘って設けられてはいない。スクリュー羽根2は、(補強材10の)施工現場におけるすべり面SSよりも地中側に相当する領域(
図1では右側の領域)に断続的に設けられている。スクリュー羽根2は、芯材1を回転することにより地中にねじ込むことが出来る様な形状を有している。
図1では断続的に2ピッチ分のスクリュー羽根2が設けられているが、単一のスクリュー羽根2を1ピッチ分だけ設けることも出来る。或いは、後述する条件を充足するのであれば、スクリュー羽根2を3ピッチ以上設けることも出来る。
図示の実施形態の補強材10は、芯材1の外周にスクリュー羽根2を有しているので、補強材10が引き抜かれる際にはスクリュー羽根2が抵抗する。そのため、セメントミルクを充填しなくても十分な引き抜き抵抗力(耐力)が得られる。その結果、セメントミルクが不要となり、少なくともセメント製造の分だけ二酸化炭素発生量を低減出来る。そして、セメントミルク或いはグラウト充填作業も不要となるため、図示の実施形態では施工の工期が短縮し、それに伴い、施工における消費電力が減少して、二酸化炭素排出量が減少する。
この様に、図示の実施形態では、カーボンニュートラルに寄与することが出来る。
【0016】
図2を参照して、ロックボルトに作用する力について説明する。
図2において、地盤G(領域GR1、GR2)にロックボルト20(補強材)が配置されている。地盤Gにおいて、ロックボルト20は、すべり面SSを挟んですべり面より地上側の領域GR1と、すべり面SSより地中側の領域GR2の双方に亘って延在している。そして地上側端部には、剛性の高い支圧板30が固定される。
図2で示すロックボルト20(補強材)は、図示の実施形態に係る補強材10と異なり、スクリュー羽根は設けられておらず、図示の実施形態における芯材に対応する部材のみから構成されている。
図2において、
符号T1paはすべり面SSより地上側の領域に作用する力を示し、
符号T2paはすべり面SSより地中側の領域に作用する力を示し、
符号Tsaはロックボルト20(芯材)の許容引張力を示している。
【0017】
ロックボルト20の設計に際しては、前記の作用する力T1pa、T2pa、ロックボルト20許容引張力Tsaの内、最小の力が支配的なパラメータであり、当該支配的なパラメータに合わせて設計が行われる。
ここで、ロックボルト20(芯材)の許容引張力Tsaは非常に大きい数値であるので、設計に際しては無視することが出来る。
【0018】
図2において、すべり面SSより地上側の領域に作用する力T1paに関しては、ロックボルト20の地上側端部において、剛性の高い支圧板30と組み合わせる場合、すべり面よりも地上側の領域には力「T1pa+T0」が作用する。ここで、力T0はのり面工と補強材の結合部に作用する補強材引張力であり、力T1paは次式で表現される。
T1pa=(1/1-μ)τ1pa×s (1)
式(1)において、「μ」は支圧板の法面工低減係数、「τ1pa」はロックボルト20と土壌間のせん断応力(
図2には図示しない)、「s」はすべり面SSより地上側の領域におけるロックボルト20と土壌に接触面積を示している。
剛性の高い支圧板30であれば、当該支圧板30の法面工低減係数μは1に近い数値(μ≒1)となり、式(1)において(1/1-μ)の数値が大きくなるため、T1paの値も非常に大きくなる。
そのため、剛性の高い支圧板30があると、すべり面SSよりも地中側の領域に作用する力T2paが最も小さくなる。すなわち、剛性の高い支圧板30がある場合には、ロックボルト20の設計に際しては、すべり面SSより地上側の領域に作用する力T1pa、ロックボルト20の許容引張力Tsaを無視することが出来、ロックボルトの耐力についてはすべり面SSより地中側の領域に作用する力T2paが支配的なパラメータになる。
【0019】
剛性の高い支圧板30がある場合には、ロックボルト20の耐力についてはすべり面SSより地中側の領域に作用する力T2paが支配的になるため、ロックボルト20の耐力を向上するには、ロックボルト20におけるすべり面SSよりも地中側の領域にスクリュー羽根を設ければ良い。
係る知見に基づいて、
図1、
図3~
図7に示す補強材10において、芯材のすべり面SSよりも地中側の領域に対応する部分において、その外周にスクリュー羽根2を設けている。そして、すべり面SSよりも地上側に作用する力が無視できる様な剛性を有する支圧板3(
