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特開2024-126237二次電池、および、二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126237
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】二次電池、および、二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20240912BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034490
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐貴
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028BB05
5H028BB06
5H028CC08
5H028HH05
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ22
5H029HJ07
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】電極とセパレータとを接着する接着剤による電池特性の低下を抑制することができる二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池100は、正極11と、負極12と、正極11と負極12との間に配置されたセパレータ13と、電解質14とを備える。正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間は、接着剤で接着されており、接着剤は、正極11、セパレータ13および負極12の積層方向に見たときに略環状の形状を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
電解質と、
を備え、
前記正極と前記セパレータとの間、および、前記負極と前記セパレータとの間は、接着剤で接着されており、
前記接着剤は、前記正極、前記セパレータおよび前記負極の積層方向に見たときに略環状の形状を有することを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記正極と前記セパレータとの間、および、前記負極と前記セパレータとの間にはそれぞれ、前記略環状の形状を有する前記接着剤が複数存在することを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極に対する前記接着剤の被覆率、および、前記負極に対する前記接着剤の被覆率はそれぞれ、12%以上20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記接着剤は、前記電解質に溶解しないことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
正極とセパレータのうちの少なくとも一方に、接着剤を含む懸濁液を噴霧する工程と、
負極と前記セパレータのうちの少なくとも一方に前記懸濁液を噴霧する工程と、
噴霧された前記懸濁液に含まれる液体を蒸発させる工程と、
前記液体を蒸発させる工程の後に、前記正極と前記負極との間に前記セパレータが介在する態様で、前記正極、前記セパレータ、および、前記負極を積層することによって積層体を作製する工程と、
を備えることを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記懸濁液を噴霧する工程では、超音波噴霧、二流体噴霧およびインクジェット噴霧のうちのいずれか一つの方法で前記懸濁液を噴霧することを特徴とする請求項5に記載の二次電池の製造方法。
【請求項7】
外装体の内部に前記積層体を収容する工程と、
前記外装体の内部に電解質を充填する工程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5または6に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極と負極がセパレータを介して交互に積層された構造の二次電池が知られている。特許文献1には、そのような二次電池の製造方法として、正極・負極の双方の電極の片側の面にセパレータをそれぞれ接着する接着工程と、各電極を、これに接着されたセパレータを介して他の電極と積層または巻回することにより発電要素を形成する発電要素形成工程とを備えた製造方法が開示されている。特許文献1には、接着工程において、電極に接着剤を塗布してセパレータを接着することや、電極に接着剤の層を形成してからセパレータを接着することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4025930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電極に接着剤を塗布する場合、電極の表面に一様に接着剤を塗布することが一般的である。しかしながら、電極の表面に一様に接着剤を塗布すると、抵抗が高くなり、電池特性が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、電極とセパレータとを接着する接着剤による電池特性の低下を抑制することができる二次電池、および、そのような二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の二次電池は、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
