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特開2024-126202接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法
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  • 特開-接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126202
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01N27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034431
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 衛央
(72)【発明者】
【氏名】井澤 邦之
(72)【発明者】
【氏名】西村 瑠美
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB02
2G060HB06
2G060HC02
2G060KA01
(57)【要約】

【構成】 検出片と補償片とから成る接触燃焼式ガスセンサを、既知の雰囲気温度で動作温度へ加熱し、接触燃焼式ガスセンサの、空気中での出力を測定する。空気中での出力が正の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が負となり、空気中での出力が負の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が正となるように、接触燃焼式ガスセンサの複数の雰囲気温度での空気中の出力への補正データを発生させ、補正データを記憶する。
【効果】 既知の雰囲気温度で接触燃焼式ガスセンサのオフセットを測定するだけで、オフセットの温度依存性を補正できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出片と補償片とから成る接触燃焼式ガスセンサを、既知の雰囲気温度で動作温度へ加熱し、接触燃焼式ガスセンサの空気中での出力を測定するステップと、
測定した空気中での出力が正の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が負となり、 測定した空気中での出力が負の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が正となるように、既知の雰囲気温度及びそれ以外の温度で、接触燃焼式ガスセンサの複数の雰囲気温度での空気中の出力を補正する補正データを発生させるステップと、
発生させた補正データを記憶するステップ、とを実行する、接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法。
【請求項2】
前記検出片と前記補償片を直列に接続して電圧を加え、検出片と補償片の中間点の出力を、接触燃焼式式ガスセンサの出力とすることを特徴とする、請求項1の接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法。
【請求項3】
前記既知の温度で接触燃焼式ガスセンサのガス感度を測定し、前記補正データの他に、測定したガス感度に関するデータを記憶することを特徴とする、請求項1または2の接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接触燃焼式ガスセンサの雰囲気温度依存性の補正データを、1つの雰囲気温度で、温度を変えずに発生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接触燃焼式ガスセンサは検出片と補償片から成り、これらを直列あるいは並列に接続し、ガスを検出する。検出片は例えば検出対象ガスへの酸化触媒のビーズから成り、補償片は同じサイズのビーズから成るが、検出対象ガスを酸化しない。また検出片と補償片は、Ptコイルなどの測温抵抗体兼用のヒータにより、動作温度へ加熱される。
【0003】
