(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126201
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】シート、容器及び包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240912BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240912BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240912BHJP
B65D 81/20 20060101ALI20240912BHJP
B65D 75/32 20060101ALI20240912BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/00 H
B65D65/40 D
B65D81/20 D
B65D75/32
C08L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034429
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西島 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】荒木 慶
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩幸
【テーマコード(参考)】
3E067
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E067AA11
3E067AB01
3E067AC01
3E067BA33A
3E067BB14A
3E067BB25A
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3E086AB01
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3E086BA15
3E086BB05
3E086BB51
3E086CA01
3E086DA08
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK64B
4F100AK66B
4F100AK68E
4F100AT00A
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4J002BB11W
4J002BB11X
4J002BB15W
4J002GF00
4J002GG00
(57)【要約】
【課題】多層バリア容器を用いたスキンパック包装を実現することが可能なシート、容器及び包装体を提供する。
【解決手段】シートは、基材層と、表面層とを具備する。上記表面層は、上記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる表面層と
を具備するシート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートであって、
前記表面層材料は、前記メタロセン系ランダムポリプロピレンとZN(Ziegler-Natta)系触媒用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体である
シート。
【請求項3】
請求項1に記載のシートであって、
前記表面層材料は、前記メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上100重量%以下含む
シート。
【請求項4】
請求項3に記載のシートであって、
前記表面層材料は、前記メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上75重量%以下含む
シート。
【請求項5】
請求項1に記載のシートであって、
前記表面層材料は、120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下かつ120℃における損失正接が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体である
シート。
【請求項6】
請求項1に記載のシートであって、
前記基材層は、メタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなる
シート。
【請求項7】
請求項1に記載のシートであって、
酸素バリア性を有するバリア層
をさらに具備するシート。
【請求項8】
第1基材層と、
前記第1基材層に積層され、酸素バリア性を有するバリア層と、
前記バリア層の前記第1基材層とは反対側に積層された第2基材層と、
前記第2基材層の前記バリア層とは反対側に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる表面層と
を具備するシート。
【請求項9】
基材層と、
前記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる表面層と
を備えるシートが成形された容器。
【請求項10】
基材層と、前記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる表面層とを備えるシートが成形された容器と、
前記表面層に密着したフィルムと
を具備する包装体。
【請求項11】
請求項10に記載の包装体であって、
前記フィルムは、融点が110℃以下の樹脂からなり、前記表面層に密着するシール層を備える
包装体。
【請求項12】
請求項11に記載の包装体であって、
前記シール層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる
包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装に用いられるスキンパック包装に係るシート、容器及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンパック包装は、容器に食品等の被包装品を載置し、包装用フィルムを容器及び被包装品に密着させる包装手法である(例えば、特許文献1参照)。フィルムが被包装品の形状に沿って密着するため、被包装品の固定が可能であり、ディスプレイの多様性の実現や売り場の有効活用ができる。また、被包装品の鮮度保持が可能あるため、食品のおいしい状態の維持やフードロスの削減、計画生産に適する。
【0003】
従来、食品等の包装用容器として多層化により酸素バリア性を付与した多層バリア容器がある。多層バリア容器は、ポリプロピレン等からなる2層の基材層によって酸素バリア性を有するバリア層を挟んだシートを成形した容器であり、被包装品の保存性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリプロピレン等からなる多層バリア容器をスキンパック包装に用いようとすると、フィルムの多層バリア容器に対する密着性が不十分であり、スキンパック包装が実現できないという問題がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、多層バリア容器を用いたスキンパック包装を実現することが可能なシート、容器及び包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシートは、基材層と、表面層とを具備する。上記表面層は、上記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる。
【0008】
この構成を有するシートから容器を成形することができる。メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体からなる表面層に対してスキンパック用フィルムは良好な密着性を有するため、当該容器とフィルムによりスキンパックを形成することが可能となる。
【0009】
上記表面層材料は、上記メタロセン系ランダムポリプロピレンとZN(Ziegler-Natta)系触媒用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体であってもよい。
【0010】
表面層材料をメタロセン系ランダムポリプロピレンとZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体とすることにより、フィルムと良好な密着性を有すると共に外観に優れる容器を形成することが可能となる。
【0011】
上記表面層材料は、上記メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上100重量%以下含んでもよい。
【0012】
表面層材料におけるメタロセン系ランダムポリプロピレンの含有量を25重量%以上100重量%とすることにより、表面層とフィルムの密着性をより向上させることが可能となる。
【0013】
上記表面層材料は、上記メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上75重量%以下含んでもよい。
【0014】
表面層材料におけるメタロセン系ランダムポリプロピレンの含有量を25重量%以上75重量%とすることにより、表面層とフィルムの密着性及び容器の外観をより向上させることが可能となる。
【0015】
上記表面層材料は、120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下かつ120℃における損失正接が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体であってもよい。
【0016】
表面層材料の貯蔵弾性率及び損失正接をこの範囲とすることにより、表面層へのフィルム密着時の温度である120℃において表面層が固体の状態を維持しつつ、表面の分子が動きやすいものとなり、耐熱性を確保しつつ表面層とフィルムの密着性を良好なものとすることができる。
【0017】
上記基材層は、メタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなるものであってもよい。
【0018】
基材層を、メタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなるものとすることにより、シートの耐熱性を向上させることが可能である。
【0019】
上記シートは、酸素バリア性を有するバリア層をさらに具備するものであってもよい。
【0020】
シートがバリア層を備えることにより、シートが酸素を遮断するため、被包装品の鮮度を維持することが可能となる。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシートは、第1基材層と、バリア層と、第2基材層と、表面層とを具備する。
上記バリア層は、上記第1基材層に積層され、酸素バリア性を有する。
上記第2基材層は、上記バリア層の上記第1基材層とは反対側に積層されている。
上記表面層は、上記第2基材層の上記バリア層とは反対側に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る容器は、基材層と、表面層とを備えるシートが成形された容器である。
上記表面層は、上記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る包装体は、容器と、フィルムとを具備する。
上記容器は、基材層と、上記基材層に積層され、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であるメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である表面層材料からなる表面層とを備えるシートが成形されている。
上記フィルムは、上記表面層に密着している。
【0024】
上記フィルムは、融点が110℃以下の樹脂からなり、上記表面層に密着するシール層を備えるものであってもよい。