電解質と、
を備え、
前記正極と前記セパレータとの間、および、前記負極と前記セパレータとの間は、接着剤で接着されており、
前記接着剤は、前記正極、前記セパレータおよび前記負極の積層方向に見たときに略環状の形状を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の二次電池の製造方法は、
正極とセパレータのうちの少なくとも一方に、接着剤を含む懸濁液を噴霧する工程と、
負極と前記セパレータのうちの少なくとも一方に前記懸濁液を噴霧する工程と、
噴霧された前記懸濁液に含まれる液体を蒸発させる工程と、
前記液体を蒸発させる工程の後に、前記正極と前記負極との間に前記セパレータが介在する態様で、前記正極、前記セパレータ、および、前記負極を積層することによって積層体を作製する工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二次電池によれば、正極とセパレータとの間、および、負極とセパレータとの間は、接着剤で接着されており、接着剤は、正極、セパレータおよび負極の積層方向に見たときに略環状の形状を有する。したがって、略環状の接着剤の中心部は、接着剤が存在しないか、または、少量であるため、接着剤が一様に塗工されている構成と比べて抵抗を低減することができ、接着剤が存在することによる電池特性の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明の二次電池の製造方法によれば、正極とセパレータとの間、および、負極とセパレータとの間を、略環状の形状を有する接着剤で接着した積層体を作製することができる。略環状の接着剤の中心部は、接着剤が存在しないか、または、少量であるため、接着剤が一様に塗工されている構成とくらべて抵抗が低く、接着剤が存在することによる電池特性の低下を抑制した二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態における二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図2】接着剤の形状の一例を模式的に示す平面図である。
図3図2に示す接着剤をIII-III線に沿って切断した断面をマイクロスコープで観察した図である。
図4】(a)は、接着剤の別の形状の一例を模式的に示す平面図であり、(b)および(c)はそれぞれ、接着剤のさらに別の形状の一例を模式的に示す平面図である。
図5】(a)は、正極に塗工された接着剤をマイクロスコープで観察したときの画像であり、(b)は、負極に塗工された接着剤をマイクロスコープで観察したときの画像であり、(c)は、図5(a)に示す画像から画像処理によって接着剤を検出した画像を示し、図5(d)は、図5(b)に示す画像から画像処理によって接着剤を検出した画像を示す。
図6】(a)~(d)は、接着剤の形状が略環状となるメカニズムについて説明するための図である。
図7】正極に対する接着剤の被覆率の測定方法を説明するための図である。
図8】正極の中心点から長手方向の距離と接着剤の被覆率との関係、および、負極の中心点からの長手方向の距離と接着剤の被覆率との関係を示す図である。
図9】接着剤の直径の数量分布を示す図である。
図10】二次電池の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図11】(a)~(c)は、接着剤の剥離強度を測定する方法を説明するための図である。
図12】接着剤の被覆率と、セパレータを電極から剥がすときの剥離強度との関係を示す図である。
図13】接着剤の被覆率と電池の容量維持率との関係を調べるために作製したコインセルの分解図である。
図14】正極に対する接着剤の被覆率と、コインセルの放電容量維持率との関係を示す図である。
図15】負極に対する接着剤の被覆率と、コインセルの放電容量維持率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態における二次電池100の構成を模式的に示す断面図である。ここでは、二次電池100がリチウムイオン二次電池であるものとして説明する。ただし、二次電池100がリチウムイオン二次電池に限定されることはない。
【0013】
二次電池100は、正極11と、負極12と、セパレータ13と、電解質14とを備える。
【0014】
正極11は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極活物質を有する。より具体的には、正極11は、上記正極活物質を含む正極合材層および正極集電体を有する。正極合材層は、正極集電体の少なくとも片面に設けられている。正極合材層は、正極集電体の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの金属箔である。