図6参照)、換言すれば、すべり面SSよりも地中側の領域における引き抜き抵抗のみを考慮すれば良くなる様な剛性を有する支圧板3と組み合わせて用いる。
図1、
図3~
図7に示す補強材10では、スクリュー羽根2により、従来のロックボルトと同様に地盤と一体化して、必要な引き抜き抵抗力を発揮することが出来る。
なお、すべり面SSよりも地上側の領域にスクリュー羽根2を設けることは可能である。そのため、施工現場毎に異なるすべり面の位置に拘わらず、同一の補強材を使用することが出来る。
【0020】
剛性の高い支圧板としては、当該支圧板の法面工低減係数μが1に近い数値(μ≒1)となり、支圧板から地山Gに作用する力T1paが、すべり面SSよりも地中側の領域に作用する力T2paよりも大きくなる様な支圧板が選択される。換言すれば、ロックボルトの耐力の設計において、すべり面よりも地中側の領域に作用する力T2paが支配的になる様な支圧板が選択される。その様な支圧板としては、例えば、1辺が1mの正方形の支圧板であって、支圧板から地山Gに作用する力T0が、すべり面SSよりも地中側の領域に作用する力T2paよりも大きくなる様に設定されている支圧板が選択される。
【0021】
ここで、支圧板は、補強材の芯材における軸力に耐えることが出来る必要がある。すなわち、 T0r/Tmax>1 でなければならない。ここで、
T0r:支圧板の耐力
Tmax:ロックボルトの軸力(最大軸力)
なお、すべり面SSよりも地上側の領域にスクリュー羽根2を設けても、耐力は向上しない。
【0022】
次に
図3を参照して、スクリュー羽根2の外径WDについて説明する。
図3において、芯材1を地中に挿入した(ねじ込んだ)際に、芯材1の周辺の領域PAは圧密状態となる。特に、中空の管材の様に、径寸法の大きい芯材1を有する補強材10を地中に挿入すると、周辺領域PAが圧密状態になる傾向が顕著である。なお、
図3では図示の煩雑さを回避するため、圧密状態となった周辺領域PAの半径方向外方の周縁部を直線で表示している。
図示の実施形態ではスクリュー羽根2の外径WDを、圧密状態の領域PAの芯材中心軸に対する外径寸法PDと同等或いはそれよりも大きく設定している。
また、スクリュー羽根2の外径寸法WDは、施工現場の土壌にねじ込むことが可能な範囲に設定されている。
スクリュー羽根2の外径寸法WDを外径寸法PDと同等或いはそれよりも大きく設定したので、補強材10を地中に圧入した際に芯材1の周囲で圧縮された領域PAによりスクリュー羽根2が確実に支持され、スクリュー羽根2は必要な引き抜き抵抗力を得ることが出来る。
図示の実施形態において、芯材1の径が例えば25mmであれば、スクリュー羽根2の径は例えば100mmである。
【0023】
ここで、芯材1の径が大き過ぎると、補強材10の製造コストがかかり過ぎてしまう。また、二重管掘削の場合と同様に、補強材10を地中にねじ込む機械が大型化して、施工コストが増大する。そして、大型化した機械を使用するため、狭隘な作業現場での施工が困難になってしまう。
【0024】
スクリュー羽根2の外径WDが大き過ぎると、スクリュー羽根2の製造が難しくなり、製造コストの高騰を招く。
また、スクリュー羽根2の外径WDが大き過ぎると、スクリュー羽根2を地中にねじ込み難くなり、地中にねじ込む際にスクリュー羽根2が破損し、或いは補強材10が変形する。
さらに、地中にねじ込む際に各種障害物と干渉する可能性が高くなる。
それに加えて、特に施工現場の土壌が粘性土であると、スクリュー羽根2と粘性土との摩擦が大きくなってしまい、施工の障害となる。
一方、スクリュー羽根2の外径WDが小さ過ぎると、補強材10として必要な引き抜き抵抗力が得られなくなってしまう。
【0025】
図示の実施形態では、上述した問題を防止する様に、補強材10のスクリュー羽根2の外径寸法WDが設定される。
そのため、スクリュー羽根2の外径WDが大き過ぎて、製造が困難になることが防止される。また、補強材10を地中にねじ込んだ際にスクリュー羽根2が破損することが防止され、芯材1が折曲してしまうことが防止される。そして、ねじ込まれた補強材10が地盤中の各種障害物と干渉する可能性が低くなる。さらに施工現場の土壌とスクリュー羽根2との摩擦力が多大になってしまうことが防止される。
【0026】
次に、
図4を参照して、補強材10のスクリュー羽根2のピッチについて説明する。
図4において、上述した様に、スクリュー羽根2は芯材1の軸線方向全長に亘って設けられてはおらず、断続的に設けられている。
