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特開2024-126154連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法
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  • 特開-連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126154
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240912BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034363
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】門脇 駿
(72)【発明者】
【氏名】中野 将
(72)【発明者】
【氏名】松島 光宏
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013CB03
4K013CB07
4K013CB09
(57)【要約】
【課題】結晶化による緩冷却効果を十分に得ることができるとともに、流動性を確保して熱流束の変動を十分に抑制することができ、安定して連続鋳造を行うことが可能な連続鋳造用モールドパウダーを提供する。
【解決手段】溶融スラグ状態からの冷却過程において1種類の主結晶が晶析出し、前記主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下、前記主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下とされており、前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成の割合が、10mol%以上50mol%未満とされ、前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融スラグ状態からの冷却過程において1種類の主結晶が晶析出し、
前記主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下、前記主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下とされており、
前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成の割合が、10mol%以上50mol%未満とされ、
前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiO2の割合が30mol%以上であることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項2】
前記主結晶がワラストナイトであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項3】
凝固点が1300℃以上1380℃未満であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項4】
1400℃における粘度が5poise以上15poise以下であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼を連続鋳造する際に鋳型内へ供給される連続鋳造用モールドパウダー、および、この連続鋳造用モールドパウダーを用いた鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造を行う際には、鋳型内の溶鋼湯面上に粉末状あるいは顆粒状の連続鋳造用モールドパウダー(以下、「モールドパウダー」と記載する場合がある)が添加される。
このモールドパウダーは、鋳型内の溶鋼表面において溶鋼の熱を受けて溶融し、厚みが5~10mm程度の溶融スラグ層を溶鋼表面上に形成する。
また、溶融スラグは、鋳型壁と鋳片との間隙に流入し、フィルム層を形成して潤滑剤の役割を果たす。同時に、フィルム層は鋳型で冷やされて凝固する際に内部に結晶を晶析出(結晶化)し、鋳片を緩やかに冷却する緩冷却作用を生じる。このように、フィルム層の結晶化は、潤滑や鋳片冷却速度の調整に重要な役割を果たす。
【0003】
フィルム層の結晶化が緩冷却作用を生じる機構は3点ある。1点目は結晶化に伴い不透明化し輻射伝熱に対する遮へい効果が生じること、2点目は結晶化に伴い高温域での熱伝導率が低下すること、3点目はフィルム層の結晶化に伴って生じる鋳型-フィルム界面の微細な空隙が断熱層となって界面熱抵抗を増すことである。この空隙の断熱効果は大きいので、支配的な緩冷却作用を及ぼす一方、空隙が過大になると熱流束も大きく変動し、鋳片の不均一凝固をきたすという問題がある。
