(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126147
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】懸架装置およびリアクッションユニット
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20240912BHJP
B62K 25/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16F9/32 A
B62K25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034348
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆久
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DD03
3D014DF02
3D014DF08
3J069AA54
3J069AA64
3J069CC01
3J069CC06
3J069CC09
3J069EE28
3J069EE35
3J069EE50
(57)【要約】
【課題】車両における乗心地を向上できる懸架装置およびリアクッションユニットを提供する。
【解決手段】本発明の懸架装置Sは、車両Mにおける車体Fを支持する懸架ばね30と、懸架ばね30の一端を支持して懸架ばね30の伸縮する方向へ変位可能な可動ばね受31と、可動ばね受31の懸架ばね30の伸縮する方向への移動を許容しつつ可動ばね受31との間に液体を収容する圧力室Pを形成するハウジング32と、可動ばね受31がハウジング32に対して懸架ばね側へ向けて移動して圧力室Pを最大とするとそれ以上の可動ばね受31の懸架ばね側への移動を阻止するストッパ33と、圧力室P内を弾性力によって加圧可能であって弾性力を調整可能な弾性加圧手段34とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体を支持する懸架ばねと、
前記懸架ばねの一端を支持して前記懸架ばねの伸縮する方向へ変位可能な可動ばね受と、
前記可動ばね受の前記懸架ばねの伸縮する方向への移動を許容しつつ前記可動ばね受との間に液体を収容する圧力室を形成するハウジングと、
前記可動ばね受が前記ハウジングに対して前記懸架ばね側へ向けて移動して前記圧力室を最大とするとそれ以上の前記可動ばね受の前記懸架ばね側への移動を阻止するストッパと、
前記圧力室内を弾性力によって加圧可能であって当該弾性力を調整可能な弾性加圧手段とを備えた
ことを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
前記弾性加圧手段は、
容器と、
前記容器内に移動可能に挿入されて前記容器内に前記圧力室に連通される空間を区画する移動隔壁と、
前記容器内に収容される気体と液体とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記弾性加圧手段が前記弾性力を最小にする状態において、所定重量を積載した状態における前記車体を支持する前記懸架ばねが発生する弾発力と前記可動ばね受が前記ストッパにより移動が規制されつつ前記懸架ばねを付勢する付勢力とが釣り合い状態となる
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項4】
アウターシェルと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドとを有して前記アウターシェルと前記ロッドとの相対移動を抑制する減衰力を発生可能な緩衝器本体と、
請求項1から3のいずれか一項に記載の懸架装置と、
前記ロッドに設けられて前記懸架ばねの他端を支持する固定ばね受とを備え、
前記ハウジングおよび前記可動ばね受は、前記アウターシェルに取り付けられる
ことを特徴とするリアクッションユニット。
【請求項5】
前記ロッドの反アウターシェル側端の外周に装着される環状のバンプクッションと、
前記アウターシェルに取り付けられて前記バンプクッションに軸方向で対向するバンプストッパとを備え、
前記緩衝器本体が収縮して前記バンプクッションと前記バンプストッパとが当接するまでは、前記ハウジングが前記可動ばね受の反懸架ばね側への移動を規制しない
ことを特徴とする請求項4に記載のリアクッションユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架装置およびリアクッションユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
懸架装置は、緩衝器本体とともにリアクッションユニットを構成して、たとえば、鞍乗型車両の車体と後輪との間に介装されて使用され、車体を弾性支持している。
【0003】
また、リアクッションユニットは、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動可能に挿入されてシリンダ内を作動油が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に移動可能に挿入されるとともにピストンに連結されるロッドとを備えた緩衝器本体と、シリンダの外周に装着されたばね受とロッドの先端の外周に装着されたばね受との間に介装される懸架ばねとを含んで構成された懸架装置とにより構成される。このように構成されたリアクッションユニットは、車体と後輪との間に介装されると懸架ばねで車体を弾性支持するとともに、車体と後輪との上下方向の相対移動を緩衝器本体が発生する減衰力によって車体と後輪との振動を抑制できる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の懸架装置は、シリンダ側のばね受けの懸架ばねの支持位置を変更することで車高の調整が可能であるが、懸架ばねのばね定数を変更することができないため、車両における乗心地の向上の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、車両における乗心地を向上できる懸架装置およびリアクッションユニットの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の懸架装置は、車両における車体を支持する懸架ばねと、懸架ばねの一端を支持して懸架ばねの伸縮する方向へ変位可能な可動ばね受と、可動ばね受の懸架ばねの伸縮する方向への移動を許容しつつ可動ばね受との間に液体を収容する圧力室を形成するハウジングと、可動ばね受がハウジングに対して懸架ばね側へ向けて移動して圧力室を最大とするとそれ以上の可動ばね受の懸架ばね側への移動を阻止するストッパと、圧力室内を弾性力によって加圧可能であって弾性力を調整可能な弾性加圧手段とを備えている。
