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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126109
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塗膜の付着性評価方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240912BHJP
   G01N 3/42 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 19/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N3/00 P
G01N3/42
G01N19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034282
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達朗
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA16
2G061CB01
2G061DA01
2G061DA16
2G061EA01
2G061EB07
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】 塗膜面の方向依存なく、簡便で精度良く、塗膜の付着性を評価できる塗膜の付着性評価方法及び評価装置の提供。
【解決手段】 評価装置は、上下面を法線方向に貫通させた貫通孔を有する金属製ブロックからなる基準平板と、貫通孔に沿って往復動自在に組み合わせられたくさび状工具と、塗膜の評価対象部分を跨いで鋼橋の上に固定される固定部材と、くさび状工具へのばね荷重を制御するばね荷重付与機構と、くさび状工具の移動の固定又は解除を切り替えるロック機構と、を含む。評価方法は、同装置を用いて、塗膜の評価対象部分を跨いだ位置のそれぞれに固定部材を固定し、塗膜と面平行となるようにしつつ離間させて固定部材の上に基準平板を固定し、くさび状工具の先端のくさび状端部を評価対象部分に当接させてくさび状工具と基準平板とをロックし、所定のばね荷重をくさび状工具に与え、ロックを解除してくさび状端部を評価対象部分の塗膜に押し込む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の平行な上面及び下面を有するとともにこの上下面を法線方向に貫通させた貫通孔を有する金属製ブロックからなる基準平板と、
前記貫通孔に嵌合されて前記貫通孔に沿って往復動自在に組み合わせられたくさび状工具と、を含む装置を用いて、塗装された鋼橋の塗膜の付着性を評価する方法であって、
前記塗膜の評価対象部分を跨いだ位置のそれぞれに固定部材を前記鋼橋の上に固定し、
前記貫通孔の前記下面の開口を前記評価対象部分に対向させ、且つ、前記塗膜と前記下面とを面平行となるようにしつつ離間させて前記固定部材の上に前記基準平板を固定し、
前記くさび状工具の先端のくさび状端部を前記評価対象部分に当接させて前記くさび状工具と前記基準平板とをロック機構を作動させて固定し、
前記くさび状工具を前記下面の前記開口から押し出すように、所定のばね荷重を前記くさび状工具に与え、
前記ロック機構を解除して前記くさび状端部を前記評価対象部分において前記塗膜に押し込むことを特徴とする鋼橋の塗膜の付着性評価方法。
【請求項2】
前記ロック機構の作動時の前記くさび状工具の鉛直方向からの向きに対応して前記ばね荷重を補正して前記塗膜の評価を行うことを特徴とする請求項1記載の鋼橋の塗膜の付着性評価方法。
【請求項3】
塗装された鋼橋の塗膜の付着性を評価する装置であって、
一対の平行な上面及び下面を有するとともにこの上下面を法線方向に貫通させた貫通孔を有する金属製ブロックからなる基準平板と、
前記貫通孔に嵌合されて前記貫通孔に沿って往復動自在に組み合わせられたくさび状工具と、を含み、
前記塗膜の評価対象部分を跨いだ位置のそれぞれで前記鋼橋の上に固定される固定部材と、
前記くさび状工具を前記下面の開口から押し出す方向にばね荷重を可変制御するばね荷重付与機構と、
前記貫通孔に沿った前記くさび状工具の移動の固定又は解除を切り替えるロック機構と、を更に含み、
前記貫通孔の前記下面の前記開口を前記評価対象部分に対向させ、且つ、前記塗膜と前記下面とを面平行となるようにしつつ離間させて前記固定部材の上に前記基準平板を固定し、
