(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126218
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240912BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B32B7/025
H01B5/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034457
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋野 昇平
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
【テーマコード(参考)】
4F100
5G307
【Fターム(参考)】
4F100AA17C
4F100AA17D
4F100AA28C
4F100AA28D
4F100AA33C
4F100AA33D
4F100AB01E
4F100AB24E
4F100AB31E
4F100AK25
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CB05
4F100EH662
4F100EH66C
4F100EH66D
4F100EH66E
4F100GB41
4F100JB14
4F100JG01C
4F100JG01D
4F100JK12
4F100JN01
4F100JN01C
4F100YY00
4F100YY00C
5G307FA02
5G307FB01
5G307FC10
(57)【要約】
【課題】透明導電層において屈曲時の割れを抑制するのに適した透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】透明導電性フィルムXは、保護フィルム20と、基材フィルム10と、透明導電層30とを、厚さ方向Hにこの順で備える。透明導電層30の基材フィルム10とは反対側の表面30aにおける、粒径25nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合が、50%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護フィルムと、基材フィルムと、透明導電層とを厚さ方向にこの順で備え、
前記透明導電層の前記基材フィルムとは反対側の表面における、粒径25nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合が、50%以下である、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層が、前記基材フィルム側から第1導電性酸化物層と、金属層と、第2導電性酸化物層とをこの順で含む、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記第1導電性酸化物層および/または前記第2導電性酸化物層がインジウムスズ複合酸化物層である、請求項2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記金属層が銀層または銀合金層である、請求項2または3に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記保護フィルムと前記基材フィルムとの合計厚さが100μm以上である、請求項1から3のいずれか一つに記載の透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製の透明な基材フィルムと透明な導電層(透明導電層)とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムが知られている。透明導電層は、例えば、調光デバイス、液晶ディスプレイ、およびタッチパネルなどの各種デバイスにおける透明電極を形成するための導体膜として用いられる。透明導電層は、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置により、長尺の基材フィルム上に形成される(成膜工程)。成膜工程では、例えば、スパッタ成膜装置の成膜室内が真空ポンプによって排気されつつ、当該成膜室内を通過する基材フィルム上に、反応性スパッタリング法によって結晶性導電材料が成膜される。このような透明導電性フィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透明導電性フィルムには、同フィルムの屈曲時に、透明導電層に割れが生じにくいことが求められる。一方、透明導電性フィルムにおいては、透明導電層の露出表面(基材フィルムとは反対側の表面)における結晶粒の大きさと密度が、屈曲時の透明導電層における割れの生じやすさに影響を与える。このような知見を、本発明者らは得た。
【0005】
本発明は、透明導電層において屈曲時の割れを抑制するのに適した透明導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、保護フィルムと、基材フィルムと、透明導電層とを厚さ方向にこの順で備え、前記透明導電層の前記基材フィルムとは反対側の表面における、粒径25nm以上の、全結晶粒中の個数割合が、50%以下である、透明導電性フィルムを含む。
【0007】
本発明[2]は、前記透明導電層が、前記基材フィルム側から第1導電性酸化物層と、金属層と、第2導電性酸化物層とをこの順で含む、上記[1]に記載の透明導電性フィルムを含む。
【0008】
本発明[3]は、前記第1導電性酸化物層および/または前記第2導電性酸化物層がインジウムスズ複合酸化物層である、上記[2]に記載の透明導電性フィルムを含む。
【0009】