【0008】
このように構成された懸架装置では、弾性加圧手段が弾性力によって圧力室内を加圧しており、可動ばね受によって懸架ばねの一端を支持しているので、弾性加圧手段が圧力室に作用させる圧力の調整によって可動ばね受をストッパで規制した位置に不動に固定できるとともに、懸架ばねの収縮の程度に応じて可動ばね受をハウジングに対して変位させることができる。そして、弾性加圧手段が圧力室を弾発力で加圧しているので、可動ばね受がハウジングに対して変位すると可動ばね受に弾性加圧手段の弾発力を受けて懸架ばねとともにばねとして機能するので、懸架装置におけるばね定数が低下する。
【0009】
また、懸架装置における弾性加圧手段は、容器と、容器内に移動可能に挿入されて容器内に圧力室に連通される空間を区画する移動隔壁と、容器内に収容される気体と液体とを備えてもよい。このように構成された懸架装置によれば、弾性加圧手段はエアばねとして機能して移動隔壁の容器内での変位によって気体の圧縮程度を調節して、圧力室内に作用させる弾発力を調整できる。よって、本実施の形態の懸架装置によれば、気体の利用によって弾発力を調整できるので、弾性加圧手段を小型軽量なものとでき、車両への搭載性を向上できる。
【0010】
また、懸架装置における弾性加圧手段が弾性力を最小にする状態において、所定重量を積載した状態における車体を支持する懸架ばねが発生する弾発力と可動ばね受がストッパにより移動が規制されつつ懸架ばねを付勢する付勢力とを釣り合うようにしてもよい。このように構成された懸架装置によれば、弾性加圧手段が弾性力を最小にする状態において、車両の車体に所定重量が積載されると、懸架ばねの収集時に可動ばね受もハウジング内に向けて変位するようになるので、懸架装置のばね定数を懸架ばねのばね定数よりも小さく変化させることができる。
【0011】
また、リアクッションユニットは、アウターシェルと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドとを有してアウターシェルとロッドとの相対移動を抑制する減衰力を発生可能な緩衝器本体と、懸架装置と、ロッドに設けられて懸架ばねの他端を支持する固定ばね受とを備え、ハウジングおよび可動ばね受は、アウターシェルに取り付けられている。このように構成されたリアクッションユニットは、懸架装置を備えており懸架装置のばね定数を変更できるので車両における乗心地を向上できるとともに、緩衝器本体に懸架装置を一体化して、鞍乗型車両の車体と後輪との間に介装することができ、懸架装置の鞍乗型車両への搭載が容易となる。
【0012】
さらに、リアクッションユニットは、ロッドの反アウターシェル側端の外周に装着される環状のバンプクッションと、アウターシェルに取り付けられてバンプクッションに軸方向で対向するバンプストッパとを備え、緩衝器本体が収縮してバンプクッションとバンプストッパとが当接するまでは、ハウジングが可動ばね受の反懸架ばね側への移動を規制しないようにしてもよい。このように構成されたリアクッションユニットによれば、懸架装置のばね定数を低下させた場合に緩衝器本体が収縮してバンプクッションとバンプストッパとが当接する事態となっても、可動ばね受のハウジングに対する圧力室を収縮する方向へのストローク長が充分に確保されており、バンプクッションとバンプストッパとが当接するまでは可動ばね受とハウジングとが衝突しないので、ばね定数が突然高くなって車両の搭乗者にごつごつした乗心地を感じさせて不快感を与えることもない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の懸架装置およびリアクッションユニットによれば、車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施の形態における懸架装置を備えたリアクッションユニットの断面図である。
【
図2】
図2は、鞍乗型車両に取り付けられたリアクッションユニットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態における懸架装置Sは、緩衝器本体Dに一体化されて緩衝器本体DとともにリアクッションユニットRCUを構成しており、自動二輪車等の鞍乗型車両Mにおける車体Fと後輪Wとの間に介装されて車体Fを弾性支持している。なお、本実施の形態では、懸架装置SがリアクッションユニットRCUに適用されて鞍乗型車両Mの車体Fと後輪Wとの間に介装された例を用いて懸架装置Sを説明しているが、懸架装置Sは、緩衝器本体Dとともに或いは緩衝器本体Dとは別個独立して鞍乗型車両M以外の車両に利用されてもよい。
【0016】
以下、懸架装置Sおよび懸架装置Sを備えたリアクッションユニットRCUの各部について詳細に説明する。まず、リアクッションユニットRCUにおける緩衝器本体Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入される筒状のロッド2と、ロッド2に連結されてシリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3と、シリンダ1の外周を覆ってシリンダ1との間に環状隙間を形成するアウターシェル4と、アウターシェル4の
図1中上端の外周に装着されるとともにシリンダ1の
図1中上端を閉塞するキャップ5と、キャップ5に保持されるタンク6とを備えている。
【0017】