前記くさび状工具の先端のくさび状端部を前記評価対象部分に当接させて前記くさび状工具と前記基準平板とを前記ロック機構を作動させて固定し、
前記ばね荷重付与機構で、くさび状工具を前記下面の前記開口から押し出すように、所定のばね荷重を前記くさび状工具に与え、
前記ロック機構を解除して前記くさび状端部を前記評価対象部分において前記塗膜に押し込むよう動作することを特徴とする鋼橋の塗膜の付着性評価装置。
【請求項4】
ばね荷重付与機構は、前記基準平板の前記上面と対向し互いの距離を可変とする可動部と、前記可動部と前記くさび状工具との間に配置されたばね弾性部と、前記距離を変化させるように前記可動部を移動させる調整部と、を含むことを特徴とする請求項3記載の鋼橋の塗膜の付着性評価装置。
【請求項5】
前記ばね弾性部はコイルバネを含み、前記可動部の前記距離を最大としたときに自然長にあることを特徴とする請求項4記載の鋼橋の塗膜の付着性評価装置。
【請求項6】
前記固定部材は前記基準平板にあらかじめ固定されていることを特徴とする請求項3記載の鋼橋の塗膜の付着性評価装置。
【請求項7】
前記固定部材は磁力で前記鋼橋に固定されることを特徴とする請求項6記載の鋼橋の塗膜の付着性評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装された鋼橋の塗膜の付着性評価方法及びその装置に関し、特に、現場作業を可能とする塗装された鋼橋の塗膜の付着性評価方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装された鋼橋の塗膜の一部に劣化が生じると、この劣化部分を剥がして塗替えが行われる。このとき、塗膜の部分的な健全性を評価することが必要となる。かかる塗膜の健全性評価試験については、塗膜に部分的に切り込みを入れて塗膜にせん断力を生じさせて剥離評価を行う、JIS K 5600-5-6に準じた碁盤目試験などが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、碁盤目試験の塗膜面に碁盤目状の切れ込みを入れるための切り込み線形成刃具を開示している。スペーサにて間隔を保持された複数枚のカッター刃を設けた切り込み線形成刃具を作業者が塗膜に押しつけて刃先を塗膜面に沿って移動させるとしている。
【0004】
碁盤目試験のように、作業者によって塗膜に傷を導入し該塗膜にせん断力を作用させ剥離評価を行う試験方法では、作業者依存による試験結果のばらつきが生じやすくなる。
【0005】
そこで、非特許文献1では、碁盤目試験をベースとして、くさび状工具を塗膜に機械的に押し込むことで該塗膜にせん断力を作用させ剥離評価を行う方法を提案している。ここでは、塗膜上に受け治具を設置させた上でその差し込み口にくさび状工具を挿入し上部から所定重量を載荷して目的箇所に垂直にくさび状工具を押し込んで評価を行う。碁盤目試験のように、塗膜面に沿って刃具を相対移動させることなく、作業は重量の載荷のみとなるので、試験結果への作業者依存を除去できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-220183号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鈴木 慧、坂本 達朗、鈴木 隼人;「塗膜のせん断方向の付着性に着目した塗膜健全性評価」、鉄道総研報告、第35巻、第11号、2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1の方法によれば、簡便ながら、作業者依存による試験結果のばらつきを抑制できる。一方で、塗装された鋼橋のように、塗膜面がいろいろな方向を向いている場合、くさび状工具を重力方向と異なる方向へ押し込む必要があって、現場での作業はできない。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる塗膜の付着性評価方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による鋼橋の塗膜の付着性評価方法は、一対の平行な上面及び下面を有するとともにこの上下面を法線方向に貫通させた貫通孔を有する金属製ブロックからなる基準平板と、前記貫通孔に嵌合されて前記貫通孔に沿って往復動自在に組み合わせられたくさび状工具と、を含む装置を用いて、塗装された鋼橋の塗膜の付着性を評価する方法であって、前記塗膜の評価対象部分を跨いだ位置のそれぞれに固定部材を前記鋼橋の上に固定し、前記貫通孔の前記下面の開口を前記評価対象部分に対向させ、且つ、前記塗膜と前記下面とを面平行となるようにしつつ離間させて前記固定部材の上に前記基準平板を固定し、前記くさび状工具の先端のくさび状端部を前記評価対象部分に当接させて前記くさび状工具と前記基準平板とをロック機構を作動させて固定し、前記くさび状工具を前記下面の前記開口から押し出すように、所定のばね荷重を前記くさび状工具に与え、前記ロック機構を解除して前記くさび状端部を前記評価対象部分において前記塗膜に押し込むことを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、評価対象部分の塗膜に生じるせん断力を拘束せず、しかも荷重の方向に制限はないから、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【0012】
上記した発明において、前記ロック機構の作動時の前記くさび状工具の鉛直方向からの向きに対応して前記ばね荷重を補正して前記塗膜の評価を行うことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【0013】
また、本発明による鋼橋の塗膜の付着性評価装置は、塗装された鋼橋の塗膜の付着性を評価する装置であって、一対の平行な上面及び下面を有するとともにこの上下面を法線方向に貫通させた貫通孔を有する金属製ブロックからなる基準平板と、前記貫通孔に嵌合されて前記貫通孔に沿って往復動自在に組み合わせられたくさび状工具と、を含み、前記塗膜の評価対象部分を跨いだ位置のそれぞれで前記鋼橋の上に固定される固定部材と、前記くさび状工具を前記下面の開口から押し出す方向にばね荷重を可変制御するばね荷重付与機構と、前記貫通孔に沿った前記くさび状工具の移動の固定又は解除を切り替えるロック機構と、を更に含み、前記貫通孔の前記下面の前記開口を前記評価対象部分に対向させ、且つ、前記塗膜と前記下面とを面平行となるようにしつつ離間させて前記固定部材の上に前記基準平板を固定し、前記くさび状工具の先端のくさび状端部を前記評価対象部分に当接させて前記くさび状工具と前記基準平板とを前記ロック機構を作動させて固定し、前記ばね荷重付与機構で、くさび状工具を前記下面の前記開口から押し出すように、所定のばね荷重を前記くさび状工具に与え、前記ロック機構を解除して前記くさび状端部を前記評価対象部分において前記塗膜に押し込むよう動作することを特徴とする。
【0014】
かかる特徴によれば、評価対象部分の塗膜に生じるせん断力を拘束せず、しかも荷重の方向に制限はないから、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【0015】
上記した発明において、ばね荷重付与機構は、前記基準平板の前記上面と対向し互いの距離を可変とする可動部と、前記可動部と前記くさび状工具との間に配置されたばね弾性部と、前記距離を変化させるように前記可動部を移動させる調整部と、を含むことを特徴としてもよい。また、前記ばね弾性部はコイルバネを含み、前記可動部の前記距離を最大としたときに自然長にあることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【0016】
上記した発明において、前記固定部材は前記基準平板にあらかじめ固定されていることを特徴としてもよい。また、前記固定部材は磁力で前記鋼橋に固定されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、塗膜面の方向依存なく、簡便ながら精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の1実施例における評価装置の斜視図である。
図2】ばね弾性部付近の側面図である。
図3】評価装置の可動部付近の側断面図である。
図4】評価装置の固定部材周辺の側面図である。
図5】評価装置を用いた塗膜の付着性の評価方法を示すフロー図である。
図6】くさび状端部を塗膜に押し込んだ状態を示す塗膜の断面図である。
図7】塗膜への押し込み量と荷重の関係を示すグラフである。
図8】亀裂発生時の荷重と碁盤目試験による残存面積率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による塗膜の付着性評価方法及び付着性評価装置について説明する。
【0019】
まず、付着性評価装置について図1乃至図3を用いて説明する
【0020】