【0015】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であれば特に限定されず、例えば、リチウム含有複合酸化物であることが好ましい。リチウム含有複合酸化物は通常、リチウム遷移金属複合酸化物である。遷移金属はあらゆる遷移金属(遷移元素)であってもよく、例えば、第1遷移元素、第2遷移元素および第3遷移元素が挙げられる。好ましい遷移金属は、第1遷移元素である。正極合材層は、正極活物質の他に、導電助剤およびバインダを含んでいてもよい。
【0016】
負極12は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な負極活物質を有する。より具体的には、負極12は、上記負極活物質を含む負極合材層および負極集電体を有する。負極合材層は、負極集電体の少なくとも片面に設けられている。負極合材層は、負極集電体の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。負極集電体は、例えば、銅などの金属箔である。
【0017】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であれば特に限定されず、例えば、各種の炭素材料、酸化物、リチウム合金、シリコン、シリコン合金、錫合金等であることが好ましい。負極合材層は、負極活物質の他に、導電助剤およびバインダを含んでいてもよい。
【0018】
セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されている。セパレータ13は、正極11と負極12との電気的接触を防止しつつ、イオンを通過させることができるものであればよく、その種類は特に限定されない。図1に示すセパレータ13は袋状の形状を有するが、シート状の形状を有するものであってもよいし、九十九折りの形状を有するものであってもよい。
【0019】
セパレータ13を構成する材料は、正極11と負極12との間の電気的接触を防止できる限り特に限定されず、例えば、電気絶縁性ポリマー等が挙げられる。電気絶縁性ポリマーとして、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0020】
本実施形態における二次電池100は、正極11と負極12がセパレータ13を介して交互に複数積層されることによって形成されている積層体10と、電解質14とがラミネートケース20内に収容された構造を有している。外装体であるラミネートケース20は、一対のラミネートフィルム20aおよび20bの周縁部同士を熱圧着して接合することにより形成されている。ただし、積層体10を収容する外装体がラミネートケース20に限定されることはない。
【0021】
電解質14は、電極(正極・負極)から放出されたリチウムイオンの移動を助力する。電解質は、例えば、非水電解質であって、非水系溶媒および電解質塩を含む。非水電解質は、液体状またはゲル状等の形態を有し得る。電解質14は、例えば、非水電解液である。
【0022】
ラミネートケース20の一方端側からは、正極端子16aが外部に導出されており、他方端側からは、負極端子16bが外部に導出されている。複数の正極11は、リード線15aを介して、正極端子16aと接続されている。また、複数の負極12は、リード線15bを介して、負極端子16bと接続されている。
【0023】
正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間は、接着剤で接着されている。接着剤は、正極11、セパレータ13および負極12の積層方向に見たときに略環状の形状を有する。
【0024】
図2は、接着剤30の形状の一例を模式的に示す平面図である。図2では、正極11に塗工された接着剤30を示しているが、負極12に塗工された接着剤30も同様である。図3は、図2に示す接着剤30をIII-III線に沿って切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した図である。なお、視認性向上のため、図3に示す接着剤30の表面は、Auコーティングが施されている。
【0025】
図2に示す例では、接着剤30は、積層方向に見たときに環状の形状を有する。図2では、環状の接着剤30の外周および内周の形状が円形であるが、外周の形状が円形に限定されることはないし、内周の形状が円形に限定されることはない。また、図2に示す接着剤30は、径方向における幅が一定であるが、図4(a)に示す接着剤30のように、幅は一定でなくてもよい。
【0026】
略環状の接着剤30の内側の領域30aは、接着剤30が存在しないか、または、略環状の接着剤30の領域と比べて、接着剤30の量は少ない。このため、略環状の接着剤30の内側の領域30aは、接着剤30が塗工されている領域と比べて、イオン伝導度が高い。したがって、本実施形態における二次電池100は、接着剤が一様に塗工されている従来の構成と比べて抵抗を低減することができ、接着剤30が存在することによる電池特性の低下を抑制することができる。
【0027】
なお、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間に存在する複数の接着剤30の全てが環状の形状を有している必要はなく、略環状の形状を有しているものが含まれていてもよい。例えば、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間に存在する複数の接着剤30の中には、図4(b)および図4(c)に示すように、外周に沿った方向につながっていなくて途切れている形状の接着剤30が含まれている場合もある。すなわち、「略環状」の形状には、外周に沿った方向につながっている環状の形状だけでなく、外周に沿った方向につながっていなくて途切れている形状も含まれる。
