(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126112
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】プリプレグテープ
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240912BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034288
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智彦
(72)【発明者】
【氏名】布施 充貴
(72)【発明者】
【氏名】土谷 敦岐
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB14
4F072AB22
4F072AG03
4F072AG15
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AJ40
(57)【要約】
【課題】簡便な技術を用いつつ、接合部と非接合部の厚みが均一な、フラット接合したプリプレグテープを提供する。
【解決手段】一方向に引き揃えられた連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグテープであって、プリプレグテープに含まれる全ての連続強化繊維が切断された切断面を有し、前記切断面同士が接合されてなる接合部を、上面視した際に見られる切断線が、[1]1つ以上の屈曲点を有する、および[2](a)曲線で構成される切断線、または(b)2本以上の直線または曲線の組み合わせからなる切断線を有するプリプレグテープである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグテープであって、
プリプレグテープに含まれる全ての連続強化繊維が切断された切断面を有し、
前記切断面同士が接合されてなる接合部を上面視した際に見られる切断線が以下[1]および[2]の特徴を有するプリプレグテープ。
[1]1つ以上の屈曲点を有する
[2]下記(a)または(b)を満たす切断線を有する
(a)曲線で構成される切断線
(b)2本以上の直線または曲線の組み合わせからなる切断線
【請求項2】
前記連続強化繊維の配向方向に対する前記切断線の投影長さLが前記プリプレグテープ幅Bに対して4B≧L≧B/3となる請求項1に記載のプリプレグテープ。
【請求項3】
前記切断線の長さの総和Sが前記プリプレグテープ幅Bに対してS≧2Bとなる請求項1に記載のプリプレグテープ。
【請求項4】
前記接合部のプリプレグテープの厚みが、前記連続強化繊維が切断されていない、非接合部のプリプレグテープの厚みに対して60%以上100%以下である請求項1に記載のプリプレグテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグテープに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を連続強化繊維として用いたプリプレグテープは、その高い比強度・比弾性率を生かして、航空機や自動車等の構造材料、スポーツ用品あるいは一般産業用途の素材として利用されている。特に航空機産業においては燃料節約及び操業コストの削減を目的に、幅広く利用されている。
【0003】
これらの航空機部材を製造するにあたり、AFP(Automatic Fiber Placement)装置、ATL(Automatic Tape Lay-up)装置が活用されている。AFP装置およびATL装置は、連続強化繊維と樹脂からなるテープを適切な場所に自動で配置し、積層する技術である。
【0004】
一般的に、AFP装置またはATL装置に使用されるプリプレグテープの製品形状は、装置への設置を簡便にする目的で、プリプレグテープが紙管に巻かれた形の、巻取体の形状をとる。この巻取体は、一度の設置で長時間の積層を可能とするために、長距離のプリプレグテープで構成され、数キロメートルに及ぶことがある。この長さは、プリプレグテープの材料であるプリプレグシートの製品長より長いため、複数回、プリプレグテープを接合する必要がある。一般的に、これら接合部は、単純なシングルラップであり、接合部は非接合部と比較してプリプレグテープの厚みが約2倍となる。
【0005】
AFP装置またはATL装置によって積層された部材はプリフォーム材と呼ばれ、プリフォーム材はプレス加工を経て最終製品となる。高精度のプレス加工を実施するためには、プレス機の金型とプリフォーム材とが均一に接触している必要がある。万が一、突起物に接触し、プレス機の金型とプリフォーム材とが不均一に接触した状態でプレス加工を行った場合、プリフォーム材に掛かる圧力が不均一となり、製品品質のばらつき、また、突起物と接触した箇所に圧力が集中し、金型の破損の原因となる。そのため、厚みの異なる接合部を除去するため、プロセスを止めて再度テープを設置しなおす必要があり、手間やコストが増大する。
【0006】
特許文献1に開示された技術では、厚み方向に対し、斜めに切断したプリプレグテープ同士を接合することで、非接合部と同じ厚みの接合部を有するプリプレグテープである。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術では、2枚以上のプリプレグテープを互い違いに重ね合わせ、非接合部と同じ厚みの接合部を有するプリプレグテープである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-126847号公報