【0004】
また、鋳型-鋳片の間隙は、鋼の成分に起因する凝固収縮の大きさや、鋳造速度、あるいは鋳型内溶鋼流動の変動に伴う温度条件の変化といった鋳造条件の影響を受けて変動する。そのような環境下で、鋳型-フィルム界面の空隙が過大になることを防止し、鋳型内熱流束を安定させるには、結晶化したフィルム層が変形能を有し、鋳型-鋳片間隙への充填性が高いことが求められる。
このように、フィルムの結晶化には、鋳型内緩冷却作用を得るメリットの他に、鋳型内熱流束変動を増すというデメリットがある。
【0005】
従来、結晶化したフィルム層を柔軟に保つことによって鋳型-鋳片の間隙へのフィルム層の充填性を増して鋳型内熱流束を安定させる技術が提案されている。
例えば、特許文献1においては、モールドパウダーの凝固温度を高く保ち高温下での結晶化を担保した上で、低塩基度に組成設計することによって、過度の結晶化を抑制しようとする技術が提案されている。
特許文献2においては、鋳造初期には結晶化するモールドパウダーを添加した後、ガラス質のモールドパウダーに切り替えることによってフィルム層の過度な結晶化を抑制しようとする技術が提案されている。
特許文献3においては、SrOとBを含有することによって過度の結晶化を抑制しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-214263号公報
【特許文献2】特開2009-279619号公報
【特許文献3】特開2017-119286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1-3においては、それぞれ一定の効果を有するものの、これらの発明を適用した場合にも結晶化したフィルムが過度に硬く柔軟性を欠いていることに起因する鋳型温度変動が生じる場合があった。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、結晶化による緩冷却効果を十分に得ることができるとともに、流動性を確保して熱流束の変動を十分に抑制することができ、安定して連続鋳造を行うことが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、この連続鋳造用モールドパウダーを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者は、結晶化フィルムを構成する結晶相の物性値と鋳型内熱流束変動の大きさとの関係を比較調査しつつ、鋳造実験を重ねた結果、本発明を成すに至った。すなわち、結晶の硬さを表すモース硬度が大きい場合には、鋳型内熱流束変動が大きくなり易いという特徴を見出した。加えて、モールドパウダーの組成や粘度などの特性値を適正な範囲で組み合わせることによって、フィルム層の結晶化による緩冷却効果を享受しつつ、鋳型内熱流束変動を抑制することができるモールドパウダーを発明するに至った。
【0010】
本発明の態様1の連続鋳造用モールドパウダーは、溶融スラグ状態からの冷却過程において1種類の主結晶が晶析出し、前記主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下、前記主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下とされており、前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成の割合が、10mol%以上50mol%未満とされ、前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の態様1の連続鋳造用モールドパウダーによれば、溶融スラグからの冷却過程において1種類の主結晶が晶析出するので、フィルム層の結晶化が安定することになる。なお、主結晶とは、X線回折で得られるピーク強度が他の結晶相の2倍以上である結晶相のことを指す。
そして、その主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下とされているので、鋳型内の高温環境下において安定的に晶析出することができるとともに、過剰な結晶成長を抑制することができる。
また、主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下とされているので、結晶化したフィルム層の柔軟性が確保され、鋳型内熱流束変動を小さく抑えることができる。
さらに、前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成の割合が10mol%以上50mol%未満とされ、前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上とされているので、フィルム層中に主結晶が十分に晶析出して固化したフィルム層中に、ガラス質な領域がある程度存在し、フィルム層の柔軟性を確保することができる。
