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特開2024-126115ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)から一段階で2,5-ビス(アミノメチル)フラン(BAMF)の合成を可能とするニッケル触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126115
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)から一段階で2,5-ビス(アミノメチル)フラン(BAMF)の合成を可能とするニッケル触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20240912BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20240912BHJP
   B01J 31/36 20060101ALI20240912BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20240912BHJP
   C07D 307/38 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B01J31/28 Z
B01J37/18
B01J31/36 Z
B01J33/00 F
C07D307/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034294
(22)【出願日】2023-03-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年9月13日https://confit.atlas.jp/guide/event/catsj130/static/abstractにて公開 刊行物名:第130回触媒討論会予稿集 令和4年9月20日 第130回触媒討論、富山大学五福キャンパスにて発表 令和4年11月14日 刊行物名:第83回有機合成化学協会関東支部シンポジウム(新津シンポジウム)講演要旨集にて公開 令和4年11月27日 第83回有機合成化学協会関東支部シンポジウム―新津シンポジウム、新潟薬科大学新津駅東キャンパスにて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、「国立研究開発法人科学技術振興機構」、「戦略的創造研究推進事業」、「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」、「バイオマスの化成品化およびポリマー化のための高効率生産プロセスの開発」、「多機能不均一系触媒の開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】原 亨和
(72)【発明者】
【氏名】喜多 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大吉 孝明
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA27C
4G169BA32A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BE11C
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE48C
4G169CB02
4G169CB25
4G169CB77
4G169DA08
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC25
4G169EC28
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB08
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB44
4G169FB46
4G169FC02
4G169FC04
(57)【要約】
【課題】 ヒドロキシメチルフルフラールから2,5-ビス(アミノメチル)フランを一段階で短時間かつ高収率で合成する手段を提供する。
【解決手段】 少なくとも一部が有機ケイ素化合物で被覆されたニッケル粒子、及び無機酸化物の担体を含むことを特徴とする触媒。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が有機ケイ素化合物で被覆されたニッケル粒子、及び無機酸化物の担体を含むことを特徴とする触媒。
【請求項2】
有機ケイ素化合物が、シロキサン構造を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
有機ケイ素化合物が、フェニルシリル基を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
ニッケル粒子の結晶子径が、3~10nmであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
無機酸化物が、SiO2、Al2O3、CeO2、MgO、Nb2O5、又はTiO2であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
無機酸化物が、TiO2であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
