(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126216
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】汚泥焼却設備、及びクリンカ成長防止方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/06 20060101AFI20240912BHJP
F23M 3/04 20060101ALI20240912BHJP
F23G 5/30 20060101ALI20240912BHJP
F23G 5/44 20060101ALI20240912BHJP
F23G 7/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C02F11/06 B ZAB
F23M3/04
F23G5/30 G
F23G5/44 F
F23G7/00 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034455
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏紀
(72)【発明者】
【氏名】藤平 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】宍田 健一
【テーマコード(参考)】
3K065
3K161
4D059
【Fターム(参考)】
3K065GA03
3K065GA12
3K065GA14
3K065GA34
3K065GA43
3K161AA21
3K161CA01
3K161DA02
3K161DA52
3K161EA31
3K161HA54
3K161HA72
3K161HB03
4D059AA03
4D059BB01
4D059BB11
4D059CA06
4D059CA14
4D059EB10
(57)【要約】
【課題】クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる汚泥焼却設備を提供する。
【解決手段】汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉2を備えた汚泥焼却設備1であって、汚泥の燃焼に伴い発生する排ガスと接触するガス接触部(耐火材65、炉壁70)の温度が600℃以下に設定され、ガス接触部に冷却用流体を供給する冷却装置71を備え、冷却用流体として、燃焼用空気の一部が用いられ、排ガスから熱を回収し、回収した熱を利用して蒸気を発生させるボイラ3を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉を備えた汚泥焼却設備であって、
前記汚泥の燃焼に伴い発生する排ガスと接触するガス接触部の温度が600℃以下に設定される汚泥焼却設備。
【請求項2】
前記ガス接触部に冷却用流体を供給する冷却装置を備える請求項1に記載の汚泥焼却設備。
【請求項3】
前記冷却用流体として、燃焼用空気の一部が用いられる請求項2に記載の汚泥焼却設備。
【請求項4】
前記排ガスに対する除塵処理を含む処理を行う排ガス処理装置をさらに備え、
前記冷却用流体として、前記排ガス処理装置によって処理された後の排ガスが用いられる請求項2に記載の汚泥焼却設備。
【請求項5】
前記汚泥焼却炉は、前記汚泥を搬送しながら燃焼させるストーカを有し、
前記ガス接触部は、前記ストーカに隣接又は近接する炉壁を含み、
前記炉壁に前記冷却用流体が供給される請求項2に記載の汚泥焼却設備。
【請求項6】
前記排ガスから熱を回収し、回収した熱を利用して蒸気を発生させるボイラを備える請求項1~5の何れか一項に記載の汚泥焼却設備。
【請求項7】
前記ガス接触部は、水を熱媒として通流される水管壁を覆い当該水管壁を介して前記排ガスから熱を回収可能な熱伝導性を有する耐火材を含む請求項1~5の何れか一項に記載の汚泥焼却設備。
【請求項8】
汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉を備えた汚泥焼却設備において、クリンカの成長を防止するクリンカ成長防止方法であって、
前記汚泥の燃焼に伴い発生する排ガスと接触するガス接触部に冷却用流体を供給することで前記ガス接触部の温度を600℃以下に維持する冷却工程を包含するクリンカ成長防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉を備えた汚泥焼却設備、及び当該汚泥焼却設備においてクリンカの成長を防止するクリンカ成長防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水などの下水処理においては、一般的に汚泥処理として、下水から汚泥を分離する分離工程と、分離された汚泥を濃縮・脱水して脱水汚泥とする脱水工程と、脱水汚泥を焼却炉で焼却する焼却工程とが行われる。
【0003】