【0025】
融点が110℃以下の樹脂からなるシール層は、上記表面層に対する密着性が良好となる。
【0026】
上記シール層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなるものであってもよい。
【0027】
エチレン-酢酸ビニル共重合体からなるシール層は、上記表面層に対する密着性が良好となる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、多層バリア容器を用いたスキンパック包装を実現することができる。しかし、当該効果は本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る包装体の模式図である。
【
図3】上記包装体が備える容器を形成するシートの断面図である。
【
図4】上記シートの材料、重量比及び成形温度を示す表である。
【
図6】上記シートが備える表面層の材料を示す表である。
【
図7】上記表面層の材料とフィルムとの密着性を示す表である。
【
図8】上記表面層とフィルムの密着を示す模式図である
【
図9】上記表面層の材料及び物性値とフィルムとの密着性を示す表である。
【
図10】本発明の実施例及び比較例に係る表面層の材料と測定結果を示す表である。
【
図11】本発明の実施例及び比較例に係る動的粘弾性の測定結果のグラフである。
【
図12】上記グラフにおける120℃近傍の貯蔵弾性率を示すグラフである。
【
図13】上記グラフにおける120℃近傍の損失正接を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係る包装体について説明する。
【0031】
[包装体の構成]
図1は本実施形態に係る包装体100の模式図である。
図2は、包装体100の拡大図であり、
図1の範囲Aを拡大して示す。包装体100はスキンパック包装による包装体であり、
図1に示すように被包装品Sを包装する。被包装品Sは食品等であり、特に限定されない。
【0032】
図1及び
図2に示すように包装体100は容器110及びフィルム150を備える。容器110は被包装品Sを収容する容器であり、フィルム150は被包装品S及び容器110に密着する。これにより、被包装品Sは容器110及びフィルム150によって挟まれ、密閉包装される。以下、容器110の被包装品S側の面を表面110aとし、被包装品Sとは反対側の面を裏面110bとする。
【0033】
[容器の構成]
容器110は、多層バリア容器と呼ばれる容器であり、シートが成形されて構成されている。
図3は、容器110を構成するシート120の断面図である。
図4は、シート120の材料、重量比(wt%)及び成形温度の例を示す表である。
図3に示すようにシート120は、裏面層121、第1基材層122、第1接着層123、バリア層124、第2接着層125、第2基材層126及び表面層127を備える。
【0034】
裏面層121は
図3に示すように、容器110のうち裏面110b側に露出する層である。裏面層121はプロピレン系重合体からなり、例えばホモポリプロピレンと低密度ポリエチレンの混合物である「住友ノーブレン(登録商標)FH1016」(住友化学株式会社製)からなる。裏面層121はメタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなるものが耐熱性に優れ、好適である。
【0035】
第1基材層122は裏面層121に積層された層である。第1基材層122はプロピレン系重合体からなり、例えば上述の「住友ノーブレン(登録商標)FH1016」(住友化学株式会社)からなる。第1基材層122はメタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなるものが耐熱性に優れ、好適である。
【0036】
第1接着層123は、第1基材層122の裏面層121とは反対側に積層され、第1基材層122とバリア層124を接着する。第1接着層123は、接着樹脂からなり、例えば無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレンである「モディック(登録商標)AP P604V」(三菱ケミカル株式会社製)からなる。
【0037】
バリア層124は、第1接着層123の第1基材層122とは反対側に積層され、酸素バリア性を有する。バリア層124は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH:ethylene vinylalcohol copolymer)からなり、例えば「エバール(登録商標)F171B」(株式会社クラレ製)からなる。
【0038】
第2接着層125は、バリア層124の第1接着層123とは反対側に積層され、バリア層124と第2基材層126を接着する。第2接着層125は、例えば上述の「モディック(登録商標)AP P604V」(三菱ケミカル株式会社製)からなる。
【0039】
第2基材層126は第2接着層125のバリア層124とは反対側に積層された層である。第2基材層126はプロピレン系重合体からなり、例えば上述の「住友ノーブレン(登録商標)FH1016」(住友化学株式会社)からなる。第2基材層126はメタロセン系触媒を用いずに重合されたプロピレン系重合体からなるものが耐熱性に優れ、好適である。
【0040】
表面層127は第2基材層126の第2接着層125とは反対側に積層された層であり、
図3に示すように、容器110のうち表面110a側に露出する層である。以下、表面層127の材料を「表面層材料」とする。表面層材料については後述する。
【0041】
シート120は以上のような構成を有する。シート120の厚みは例えば0.55mm、表面層127の厚みは例えば50μmである。シート120の構成は上述のものに限られず、少なくとも第2基材層126と表面層127を備えるものであればよい。一方で上述のように、第1基材層122及び第2基材層126でバリア層124を挟んだ構成とすることでバリア層124により酸素の透過を防止し、被包装品Sの品質を維持することが可能である。