ニッケルの塩若しくは錯体、ヒドロシラン、及び無機酸化物を、水素存在下で、加熱する工程を含む方法によって製造されることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
ヒドロシランが、フェニルシランであることを特徴とする請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
ニッケルの塩若しくは錯体が、ニッケル(II)アセチルアセトナートであることを特徴とする請求項7に記載の触媒。
【請求項10】
水素、アンモニア、及び請求項1乃至9のいずれか一項に記載の触媒の存在下、ヒドロキシメチルフルフラールから2,5-ビス(アミノメチル)フランを得る工程を含むことを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な触媒、及び2,5-ビス(アミノメチル)フラン(BAMF)の製造方法に関する。本発明の触媒を用いることにより、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)からBAMFを一段階で短時間かつ高収率で合成できる。
【背景技術】
【0002】
バイオマス由来化合物であるHMFは、2つの異なる官能基を有し、様々な化学品への応用が期待される基幹物質である。従来はこれらの官能基をそれぞれアミノ基へと誘導することによりHMFからBAMFが合成されてきたが、多量の廃棄物生成や反応制御の困難さといった課題があった。近年、HMFから直接BAMFを合成する反応について研究が行われているが、報告されている触媒は、大気不安定または高温・高圧が必要といった課題がある(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Z. Wei et al., ChemSusChem, 14, 2308 (2021)
【非特許文献2】H. Yuan et al., RSC Adv., 9, 38877 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
BAMFはバイオマス由来のジアミンであり、エポキシ樹脂やポリアミドなどの原料となりうるため、効率的な合成法が求められている。本発明は、このような背景の下になされたものであり、HMFからBAMFを一段階で短時間かつ高収率で合成する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ヒドロシランを還元剤として液相還元法により調製したNi触媒であってTiO2を担体とする触媒が、HMFからBAMFの合成に対し高活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、以下の(1)~(10)を提供するものである。
(1)少なくとも一部が有機ケイ素化合物で被覆されたニッケル粒子、及び無機酸化物の担体を含むことを特徴とする触媒。
【0007】
(2)有機ケイ素化合物が、シロキサン構造を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0008】
(3)有機ケイ素化合物が、フェニルシリル基を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0009】
(4)ニッケル粒子の結晶子径が、3~10nmであることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0010】
(5)無機酸化物が、SiO2、Al2O3、CeO2、MgO、Nb2O5、又はTiO2であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0011】
(6)無機酸化物が、TiO2であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0012】
(7)ニッケルの塩若しくは錯体、ヒドロシラン、及び無機酸化物を、水素存在下で、加熱する工程を含む方法によって製造されることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0013】
(8)ヒドロシランが、フェニルシランであることを特徴とする(7)に記載の触媒。
【0014】
(9)ニッケルの塩若しくは錯体が、ニッケル(II)アセチルアセトナートであることを特徴とする(7)に記載の触媒。
【0015】
(10)水素、アンモニア、及び(1)乃至(9)のいずれかに記載の触媒の存在下、ヒドロキシメチルフルフラールから2,5-ビス(アミノメチル)フランを得る工程を含むことを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、新規な触媒を提供する。この触媒を用いることにより、HMFからAMFを一段階で短時間かつ高収率で合成できる。また、ニッケル触媒は一般に大気下で不安定なものが多いが、この触媒は大気下で取り扱いが可能である。更に、この触媒によるHMFからAMFの合成反応は、水のみを共生成物とするため、原子効率の観点からも、この触媒は優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】還元後のNi-Si/TiO2とNi/TiO2のXRDパターン。
図2】150℃でのHMFからのワンポットBAMF合成におけるNi-Si/TiO2の再利用性。