シリンダ1は、
図1中の上端外周に設けられてアウターシェル4の上端に当接するフランジ1aと、
図1中の下端外周に設けられてアウターシェル4の内周に嵌合するフランジ1bと、フランジ1bより上方であってフランジ1bの至近に設けられてシリンダ1の内外を連通する孔1cとを備えている。
【0018】
シリンダ1内は、軸方向へ移動可能に挿入されるピストン3によって作動油が充填される伸側室R1および圧側室R2とに区画されている。ピストン3は、環状であってシリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド2の先端外周に装着されており、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート3aと圧側ポート3bとを備えている。ピストン3の
図1中上端には、環状であって伸側ポート3aを開閉する伸側リーフバルブ13が積層され、ピストン3の
図1中下端には、環状であって圧側ポート3bを開閉する圧側リーフバルブ14が積層されている。伸側リーフバルブ13および圧側リーフバルブ14は、ともにロッド2の外周に内周が固定されており、外周側を撓ませることでそれぞれ対応する伸側ポート3aおよび圧側ポート3bを開放するとともに通過する作動油の流れに抵抗を与える。
【0019】
つづいて、アウターシェル4は、シリンダ1の外周を覆って、
図1中上端をシリンダ1の上方側のフランジ1aの下端に当接させており、シリンダ1とともにシリンダ1の外周であってフランジ1a,1b間に環状隙間を形成している。また、アウターシェル4の上端近傍には、アウターシェル4の内外を連通して前記環状隙間に通じる孔4aが設けられており、また、アウターシェル4の孔4aよりも
図1中下方の外周には螺子部4bが形成されている。
【0020】
さらに、アウターシェル4の
図1中下端の内周には、環状のロッドガイド7が装着されている。ロッドガイド7内には、シリンダ1内に軸方向へ移動可能なロッド2が挿通されている。また、ロッドガイド7の内周には、ロッド2の外周に摺接してロッド2の軸方向への移動を案内する環状のブッシュ8と、ロッド2の外周をシールするシールリング9が取り付けられている。さらに、ロッドガイド7の外周には、アウターシェル4の内周に密着するシールリング10が装着されている。このように、ロッド2とロッドガイド7との間がシールリング9によりシールされ、ロッドガイド7とアウターシェル4との間がシールリング10によってシールされるので、シリンダ1およびアウターシェル4内が密閉されている。
【0021】
また、ロッド2の
図1中下端には、鞍乗型車両Mにおける後輪Wを保持するスイングアームSAに連結可能なブラケット20が設けられるとともに、ロッド2の外周であって反アウターシェル側端となる
図1中下端には、ブラケット20に支持される環状のバンプクッション21が装着されている。他方、アウターシェル4の下端の内周には、バンプクッション21に軸方向で対向する環状のバンプストッパ22が取り付けられている。よって、アウターシェル4に対してロッド2が軸方向に接近し緩衝器本体Dが収縮側のストロークエンド付近まで収縮作動するとバンプクッション21がバンプストッパ22に当接して圧縮されて反発力を発生して、緩衝器本体Dのそれ以上の収縮を妨げる。
【0022】
キャップ5は、筒部5aと底部5bとを有する有頂筒状であって、筒部5aがアウターシェル4の螺子部4bに螺着されている。このようにキャップ5をアウターシェル4に螺着すると、シリンダ1のフランジ1aがアウターシェル4とキャップ5の底部5bとで挟持され、シリンダ1がアウターシェル4およびキャップ5に対して不動に固定される。筒部5aは、
図1中下端側の外周が上端よりも小径となっており、外周に段部5a1を備えている。
【0023】
また、キャップ5は、底部5bの上端に鞍乗型車両Mの車体Fに連結可能なブラケット5cを備えるとともに、筒部5aの
図1中上端側方にタンク6を保持するタンク保持部5dを備えている。
【0024】
タンク保持部5dに保持されたタンク6は、内部に軸方向移動可能に収容されたフリーピストン6aによって作動油が充填される油室Oとガスが充填されるガス室Gとに区画されている。そして、油室Oは、キャップ5の底部5bからタンク保持部5dに形成される通路11によって圧側室R2に連通されるとともに、キャップ5の筒部5aからタンク保持部5dに形成される通路12とアウターシェル4の孔4aと前記環状隙間とシリンダ1の孔1cによって伸側室R1に連通されている。なお、タンク6内は、フリーピストン6aに代えて可撓性を備えたブラダやベローズ等によって油室Oとガス室Gとに区画されてもよい。
【0025】
また、キャップ5内には、通路12に並列される伸側ソフトバルブ15と圧側ソフトバルブ16と、伸側ソフトバルブ15および圧側ソフトバルブ16に対して直列される開閉バルブ17とが設けられている。伸側ソフトバルブ15が作動油の流れに与える抵抗は、伸側リーフバルブ13が作動油の流れに与える抵抗よりも小さく、圧側ソフトバルブ16が作動油の流れに与える抵抗は、圧側リーフバルブ14が作動油の流れに与える抵抗よりも小さくなっている。また、開閉バルブ17は、通電によって開弁して通路12を有効とする一方で、非通電時には閉弁して通路12を遮断する。
【0026】
緩衝器本体Dは、以上のように構成されており、開閉バルブ17が閉弁している状態で伸長作動すると、ピストン3の
図1中下方への移動によって縮小される伸側室R1内の作動油が伸側ポート3aおよび伸側リーフバルブ13を通過して拡大される圧側室R2へ移動する。開閉バルブ17が閉弁しており伸側室R1内の作動油は通路12を通過できないので、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の全流量が伸側リーフバルブ13を流れる。よって、緩衝器本体Dは、伸側リーフバルブ13のみによって伸長作動を妨げるハードの減衰力を発生する。緩衝器本体Dの伸長作動時には、ロッド2がシリンダ1内から退出してシリンダ1内にロッド2がシリンダ1内から退出する体積分の作動油が不足するが、不足分の作動油はタンク6から通路11を通じてシリンダ1内に供給されて、ロッド2の体積補償が行われる。