【0012】
本発明の態様2は、本発明の態様1の連続鋳造用モールドパウダーにおいて、前記主結晶がワラストナイトであることを特徴としている。
本発明の態様2の連続鋳造用モールドパウダーによれば、前記主結晶がワラストナイト(wollastonite:CaSiO)とされているので、主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下、前記主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下となり、フィルム層における結晶化が安定するともに、結晶化したフィルム層の柔軟性が確保され、鋳型内熱流束変動を小さく抑えることができる。また、主結晶がCaO、SiOで構成されているので、前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成に占めるCaOの割合およびSiOの割合を比較的容易に調整することができる。
【0013】
本発明の態様3は、本発明の態様1または態様2の連続鋳造用モールドパウダーにおいて、凝固点が1300℃以上1380℃未満であることを特徴としている。
本発明の態様3の連続鋳造用モールドパウダーによれば、凝固点が1300℃以上1380℃未満と従来のモールドパウダーにないほど高く設定されているので、結晶化をさらに促進することができ、最大限の緩冷却化効果を得ることができる。
【0014】
本発明の態様4は、本発明の態様1から態様3のいずれか一つの連続鋳造用モールドパウダーにおいて、1400℃における粘度が5poise以上15poise以下であることを特徴としている。
本発明の態様4の連続鋳造用モールドパウダーによれば、1400℃における粘度が5poise以上15poise以下とされているので、溶鋼中への混濁を抑制することができるとともに、結晶化速度を確保し、フィルム層の結晶化を促進することができる。
なお、通常、モールドパウダーの粘度は1300℃における値を評価に用いるが、本発明のモールドパウダーは凝固温度が高くなる傾向にあり、1300℃では十分に評価できないことから、1400℃で粘度を評価している。
【0015】
本発明の態様5の鋼の連続鋳造方法は、本発明の態様1から態様4のいずれか一つの連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給することを特徴としている。
本発明の態様5の鋼の連続鋳造方法によれば、上述の連続鋳造用モールドパウダーを用いているので、フィルム層における結晶化を促進することで緩冷却効果を十分に得ることができるとともに、フィルム層の柔軟性を確保でき、熱流束の変動を抑制することができる。よって、高品質な鋳片を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結晶化による緩冷却効果を十分に得ることができるとともに、流動性を確保して熱流束の変動を十分に抑制することができ、安定して連続鋳造を行うことが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、この連続鋳造用モールドパウダーを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーは、鋼の連続鋳造を行う際に鋳型内に添加され、鋳型内の溶鋼表面において溶鋼の熱を受けて溶融し、溶鋼表面を溶融スラグ層で覆うとともに、溶融スラグが鋳型壁と鋳片との間隙に流入し、フィルム層を形成して潤滑剤の役割を果たすものである。このフィルム層は鋳型で冷やされて凝固する際に内部に結晶を晶析出(結晶化)し、鋳片を緩やかに冷却する緩冷却作用を生じる。
【0020】
本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において、1種類の主結晶が晶析出するものとされている。なお、本実施形態において「主結晶」とは、X線回折で得られるピーク強度がその他の結晶相の2倍以上となる結晶相のことである。
すなわち、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において、複数の結晶相が競合的に晶析出することがなく、主結晶が優先的に晶析出することになる。これにより、フィルム層の結晶化が安定し易くなる。
【0021】
また、本実施形態では、上述の主結晶は、その融点が1400℃以上1550℃以下の範囲内とされている。
主結晶の融点が1400℃以上である場合には、鋼を連続鋳造する際の鋳型内の高温環境下においても安定して晶析出することになる。一方、主結晶の融点が1550℃以下である場合には、融点が鋳型内の溶鋼温度よりも過度に高くはならず、過剰な結晶成長を抑制でき、鋳造を安定して実施することができる。
【0022】
さらに、本実施形態では、上述の主結晶は、常温におけるモース硬度が5.0以下である。
