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特開2024-126180重金属等吸着材及びそれを用いた重金属等溶出抑制構造の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126180
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】重金属等吸着材及びそれを用いた重金属等溶出抑制構造の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20240912BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240912BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
B09C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034405
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松山 祐介
【テーマコード(参考)】
4D004
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AC07
4D004CA47
4D004CC06
4D004DA20
4G066AA16B
4G066AA66B
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA21
4G066CA32
4G066CA46
4G066CA50
4G066DA07
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】雨水等の水と接触する雰囲気下であっても、酸化マグネシウム(例えば、軽焼マグネシア)の重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制しうる、酸化マグネシウムを含む重金属等吸着材を提供する。
【解決手段】鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiOを5~40質量%、及び、Alを6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなる、重金属等吸着材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む重金属等吸着材であって、
上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiOを5~40質量%、及び、Alを6~40質量%の各割合で含み、
上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなることを特徴とする重金属等吸着材。
【請求項2】
上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、Feを0.3~12質量%の割合で含む請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項3】
上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、1~50質量%である請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項4】
上記鉱物の粉粒状物が、火山灰土からなる請求項1に記載の重金属等吸着材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、上記重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、
上記吸着層の上に、重金属等を含む被処理物を供給して、上記吸着層と上記被処理物からなる被処理物層との積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程、
を含むことを特徴とする重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【請求項6】
上記吸着層は、下記(1)式を用いて算出される簡易透水係数の値が、1.0×10-7~1.0×10-3m/秒の範囲内のものである請求項5に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
簡易透水係数=(吸着層の厚さ×通過水量)/(カラムの断面積×通過時間×水位差)
・・・(1)
【請求項7】
上記重金属等が、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素からなる群より選ばれる一種以上である請求項5に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属等吸着材及びそれを用いた重金属等溶出抑制構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場で発生する有害な重金属等を含む土砂については、その発生量が多量であることから、吸着層工法を用いて、重金属等を吸着層に固定させる処理方法が、提案されている。