【0028】
接着剤30は、電解質14に溶解しないものであって、例えば、アクリル樹脂である。ただし、接着剤30がアクリル樹脂に限定されることはなく、SBR(スチレンブタジエンゴム)などであってもよい。接着剤30が電解質14に溶解しないことにより、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間の接着性を維持することができる。接着剤30の固形分濃度は、例えば、14.0wt%以上16.0wt%以下であり、粘度は、例えば、1mPa・s以上10mPa・s以下である。また、接着剤30のpHは、例えば、6.5以上8.5以下である。
【0029】
図5(a)は、正極11に塗工された接着剤30をマイクロスコープ(VHX-500、株式会社キーエンス製)で観察したときの画像であり、図5(b)は、負極12に塗工された接着剤30をマイクロスコープで観察したときの画像である。また、図5(c)は、図5(a)に示す画像から画像処理によって接着剤30を検出した画像を示し、図5(d)は、図5(b)に示す画像から画像処理によって接着剤30を検出した画像を示す。図5(a)~(d)に示すように、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間にはそれぞれ、略環状の形状を有する接着剤30が複数存在する。正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間のそれぞれに、略環状の形状を有する接着剤30が複数存在することにより、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間の密着性をより向上させることができ、電池特性をより向上させることができる。
【0030】
ここで、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間に介在する接着剤30の形状が略環状となるメカニズムについて説明する。ここでは、図6を参照しながら、正極11に接着剤30を塗工するものとして説明する。
【0031】
はじめに、図6(a)に示すように、正極11に対して、接着剤を含む懸濁液41を噴霧する。この懸濁液41は、液体42に、接着剤の固体粒子43が分散したものである。液体42は、例えば、水であり、接着剤は、例えば、アクリル樹脂である。ただし、接着剤がアクリル樹脂に限定されることはなく、SBR(スチレンブタジエンゴム)などであってもよい。懸濁液41の固形分濃度は、例えば3wt%以上15wt%以下であり、粘度は、1mPa・s以上10mPa・s以下である。また、接着剤の固体粒子43の粒径(D50)は、例えば、250nm以上650nm以下である。
【0032】
懸濁液41を噴霧する方法に特に制約はなく、例えば、超音波噴霧、二流体噴霧、インクジェット噴霧などの方法で行うことが可能である。二流体噴霧では、例えば、接着剤を含む懸濁液41と空気の2つの流体を噴射する。噴霧された懸濁液41は、図6(b)に示すように、液滴として正極11に付着する。
【0033】
続いて、図6(c)に示すように、噴霧された懸濁液41に含まれる液体42を蒸発させる。液体42の蒸発は、加熱、自然乾燥、減圧乾燥など、任意の方法で行うことが可能である。このとき、液体42の中央部よりも、中央部の外側に位置する縁部の方が蒸発が進むため、図6(c)の破線矢印で示すように、中央部から縁部へと向かう流体の流れが生じる。これにより、液体42に分散している接着剤の固体粒子43も縁部へと移動する。
【0034】
懸濁液41に含まれる液体42が蒸発することにより、正極11の上には、接着剤の固体粒子43みが残る(図6(d)参照)。上述したように、懸濁液41に含まれる液体42が蒸発する過程で、接着剤の固体粒子43が縁部へと移動するため、接着剤30の形状が略環状になる。
【0035】
なお、負極12に対して、接着剤30を塗工する場合、および、セパレータ13に対して接着剤30を塗工する場合も同様である。
【0036】
ここで、正極11に対する接着剤30の被覆率および負極12に対する接着剤30の被覆率について調べた。正極11に対する接着剤30の被覆率は、接着剤30が塗工される正極11の表面のうち、接着剤30によって覆われている領域の割合を意味する。また、負極12に対する接着剤30の被覆率は、接着剤30が塗工される負極12の表面のうち、接着剤30によって覆われている領域の割合を意味する。
【0037】
ここでは、正極11の中心点から長手方向の距離と、正極11に対する接着剤30の被覆率との関係、および、負極12の中心点からの長手方向の距離と、負極12に対する接着剤30の被覆率との関係について調べた。正極11に対する接着剤30の被覆率の測定方法について、図7を参照しながら説明する。
【0038】
図7において、矩形である正極11の長手方向はX軸方向であり、短手方向はY軸方向である。ここでは、正極11の長手方向の寸法が120mmであり、短手方向の寸法が100mmであるものとして説明する。
【0039】
