(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126163
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】高連通性スポンジの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/22 20060101AFI20240912BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240912BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240912BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240912BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61L27/22
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L27/24
A61L27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034378
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA01
4C081BB09
4C081CA17
4C081CA21
4C081CD02
4C081CD09
4C081CD11
4C081CD12
4C081CD15
4C081CD17
4C081DB03
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】スポンジ内の細孔同士が接続して連通性が高いスポンジの製造方法を提供する。
【解決手段】高連通性スポンジの製造方法であって、生体親和性マトリックスの溶液にファインバブルを混合させることでファインバブルマトリックス溶液を作製する工程と、ファインバブルマトリックス溶液を冷却することでゲル化させてファインバブルマトリックスゲルを作製する工程と、ファインバブルマトリックスゲルを乾燥によりスポンジ構造とする工程と、を有する。ファインバブルマトリックスゲルを0~-196℃にて凍結乾燥させることが好ましい。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体親和性マトリックスからなる高連通性スポンジの製造方法であって、
生体親和性マトリックスの溶液にファインバブルを混合させることでファインバブルマトリックス溶液を作製するバブル混合工程と、
前記ファインバブルマトリックス溶液を冷却することでゲル化させてファインバブルマトリックスゲルを作製するゲル化工程と、
前記ファインバブルマトリックスゲルを乾燥によりスポンジ構造とする乾燥工程と、
を有することを特徴とする高連通性スポンジの製造方法。
【請求項2】
前記ファインバブルは、気泡径がマイクロメートルからナノメートルオーダーの範囲内の微細気泡であることを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項3】
前記ファインバブルは、空気、酸素、二酸化炭素、窒素、又は、オゾンの何れか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項4】
前記ゲル化工程では、ファインバブルマトリックス溶液を3℃~5℃で冷却することを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程では、ファインバブルマトリックスゲルを0~-196℃にて凍結乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項6】
前記高連通性スポンジは医療材料としての創傷被覆材に利用されることを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項7】
前記生体親和性マトリックスは、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、アルギネート、セルロース、キトサン、及び、フィブロネクチンからなる群から選択される天然ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【請求項8】
前記生体親和性マトリックスは、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(DL-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリ(DL-ラクチド)(PDLA)、ポリ(e-カプロラクトン)(PCL)、及び、ポリウレタンからなる群から選択される合成ポリマーである、請求項1に記載の高連通性スポンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高連通性スポンジの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、再生医療において、細胞とその活動の基盤となる足場は組織構築の上で細胞の接着や増殖、分化を制御・促進する役割を果たしている。さらに、細胞群に十分な栄養と酸素を供給するために多孔質であり、生体に悪影響を及ぼさない性質としての生体親和性が求められている。
【0003】