特許文献1に、SiOの含有率が70~90質量%、およびAlの含有率が5~15質量%である頁岩からなる重金属の吸着層用母材が、記載されている。
特許文献1に、前記の吸着層用母材を含む吸着層用資材として、吸着層用母材1mあたり、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を必須成分として含む重金属吸着材を10~200kg含む、重金属の吸着層用資材が、記載されている。
特許文献1に、前記の吸着層用資材を用いた吸着層工法として、重金属の吸着層用資材を敷設してなる重金属吸着層の上に、重金属を含む被処理物を載置する工程を含む吸着層工法が、記載されている。
特許文献2に、簡易透水係数が1.0×10-3m/s以下である、吸着層工法用の重金属吸着層が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-226611号公報
【特許文献2】特開2014-226589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着層工法を用いて、重金属等を吸着層に固定する場合、吸着層は、通常、雨水に曝される屋外に形成されるため、吸着層に含まれている軽焼マグネシア等が、水と反応することによって、吸着層における重金属等の吸着性能の経時的な低下が生じやすいという問題がある。
本発明の目的は、雨水等の水と接触する雰囲気下であっても、軽焼マグネシア等の粉粒状物の経時的な重金属等吸着性能の低下を抑制しうる重金属等吸着材、及び、該重金属等吸着材を用いた、重金属等溶出抑制構造の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiOを5~40質量%、及び、Alを6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなるものである重金属等吸着材によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1] 鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む重金属等吸着材であって、上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、SiOを5~40質量%、及び、Alを6~40質量%の各割合で含み、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物が、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなることを特徴とする重金属等吸着材。
[2] 上記鉱物の粉粒状物が、非晶質成分として、Feを0.3~12質量%の割合で含む、前記[1]に記載の重金属等吸着材。
[3] 上記鉱物の粉粒状物と上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、上記酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合が、1~50質量%である、前記[1]又は[2]に記載の重金属等吸着材。
[4] 上記鉱物の粉粒状物が、火山灰土からなる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の重金属等吸着材。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、上記重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、上記吸着層の上に、重金属等を含む被処理物を供給して、上記吸着層と上記被処理物からなる被処理物層との積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程、を含むことを特徴とする重金属等溶出抑制構造の形成方法。
[6] 上記吸着層は、下記(1)式を用いて算出される簡易透水係数の値が、1.0×10-7~1.0×10-3m/秒の範囲内のものである、前記[5]に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
簡易透水係数=(吸着層の厚さ×通過水量)/(カラムの断面積×通過時間×水位差)
・・・(1)
[7] 上記重金属等が、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素からなる群より選ばれる一種以上である、前記[5]又は[6]に記載の重金属等溶出抑制構造の形成方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の重金属等吸着材によれば、雨水等の水と接触する雰囲気下であっても、酸化マグネシウム含有粉粒状物(具体的には、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなるもの)の重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制することができる。