焼却工程では、流動床式焼却炉を用いることが多い。流動床式焼却炉は、砂などの流動媒体に熱風を吹き込んで流動床を形成し、その流動床中で脱水汚泥を加熱して焼却する形式の焼却炉である(例えば、特許文献1を参照)。また、汚泥乾燥機を用いて脱水汚泥を乾燥し、所定の含水率以下の乾燥汚泥にしてからストーカ式焼却炉で焼却することも行われている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-206717号公報
【特許文献2】特開2022-108479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、汚泥中には、リンが高濃度で含有されている。このため、排ガス中に含まれる焼却灰(飛灰等)において、リンを含有する低融点化合物が生成し、この低融点化合物を含む焼却灰が、燃焼室を構成する炉壁や、燃焼室よりも排ガス流れ下流側の煙道等に付着・堆積し、固化するとクリンカとなる。このクリンカが成長肥大すると、燃焼室においては、汚泥の流動や、燃焼用空気の流れが阻害されて焼却できない状況となったり、煙道においては、排ガスの流れが阻害されて煙道が閉塞したりして、いわゆるクリンカトラブルが発生し、これによって汚泥焼却設備の連続操業に支障を来すという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる汚泥焼却設備、及びクリンカ成長防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
排ガスと接触する炉壁等のガス接触部に低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰が付着したとしても、600℃以下であれば、焼却灰に粘着性が生じることなく安定しており、付着量が一定以上を超えると、自重によってガス接触部から剥がれ落ちるが、600℃を超えた状況では、低融点化したリン化合物の影響により、焼却灰の一部に粘着性が生じ、粘着性が生じた焼却灰粒子どうしが凝集して堆積することが判明した。従って、ガス接触部の温度を600℃以下にすれば、焼却灰に粘着性が生じることがなく、凝集・堆積することを未然に防ぐことができ、これによってクリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができるとの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
要するに、上記課題を解決するための本発明に係る汚泥焼却設備の特徴構成は、
汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉を備えた汚泥焼却設備であって、
前記汚泥の燃焼に伴い発生する排ガスと接触するガス接触部の温度が600℃以下に設定されることにある。
【0009】
本構成の汚泥焼却設備によれば、ガス接触部の温度が600℃以下に設定されるので、低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰がガス接触部に付着したとしても、焼却灰に粘着性が生じることなく安定しており、付着量が一定以上を超えると、自重によってガス接触部から剥がれ落ちる。従って、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる。
【0010】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記ガス接触部に冷却用流体を供給する冷却装置を備えることが好ましい。
【0011】
本構成の汚泥焼却設備によれば、冷却装置によって供給される冷却用流体によりガス接触部が600℃以下に維持されるので、クリンカトラブルの発生を確実に防ぐことができる。
【0012】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記冷却用流体として、燃焼用空気の一部が用いられることが好ましい。
【0013】
本構成の汚泥焼却設備によれば、燃焼用空気の一部が冷却用流体(冷却用空気)としてガス接触部に供給されるので、冷却用空気を供給するための専用の送風機等を別途設ける必要がなく、コスト削減を図ることができる。
【0014】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記排ガスに対する除塵処理を含む処理を行う排ガス処理装置をさらに備え、
前記冷却用流体として、前記排ガス処理装置によって処理された後の排ガスが用いられることが好ましい。
【0015】
本構成の汚泥焼却設備によれば、燃焼によって酸素含有率が比較的低くなっており、さらに排ガス処理装置によって除塵処理を含む処理がなされた後の排ガスが冷却用流体としてガス接触部に供給されるので、冷却用流体を炉内側に吹き出す構造の冷却装置を採用したとしても、炉内においてサーマルNOxの発生を抑制することができるとともに、粉塵付着等の悪影響を与えることなくガス接触部を冷却することができる。
