(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126162
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】多孔質ゼラチンファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/32 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
A61L15/32 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034377
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081BA12
4C081CD151
4C081DA04
4C081DB03
4C081EA12
(57)【要約】
【課題】連通性及び優れた空隙率を有し、吸水性に優れ、集積することで細胞遊走性に優れる多孔質ゼラチンファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゼラチンゲルファイバーを作製するゲルファイバー作製工程と、ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製する凍結乾燥工程と、を有する。ゼラチン溶液を吐出する過程で冷却し、ノズル中で段階的にゲル化させ吐出することで径が均一なファイバーを連続して紡糸可能とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ゼラチンファイバーの製造方法であって、
ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゼラチンゲルファイバーを作製するゲルファイバー作製工程と、
前記ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製する凍結乾燥工程と、
を有することを特徴とする多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記微細管ノズルをn(nは2~100)段階的に冷却することを特徴とする請求項1に記載の多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記微細管ノズルを2段階的に冷却し、前記微細管ノズルの先端に近い経路を冷却部B、前記微細管ノズルの基端に近い経路を冷却部Aとした場合、冷却部Aの温度が18℃~22℃であり、冷却部Bの温度が2℃~16℃であることを特徴とする請求項2に記載の多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【請求項4】
ゼラチン溶液が微細管ノズルを通過する際の吐出速度が100~500 μL/minであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記凍結乾燥工程では、多孔質ゼラチンファイバーを0~-196℃にて凍結乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記多孔質ゼラチンファイバーは医療材料としての創傷被覆材に利用されることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ゼラチンファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ゼラチンファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や疾病、老化等により生体組織の機能が損なわれた場合、その機能を再生させることを目的とした再生医療に注目が集まっている。一般的に生体組織は細胞と細胞自身が産生する細胞外基質から構成されており、細胞の接着・増殖や分化と言った組織形成の足場として細胞外基質が重要な役割を果たしている。再生医療では、細胞とその活動の基盤となるスキャホールドを用いることで生体組織の再生を促す。細胞とスキャホールドを用いて生体組織を再生する再生医療工学では、スキャホールドは単に構造支持体としての役割に加え、生体組織の再生を促進する役割が求められている。
【0003】
これまで、優れた生体吸収性や高い成型性からポリ乳酸等の合成高分子材料が足場材料として用いられてきた。しかし、合成高分子材料には、細胞親和性の低さや生体内で分解されたときの生成物の毒性があるといった問題点がある。そこで近年では、合成高分子材料と比較して生体適合性が高い天然高分子材料が用いられている。天然高分子材料であるゼラチンは、皮膚や腱、骨等生体組織の細胞外基質の主成分であるコラーゲンを加水分解することで得ることができる。ゼラチンは、安価で入手が容易であり、高い生体適合性やコラーゲンと比較して抗原性が低いといった利点があることから近年、スキャホールドとして用いられている(特許文献1~4)。
【0004】
三次元スキャホールドは、細胞外マトリックス(ECM)を模倣することが可能であり、生体組織の再生を促進する。また、優れた空隙率及び制御された孔径を有する三次元スキャホールドは、細胞種に適した細胞接着性とすることが可能であり、細胞の分化や増殖を促進する。三次元スキャホールドには細胞浸潤性が求められるため、連通性を有する必要がある。
【0005】
ゼラチンスポンジは、三次元構造かつ多孔質構造であるため、細胞接着のためのスペースが多く、細胞の増殖や分化を促進する。さらに、架橋を施したゼラチンスポンジは生体内での形状維持が可能である。
【0006】