【特許文献2】特開2014-213539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、切断時のプリプレグテープ厚みを繊維配向方向に対して高精度に制御する切断装置が必要であり、さらに薄膜のプリプレグテープでは、切断時の厚み制御が更に難しくなる。また、特許文献2に開示された技術では、1枚のプリプレグテープの接合には適応できない。
【0010】
そこで、本発明の課題は、簡便な技術を用いつつ、接合部と非接合部の厚みが均一な、フラット接合したプリプレグテープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するための手段は、具体的に以下の通りである。
(1)一方向に引き揃えられた連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含むプリプレグテープであって、プリプレグテープに含まれる全ての連続強化繊維が切断された切断面を有し、前記切断面同士が接合されてなる接合部を上面視した際に見られる切断線が以下[1]および[2]の特徴を有するプリプレグテープ。
[1]1つ以上の屈曲点を有する
[2]下記(a)または(b)を満たす切断線を有する
(a)曲線で構成される切断線
(b)2本以上の直線または曲線の組み合わせからなる切断線
(2)前記連続強化繊維の配向方向に対する前記切断線の投影長さLが前記プリプレグテープ幅Bに対して4B≧L≧B/3となる(1)に記載のプリプレグテープ。
(3)前記切断線の長さの総和Sが前記プリプレグテープ幅Bに対してS≧2Bとなる(1)に記載のプリプレグテープ。
(4)前記接合部のプリプレグテープの厚みが、前記連続強化繊維が切断されていない非接合部のプリプレグテープの厚みに対して60%以上100%以下である(1)に記載のプリプレグテープ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な技術を用いつつ、接合部と非接合部の厚みが均一な、フラット接合したプリプレグテープを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明におけるフラット接合したプリプレグテープの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明におけるフラット接合したプリプレグテープの一例を示す上面図である。
【
図4】本発明におけるフラット接合したプリプレグテープの切断線の形態の一例を示す上面図である。
【
図5】本発明における接合部の一例を示す側面図である。
【
図6】本発明における連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さを示す概念図である。
【
図7】本発明におけるフラット接合したプリプレグテープのロール追従試験に用いた試験装置の(a)上面図、(b)側面図の概略をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまで本発明の望ましい実施の形態の例示であって、本発明は、これら実施形態様に限定されるものではない。
【0015】
本発明に係るプリプレグテープは、一方向に引き揃えられた連続強化繊維と熱可塑性樹脂により構成される。
【0016】
連続強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。連続強化繊維に炭素繊維を用いることで、軽量でありながら高い機械特性を有するプリプレグテープが得られる。
【0017】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0018】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0019】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0020】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0021】
本発明に用いられるプリプレグテープは、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましい。高い機械特性を発現するためには、連続強化繊維を補強材料として用いることができ、なかでも炭素繊維を含むことが好ましい。
【0022】
プリプレグテープに用いられる連続強化繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた連続強化繊維束を1本または複数本並べたものである。1本または複数本の連続強化繊維束を並べたときの連続強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、連続強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。連続強化繊維の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるように決められればよい。
【0023】
1本の連続強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである連続強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成されたものが好適に使用できる。
