(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126247
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電極合剤の製造方法及びシート電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240912BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240912BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240912BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20240912BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01G11/30
H01G11/38
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034510
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】白石 晏義
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA13
5E078AA14
5E078AA15
5E078AB01
5E078AB02
5E078AB03
5E078BB21
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】厚みを向上させた活物質層を形成できる電極合剤の製造方法及びシート電極の製造方法を提供する。
【解決手段】柔粘性結晶に液体を添加することで粘度が調整された柔粘性結晶を攪拌槽に投入する固体電解質投入工程と、導電助剤を前記攪拌槽に投入する導電助剤投入工程と、電極活物質を前記攪拌槽に投入する活物質投入工程と、バインダを前記攪拌槽に投入するバインダ投入工程と、を含む。そして、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の両方を経る前に、導電助剤投入工程と活物質投入工程を経る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を添加することで、柔粘性結晶の粘度を調整する固体電解質調整工程と、
前記固体電解質調整工程を経た柔粘性結晶を攪拌槽に投入する固体電解質投入工程と、
導電助剤を前記攪拌槽に投入する導電助剤投入工程と、
電極活物質を前記攪拌槽に投入する活物質投入工程と、
バインダを前記攪拌槽に投入するバインダ投入工程と、
を含み、
前記固体電解質投入工程と前記バインダ投入工程の両方を経る前に、前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程を経ること、
を特徴とする電極合剤の製造方法。
【請求項2】
前記固体電解質投入工程と前記バインダ投入工程の何れか一方よりも先に、または両方よりも先に、前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程の両方を経ること、
を特徴とする請求項1記載の電極合剤の製造方法。
【請求項3】
前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程を経た後、先に前記固体電解質投入工程を経て、前記バインダ投入工程に移ること、
を特徴とする請求項1記載の電極合剤の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質調整工程で、前記柔粘性結晶の粘度を0.5Pa・s以上50Pa・s以下に調整すること、
を特徴とする請求項1記載の電極合剤の製造方法。
【請求項5】
前記バインダは、繊維を含むこと、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電極合剤の製造方法。
【請求項6】
前記バインダは、ポリテトラフルオロエチレンを含むこと、
を特徴とする請求項5記載の電極合剤の製造方法。
【請求項7】
前記固体電解質調整工程は、前記柔粘性結晶を含む固体電解質に対して液体を添加し、
前記固体電解質投入工程は、前記柔粘性結晶を含む前記固体電解質を前記攪拌槽に投入すること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電極合剤の製造方法。
【請求項8】
前記固体電解質調整工程を経た前記固体電解質と前記バインダが攪拌、混合又は混練されるより前に、前記電極活物質と前記導電助剤が、前記固体電解質又は前記バインダに攪拌、混合又は混練されること、
を特徴とする請求項7記載の電極合剤の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質は、樹脂を含むこと、
を特徴とする請求項7記載の電極合剤の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂は、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンカーボネートであること、
を特徴とする請求項9記載の電極合剤の製造方法。
【請求項11】
前記固体電解質は、リチウム塩を含むこと、
を特徴とする請求項7記載の電極合剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至4の何れかに記載の電極合剤を圧延してシート電極を形成する圧延工程を含むこと、
を特徴とするシート電極の製造方法。
【請求項13】
前記圧延工程の前に、前記電極合剤の乾燥工程を含むこと、
を特徴とする請求項12記載のシート電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極活物質層を形成する電極合剤の製造方法、及び電極合剤をシート電極に成形するシート電極の製造方法に関する。
【0002】
二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスがある。これら蓄電デバイスは、携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源、電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車のモーター駆動電源やエネルギー回生システム等のために広く応用が検討されている。これら応用範囲に適用させるためには、蓄電デバイスの更なる高性能化に応えなくてはならない。即ち、蓄電デバイスは、更なる高エネルギー化、高容量化が要望されている。