本発明[4]は、前記金属層が銀層または銀合金層である、上記[2]または[3]に記載の透明導電性フィルムを含む。
【0010】
本発明[5]は、前記保護フィルムと前記基材フィルムとの合計厚さが100μm以上である、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の透明導電性フィルムを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電性フィルムでは、上記のように、透明導電層の基材フィルムとは反対側の表面(外側表面)における、粒径25nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合が、50%以下である。このような透明導電層は、透明導電層が屈曲外側となるように透明導電性フィルムが屈曲される場合に、同層の外側表面に生じる引張り応力に抗して、割れの起点が形成されるのを抑制するのに適する。したがって、本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層において屈曲時の割れを抑制するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の透明導電性フィルムの一実施形態の断面模式図である。
【
図2】
図1に示す透明導電性フィルムの製造方法の工程図である。
図2Aは用意工程を表し、
図2Bは貼合せ工程を表し、
図2Cは透明導電層形成工程を表す。
【
図3】
図3Aは、繰返し屈曲試験において試験片がフラットな状態を表し、
図3Bは、繰返し屈曲試験において試験片が湾曲された状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態としての透明導電性フィルムXは、
図1に示すように、基材フィルム10と、保護フィルム20と、透明導電層30とを備える。具体的には、透明導電性フィルムXは、保護フィルム20と、基材フィルム10と、透明導電層30とを、厚さ方向Hにこの順で備える。透明導電性フィルムXは、厚さ方向Hと直交する方向(面方向)に広がる。
図1は、透明導電性フィルムXが巻き回されてロールRの形態を有する場合を例示的に示す。このような透明導電性フィルムXは、例えば、調光デバイスの透明電極を形成するための導電性フィルムである。透明導電性フィルムXは、調光デバイスの光通過箇所に配置される。透明導電性フィルムXは、タッチセンサ装置、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、または画像表示装置に備えられる一要素であってもよい。
【0014】
基材フィルム10は、透明導電性フィルムXの強度を確保する基材である。基材フィルム10は、第1面11と、当該第1面11とは反対側の第2面12とを有する。基材フィルム10は、例えば、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。当該樹脂フィルムの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマーが挙げられる。アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリレートが挙げられる。樹脂フィルムの材料としては、例えば透明性および強度の観点から、好ましくはポリエステル樹脂が用いられ、より好ましくはPETが用いられる。
【0015】
基材フィルム10は、樹脂フィルムの片面または両面にハードコート層(図示略)が形成された多層構造を有してもよい。ハードコート層は、硬化性樹脂組成物の硬化物である。硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂を含有する。硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、ウレタン樹脂(アクリルウレタン樹脂を除く)、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。これら硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層の高硬度の確保の観点から、硬化性樹脂としては、好ましくは、アクリルウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。また、硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型樹脂および熱硬化型樹脂が挙げられる。高温加熱せずに硬化可能であるために透明導電性フィルムの製造効率向上に役立つ観点から、硬化性樹脂としては、紫外線硬化型樹脂が好ましい。
【0016】
硬化性樹脂組成物は、粒子を含有してもよい。粒子としては、例えば、無機酸化物粒子および有機粒子が挙げられる。無機酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、および酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル・スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、およびポリカーボネートが挙げられる。
【0017】
ハードコート層の厚さは、透明導電性フィルムXにおいて充分な耐擦過性を発現させる観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上である。ハードコート層の厚さは、透明導電性フィルムXの透明性を確保する観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下である。
【0018】