【0024】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。前記ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテエーテルルケトンエーテルケトン(PEEKEK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、及びポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)等やこれらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などであってもよい。とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からはPPS樹脂やPEEK樹脂およびPEKK樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からはポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からはポリアミド樹脂がより好ましく用いられる。また、これらの熱可塑性樹脂を流動性、成形加工性などの必要特性に応じて混合することも実用上好適である。
【0025】
本発明に係るプリプレグテープは、連続強化繊維に前述の熱可塑性樹脂を含ませたものであり、必要に応じて、さらに、充填材、他種ポリマー、各種添加剤などを含有してもよい。
【0026】
充填材としては、一般に樹脂用フィラーとして用いられる任意のものを用いることができ、プリプレグテープやそれを用いた成形品の強度、剛性、耐熱性、寸法安定性をより向上させることができる。充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状無機充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの非繊維状無機充填材などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これら充填材は中空であってもよい。また、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理されていてもよい。また、モンモリロナイトとして、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。なお、繊維状充填材は、不連続繊維からなるものであれば、連続強化繊維の補強効果を損なうことなく機能を付与できる。
【0027】
他種ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマーや、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン樹脂などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。熱可塑性樹脂から得られるプリプレグテープの耐衝撃性を向上させるためには、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物の(共)重合体などの変性ポリオレフィン樹脂、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの耐衝撃性改良剤が好ましく用いられる。
【0028】
オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物の(共)重合体としては、エチレン系共重合体、共役ジエン系重合体、共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体などが挙げられる。
【0029】
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレンと、炭素数3以上のα-オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、α,β-不飽和カルボン酸およびその誘導体などとの共重合体が挙げられる。炭素数3以上のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン-1などが挙げられる。非共役系ジエンとしては、例えば、5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンなどが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、前記α,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アリールエステル、グリシジルエステル、酸無水物、イミドなどが挙げられる。
【0030】
共役ジエン系重合体とは、少なくとも1種の共役ジエンの重合体を指す。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。また、これらの重合体の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されていてもよい。
【0031】
共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体とは、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素との共重合体を指し、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。芳香族ビニル炭化水素としては、例えば、スチレンなどが挙げられる。また、共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の二重結合以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されていてもよい。
【0032】
耐衝撃性改良剤の具体例としては、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0033】
各種添加剤としては、例えば、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0034】
本発明に係るプリプレグテープは一方向に引き揃えられた、複数本の上記連続強化繊維束の内部に、上記熱可塑性樹脂を含侵することで成形される。