主結晶は、常温におけるモース硬度が5.0以下である場合には、結晶化したフィルム層が軟らかく十分に柔軟性を有しており、流動性が確保される。これにより、鋳型内熱流束の変動を小さく抑えることができる。
主結晶の常温におけるモース硬度の下限に特に制限はないが実質的に4.0以上となる。
【0023】
ここで、モース硬度は、通常、常温で計測されることから、本実施形態においても、常温での計測値を指標に用いている。高温下では硬度は低下するものの、一般に高温下においても結晶毎の硬さの傾向は常温での計測値を反映したものとなる。なお、モース硬度の計測値は計測者や結晶個体が有するバラツキによってある範囲を有するが、本実施形態においては、計測値範囲の中間値(例えば、5.0~6.0の場合には5.5)を用いることとする。
【0024】
そして、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、主結晶が完全に晶析出した残組成の割合が10mol%以上50mol%未満の範囲内とされ、残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上とされている。
すなわち、主結晶が組成上の限界まで晶析出した際に、結晶を構成せずに排出される残組成の割合が10mol%以上あり、かつその残組成に占めるSiOの割合が30mol%以上、かつ、CaOの割合が10mol%未満とされているので、上述の主結晶が完全に晶析出したフィルム層においても、SiO濃度が高くガラス質な領域が一定量存在しており、フィルム層の柔軟性が確保される。
なお、結晶を構成せずに排出される残組成の割合が50mol%を超えると、主結晶の晶析出を不安定化するので好ましくない。
【0025】
結晶を構成せずに排出される残組成の割合の上限は40mol%であることが好ましく、35mol%であることがより好ましい。
また、結晶を構成せずに排出される残組成に占めるSiOの割合は35mol%以上であることが好ましく、40mol%以上であることがより好ましい。
さらに、結晶を構成せずに排出される残組成に占めるCaOの割合は5mol%未満であることが好ましく、0mol%であることがより好ましい。
【0026】
ここで、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、上述の主結晶がワラストナイト(wollastonite:CaSiO)で構成されていることが好ましい。
ワラストナイトは、その融点が1540℃程度であり、常温でのモース硬度が4.5~5.0であることから、溶融スラグ状態からの冷却過程において主結晶として晶析出することで、結晶化したフィルム層の柔軟性を十分に確保することが可能となる。
【0027】
ワラストナイトは、CaOとSiOで構成されており、主結晶が組成上の限界まで晶析出した際に、結晶を構成せずに排出される残組成の割合が10mol%以上50mol%未満、前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上とするためには、mol比でCaOよりも多くのSiOを含有する必要がある。加えて、カスピダイン(cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)やCaFの晶析出を抑制して、主結晶をワラストナイトとするためには、F濃度を低減する必要がある。
【0028】
また、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、1400℃における粘度が5poise以上15poise以下であることが好ましい。
1400℃における粘度を5poise以上とすることにより、溶鋼中への混濁を抑制でき、高品質な鋼鋳片を製造することが可能となる。一方、1400℃における粘度を15poise以下とすることにより、結晶化速度を確保でき、フィルム層の結晶化を促進することができる。
なお、上述のワラストナイトが主結晶として晶析出するようにF濃度を低減した連続鋳造用モールドパウダーにおいては、従来のカスピダイン(cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)やアケルマナイト(akermanite:CaMgSi)を主結晶とする連続鋳造用モールドパウダーよりも粘性が高くなる傾向にあり、1400℃における粘度を5poise以上とすることが可能となる。
【0029】
さらに、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、凝固点が1300℃以上1380℃未満であることが好ましい。
凝固点が1300℃以上1380℃未満と従来のモールドパウダーにないほど高く設定することにより、フィルム層の結晶化が最大限に促進されることになる。