図3】Ni-Si/TiO2のTG-DTA曲線((a) Fresh、(b) 2回再利用後)。
図4】150℃でのNi-Si/TiO2の再利用後のXRDパターン。
図5】110℃でのHMFからのワンポットBAMF合成におけるNi-Si/TiO2の再利用性。
図6】110℃でのNi-Si/TiO2の再利用後のXRDパターン。
図7】Ni-Si/TiO2の反応前後のXPS Ni 2p3/2スペクトル。
図8】Ni-Si/TiO2の反応前後のXPS Si 2pスペクトル。
図9】Ni-Si/TiO2の反応前後のXPS Ti 2p3/2スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)触媒
本発明の触媒は、少なくとも一部が有機ケイ素化合物で被覆されたニッケル粒子、及び無機酸化物の担体を含むことを特徴とするものである。
【0019】
本発明において「有機ケイ素化合物」とは、有機化合物の炭素をケイ素に置き換えた化合物を意味する。本発明において使用される有機ケイ素化合物は特に限定されないが、シロキサン構造を有するものが好ましく、フェニルシリル基を有するものがより好ましい。
【0020】
ニッケル粒子は、結晶子径が小さいものが好ましい。具体的には、結晶子径が3~10nmであること好ましく、4~8nmであることがより好ましく、約6nmであることが更に好ましい。
【0021】
担体とする無機酸化物は特に限定されず、例えば、SiO2、Al2O3、CeO2、MgO、Nb2O5、TiO2などを使用することができる。これらの中では、CeO2、MgO、TiO2が好ましく、TiO2がより好ましい。
【0022】
触媒の比表面積は特に限定されないが、100~200m2g-1であることが好ましく、120~180m2g-1であることがより好ましく、約150m2g-1であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の触媒は、ヒドロシランを用いた液相還元により製造することができる(竹内舜、喜多祐介、原亨和、鎌田慶吾、第128回触媒討論会、3D11)。より具体的には、ニッケルの塩若しくは錯体、ヒドロシラン、及び無機酸化物を、水素存在下で、加熱する工程を含む方法によって製造することができる。
【0024】
ニッケルの塩若しくは錯体は特に限定されず、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナートなどを使用することができる。これらの中では、比較的低い温度で本発明の触媒を製造できることから、ニッケル(II)アセチルアセトナートが好ましい。
【0025】
ヒドロシランも特に限定されず、例えば、エチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリエトキシシラン、ポリメチルヒドロシロキサンなどを使用することができる。これらの中では、製造される触媒がフェニルシリル基を有する有機ケイ素化合物を含むようになることから、フェニルシランが好ましい。
【0026】
無機酸化物も特に限定されず、例えば、SiO2、Al2O3、CeO2、MgO、Nb2O5、TiO2などを使用することができる。これらの中では、CeO2、MgO、TiO2が好ましく、TiO2がより好ましい。
【0027】
使用するニッケルの塩若しくは錯体及びヒドロシランの量は特に限定されないが、塩若しくは錯体中のニッケル原子1molに対してヒドロシラン中のケイ素原子が、0.3~3molになるようにすることが好ましく、0.5~2molになるようにすることがより好ましく、約1molになるようにすることが更に好ましい。
【0028】
水素分圧は特に限定されないが、0.1~1.0MPaとすることが好ましく、0.3~0.8MPaとすることがより好ましく、約0.5 MPaとすることが更に好ましい。
【0029】
加熱温度は特に限定されないが、60~300℃とすることが好ましく、100~200℃とすることがより好ましく、約150℃とすることが更に好ましい。加熱時間も特に限定されないが、0.5~5時間とすることが好ましく、1~3時間とすることがより好ましく、約2時間とすることが更に好ましい。
【0030】
上記工程は溶媒存在下で行う。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、ジメチルアセトアミド(DMA)、1-ブタノール、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)などを使用することができる。これらの中では、トルエンが好ましい。また、この工程は溶媒を攪拌しながら行うことが好ましい。
【0031】
上記工程後、洗浄、ろ過、乾燥などの工程を経て、本発明の触媒を得ることができる。
【0032】
本発明の触媒は、後述するように、HMFからBAMFを合成する反応の触媒として使用することができるが、それ以外の反応の触媒としても使用することもできる。
【0033】
(2)BAMFの製造方法
本発明のBAMFの製造方法は、水素、アンモニア、及び本発明の触媒の存在下、HMFからBAMFを得る工程を含むことを特徴とするものである。
【0034】
使用する本発明の触媒の量は特に限定されないが、HMF 1molに対して20~500gとすることが好ましく、50~200gとすることがより好ましく、約100gとすることが更に好ましい。
【0035】
水素分圧は特に限定されないが、0.3~3.0MPaとすることが好ましく、1.0~2.0MPaとすることがより好ましく、約1.5 MPaとすることが更に好ましい。