基材フィルム10の第1面11および/または第2面12は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0019】
基材フィルム10の厚さは、基材フィルム10の強度と取り扱い性とを確保する観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。基材フィルム10の厚さは、基材フィルム10の薄型化の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは120μm以下、一層好ましくは100μm以下である。
【0020】
基材フィルム10の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保する観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。基材フィルム10の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0021】
保護フィルム20は、樹脂フィルム21と、樹脂フィルム21上の粘着剤層22とを備える片面粘着保護フィルムである。保護フィルム20の粘着剤層22側が、基材フィルム10の第1面11に貼り合わせられている。
【0022】
樹脂フィルム21は、例えば、可撓性を有する樹脂フィルムである。樹脂フィルム21の材料としては、例えば、基材フィルム10の樹脂フィルムの材料として上記した材料が挙げられる。樹脂フィルム21の材料としては、樹脂フィルム21の強度を確保する観点から、好ましくは、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つが用いられ、より好ましくは、COPおよびPETからなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。
【0023】
樹脂フィルム21における粘着剤層22側表面は、粘着剤層22との密着性を高めるための表面改質処理が施されてもよい。この表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理、クロム酸処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0024】
樹脂フィルム21の厚さは、後述の透明導電層形成工程において透明導電層30の表面30aを形成するスパッタ成膜時に樹脂フィルム21を良好な水分供給源として機能させる観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは70μm以上、更に好ましくは100μm以上である。樹脂フィルム21の厚さは、保護フィルム20の薄型化の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは170μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
【0025】
粘着剤層22は、粘着性組成物から形成された感圧接着剤層である。粘着性組成物は、粘着性の発現のためのベースポリマーを含有する。ベースポリマーとしては、例えば、アクリルポリマー、ゴムポリマー、ポリエステルポリマー、ウレタンポリマー、ポリエーテルポリマー、シリコーンポリマー、ポリアミドポリマー、およびフッ素ポリマーが挙げられる。
【0026】
粘着剤層22の厚さは、粘着剤層22の粘着力を確保する観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。粘着剤層22の厚さは、保護フィルム20の薄型化の観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0027】
保護フィルム20の厚さは、後述の透明導電層形成工程において透明導電層30の表面30aを形成するスパッタ成膜時に保護フィルム20を良好な水分供給源として機能させる観点から、好ましくは31μm以上、より好ましくは73μm以上、更に好ましくは105μm以上である。保護フィルム20の厚さは、保護フィルム20の薄型化の観点から、好ましくは230μm以下、より好ましくは195μm以下、更に好ましくは170μm以下である。
【0028】
基材フィルム10と保護フィルム20は積層フィルムWを形成する。積層フィルムWの厚さ(基材フィルム10と保護フィルム20の合計厚さ)は、積層フィルムWの強度と取り扱い性とを確保する観点から、好ましくは51μm以上、より好ましくは103μm以上、更に好ましくは145μm以上である。積層フィルムWの厚さは、積層フィルムWの薄型化の観点から、好ましくは430μm以下、より好ましくは345μm以下、更に好ましくは270μm以下である。基材フィルム10の厚さに対する保護フィルム20の厚さの比率は、積層フィルムWの強度、取り扱い性および薄型化のバランスをとる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上であり、また、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下である。
【0029】
透明導電層30は、基材フィルム10の第2面12側に配置されている。透明導電層30は、本実施形態では、導電性酸化物層31(第1導電性酸化物層)と、金属層32と、導電性酸化物層33(第2導電性酸化物層)とを、基材フィルム10側から厚さ方向Hにこの順で有する。導電性酸化物層31は、基材フィルム10の第2面12に接する。導電性酸化物層31と金属層32とは、互いに接する。金属層32と導電性酸化物層33とは、互いに接する。このような透明導電層30は、光透過性と導電性とを兼ね備える。
【0030】