【0003】
蓄電デバイスは、概略、電解質を一対の電極で挟んで構成される。電極は、エネルギー貯蔵のための活物質層を有する。活物質層内の電極活物質粒子は、電解質中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応により容量を発現させ、又は電子の授受を伴わない分極等の非ファラデー反応により容量を発現させる。しかし電極活物質粒子は一般に導電性が低い。そこで、電極活物質粒子に導電助剤を複合化し、その複合体を活物質層の構成体とする。
【0004】
導電助剤は、電極の導電性を向上させる。即ち、導電助剤は、蓄電デバイスの直流内部抵抗(DCIR)及び等価直列抵抗(ESR)の低下に寄与する。導電助剤の中でも、良好な導電性を発揮するカーボンナノチューブ等が注目されている。また、活物質層には、イオン液体と酸化物ナノ粒子の成分比が調整されることで擬似的に固体粉末状又はゲル状にした疑似固体電解質が充填されている。
【0005】
この活物質層は、湿式にて電極合剤を調製し、電極合剤を集電体上にスラリー塗工及び加熱乾燥させることで、集電体上に形成される。電極合剤のスラリーは、電極活物質粒子、導電助剤、固体電解質及びバインダーを有機溶媒又は有機分散媒に溶解又は分散させ、超音波ホモジナイザー等で混練することで作製される。塗布方法としては、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-131979号公報
【特許文献2】特開2019-96541号公報
【特許文献3】特開2016-139461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蓄電デバイスに求められるエネルギー容量は増加の一途を辿っており、エネルギー貯蔵のための活物質層の厚みを向上させるべきである。しかしながら、電極合剤を有機溶媒又は有機分散媒に溶解又は分散させて成るスラリーを集電体に塗工させる方法では、スラリーを厚く塗工しようとしても、塗工層が沈降してしまい、厚さを保つことができない。
【0008】
電極合剤をスラリー塗工する方法では、活物質の層厚みは数十μmが精々であり、例えば100μm以上又は200μmを超えるような厚みの活物質層を形成することができない。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、厚みを向上させた活物質層を形成できる電極合剤の製造方法及びシート電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の電極合剤の製造方法は、柔粘性結晶に液体を添加することで、当該柔粘性結晶の粘度を調整する固体電解質調整工程と、前記固体電解質調整工程を経た柔粘性結晶を攪拌槽に投入する固体電解質投入工程と、導電助剤を前記攪拌槽に投入する導電助剤投入工程と、電極活物質を前記攪拌槽に投入する活物質投入工程と、バインダを前記攪拌槽に投入するバインダ投入工程と、を含み、前記固体電解質投入工程と前記バインダ投入工程の両方を経る前に、前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程を経る。
【0011】
この電極合剤の製造方法により、厚みのある活物質層を形成することができる。即ち、この電極合剤は、有機溶媒又は有機分散媒に溶解又は分散させることなく、圧延してシート電極に成形することができる。但し、バインダは、電極活物質、導電助剤及び柔粘性結晶等の粉体又は粒子を絡め取ることはできるが、シート電極を集電体に接着する用途としては強度が不足する。
【0012】
そこで、この電極合剤の製造方法では、固体電解質としても機能しつつ、シート電極と集電体とを接着する能力を有する柔粘性結晶が添加されている。もっとも、シート電極の充填率を向上させるためには、例えばイオン液体又は有機溶媒等の液体を柔粘性結晶に添加して、柔粘性結晶の粘度を調整しなくてはならないことがわかった。
【0013】
しかし、バインダは、液体で粘度調整された柔粘性結晶から液分を吸い取ってしまう。そのため、柔粘性結晶とバインダとを接触させた後は電極合剤の混練が困難になることがわかった。発明者らは更なる鋭意研究を進めたところ、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の両方を経る前に、導電助剤投入工程と前記活物質投入工程を経ることで、電極合剤の混練が可能となるとの知見を得た。換言すれば、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の何れか一方よりも先に、または両方よりも先に、導電助剤投入工程と活物質投入工程の両方を経るようにする。
【0014】
このような電極合剤の製造方法により、スラリー塗工すること無く、シート電極を成形して活物質層を形成することができる。そのため、厚みのあるシート電極を実現できるものである。
【0015】
前記固体電解質投入工程と前記バインダ投入工程の何れか一方よりも先に、または両方よりも先に、前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程の両方を経るようにしてもよい。
【0016】
前記導電助剤投入工程と前記活物質投入工程を経た後、先に前記固体電解質投入工程を経て、前記バインダ投入工程に移るようにしてもよい。
【0017】
前記固体電解質調整工程で、前記柔粘性結晶の粘度を0.5Pa・s以上50Pa・s以下に調整するようにしてもよい。
【0018】
前記バインダは、繊維を含むようにしてもよい。前記バインダは、ポリテトラフルオロエチレンを含むようにしてもよい。繊維状のバインダは、特に、柔粘性結晶から液分を吸い取るため、この電極合剤の製造方法は有用である。
【0019】
前記固体電解質調整工程は、前記柔粘性結晶を含む固体電解質に対して液体を添加し、前記固体電解質投入工程は、前記柔粘性結晶を含む前記固体電解質を前記攪拌槽に投入するようにしてもよい。
【0020】
前記固体電解質調整工程を経た前記固体電解質と前記バインダが攪拌、混合又は混練されるより前に、前記電極活物質と前記導電助剤が、前記固体電解質又は前記バインダに攪拌、混合又は混練されるようにしてもよい。
【0021】
前記固体電解質は、樹脂を含むようにしてもよい。前記樹脂は、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンカーボネートであるようにしてもよい。固体電解質に柔粘性結晶の他に樹脂を含むことで、シート電極と集電体とを接着する接着力が更に向上する。
【0022】