【0036】
アンモニア分圧も特に限定されないが、0.1~0.5MPaとすることが好ましく、0.2~0.4MPaとすることがより好ましく、約0.35 MPaとすることが更に好ましい。
【0037】
反応時の温度は特に限定されないが、100~200℃とすることが好ましく、140~160℃とすることがより好ましく、約150℃とすることが更に好ましい。反応時間も特に限定されないが、1~10時間とすることが好ましく、3~8時間とすることがより好ましく、約6時間とすることが更に好ましい。
【0038】
上記工程は溶媒存在下で行う。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、1,4-ジオキサン、THF、トルエン、DMA、1-ブタノール、CPMEなどを使用することができる。これらの中では、1,4-ジオキサントルエンが好ましい。また、この工程は溶媒を攪拌しながら行うことが好ましい。
【実施例0039】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0040】
1. 実験
1-1. 試薬
・金属前駆体
ニッケル(II)アセチルアセトナートはAldrichから購入した。硝酸ニッケル(II)六水和物は関東化学から購入した。
【0041】
・還元剤
フェニルシランはAldrichから購入した。
【0042】
・担体
酸化チタン(ST-01)は石原産業から購入した。酸化マグネシウムは宇部興産から購入した。シリカゲル(CARiACT Q10)は富士シリシア化学から購入した。酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムは参照触媒を用いた(JRC-CEO-5, JRC-ZRO-6, JRC-ALO-9)。酸化ニオブは、含水ニオブ酸(Companhia Brasileira de Metalurgia e Mineracaoから提供)を空気中で400 ℃, 2時間焼成を行い担体として使用した。
【0043】
・溶媒
CPME、1,4-ジオキサンは東京化成工業から購入した。THF、トルエン、1-ブタノール、2-ブタノール、2-オクタノール、DMA、DCMは関東化学から購入した。
【0044】
・活性試験用試薬
HMF、BAMF、HMFAはAldrichから購入した。モノクロロベンゼンは関東化学から購入した。
【0045】
・基質一般性用試薬
フルフリルアルコール、ベンジルアルコール、1-オクタノール6-アミノ-1ヘキサノール、2-ピリジンメタノール、3-インドールメタノール、2-チオフェンメタノールは東京化成工業から購入した。2,5-ビスヒドロキシメチルフラン、4-ヒドロキシメチルベンズアルデヒド、4-メトキシベンジルアルコール、4-ヒドロキシメチルベンゾニトリル、4-ヒドロキシメチルベンジルアミン、3-ヒドロキシメチルベンジルアミン、はAldrichから購入した。
【0046】
1-2. 触媒調製法
・ヒドロシラン還元法を用いたNi NPs触媒
ガラス内筒に、ニッケル(II)アセチルアセトナートとフェニルシランをNiとSiのモル比が1 : 1になるよう量り取り、トルエン5 mLを加え、H2 (0.5 MPa)を加圧し、90 ℃で2時間加熱撹拌を行った。エタノール70 mLで洗浄しながら吸引ろ過したのち、ろ紙上に残ったサンプルを90 ℃で1日乾燥し目的の触媒を得た。得られた触媒はNi-Si-90と表記する。
【0047】
・ヒドロシラン還元法を用いた担持Ni触媒
ガラス内筒に、ニッケル(II)アセチルアセトナートとフェニルシランをNiとSiのモル比が1 : 1になるよう量り取り、担体(MOx)、トルエン5 mLを加え、H2(0.5 MPa)を加圧し、150 ℃で2時間加熱撹拌を行った。エタノール70 mLで洗浄しながら吸引ろ過したのち、ろ紙上に残ったサンプルを90 ℃で1日乾燥し目的の触媒を得た。得られた触媒はNi-Si/MOxと表記する。
【0048】
・水素還元法を用いたTiO2担持Ni触媒
ナスフラスコに、硝酸ニッケル(II)六水和物を10 wt%となる量、酸化チタンを量り取り、水を20 mLを加え1時間攪拌した後、50 ℃でエバポレーションし、90 ℃で一晩乾燥し前駆体粉末を得た。得られた粉末を300 ℃、1 h、Airの条件下において焼成を行った後、H2(30 mL/min)を流しながら500 ℃で30分還元操作を行い、グローブボックスで取り出す、または大気中で取り出し目的の触媒を得た。得られた触媒は、Ni/TiO2と表記する。
【0049】
1-3. HMFからの直接BAMF合成反応
グローブボックス内でHMF(0.5 mmol)、溶媒(5 mL)、触媒(50 mg)をガラス内筒に量りとりステンレス製オートクレーブ(EYLA 耐圧容器HIP-30)に入れた。オートクレーブをグローブボックスから取り出し、アンモニア(0.35 MPa)、H2(1.5 MPa)を加圧したのち、90 ℃ から110 ℃の任意の温度で20時間撹拌(500 rpm)することで反応を行った。反応後溶液は内部標準物質としてモノクロロベンゼン(0.5 mmol)を加え、GCにて転化率、収率を算出した。
【0050】
・HMFの転化率、BAMFの収率、反応中間体の収率の算出法
転化率、収率は内部標準法を用いて算出した。HMFのキャリブレーションファクターは1.46、BAMFのキャリブレーションファクターは2.46、反応中間体(HMFA)のキャリブレーションファクターは2.93を用いた。以下にそれぞれの算出方法を記す。