本発明の重金属等吸着材は、例えば、重金属等を吸着層に固定して処理する方法である吸着層工法における吸着層(被処理物層の下方に位置する層)の材料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の重金属等吸着材は、鉱物の粉粒状物、及び、酸化マグネシウム含有粉粒状物を含む。
本発明で用いる鉱物の粉粒状物は、非晶質成分として、SiOを5~40質量%、及び、Alを6~40質量%の各割合で含む。
本明細書中、「非晶質成分」とは、8N塩酸(HCl)-0.5N水酸化ナトリウム(NaOH)交互溶解法による試料(鉱物の粉粒状物)の減量に相当するものを意味する。例えば、減量前の試料の質量を100質量%とし、処理後に、30質量%まで減量した場合には、70質量%の量に相当するものを、非晶質成分とする。
【0009】
8N塩酸-0.5N水酸化ナトリウム交互溶解法の詳細は、以下のとおりである。
まず、予め105℃で24時間乾燥させた試料(鉱物の粉粒状物)1gを容器(遠心管)に入れた後、この容器内に、8Nの塩酸100ミリリットルを加える。次いで、この容器を30分間振とうした後、2,000rpmで5分間遠心分離を行う。その後、上澄みを捨て、この容器内の沈澱を蒸留水で洗浄する。次いで、この容器内に、0.5Nの水酸化ナトリウム100ミリリットルを加える。その後、この容器を、煮沸した湯浴内に5分間浸した後、2,000rpmで5分間遠心分離を行い、上澄みを捨て、沈澱を得る。
以上の操作(塩酸の添加、遠心分離、洗浄、水酸化ナトリウムの添加、湯浴、及び、遠心分離からなる一連の処理;以下、「処理操作」という。)を5回、繰り返す。
この際、塩酸による抽出液、及び、水酸化ナトリウムによる抽出液の各々におけるSi、Al及びFeの各濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES;Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用いて測定し、「非晶質成分の割合」を算出する。
【0010】
本明細書中、「非晶質成分としてのSiOの割合」とは、以下の手順で得られるものをいう。
まず、前記「8N塩酸-0.5N水酸化ナトリウム交互溶解法」において、塩酸及び水酸化ナトリウムによる上述の処理操作の回数が5回である場合における上澄み(非晶質成分の抽出液;1~5回のすべてを含むもの)中のSi(元素)の濃度を、ICP発光分光分析法によって定量し、Siの質量の値を得る。この値を、酸化物換算の値(SiOの量)に換算する。
このSiOの量(質量基準)を、試料の質量で除して得られる値が、「非晶質成分としてのSiOの割合」である。
SiO以外の成分(Al、Fe等)についても、同様である。
【0011】
本発明において、非晶質成分としてのSiOの割合は、5~40質量%、好ましくは6~30質量%、より好ましくは7~25質量%、特に好ましくは8~20質量%である。該割合が5~40質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下で、本発明の重金属等吸着材を用いた場合であっても、重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制することができる。
本発明において、非晶質成分としてのAlの割合は、6~40質量%、好ましくは7~30質量%、より好ましくは8~25質量%、特に好ましくは9~20質量%である。該割合が6~40質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下で、本発明の重金属等吸着材を用いた場合であっても、重金属等吸着性能の経時的な低下を抑制することができる。
【0012】
非晶質成分としてのFeの割合は、好ましくは0.3~12質量%、より好ましくは0.5~11質量%、さらに好ましくは0.7~10質量%、特に好ましくは0.8~9質量%である。該割合が0.3~12質量%の範囲内であると、雨水等の水と接触する雰囲気下における本発明の重金属等吸着材の重金属等吸着性能の経時的な低下を、より効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明で用いる鉱物の粉粒状物の粒度分布は、本発明の効果(重金属等吸着性能の経時的な低下の抑制)を高める観点からは、好ましくは、5mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは、4mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、特に好ましくは、3mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものである。
本発明で用いる鉱物の粉粒状物の粒度分布は、本発明の重金属等吸着材からなる吸着層の透水性を高める観点からは、好ましくは、0.1mm未満の粉体の割合が20質量%以下(好ましくは10質量%以下)のものである。
本明細書中、「粒度」とは、粉粒状体における最大寸法(例えば、断面が楕円の形状である場合、長軸の寸法)をいう。
本明細書中、粉粒状物とは、粉体の集合体、粒体の集合体、または、粉体及び粒体を含む集合体を意味する。粉体とは、粉粒状物の構成単位であり、0.1mm未満の粒度を有するものをいう。粒体とは、粉粒状物の構成単位であり、0.1mm以上の粒度を有するものをいう。