【0027】
他方、開閉バルブ17が閉弁している状態で緩衝器本体Dが収縮作動すると、ピストン3の
図1中上方への移動によって縮小される圧側室R2内の作動油が圧側ポート3bおよび圧側リーフバルブ14を通過して拡大される伸側室R1へ移動する。開閉バルブ17が閉弁しており圧側室R2内の作動油は、通路12を通過できないので、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の全流量が圧側リーフバルブ14を流れる。よって、緩衝器本体Dは、圧側リーフバルブ14のみによって収縮作動を妨げるハードの減衰力を発生する。緩衝器本体Dの収縮作動時には、ロッド2がシリンダ1内へ侵入してシリンダ1内にロッド2がシリンダ1内へ侵入する体積分の作動油が過剰するが、過剰分の作動油は通路11を通じてシリンダ1内からタンク6内に排出されて、ロッド2の体積補償が行われる。
【0028】
開閉バルブ17が開弁している状態で緩衝器本体Dが伸長作動すると、ピストン3の
図1中下方への移動によって縮小される伸側室R1内の作動油が伸側ポート3aのみならず通路12の伸側ソフトバルブ15を通過して拡大される圧側室R2へ移動できる。伸側ソフトバルブ15が作動油の流れに与える抵抗が伸側リーフバルブ13が作動油の流れに与える抵抗よりも小さいので、作動油は、伸側ソフトバルブ15を優先的に通過する。よって、緩衝器本体Dは、主として伸側ソフトバルブ15によって伸長作動を妨げるソフトの減衰力を発生する。
【0029】
他方、開閉バルブ17が閉弁している状態で緩衝器本体Dが収縮作動すると、ピストン3の
図1中上方への移動によって縮小される圧側室R2内の作動油が圧側ポート3bおよび圧側リーフバルブ14のみならず通路12の圧側ソフトバルブ16を通過して拡大される伸側室R1へ移動できる。圧側ソフトバルブ16が作動油の流れに与える抵抗が圧側リーフバルブ14が作動油の流れに与える抵抗よりも小さいので、作動油は、圧側ソフトバルブ16を優先的に通過する。よって、緩衝器本体Dは、主として圧側ソフトバルブ16によって収縮作動を妨げるソフトの減衰力を発生する。
【0030】
このように緩衝器本体Dは、開閉バルブ17の開閉によって伸縮時の減衰力をソフトとハードとに切り換え可能となっている。なお、緩衝器本体Dの具体的な構造は一例であって、伸縮時に減衰力を発生可能であれば前述した構造に限定されない。よって、緩衝器本体Dは、たとえば、アウターシェル4とシリンダ1との間にリザーバを備える構造や、シリンダ1を廃止してアウターシェル4の内周にピストン3を摺接させた単筒型の構造を採用してもよい。
【0031】
つづいて、懸架装置Sは、懸架ばね30と、懸架ばね30の一端となる
図1中上端を支持するとともに懸架ばね30の伸縮する方向へ移動可能な可動ばね受31と、キャップ5の外周に装着されて可動ばね受31の懸架ばね30の伸縮する方向への移動を許容しつつ可動ばね受31との間に液体を収容する圧力室Pを形成するハウジング32と、可動ばね受31がハウジング32に対して懸架ばね側へ向けて移動して圧力室Pを最大とするとそれ以上の可動ばね受31の懸架ばね側への移動を阻止するストッパ33と、圧力室P内を弾性力によって加圧可能であって当該弾性力を調整可能な弾性加圧手段34とを備えている。
【0032】
懸架ばね30は、コイルばねとされており、一端となる
図1中上端が可動ばね受31によって支持されるとともに、他端となる
図1中下端が緩衝器本体Dのロッド2の
図1中下端に設けられたブラケット20に装着された固定ばね受25によって支持されている。懸架ばね30は、圧縮された状態で可動ばね受31および固定ばね受25との間で圧縮された状態で介装されており、緩衝器本体Dを常時伸長方向へ付勢している。そして、リアクッションユニットRCUを鞍乗型車両Mの車体Fと後輪Wと間に介装すると、懸架ばね30は車体Fの重量を受けて少し収縮して車体Fを弾性支持する。よって、鞍乗型車両Mの走行中に路面から入力される振動によって緩衝器本体Dが伸縮すると懸架ばね30も緩衝器本体Dとともに伸縮する。
【0033】
可動ばね受31は、筒状であって、懸架ばね側の内外径が大径な大径部31aと、反懸架ばね側の内外径が大径部31aの内外径よりも小径な小径部31bと、大径部31aと小径部31bとを連結するフランジ状の受圧部31cとを備えている。なお、可動ばね受31の最小内径となる小径部31bの内径は、アウターシェル4およびキャップ5の筒部5aの下端の小径部位の外径よりも大径となっており、可動ばね受31は、アウターシェル4およびキャップ5と干渉せずに懸架ばね30の伸縮方向となる
図1中上下方向へ移動できる。なお、小径部31bの内周をキャップ5の筒部5aの小径部位の外周に摺接させてもよい。また、本実施の形態の可動ばね受31にあっては、受圧部31cの外径が大径部31aの外径よりも大径となっている。さらに、可動ばね受31における受圧部31cの外周に設けられた符示しない環状溝内にはシールリング31dが装着されている。
【0034】
また、可動ばね受31の大径部31aの
図1中下端と懸架ばね30の
図1中上端との間には、シート環35が介装されている。シート環35は、懸架ばね30の内周に嵌合する嵌合部35aと、嵌合部35aの
図1中上端の外周に設けられて懸架ばね30の
図1中上端に当接するフランジ状のシート部35bと、シート部35bの外周から大径部側に湾曲してて大径部31aの外周に遊嵌される環状の位置決め部35cとを備えている。シート環35は、シート部35bを大径部31aの端部に積層すると、可動ばね受31に対して周方向への回転が許容されつつも、位置決め部35cが大径部31aの外周に対向して可動ばね受31に対して径方向で脱落することが無くなる。懸架ばね30は、コイルばねであるため、伸縮に伴って端部が周方向に僅かに回転する作動を呈するが、可動ばね受31に対して周方向へ回転可能なシート環35を積層することにより、可動ばね受31に懸架ばね30の回転が伝達するのを防止できる。可動ばね受31は、ハウジング32とともに圧力室Pを形成するためにシールリング31dを備えており、周方向へ回転しづらいので、このようにシート環35を設けることによって可動ばね受31の回転を防止でき、シールリング31dの劣化を防止できる。なお、シート環35は不要であれば省略でき、懸架ばね30を可動ばね受31の端部に直接当接させてもよい。