【数1】
【0051】
1-4. 測定機器
・ガスクロマトグラフィー(GC)
ガスクロマトグラフィーはSHIMADZU GC-17A(カラム: InertCap 17、キャリアガス: N2)を用いた。温度プログラムは60 ℃で5分保持した後、20 ℃/minで昇温し、260 ℃で5分保持した。インジェクション温度250 ℃、ディテクション温度250 ℃に設定した。キャリアガスに窒素を用いた。主な生成物の保持時間はHMFが10.5 min、AMFが9.8 min、HMFAが10.1 min、モノクロロベンゼンが4.4 minであった。
【0052】
・X線回折(XRD)
装置はRigaku製 Ultima IVを用いた。線源はCuKα線(λ = 1.5405 Å、40 kV-40 mA)を用いてD/teX高速一次元検出器で検出した。角度幅は2θ = 10~90 °、スキャン幅0.02 °、スキャンスピード10 °/minの条件で測定を行った。
【0053】
・熱重量示差熱測定(TG-DTA)
装置はRigaku社製、示差熱天秤 Thermo plus EVO2シリーズ 試料自動交換機付TG-DTA TG-DTA8122 Smart loaderを用いた。サンプルパンにPtパンを用い、基準試料にAl2O3を用いた。Ptパンに試料を約10 mg量り取り、Air条件化において室温から750 ℃まで5 ℃ /minで昇温し測定した。
【0054】
・窒素吸着
窒素吸着装置はQuantachrome製NOVA 4200eを用いた。前処理として150 ℃ で1時間加熱した。0.05~0.30の相対圧力の範囲でBET(Brunauer-Emmett-Teller)吸着等温式を用いて比表面積を算出した。
【0055】
・ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)
質量分析は島津製四重極型GC-MSQP2010 SEを用い、カラムはInertCap 17MS(0.25 mmφ×30 m)を用いた。イオン源温度250℃、インターフェイス温度200℃、溶媒溶出時間8.0秒、測定モードスキャン、スキャン速度1666、開始m/z=35、終了m/z=500 に設定した。
【0056】
・X線光電子分光法(XPS)
島津製のESCA-3400によりAl Kα線(1486.6 eV)を用いて30 mV-8 kVで測定した。結合エネルギーは、C1sの284.6 eVを用いて帯電補正を行った。スペクトルは、XPS Peak 4.1により評価し、バックグラウンドはShirley関数を用いて差し引いた。
【0057】
2. 結果と考察
2-1. 担体効果の検討
6種類の酸化物(MOx = TiO2, SiO2, Al2O3, MgO, CeO2, Nb2O5)を用いて、ヒドロシラン還元法により担持Ni触媒(Ni-Si/MOx)を調製した。担体は酸塩基性に着目し、酸性担体として知られるTiO2、Nb2O5、塩基性担体として知られるMgO、CeO2、両性担体として知られるSiO2、Al2O3を選択した。Niの担持量は10 wt%とした。反応は、基質となるHMFが0.5 mmol、NH3圧0.35 MPa、H2圧1.5 MPa、溶媒として1,4-Dioxane 5 mL、反応温度150 ℃、反応時間6 hの条件で行った(表1)。カーボンバランスはNb2O5が73%、SiO2が>99%となり、担体により差が見られた(Entry 2 vs 6)。多くの担体で中間体であるHMFAで反応が停止、もしくは反応速度が急激に低下し、BAMF収率は低くなった。TiO2のみHMFAの直接アミノ化が完全に進行し、BAMFが収率88%で得られた(Entry 1)。触媒活性の傾向について、調製後の触媒の窒素吸着により比表面積を求めたが、比表面積と収率との相関は見られなかった。また、TiO2とNb2O5のように似た性質を示す担体間でも収率に大きな差があったことから、担体の酸塩基性との相関はないと考えられる(Entry 1 vs 6)。調製後の触媒について酸塩基点の強度や数の測定は行っていないため、調製前後での担体の酸塩基性に変化が生じているかは不明である。還元時に担体の酸塩基点とフェニルシランが反応した場合には酸塩基性に変化が生じる可能性があり、これにより似た酸塩基特性を持つとされる担体間でも活性に大きな差が生じたと考えられる。
【表1】
【0058】
2-2. 担体による反応促進効果の検討
前節でTiO2はHMFからのワンポットBAMF合成反応に適した担体であることが明らかになった。本節ではTiO2が反応のどの段階を促進するのかを確かめるために、BAMF収率が低かったSiO2との比較を行った(表2)。還元的アミノ化は直接アミノ化よりも低温で進行するため、反応温度を90 ℃に下げて反応を行った(Entries 1 and 2)。SiO2とTiO2のいずれを担体として用いた場合も、HMFAが高い収率で得られたため、還元的アミノ化段階において担体が触媒活性に与える影響は小さいと考えられる。一方、HMFAの直接アミノ化反応によるBAMF合成においては、SiO2では56%、TiO2では>99%となり、収率に約40%の差が生じた(Entries 3 and 4)。したがってTiO2は直接アミノ化段階を促進する効果があると考えられる。直接アミノ化はBorrowing Hydrogen法により進行すると考えられ、ホルミル基とNH3の縮合によるイミン形成ステップ、イミンの水素化によるアミン形成ステップは還元的アミノ化段階と同様の反応である。担体の種類によらず還元的アミノ化反応は進行することから、TiO2はアルコールの脱水素反応によるアルデヒドの形成ステップを促進する可能性がある。一般的に、アルコールの脱水素反応は塩基により促進されるため2-4)、塩基性担体と比べて塩基点が少ないTiO2が有効である理由は不明である。