ここでは、図7に示すように、正極11の中心点から長手方向に5mm間隔で複数の測定エリア50を設定するとともに、長手方向の同一の位置において、短手方向に等間隔で合計5個の測定エリア50が設定されるように、複数の測定エリア50を設定した。測定エリア50のX軸方向の寸法は1.52mm、Y軸方向の寸法は1.14mmである。
【0040】
設定した各測定エリア50をマイクロスコープ(VHX-500、株式会社キーエンス製)で観察し、得られた画像から画像処理を行うことによって、接着剤30の被覆率を測定した。すなわち、測定エリア50の面積に対する接着剤30が塗工されている領域の面積の割合を、測定エリア50の被覆率とした。そして、長手方向における同じ位置において、5つの測定エリア50で測定した被覆率の平均値を、長手方向における各位置の被覆率とした。負極12についても同様の方法で、長手方向における各位置の被覆率を測定した。正極11および負極12の長手方向における各位置の被覆率を図8に示す。なお、図8では、図7における正極11の中心点をX軸の基準とし、正方向の距離をプラス、負方向の距離をマイナスとして示している。負極12についても同様である。
【0041】
図8に示すように、正極11および負極12ともに、接着剤30の被覆率は、位置によってバラツキがあり、中心部と比べて端部の方が低い傾向がある。これは、上述したように、接着剤30の塗工を噴霧によって行うからであると考えられる。
【0042】
本明細書では、正極11の中心点からの長手方向の距離が、正極11の長手方向の寸法の±25%の範囲内において測定される被覆率を「正極11に対する接着剤30の被覆率」と定義する。図7に示す例では、正極11の長手方向の寸法が120mmであるため、正極11の中心点からの長手方向の距離が-30mm以上30mm以下の範囲内において測定される被覆率が「正極11に対する接着剤30の被覆率」である。同様に、負極12の中心点からの長手方向の距離が、負極12の長手方向の寸法の±25%の範囲内において測定される被覆率を「負極12に対する接着剤30の被覆率」と定義する。
【0043】
また、接着剤30と同じ面積を有する円形を画像処理により算出することによって、接着剤30の外形の円相当径を求め、その数量分布を確認した。接着剤30の円相当径の数量分布を図9に示す。図9に示すように、円相当径が30μmより大きく60μm以下の接着剤30の割合が最も多い。また、円相当径が120μmを超える接着剤30も存在するが、円相当径が150μm以下の接着剤30の割合は99%であり、円相当径が150μmを超えるものは非常に少ない。接着剤30の円相当径は200μm以下であることが好ましい。
【0044】
さらに、同様の方法で接着剤30の内形の円相当径も算出したところ、15μm以上40μm以下のものが多く、70μmほどのものもあった。
【0045】
図10は、二次電池100の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。ステップS1では、正極11とセパレータ13のうちの少なくとも一方に、接着剤を含む懸濁液を噴霧する。懸濁液は、例えば、接着剤であるアクリル樹脂が水に分散したものである。一例として、正極11に懸濁液を噴霧する。上述したように、懸濁液を噴霧する方法に特に制約はなく、例えば、超音波噴霧、二流体噴霧、インクジェット噴霧などの方法で行うことが可能である。
【0046】
ステップS1に続くステップS2では、負極12とセパレータ13のうちの少なくとも一方に、接着剤を含む懸濁液を噴霧する。接着剤、および、接着剤を含む懸濁液は、ステップS1の工程で用いるものと同じものを用いることができる。懸濁液を噴霧する方法も、ステップS1の工程で懸濁液を噴霧する方法と同じ方法を採用することが可能である。一例として、負極12に懸濁液を噴霧する。
【0047】
なお、ステップS2の工程を行ってからステップS1の工程を行ってもよいし、ステップS1の工程とステップS2の工程を同時に行うようにしてもよい。
【0048】
ステップS2に続くステップS3では、噴霧された懸濁液に含まれる液体を蒸発させる。液体の蒸発は、加熱、自然乾燥、減圧乾燥など、任意の方法で行うことが可能である。上述したように、懸濁液に含まれる液体を蒸発させることにより、接着剤30の形状が略環状となる。
【0049】
ステップS3に続くステップS4では、懸濁液に含まれる液体を蒸発させた後に、正極11と負極12との間にセパレータ13が介在する態様で、正極11、セパレータ13、および、負極12を積層することによって積層体10を作製する。例えば、正極11、セパレータ13、負極12、セパレータ13の順に、複数の正極11、複数のセパレータ13、および、複数の負極12を積層する。積層する正極11、負極12およびセパレータ13の枚数は、任意の数とすることができる。正極11、セパレータ13、および、負極12の積層後に、圧着することによって積層体10を作製するようにしてもよい。圧着は、任意の方法で行うことが可能であり、例えば、ヒートプレスにより行う。
【0050】
なお、圧着が行われることにより、正極11とセパレータ13との間の領域のうち、接着剤30が塗工されていない領域は、正極11とセパレータ13とが当接する。一方、接着剤30が塗工されている領域は、正極11とセパレータ13の間に接着剤30が存在するが、圧着によって積層方向にセパレータ13が少し潰れる。これにより、正極11の主面のうちの接着剤30が塗工されている主面と、セパレータ13の主面のうち、正極11と対向していない側の主面との間の距離は、接着剤30が塗工されていない領域と接着剤30が塗工されている領域とで同じとなる。負極12とセパレータ13との関係についても同様である。