図1に示すように、評価装置1は、金属製ブロックからなる基準平板2と、その略中央に設けられた貫通孔23に嵌合されたくさび状工具3とを含む。基準平板2は、一対の平行な上面21及び下面22を有し、貫通孔23をその上下面の法線方向に貫通させている。一方、くさび状工具3は、貫通孔23に沿って往復動自在に組み合わされている。つまり、くさび状工具3は、基準平板2の上下面の法線に沿って上下方向に移動自在である。くさび状工具3の移動方向を安定させることができるよう、基準平板2をブロック状体として貫通孔23の長さを確保している。また、くさび状工具3は、基準平板2の下面22から垂下された下方側のくさび形状を有するくさび部31と、貫通孔23に嵌合しつつその内部を移動するシャフト部32とを備える。
【0021】
基準平板2は、貫通孔23を跨いだ左右を固定部材4a及び4bに下面22で固定されている。つまり、基準平板2は、固定部材4a及び4bの間にくさび部31を垂下させている。固定部材4a及び4bは、基準平板2の下面22を評価対象となる塗膜P(図4参照)と面平行にするように塗膜の塗装された鋼橋に固定できるようにされる。例えば、本実施例では、鋼橋の平面となる部分に塗装された塗膜を評価対象として、かかる平面に磁力で固定することができるようにした。具体的には、固定部材4a及び4bは同一の高さを有する直方体形状で、磁力のON-OFFを切り替え可能なマグネットホルダ台とした。
【0022】
基準平板2の下面22には、くさび状工具3の上下の移動の固定又は解除を切り替えるロック機構24を備える。ロック機構24としては、例えば、下部レバー25の回動により、シャフト部32の移動についての固定と解除とを切り替えることのできる公知のシャフトクランプを用い得る。
【0023】
基準平板2の上面21には、くさび状工具3にばね荷重を付与するばね荷重付与機構5が設けられている。ばね荷重付与機構5は、所望のばね荷重を可変制御して上方からくさび状工具3に付与できるものであればよいが、例えば以下のような構成とし得る。
【0024】
その例として、ばね荷重付与機構5は、基準平板2の上面21に固定されて上方に延びる柱51a及び51bと、柱51a及び51bの上端に固定されて略水平に延びる板体52と、板体52に取り付けられる回転体53と、くさび状工具3の上端に接続されるばね弾性部40とを含む。柱51a及び51bは、ばね弾性部40の左右両側に配置され、板体52と基準平板2との距離を固定する。
【0025】
図2に示すように、ばね弾性部40は、上下方向に圧縮される圧縮コイルバネ41を備えており、圧縮コイルバネ41の上端41aに取り付けられたカバー体42を後述する回転体53の可動部53bの下端に接触させている。カバー体42は、可動部53bに対して摺動可能とされている。
【0026】
また、圧縮コイルバネ41は、くさび状工具3の上部に配置される。くさび状工具3は、上記したように上下に延びるシャフト部32を備えるが、シャフト部32の上側の段付き形状とされた段上部32aからシャフト部32よりも径の細い軸体33をさらに上方に延ばしている。そして、圧縮コイルバネ41は、段付き形状となった段上部32aにその下端41bを突き当てるとともに、内部に軸体33を挿通させている。これにより、圧縮コイルバネ41の圧縮変形によるばね荷重をくさび状工具3に負荷できるとともに、圧縮コイルバネの横方向への変形を抑制することができる。なお、軸体33は、その上端を圧縮コイルバネ41の変形によってカバー体42に接触させることがない程度の長さとされる。
【0027】
一方、図3に示すように、回転体53は、中心軸を上下に向けた円盤状をなし上面にハンドル53cを取り付けられた調整部53aとその中心から垂下される軸体からなる可動部53bとを含む。可動部53bの下側部分は外周にねじが切られており、板体52に設けられた上下方向に延びるねじ穴52aを貫通しつつこれに螺合される。そして、ハンドル53cを操作して調整部53aを回転させることで可動部53bを上下に移動させることができる。可動部53bは、基準平板2の上面21に対向しているので、互いの距離は可変とされる。この距離は、カバー体42、圧縮コイルバネ41及び上面21から突出したくさび状工具3のシャフト部32の距離となる。つまり、なお、可動部53bの基準平板2に対する距離の変化によって、変形可能な圧縮コイルバネ41が圧縮され得る。なお、この距離を最大としたときに圧縮コイルバネ41の自然長となるようにすると、荷重を負荷しない場合の位置を簡便に操作し調整できて好ましい。
【0028】
さらに、可動部53bの下端は、上記したように、ばね弾性部40の上端にあたるカバー体42に接触し、圧縮コイルバネ41の上端41aを下向きに移動させることができる。この上端41aの移動は、上記したように可動部53bの基準平板2の上面21に対する距離の変化に応じたものである。そして、この移動で圧縮コイルバネ41を圧縮変形させ、この変形量に対応する荷重をくさび状工具3に負荷できる。なお、上記したようにカバー体42は、可動部53bに対して摺動可能とされ、回転体53の回転を吸収して圧縮コイルバネ41にねじれ方向の力を加えないようにされる。