ゼラチンは、水溶性が極めて高く、これをそのまま生体内に移植しても急速にその形状を失ってしまう。従って、生体に移植して足場材としての役割を果たすためには、何らかの架橋を施して耐水性を高める必要があり、例えば凍結乾燥による物理架橋がある。
【0007】
しかし、凍結乾燥法により作製されるスポンジは、内部の水分が凍結後、昇華・蒸発により取り除かれることで細孔が形成される。そのため細孔間の連続性が乏しく、スポンジ内部への細胞遊走が困難である点が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-159315号公報
【特許文献2】特開2020-204120号公報
【特許文献3】特開2019-123955号公報
【特許文献4】特表2019-524949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、連通性及び優れた空隙率を有し、吸水性に優れ、集積することで細胞遊走性に優れる多孔質ゼラチンファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーの製造方法は、多孔質ゼラチンファイバーの製造方法であって、ゼラチン溶液を冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゼラチンゲルファイバーを作製するゲルファイバー作製工程と、ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連通性及び優れた空隙率を有し、多孔質であるため吸水性に優れ、集積することで細胞遊走性に優れる多孔質ゼラチンファイバーの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゲルファイバーを作製する紡糸装置の外観を示す写真図である。
【
図2】各吐出速度及び冷却部温度の条件で作製したゲルファイバーの実体顕微鏡による観察画像を示す写真図である。
【
図3】吐出速度250 μL/min,冷却部Bの温度8°Cの紡糸条件で作製したゲルファイバーにおいて各乾燥条件で作製したファイバーの表面及び断面SEM画像を示す写真図であり、そのうち(a)はゼラチンファイバーの乾燥方法が室内乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が真空乾燥であり、(c)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(d)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。
【
図4-1】多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドの写真図であり、そのうち(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。
【
図4-2】ゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥の場合において、本発明の多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドの実体顕微鏡による観察画像図であり、そのうち(a)は表面図であり、(b)は断面図である。
【
図4-3】ゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥の場合において、本発明の多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドのSEM画像図であり、そのうち(a)は表面図であり、(b)は断面図である。
【
図4-4】凍結乾燥時の各凍結温度条件において作製したスキャホールドの膨潤後の観察図であり、そのうち(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。
【
図4-5】凍結乾燥時における各凍結温度条件で作製したファイバーの写真図であり、そのうち(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。
【
図5】各凍結温度条件におけるスキャホールドの膨潤率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーの製造方法は、以下の工程を有する。即ち、ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゼラチンゲルファイバーを作製するゲルファイバー作製工程と、ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製する凍結乾燥工程と、を有する。
【0015】
(a)ゲルファイバー作製工程
ゲルファイバー作製工程では、ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゲルファイバーを作製する。
【0016】
本発明では、ゼラチン溶液を吐出する過程で冷却し、ノズル中で段階的にゲル化させ吐出する手法を確立することで径が均一なファイバーを連続して紡糸可能とする。
【0017】
ゼラチンは、25~30℃付近でゲル化する性質があり、ゼラチンをシリンジ内で完全にゲル化させた後吐出した場合、ファイバー形態が不安定であり連続して紡糸することが困難である。
【0018】