【0016】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記汚泥焼却炉は、前記汚泥を搬送しながら燃焼させるストーカを有し、
前記ガス接触部は、前記ストーカに隣接又は近接する炉壁を含み、
前記炉壁に前記冷却用流体が供給されることが好ましい。
【0017】
本構成の汚泥焼却設備によれば、ストーカに隣接又は近接する炉壁が冷却用流体によって600℃以下に維持されるので、ストーカ式汚泥焼却炉の燃焼室においてクリンカトラブルの発生を確実に防ぐことができる。
【0018】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記排ガスから熱を回収し、回収した熱を利用して蒸気を発生させるボイラを備えることが好ましい。
【0019】
本構成の汚泥焼却設備によれば、排ガスから熱が回収され、回収された熱によって蒸気が発生されるので、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐと同時に、蒸気を発電等に有効利用することができる。
【0020】
本発明に係る汚泥焼却設備において、
前記ガス接触部は、水を熱媒として通流される水管壁を覆い当該水管壁を介して前記排ガスから熱を回収可能な熱伝導性を有する耐火材を含むことが好ましい。
【0021】
本構成の汚泥焼却設備によれば、耐火材によって水管壁を保護しつつ、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができるので、汚泥焼却設備を長期に亘って安定的に連続操業することができる。
【0022】
次に、上記課題を解決するための本発明に係るクリンカ成長防止方法の特徴構成は、
汚泥を燃焼させる汚泥焼却炉を備えた汚泥焼却設備において、クリンカの成長を防止するクリンカ成長防止方法であって、
前記汚泥の燃焼に伴い発生する排ガスと接触するガス接触部に冷却用流体を供給することで前記ガス接触部の温度を600℃以下に維持する冷却工程を包含することにある。
【0023】
本構成のクリンカ成長防止方法によれば、冷却工程の実施によってガス接触部が600℃以下に維持されるので、低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰がガス接触部に付着したとしても、焼却灰に粘着性が生じることなく安定しており、付着量が一定以上を超えると、自重によってガス接触部から剥がれ落ちる。従って、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、第一実施形態の汚泥焼却設備の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第二実施形態の汚泥焼却設備の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、600~700℃における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。
【
図4】
図4は、800~900℃における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。
【
図5】
図5は、1000~1200℃及び冷却後における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0026】
〔第一実施形態〕
<全体構成>
図1は、第一実施形態の汚泥焼却設備1の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、汚泥焼却設備1は、脱水汚泥乾燥機100が付設されたストーカ式の汚泥焼却炉2を備えている。汚泥焼却炉2の下流側には、ボイラ3、エコノマイザ4、減温塔5、ろ過式集塵機6、誘引送風機7及び煙突8がこの記載順に配設されている。減温塔5及びろ過式集塵機6は、排ガス処理装置9を構成するものである。
【0027】
汚泥焼却炉2では、脱水汚泥乾燥機100によって脱水汚泥が乾燥された後の汚泥(乾燥汚泥)が燃焼される。本明細書において、「汚泥」とは、排水処理や下水処理の過程で出てくる泥状の物質で有機物と無機物との集合体のことである。なお、以下の説明において、脱水汚泥及び乾燥汚泥を総称して単に「汚泥」と称する場合がある。
【0028】
汚泥焼却炉2での汚泥の燃焼に伴い発生した排ガスは、誘引送風機7の誘引作用により、ボイラ3、エコノマイザ4、及び排ガス処理装置9に順に送り込まれる。
【0029】
ボイラ3では、排ガスから熱を回収し、回収した熱を利用して蒸気(水蒸気)を発生させる。エコノマイザ4では、ボイラ3に供給する水を排ガスの余熱を利用して加熱する。減温塔5では、エコノマイザ4からの排ガスを、ろ過式集塵機6での除塵処理に適した所定温度まで冷却する。ろ過式集塵機6では、排ガスに含まれる飛灰(ダスト)等を除去する。
【0030】
そして、飛灰等が除去された後の排ガスは、誘引送風機7により煙突8を介して外部に排出される。なお、図示による詳細説明は省略するが、汚泥焼却炉2及びボイラ3を含む燃焼ボイラ設備において発生させた蒸気は、タービン発電機(図示省略)に供給されて発電に利用される。