接触燃焼式ガスセンサを動作温度へ加熱すると、一般には、空気中での出力は0から外れる。そこで空気中での出力(オフセット)を測定する。オフセットは雰囲気温度により変化するので、雰囲気温度を変えてオフセットを再度測定する。そして各温度でのオフセットに対応するデータを、補正データとしてガス検出装置に記憶させる。しかし複数の温度でオフセットを測定する作業は手間がかかる。
【0004】
なお接触燃焼式ガスセンサが無視できないオフセットを持ち、しかもオフセットに雰囲気温度依存性があることは、特許文献1(特開平7-306171)の図6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-306171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、1つの雰囲気温度で接触燃焼式ガスセンサのオフセットを測定するだけで、オフセットの温度依存性を補正できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の接触燃焼式ガスセンサの補正データの発生方法では、以下のステップを実行する。
a) 検出片と補償片とから成る接触燃焼式ガスセンサを、既知の雰囲気温度で動作温度へ加熱し、接触燃焼式ガスセンサの、空気中での出力を測定するステップ。
b) 測定した空気中での出力が正の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が負となり、
測定した空気中での出力が負の場合、雰囲気温度への空気中の出力の依存性が正となるように、既知の雰囲気温度及びそれ以外の温度で、接触燃焼式ガスセンサの複数の雰囲気温度での空気中の出力を補正する補正データを発生させるステップ。
c) 発生させた補正データを記憶するステップ。
【0008】
既知の雰囲気温度は、例えば20℃等の一定の温度、あるいは室温などの変化する温度である。そして温度が変動しても、温度が分かれば補正データを発生できる。なお既知の温度を標準温度と呼ぶことがある。それ以外の温度は、実施例では-10℃、55℃、70℃などで代表される温度である。
【0009】
測定時には、前記検出片と前記補償片を例えば直列に接続して電圧を加え、検出片と補償片の中間点の出力を接触燃焼式式ガスセンサの出力とする。直列に接続する代わりに並列に配置し、例えば他の抵抗2個と共にブリッジを構成し、ブリッジの出力をガスセンサの出力としても良い。実用的ではないが、検出片と固定抵抗の直列片と、補償片と固定抵抗の直列片の2個の直列片を設け,各直列片の出力を別々に測定し、それらの差をガスセンサの出力としても良い。
【0010】
好ましくは標準温度で接触燃焼式ガスセンサのガス感度を測定し、補正データの他に、測定したガス感度に関するデータを記憶する。なおガス感度と、標準温度の空気中での出力は別々に測定しても良い。
【0011】
この発明では、既知の雰囲気温度での接触燃焼式ガスセンサの空気中の出力を測定する。図1に示すように、既知の雰囲気温度での空気中の出力と、空気中の出力の温度依存性とには相関が有る。即ち、空気中の出力が正であれば温度依存性は負で、空気中の出力が負であれば温度依存性は正で、これらは符号が逆である。また既知の雰囲気温度での出力の絶対値が大きいほど、温度依存性の絶対値も大きい。従って既知の雰囲気温度での空気中の出力を測定すると、複数の雰囲気温度に対し、空気中の出力を定量的に補正できる補正データが得られる。このようにして温度依存性を補正した例を図4図6に示し、補正前の温度依存性を図3図5に示す。これらの図から、1つの温度での空気中の出力から、複数の雰囲気温度での空気中の出力を補正できることが分かる。
【0012】
接触燃焼式ガスセンサのガス感度は一般にガス濃度に比例するので、例えば1つの濃度でガス感度を測定する。検出対象ガスは、水素、LPガス、メタン、CO等、任意である。
【0013】
記憶するとは、ガス検出装置のメモリに記憶させること、二次元バーコードなどで記憶しガスセンサに例えば貼り付けること、ガスセンサの個体番号と紐付けてサーバのメモリなどに記憶すること、などである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】5個の接触燃焼式ガスセンサのオフセットVo(空気中の出力)の温度依存性を示す特性図で、20℃でのオフセットVo(20℃)を図の右側に示す。
図2図1のガスセンサに対し、実施例に従ってオフセットの温度依存性を補正した結果を示す特性図