【0042】
容器110は、シート120を、真空成形機を用いて成形することで作製することができる。真空成形機による加熱温度は例えば350℃である。
図5に容器110の例を示す。上述のように容器110の表面110aには表面層127が露出する。
【0043】
[フィルムの構成]
フィルム150は、
図2に示すように、基材層151とシール層152を備える。フィルム150は同図に示すように、シール層152が容器110の表面層127側となる向きで容器110に対して配置される。基材層151の構成は特に限定されない。
【0044】
シール層152は、基材層151に積層され、容器110の表面層127に密着する層である。シール層152は、融点が110℃以下の樹脂からなり、具体的にはエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:ethylene vinyl acetate)からなるものが好適である。
【0045】
フィルム150は例えば、「スミライト(登録商標)CEL-9830C」(住友ベークライト株式会社製)とすることができる。
【0046】
[包装体の形成について]
上述のように包装体100は容器110及びフィルム150を用いたスキンパック包装により形成される。スキンパック包装の形成方法としては、容器110に被包装品S(
図1参照)を載置した後、加熱したフィルム150により容器110及び被包装品Sを被覆する。フィルム150の加熱温度は例えば160℃、加熱時間は例えば12秒間である。
【0047】
さらに、フィルム150と容器110の間の空気を排気すると、
図1に示すようにフィルム150が容器110及び被包装品Sに密着し、スキンパック包装が形成される。フィルム150の容器110への密着は、シール層152と表面層127の密着によるものであるため、この密着性が重要となる。スキンパック包装の形成は一般的なトレーシーラーを用いて行うことが可能であり、例えば手動式トレーシーラー「CV/VG-S」(モンディーニ社製)を用いて行うことができる。
【0048】
[表面層材料について]
表面層127の材料である表面層材料について説明する。表面層材料は、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体である。メタロセン系ランダムポリプロピレンはメタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体であり、プロピレン系ランダム共重合体はプロピレンとエチレンをランダムに共重合したポリマーである。
【0049】
図6は表面層材料として検討した各種のプロピレン系ランダム共重合体(
図6中、「ランダムPP」)の組成を示す表である。
図6において、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体はランダムPP1~4に該当する。メタロセン系ランダムポリプロピレンとしては例えば、「ウィンテック(登録商標)WFX6」(日本ポリプロ株式会社製)を用いることができる。
【0050】
また、表面層材料は、メタロセン系ランダムポリプロピレンとZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体であってもよい。ZN系ランダムポリプロピレンはZN(Ziegler-Natta)系触媒用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体である。
【0051】
図6においてメタロセン系ランダムポリプロピレンとZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体はランダムPP2~4に該当する。ZN系ランダムポリプロピレンとしては例えば、「ノバテック(登録商標)EG6D」(日本ポリプロ株式会社製)を用いることができる。なお、表面層材料は、ZN系ランダムポリプロピレンに替えて、他のプロピレン系ランダム共重合体を含むものであってもよい。
【0052】
さらに表面層材料は、組成比ではメタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上100重量%以下含むプロピレン系ランダム共重合体(
図6中、ランダムPP1~4)が好適である。また、表面層材料は、メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上75重量%以下含むプロピレン系ランダム共重合体(
図6中、ランダムPP2~4)がより好適である。
【0053】
加えて表面層材料は、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体であって120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下かつ120℃における損失正接が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体が好適である。
【0054】
[表面層材料による効果について]
表面層材料による効果について説明する。容器110において表面層材料を上述のものとすることにより、表面層127とシール層152(
図2参照)の密着性を向上させ、即ち容器110とフィルム150の密着性を向上させることが可能となる。
【0055】
図7は表面層材料の組成による表面層127とシール層152の密着性評価を示す表であり、「ホモPP」はホモポリプロピレンと低密度ポリエチレンの混合物である。同図に示すように、表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体(
図7中、ランダムPP1~4)である場合、表面層127とシール層152の密着性は良好となる(実施例参照)。一方、表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンを含まないプロピレン系ランダム共重合体(