【0035】
ハウジング32は、キャップ5の外周に段部5a1に当接する環状の基部32aと、基部32aの
図1中下端外周から垂下される環状のソケット32bとを備えている。ハウジング32は、キャップ5の筒部5aの外周に配置されて段部5a1に当接した状態でキャップ5に取り付けられると、キャップ5の筒部5aとの間に可動ばね受31の小径部31bが挿入可能な環状隙間を形成するともに、ソケット32b内に可動ばね受31の受圧部31cと大径部31aを挿入可能な環状のスペースを形成する。このように、ハウジング32および可動ばね受31は、キャップ5を介してアウターシェル4に取り付けられている。なお、ハウジング32および可動ばね受31は、アウターシェル4に連結されるキャップ5その他の部品を介してアウターシェル4に取り付けられてもよいし、アウターシェル4に対して直接取り付けられてもよい。
【0036】
基部32aは、内径が可動ばね受31の小径部31bの外周に摺接可能な径に設定されてキャップ5の段部5a1に当接した状態でキャップ5に固定されている。また、基部32aの内周に設けられた符示しない環状溝内には可動ばね受31の小径部31bの外周に摺接するシールリング32cが装着されている。ソケット32b内には、可動ばね受31の受圧部31cが摺動可能に挿入されており、受圧部31cの外周のシールリング31dによってソケット32bと受圧部31cの間がシールされる。また、可動ばね受31は、ハウジング32内に挿入されると、受圧部31cの外周がソケット32bの内周に摺接し、小径部31bの外周が基部32aの内周に摺接するので、ハウジング32によってガイドされつつ軸ぶれせずに軸方向となる
図1中上下方向へ移動できる。また、可動ばね受31における受圧部31cの
図1中下端面となる対向面31c1とハウジング31の基部32aの
図1中上端面となる対向面32a2とは、軸方向で対向しており、可動ばね受31がハウジング32に対して
図1中上方へ移動して接近し、互いの対向面31c1,32a1同士が当接するとそれ以上ハウジング32に対して反ばね受側となる
図1中上方への移動が規制される。
【0037】
また、ハウジング32の内部に可動ばね受31を挿入すると、可動ばね受31の小径部31bおよび受圧部31cと、ハウジング32の基部32aおよびソケット32bとで取り囲まれた環状の空隙によってハウジング32と可動ばね受31との間に液体が収容される圧力室Pが形成される。なお、圧力室P内に収容される液体は、本実施の形態の懸架装置Sでは作動油とされるが、作動油以外の液体とされてもよい。シールリング31d,32cによって可動ばね受31とハウジング32との間がシールされており圧力室Pが密閉されているので、圧力室P内の液体の圧力室P外への漏洩が阻止される。
【0038】
そして、圧力室P内の圧力は、可動ばね受31の受圧部31cの
図1中上端に作用しているので、可動ばね受31は、受圧部31cの
図1中上端の圧力室Pに対面する面積に圧力室P内の圧力を乗じた値の力によって常時
図1中下方となる懸架ばね側へ向けて付勢される。
【0039】
また、ハウジング32のソケット32bの外周には、ストッパ33が装着されている。ストッパ33は、内周に螺子部を有してソケット32bの外周に螺着される筒部33aと、筒部33aの内周から径方向へ延びる環状のストッパ部33bとを備えている。ストッパ部33bの内径は、可動ばね受31の大径部31aの外径よりも大径であって、ソケット32bの内径より小径となっており、ハウジング32のソケット32bにストッパ33を装着するとストッパ部33bの内周が可動ばね受31の受圧部31cの
図1中で下端外周に軸方向で対向する。そして、可動ばね受31がハウジング32に対して最大限に懸架ばね側へ移動すると、可動ばね受31における受圧部31cの下端外周にストッパ33におけるストッパ部33bが当接して、可動ばね受31がハウジング32から
図1中下方となる懸架ばね側へそれ以上変位できなくなる。このように、ストッパ33は、可動ばね受31がハウジング32に対して懸架ばね側へ向けて移動して圧力室Pを最大とするとそれ以上の可動ばね受31の懸架ばね側への移動を阻止する。よって、可動ばね受31は、ハウジング32の基部32aに受圧部31cが当接して圧力室Pを最小にする位置からストッパ33のストッパ部33bに受圧部31cが当接して圧力室Pを最大にする位置にまでストロークできる。
【0040】
前述したように、可動ばね受31が大径部31aと小径部31bと受圧部31cとを備え、ハウジング32が小径部31bの外周に摺接する基部32aと、基部32aから垂下されて内周に受圧部31cが摺動自在に挿入されるソケット32bとを備えているので、ハウジング32とハウジング32に対して出入りする可動ばね受31の双方の摺動面が懸架装置Sの外部に露出しない。よって、前述のように構成された可動ばね受31とハウジング32とを備えた懸架装置Sによれば、可動ばね受31とハウジング32との双方の摺動面を保護でき、圧力室P内からの液体の漏洩を防止できる。また、ストッパ33のストッパ部33bの内周面は、可動ばね受31の大径部31aの外周面と対向しており、可動ばね受31の移動を規制するストッパとして機能するだけなく、ハウジング32の
図1中下端の開口端を覆っているので、ハウジング32内へのダストや水の侵入を防止できる。なお、可動ばね受31は、ハウジング32との間に圧力室Pを形成でき、ハウジング32に対して懸架ばね30の伸縮方向へ移動できれば、ハウジング32の外周に装着されていてもよい。
【0041】
圧力室P内の圧力を調整する弾性加圧手段34は、容器37と、容器37内に移動可能に挿入されて容器37内に配管36を通じて圧力室Pに連通される空間を形成する移動隔壁38と、当該空間内を気体が充填される気室Aと圧力室Pに連通される液室Bとに区画する弾性隔壁39とを備えている。
【0042】