なお、上述のワラストナイトが主結晶として晶析出するように組成調整した連続鋳造用モールドパウダーにおいては、従来のカスピダイン(cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)やアケルマナイト(akermanite:CaMgSi)を主結晶とする連続鋳造用モールドパウダーよりも凝固点を高めても結晶相の柔軟性により鋳型内熱流束の変動が抑制できる傾向にあり、かつ、潤滑性の悪化も軽微である。ゆえに、ワラストナイトを主結晶とする場合には、凝固点を1300℃以上に高めることが可能になる。一方で、凝固点が1380℃を超えることは潤滑性維持の観点から好ましくない。
【0030】
ここで、モールドパウダーの粘度および凝固温度は、回転円筒法,球体引き上げ法,振動片法などの方法で溶融したモールドパウダーの粘度を計測しながらその温度を徐々に下げて行き、結晶の晶出によって粘度測定値が急激に上昇する温度(ブレークポイント)を凝固温度と規定する。上記計測におけるモールドパウダー試料の冷却速度は、通常1~5℃/分の低速とし、結晶晶析出温度を平衡状態に近づける。
また、本発明に規定する主結晶とは、一旦溶融したモールドパウダーを上記粘度測定と同じ冷却速度範囲内で常温まで冷却した際のX線回折で得られるピーク強度が他の結晶相の2倍以上である結晶相のことを指す。
【0031】
本実施形態である鋼の連続鋳造方法においては、上述した本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給する。
このとき、鋳型内の溶鋼の上に形成されるモールドパウダーの溶融層厚さが3mm以上25mm未満の範囲内となるように、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーを添加することが好ましく、5mm以上20mm未満とすることがより好ましい。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーおよび鋼の連続鋳造方法によれば、溶融スラグからの冷却過程において1種類の主結晶が晶析出するので、フィルム層の結晶化が安定することになる。
そして、その主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下とされているので、鋳型内の高温環境下において安定的に晶析出することができるとともに、過剰な結晶成長を抑制することができる。
【0033】
また、主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下とされているので、結晶化したフィルム層の柔軟性が確保され、鋳型内熱流束変動を小さく抑えることができる。
さらに、主結晶が完全に晶析出した後の残組成の割合が10mol%以上50mol%未満とされ、前記残組成に占めるCaOの割合が10mol%未満、かつ、SiOの割合が30mol%以上とされているので、フィルム層中に主結晶が十分に晶析出して固化したフィルム層中に、ガラス質な領域がある程度存在し、フィルム層の柔軟性を確保することができる。
【0034】
本実施形態において、上述の主結晶がワラストナイトである場合には、主結晶の融点が1400℃以上1550℃以下、前記主結晶の常温におけるモース硬度が5.0以下となり、フィルム層における結晶化が安定するともに、結晶化したフィルム層の柔軟性が確保され、鋳型内熱流束変動を小さく抑えることができる。また、主結晶がCaO、SiOで構成されているので、前記主結晶が完全に晶析出した後の残組成に占めるCaOの割合およびSiOの割合を比較的容易に調整することができる。
【0035】
また、本実施形態において、凝固点が1300℃以上1380℃未満である場合には、連続鋳造用モールドパウダーの結晶化を最大限に促進することができ、十分な緩冷却化を図ることができる。
さらに、本実施形態において、1400℃における粘度が5poise以上15poise以下である場合には、溶鋼中への混濁を抑制することができるとともに、結晶化速度を確保し、フィルム層の結晶化を促進することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態である連続鋳造用モールドパウダーおよび鋼の連続鋳造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0037】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0038】
まず、表1に示す連続鋳造用モールドパウダー(本発明例A,B,Cおよび比較例D,E,F,G)を準備した。
ここで、表1における組成の表記について説明しておく。Fが含まれる場合、Fは優先的にNaと結びつきNaFを形成する。余ったFはCaと結びつきCaFを形成する。CaFとならなかったCaがOと結びつきCaOとなる。あるいは、Fが全てのNaと結びつくには不足していた場合、NaOが形成される。このような配位のルールに従って決定した化学組成を表1に示している。また、表1に示した化学組成は、溶融速度調整剤として添加されるカーボンを除いた溶融後の組成である。炭酸塩は溶融時に分解し酸化物になると仮定している。