前記固体電解質は、リチウム塩を含むようにしてもよい。
【0023】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態のシート電極の製造方法は、このような電極合剤を圧延してシート電極を形成する圧延工程を含む。
【0024】
前記圧延工程の前に、前記電極合剤の乾燥工程を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、活物質層の厚みを向上させることができ、蓄電デバイスのエネルギー量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】電極合剤の各材料を投入する順序を示す各種フローである。
【
図2】シート電極のSEM像の写真であり、(a)は実施例7であり、(b)は比較例4である。
【
図3】圧延処理前の乾燥工程の有無に係るシート電極の充填率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る電極合剤の製造方法、及びこの電極合剤を用いたシート電極の製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0028】
(電極合剤)
本実施形態に係る電極合剤は、電極の活物質層を形成する合剤であり、蓄電デバイスの電極の製造に用いられる。蓄電デバイスは、電気エネルギーを充放電する受動素子であり、例えば、二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタが挙げられる。蓄電デバイスは、大別すると、一対の電極、及び電極間に介在する電解質とを備えている。電極合剤は、一対の電極のうちの正極ないしは陽極又は負極ないしは陰極の一方又は両方の活物質層に適用される。
【0029】
電極合剤には、電極活物質粒子、導電助剤、固体電解質及びバインダが含まれる。電極活物質粒子は、電解質中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応により容量を発現させ、又は電子の授受を伴わない分極等の非ファラデー反応により容量を発現させる。導電助剤は、電極活物質粒子と複合化されて、複合体の導電性を向上させる。固体電解質は、柔粘性結晶含み、蓄電デバイスの電解質となると共に、集電体との接着剤となる。バインダは、電極活物質粒子と導電助剤とを絡め取って複合化する。
【0030】
電極活物質粒子としては、蓄電デバイスに用いられる公知の活物質であれば特に限定されない。即ち、シート電極は、投入する活物質によって正極用途又は負極用途に用いられる。例えば、二次電池の正極に用いられる電極活物質としては、まず、層状岩塩型LiMO2、層状Li2MnO3-LiMO2固溶体、及びスピネル型LiM2O4(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体的な例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNi4/5Co1/5O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn1/2O2、LiFeO2、LiMnO2、Li2MnO3-LiCoO2、Li2MnO3-LiNiO2、Li2MnO3-LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、Li2MnO3-LiNi1/2Mn1/2O2、Li2MnO3-LiNi1/2Mn1/2O2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMn2O4、LiMn3/2Ni1/2O4が挙げられる。また、イオウ及びLi2S、TiS2、MoS2、FeS2、VS2、Cr1/2V1/2S2などの硫化物、NbSe3、VSe2、NbSe3などのセレン化物、Cr2O5、Cr3O8、VO2、V3O8、V2O5、V6O13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiVOPO4、LiV3O5、LiV3O8、MoV2O8、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、LiFePO4、LiFe1/2Mn1/2PO4、LiMnPO4、Li3V2(PO4)3などの複合酸化物が挙げられる。
【0031】
二次電池の負極に用いられる電極活物質の例としては、Fe2O3、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、CoO、Co3O4、NiO、Ni2O3、TiO、TiO2、SnO、SnO2、SiO、SiO2、RuO2、WO、WO2、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO2、Li3VO4、Li4Ti5O12などの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge3N4、Zn3N2、Cu3Nなどの窒化物が挙げられる。
【0032】
電気二重層キャパシタの分極性電極における電極活物質としては、比表面積の大きな活性炭、グラフェン、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂炭化物、ポリ塩化ビニリデン炭化物、微結晶炭素などの炭素材料が例示される。ハイブリッドキャパシタでは、二次電池のために例示した正極に用いられる活物質を正極のために使用することができ、この場合には負極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。また、二次電池のために例示した負極活物質を負極のために使用することができ、この場合には正極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。
【0033】
レドックスキャパシタの正極における電極活物質としては、RuO2、MnO2、NiOなどの金属酸化物を例示することができ、負極における電極活物質粒子としては、RuO2等の活物質と活性炭等の分極性材料により構成される。
【0034】
尚、リチウムイオン二次電池の負極側の電極活物質、電気二重層作用を奏する正極と組み合わせたハイブリッドキャパシタの負極側の電極活物質としては、Si系化合物も好適である。Si系化合物は、Si又はSiOといったSiOx(0≦x<2)で表される化合物である、Ti又はP等の異種元素がドープされていてもよく、更に表面がカーボンによって被覆されていてもよい。特に、電極活物質としてはSiO粒子が好適である。
【0035】