【0014】
本発明で用いる鉱物の好ましい一例として、火山灰土が挙げられる。
本発明において、火山灰土の中でも、赤玉土、鹿沼土、黒土、及び、ボラ土は、本発明の効果(重金属等吸着性能の経時的な低下の抑制)をより高めることができ、かつ、吸着層として用いた場合に、より優れた透水性を与える点で、特に好ましい。
【0015】
本発明で用いる酸化マグネシウム含有粉粒状物は、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなるものである。
本明細書中、「軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなる」とは、「軽焼マグネシアのみ」、「軽焼マグネシアの部分水和物のみ」、及び、「軽焼マグネシアと軽焼マグネシアの部分水和物の混合物」の3つの実施形態を包含する概念を有する。以下の軽焼マグネシアの製造等の説明における「または」の語も、特に断らない限り、同様に、3つの実施形態を包含する概念を有する。
軽焼マグネシアは、例えば、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを含む固形物を、650~1,300℃で焼成することによって得ることができる。
前記の固形物中の炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムの割合(炭酸マグネシウムと水酸化マグネシウムの両方を含む場合、これらの合計の割合)は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。該割合が80質量%以上であると、重金属等を吸着する性能をより高めることができる。
【0016】
前記の固形物の例としては、マグネサイト、ドロマイト、ブルーサイト、または、海水中のマグネシウム成分を消石灰等のアルカリで沈澱させて得た水酸化マグネシウム等の、塊状物または粉粒状物が挙げられる。
前記の固形物の焼成温度は、好ましくは650~1,300℃、より好ましくは750~950℃、特に好ましくは800~900℃である。該温度が650℃以上であると、軽焼マグネシアが、より生成し易くなる。該温度が1,300℃以下であると、重金属等を吸着する性能をより高めることができる。
前記の固形物の焼成時間は、固形物の仕込み量や粒度等によっても異なるが、通常、30分間~5時間である。
軽焼マグネシアの部分水和物は、軽焼マグネシアの粉砕物に水を添加して撹拌するか、または、該粉砕物を相対湿度80%以上の雰囲気下に1週間以上保持することによって得ることができる。
【0017】
本発明で用いる酸化マグネシウム含有粉粒状物(具体的には、軽焼マグネシアまたはその部分水和物からなる粉粒状物)の粒度は、重金属等を吸着する性能を高める観点からは、好ましくは、3mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは、2mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むものであり、さらに好ましくは、1mm以下の粒度のものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上)の割合で含むもの(以上、粉粒状物)であり、特に好ましくは、0.1mm未満の粒度のものを100質量%の割合で含むもの(粉状物)である。
本発明において、酸化マグネシウム含有粉粒状物として、粉状物を用いる場合、該粉状物のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~10,000cm/g、より好ましくは3,000~9,000cm/g、特に好ましくは4,000~8,000cm/gである。該値が2,000cm/g以上であると、重金属等を吸着する性能をより高めることができる。該値が10,000cm/g以下であると、粉砕に要する手間の軽減などの点で、好ましい。
【0018】
本発明において、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物の合計量中、酸化マグネシウム含有粉粒状物の割合は、好ましくは、1~50質量%、より好ましくは3~35質量%、さらに好ましくは5~25質量%、特に好ましくは7~15質量%である。該割合が1質量%以上であると、本発明の重金属等吸着材の単位質量当たりの重金属等吸着性能をより高めることができる。該割合が50質量%以下であると、本発明の効果(重金属等吸着性能の経時的な低下の抑制)をより高めることができる。
本発明の重金属等吸着材の製造方法としては、鉱物の粉粒状物と酸化マグネシウム含有粉粒状物を乾燥状態で混合する方法や、酸化マグネシウム含有粉粒状物に水を加えてスラリーを調製した後に、該スラリーと鉱物の粉粒状物を混合する方法等が挙げられる。該スラリーの調製における水/粉粒状物の質量比は、均一な混合物を得る等の観点から、好ましくは、0.5~1.5、より好ましくは、0.8~1.2である。
【0019】
次に、本発明の重金属等吸着材を用いた、重金属等溶出抑制構造(以下、「本発明の重金属等溶出抑制構造」という。)の形成方法について、説明する。