【表2】
【0059】
2-3. TiO 2 担持による反応促進効果の検討
ヒドロシラン還元法による担持Ni触媒の調製法は、通常の含侵や共沈などの調製法とは異なり、Ni NPsの調製条件に担体を加えたのみである。そのため、ニッケルと担体が相互作用しているかは不明である。そこで、TiO2が担体として機能することを確かめるために、担持操作を行っていないNi NPs (Ni-Si-90)と、Ni-SiとTiO2を物理混合したものを用いて活性の比較を行った(表3)。反応におけるニッケル量を統一するために、Ni-Si-90は5 mg、TiO2は45 mgとした(Entries 2 and 3)。Ni-Si-90のみを用いた場合は、カーボンバランスはNi-Si/TiO2と大きな差はなかったが、中間体であるHMFAで反応が停止し、BAMF収率は低くなった(Entry 1 vs 2)。また、Ni-SiとTiO2を物理混合したものは、BAMF収率は19%に上昇したが、カーボンバランスは大きく低下した(Entry 1 vs 3)。TiO2添加によりBAMF収率が向上することから、TiO2にはNi-Siによる直接アミノ化反応を促進する効果があることが明らかになった。さらに、物理混合したものはNi-Si-90とTiO2が接近していないため様々な副反応により基質や生成物が分解したと考えられる。したがって、担持によりNi-Si-90とTiO2が近接していることが重要であることが確認された。以上の結果よりNi NPs調製条件に担体を加える方法により担持Ni触媒の調製が可能であり、Ni-Si/TiO2は基質の分解を抑えた選択性の向上への寄与が大きいことが明らかになった。
【表3】
【0060】
2-4. 水素還元法との比較
ヒドロシラン還元法の特徴は低温での還元が可能である点と、大気中においても触媒の取り扱いが可能である点である。しかしこの方法で調製した担持Ni触媒が、一般的な水素還元法で調製した担持Ni触媒よりも優位性を示すかは明らかになっていない。そこで、HMFからのワンポットBAMF合成に高い活性を示したNi-Si/TiO2について、水素還元法により調製したNi/TiO2との構造や活性の比較を行った。
【0061】
Ni-Si/TiO2とNi/TiO2のXRDパターンを示す(図1)。どちらもfcc構造のNiとアナターゼ型のTiO2が確認された。45 °付近のNiのピークから算出した結晶子径は、Ni-Si/TiO2が6 nm、Ni/TiO2が11 nmとなった。高温で水素還元を行ったNi/TiO2はNi粒子の凝集が起きたため、Ni-Si/TiO2と比べて結晶子径が増大したと考えられる。また、窒素吸着により求めた比表面積は、Ni-Si/TiO2が152 m2 g-1、Ni/TiO2が129 m2 g-1となり、Ni/TiO2はNi-Si/TiO2よりもわずかに小さくなった(表4)。
【0062】
調製したそれぞれの触媒を用いてHMFからのワンポットBAMF合成反応を行った(表4)。大気に曝露したNi/TiO2を用いた場合、中間体であるHMFAが収率49%で得られたが、BAMFは生成しなかった(Entry 2)。この結果から、大気暴露によりNi表面が酸化されても、還元的アミノ化に対しては活性を示すことが明らかになった。調製後に大気曝露せずにグローブボックスに保管したNi/TiO2を用いた場合、HMFA収率は大幅に向上し100%近い収率を達成したが、BAMFの生成は確認できなかった(Entry 3)。よって活性化されたNi/TiO2を用いてもアルコールの直接アミノ化反応は進行しないことがわかった。Ni-Si/TiO2とNi/TiO2の結晶子径や比表面積の差は、触媒活性に劇的な変化をもたらすほどに大きな差ではないため、別の要因が存在すると考えられる。Ni-Si/TiO2とNi/TiO2の差は、触媒表面の有機ケイ素化合物の有無である。金属をケイ素修飾することによる直接アミノ化反応の促進のメカニズムは明らかになっていないが、これによりNi-Si/TiO2はBAMF合成に対して高い活性を示したと考えられる。
【表4】
【0063】
2-5. 触媒のNi/Si比の検討
ヒドロシラン還元法で調製したNi NPs及び担持Ni触媒は、表面を有機ケイ素化合物が修飾していることがわかっている5)。しかし、表面の有機ケイ素化合物が触媒活性にどのような影響を及ぼすかは明らかになっていない。そこで、触媒調製時にSi源となるフェニルシラン量を変更し、触媒活性への影響を検討した(表5)。Ni2+をNi0に還元するためには、H-はNiに対して2等量必要になる。還元剤として用いたフェニルシランは分子内にSi-H結合を3つ持つため、理論上はNi : Si = 1 : 0.66で還元が可能である。しかし、この条件でNi-Si/TiO2の調製を行ったところ、還元が進行せず原料が残ったままとなった。これはTiO2とフェニルシランが相互作用することによりニッケルの還元を阻害したためと考えられる。Si比を増加した場合は還元が進行し黒色の粉末が得られた。また、Si比を増やすにつれ回収された触媒重量は増加した。触媒活性については、Si比を増やすにつれHMFAやBAMFの収率は低下した(Entries 2 and 3)。これは触媒表面の有機ケイ素化合物量が増加することにより、Niの活性サイト数が減少したためと考えられる。したがって触媒調製時のNi/Si比は、Ni : Si = 1 : 1が適していることが明らかになった。