導電性酸化物層31の材料としては、例えば、インジウム含有導電性酸化物およびアンチモン含有導電性酸化物が挙げられる。インジウム含有導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、およびインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)が挙げられる。アンチモン含有導電性酸化物としては、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。導電性酸化物層31の高い透明性と良好な電気伝導性とを実現する観点から、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。このITOは、InおよびSn以外の金属または半金属を、InおよびSnのそれぞれの含有量より少ない量で含有してもよい。
【0031】
導電性酸化物としてITOが用いられる場合、導電性酸化物層31の酸化スズ割合は、常温大気下での導電性酸化物層31の過度な結晶化を抑制する観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。酸化スズ割合は、透明導電層30において良好な加湿信頼性を得る観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0032】
ITOにおける酸化スズ割合は、例えば次のようにして同定できる。まず、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、測定対象物としてのITOにおけるインジウム原子(In)とスズ原子(Sn)の存在比率を求める。ITO中のInおよびSnの各存在比率から、ITO中のInの原子数に対するSnの原子数の比率を求める。これにより、ITOにおける酸化スズ割合が得られる。また、ITOにおける酸化スズ割合は、成膜時に用いるITOターゲットの酸化スズ(SnO2)含有割合からも特定できる。
【0033】
導電性酸化物層31の厚さは、透明導電層30の低抵抗化の観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上である。導電性酸化物層31の厚さは、透過光の色調を調整する観点から、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは70nm以下である。
【0034】
金属層32の材料としては、例えば、銀、銀合金、銅、および銅合金が挙げられる。金属層32の材料としては、好ましくは、銀または銀合金が用いられる。銀合金が用いられる場合、銀合金における銀の割合は、金属層32および透明導電層30の低抵抗化の観点から、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。銀の割合は、例えば、100質量%未満である。
【0035】
金属層32の厚さは、透明導電層30の低抵抗化の観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上である。金属層32の厚さは、透明導電層30において高透過率を確保する観点から、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは15nm以下である。
【0036】
導電性酸化物層33の材料としては、例えば、導電性酸化物層31を形成する材料として上記した材料が挙げられる。導電性酸化物層33の材料としては、導電性酸化物層33の高い透明性と良好な電気伝導性とを実現する観点から、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。このITOは、InおよびSn以外の金属または半金属を、InおよびSnのそれぞれの含有量より少ない量で含有してもよい。ITOが用いられる場合、導電性酸化物層33の酸化スズ割合は、常温大気下での導電性酸化物層33の過度な結晶化を抑制する観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。同酸化スズ割合は、透明導電層30において良好な加湿信頼性を得る観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0037】
導電性酸化物層33の厚さは、透明導電層30において良好な加湿信頼性を得る観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上である。導電性酸化物層33の厚さは、透過光の色調を調整する観点から、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは70nm以下である。
【0038】
透明導電層30の厚さは、透明導電層30の低抵抗化の観点から、好ましくは50μm以上、より好ましくは70μm以上、更に好ましくは80μm以上である。透明導電層30の厚さは、透明導電性フィルムXの屈曲時に透明導電層30の割れを抑制する観点から、好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0039】
透明導電層30の表面抵抗は、透明導電層30の低抵抗化の観点から、好ましくは30Ω/□以下、より好ましくは20Ω/□以下、更に好ましくは15Ω/□以下、特に好ましくは12Ω/□以下である。表面抵抗は、例えば1Ω/□以上である。表面抵抗は、表面抵抗率である。透明導電層の表面抵抗率は、JIS K7194(1994年)に準拠した四端子法によって測定できる。
【0040】
透明導電層30の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、透明導電層30に求められる透明性を確保する観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。透明導電性フィルムXの全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0041】