図3】他の5個のガスセンサに対する、20℃での空気中の出力(オフセット)と、20℃から-10℃への雰囲気の温度変化に対するオフセットの変化を示す特性図
図4図3のガスセンサに対し、実施例に従ってオフセットの温度依存性を補正した結果を示す特性図
図5】さらに他の5個のガスセンサに対する、20℃での空気中の出力(オフセット)と、20℃から70℃への雰囲気の温度変化に対するオフセットの変化を示す特性図
図6図5のガスセンサに対し、実施例に従ってオフセットの温度依存性を補正した結果を示す特性図
図7】実施例でのガス検出装置の設定アルゴリズムを示すフローチャート
図8】実施例のガス検出装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例0016】
図1図8に実施例を示す。図1に、量産されている接触燃焼式ガスセンサ(水素/メタン/LPガスの検出用で、出願人が製造販売)のオフセットVoの雰囲気温度依存性を示す。20℃でのオフセットVoを0に補正し、-10℃、55℃、70℃の3温度での空気中の出力(20℃でのオフセットに相当する分を補正済み)を示す。また20℃でのオフセットを図の右側に示す。20℃でのオフセットを補正しても、他の温度での空気中の出力は例えば2mV程度、0から外れる。なおこのセンサは例えばメタン5000ppm中で十数mV程度の出力を持ち、2mVのオフセットはメタン換算で数百ppm程度の誤差を与える。
【0017】
図1のデータを見ると、20℃でのオフセットが負のセンサは、オフセットの温度依存性が正である。また20℃でオフセットが正のものは、温度依存性が負である。さらに20℃でのオフセットの絶対値が大きいほど、温度依存性の絶対値も大きい。図1から分かるように、20℃でのオフセットと、オフセットの温度依存性との相関は高い。従って、20℃等の一つの温度で接触燃焼式ガスセンサのオフセットを測定すると、他の雰囲気温度でのオフセットを推定できる。
【0018】
図2は、図1に示した温度依存性を実施例に従って補正した結果を示す。オフセットの温度依存性は数分の一に補正されている。なお図2図6では、回帰分析により補正した。
【0019】
図3図4は、20℃と-10℃間のオフセットを補正した例を示す。図2と同様に、図4ではオフセットが小さくなっている。
【0020】
図5図6は、20℃と70℃間のオフセットを補正した例を示す。図2と同様に、図6ではオフセットが小さくなっている。なお図2図4図6で用いたセンサは、同じ規格の別のセンサである。
【0021】
図1図6では、20℃を標準温度(既知の温度)として、-10℃~70℃での温度依存性を補正した。しかし標準温度は任意で、補正する温度範囲も任意である。
【0022】
発明者は、20℃でのオフセットとその温度依存性とが相関する機構を次のように推定した。補償片の温度をTc、検出片の温度をTdとし、標準的には20℃で共に500℃であると仮定する。雰囲気温度がΔTだけ変化しても、TcとTdは共にΔTだけ変化し、温度の差は変化しない。ここで検出片の温度Tdが補償片の温度Tcからシフトしていると仮定する。オフセットが生じるのは、補償片と検出片でビーズのサイズが異なるなどのためである。そしてオフセットが有ると、両者の温度は一致しない。なお図8のように、補償片6が電位が高い側に、検出片4がアース側に接続されているとする。
【0023】
TdがTcよりもbだけ低い場合、検出片の温度が補償片に比べて低く、20℃でのオフセットVoは負となる。雰囲気温度が ΔT だけ増加すると、検出片の温度は Td+ΔT=Tc-b+ΔT となり、補償片の温度は Tc+ΔT となる。温度の比は (Tc-b+ΔT)/(Tc+ΔT) となり、元の (Tc-b)/Tc よりも1に近づき、オフセットは0に近づく。負のオフセットを打ち消すので、オフセットの温度依存性は正となる。逆に、雰囲気温度がΔTだけ減少すると、検出片の温度は Td-ΔT=Tc-b-ΔT となり、補償片の温度は Tc-ΔT となる。温度の比は (Tc-b-ΔT)/(Tc-ΔT) となり、元の (Tc-b)/Tc よりも1から外れ、オフセットはさらに負になる(絶対値が増す)。
【0024】