容器37は、筒状であって、一端の開口部がブラダで形成された弾性隔壁39を保持するキャップ40によって閉塞されている。また、容器37の他端には、環状であって内周に螺子部を備えた螺子付きキャップ41が取り付けられている。螺子付きキャップ41の内周には、先端が容器37内に突出する螺子軸42が螺着されている。さらに、螺子軸42の外周には、ナット43が螺着されており、螺子軸42に対してナット43を回転させて螺子付きキャップ41に当接した状態でさらにナット43を締めこむと、螺子付きキャップ41とナット43とでダブルナットの要領で螺子軸42の回転を阻止して螺子軸42を螺子付きキャップ41に固定できる。また、螺子軸42を螺子付きキャップ41に固定した状態からナット43を弛めれば、螺子軸42の螺子付きキャップ41に対する回転が許容され螺子軸42の螺子付きキャップ41に対する回転操作によって螺子軸42の容器37に対する軸方向への移動が許容される。螺子軸42は、容器37外に突出する後端には、工具による把持を可能とする頭部42aを備えており、容器37内に最大限に突出すると頭部42aが螺子付きキャップ41に当接するナット43の
図1中下端に接触してそれ以上の容器37内への侵入が阻止される。
【0043】
また、螺子軸42の先端には、容器37内に対して軸方向へ摺動可能に挿入される移動隔壁38が取り付けられている。移動隔壁38は、容器37内に圧力室Pに連通される空間を形成しており、螺子軸42の容器37に対する軸方向への移動によって螺子軸42とともに容器37内で変位することによって空間の容積を変更する。なお、移動隔壁38を容器37に対して変位させる手段は、螺子軸42と螺子付きキャップ41とで構成される送り螺子機構以外の機構であってもよく、適宜設計変更できるが、送り螺子機構の利用によって小さなトルクで移動隔壁38を容器37に対して無段階に変位させることができ、弾性加圧手段34で圧力室P内の圧力を無段階に調整し得る。また、移動隔壁38の容器37に対して変位させるのに、モータ等のアクチュエータの動力や空気圧を利用してもよい。さらに、移動隔壁38は、容器37内に摺動自在に挿入されるフリーピストンとされているが、金属ベローズ等、容器37内に移動隔壁38で区画した空間の容積を変更可能な移動隔壁であればよい。
【0044】
容器37内における空間は、配管36を通じて圧力室P内に連通されている。また、容器37内であって前記空間内には弾性隔壁39が収容されており、弾性隔壁39内には気体が充填されている。そして、容器37の空間内にであって弾性隔壁39外には液体が充填されている。このように容器37内に移動隔壁38を挿入することによって容器37内に移動隔壁38によって区画された空間は、弾性隔壁39によって気体が充填される気室Aと液体が充填される液室Bとに区画されており、液室Bが配管36を介して圧力室P内に連通されている。なお、液室Bに充填される液体は、圧力室P内に充填される液体と同じ液体とされてもおり、たとえば、作動油やエチレングリコール水溶液、その他の液体であってもよい。また、弾性隔壁39は、ダイヤフラムやベローズであってもよい。
【0045】
弾性隔壁39内の気室A内には、圧縮状態の気体が充填されているので、液室Bを介して気室A内の圧力を圧力室Pに作用させている。このように、弾性加圧手段34は、エアばねとして機能しており、気室A内の気体が発する弾発力で常時圧力室Pを加圧している。そして、螺子軸42の回転操作によって移動隔壁38を容器37内で軸方向へ変位させ、空間の容積を減少させると気室A内の気体が圧縮されて気体はより大きな弾発力を発生するので、圧力室P内の圧力を上昇させ得る。また、反対に、螺子軸42の回転操作によって移動隔壁38を容器37内で軸方向へ変位させ空間の容積を増大させると、気室Aが膨張して気体の圧縮の程度が減少し、気体が発生する弾発力を減少させて圧力室P内の圧力を下降させ得る。
【0046】
また、移動隔壁38が容器37内に最大限に侵入して空間の容積を最小とする場合、気室A内の気体の弾発力が最大となって弾性加圧手段34が圧力室Pに作用させる圧力が最大となる。この状態において、圧力室Pから可動ばね受31が懸架ばね30を圧縮する方向へ向けて受ける力は、緩衝器本体Dが最圧縮して懸架ばね30が最も縮んだ状態で可動ばね受31が懸架ばね30から圧力室Pを押し縮める方向へ受ける力よりも大きくなるように設定されている。よって、移動隔壁38が容器37内に最大限に侵入して空間の容積を最小とする場合、懸架ばね30から受ける力では可動ばね受31は
図1中上方へ変位することはなく、常にストッパ33の当接する最下方に位置してその場から変位しない。
【0047】
他方、移動隔壁38が容器37内で最大限に後退して空間の容積を最大とする場合、気室A内の気体の弾発力が最小となって弾性加圧手段34が圧力室Pに作用させる圧力も最小となる。この状態において、圧力室Pから可動ばね受31が懸架ばね30を圧縮する方向へ向けて受ける力と、可動ばね受31が鞍乗型車両Mの車体Fに所定重量を積載した状態で圧縮された懸架ばね30から圧力室Pを押し縮める方向へ受ける力とが釣り合うようになっている。所定重量は、たとえば、50kgから80kgといった範囲で搭乗者1人の体重程度の重量に設定されており、鞍乗型車両Mに搭乗者が1人乗車した状態で、可動ばね受31が圧力室Pから受ける力と懸架ばね30から受ける力とが釣り合うように、気室A内の気体の圧力、可動ばね受31の圧力室Pの受圧面積および懸架ばね30の仕様が設定されている。
【0048】
以上のように構成された懸架装置SおよびリアクッションユニットRCUでは、圧力室Pを弾性力によって加圧する弾性加圧手段34を備えており、移動隔壁38を容器37内で空間の容積を最小にする位置に配置されると、気室A内の気体の圧力が最大となって圧力室P内に作用する。この状態では、前述した通り、緩衝器本体Dのストローク可能な範囲で懸架ばね30が最収縮しても、懸架ばね30の弾発力は、可動ばね受31が圧力室Pの圧力の作用によって懸架ばね30側へ向けて押圧する力を上回ることができず、可動ばね受31は、ストッパ33によってハウジング32から最大限に退出する位置から変位しない。