【0031】
<汚泥焼却炉>
汚泥焼却炉2は、一次燃焼室11及び二次燃焼室12を有する炉本体10を備えている。炉本体10の一側(
図1において左側)には、脱水汚泥乾燥機100からの汚泥を受け入れるホッパ15が配設されるとともに、ホッパ15で受け入れた汚泥を炉本体10内に供給する汚泥供給装置16が配設されている。炉本体10の下部側には、汚泥を搬送しながら燃焼させるストーカ20が配設されるとともに、ストーカ20に一次燃焼空気を供給するための一次燃焼空気供給装置21が配設されている。炉本体10における一次燃焼室11の上方側に形成される二次燃焼室12には、二次燃焼空気供給装置22によって二次燃焼空気が供給される。二次燃焼室12のさらに上方側には、再循環排ガス供給装置23によって再循環排ガスが供給される。
【0032】
<ストーカ>
ストーカ20は、可動火格子と固定火格子とが交互に階段状に配列された階段式ストーカである。ストーカ20は、乾燥段を形成する乾燥ストーカ31、燃焼段を形成する燃焼ストーカ32、及び後燃焼段を形成する後燃焼ストーカ33が、汚泥送り方向(汚泥搬送方向)の上流側から下流側に向けて順に区分けされている。乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33のそれぞれには、当該ストーカ31~33における可動火格子を往復動させるストーカ駆動装置(図示省略)が連結されている。
【0033】
乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33のそれぞれの下部側には、風箱35が付設されている。そして、一次燃焼空気供給装置21からの一次燃焼空気が、風箱35を介して、乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33にそれぞれ供給される。
【0034】
<一次燃焼空気供給装置>
一次燃焼空気供給装置21は、一次燃焼空気を送り出す送風機41と、送風機41からの一次燃焼空気が流通される主管路42と、主管路42から分岐して乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33のそれぞれに対応する風箱35に繋がる第一分岐管路43、第二分岐管路44及び第三分岐管路45とを備え、送風機41からの一次燃焼空気を、主管路42から第一分岐管路43、第二分岐管路44及び第三分岐管路45を介して乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33へとそれぞれ供給するように構成されている。
【0035】
主管路42には、主流量調節ダンパ46が介設されている。また、第一分岐管路43、第二分岐管路44及び第三分岐管路45には、それぞれ第一流量調節ダンパ47、第二流量調節ダンパ48及び第三流量調節ダンパ49が介設されている。一次燃焼空気供給装置21においては、流量調節ダンパ46~49に対して図示されない制御装置から制御信号を送信し、乾燥ストーカ31、燃焼ストーカ32及び後燃焼ストーカ33に対する一次燃焼空気の供給量を制御するようにされている。
【0036】
<二次燃焼空気供給装置>
二次燃焼空気供給装置22は、二次燃焼空気を送り出す送風機51と、この送風機51からの二次燃焼空気を二次燃焼室12へと導く管路52とを備え、送風機51からの二次燃焼空気を、管路52を通して二次燃焼室12内に供給するように構成されている。管路52には、制御装置からの制御信号に応じて二次燃焼空気の供給量を調節するための流量調節ダンパ53が介設されている。
【0037】
<再循環排ガス供給装置>
再循環排ガス供給装置23は、煙突8から大気中へ排出される低温の排ガスの一部を再循環排ガスとして送り出す送風機55と、この送風機55からの再循環排ガスを汚泥焼却炉2内へと導く管路56とを備え、送風機55からの再循環排ガスを、管路56を通して汚泥焼却炉2内に供給するように構成されている。管路56には、制御装置からの制御信号に応じて再循環排ガスの供給量を調節するための流量調節ダンパ57が介設されている。
【0038】
<ボイラ>
ボイラ3は、タンク60を備えるとともに、タンク60から給水される水を熱媒として通流される水管壁61、蒸発管62及び過熱管63を備えている。水管壁61は、気密を保つよう、並列状に配置した複数の伝熱管を連結して構成されている。水管壁61は、炉本体10における一次燃焼室11の上部を形成するとともに、炉本体10における二次燃焼室12を形成する。蒸発管62及び過熱管63は、ボイラ3の輻射パスに配され、二次燃焼室12から送られた排ガスから熱を回収する。蒸発管62は、排ガスから回収した熱によって水を加熱して蒸発させ、過熱管63は、蒸気をさらに過熱して過熱蒸気として図示されないタービン発電機に供給する。
【0039】
<耐火材>