【0039】
また、表1における「主結晶完全晶析出後残組成割合」は、主結晶が計算上最大限構成成分を消費した場合の残組成の割合とした。以下に、具体例を挙げて説明する。
【0040】
例えば、本発明例Aにおいては、CaOとSiOの組成割合(mol比)が1:1であるワラストナイト(wollastonite)が主結晶とされていることから、CaOの全てがワラストナイト(wollastonite)に消費されるとすると、SiOは、CaOと同量の37.50mol%が消費され、15.22mol%が残る(1/100の位の不一致は丸め誤差による)。他の成分はワラストナイト(wollastonite)には含まれないので、SiOの残り15.22mol%と他成分を全て合計した25.00mol%が主結晶完全晶析出後残組成割合となる。その残組成割合25.00mol%の内、SiOが15.22mol%を占めることから、残組成に占めるSiOの割合は60.90mol%となる。
本発明例B,Cにおいても、CaOとSiOの組成割合(mol比)が1:1であるワラストナイト(wollastonite)が主結晶であることから、上述の手順によって、上記の手順によって各組成および組成比を求めることができる。
【0041】
比較例Dにおいては、CaOとSiOとMgOの組成割合(mol比)が2:2:1であるアケルマナイト(akermanite)が主結晶であることから、CaOの全てがアケルマナイト(akermanite)に消費されるとすると、SiOは9.80mol%が残り、MgOは0.85mol%が残る。それらとアケルマナイト(akermanite)に含まれない他成分の合計15.42mol%が主結晶完全晶析出後残組成割合となる。その残組成割合15.42mol%の内、SiOが9.80mol%を占めることから、残組成に占めるSiOの割合は63.54mol%となる。
【0042】
比較例EにおいてもCaOとSiOとMgOの組成割合(mol比)が2:2:1であるアケルマナイト(akermanite)が主結晶であることから、上記の手順によって各組成および組成比を求めることができる。
【0043】
比較例Fにおいては、CaOとSiOとCaFの組成割合(mol比)が3:2:1であるカスピダイン(cuspidine)が主結晶であることから、CaFの全てがカスピダイン(cuspidine)に消費されるとすると、CaOは7.50mol%が残り、SiOは14.31mol%が残る。それらとカスピダイン(cuspidine)に含まれない他成分の合計39.08mol%が主結晶完全晶析出後残組成割合となる。その残組成割合39.08mol%の内、SiOが14.31mol%を占めることから、残組成に占めるSiOの割合は36.61mol%となる。また、残組成割合39.08mol%の内、CaOが7.50mol%を占めることから、残組成に占めるCaOの割合は19.19mol%となる。
【0044】
比較例Gにおいては、CaOとSiOとTiOの組成割合(mol比)が1:1:1であるタイタナイト(titanite)が主結晶であることから、TiOの全てがタイタナイト(titanite)に消費されるとすると、CaOは5.85mol%が残り、SiOは20.79mol%が残る。それらとタイタナイト(titanite)に含まれない他成分の合計41.66mol%が主結晶完全晶析出後残組成割合となる。その残組成割合41.66mol%の内、SiOが20.79mol%を占めることから、残組成に占めるSiOの割合は49.89mol%となる。また、残組成割合49.89mol%の内、CaOが5.85mol%を占めることから、残組成に占めるCaOの割合は14.04mol%となる。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、表1に示す連続鋳造用モールドパウダーを用いて、表2に組成を示す溶鋼を連続鋳造した。
【0047】
【表2】
【0048】
ここで、表2に示す溶鋼組成は、いわゆる亜包晶鋼という範疇の鋼種である。亜包晶鋼とは、カーボンを除く合金元素の影響が軽微な濃度である普通鋼において、カーボン濃度が概ね0.08mass%~0.17mass%までの鋼を指す。このカーボン組成領域では凝固直後にδ→γ変態による体積収縮が生じるので、凝固シェルが大きく収縮変形して鋳型から乖離し不均一凝固を引き起こす。特にカーボン濃度が0.10mass%~0.12mass%においてはその傾向が顕著である。本発明のモールドパウダーは凝固温度を最大限高めて鋳型内緩冷却効果を得ようとするものであるから、上記のような亜包晶鋼の鋳造に用いることにより、急激な凝固収縮を防止し凝固を均一化する効果を発揮することができる。
【0049】
連続鋳造は、鋳型断面サイズが直径310mmの丸ブルーム連続鋳造機を用いて、鋳造速度1.5m/minで、鋳型内溶鋼を水平方向に電磁撹拌し旋回させて実施した。なお、鋳造条件を表3に示す。