透明導電性フィルムXの全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保する観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。透明導電性フィルムXの全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0042】
透明導電層30の表面30a(本実施形態では、導電性酸化物層33の露出表面)における、粒径25nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合(第1割合)が、50%以下である。このような構成は、透明導電層30が屈曲外側となるように透明導電性フィルムXが屈曲される場合に、透明導電層30の表面30a(外側表面)に生じる引張り応力に抗して、割れの起点が形成されるのを抑制するのに適する。したがって、透明導電性フィルムXは、透明導電層30において屈曲時の割れを抑制するのに適する。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。透明導電層30の表面30aにおける、粒径25nm以上の結晶粒の個数割合の調整方法としては、例えば、後記の透明導電層形成工程において表面30aを形成するスパッタ成膜での、成膜室内の水分圧の調整が挙げられる。粒径25nm以上の結晶粒の個数割合の測定方法は、具体的には、実施例に関して後述するとおりである。
【0043】
上記の第1割合は、透明導電層30において屈曲時の割れを抑制する観点から、好ましくは50%未満以下、より好ましくは45%以下、更に好ましくは40%以下である。第1割合は、例えば20%以上である。
【0044】
透明導電層30の表面30aにおける、粒径35nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合(第2割合)は、透明導電層30において屈曲時の割れを抑制する観点から、好ましくは15%未満、より好ましくは10%以下、更に好ましくは8%以下である。第2割合は、例えば3%以上である。
【0045】
透明導電層30の表面30aにおける、粒径50nm以上の結晶粒の、全結晶粒中の個数割合(第3割合)は、透明導電層30において屈曲時の割れを抑制する観点から、好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下である。第3割合は、例えば0%以上である。
【0046】
透明導電性フィルムXは、例えば以下のように製造される。
【0047】
まず、
図1Aに示すように、長尺の基材フィルム10を用意する。基材フィルム10の長さは、例えば100m以上であり、また、例えば5000m以下である。基材フィルム10の幅は、例えば200mm以上であり、また、例えば3000mm以下である。
【0048】
次に、
図1Bに示すように、長尺の基材フィルム10の第1面11に、長尺の保護フィルム20を貼り合わせる(貼合せ工程)。本工程では、ロールトゥロール方式のラミネート装置により、基材フィルム10の第1面11に、保護フィルム20の粘着剤層22側を貼り合わせる。これにより、長尺の積層フィルムWを得る。貼合せ工程は、本実施形態では、大気雰囲気下で実施される。貼合せ工程は、減圧雰囲気下で実施されてもよい。減圧雰囲気としては真空雰囲気が挙げられる。
【0049】
次に、
図1Cに示すように、積層フィルムWにおける基材フィルム10の第2面12上に透明導電層30を形成する(透明導電層形成工程)。具体的には、第2面12上に、導電性酸化物層31(第1導電性酸化物層)と、金属層32と、導電性酸化物層33(第2導電性酸化物層)とを、厚さ方向Hにこの順で成膜する。これにより、透明導電性フィルムXを得る。
【0050】
本実施形態では、スパッタリング法によって透明導電層30を形成する。スパッタリング法では、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を使用する。スパッタリング成膜装置は、例えば、繰出し室と、第1~第3成膜室と、巻取り室とを、ワークフィルムの流れ経路においてこの順で備える。繰出し室は、繰出しローラを備える。繰出しローラには、ワークフィルムとしての積層フィルムW(保護フィルム20付き基材フィルム10)のロールをセットする。巻取り室は、ワークフィルムを巻き取り可能な巻取りローラを備える。第1~第3成膜室は、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施可能である。本工程では、スパッタ成膜装置(繰出し室,第1~第3成膜室,巻取り室)内を真空ポンプによって排気しつつ、長尺状の積層フィルムWを、繰出し室の繰出しローラから巻取り室の巻取りローラまで走行させる。この積層フィルムWに対し、第1成膜室での第1スパッタ成膜と、第2成膜室での第2スパッタ成膜と、第3成膜室での第3スパッタ成膜とを順次に実施し、巻取りローラに透明導電性フィルムX(透明導電層30付き積層フィルムW)を巻き取る。これにより、透明導電性フィルムXのロールRを得る。
【0051】
第1成膜室での第1スパッタ成膜においては、反応性スパッタリング法を実施する。具体的には、第1成膜室内に減圧雰囲気下で不活性ガスと反応性ガスとを導入しつつ、第1成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。不活性ガス(スパッタリングガス)としては、例えば、アルゴンおよびクリプトンが挙げられる。反応性ガスとしては、例えば、酸素が挙げられる。
【0052】