水管壁61における排ガス通流域に臨ませた側は、所要の耐火材65によって覆われている。本例において、耐火材65は、水管壁61における一次燃焼室11の上部を形成する部分と、水管壁61における二次燃焼室12を形成する部分とに装着されている。耐火材65は、排ガスと直接接触するガス接触部である。耐火材65としては、素材の種類や厚みなど特に限定されるものではないが、当該耐火材65における排ガスと接触する側の表面温度(以下、単に「耐火材65の表面温度」と称する。)が600℃以下となるように、ボイラ3が水管壁61及び当該耐火材65を介して排ガスの熱を回収可能な熱伝導性を有するものが用いられる。
【0040】
ボイラ3においては、耐火材65の表面温度が600℃以下となり、且つ発電等に必要な蒸気を発生することができるように、水管壁61及び耐火材65を介しての排ガスとの熱交換量が設定されている。こうして、排ガスと直接接触するガス接触部である耐火材65の表面温度が600℃以下となるように排ガスから熱が回収され、回収された熱によって必要とする蒸気が発生されるので、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐと同時に、発生した蒸気を発電等に有効利用することができる。また、ボイラ3においては、耐火材65によって水管壁61を保護しつつ、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができるので、汚泥焼却設備1を長期に亘って安定的に連続操業することができる。
【0041】
<冷却装置>
炉本体10におけるストーカ20の汚泥搬送方向に向かって両側に隣接又は近接する炉壁70は、排ガスと直接接触するガス接触部である。汚泥焼却炉2には、炉壁70を冷却する第一冷却装置71が付設されている。本例において、第一冷却装置71は、供給される冷却用流体(冷却用ガス)によって炉壁70を冷却する冷却構造部72と、大気を吸い込んでそれを冷却用空気(冷却用ガス)として送り出す送風機73と、送風機73からの冷却用空気を冷却構造部72へと導く管路74と、管路74に介設される流量調節ダンパ75とを備え、送風機73からの冷却用空気を、管路74を介して冷却構造部72に供給することにより、炉壁70における排ガスと接触する側の表面温度(以下、単に「炉壁70の表面温度」と称する。)が600℃以下となるように炉壁70を冷却する。
【0042】
冷却構造部72としては、例えば、冷却用空気の通路を壁の内部に設け、この通路に冷却用空気を通流することで炉壁70を冷却する構造のものや、排ガスと接触する側の壁面に沿って冷却用空気を吹き出す、又は壁面に向かって冷却用空気を吹き出す吹出口を壁に設けることで炉壁70を冷却する構造のものなどが挙げられる。
【0043】
第一冷却装置71においては、炉壁70の表面温度を検出する温度検出手段の検出結果に基づいて、制御装置から流量調節ダンパ75に制御信号を送信し、冷却用空気の供給量を制御するように構成することが好ましい。こうすることで、炉壁70の表面温度を確実に600℃以下に維持することができる。なお、温度検出手段としては、炉本体10に温度計76を配設して炉壁70の表面温度を直接検出するものや、冷却構造部72から送り出された、冷却に供された後の冷却用空気の温度から炉壁70の表面温度を推算するものなどが挙げられる。
【0044】
図3は、600~700℃における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。温度が600℃程度までは、
図3(a)に示すように、低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰は、全体的に白色でさらさらした感じの形態であり、焼却灰に粘着性が生じることなく安定している。このような状態の焼却灰が、排ガスと接触する耐火材65や炉壁70等のガス接触部に付着したとしても、付着量が一定以上を超えると、自重によってガス接触部から剥がれ落ちる。ところが、600℃を超えた状況では、低融点化したリン化合物の影響により、焼却灰の一部に粘着性が生じる。この現象は、外部から見える現象として、焼却灰が部分的に変色する(グレースケールの写真である
図3(b)においてはグレーに変色している)現象と共に現れる。
【0045】
図4は、800~900℃における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。温度が800~900℃程度までさらに上昇すると、
図4(a)~(b)に示すように、焼却灰において変化がさらに進み、焼却灰の全体に粘着性が生じる。この現象は、外部から見える現象として、濃色に変色するとともに、変色する領域が拡大する(グレースケールの写真である
図4(a)~(b)においてはグレーから黒色に近い色に変色するとともに、変色する領域が拡大している)現象と共に現れる。
【0046】
図5は、1000~1200℃及び冷却後における焼却灰の状態を示す図(顕微鏡写真)である。温度が1000℃程度までさらに上昇すると、
図5(a)に示すように、粘着性が生じた焼却灰粒子どうしが凝集して堆積する。そして、温度が1100~1200℃程度までさらに上昇すると、