ゼラチン溶液を作製するために使用されるゼラチンは、天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、化学合成、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。これらの材料を適当に混合して用いることもできる。天然のゼラチンは、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サケ、タイ、サメ等の魚類等、種々の動物由来のコラーゲンから、アルカリ加水分解、酸加水分解、及び酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。ゼラチンは、等電点5.0付近のものが好ましい。
【0019】
ゼラチン溶液はゼラチンを水性媒体に溶解させることで作製する。水性媒体としては、ゼラチンを溶解可能であり、生体組織に対して使用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液等、当分野で通常使用可能なものを挙げることができる。
【0020】
ゼラチン溶液におけるゼラチンの含有率については、ゼラチンが溶解可能な含有率であればよく、特に制限はない。例えば、ゼラチン溶液中の前記ゼラチンの含有率は、例えば、0.5質量%~20質量%とすることが好ましく、2質量%~16質量%であることがより好ましく、4質量%~12質量%であることが更に好ましい。前記0.5質量%以上とすることにより、強度がより高まる傾向があり、20質量%以下とすることにより、均一性の高い網目構造をより形成しやすくなる傾向がある。ゼラチン溶液におけるゼラチンの含有率をw/v%で規定した場合は、例えば0.1 w/v%~10.0 w/v%であり、好ましくは1 w/v%~5.0 w/v%であり、より好ましくは1.5w/v%~4.0 w/v%である。
【0021】
ゼラチン溶液にはゼラチンを架橋するための架橋剤を含有させることも可能である。架橋剤としては、生体に対して毒性のないものであれば特に限定されず、カルボキシル-アミン架橋剤、アミン反応性架橋剤(イミドエステル架橋剤)、マレイミド活性架橋剤、カルボニル反応性架橋剤、光反応性架橋剤等を適宜使用することができ、例えば、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、ゼラチン溶液が微細管ノズルを通過させる際にn段階的に冷却されることで径が均一で且つファイバー長が長いゼラチンファイバーを作製することが可能となる。
【0023】
微細管ノズルを通過させる際のn段階的の冷却におけるnは、特に限定されるものではないが例えば2以上の任意の数であり、具体的にはnは2~100とすることが可能であり、nを大きな数とすることでゼラチン溶液が微細管ノズルを通過させる際に段階的ではなくあたかも連続的な冷却にすることが可能である。
【0024】
微細管ノズルをn段階的に冷却した場合、微細管ノズルはn個の経路に分割される。n個の各々の経路は等しい長さとすることも、また等しくない長さとすることも可能である。微細管ノズルを例えば2段階的に冷却した場合、微細管ノズルは2個の経路に分割される。ノズル先端に近い経路を冷却部Bと、ノズル基端に近い経路を冷却部Aとすれば、冷却部Aの温度は例えば18℃~22℃とすることができ、冷却部Bの温度は例えば2℃~16℃とすることが可能である。
【0025】
ゼラチン溶液が微細管ノズルを通過する際の吐出速度は特に限定されるものではないが、例えば100~500 μL/minである。
【0026】
ゼラチン溶液が微細管ノズルを通過することで作製されるゼラチンファイバーの長さは例えば10mm以上、また例えば10mm~5000mmである。
【0027】
(b)凍結乾燥工程
凍結乾燥工程では、ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製する。
【0028】
ゼラチンゲルファイバーの凍結乾燥は、ゼラチンゲルファイバーを0~-196℃の温度から選択される所望の温度で凍結させる。凍結時間は、温度やゼラチンゲルファイバーの長さや直径により適宜設定可能である。ゼラチンゲルファイバーの凍結温度を変動させることにより、多孔質ゼラチンファイバーの空孔の大きさ(直径)を調節することができる。
【0029】
なお凍結乾燥は、凍結処理の後に減圧乾燥処理をすることも可能である。即ち、ゼラチンファイバーを凍結後、緩やかに温度を上昇させながら減圧乾燥処理を行うことも可能である。
【0030】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーは、医療材料としての創傷被覆材に好適に利用される。
【0031】
本発明にかかるゼラチンファイバーを集積することで、多孔質ゼラチンファイバーと多孔質ゼラチンファイバーとの間の空隙が細胞遊走や物質透過に良好に寄与する三次元スキャホールドの作製が可能となる。
【0032】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーを集積して作製した三次元スキャホールドにより被覆可能な創傷組織としては、軟組織又は硬組織の何れも可能であるが、歯、骨等の硬組織であることが好ましい。特に、骨再生用として、骨組織の修復材、又は治療剤等として用いることができる。
【0033】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーを集積して作製した三次元スキャホールドを創傷被覆材として利用する場合、組織移植細胞や骨誘導薬剤と併用することも可能である。骨誘導薬剤としては、例えばBMP(骨形成因子)やbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が挙げられるが、特に限定はされない。
【0034】