第1スパッタ成膜中の第1成膜室内(減圧雰囲気)の気圧は、スパッタ成膜におけるプラズマ放電の維持の観点から、好ましくは0.05Pa以上、より好ましくは0.1Pa以上、更に好ましくは0.15Pa以上である。第1スパッタ成膜中の第1成膜室内の気圧は、導電性酸化物層31の低抵抗化の観点から、好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.5Pa以下、更に好ましくは0.3Pa以下である。
【0053】
第1スパッタ成膜中の第1成膜室内の反応性ガスの分圧は、導電性酸化物層31の低抵抗化の観点から、好ましくは0.5×10-3Pa以上、より好ましくは1.0×10-3Pa以上、更に好ましくは3.0×10-3Pa以上、特に好ましくは4.0×10-3Pa以上である。第1スパッタ成膜中の第1成膜室内の反応性ガスの分圧は、導電性酸化物層31の過度な結晶化を抑制するの観点から、好ましくは10×10-3Pa以下、より好ましくは8.0×10-3Pa以下、更に好ましくは7.0×10-3Pa以下である。
【0054】
第1スパッタ成膜中の第1成膜室内の水分圧は、例えば0.5×10-4Pa以上であり、また、例えば2.0×10-3Pa以下である。
【0055】
ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、およびRF電源が挙げられる。電源としては、DC電源とRF電源とを併用してもよい。成膜中の放電電圧の絶対値は、例えば50V以上であり、また、例えば500V以下である。このような電源の種類および放電電圧の絶対値については、第2スパッタ成膜および第3スパッタ成膜においても同様である。
【0056】
第1スパッタ成膜中のワークフィルム(積層フィルムW)の温度(成膜温度)は、ワークフィルムからのアウトガスを抑制する観点から、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下、一層好ましくは0℃以下、特に好ましくは-2℃以下である。同温度は、例えば、-50℃以上、-20℃以上または-10℃以上である。このような成膜温度については、第2スパッタ成膜および第3スパッタ成膜においても同様である。
【0057】
第2成膜室での第2スパッタ成膜においては、非反応性のスパッタリング法を実施する。具体的には、第2成膜室内に減圧雰囲気下で不活性ガスを導入しつつ、第2成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。不活性ガス(スパッタリングガス)としては、例えば、アルゴンおよびクリプトンが挙げられる。
【0058】
第2スパッタ成膜中の第2成膜室内(減圧雰囲気)の気圧は、スパッタ成膜におけるプラズマ放電の維持の観点から、好ましくは0.05Pa以上、より好ましくは0.1Pa以上、更に好ましくは0.15Pa以上である。第2スパッタ成膜中の第2成膜室内の気圧は、金属層32の低抵抗化の観点から、好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.6Pa以下、更に好ましくは0.4Pa以下である。第2スパッタ成膜中の第2成膜室内の水分圧は、例えば0.5×10-4Pa以上であり、また、例えば2.0×10-3Pa以下である。
【0059】
第3成膜室での第3スパッタ成膜においては、反応性スパッタリング法を実施する。具体的には、第3成膜室内に減圧雰囲気下で不活性ガスと反応性ガスとを導入しつつ、第3成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。不活性ガス(スパッタリングガス)としては、例えば、アルゴンおよびクリプトンが挙げられる。反応性ガスとしては、例えば、酸素が挙げられる。
【0060】
第3スパッタ成膜中の第3成膜室内(減圧雰囲気)の気圧は、スパッタ成膜におけるプラズマ放電の維持の観点から、好ましくは0.05Pa以上、より好ましくは0.1Pa以上、更に好ましくは0.15Pa以上である。第3スパッタ成膜中の第3成膜室内の気圧は、導電性酸化物層33の低抵抗化の観点から、好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.5Pa以下、更に好ましくは0.3Pa以下である。
【0061】
第3スパッタ成膜中の第3成膜室内の反応性ガスの分圧は、導電性酸化物層33の低抵抗化の観点から、好ましくは0.5×10-3Pa以上、より好ましくは1.0×10-3Pa以上、更に好ましくは3.0×10-3Pa以上、特に好ましくは4.0×10-3Pa以上である。第3スパッタ成膜中の第3成膜室内の反応性ガスの分圧は、導電性酸化物層33の過度な結晶化を抑制するの観点から、好ましくは10×10-3Pa以下、より好ましくは8.0×10-3Pa以下、更に好ましくは6.0×10-3Pa以下、特に好ましくは5.5×10-3Pa以下である。
【0062】
第3スパッタ成膜中の第3成膜室内の水分圧は、透明導電層30の表面30a(導電性酸化物層33の露出表面)における上述の結晶粒密度を200個/μm2以上に調整する観点から、好ましくは0.2×10-3Pa以上、より好ましくは0.5×10-3Pa以上、更に好ましくは0.8×10-3Pa以上、特に好ましくは1.0×10-3Pa以上であり、また、好ましくは3.0×10-3Pa以下、より好ましくは2.0×10-3Pa以下、更に好ましくは1.5×10-3Pa以下、特に好ましくは1.3×10-3Pa以下である。第3成膜室内を通過するワークフィルムが基材フィルム10に加えて保護フィルム20を有することは、第3成膜室内の水分圧を確保するのに好ましい。
【0063】