ゼラチンは、高い生体適合性と生分解性を有し、自然界に極めて広く分布しており、安易かつ容易に入手することができることから、ゼラチンスポンジ足場材料として用いることが検討されている(特許文献1~4)。
【0004】
しかし、ゼラチンは、水溶性が極めて高く、これをそのまま生体内に移植しても急速にその形状を失ってしまう。従って、生体に移植して足場材としての役割を果たすためには、何らかの架橋を施して耐水性を高める必要があり、例えば凍結乾燥による物理架橋がある。
【0005】
また、スポンジは気孔率が高いため、栄養素及び代謝産物の交換や輸送、細胞の接着及び増殖の促進が期待される。しかし、凍結乾燥によるゼラチンスポンジは、連通性が低く、細胞がスポンジ内部に遊走しにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-043368号公報
【特許文献2】特開2020-176072号公報
【特許文献3】特開2007-009185号公報
【特許文献4】特開2005-213449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、スポンジ内の細孔同士が接続して連通性が高いスポンジの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる高連通性スポンジの製造方法は、生体親和性マトリックスからなる高連通性スポンジの製造方法であって、生体親和性マトリックスの溶液にファインバブルを混合させることでファインバブルマトリックス溶液を作製する工程と、ファインバブルマトリックス溶液を冷却することでゲル化させてファインバブルマトリックスゲルを作製する工程と、ファインバブルマトリックスゲルを乾燥によりスポンジ構造とする工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スポンジ内の細孔同士が接続して連通性が高いスポンジの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ファインバブルを生体親和性マトリックスの溶液に混入させるバブル混入装置の全体を示す写真図である。
【
図2】本発明の製造方法により製造されたゼラチンスポンジの連通性評価に用いた装置の全体を示す写真図である。
【
図3-1】ローテーターを使用せずに、ファインバブルマトリックス溶液を4℃で冷却し、ファインバブルマトリックスゲルを作製した状態を示す写真図であり、そのうち(a)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【
図3-2】ローテーターを使用して、ファインバブルマトリックス溶液を4℃で冷却し、ファインバブルマトリックスゲルを作製した状態を示す写真図であり、そのうち(a)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【
図4】各バブル混合条件で作製したゼラチンスポンジの水平方向の断面SEM画像図であり、そのうち(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったもの、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【
図5】各バブル混合条件で作製したゼラチンスポンジの垂直方向の断面CT画像図であり、そのうち(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【
図6】各ゼラチンスポンジの細孔径分布を示す図であり、そのうち(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【
図7】CT画像より算出した各ゼラチンスポンジの空隙率を示す図である。
【
図8】各条件におけるゼラチンスポンジの通過前後の差圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本発明にかかる生体親和性マトリックスからなる高連通性スポンジの製造方法は、下記工程を有する。
【0013】
(a)生体親和性マトリックスの溶液にファインバブルを混合させることでファインバブルマトリックス溶液を作製するバブル混合工程
(b)ファインバブルマトリックス溶液を冷却することでゲル化させてファインバブルマトリックスゲルを作製するゲル化工程
(c)ファインバブルマトリックスゲルを乾燥によりスポンジ構造とする乾燥工程
【0014】
本発明においては、ファインバブルを混合させた生体親和性マトリックスの溶液を乾燥(好ましくは凍結乾燥である。)することで生体親和性マトリックスを物理的に架橋する。そして乾燥により形成された細孔に加え、ファインバブルによる微小な細孔を有した高連通性スポンジが作製される。これにより、細孔同士の連通性が高くなり、足場内部への細胞の浸潤、酸素や栄養の十分な供給が可能となり、細胞の接着や増殖の促進が可能となる。
【0015】
(a)バブル混合工程
バブル混合工程では、生体親和性マトリックスの溶液にファインバブルを混合させることでファインバブルマトリックス溶液を作製する。
【0016】
生体親和性マトリックスは、特に限定されるものではなく、例えば、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、アルギネート、セルロース、キトサン、及び、フィブロネクチンからなる群から選択される天然ポリマーである。
【0017】