本発明の重金属等溶出抑制構造の形成方法は、本発明の重金属等吸着材を、地盤の上に供給して、重金属等吸着材からなる吸着層を形成させる吸着材供給工程と、この吸着層の上に、重金属等を含む被処理物(例えば、重金属等で汚染された土壌)を供給して、被処理物層を形成させ、吸着層と被処理物層の積層体である重金属等溶出抑制構造を形成させる被処理物供給工程を含む。
吸着層の厚さは、好ましくは、10~100cm、より好ましくは、20~90cm、特に好ましくは30~80cmである。該厚さが10cm以上であると、吸着して固定化させる重金属等の量をより大きくすることができる。該厚さが100cm以下であると、吸着層の形成に要するコストの低減などの点で有利である。
被処理物層の厚さは、好ましくは、50~400cm、より好ましくは、100~300cm、特に好ましくは150~250cmである。該厚さが50cm以上であると、単位面積当たりの被処理物の量が大きいので、大量に処理を行う場合に有利である。該厚さが400cm以下であると、大雨などによって被処理物層が崩壊するおそれが小さくなる。
【0020】
吸着層は、好ましくは、下記(1)式を用いて算出される簡易透水係数の値が、1.0×10-7~1.0×10-3m/秒の範囲内のものである。
簡易透水係数=(吸着層の厚さ×通過水量)/(カラムの断面積×通過時間×水位差)
・・・(1)
該値が1.0×10-7m/秒以上であると、吸着層への雨水の浸透性を、より良好にすることができ、その結果、吸着層に浸透せずに吸着層の側面を流下する雨水の量を、より少なくすることができるので、吸着層で吸着され固定される重金属類の量を、より多くすることができる。該値が1.0×10-3m/秒以下であれば、吸着層における雨水の滞留時間が、より長くなり、吸着層で吸着され固定される重金属等の量を、より多くすることができる。
吸着層で吸着され固定される重金属等としては、ひ素、鉛、カドミウム、水銀、セレン、シアン、六価クロム、ふっ素、及び、ほう素が挙げられる。
【実施例0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[A.使用材料]
(1)鉱物の粉粒状物
鉱物の粉粒状物として、表1に示す5種類の鉱物の粉粒状物A~Eを用いた。
(a)鉱物の粉粒状物A:赤玉土(採取地:栃木県;3mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が10質量%以下であるもの)
(b)鉱物の粉粒状物B:鹿沼土(採取地:栃木県;4mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が10質量%以下であるもの)
(c)鉱物の粉粒状物C:珪藻土(採取地:北海道;1mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が20質量%以下であるもの)
(d)鉱物の粉粒状物D:白土(採取地:福島県;0.1mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含むもの)
(e)鉱物の粉粒状物E:真砂土(採取地:茨城県;5mm以下の粒度のものを80質量%以上の割合で含み、かつ、0.1mm未満の粒度のものの割合が10質量%以下であるもの)
表1中、鉱物の粉粒状物A~Eについて、非晶質成分の組成(SiO、Al、Fe)を示す。
【0022】
(2)酸化マグネシウム含有粉粒状物
酸化マグネシウム含有粉粒状物として、以下の方法で調製した軽焼マグネシアの粉状物を用いた。
マグネサイト(炭酸マグネシウムの割合:97質量%)を、850℃で30分間、電気炉で焼成して、軽焼マグネシアを得た。次いで、この軽焼マグネシアを粉砕して、軽焼マグネシアの粉状物(ブレーン比表面積:6,500cm/g)を得た。
(3)ひ素含有水溶液
ひ素含有水溶液として、以下の方法で調製した水溶液を用いた。
ひ素含有化合物(5価のひ素を含むもの;NaHAsO・7HO)からなる試薬を、5.0mg/リットルの濃度になるようにイオン交換水に溶解させ、ひ素含有水溶液を得た。
(4)ふっ素含有水溶液
ふっ素含有水溶液として、以下の方法で調製した水溶液を用いた。
ふっ素含有化合物(化学式:NaF)からなる試薬を、24mg/リットルの濃度になるようにイオン交換水に溶解させ、ふっ素含有水溶液を得た。
【0023】
【表1】
【0024】
[B.ひ素の吸着性能試験]
[実施例1]
表1に示す鉱物の粉粒状物Aを用いて、以下の手順で、ひ素の吸着性能試験を行った。
「鉱物の粉粒状物A」90質量部に、酸化マグネシウム含有粉粒状物10質量部(以上の合計100質量部)を加えて混合し、混合物を得た。この混合物とイオン交換水を1:4(混合物:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層の材料を模した試験用材料を調製した。
試験用材料の調製時から所定の材齢(7日または28日)を経過した時点において、試験用材料とひ素含有水溶液を1:100(試験用材料:ひ素含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーを24時間、200rpmで振とうした後、メンブレンフィルター(目開き:0.45μm)を用いて濾過し、液分である検液を得た。