本発明者らは、透明導電性フィルムの製造プロセスに関し、次のような知見を得ている。スパッタ成膜工程において、成膜室内の水分圧が低いほど、成膜される結晶性導電材料の結晶粒が大きい(水分圧が高いほど、同材料の結晶成長が阻まれる)。成膜された結晶性導電材料の結晶粒が大きいほど、当該材料によって形成される層は、屈曲時に割れが生じやすい。ロールトゥロール方式のスパッタ成膜工程では、成膜室内(真空ポンプによる排気が続けられる)において、水分圧が次第に低下する。第3成膜室内の水分圧に関する上記構成は、このような知見に基づくものである。
【0064】
以上のようにして、透明導電性フィルムXのロールRを製造できる。透明導電性フィルムXは、デバイス製造ラインに供給される。保護フィルム20は、所定のタイミングで、基材フィルム10から剥がされる。
【0065】
透明導電性フィルムXにおいて、透明導電層30は単層構造を有してもよい。そのような透明導電層30の材料としては、例えば、導電性酸化物層31を形成する材料として上記した材料が挙げられ、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。
【実施例0066】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0067】
〔実施例1〕
実施例1の透明導電性フィルムを、以下のように作製した。
【0068】
まず、基材フィルムを作製した(用意工程)。具体的には、まず、透明な樹脂フィルムとしての長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm,東レ社製)の一方面に、アクリル樹脂を含有する紫外線硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させてハードコート層(厚さ2μm)を形成した。次に、PETフィルムの他方面に、上記の紫外線硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させてハードコート層(厚さ2μm)を形成した。以上のように、基材フィルム(両面ハードコート層付きPETフィルム)を作製した。
【0069】
次に、基材フィルムの一方面(第1面)に、片面粘着保護フィルム(厚さ145μm,日東電工社製)を貼り合わせた(貼合せ工程)。片面粘着保護フィルムは、厚さ125μmのPET製の透明基材と、同基材上の厚さ20μmのアクリル粘着剤層とを有する。貼合せ工程では、ロールトゥロール方式のラミネート装置により、大気雰囲気下で、基材フィルムの第1面に、片面粘着保護フィルムの粘着剤層側を貼り合わせた。これにより、ロール状の積層フィルム(保護フィルム付き基材フィルム)を得た。この積層フィルムロールにおいて、基材フィルムはロールの径方向内側に配置され、保護フィルムは径方向外側に配置されている。
【0070】
次に、積層フィルムの基材フィルムの他方面(第2面)上に透明導電層を形成した(透明導電層形成工程)。具体的には、積層フィルムにおける第2面上に、第1導電性酸化物層と、金属層と、第2導電性酸化物層とをこの順で成膜して、透明導電層を形成した。本工程では、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタ成膜装置)を使用した。同装置は、繰出し室と、第1~第3成膜室と、巻取り室とを備える。繰出し室は、繰出しローラを備える。繰出しローラには、ワークフィルムとして上述の積層フィルム(保護フィルム付き基材フィルム)のロールをセットした。巻取り室は、ワークフィルムを巻き取り可能な巻取りローラを備える。第1~第3成膜室は、繰出し室から巻取り室までロールトゥロール方式でワークフィルムを走行させつつ、成膜プロセスを実施可能である。
【0071】
本工程では、具体的には、第1成膜室での第1スパッタ成膜と、第2成膜室での第2スパッタ成膜と、第3成膜室での第3スパッタ成膜とを順次に実施し、巻取り室の巻取りローラにワークフィルム(透明導電層付き積層フィルム)を巻き取った。第1スパッタ成膜では、基材フィルムの第2面上に第1導電性酸化物層(厚さ40nm)を形成した。続く第2スパッタ成膜では、第1導電性酸化物層上に金属層(厚さ5nm)を形成した。続く第3スパッタ成膜では、金属層上に第2導電性酸化物層(厚さ40nm)を形成した。本実施例における各スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。
【0072】
第1スパッタ成膜においては、スパッタ成膜装置(繰出し室,第1~第3成膜室,巻取り室)内の到達真空度が0.9×10-4Paに至るまでを真空排気した後、第1成膜室内に、スパッタリングガスとしてのアルゴンと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、第1成膜室内の気圧を0.26Paとし、第1成膜室内の酸素分圧を5.0×10-3Paとした。また、第1成膜室内の水分圧を10秒毎に測定し、平均水分圧は0.9×10-3Paであった。ターゲットとしては、インジウムスズ複合酸化物(ITO)の焼結体(酸化スズ濃度が12.5質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。成膜温度(第1導電性酸化物層が形成されるワークフィルムの温度)は-8℃とした。
【0073】
第2スパッタ成膜においては、スパッタ成膜装置の上述の真空排気の後、第2成膜室内に、スパッタリングガスとしてのアルゴンを導入し、第2成膜室内の気圧を0.3Paとした。また、ターゲットとしては、Ag合金(品番「No.317」,三菱マテリアル社製)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。成膜温度(金属層が形成されるワークフィルムの温度)は-8℃とした。
【0074】