また、生体親和性マトリックスは、例えば、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(DL-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリ(DL-ラクチド)(PDLA)、ポリ(e-カプロラクトン)(PCL)、及び、ポリウレタンからなる群から選択される合成ポリマーである。
【0018】
生体親和性マトリックスは好ましくはゼラチンである。ゼラチン溶液を作製するために使用されるゼラチンは、天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、化学合成、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。これらの材料を適当に混合して用いることもできる。天然のゼラチンは、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サケ、タイ、サメ等の魚類等、種々の動物由来のコラーゲンから、アルカリ加水分解、酸加水分解、及び酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。ゼラチンは、等電点5.0付近のものが好ましい。
【0019】
ゼラチン溶液はゼラチンを水性媒体に溶解させることで作製する。水性媒体としては、ゼラチンを溶解可能であり、生体組織に対して使用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液等、当分野で通常使用可能なものを挙げることができる。
【0020】
ゼラチン溶液におけるゼラチンの含有率については、ゼラチンが溶解可能な含有率であればよく、特に制限はない。例えば、ゼラチン溶液中の前記ゼラチンの含有率は0.5質量%~20質量%とすることが好ましく、2質量%~16質量%であることがより好ましく、4質量%~12質量%であることが更に好ましい。0.5質量%以上とすることにより、強度がより高まる傾向があり、20質量%以下とすることにより、均一性の高い網目構造をより形成しやすくなる傾向がある。ゼラチン溶液におけるゼラチンの含有率をw/v%で規定した場合は、例えば0.1 w/v%~10.0 w/v%であり、好ましくは1 w/v%~5.0 w/v%であり、より好ましくは1.5w/v%~3.0 w/v%である。
【0021】
ゼラチン溶液にはゼラチンを架橋するための架橋剤を含有させることも可能である。架橋剤としては、生体に対して毒性のないものであれば特に限定されず、カルボキシル-アミン架橋剤、アミン反応性架橋剤(イミドエステル架橋剤)、マレイミド活性架橋剤、カルボニル反応性架橋剤、光反応性架橋剤等を適宜使用することができ、例えば、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン等が挙げられる。
【0022】
ファインバブルは、気泡径がマイクロメートルからナノメートルオーダーの範囲内の微細気泡である。ファインバブルのサイズとしては、一般に、10nm~1000 μmの範囲内、中でも10nm~500 μmの範囲内であることが望ましく、好適には10nm~100 μmの範囲内のものである。ファインバブル内の微細気泡の気泡径がマイクロメートルオーダーの場合は、ファインバブルをマイクロバブルと称することができる。ファインバブル内の微細気泡の気泡径がナノメートルオーダーの場合は、ファインバブルをナノバブルと称することができる。
【0023】
ファインバブルは、空気、酸素、二酸化炭素、窒素、又は、オゾンの何れか一つを含み、好ましくは空気である。本発明において、ファインバブルに含有される気体としては、二種以上の気体を用いることができる。二種以上の気体を用いる場合としては、例えば、気体Aのみからなるファインバブルと気体Bのみからなるファインバブルとの混合物を用いる場合もあれば、気体Aと気体Bとの混合物を含むファインバブルを用いる場合もある。
【0024】
ファインバブルは、気泡径が微小サイズであることによりその表面張力により内圧が高くなり、マイナスに帯電する。ここで、ファインバブルの内圧は、一般にバブル径に対応して、Young-Laplaceの式により求められ、本発明に用いたファインバブルは、約3気圧~約300気圧程度の内圧を有している。
【0025】
また、ファインバブルの濃度としては、一般に規定容積中におけるバブルの個数として示され、本発明では1×106~2×109個/mL、好適には5×106~1×109 個/m L、より好適には1×107~5×108個/mLの割合において分散、含有している。
【0026】
ファインバブルのサイズやその存在濃度は、市販の粒子測定装置を用いて測定することができる。例えば(株)島津製作所製のナノ粒子分布測定装置(SALD-7100)や、日本カンタム・デザイン(株)から入手することのできえるナノ粒子解析装置(ナノサイトLM-20)等があげられる。また、ゼータ電位はマルバルーン事業部スペクトリス(株)から入手することのできるゼータサイザーナノZ、大塚電子(株)のゼータ電位測定システム(ELSZ-2000Z)、協和界面科学(株)のゼータ電位測定装置(ZC-3000)等があげられる。
【0027】
本発明において、ファインバブルは公知の各種のバブル発生装置を用いて形成され得るものである。特に高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを通じて、それによる気体透過量の制御下において、所定の気体を放出せしめることによって、ファインバブルが形成されるようにした装置、例えば特許第3806008号公報や特許第5390212号公報等に明らかにされているような装置が有利に用いられる。