【表5】
【0064】
2-6. 溶媒効果の検討
高い活性を示したNi-Si/TiO2について、溶媒効果の検討を行った(表6)。溶媒は1,4-ジオキサン、THF、トルエン、DMA、1-ブタノール、CPMEの6種類を用いた。反応温度が比較的高いため、沸点の高い溶媒を選択した。いずれの溶媒を用いた場合にも反応は完全に進行した。1,4-ジオキサンと同様にエーテル系溶媒として一般的なTHFやCPMEでは、カーボンバランスが大きく低下した(Entries 2 and 6)。芳香族系炭化水素溶媒としてトルエン、アミド系溶媒としてDMA、アルコール系溶媒として1-ブタノールを用いたが、1,4-ジオキサンを超える収率は得られなかった(Entries 3-5)。溶媒の沸点や極性とBAMF収率との間に相関は見られなかった。また、カーボンバランスの低いサンプルについて、BAMF以外の生成物を特定するためにGC-MSを用いた分析を行ったが、ピークは確認できなかった。1,4-ジオキサンが最適な理由は明らかになっていないが、高い温度でのNi-Si/TiO2によるHMFやBAMFの分解を抑制する効果が働いたことにより高収率が得られたと考えられる。
【表6】
【0065】
2-7. NH 3 圧とH 2 圧の検討
より温和な条件でのBAMF合成を目指し、NH3圧とH2の検討を行った(表7)。NH3圧0.2 MPa、H2圧1 MPaの条件でBAMF収率は72%となり、NH3圧0.35 MPa、H2圧:1.5 MPaの条件よりも選択性が低下した(Entry 1 vs 4)。また、NH3圧とH2圧のどちらか一方を大きくした場合も収率の向上は見られなかった(Entries 2 and 3)。溶媒に溶解するNH3とH2の量が重要であり、最適な圧力がNH3圧0.35 MPa、H2圧1.5 MPaであったと考えられる。低圧条件でも反応は完全に進行しているため、NH3圧0.2 MPa、H2圧1 MPaの条件で反応温度を下げ、反応時間を延ばすことで選択性を向上させることができる可能性がある。
【表7】
【0066】
2-8. 反応温度の検討
温和な条件でのBAMF合成を目指し、反応温度の検討を行った(表8)。140 ℃で反応を行った場合、触媒のLot No.25は中間体であるHMFAが確認されたのに対して、Lot No.37は反応が完全に進行したことから、触媒活性にばらつきがあることが明らかになった(Entries 1 and 2)。これは触媒調製時の試料の秤量のぶれによるものと考えられる。また、Lot No.37は反応が完全に進行したものの収率は70%であった。そこで反応温度を150 ℃に変更したところ、Lot No. 37において80%以上の収率でBAMFが得られた(Entries 3 and 4)。Lot No.73においても同様に80%以上の収率が得られたことから、反応温度150 ℃で安定してBAMFを合成可能であることがわかった(Entry 5)。160 ℃においても80%以上の収率でBAMFが得られたが、さらなる収率の向上は期待できなかったことから、150 ℃が適していると考えられる(Entry 6)。
【表8】
【0067】
2-9. 再利用性の検討
再利用性の検討は、まず反応初期段階での活性を比較するために反応時間を6 hから2 hに変更して行った(図2)。触媒は、反応後の溶液を大気中でろ過し、メタノールで洗浄後、90 ℃の大気中で1晩乾燥させてから再利用した。Freshの触媒ではBAMFが収率52%で得られたが、1回目の再利用でBAMF収率は13%まで低下し、HMFA収率は69%となった。2回目の再利用ではBAMFの生成は確認されず、HMFA収率は>99%となった。
活性低下の原因を確かめるために、まずTG-DTAによる有機物堆積の確認を行った(図3)。室温から750 ℃までの昇温で、Freshと2回再利用後の触媒のいずれも10%程度質量が減少し、2回再利用後の触媒は300 ℃付近の発熱ピークが大きくなった。発熱ピークに差は生じたが、重量減少量には変化がないことから、触媒への有機物堆積は認められず、活性低下の要因ではないと考えられる。さらに、反応前後での触媒の構造の変化を確かめるために、XRD測定を行った(図4)。Niのピークに着目すると、Freshに比べ、2回再利用後の触媒はNiのピークが鋭くなっていることが確認された。45 °付近のNiのピークから算出した結晶子径は、Freshが6 nm、2回再利用後は10 nmとなり、結晶子径が増大していることがわかった。これは反応中にNi粒子の凝集が進行したためと考えられる。繰り返し反応における活性低下の要因解明を行った報告例が存在する。WeiらはRaney Niを用いたHMFからのワンポットBAMF合成反応を行い、繰り返し反応後の触媒のXRDパターンにNi3N由来と考えられるピークがみられることを報告した。彼らは、BAMF合成反応中にNiとNH3が反応しNi3Nが形成し、これにより触媒活性が低下したと考察した1)。バルクでNi3NはNH3雰囲気の溶液中で350-400 ℃での加熱攪拌により合成された報告例が存在する6, 7)。2回再利用後のNi-Si/TiO2のXRDパターンではNi3Nに由来するピークは見られなかったことから、結晶性をもつほどのNi3Nが形成した可能性は低いと考えられる。