第3スパッタ成膜においては、スパッタ成膜装置の上述の真空排気の後、第3成膜室内に、スパッタリングガスとしてのアルゴンと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、第3成膜室内の気圧を0.26Paとし、第3成膜室内の酸素分圧を4.9×10-3Paとした。また、第3成膜室内の水分圧を10秒毎に測定し、平均水分圧は1.1×10-3Paであった。ターゲットとしては、インジウムスズ複合酸化物(ITO)の焼結体(酸化スズ濃度が12.5質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。成膜温度(第2導電性酸化物層が形成されるワークフィルムの温度)は-8℃とした。
【0075】
以上のようにして、実施例1のロール状の透明導電性フィルムを作製した。実施例1の透明導電性フィルムは、保護フィルム(厚さ145μm)と、基材フィルム(厚さ54μm)と、第1導電性酸化物層(第1のITO層,厚さ40nm)と、金属層(銀合金層,厚さ5nm)と、第2導電性酸化物層(第2のITO層,厚さ40nm)とを、厚さ方向にこの順で有する。
【0076】
〔実施例2〕
次のこと以外は実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、実施例2の透明導電性フィルムを作製した。透明導電層形成工程の第3スパッタ成膜において、第3成膜室内の酸素分圧を、4.9×10-3Paに代えて6.4×10-3Paとした。
【0077】
〔比較例1〕
次のこと以外は実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、比較例1の透明導電性フィルムを作製した。貼合せ工程を実施しなかった。透明導電層形成工程の第3スパッタ成膜において、第3成膜室内の酸素分圧を、4.9×10-3Paに代えて5.4×10-3Paとした。
【0078】
第3成膜室内の平均水分圧は1.5×10-4Paであった。このように、比較例1の透明導電性フィルムの第3スパッタ成膜では、実施例1,2の透明導電性フィルムの第3スパッタ成膜よりも、水分圧が有意に低かった。これは、第3成膜室内を通過するワークフィルムにおける保護フィルムの有無の違いによる。
【0079】
〈結晶性〉
実施例1,2および比較例1における各透明導電層の結晶粒密度を調べた。具体的には、次のとおりである。
【0080】
まず、透明導電性フィルムから、所定サイズの試料フィルムを切り出した(実施例1,2の各透明導電性フィルムについては、基材フィルムから保護フィルムを剥がした後に試料フィルムを切り出した)。次に、試料フィルムの透明導電層の露出表面を、電界放射型走査電子顕微鏡(品名「Regulus8230」,Hitachi製)によって観察した。この観察では、反射電子像において、加速電圧0.8kV、倍率20万倍、および試料距離(WD)2.2mmの条件で、試料フィルムを平面視で撮影した。次に、撮影画像中の個々の一次粒子を画像解析によって識別した(識別工程)。次に、識別された粒子について、その円相当直径を算出した。“円相当直径”とは、識別された粒子(一次粒子)と同じ面積を有する円(真円)の直径をいう。各粒子について、算出された円相当直径をその粒子の粒径とした。次に、粒径25nm以上の結晶粒の個数、粒径35nm以上の結晶粒の個数、および、粒径50nm以上の結晶粒の個数を、カウントした。次に、上述の識別工程で識別された粒子の全個数における、粒径25nm以上の結晶粒の個数割合(%)、粒径35nm以上の結晶粒の個数割合(%)、および、粒径50nm以上の結晶粒の個数割合(%)を、算出した。その結果を表1に示す。
【0081】
〈繰返し屈曲試験〉
実施例1,2および比較例1の各透明導電性フィルムについて、以下のように、繰返し屈曲試験を実施した。
【0082】
まず、透明導電性フィルムから試験片(幅25mm×長さ100mm)を切り出した(実施例1,2の各透明導電性フィルムについては、基材フィルムから保護フィルムを剥がした後に試験片を切り出した)。次に、
図3Aに示すように、試験片Sの両端部を、U字伸縮試験機(ユアサシステム機器製)の把持部C1,C2に固定した。次に、同試験機により、屈曲角度180°、屈曲外径3mm、屈曲速度60往復/分、および屈曲回数1000の条件で、繰返し屈曲試験を実施した。繰返し屈曲試験では、第1過程と第2過程とを含む一連の過程を1サイクル(1往復)とし、この1サイクルを複数回(屈曲回数)繰り返した。第1過程では、試験片Sを、透明導電層側を屈曲の外側として、フラット形状(
図3A)からU字形状(
図3B)に湾曲させた。第2過程では、第1過程後に試験片Sをフラット形状(
図3A)に戻した。
【0083】
繰返し屈曲試験の後、試験片Sにおいて繰り返し屈曲された被屈曲部分P(
図3Aおよび
図3Bではクロスハッチングを付す)を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製)によって観察し、透明導電層におけるクラックの数をカウントした。そして、透明導電層における割れの抑制性について、長さ200μm以上のクラックの数が0であった場合(クラックが観察されなかった場合)を“優”と評価し、長さ200μm以上のクラックの数が1~9であった場合を“良”と評価し、長さ200μm以上のクラックの数が10以上であった場合を“不良”と評価した。その評価結果を表1に示す。
【0084】
実施例1,2の透明導電性フィルムでは、上述のように、透明導電層の露出表面における粒径25nm以上の結晶粒の個数割合が50%以下であった。このような実施例1,2の透明導電性フィルムでは、比較例1の透明導電性フィルム(粒径25nm以上の結晶粒の個数割合が50%を超える)よりも、透明導電層における割れの発生が抑制された。実施例1,2の透明導電性フィルムでは、透明導電層表面を形成するスパッタ成膜時(第3スパッタ成膜時)に、保護フィルムが水分供給源として機能することにより、水分圧の低下が抑制され、透明導電層表面における結晶粒の成長が抑制された。
【0085】