この検液中のひ素の濃度を、ICP質量分析装置を用いて、測定した。
得られた測定値に基いて、酸化マグネシウム含有粉粒状物の単位質量(1kg)当たりのひ素の吸着量を算出した。
【0025】
[実施例2、比較例1~2]
鉱物の粉粒状物Aに代えて、鉱物の粉粒状物B(実施例2)、鉱物の粉粒状物C(比較例1)、または、鉱物の粉粒状物D(比較例2)を用いた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[比較例3]
酸化マグネシウム含有粉粒状物とひ素含有水溶液を1:1,000(粉粒状物:水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーについて、実施例1と同様にして、酸化マグネシウム含有粉粒状物の単位質量(1kg)当たりのひ素の吸着量を算出した。
【0026】
[参考例]
酸化マグネシウム含有粉粒状物を用いず、鉱物A~Dの各々について、以下の手順で、ひ素の吸着性能試験を行った。
鉱物の粉粒状物とイオン交換水を1:4(粉粒状物:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層を模した試験用材料を調製した。なお、試験用材料(鉱物A~Dのいずれかを含むもの)のpHは、酸化マグネシウム含有粉粒状物と混合したときの一般的なpH(10.5)となるように水酸化ナトリウムを用いて調整したものであり、10.5(鉱物A)~11.3(鉱物D)の範囲内(ほぼ同じ)であった。
試験用材料の調製時から所定の材齢(28日)を経過した時点において、試験用材料とひ素含有水溶液を1:100(試験用材料:ひ素含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーについて、実施例1と同様にして、検液を調製し、検液中のひ素の濃度を測定した。
その結果、鉱物A~Dのいずれについても、鉱物の単位質量(1kg)当たりのひ素の吸着量は、0mg/kgであった。このことから、鉱物の粉粒状物を単独で用いた場合、ひ素を吸着することができないことが、わかる。
実施例1~2及び比較例1~3の結果を、表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2から、本発明に該当しない重金属等吸着材(比較例1~3)を用いた場合には、材齢7日に比べて材齢28日(ひ素吸着量)のほうが、ひ素吸着量が非常に小さくなっているのに対し、本発明の重金属等吸着材(実施例1~2)を用いた場合には、材齢7日(ひ素吸着量:4,623~4,795mg/kg)と材齢28日(ひ素吸着量:4,723~4,730mg/kg)とで、ひ素吸着量はほぼ同じであり、重金属等吸着材の重金属等吸着性能の経時的な低下が、抑制されていることがわかる。
【0029】
[C.ふっ素の吸着性能試験]
[実施例3]
表1に示す鉱物の粉粒状物Bを用いて、以下の手順で、ふっ素の吸着性能試験を行った。
「鉱物の粉粒状物B」90質量部に、酸化マグネシウム含有粉粒状物10質量部(以上の合計100質量部)を加えて混合し、混合物を得た。この混合物とイオン交換水を1:4(混合物:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層を模した試験用材料を調製した。
試験用材料の調製時から所定の材齢(7日または28日)を経過した時点において、試験用材料とふっ素含有水溶液を1:100(試験用材料:ふっ素含有水溶液)の質量比となるように混合して、スラリーを得た。
このスラリーを24時間、200rpmで振とうした後、メンブレンフィルター(目開き:0.45μm)を用いて濾過し、液分である検液を得た。
この検液中のふっ素の濃度を、イオンクロマトグラフ法を用いて、測定した。
得られた測定値に基いて、酸化マグネシウム含有粉粒状物の単位質量(1kg)当たりのふっ素の吸着量を算出した。
[比較例4]
鉱物の粉粒状物Bに代えて、鉱物の粉粒状物Eを用いた以外は実施例3と同様にして、実験を行った。
[比較例5]
鉱物の粉粒状物を用いず、酸化マグネシウム含有粉粒状物のみを用いた以外は実施例3と同様にして、実験を行った。
実施例3及び比較例4~5の結果を、表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
表3から、本発明に該当しない重金属等吸着材(比較例4~5)を用いた場合には、材齢7日に比べて材齢28日のほうが、ふっ素吸着量が非常に小さくなっているのに対し、本発明の重金属等吸着材(実施例3)を用いた場合には、比較例4~5に比べて、ふっ素吸着量の減少幅が小さく、重金属等吸着材の重金属等吸着性能の経時的な低下が、抑制されていることがわかる。
【0032】
[D.透水性能試験]
[実施例4]
表1に示す鉱物の粉粒状物Aを用いて、以下の手順で、透水性能試験を行った。
「鉱物の粉粒状物A」90質量部に、酸化マグネシウム含有粉粒状物10質量部(以上の合計100質量部)を加えて混合し、混合物を得た。この混合物とイオン交換水を1:4(混合物:イオン交換水)の質量比となるように混合して、水を含む吸着層の材料を模した試験用材料を調製した。
この試験用材料について、下記(1)式を用いて、簡易透水係数を算出した。簡易透水係数は、2.6×10-5m/秒であった。