図7中、ランダムPP5)又はホモPPである場合、表面層127とシール層152密着性は不十分となる(実施例参照)。
【0056】
したがって表面層材料を、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体とすることにより、容器110とフィルム150の密着性を向上させ、包装体100によるスキンパック包装を実現することが可能となる。
【0057】
さらに、表面層材料による容器110の外観について評価すると、
図7に示すように表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンのみからなるプロピレン系ランダム共重合体(
図7中、ランダムPP1)である場合、容器110の外観に表面ムラが生じる。一方、表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上75重量%以下含むプロピレン系ランダム共重合体(
図7中、ランダムPP2~4)である場合、容器110の外観に表面ムラが生じず、外観が良好となる。
【0058】
したがって、表面層材料を、メタロセン系ランダムポリプロピレンを25重量%以上75重量%以下含むプロピレン系ランダム共重合体(
図7中、ランダムPP2~4)とすることにより、容器110とフィルム150の密着性と容器110の外観を共に良好とすることができる。
【0059】
[表面層材料の動的粘弾性について]
表面層材料の動的粘弾性による影響について説明する。
図8は表面層127とシール層152の密着を示す模式図である。
図8(a)は表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンである場合を示す。表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンである場合、
図8(a)に示すように表面層127の表面の分子が動きやすく、この分子がシール層152の材料と混ざり合うため、密着性が良好となると考えられる。
【0060】
一方、
図8(b)は表面層材料がホモポリプロピレン又はZN系ランダムポリプロピレンである場合を示す。表面層材料がこれらの材料である場合、
図8(b)に示すように表面層127の表面の分子が動きにくく、この分子がシール層152の材料と混ざりにくいため、密着性が不十分となると考えられる。
【0061】
したがって、表面層127の表面の分子の動きやすさを表面層材料の貯蔵弾性率によって規定し、同表面の状態を表面層材料の損失正接によって規定する。貯蔵弾性率が高すぎると、表面層127とシール層152の密着性が劣り、低すぎると耐熱性及び成型性が劣る。損失正接が高すぎると耐熱性が劣り、表面層127とシール層152が密着しすぎてしまう。一方、損失生成が低すぎると表面層127とシール層152の密着性が劣る。
【0062】
具体的には表面層材料は、プロピレン系ランダム共重合体であって、120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下のものが好適である。120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下のプロピレン系ランダム共重合体は同温度で耐熱性に優れると共に、表面の分子が動きやすく、表面層127とシール層152の密着性が良好となる。特に120℃における貯蔵弾性率が1.13×107Pa以上2.29×107Pa以下のプロピレン系ランダム共重合体は成形性に優れる。なお、120℃は、シート120と加熱したフィルム150を密着させる際に、表面層127が到達し得る温度である。
【0063】
図9は表面層材料の粘弾性による表面層127とシール層152の密着性評価を示す表である。同図に示すように表面層材料が、120℃における貯蔵弾性率が0.67×10
7Pa以上2.29×10
7Pa以下のプロピレン系ランダム共重合体である場合(
図9中、ランダムPP1~4)、表面層127とシール層152の密着性は良好となる(実施例参照)。
図9に示すように、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体(
図9中、ランダムPP1~4)は120℃における貯蔵弾性率が0.67×10
7Pa以上2.29×10
7Pa以下となる。
【0064】
また表面層材料は、プロピレン系ランダム共重合体であって、120℃における損失正接(tanδ)が0.05以上0.2以下のものが好適である。120℃における損失正接(tanδ)が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体は同温度で固体状態であり、溶融していないため耐熱性に優れ、なおかつシール層152の密着性は良好である。
図9に示すように、いずれの表面層材料も120℃における損失正接(tanδ)が0.05以上0.2以下となる。
【0065】
以上から表面層材料を、120℃における貯蔵弾性率が0.67×107Pa以上2.29×107Pa以下かつ120℃における損失正接が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体とすることにより、120℃で表面層127が固体の状態を維持しつつ、表面の分子が動きやすいものとなる。これにより、表面層127の耐熱性を確保しつつ表面層127とシール層152の密着性を良好とすることができる。
【0066】
したがって、表面層材料として120℃における貯蔵弾性率が0.67×10
7Pa以上2.29×10
7Pa以下かつ120℃における損失正接が0.05以上0.2以下のプロピレン系ランダム共重合体が好適であり、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体(
図9中、ランダムPP1~4)はこの条件を満たすものである。
【実施例0067】
(剥離強度測定)
上記実施形態に係るシートを作製し、裁断した。その後、真空成形機を用いて350℃で成形し、
図5に示す容器を作製した。