【0051】
ステップS4に続くステップS5では、外装体の内部に積層体を収容する。
【0052】
ステップS5に続くステップS6では、外装体の内部に電解質14を充填する。電解質14は、例えば、非水電解液である。
【0053】
上述した工程により、二次電池100が得られる。
【0054】
ここで、接着剤30の被覆率と剥離強度との関係、および、接着剤30の被覆率と二次電池100の容量維持率との関係について調べた。
【0055】
接着剤30の被覆率と剥離強度の測定は、以下で説明する方法により行った。
【0056】
はじめに、図11(a)に示すように、電極の上に接着剤30を塗工した。電極は、正極11または負極12であり、ここではCu箔を用いた。接着剤30の塗工は、上述した方法により行った。具体的には、電極に対して、接着剤30を含む懸濁液を超音波噴霧により噴霧し、懸濁液に含まれる液体を蒸発させた。
【0057】
接着剤30の塗工後に、電極に対する接着剤30の被覆率を調べた。
【0058】
続いて、図11(b)に示すように、電極とセパレータ13との間に接着剤30が介在する態様で電極とセパレータ13とを重ねて圧着した。ここでは、60℃、0.1秒、6Mpaの条件で、電極とセパレータ13とをヒートプレスすることにより、圧着した。
【0059】
続いて、図11(c)に示すように、剥離装置(P90-200N、株式会社イマダ製)のクランプ装置60でセパレータ13に対して90°引張試験を行った。ここでは、用いたセパレータ13のサンプルの長さは100mmであり、Cu箔の長さは60mmであった。クランプ装置60でセパレータ13のCu箔と重ならない長さ40mmの先端部分を把持し、50mm/分の速度で移動させることによって、セパレータ13に対して剥離する力を加え、セパレータ13がCu箔から剥離する強度を測定した。より具体的には、フォースゲージ(ITA-2N、株式会社イマダ製)により、サンプリング周期0.1Sの条件下で、Cu箔の両端10mmを除いた範囲における平均値を測定した。
【0060】
図12は、上述した方法によって調べた接着剤30の被覆率と、剥離強度との関係を示す図である。電極に対するセパレータ13の剥離強度が0.6N/m以上であれば、二次電池100の製品として問題が無いことを確認済みであるが、正極11に対する接着剤30の被覆率が22%の場合、剥離強度は0.6N/mより高くなった。また、負極12に対する接着剤30の被覆率が12%の場合および23%の場合も、剥離強度は0.6N/mより高くなった。
【0061】
接着剤30の被覆率と二次電池100の容量維持率との関係については、コインセルを作製して確認した。図13は、作製したコインセル110の分解図である。コインセル110は、正極11と、負極12と、セパレータ13と、電解質14と、第1のスペーサ71と、第2のスペーサ72と、アノードカップ73と、缶74とを備える。セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されている。正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間は、略環状の形状を有する複数の接着剤によって接着されている。第1のスペーサ71は、正極11と缶74との間に配置され、第2のスペーサ72は、負極12とアノードカップ73との間に配置されている。第1のスペーサ71および第2のスペーサ72は、絶縁体である。アノードカップ73は、正極端子として機能し、缶74は、負極端子として機能する。なお、図13では省略しているが、アノードカップ73と缶74との間には、絶縁性を確保するためにガスケットが配置されている。
【0062】
コインセル110の正極11は、矩形の正極の中心部分を切り取ったものを用いた。具体的には、図7に示すような矩形の正極を用意し、中心点からの長手方向の距離が、矩形の正極の長手方向の寸法の±25%の範囲内の領域を切り取ったものを、コインセル110の正極11として用いた。コインセル110の負極12についても同様である。このため、このコインセル110では、接着剤30が塗工される正極11の表面のうち、接着剤30によって覆われている領域の割合がそのまま「正極11に対する接着剤30の被覆率」となる。同様に、接着剤30が塗工される負極12の表面のうち、接着剤30によって覆われている領域の割合がそのまま「負極12に対する接着剤30の被覆率」となる。
【0063】
図14は、正極11に対する接着剤30の被覆率と、コインセル110の放電容量維持率との関係を示す図である。ここでは、1C、および、2Cの放電レートでコインセル110を放電させて、正極11に対する接着剤30の被覆率とコインセル110の放電容量維持率との関係を調べた。放電レートの異なるコインセル110のそれぞれについて、正極11に対する接着剤30の被覆率が0%、8%、22%、100%の4種類の試料を作製した。なお、正極11に接着剤30が塗工されていない場合の接着剤30の被覆率は0%であり、正極11の全面に接着剤30が塗工されている場合の接着剤30の被覆率は100%である。
【0064】