【0028】
(b)ゲル化工程
ゲル化工程では、ファインバブルマトリックス溶液を冷却することでゲル化させてファインバブルマトリックスゲルを作製する。
【0029】
ゲル化工程では、溶液におけるファインバブルを維持した状態でゲル化を行う。ゲル化の条件としては、例えば、1℃~20℃、好ましくは3℃~5℃の温度による冷却を行って固化することにより行う。
【0030】
ゲル化工程では、バブルと溶液が分離しないように、ローテーターで回転させながら冷却することが好ましい。
【0031】
ファインバブルマトリックスゲルにおいてゲルのpHは特に限定されるものではないが、例えば5.00~6.00の弱酸性とすることが可能である。
【0032】
(c)乾燥工程
乾燥工程では、ファインバブルマトリックスゲルを乾燥によりスポンジ構造とする。乾燥により、ファインバブルによる微小な細孔同士が連通することで、高連通性スポンジが作製される。
【0033】
乾燥は、好ましくは凍結乾燥である。ファインバブルマトリックスゲルの凍結乾燥は、ゲルを0~-196℃の温度から選択される所望の温度で凍結させる。凍結時間は、温度やゲルの量により適宜設定可能である。ゲルの凍結温度を変動させることにより、高連通性スポンジの空孔の大きさ(直径)を調節することができる。例えば、-25℃といった高い温度で凍結を行った場合は、高連通性スポンジの空孔は150 μm程度と比較的大きくなり、-80℃といった低い温度で凍結を行った場合は、高連通性スポンジの空孔は50 μm程度と比較的小さくなる。
【0034】
なお凍結乾燥は、凍結処理の後に減圧乾燥処理をすることも可能である。即ち、ファインバブルマトリックスゲルを凍結後、緩やかに温度を上昇させながら減圧乾燥処理を行うことも可能である。
【0035】
本発明にかかる高連通性スポンジは、細胞の遊走や物質透過性に対し孔の連通性が高いため、医療材料としての創傷被覆材に好適に利用される。なお得られた高連通性スポンジは使用前に滅菌処理することが好ましく、滅菌処理は水を使わずに行うものであればよい。具体的には、オゾン滅菌、ガンマ線照射等が例示される。
【0036】
本発明の高連通性スポンジにより被覆可能な創傷組織としては、軟組織又は硬組織の何れも可能であるが、歯、骨等の硬組織であることが好ましい。特に、骨再生用として、骨組織の修復材、又は治療剤等として用いることができる。
【0037】
本発明の高連通性スポンジは、創傷被覆材として利用する場合、組織移植細胞や骨誘導薬剤と併用することも可能である。骨誘導薬剤としては、例えばBMP(骨形成因子)やbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が挙げられるが、特に限定はされない。
【0038】
本発明における高連通性スポンジは、創傷被覆材として利用する場合、必要に応じて治療方法又は修復方法に利用可能である。治療方法又は修復方法は、顎顔面領域における 歯周組織欠損(periodontal defect)、インプラント欠損(implant defect)等;インプラント埋入時の予備的処置としてのGBR法、歯肉増大術(Ridge Augmentation)法、サイナスリフト法、またはソケットリザベーション法等に好ましく適用することができる。
【実施例0039】
(1)マイクロバブルを用いた高連通性スポンジの作製
(1-a)バブル混合工程
レギュレーター、流量計(Smooth flow Pump,株式会社タクミナ)、ガスの流量調節器(Log MIX,株式会社フロント)、バブル混入装置(ファインバブル発生器,株式会社ノリタケカンパニー)からなる経路を作製した。
図1に装置全体図を示す。バブル混合装置内の筒状の多孔質セラミックス膜より空気を吹き出すことで微細気泡を発生させ、ゼラチン水溶液内にマイクロバブルを混入可能な装置を作製した。なお、空気の流量は100 mL/min,圧力は0.2 MPaとした。
【0040】
豚皮ゼラチン粉末(Aタイプ,新田ゼラチン株式会社)を蒸留水に溶解し、60℃で20分間温浴加熱することで2 w/v%のゼラチン溶液を調製した。ビーカー内に40℃のゼラチン水溶液を流し入れ、容器内でバブルを混合させた。バブル混合開始から5,10及び20分後のビーカー底面付近の溶液を、オートピペッターを用いて2 mLチューブに入れ、これらをローテーター(RT-300mini,タイテック株式会社)に取り付けた。バブル混合時間によって、溶液に混合するバブル量を調整した。
【0041】
(1-b)ゲル化工程
ローテーターを使用せずに、バブルが混合された溶液を4℃で冷却し、マイクロバブルを含むゼラチンゲルを作製した(
図3-1)。
【0042】
また、より溶液内のバブルの分布を均一にするため、ローテーターを30 r/minで回転させながら4℃で冷却し、マイクロバブルを含むゼラチンゲルを作製した(
図3-2)。
【0043】
(1-c)凍結乾燥工程
各チューブをポリウレタン容器により断熱し、-25℃で24時間静置凍結後、凍結乾燥機(FUD-1200型,東京理科器械株式会社)を用いて、24時間凍結乾燥することで高連通性スポンジを作製した。
【0044】
(2)高連通性スポンジの構造評価