bが正の場合、20℃でのオフセットは正で、雰囲気温度がΔT増加すると、温度の比は (Tc+b+ΔT)/(Tc+ΔT) となり、元の (Tc+b)/Tc よりも1に近づくため、オフセットの温度依存性は負となる。また雰囲気温度がΔTだけ減少すると、検出片の温度は Td-ΔT=Tc-b-ΔT となり、補償片の温度は Tc-ΔT となる。温度の比は (Tc+b-ΔT)/(Tc-ΔT) となり、元の Tc/(Tc+b) よりも1から外れ、オフセットは増加する。以上の機構により、20℃でのオフセットと、オフセットの温度依存性は正負が逆になる。ここでは検出片を接地側に配置したが、補償片を接地側に配置しても結果は同じである。
【0025】
図7に、接触燃焼式ガスセンサを用いたガス検出装置の設定方法を示す。ここでは検出片はPtコイルを酸化触媒で覆ったビーズから成り、補償片はPtコイルを不活性な酸化物で覆ったビーズから成るものとする。また補償片と検出片は同じベース上に設けられているものとする。このような接触燃焼式ガスセンサの代わりに、1個のシリコン基板上に2個のMEMSヒータ(Pt製)を設け、一方のMEMSヒータに酸化触媒層を,他方のMEMSヒータに不活性な酸化物層を設けても良い。
【0026】
最初に接触燃焼式ガスセンサを動作温度に加熱する(ステップ1)。標準温度(例えば20℃)での空気中の出力(オフセットVo)を測定する(ステップ2)。また所定濃度の検出対象ガス中で、ガス感度を測定する(ステップ3)。なお標準温度でのオフセットをオフセットの温度依存性データへ変換する式を、同種のガスセンサを用いて作成済みであるものとする。
【0027】
ステップ2で測定した標準温度でのオフセットから、上記の変換式を用い、他の温度でのオフセットの補正データを発生させる(ステップ4)。実施例の場合、-10℃、55℃、70℃での補正データを発生させ、これらの中間の温度では記憶した補正データを補間する。測定した20℃でのオフセットと、ガス感度を示すデータ、及び温度補正データを、そのガスセンサを搭載するガス検出装置に記憶させる(ステップ5)。なお20℃で空気中の出力とガス感度を測定し、20℃の空気中の出力と空気中の出力の温度依存性から、-10℃、30℃、60℃などの、空気中の出力の補正データを発生させても良い。
【0028】
例えばこれらのデータを二次元バーコードなどの形式で記憶し、ガスセンサにバーコードをプリントしたラベルを貼り付け、あるいは印刷する。そしてガス検出装置の組み立て時に二次元バーコードを読み取り、検出装置のメモリに記憶させる。あるいは接触燃焼式ガスセンサをガス検出装置に実装した後、ガス検出装置を標準温度での空気中とガス中に置き、ガス検出装置に空気中の出力とガス感度とを測定させる。そして測定した空気中の出力から温度依存性の補正データを発生させ、ガス感度及び標準温度での温度依存性と共に、検出装置のメモリに記憶させる。
【0029】
実施例では、標準温度でのオフセットと、オフセットの温度依存性を別の種類のデータとして説明した。しかし各温度毎にオフセットがあるものと考え、標準温度でのオフセットから他の温度でのオフセットの推定値を発生させると考えても良い。この場合、オフセットの温度依存性という概念は現れない。
【0030】
図8にガス検出装置2を示す。4は接触燃焼式ガスセンサの検出片、6は補償片である。Rは抵抗で、8はサーミスタなどの測温素子8、Vcは電源である。マイクロコンピュータ10のA/Dコンバータ12により、検出片4と補償片6の中間の電位を読み取り、また測温素子8の出力から雰囲気温度を測定する。メモリ16にガス感度に関するデータを記憶させる。なお接触燃焼式ガスセンサのガス感度はガス濃度に比例する。メモリ18には標準温度のオフセットと、オフセットの温度依存性の補正データとを記憶させる。
【0031】
プロセッサ14は、A/Dコンバータ12からのガスセンサの出力に対し、メモリ18の補正データを用いて、標準温度でのオフセットを補正し、オフセットの温度依存性も補正する。オフセットとその温度依存性を補正済みの出力と、メモリ16のガス感度のデータを用い、ガス濃度を求める。ガス濃度が警報濃度以上の場合、アラーム信号をセットする。
【0032】
求めたデータを出力インターフェース20から外部へ出力する。例えばガス濃度の信号と、アラーム信号の有無とを出力する。
【符号の説明】
【0033】
2 ガス検出装置
4 検出片
6 補償片
8 測温素子
10 マイクロコンピュータ
12 A/Dコンバータ
14 プロセッサ
16,18 メモリ
20 出力インターフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8