本発明にかかる多孔質ゼラチンファイバーを集積して作製した三次元スキャホールドを創傷被覆材として利用する場合、必要に応じて治療方法又は修復方法に利用可能である。治療方法又は修復方法は、顎顔面領域における 歯周組織欠損(periodontal defect)、インプラント欠損(implant defect)等;インプラント埋入時の予備的処置としてのGBR法、歯肉増大術(Ridge Augmentation)法、サイナスリフト法、またはソケットリザベーション法等に好ましく適用することができる。
【実施例0035】
(1)多孔質ゼラチンファイバーの作製
(1-a)ゼラチンゲルファイバー作製工程
ゼラチン溶液を段階的に冷却しながら微細管ノズルを通過させることでゼラチンファイバーを作製した。作製した紡糸装置を
図1に示す。本装置は、10 mLシリンジ(SS-10SZ, テルモ)先に取付けたステンレス製のノズル(外径1.0 mm,内径0.7mm)の先端5mmの位置からA及びB点を段階的に冷却することにより吐出過程のゼラチン溶液をゲル化させる機構とした。ノズル先端に近い経路を冷却部Bとし、ノズル基端に近い経路を冷却部Aとした。冷却部A,Bは,ペルチェ素子(TEC1-07102,23×23×3.5 mm)により冷却されたアルミ板2枚でノズルを挟むことで、それぞれノズル周縁部の冷却を可能とした。ペルチェ素子は、p型熱電素子とn型熱電素子が対となり複数対、電気的に直列に接続されており、直流電流を流すことにより片面が吸熱し、反対面が放熱する仕組みであった。
【0036】
豚皮ゼラチン粉末(Aタイプ,新田ゼラチン株式会社)を蒸留水に加え、50℃で30分間温浴加熱することで、溶液濃度4 w/v%のゼラチン溶液を調製した。調製したゼラチン溶液を10 mLシリンジに注入しシリンジポンプ(YSP-14010,株式会社ワイエムシイ)により吐出を行った。冷却部Aの距離は80 mmとし、温度は20℃とした。冷却部Bの距離は50 mmとし、温度を4,8,12及び16℃とし、冷却部Bの温度がファイバー形状及びファイバー作製可能時間に与える影響の評価を行った。また、吐出速度がファイバー形状及びファイバー作製可能時間に与える影響を評価するため,吐出速度150,250及び350 μL/minとした。実体顕微鏡(SMZ-10, Nikon)を用いて、作製した各ファイバーの観察を行った後、画像解析ソフトImage Jを用いた画像解析により平均ファイバー径を測定した。吐出されたファイバーは、2分間以上紡糸が可能であった場合、連続しての紡糸が可能とした。
【0037】
(1-b)凍結乾燥工程
凍結乾燥工程では、ゼラチンゲルファイバーを凍結乾燥させることで多孔質ゼラチンファイバーを作製した。
【0038】
乾燥方法がファイバー形状に与える影響を評価するために、各条件で作製したゼラチンゲルファイバーを室内乾燥、真空乾燥及び凍結乾燥を行った。室内乾燥は作製したファイバーを大気圧下かつ常温で行った。真空乾燥は作製したファイバーを、デシゲーターを用いて真空下かつ常温で行った。凍結乾燥は、作製したファイバーを静置凍結後、凍結乾燥機(FUD-1200型,東京理科器械株式会社)を用いて行った。このとき凍結温度が凍結乾燥後のファイバー形態に与える影響を評価するために、凍結温度を-25及び-196℃とした。各乾燥条件における乾燥時間は24時間とした。乾燥後、オスミウム・プラズマコーター(OPC40A,Filgen)を用いて膜厚10 nmのオスミウムコーティングを行った。
【0039】
走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)(JSM-6309LT型,JEOL)を用いてファイバー表面及び断面を撮影した後、画像解析ソフトImageJを用いた画像解析により平均ファイバー径及び細孔径を測定した。
【0040】
各条件で作製したゼラチンゲルファイバーを1分間ディッシュに積層し、各凍結温度条件で凍結乾燥させることで三次元スキャホールドを作製した。実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて作製したスキャホールドの観察を行った。
【0041】
(2)ゼラチンマイクロファイバースキャホールドの吸水性評価
各凍結温度条件で作製したスキャホールドの初期重量を計量し(W0)、室温で蒸留水に3時間浸漬した。1分間デシゲーターにより陰圧をかけ膨潤したスキャホールド表面の余分な水を除去した。その後再計量を行い(W1)、式(1)によりそれぞれ膨潤率(ε)を測定し、吸水率を算出した。
【0042】
【0043】
(3)結果
(3-1)ゼラチンマイクロファイバースキャホールドの測定結果
図2に、各吐出速度及び冷却部温度の条件で作製したゼラチンゲルファイバーの実体顕微鏡による観察画像、表1に各条件におけるファイバーの平均ファイバー径と変動係数を示す。表2にノズル内径に対する平均ファイバー径の比を示す。
【0044】
【0045】
【0046】
吐出速度150 μL/min,冷却部Bの温度16℃の条件で作製したファイバーは、直径が均一であり、連続して紡糸することが可能であった。しかし、吐出速度150 μL/minにおいてその他の温度条件では、ノズル内でゲルがつまり吐出は不可能であった。また、吐出速度250及び350 μL/minの条件では、冷却部Bがいずれの温度の条件でも溶液を吐出することが可能であった。
【0047】
吐出速度250及び350 μL/min,冷却部Bの温度が16°Cの条件で吐出された溶液は、直径がそれぞれ1040±45と1709±72mmとなり、ノズル内径より大きくなった。さらに、長さ30 mm程でファイバー形状の維持が困難となり、連続しての紡糸は不可能であった。
【0048】