凍結乾燥後、オスミウム・プラズマコーター(OPC40A,Filgen)を用いて膜厚20 nmのオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)(JSM-6309LT型,JEOL)を用いて、水平方向におけるスポンジ断面の細孔形態を観察した。また、高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX,株式会社リガク)を用いて、スポンジの垂直方向断面画像を取得した。直径8 mm、厚さ3 mmの円形のスポンジの両端を切断し、横幅4 mmに成形したスポンジを用いた。スポンジの中心位置、中心部から上下500 μm及び1000 μm位置のCT画像を撮影した。画像解析ソフトSigma Scan Pro(HULINKS),ImageJを用いた画像解析より、CT画像からスポンジの細孔径、空隙率を測定した。細孔径は任意の細孔の面積を測定し、円形とみなして算出した。空隙率は、空隙部分とゼラチン部分を輝度値で区別し、空隙部分の面積をスポンジ全体の面積で除すことで算出した。
【0045】
図2に連通性評価に用いた装置全体図を示す。レギュレーター、流量計(MODEL RK20T SERIES,コフロック株式会社)、デジタル式圧力ゲージ(UPM60P-F1,Univa)、高連通性スポンジを容器に封入し、ホースでつないだ。上述した方法で作製した高連通性スポンジを直径8 mm,厚さ4 mmに成型し、評価を行った。スポンジ側面からの空気漏れを防ぐため、スポンジをシリコンシートで挟んだ。スポンジ通過前の圧力をp
1、スポンジ通過後の圧力をp
2とし、式(1)Δp = p
1 - p
2を用いて差圧Δpを算出した。
【0046】
本実験では大気圧を基準とし、大気開放の状態を0 kPaとした。容器出口側が大気開放であるので、式(1)より、差圧とp1は同等であると考えられる。差圧は、スポンジによる圧力損失であり、この値から各高連通性スポンジの連通性を評価した。また、空気の流量は0.2 L/minとした。
【0047】
(3)結果
図3に各バブル混合条件において、静置状態で、4℃で冷却し、ゲル化させた様子を示す。
図3-1はローテーターを使用していない場合であり、
図3-2はローテーターを使用した場合である。(a)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。ゲル化後、白色のバブル部分と透明のゼラチン溶液部分に分離し、バブル混合時間が長くなるほどバブル量が増加したことが確認された。
【0048】
図4に、各バブル混合条件で作製した高連通性スポンジの水平方向の断面SEM画像を示す。(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったもの、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。スケールバーは100μmである。
【0049】
バブルを混合した全ての条件においてバブル混合なしの条件と比較して、細孔間の壁面が破れることで細孔同士の連結が確認された。また、バブル混合時間が長くなるにつれて、細孔径や細孔間を接続する細孔の細孔径が大きくなる傾向が確認された。
【0050】
図5に各バブル混合条件で作製した高連通性スポンジの垂直方向の断面CT画像を示す。(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。スケールバーは300μmである。
【0051】
また、
図6に各高連通性スポンジの細孔径分布を示す。(a)は2 w/v%のゼラチン溶液にバブルを混合しなかったものであり、(b)は2 w/v%のゼラチン溶液に5分間バブルを混合したものであり、(c)は2 w/v%のゼラチン溶液に10分間バブルを混合したものであり、(d)は2 w/v%のゼラチン溶液に20分間バブルを混合したものである。
【0052】
バブル混合なしの条件では、細孔径は20-200 μmの範囲で分布し、100-120 μmでピークが確認された。5,10及び20分間バブルを混合した条件では、それぞれ細孔径は10-380 μm,5-390 μm,10-1900 μmの範囲で分布した。また、また、それぞれの高連通性スポンジで,40-60 μm,20-40 μm,300 μm以上の細孔が最も多く確認された。したがって、バブル混合なしの条件では100 μmほどの均一な大きさの細孔径が分布した。一方、各バブル混合条件では、大小さまざまな大きさの細孔径が分布し、バブル混合時間が長くなるにつれて、細孔径150 μm以上の細孔が増加する傾向が確認された。
【0053】
図7にCT画像より算出した各高連通性スポンジの空隙率を示す。バブル混合なしの条件における空隙率は83.2±0.9%であり、5,10及び20分間バブルを混合した条件における空隙率は、それぞれ88.5±0.9 %,88.3±2.2 %及び94.5±0.5 %であった。したがって、バブル混合ありの条件では、バブル混合なしの比較して、空隙率が高くなる傾向が確認された。
【0054】
図8に各条件におけるスポンジ通過前後の差圧を示す。空気の流量が0.2 L/minの場合、バブル混合なしの条件における差圧は、52±17 kPaであった。5,10及び20分間バブルを混合した条件における差圧は、それぞれ47±12 kPa,16±19 kPa,0 kPaであった。したがって、バブル混合ありの条件の差圧は、バブル混合なしの条件の差圧より減少する傾向が確認され、これによりバブル混合ありの条件の場合は、より連通性が向上していることが示された。