【0029】
可動部53bの上側部分の周囲を覆うようにして、板体52には、回転体53の回転の固定と解除とを切り替える上部ロック機構54が備えられる。上部ロック機構54は、上部レバー55(図1参照)の回動によって固定と解除を切り替えることのできる公知のシャフトクランプを用い得る。上部ロック機構54は、所望の荷重をばね弾性部40に生じさせるよう変形を与えた回転体53の回転を止めることで、かかる荷重を維持することができる。なお、可動部53bには、ばね弾性部40で生じる荷重に対応した移動量(圧縮コイルバネの変形量)を示す目盛を付しておくことが好ましく、これによって所定の荷重を負荷するよう調整部53aで調整できる。
【0030】
図4に示すように、固定部材4a及び4bの底面は同一平面上にあり、さらに、かかる平面上にくさび部31の先端のくさび状端部31aを初期位置として配置できるようにされている。後述するように、使用開始時には、くさび状端部31aを塗膜Pの評価対象部分P1に当接させる。そのため、塗膜Pが塗布された鋼橋60の評価面61が平面の場合にこのような配置となる。また、初期位置としてくさび状端部31aを評価対象部分P1の表面に垂直な方向から当接させるようにする。そのため、塗膜Pと基準平板2の下面22とを面平行となるようにしつつ離間させて固定させる。なお、評価面61が平面ではない場合などにおいては、その形状に合わせて、固定部材4a及び4bの形状や固定方法などを変えても良い。
【0031】
次に、評価装置1を用いた塗膜の付着性評価方法について図5に沿って図4図6乃至図8を併せて参照しつつ説明する。
【0032】
図5図4を併せて参照すると、まず、評価装置1を塗膜の評価対象部分P1を含む鋼橋60に固定する(S1)。すなわち、評価装置1の固定部材4a及び4bを、評価対象部分P1を跨いだ位置のそれぞれにおいて鋼橋60の上に固定する。このとき、基準平板2の貫通孔23の下面22の開口23’を評価対象部分P1に対向させ、且つ、塗膜Pと下面22とを面平行となるように離間させて配置する。つまり、くさび状工具3の上下動の方向を塗膜Pの表面に対して垂直にして、くさび状工具3の上下動によってくさび状端部31aを評価対象部分P1に当接させ得る配置とする。なお、本実施例では、固定部材4a及び4bは予め基準平板2に固定されているが、下面22を塗膜Pと面平行となるように離間して配置し、くさび状端部31aを評価対象部分P1に当接させた初期位置とできればよく、スペーサを咬ませてクランプするなどの他の固定方法を用いてもよい。
【0033】
次いで、くさび状工具3を基準平板2に固定する(S2)。このとき、くさび状工具3の初期位置は、くさび状端部31aを評価対象部分P1に当接させた位置とされる。そして、くさび状端部31aを評価対象部分P1に当接させたままロック機構24を作動させて、くさび状工具3を基準平板2に対して固定する。
【0034】
次に、所定のばね荷重をくさび状工具3に負荷する(S3)。ここでは、ハンドル53cを操作して回転体53を回転させることで、可動部53bを下降させて、ばね弾性部40に下向きの荷重を負荷する。すると、ばね弾性部40は、圧縮コイルバネ41を圧縮させてその反力をくさび状工具3に伝達する。これによって、くさび状工具3は、基準平板2の下面22の開口23’から下向きに押し出されるようにばね荷重を付与される。このとき、くさび状工具3に付与される荷重を調整部53aで調整して所定のものとする。ロック機構24を作動させた状態であるので、くさび状工具3に与えるべき荷重を調整する間にくさび状端部31aが塗膜Pに押し込まれることがない。
【0035】
そして、ロック機構24によってくさび状工具3の固定を解除する(S4)と、くさび状端部31aは、所定の荷重で塗膜Pの評価対象部分P1に押し込まれるよう動作する。なお、くさび状端部31aは、あらかじめ評価対象部分P1に当接された位置から押し込まれるので、衝撃力が生じず、定量的な評価に資することとなる。
【0036】
すると、図6に示すように、くさび状工具3に負荷された荷重に応じた深さまでくさび状端部31aが塗膜Pの評価対象部分P1に押し込まれる。評価対象部分P1では、押し込まれたくさび状端部31aのくさび形状によって表面に沿ってくさび状端部31aから離間する方向(紙面左右方向)にせん断力を受ける。このせん断力はくさび状端部31aの形状と押し込み量によって一義的に定まり、定量的である。このように、押し込み量に応じたせん断力を塗膜に与えるため、くさび状端部31aの上に向けて広がる断面形状の角度は、切断を目的とするカッター刃などよりも大きくされる。