【0035】
本発明に係るプリプレグテープは、プリプレグテープ全体100体積%中、連続強化繊維を30体積%以上70体積%以下含有することが好ましい。強化繊維を30体積%以上含有することにより、繊維強化熱可塑性樹脂基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。40体積%以上がより好ましく、50体積%以上がさらに好ましい。一方、強化繊維を70体積%以下含有することにより、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。65体積%以下がより好ましく、60体積%以下がさらに好ましい。
【0036】
なお、プリプレグテープの連続強化繊維体積含有率Vfは、プリプレグテープの質量W0(g)を測定したのち、該プリプレグテープを空気中500℃で30分間加熱して熱可塑性樹脂成分を焼き飛ばし、残った連続強化繊維の質量W1(g)を測定し、式(1)により算出した。
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρ1}×100・・・(1)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:熱可塑性樹脂の密度(g/cm3)
【0037】
本発明に係るプリプレグテープのテープ幅は351.8mm(12in)、125.4mm(6in)、50.8mm(2in)、38.1mm(1.5in)、25.4mm(1in)、12. 7mm(1/2in)、6.35mm(1/4in)、が例示でき、テープ厚みは50μm以上300μm以下が好ましい。ただし、テープ幅、テープ厚みは、これらに限られるものではない。
【0038】
また、プリプレグテープの奥行き方向には、ある程度の長さが必要であり、スプールやリール形状に巻かれていてもよい。
【0039】
本発明に係るプリプレグテープは、プリプレグテープに含まれる全ての連続強化繊維が切断された切断面を有し、前記切断面同士が接合されてなる接合部を上面視した際に見られる接合線が以下[1]、[2]の特徴を有するプリプレグテープである。
[1]1つ以上の屈曲点を有する
[2]下記(a)または(b)を満たす切断線を有する
(a)曲線で構成される切断線
(b)2本以上の直線または曲線の組み合わせからなる切断線
図1は、本発明における、フラット接合したプリプレグテープ1の模式図である。プリプレグテープ1は、切断線2に沿って上流プリプレグテープ1aと下流プリプレグテープ1bとに連続強化繊維が切断された切断面どうしが互いに接合され、接合部3を形成している。
【0040】
図2に接合部3の断面を示す。接合部3は、上流プリプレグテープ断面2aと下流プリプレグテープ断面2bとが互いに突き合わされて接合されており、間欠なく、あたかも一本のプリプレグテープの形態を成している。接合部3は熱可塑性樹脂22が、上流プリプレグテープ1aと下流プリプレグテープ1bとの間を架橋することで、接合されており、また、上流プリプレグテープ断面2aおよび下流プリプレグテープ断面2bは熱可塑性樹脂22が連続強化繊維21の単子糸間を偏りなく分散している状態が好ましい。
【0041】
プリプレグテープ1を上面視した一例を
図3に示す。一例として、(a)は曲線の切断線、(b)は直線の切断線を有するものを示す。切断線2は、直線または曲線とで構成される。また、切断線2は、平行ではない直線同士の交点、または直線と曲線との交点、もしくは、曲線の頂点のいずれかで定義される屈曲点31を一点以上有することが好ましい。
【0042】
屈曲点31を有さない切断線形状の場合、プリプレグテープ1が切断線2に沿って容易に折れ曲がり接合部3が破断するおそれがある。一方、屈曲点31を有することで、屈曲点31にてプリプレグテープ1の折れ曲がりが抑制され、接合部3の破断を抑制することができる。
【0043】
また、連続強化繊維の配向方向32に対する切断線2の投影長さLはプリプレグテープ幅Bに対して4B≧L≧B/3となることが好ましく、4B≧L≧Bとすることがより好ましい。切断線2の投影長さLをプリプレグテープ幅Bに対してL≧B/3とすることで、プリプレグテープ1を曲げた際に発生する局所的な応力集中が緩和され、プリプレグテープ1の許容曲率半径およびロール追従性が向上する。
【0044】
さらに切断線2の総長Sはプリプレグテープ幅Bに対してS≧2Bとなることが好ましく、S≧3Bとすることがより好ましい。切断線2の総長Sに比例してプリプレグテープ1の単位幅に対する接合面積が多くなり、接合部の引張荷重が向上することでプリプレグテープが破断する可能性が低くなり、取り扱い性が良好になる。
【0045】
切断線2の一例を
図4に示す。例えば、(a)に示す放物線形状、(b)に示すサインカーブ形状、(c)に示す山形状、(d)に示す山谷形状、(e)に示す斜め形状、(f)に示す台形形状が例示できる。
【0046】
プリプレグテープ1の側面図の一例を
図5に示す。ここで接合部のプリプレグテープの厚み(接合部厚み)51が、連続強化繊維が切断されていない非接合部のプリプレグテープの厚み(非接合部厚み)52に対して60%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以上100%以下とすることが好ましい。また、(a)に示すように、接合部厚み51が非接合部厚み52に対して薄いプリプレグテープと比較して、(b)に示すように、接合部厚み51と非接合部厚み52とを等しくすることで、接合部で大きく厚み変化することのないプリプレグテープ1の提供が可能となり好ましい。
【0047】
なお、接合部厚み51は切断線2上の任意の場所5点の厚みを静置した状態で計測し、最大値と最小値の2点を除いた3点の平均値とする。また、非接合部厚み52は接合のために加工処理を施していないプリプレグテープ1の任意の場所5点の厚みを静置した状態で計測し、最大値と最小値の2点を除いた3点の平均値とする。