【0049】
よって、このように移動隔壁38を容器37内で空間の容積を最小にする位置にすると、可動ばね受31の位置が変化しないので、緩衝器本体Dの伸縮に伴って伸縮するのは懸架ばね30のみとなり、懸架装置Sのばね定数は、懸架ばね30のばね定数となって、最も大きな値を採る。
【0050】
これに対して、移動隔壁38を容器37内で空間の容積を最大にする位置にすると、気室A内の気体の圧力が最小となって圧力室P内に作用する。この状態では、前述した通り、所定重量が積載された鞍乗型車両Mの車体Fを支持することにより収縮する懸架ばね30が可動ばね受31を上方へ押す力と、可動ばね受31が圧力室Pの圧力に作用によって懸架ばね30側へ向けて押圧する力とが釣り合う。そして、所定重量が積載された鞍乗型車両Mの車体Fを支持することにより収縮した懸架ばね30が鞍乗型車両Mの走行中に入力される振動によりさらに収縮すると、懸架ばね30が発生する弾発力が大きくなって懸架ばね30が可動ばね受31を上方へ押す力が、可動ばね受31が圧力室Pの圧力の作用によって懸架ばね30側へ向けて押圧する力よりも大きくなり、可動ばね受31が
図1中上方へ変位する。可動ばね受31の
図1中上方への変位によって圧力室Pが縮小し、圧力室P内から液体が容器37に向けて排出され、気室Aの容積が縮小されて可動ばね受31が圧力室Pの圧力の作用によって懸架ばね30側へ向けて押圧する力が大きくなる。この可動ばね受31の
図1中上方への変位は、懸架ばね30が可動ばね受31を上方へ押す力と、可動ばね受31を圧力室Pの圧力の作用によって懸架ばね30側へ向けて下方へ押す力とが釣り合うまで継続する。なお、緩衝器本体Dが収縮してもバンプクッション21とバンプストッパ22とが当接するまでは、可動ばね受31の受圧部31cの
図1中上端面である対向面31c1がハウジング32の基部32aの
図1中下端面である対向面32a1に当接することの無いようにストローク長が確保されている。よって、所定重量が積載された鞍乗型車両Mの車体Fを支持することにより収縮した懸架ばね30が鞍乗型車両Mの走行中に入力される振動によりさらに収縮すると、可動ばね受31もハウジング32に対して変位するので、車体Fは、直列される懸架ばね30とエアばねとして機能する弾性加圧手段34とによって弾性支持される格好となり、懸架装置Sのばね定数は、懸架ばね30のばね定数とエアばねとして機能する弾性加圧手段34のばね定数とを合成したばね定数となる。この場合、懸架ばね30のばね定数をk1とし、エアばねとして機能する弾性加圧手段34のばね定数をk2とすると懸架装置Sのばね定数Kは、K=k1・k2/(k1+k2)となり、懸架ばね30のみが伸縮する場合のばね定数k1と比較すると小さくなる。
【0051】
他方、所定重量が積載された鞍乗型車両Mの車体Fを支持することにより収縮した懸架ばね30が鞍乗型車両Mの走行中に入力される振動により伸長すると、懸架ばね30の弾発力が小さくなるために可動ばね受31はストッパ33に位置決めされた位置から変位しないので、懸架装置Sのばね定数は、懸架ばね30のばね定数に等しくなる。
【0052】
このように本実施の形態の懸架装置Sおよび懸架装置Sを適用したリアクッションユニットRCUでは、弾性加圧手段34によって圧力室Pの圧力を調整することによって、懸架ばね30のみが伸縮する状態と、懸架ばね30だけでなく可動ばね受31もハウジング32に対して変位することができる状態とに切り換えることができ、懸架装置Sにおけるばね定数を大小調整することができる。なお、移動隔壁38が容器37内で最大限に後退して空間の容積を最大とする場合に圧力室Pから可動ばね受31が懸架ばね30を圧縮する方向へ向けて受ける力と、可動ばね受31が鞍乗型車両Mの車体Fに所定重量を積載した状態で圧縮された懸架ばね30から圧力室Pを押し縮める方向へ受ける力とが釣り合うようにしているが、前記した所定荷重の設定範囲は、懸架ばね30が緩衝器本体Dのストローク範囲で収縮する際に発生する弾発力で支持可能な最大荷重未満に設定されればよい。このような範囲で所定荷重が設定されれば、緩衝器本体Dのストローク範囲で可動ばね受31が変位できるようになるので、懸架装置Sのばね定数の変更が可能となる。なお、移動隔壁38の位置を容器37内の空間の容積を最大としなくても可動ばね受31が懸架ばね30の伸縮にともなってハウジング32に対して変位するようにすれば、懸架装置Sのばね定数が低下する際の懸架ばね30の収縮度合とばね定数の低下度合を調整できる。
【0053】
以上、本実施の形態の懸架装置Sは、鞍乗型車両(車両)Mにおける車体Fを支持する懸架ばね30と、懸架ばね30の一端を支持して懸架ばね30の伸縮する方向へ変位可能な可動ばね受31と、可動ばね受31の懸架ばね30の伸縮する方向への移動を許容しつつ可動ばね受31との間に液体を収容する圧力室Pを形成するハウジング32と、可動ばね受31がハウジング32に対して懸架ばね側へ向けて移動して圧力室Pを最大とするとそれ以上の可動ばね受31の懸架ばね側への移動を阻止するストッパ33と、圧力室P内を弾性力によって加圧可能であって弾性力を調整可能な弾性加圧手段34とを備えている。
【0054】
このように構成された懸架装置Sでは、弾性加圧手段34が弾性力によって圧力室P内を加圧しており、可動ばね受31によって懸架ばね30の一端を支持しているので、弾性加圧手段34が圧力室Pに作用させる圧力の調整によって可動ばね受31をストッパ33で規制した位置に不動に固定できるとともに、懸架ばね30の収縮の程度に応じて可動ばね受31をハウジング32に対して変位させることができる。そして、弾性加圧手段34が圧力室Pを弾発力で加圧しているので、可動ばね受31がハウジング32に対して変位すると可動ばね受31に弾性加圧手段34の弾発力を受けて懸架ばね30とともにばねとして機能するので、懸架装置Sにおけるばね定数が低下する。
【0055】
以上のように、本実施の形態の懸架装置Sによれば、弾性加圧手段34における弾発力の調整によって懸架装置Sの全体としてのばね定数を変更できるので、車両における乗心地を向上できる。
【0056】