【0037】
なお、評価装置1の固定部材4a及び4bは評価対象部分P1を跨いで離間しており、また、基準平板2も評価対象部分P1から離間しているので、評価対象部分P1の塗膜Pに生じるせん断力を拘束しない。また、上記したようにくさび状工具3に負荷される荷重は所定のものであり、くさび状端部31aの荷重も一定に制御できる。加えて、くさび状端部31aは、ばね荷重によって塗膜Pに押し込まれるため、重力の方向とは無関係となり、評価装置1の方向には制限がない。つまり、評価装置1は、評価対象部分P1の塗膜への外乱が少なく、繰り返しや作業者による試験結果のばらつきも少なく、鋼橋60上の評価対象部分P1の塗膜Pの方向に制限なく使用できる。
【0038】
そして、塗膜の付着性を評価するため、評価対象部分P1の塗膜の観察を行い、亀裂を生じているか否かと併せて、くさび状工具3に負荷された荷重に対応する圧縮コイルバネ41の変形量を記録する(S5)。上記したように、くさび状端部31aは荷重に応じた深さで塗膜に押し込まれ、その押し込み量に応じて塗膜にせん断力を生じさせる。つまり、荷重に応じたせん断力を塗膜に生じさせることができる。そして、塗膜の付着性は、亀裂を生じるせん断力に対応すると考えると、亀裂を生じた荷重にも対応する。つまり、亀裂を生じた荷重又はこれに対応する圧縮コイルバネ41の変形量で塗膜の付着性を評価できる。
【0039】
図7に示すように、実験室において、くさび状端部31aの塗膜への押し込み量と荷重(試験力)との関係を精確に測定した。その結果、塗膜に割れ(亀裂)の生じたときの荷重と押し込み量とが再現性よく一定の数値となることが判った。
【0040】
また、図8に示すように、鋼橋の塗膜において、本実施例による塗膜の破壊した(亀裂の生じた)ときの荷重と、従来の碁盤目試験による残存面積率との関係を調べた。すると、両者の関係の変化はおよそ比例していることが判った。つまり、本実施例によれば、精度よく塗膜の付着性を評価できる。
【0041】
以上のように、本実施例による評価装置1を用いた評価方法によれば、塗膜に亀裂を生じた荷重を記録するだけの簡便な方法ながら、塗膜の方向依存なく、作業者によらず精度良く、塗膜の付着性を評価できる。
【0042】
上記したように、本実施例では、くさび状端部31aはカッター刃などよりも広い角度を有し塗膜に大きなせん断力を付与できて、少なくとも切り込みを入れるときにおいて碁盤目試験とは大きく異なる。また、本実施例では、塗膜に亀裂を生じたか否かに基づき付着性を評価するのに対し、碁盤目試験では塗膜のはがれの状態に基づき付着性を評価する。このように、2つの評価方法は大きく異なるにも関わらず、上記したように塗膜の付着性を同等に評価できることが判った(図8参照)。このことから、これら2つの方法は、ともに塗膜の付着性を良好に評価できているものと言える。
【0043】
また、従来の碁盤目試験では、塗膜の厚さが厚くなるほど切り込みを入れる労力が大きく、作業者のくせや熟練度による切り込み深さのばらつきも大きくなる。そのため、塗膜の厚さが250μm以上の場合は碁盤目試験の規格の対象外である。一方、本実施例によれば、一定の荷重でくさび状端部31aを塗膜に押し込むことができるので、繰り返しや作業者による試験結果のばらつきも生じず、塗膜の厚さが250μm以上の場合でも精度よく評価できる。
【0044】
また、上記したように、荷重の方向に制限はないが、ロック機構24の作動時のくさび状工具3の鉛直方向からの向きに対応して、ばね荷重を補正することが好ましい。つまり、くさび状端部31aに負荷される荷重に影響を与えるくさび状工具3や圧縮コイルバネ41などの自重による荷重を重力の方向に対応して補正するのである。これによって、塗膜面の方向依存なくより精度よく塗膜の付着性を評価できる。
【0045】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに伴う変形例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0046】
1 評価装置
2 基準平板
3 くさび状工具
4a、4b 固定部材
5 ばね荷重付与機構
24 ロック機構
25 下部レバー
55 上部レバー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8