図5(b)~(c)に示すように、凝集・堆積した焼却灰が溶融し、その後、
図5(d)に示すように、溶解物が固化したクリンカとなる。
【0047】
従って、ガス接触部の温度を600℃以下にすれば、
図3(a)に示すように、焼却灰に粘着性が生じることがなく、
図5(a)に示すような凝集・堆積するような現象を未然に防ぐことができ、これによってクリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる。
【0048】
汚泥焼却設備1において、ボイラ3は、耐火材65の表面温度が600℃以下となるように、水管壁61及び耐火材65を介して排ガスの熱を回収する。また、第一冷却装置71は、炉壁70の表面温度が600℃以下となるように、送風機73からの冷却用空気を、管路74を介して冷却構造部72に供給する(冷却工程)。こうして、排ガスと直接接触するガス接触部である耐火材65及び炉壁70の表面温度が600℃以下に設定されるので、低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰が耐火材65及び炉壁70に付着したとしても、焼却灰に粘着性が生じることなく安定しており、付着量が一定以上を超えると、自重によって耐火材65及び炉壁70から剥がれ落ちる。従って、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる。
【0049】
汚泥焼却設備1において、炉壁70を冷却するために、第一冷却装置71に代えて、あるいは第一冷却装置71とともに第二冷却装置81を用いてもよい。第二冷却装置81は、冷却構造部72と、主管路42から分岐して冷却構造部72に繋がる分岐管路82と、分岐管路82に介設される流量調節ダンパ83とを備え、送風機41から送り出される一次燃焼空気の一部を冷却用空気として分岐管路82を介して冷却構造部72に供給することにより、炉壁70の表面温度が600℃以下となるように炉壁70を冷却する。この第二冷却装置81においても、炉壁70の表面温度を検出する温度検出手段の検出結果に基づいて、制御装置から所定の制御信号を流量調節ダンパ83に送信し、冷却用空気の供給量を制御するように構成することが好ましい。こうして、ストーカ20に供給される一次燃焼用空気の一部が炉壁70に冷却用空気として供給されるので、冷却用空気を炉壁70に供給するための専用の送風機等を別途設ける必要がなく、コスト削減を図ることができる。なお、図示による説明は省略するが、第二冷却装置81と同様にして、一次燃焼空気に代えて、二次燃焼空気の一部を冷却用空気として冷却構造部72に供給する構成の冷却装置を採用することも可能である。
【0050】
汚泥焼却設備1において、炉壁70を冷却するために、第一冷却装置71又は第二冷却装置81に代えて、あるいは第一冷却装置71及び/又は第二冷却装置81とともに第三冷却装置91を用いてもよい。第三冷却装置91は、冷却構造部72と、誘引送風機7及び煙突8の間を接続する管路から分岐して冷却構造部72に繋がる分岐管路92と、分岐管路92に介設される流量調節ダンパ93とを備え、排ガス処理装置9によって処理された後において誘引送風機7から煙突8に向かって流れる排ガスの一部を冷却用ガスとして分岐管路92を介して冷却構造部72に供給することにより、炉壁70の表面温度が600℃以下となるように炉壁70を冷却する。この第三冷却装置91においても、炉壁70の表面温度を検出する温度検出手段の検出結果に基づいて、制御装置から所定の制御信号を流量調節ダンパ93に送信し、冷却用ガスの供給量を制御するように構成することが好ましい。こうして、汚泥焼却炉2での燃焼によって酸素含有率が比較的低くなっており、さらに排ガス処理装置9によって除塵処理を含む処理がなされた後の排ガスが、炉壁70に冷却用ガスとして供給されるので、炉内側に冷却用ガスを吹き出す構造を採用したとしても、炉内においてサーマルNOxの発生を抑制することができるとともに、粉塵付着等の悪影響を与えることなく炉壁70を冷却することができる。
【0051】
〔第二実施形態〕
図2は、第二実施形態の汚泥焼却設備201の概略構成を示す模式図である。
図2に示すように、汚泥焼却設備201は、脱水汚泥供給機300が付設された循環流動床式の汚泥焼却炉202を備えている。汚泥焼却設備201において、図示されない脱水機で脱水された脱水汚泥は、脱水汚泥供給機300から汚泥焼却炉202の炉本体203に設けられた汚泥供給口204を介して炉本体203の下部の流動床205上に供給される。また、送風機206によって供給される一次燃焼空気はウインドボックス207から流動ノズル208を通して流動床205内へ噴出され、燃焼物である汚泥のいわゆる流動燃焼が行われる。なお、炉本体203の下部側壁からは、図示されてはいないが適宜量の二次燃焼空気が炉本体203内へ供給され、未燃焼ガス等の二次燃焼が行われる。同様に、炉本体203の下部へは熱量供給のために適宜量の化石燃料(補助燃料)が供給される場合がある。また、起動時には図示されないオーバヘッドバーナ又は熱風発生炉209が作動され、炉本体203の昇温用の熱が供給される。