【0068】
Ni粒子の凝集が触媒活性に影響を及ぼしているのではないかと考え、反応温度を150 ℃から110 ℃に変更し、反応時間を24 hに伸ばして再利用性の検討を行った(図5)。再利用はA: 大気中でろ過、洗浄、乾燥を行う方法、B: グローブボックス内でろ過、洗浄、乾燥を行う方法の2通りで行った。Aの方法で再利用した場合、FreshはBAMFが収率56%で得られたが、1回目の再利用以降でBAMFの生成は確認されなかった。一方、Bの方法で再利用した場合は、FreshのBAMF収率は59%、1回目の再利用は33%、2回目の再利用は6%となった。ヒドロシラン還元法で調製したNi NPsは有機ケイ素化合物が表面の酸化されたNiの還元に影響を及ぼし、反応系中でNi0が露出することで触媒活性を示す。Aの方法では大気暴露によって酸化されたNiの反応系中での還元が進行しなかったため、直接アミノ化反応に対して活性を示さなかったと考えられる。また、Aの方法で再利用後の触媒について、XRD測定を行った(図6)。XRD測定の結果、2回再利用後のNiの結晶子径は7 nmとなり、反応温度の低下に伴い粒子の凝集が抑制された。Bの方法で2回再利用後の触媒についても同様にNiの結晶子径の増大は確認されなかった。Bの方法では表面のNi0が保たれているため、触媒活性低下の抑制が期待されたが、実際にはBAMF収率は低下した。Ni粒子の凝集は抑制されたにもかかわらず触媒活性は低下したことから、急激な触媒活性低下の原因はNiの粒子サイズ増大によるものではないと考えられる。
【0069】
Ni-Si/TiO2上の有機ケイ素化合物の役割は、反応系中におけるNiの再還元の促進と、2-3.で示した直接アミノ化の促進の2つである。Aの方法では反応系中でNiの再還元が進行しなかったことと、Bの方法では触媒を繰り返し使用するにつれ直接アミノ化反応への触媒活性が低下したことから、BAMF合成反応中に触媒上の有機ケイ素化合物が流出しているのではないかと考えた。そこで、BAMF合成反応前後のNi-Si/TiO2についてXPS測定を行い、Ni、Si、Tiに関するピークに変化が起きているかを確かめた。Ni 2p3/2軌道のピークは、反応前後において変化はほとんど見られず、856 eV付近にNi(OH)2由来のピーク8)とNiO由来のピーク9)が重なった形のピークが見られた。複数のピークが合わさっているため、853 eVにNi3Nに由来するピーク6)があるかは断定できなかった。Si 2p軌道のピークは、102.3 eV付近にピークトップが見られた。Ni NPsと同様にSiO2の位置にピーク10)が検出されると予想したが、実際には低Binding Energy側にピークが現れた。Binding Energy が102.3 eVのポリジメチルシロキサン11)に近い位置に現れたことから、シロキサン構造を有することが示された。Ti 2p3/2軌道のピークは459.1 eVにTiO2由来のピーク12)が確認された。また、Ni 2pとSi 2pのピーク面積から元素費を求めると、反応前はNi : Si = 39 : 61、反応後はNi : Si = 40 : 60となり、差はほとんど見られなかった。したがって反応中に触媒表面の有機ケイ素化合物が流失した可能性は低いと考えられる。
【0070】
Ni-Si-90を用いた水素化反応では繰り返し反応に対して高い安定性を示すのに対し、本反応は1回目の再利用から触媒活性の低下が起きる。反応の違いは、NH3を使用の有無であることから、有機ケイ素化合物とNH3の反応によるケイ素置換基の変化が考えられる。反応後の触媒の元素分析によるNの有無や、反応前後の触媒についてラマン分光を用いた置換基の変化を確認することでNH3の影響を確かめることが可能である。また、フェニルシラン由来の有機ケイ素化合物がNH3と反応することが活性低下の原因であった場合、触媒調製時のヒドロシランの種類を変更することで置換基の安定性を向上させ、繰り返し反応においても活性低下を抑制できる可能性がある。
【0071】
以上の検討から、Ni-Si/TiO2はHMFからのワンポットBAMF合成反応に対して高い活性を示すことが明らかになった。HMFに対して特に有効である原因は不明だが、基質の電子状態など、基質特有の性質が影響している可能性がある。
【0072】
3. 結論
ヒドロシラン還元法で調製したTiO2担持Ni触媒(Ni-Si/TiO2)は、HMFからのBAMF合成反応に対して高い活性を示し、BAMF収率88%を達成した。既報のHMFからのワンポット合成反応を行った触媒系は大気不安定性や厳しい反応条件が必要という課題があったが、本触媒系は大気中でも取り扱いが可能であり、温和な条件でも反応が進行する。また、一般的な還元法として知られる水素還元法により調製したNi/TiO2との比較から、ヒドロシラン由来の有機ケイ素化合物が直接アミノ化反応を促進することを明らかにした。触媒の再利用は困難であり、その原因の特定には至らなかった。触媒表面のケイ素置換基の構造変化に由来する可能性があり、還元剤であるヒドロシランを精査することにより改善が期待できる。
【0073】
4.参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0074】
BAMFはエポキシ樹脂やポリアミドなどの原料となることから、本発明はこのような高分子材料に関連する産業において利用可能である。
図1
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図9