図10に各容器を構成するシートの表面層材料を示す。実施例1は表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンのみからなるプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP1)である。実施例2~4は表面層材料がメタロセン系ランダムポリプロピレンとZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP2~4)であり、両者の混合比は
図10に記載のとおりである。
【0068】
比較例1は表面層材料がZN系ランダムポリプロピレンのみからなるプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP5)であり、比較例2は表面層材料がホモポリプロピレンと低密度ポリエチレンの混合物(
図10中、ホモPP)である。
【0069】
実施例1―4及び比較例1においてメタロセン系ランダムポリプロピレンとして「ウィンテック(登録商標)WFX6」(日本ポリプロ株式会社製)を用い、ZN系ランダムポリプロピレンとして「ノバテック(登録商標)EG6D」(日本ポリプロ株式会社製)を用いた。また、実施例2においてホモポリプロピレンとして「住友ノーブレン(登録商標)FH1016」(住友化学株式会社)を用いた。
【0070】
実施例1―4及び比較例1、2に係る容器について、手動式トレーシーラー「CV/VG-S」(モンディーニ社製)を用いてフィルムを密着させ、スキンパック包装を形成した。フィルムの加熱温度は160℃、加熱時間は12秒間とした。フィルムは「スミライト(登録商標)CEL-9830C」(住友ベークライト株式会社製)とし、EVA(ethylene vinyl acetate)からなるシール層が容器の表面層に密着するようにした。
【0071】
フィルムを密着させた各容器の底部を幅15mm、長さ100mmに裁断し、引張試験機で剥離強度を測定した。剥離強度は、引張速度は300mm/minで100mm引っ張ったときの最大値を剥離強度とした。
図10に測定した剥離強度を示す。同図に示すように、実施例1-4では大きい剥離強度が得られたが、比較例1、2では剥離強度は小さいものとなった。以上から表面層材料を、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP1~4)とすることにより、容器とフィルムの密着性を良好とすることが可能であるといえる。
【0072】
さらに、容器外観を観察すると、メタロセン系ランダムポリプロピレンのみからなるプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP1)の場合、容器外観に表面ムラが見られた。一方、メタロセン系ランダムポリプロピレンとZN系ランダムポリプロピレンの混合物からなるプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP2~4)の場合、容器外観に表面ムラが見られなかった。したがって、表面層材料をこのプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、ランダムPP2~4)とすることにより、容器外観を良好なものとすることが可能であるといえる。
【0073】
(動的粘弾性測定)
上記各表面層材料からなる動的粘弾性測定用シート(以下、測定シート)を作製し、動的粘弾性を測定した。測定シートは各表面層材料をφ65mmの単軸押し出し機を用いて230℃で押出し、厚み1.0mmのシートとしたものである。各測定シートについて測定機(Discovery HR-2(TAインスツルメント社製)を用いてトーション(ねじり)測定を実施し、貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G'')を測定した。
【0074】
測定条件はひずみ:0.05%、周波数:1Hz、温度:0℃→130℃(昇温速度:5℃/min)、ギャップ:15mmとした。また、貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G'')から損失正接(tanδ=G''/G')を算出した。
図11は貯蔵弾性率(G')、損失弾性率(G'')及び損失正接(tanδ)の測定結果を示すグラフである。
図12は
図11のうち120℃近傍の貯蔵弾性率(G')を示すグラフであり、
図13は
図11のうち120℃近傍の損失正接(tanδ)を示すグラフである。
【0075】
図12に示すようにホモPPに比べてランダムPP1~5の貯蔵弾性率が低く、メタロセン系ランダムポリプロピレンの含有量が多い(ランダムPP5→1)ほど、高温の貯蔵弾性率が低くなっていることがわかる。このため、メタロセン系ランダムポリプロピレンの含有量が多いほど表面層の表面の分子が動きやすくなるといえる。
【0076】
また
図13に示すように、いずれの表面層材料も120℃付近では損失正接が0.05以上0.2以下であり、固体状態が維持されている。シートの表面層は加熱されたフィルムが接触すると90℃程度になると予測されるが、120℃付近でも固体状態が維持されているため、いずれの表面層材料も十分な耐熱性を有するといえる。
【0077】
以上の測定結果から、上記各表面層材料からなる測定シートの120℃での貯蔵弾性率と損失正接の値を
図10に示す。同図に示すように、実施例1-4では、貯蔵弾性率は0.67×10
7Pa以上2.29×10
7Pa以下と小さい値となり、大きい剥離強度が得られた。一方、比較例1,2では貯蔵弾性率は2.89×10
7Pa以上と大きい値となり、剥離強度は小さいものとなった。また、損失正接は実施例1-4及び比較例1,2のいずれも0.05以上0.2以下となった。
【0078】
以上から表面層材料を、メタロセン系ランダムポリプロピレンを含むプロピレン系ランダム共重合体(
図10中、実施例1~4)とすることにより、表面層が固体の状態を維持しつつ、表面の分子が動きやすいものとなり、容器とフィルムの密着性を良好とすることが可能であるといえる。