また、本実施の形態の懸架装置Sでは圧力室Pには液体が収容されており、弾性加圧手段34の弾発力を液体を媒体として可動ばね受31に伝達しているため、圧力室P内を密閉するシールリング31d,32cには実績のある液体用のシールリングを利用でき、実用性が向上する。
【0057】
また、本実施の形態の懸架装置Sにおける弾性加圧手段34は、容器37と、容器37内に移動可能に挿入されて容器37内に圧力室Pに連通される空間を区画する移動隔壁38と、容器37内に収容される気体と液体とを備えている。このように構成された懸架装置Sによれば、弾性加圧手段34はエアばねとして機能して移動隔壁38の容器37内での変位によって気体の圧縮程度を調節して、圧力室P内に作用させる弾発力を調整できる。よって、本実施の形態の懸架装置Sによれば、気体の利用によって弾発力を調整できるので、弾性加圧手段34を小型軽量なものとでき、車両への搭載性を向上できる。なお、弾性加圧手段34は、気室Aを廃止して移動隔壁38で容器37内に区画される空間に液体のみを充填して、移動隔壁38をコイルばね等で付勢してコイルばね等の弾発力を調整することによって圧力室P内に作用させる圧力を調整してもよい。また、弾性加圧手段34は、内方が圧力室P内に連通される液体を貯留する金属ベローズと、金属ベローズを圧縮する方向へ付勢するばね或いはエアばねと、ばね或いはエアばねの弾発力を調整する調整手段とを備えて構成されてもよい。調整手段は、たとえば、ばね或いはエアばねの反金属ベローズ側の端部を変位させることができるものであればよいので前述した弾性加圧手段34における送り螺子機構等を採用できる。
【0058】
また、本実施の形態の弾性加圧手段34は、弾性隔壁39によって気室Aと液室Bとに区画しており、圧力室P内への気体の混入が防止されている。このように構成された懸架装置Sでは、気体の弾発力を利用して圧力室P内を加圧しているが、圧力室P内を密閉するシールリング31d,32cには液体用のシールリングを利用でき、シールが難しい気体のシールをしなくてもよい。よって、本実施の形態の懸架装置Sによれば、気体の弾発力を利用して圧力室P内の圧力を高圧にしても液体の漏洩を防止するシールリング31d,32cの利用が可能となり、実用性が向上する。なお、弾性隔壁39を利用せずとも容器37内の気体が圧力室Pに流入するのを防止できれば、弾性隔壁39を省略できるが、弾性隔壁39を利用すれば圧力室P内への気体の侵入の心配なくなる利点がある。
【0059】
また、本実施の形態の懸架装置Sにおける弾性加圧手段34が弾性力を最小にする状態において、所定重量を積載した状態における車体Fを支持する懸架ばね30が発生する弾発力と可動ばね受31がストッパ33により移動が規制されつつ懸架ばね30を付勢する付勢力とが釣り合い状態となる。このように構成された懸架装置Sによれば、弾性加圧手段34が弾性力を最小にする状態において、鞍乗型車両(車両)Mの車体Fに所定重量が積載されると、懸架ばね30の収集時に可動ばね受31もハウジング32内に向けて変位するようになるので、懸架装置Sのばね定数を懸架ばね30のばね定数よりも小さく変化させることができる。なお、所定重量が搭乗者1人分の体重程度に設定しておけば、鞍乗型車両Mに設置される懸架装置Sの車両走行中のばね定数を懸架ばね30のばね定数より小さく変更でき、鞍乗型車両Mの搭乗者が好む乗心地を実現できる。
【0060】
また、本実施の形態のリアクッションユニットRCUは、アウターシェル4と、アウターシェル4内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド2とを有してアウターシェル4とロッド2との相対移動を抑制する減衰力を発生可能な緩衝器本体Dと、懸架装置Sと、ロッド2に設けられて懸架ばね30の他端を支持する固定ばね受25とを備え、ハウジング32および可動ばね受31は、アウターシェル4に設けられている。このように構成されたリアクッションユニットRCUでは、懸架装置Sを備えているので懸架装置Sのばね定数を変更できるので車両における乗心地を向上できるとともに、緩衝器本体Dに懸架装置Sを一体化して、鞍乗型車両(車両)Mの車体Fと後輪Wとの間に介装することができ、懸架装置Sの鞍乗型車両(車両)Mへの搭載が容易となる。
【0061】
さらに、本実施の形態のリアクッションユニットRCUは、ロッド2の反アウターシェル側端の外周に装着される環状のバンプクッション21と、アウターシェル4に取り付けられてバンプクッション21に軸方向で対向するバンプストッパ22とを備え、緩衝器本体Dが収縮してバンプクッション21とバンプストッパ22とが当接するまでは、ハウジング32が可動ばね受31の反懸架ばね側への移動を規制しない。このように構成された本実施の形態のリアクッションユニットRCUによれば、懸架装置Sのばね定数を低下させた場合に緩衝器本体Dが収縮してバンプクッション21とバンプストッパ22とが当接する事態となっても、可動ばね受31のハウジング32に対する圧力室Pを収縮する方向へのストローク長が充分に確保されており、バンプクッション21とバンプストッパ22とが当接するまでは可動ばね受31とハウジング32とが衝突しないので、ばね定数が突然高くなって鞍乗型車両(車両)Mの搭乗者にごつごつした乗心地を感じさせて不快感を与えることもない。
【0062】
なお、可動ばね受31およびハウジング32の形状および構造は、一例であって適宜設計変更できる。たとえば、懸架装置Sを緩衝器本体Dに適用する場合、ハウジング32をアウターシェル4の外周に取り付けて可動ばね受31をハウジング32以外にもアウターシェル4の外周に摺接させてもよい。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
2・・・ロッド、4・・・アウターシェル、21・・・バンプクッション、22・・・バンプストッパ、25・・・固定ばね受、30・・・懸架ばね、31・・・可動ばね受、32・・・ハウジング、33・・・ストッパ、34・・・弾性加圧手段、37・・・容器、38・・・移動隔壁、D・・・緩衝器本体、F・・・車体、M・・・鞍乗型車両(車両)、P・・・圧力室、RCU・・・リアクッションユニット、S・・・懸架装置、W・・・後輪