そして、鋳造時の評価指標として、鋳型内熱流束変動、凝固シェル厚不均一度、モールドパウダー欠陥個数を用いて、それぞれを、本発明例Aを100として指数化し比較評価した。評価結果を図1に示す。
【0050】
「鋳型内熱流束変動」とは、鋳型長さ900mmの下端から400mmの周方向3点、鋳型表面から5mmの深さに埋設された熱電対を用いて、測定した鋳造中の温度変動の標準偏差である。
鋳造中の溶鋼湯面は鋳型上端から概ね100mmの高さにコントロールされたので、この温度測定位置は凝固開始から400mm下方となる。鋳型内熱流束変動は、溶鋼湯面近傍よりも数100mm以上の下方で顕在化することから、同測定位置を決定している。これは、フィルム層の結晶化が鋳型下方ほど進行するからである。
【0051】
「凝固シェル厚不均一度」は、得られた鋳片の横断面のサルファープリントを採取し、電磁撹拌によって生じる負偏析帯の鋳片表面からの距離すなわち電磁撹拌部位における凝固シェル厚を周方向に48点計測して得られる標準偏差である。
電磁撹拌コイルの高さ中心は鋳型上端から500mmであるので、凝固シェル厚不均一度は、溶鋼湯面から概ね500mm下方までの積算された凝固安定度の指標となる。
【0052】
「モールドパウダー欠陥個数」とは、得られた鋳片の横断面の表面より20mmから50mmまでの深さのドーナツ状の領域の全面を光学顕微鏡で観察し、観察された5μm以上の非金属介在物からモールドパウダーの組成に該当する介在物をカウントした総数である。
上記の表面より20mmから50mmの範囲は、溶鋼湯面の変動により鋳片表面近傍に変則的に巻き込まれるモールドパウダーおよび湯面から沈降する等軸晶核に付着して変則的に巻き込まれるモールドパウダーを排し、モールドパウダーの粘度が溶鋼中へのモールドパウダー混濁に及ぼす影響を評価しやすくする観点から選択した。
【0053】
【表3】
【0054】
本発明例Aおよび本発明例Bは、これら指数において最も良い結果を示した。
本発明例Cは、凝固温度がやや低く、凝固均一度において実施例Aあるいは本発明例Bに比べてやや劣るものの他の指数は遜色ない結果であった。
【0055】
比較例Dにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において晶析出する主結晶が、モース硬度が5.5のアケルマナイト(akermanite)であって、鋳型内熱流束変動指数が大きくなった。なお、凝固温度は適正であるものの、鋳型内熱流束変動指数が大きい影響で、凝固シェル不均一度指数がやや高い値となった。
【0056】
比較例Eにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において晶析出する主結晶が、モース硬度が5.5のアケルマナイト(akermanite)であることに加え、主結晶完全晶析出後残組成に占めるSiOの割合が低いので、鋳型内熱流束変動指数が大きくなった。また、凝固温度は適正であるものの、鋳型内熱流束変動指数が大きい影響を受けて、凝固シェル不均一度指数も比較的高い値となった。また、比較例Eは粘度が低いので、溶鋼中へのモールドパウダーの混濁が生じやすく、モールドパウダー欠陥個数指数が大きな値となった。
【0057】
比較例Fにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において晶析出する主結晶が、モース硬度が5.5のカスピダイン(cuspidine)であることに加え、主結晶完全晶析出後残組成に占めるCaOの割合が高いので、鋳型内熱流束変動指数が大きくなった。さらに凝固温度が低いことも相まって、凝固シェル不均一度指数もまた高い値となった。また、比較例Fは粘度が低いので、溶鋼中へのモールドパウダーの混濁が生じやすく、モールドパウダー欠陥個数指数が大きな値となった。
【0058】
比較例Gにおいては、溶融スラグ状態からの冷却過程において晶析出する主結晶が、モース硬度が5.25のタイタナイト(titanite)であり、かつ主結晶完全晶析出後残組成に占めるCaOの割合が高いので、鋳型内熱流束変動指数が大きくなった。
また、鋳型内熱流束変動が大きい影響を受け、凝固シェル不均一度指数がやや高い値となった。
比較例Gにおいては、タイタナイトの融点が1380℃と低いこともまた、結晶化の不安定さを招き、鋳型内緩冷却作用の不安定さを通じて、凝固シェル不均一度指数を高めた要因である。
【0059】
以上のことから、本発明例によれば、結晶化による緩冷却効果を十分に得ることができるとともに、流動性を確保して熱流束の変動を十分に抑制することができ、安定して連続鋳造を行うことが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、この連続鋳造用モールドパウダーを用いた鋼の連続鋳造方法を提供可能であることが確認された。
図1