吐出速度250及び350 μL/min,冷却部Bの温度が12°Cの条件で作製したファイバーは、どちらも連続して紡糸することが可能であった。しかし、表1より変動係数がその他の冷却条件と比較して大きく、
図2からもファイバー径が均一でないことが確認できた。また、紡糸開始から数分に一度、ファイバーからゾル状態の溶液に変化することがあった。
【0049】
吐出速度250及び350 μL/min,冷却部Bの温度が8°Cの条件で作製したファイバーは、連続して紡糸することが可能であった。ファイバー径は、それぞれ690±41と637±36mmとなり、その他の冷却温度と比較して最もノズル内径に近くなった。
【0050】
吐出速度250及び350 μL/min,冷却部Bの温度が4°Cの条件で作製したファイバーは、直径がそれぞれ463±23と491±32mmとなり、どちらも連続して紡糸することが可能であった。しかし、紡糸開始から約5分後にファイバーの吐出が困難となった。
【0051】
表2によれば、いずれの吐出速度においても冷却部Bの温度が低くなるほどノズル内径に対するファイバー径の比が小さくなる傾向が確認された。また、冷却部Bの温度が4°Cの条件において、吐出速度が遅くなるほどノズル内径に対するファイバー径の比が小さくなる傾向が確認された。吐出速度250 μL/min,冷却部Bの温度8°Cの紡糸条件で作製したゼラチンゲルファイバーは、最もノズル内径に対するファイバー径の比が1に近く、連続してファイバーの紡糸が可能であった。
【0052】
図3に吐出速度250 μL/min,冷却部Bの温度8°Cの紡糸条件で作製したゼラチンゲルファイバーにおいて各乾燥条件で作製したファイバーの表面及び断面SEM画像を示す。(a)はゼラチンファイバーの乾燥方法が室内乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が真空乾燥であり、(c)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(d)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。凍結乾燥後のファイバーのみがファイバー表面及び断面に細孔が生じていた。
【0053】
図4-1に本発明の多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドの写真図を示す。(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。
【0054】
図4-2に、ゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥の場合において、本発明の多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドの実体顕微鏡による観察画像図を示す。(a)は表面図であり、(b)は断面図である。ファイバー同士が結合して一体とならずにファイバー同士が独立してスキャホールドを形成しているのが観察される。
【0055】
図4-3に、ゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥の場合において、本発明の多孔質ゼラチンファイバーを集積させて作製したスキャホールドのSEM画像図を示す。(a)は表面図であり、(b)は断面図である。多孔質を維持しつつ、ファイバー同士が結合して一体とならずにファイバー同士が独立してスキャホールドを形成しているのが観察される。
【0056】
また、表3に各凍結温度条件におけるファイバーの平均ファイバー径と変動係数を示す。凍結温度-25及び-196°Cの平均ファイバー径は凍結乾燥前と比較し、それぞれ0.42と0.52倍に収縮した。
【0057】
【0058】
表4に各凍結温度条件で作製したファイバーの表面及び断面の平均細孔径を示す。
【0059】
【0060】
-196°C凍結乾燥後のファイバーに形成される細孔は-25°C凍結乾燥後のものと比較して0.24倍小さくなった。表4より、凍結温度-25及び-196°Cのファイバー表面の変動係数は、それぞれ29と43%となり、ファイバー断面の変動係数では、24と85 %となった。凍結温度-25°Cのファイバーは、直径35 μm程の細孔が表面及び断面に均一に生じているが、凍結温度-196°Cのファイバーでは、表面及び断面周縁部に直径10 μmの細孔が生じており、断面中心部では30 μmの細孔が生じていた。
【0061】
(3.2)ゼラチンマイクロファイバースキャホールドの吸水性評価
図4-4に凍結乾燥時の各凍結温度条件において作製したスキャホールドの膨潤後の観察図を示す。(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。凍結乾燥させたファイバーは、膨潤後でも蒸留水内でファイバー形状を保つことが可能であった。また、凍結温度-196°Cのスキャホールドは、凍結温度-25°Cのスキャホールドと比較してファイバー中心部が白濁していることがわかる。
【0062】
図4-5に、凍結乾燥時の各凍結温度条件において作製したスキャホールドの写真図を示す。(a)はゼラチンゲルファイバーの乾燥方法が-25°Cの凍結乾燥であり、(b)はゼラチンファイバーの乾燥方法が-196°Cの凍結乾燥である。凍結温度-25°Cのファイバーは凍結温度-196°Cのファイバーと比較して、密度が小さく細孔間の厚みが小さい。
図5に各凍結温度条件におけるスキャホールドの膨潤率のグラフを示す。凍結温度-25及び-196°Cのスキャホールドの膨潤率は、それぞれ4915と3324%となった。凍結温度-25°Cのスキャホールドの膨潤率は、凍結温度-196°Cのスキャホールドと比較して1.48倍高くなった。