【実施例0048】
以下実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0049】
[プリプレグテープ]
Toray Advanced Composites社製プリプレグテープ”Toray Cetex TC1225”の細幅テープ(1in、25.4mm)テープ長300mmを用いて実施した。当該プリプレグテープのCF目付は145gsm、連続強化繊維の体積割合は58.4体積%、プリプレグテープの厚みは260μmであった。
【0050】
[接合方法]
後述する実施例および比較例について、切断された前記プリプレグテープ同士を突合せた状態で、連続強化繊維の配向方向32に対する切断線2の投影長さLに対して上流プリプレグテープ側、下流プリプレグテープ側にそれぞれ10mm長くなるようにプレス機を用いて1分間の加熱/加圧(365℃/15kPa)したのち、加圧を維持したまま室温まで冷却して接合した。
【0051】
[連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さ]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さを
図6に示す。(a)は直線または曲線の組み合わせからなる切断線の投影長さであり、(b)は連続強化繊維の配向方向に垂直な切断線の投影長さである。
【0052】
[評価方法]
接合部の引張荷重、ロール追従性をそれぞれ評価した。
【0053】
〔接合部の引張荷重〕
[試験方法]
引張試験機(AND社/MCT-2150)を用いて引張試験を実施し、プリプレグテープが破断した際の荷重を接合部の引張荷重として算出した。
【0054】
[評価基準]
評価基準を以下の通りA~Cに設定した。A~B評価はAFPに用いるテープとして適切に使用可能な範囲であるが、C評価は使用が困難であった。
A:接合部の引張荷重100N以上
B:接合部の引張荷重50N以上、100未満
C:接合部の引張荷重50N未満
〔ロール追従性〕
[試験方法]
ロール追従試験の概略を
図6に示す。(a)は試験装置の上面図、(b)は試験装置の側面図を示す。(a)に示すように、切断線の投影長さLの中心位置2/Lをロール61の頂点に配置した。(b)に示すように、プリプレグテープの一端を固定治具62で固定し、プリプレグテープをロール61周方向に180°沿わせた状態でもう一端をおもり63で引っ張り、プリプレグテープに張力を50Nかけ、プリプレグテープが破断せずロールの周方向に追従するかを確認した。
【0055】
[評価基準]
評価基準を以下の通りA~Cに設定した。A~B評価はAFPに用いるテープとして適切に使用可能な範囲であるが、C評価は使用が困難であった。
A:プリプレグテープがΦ50mmのバーに180度追従可能
B:プリプレグテープがΦ100mmのバーに180度追従可能
C:プリプレグテープがΦ100mmのバーに180度追従せず破断
【0056】
[実施例1]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さL=0.25in、切断線の長さの総和S=0.6in、さらに接合の際に接合部の厚み/非接合部の厚みが50%となるよう接合部周囲にスペ―サを挿入して接合を実施した。切断線形状と評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さL=1in、切断線の長さの総和S=1.4in、さらに接合の際に接合部の厚み/非接合部の厚みが50%となるよう接合部周囲にスペ―サを挿入して接合を実施した。切断線形状と評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さL=1in、切断線の長さの総和S=4.1in、さらに接合の際に接合部の厚み/非接合部の厚みが50%となるよう接合部周囲にスペ―サを挿入して接合を実施した。切断線形状と評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さL=1in、切断線の長さの総和S=4.1in、さらに接合の際に接合部の厚み/非接合部の厚みが90%となるよう接合部周囲にスペ―サを挿入して接合を実施した。切断線形状と評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さL=0in、切断線の長さの総和S=1in、さらに接合の際に接合部の厚み/非接合部の厚みが50%となるよう接合部周囲にスペ―サを挿入して接合を実施した。切断線形状と評価結果を表1に示す。
【0061】
実施例1~4のいずれのプリプレグテープにおいても優れた接合部の引張荷重、ロール追従性を示した。また、実施例2の形状では、連続強化繊維の配向方向に対する切断線の投影長さLを増加させることで接合部の引張荷重が向上し、プリプレグテープとして取り扱い性が向上した。実施例3の形状では切断線の長さの総和Sを増加させることでロール追従性が向上し、プリプレグの取り扱い性が向上した。さらに実施例4の形状では、接合部の厚み/非接合部の厚みを90%と高くすることで、接合部の凹凸差が少なく、当該プリプレグテープをAFP装置等で積層した積層体の厚みバラツキを低減することができるため、好ましい。
【0062】
一方、比較例のプリプレグテープ形状では、接合部の引張荷重/ロール追従性共に低く、特にロール追従性が著しく低く容易に折れ曲がる形状であり、プリプレグテープとしての取り扱い性に劣るものであった。
【0063】
本発明に係るプリプレグテープにより、プリプレグテープの積層工程が容易になり、航空機産業や自動車産業に用いられるAFP装置またはATL装置に適応できるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。