図4では、2枚のスクリュー羽根2が示されており、各スクリュー羽根2のピッチは符号SPで示されている。符号SPで示すピッチについて、本明細書では「スクリュー羽根ピッチSP」と表現する場合がある。
また、断続して設けられたスクリュー羽根2と隣接するスクリュー羽根2との芯材中心軸方向の距離は、符号NPで示されている。当該距離NPについて、本明細書では「スクリュー羽根間隔NP」と表現する場合がある。
【0027】
スクリュー羽根間隔NPが大き過ぎると、所定の長さの(補強材10の)芯材1に形成することが出来るスクリュー羽根2の枚数が少なくなり、必要な耐力が得られなくなる。
一方、スクリュー羽根間隔NPが小さ過ぎると、スクリュー羽根2の加工が困難となり、補強材10の製造コストが嵩んでしまう。すなわち、芯材1に形成するスクリュー羽根2の枚数が多くなり過ぎてしまうため、製造コストが嵩んでしまう。
図示の実施形態では、スクリュー羽根間隔NP(断続して設けられたスクリュー羽根2と隣接するスクリュー羽根2との芯材中心軸方向の距離)をスクリュー羽根ピッチSPの整数倍に設定している。スクリュー羽根間隔NPをスクリュー羽根ピッチSPの整数倍に設定することで、図示の実施形態において断続的に形成されているスクリュー羽根2は、連続する単一の螺旋の一部が省略された様な態様となり、製造が容易になるからである。
【0028】
次に、
図5、
図6を参照して、
図1~
図4を参照して説明した補強材10を用いた補強工法の工程を説明する。
図5で示す工程では、施工現場(例えば地山G或いは地山の領域GR1、GR2)におけるすべり面SSを決定する。すべり面SSの決定は従来公知の方法により行われる。
図5で示す工程では、すべり面SSよりも地中側の領域(
図5で矢印Dで示す領域、領域GR2)にスクリュー羽根2が設けられている様な補強材10を選択する。
補強材10の選択の際には、施工現場の土壌等に応じて、補強材10に必要な耐力、ねじ込む力を考慮して、芯材1の外径Φ、スクリュー羽根2の外径WD、スクリュー羽根ピッチSP、スクリュー羽根間隔NPが適正な補強材10を選択する。例えば、芯材1の外径Φが25mm、スクリュー羽根2の外径が100mm、スクリュー羽根間隔NPがスクリュー羽根ピッチSPの整数倍の補強材10が選択される。
【0029】
次に
図6で示す様に、補強材10と支圧板3とを組み合わせて施工する。そして、支圧板3を設置する。
ここで、支圧板3は、補強材10の耐力の設計において、すべり面よりも地中側の領域に作用する力T2pa(
図2参照)が支配的になる様な(すなわちすべり面SSよりも地上側に作用する力が無視できる様な)剛性を有する支圧板3が選択される。例えば、1辺が1mの正方形である様な支圧板3が選択される。
図2を参照して説明した様に、剛性を有する支圧板3と補強材10を組み合わせて使用すれば、支圧板3の剛性が大きく、支圧板3の法面工低減係数μが概略1.0となり、すべり面SSよりも地上側の領域における力を無視して、すべり面SSよりも地中側の領域における引き抜き抵抗のみを考慮すれば良い。
【0030】
図6で示す工程では、
図5の工程で選択した補強材10を地盤中にねじ込んで固定する。
図5の工程で選択された補強材10は、
図6で示す様に、芯材1におけるすべり面SSよりも地中側の領域に2枚のスクリュー羽根2-1、2-2が設けられている。
補強材10がねじ込まれる際に、スクリュー羽根2-1、2-2によって排土が生じることは無く、排土は地上側に排出されることもない。
【0031】
排土が地上側には排出されないため、上部地盤に変状を生じてしまうことが防止され、排土処理が不要となり、その分、施工コストが節減される。さらに、排土処理に必要な二酸化炭素の分だけ、二酸化炭素排出量が減少する。
補強材10がねじ込まれた(回転挿入された)後、支圧板3が設置される。ただし、支圧板3の設置は、補強材10の回転挿入後以外のタイミングで行うことも可能である。
【0032】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0033】
1・・・芯材
2・・・スクリュー羽根
3・・・支圧板
10・・・補強材
NP・・・隣接するスクリュー羽根間の芯材中心軸方向の距離
PA・・・芯材の周囲で圧縮される領域
PD・・・芯材の周囲で圧縮される領域の外径寸法
SP・・・スクリュー羽根のピッチ
SS・・・すべり面
WD・・・スクリュー羽根の外径寸法