図14に示すように、放電レートが2C、1Cのコインセル110では、接着剤30の被覆率が0%から22%へと高くなるにつれて、放電容量維持率が上昇した。これは、接着剤30の被覆率が0%よりも高くなることにより、正極11とセパレータ13との密着性が向上することが理由であると考えられる。ただし、接着剤30の被覆率が100%のときの放電容量維持率は、被覆率が22%のときの放電容量維持率よりも低くなった。これは、接着剤30の被覆率が100%の場合、正極11の表面全体が接着剤30によって覆われることによって、抵抗が増加するからであると考えられる。
【0065】
図15は、負極12に対する接着剤30の被覆率と、コインセル110の放電容量維持率との関係を示す図である。ここでは、0.2C、1C、および、2Cの放電レートでコインセル110を放電させて、負極12に対する接着剤30の被覆率とコインセル110の放電容量維持率との関係を調べた。放電レートの異なるコインセル110のそれぞれについて、接着剤30の被覆率が0%、12%、23%の3種類の試料を作製した。
【0066】
図15に示すように、放電レートが0.2C、1C、および、2Cのコインセル110において、接着剤30の被覆率が0%の場合と比べて、被覆率が12%の場合および23%の場合のいずれも放電容量維持率が高くなった。これは、接着剤30の被覆率が0%よりも高くなることにより、負極12とセパレータ13との密着性が向上することが理由であると考えられる。
【0067】
図14および図15に示す結果を考慮すると、二次電池100の正極11に対する接着剤30の被覆率、および、負極12に対する接着剤30の被覆率はそれぞれ、12%以上20%以下であることが好ましい。二次電池100の正極11に対する接着剤30の被覆率、および、負極12に対する接着剤30の被覆率はそれぞれ、12%以上20%以下であることにより、電極とセパレータ13との密着性を維持しつつ、接着剤30が存在することによる電池特性の低下を抑制することができる。また、接着剤30の被覆率が12%以上20%以下であれば、図12に示すように、製品として十分な接着性を確保することができる。
【0068】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0069】
例えば、一実施形態における二次電池100は、正極11と負極12がセパレータ13を介して交互に複数積層されることによって形成されている積層体10を備えた構成であるが、正極11、セパレータ13および負極12からなる巻回体を備えた構成であってもよい。巻回体は、長尺状のセパレータ13を介して、長尺状の正極11と長尺状の負極12を積層したものが巻回された構成を有する。この巻回体においても、正極11とセパレータ13との間、および、負極12とセパレータ13との間は、接着剤30で接着されており、接着剤30は、積層方向に見たときに略環状の形状を有する。
【0070】
本出願における二次電池、および、二次電池の製造方法は、以下の通りである。
<1>.正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
電解質と、
を備え、
前記正極と前記セパレータとの間、および、前記負極と前記セパレータとの間は、接着剤で接着されており、
前記接着剤は、前記正極、前記セパレータおよび前記負極の積層方向に見たときに略環状の形状を有することを特徴とする二次電池。
<2>.前記正極と前記セパレータとの間、および、前記負極と前記セパレータとの間にはそれぞれ、前記略環状の形状を有する前記接着剤が複数存在することを特徴とする<1>に記載の二次電池。
<3>.前記正極に対する前記接着剤の被覆率、および、前記負極に対する前記接着剤の被覆率はそれぞれ、12%以上20%以下であることを特徴とする<1>または<2>に記載の二次電池。
<4>.前記接着剤は、前記電解質に溶解しないことを特徴とする<1>~<3>のいずれか一つに記載の二次電池。
<5>.正極とセパレータのうちの少なくとも一方に、接着剤を含む懸濁液を噴霧する工程と、
負極と前記セパレータのうちの少なくとも一方に前記懸濁液を噴霧する工程と、
噴霧された前記懸濁液に含まれる液体を蒸発させる工程と、
前記液体を蒸発させる工程の後に、前記正極と前記負極との間に前記セパレータが介在する態様で、前記正極、前記セパレータ、および、前記負極を積層することによって積層体を作製する工程と、
を備えることを特徴とする二次電池の製造方法。
<6>.前記懸濁液を噴霧する工程では、超音波噴霧、二流体噴霧およびインクジェット噴霧のうちのいずれか一つの方法で前記懸濁液を噴霧することを特徴とする<5>に記載の二次電池の製造方法。
<7>.外装体の内部に前記積層体を収容する工程と、
前記外装体の内部に電解質を充填する工程と、
をさらに備えることを特徴とする<5>または<6>に記載の二次電池の製造方法。
【符号の説明】
【0071】
10 積層体
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 非水電解質
20 ラミネートケース
30 接着剤
41 懸濁液
42 液体
43 接着剤の固体粒子
50 測定エリア
60 クランプ装置
71 第1のスペーサ
72 第2のスペーサ
73 アノードカップ
74 缶
100 二次電池
110 コインセル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15