【0052】
流動床205を形成する流動媒体としては、所定範囲の粒径の例えば硅砂が使用されており、流動ノズル208から噴出される一次燃焼空気によって激しく撹拌・流動され、流動床205が形成される。また、高温状態にある流動床205内へ供給された汚泥は、一次燃焼空気によって流動媒体と撹拌されつつ燃焼される。汚泥の燃焼に伴い発生した排ガスや撹拌状態にある流動媒体の一部は、一次燃焼空気により上方へ吹き上げられ、炉本体203の上部の開口部203aを通してサイクロン部210内へ流入し、ここで排ガスと流動媒体や固形灰(図示省略)との分離が行われる。分離された流動媒体や固形灰はループシール部211を通して炉本体203の下部へ戻される。このように、流動媒体は連続的に循環され、炉本体203内を汚泥中の可燃物と流動媒体とが撹拌されながら上昇する間に、汚泥中の可燃物が完全燃焼される。
【0053】
なお、詳細図示による説明は省略するが、サイクロン部210の下流側には空気予熱器や、排ガス処理装置等が、また炉本体203の下方部には流動床205内から灰分を取り出す灰取出し装置等が設けられている。
【0054】
<冷却装置>
炉本体203における流動床205の上方の炉壁220は、排ガスと直接接触するガス接触部である。汚泥焼却炉202には、炉壁220を冷却する第四冷却装置221が付設されている。本例において、第四冷却装置221は、供給される冷却用流体(冷却用ガス)によって炉壁220を冷却する冷却構造部222と、大気を吸い込みそれを冷却用空気として送り出す送風機223と、送風機223からの冷却用空気を冷却構造部222へと導く管路224と、管路224に介設される流量調節ダンパ225とを備え、送風機223からの冷却用空気を、管路224を介して冷却構造部222に供給することにより、炉壁220における排ガスと接触する側の表面温度(以下、単に「炉壁220の表面温度」と称する。)が600℃以下となるように炉壁220を冷却する。
【0055】
冷却構造部222としては、第一実施形態と同様に、例えば、冷却用空気の通路を壁の内部に設け、この通路に冷却用空気を通流することで炉壁220を冷却する構造のものや、排ガスと接触する側の壁面に沿って冷却用空気を吹き出す吹出口を壁に設けることで炉壁220を冷却する構造のものなどが挙げられる。
【0056】
第四冷却装置221においては、第一実施形態と同様に、炉壁220の表面温度を検出する温度検出手段の検出結果に基づいて、制御装置から流量調節ダンパ225に制御信号を送信し、冷却用空気の供給量を制御するようにするのが好ましい。こうすることで、炉壁220の表面温度を確実に600℃以下に維持することができる。なお、温度検出手段としては、第一実施形態と同様に、炉本体203に温度計226を配設して炉壁220の表面温度を直接検出するものや、冷却構造部222から送出された、冷却に供された後の冷却用空気の温度から炉壁220の表面温度を推算するものなどが挙げられる。
【0057】
汚泥焼却設備201において、第四冷却装置221は、炉壁220の表面温度が600℃以下となるように、送風機223からの冷却用空気を、管路224を介して冷却構造部222に供給する(冷却工程)。こうして、排ガスと直接接触するガス接触部である炉壁220の表面温度が600℃以下に設定されるので、低融点化合物(リン化合物)を含む焼却灰が炉壁220に付着したとしても、焼却灰に粘着性が生じることなく安定しており、付着量が一定以上を超えると、自重によって炉壁220から剥がれ落ちる。従って、クリンカトラブルの発生を未然に防ぐことができる。
【0058】
なお、汚泥焼却設備201において、第四冷却装置221に代えて、第一実施形態における第二冷却装置81と同様に、一次燃焼用空気の一部を利用して冷却する冷却装置や、第一実施形態における第三冷却装置91と同様に、除塵処理後の排ガスの一部を利用して冷却する冷却装置を採用してもよい。
【0059】
以上、本発明の汚泥焼却設備、及びクリンカ成長防止方法について、複数の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【0060】
上記実施形態において、第一~第四冷却装置71,81,91,221は、冷却用空気や冷却用ガスを用いた空冷壁構造である例を示したが、これに限定されるものではなく、冷却用流体として水を用いた水冷壁構造を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の汚泥焼却設備、及びクリンカ成長防止方法は、リンを高濃度で含有する汚泥の焼却に伴うクリンカトラブルを防止する用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,201 汚泥焼却設備
2,202 汚泥焼却炉
3 ボイラ
9 排ガス処理装置
20 ストーカ
61 水管壁
65 耐火材(ガス接触部)
70,220 炉壁(ガス接触部)
71,221 冷却装置