特に、SiOは、重量当たりの理論上の比容量が大凡2000mAhg-1、及び作動電位が約0.5V(vs. Li/Li+)である。即ち、グラファイトと比べて比容量が断然大きく、グラファイトと同じく作動電位は低いが、作動電位が約0.05V(vs. Li/Li+)のグラファイトのように極端な低さではない。また、SiOは、入手容易性や環境低負荷性もある。
【0036】
導電助剤としては、繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブでも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよい。炭素粉末は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維等である。
【0037】
繊維状炭素や炭素粉末には、賦活処理や孔を形成する開口処理などの多孔質化処理を施してもよい。炭素粉末の賦活方法としては、用いる原料により異なるが、通常、ガス賦活法、薬剤賦活法などの従来公知の賦活処理を用いることができる。ガス賦活法に用いるガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素またはこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。また、薬剤賦活法に用いる薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類、または塩化亜鉛などの無機塩類などが挙げられる。この賦活処理の際には必要に応じて加熱処理が施される。
【0038】
固体電解質に含まれる柔粘性結晶は、プラスチッククリスタルとも称され、秩序配列と無秩序配向を有する。即ち、柔粘性結晶は、アニオン及びカチオンが規則的に配列した三次元結晶格子構造を有する一方、これらアニオン及びカチオンが回転不規則性を有する。柔粘性結晶を構成するアニオン成分及びカチオン成分の種類は、電解コンデンサを使用する目的温度範囲内でイオン液体ではなく固体の状態となっていれば、特に限定されない。
【0039】
柔粘性結晶を構成するアニオン成分としては、各種アミドアニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン、各種ホスフェートアニオン及び各種ボレートアニオン等が挙げられる。
【0040】
各種アミドアニオンは、NH2アニオンの2つの水素原子がパーフルオロアルキルスルホニル基、フルオロスルホニル基又はこれらの両方で置換されている。各種アミドアニオンには、例えば直鎖状が含まれ、下記化学式(1)で表される各種ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、及び各種N-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンが含まれる。
【0041】
(化1)
化学式(1)の式中、n及びmは0以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0042】
化学式(1)の式中、n及びmが1以上であれば、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンである。ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンとしては、具体的には下記化学式(2)で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(TFSAアニオン)、下記化学式(3)で表されるビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)アミドアニオン(BETAアニオン)が挙げられる。
【0043】
【0044】
【0045】
また、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンとしては、具体的には、化学式(1)の式中、nが1でmが2であり、下記化学式(4)で表される(ペンタフルオロエチルスルホニル)トリフルオロメタンスルホニルアミドアニオンが挙げられる。
【0046】
【0047】
化学式(1)の式中、炭素数が0の基は即ちフルオロスルホニル基であり、n及びmが0であれば、下記化学式(5)で表されるビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSAアニオン)である。
【0048】
【0049】
化学式(1)の式中、nが0であり、mが1以上であれば、下記化学式(6)で表されるN-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンである。N-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンとしては、具体的にはmが1であり、下記化学式(7)で表されN-(フルオロスルホニル)-N-(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン、mが2であり、下記化学式(8)で表されるN-(フルオロスルホニル)-N-(ペンタフルオロエチルスルホニル)アミドアニオンが挙げられる。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
また、各種アミドアニオンには、下記化学式(9)で表され、NH
2アニオンの2つの水素原子がパーフルオロアルキルスルホニル基とフルオロアセチル基で置換された(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオンが含まれる。
(化9)
化学式(9)の式中、nは0以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0054】
また、各種アミドアニオンには、例えば五員環及び六員環のヘテロ環式が含まれ、下記化学式(10)で表されるN,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオン(CFSAアニオン)、及び下記化学式(11)で表されるN,N-ペンタフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオンが含まれる。
【0055】
【0056】
【0057】
トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン(TFSMアニオン)は、下記化学式(12)によって表される。
(化12)
【0058】
各種ホスフェートアニオンは、下記化学式(13)によって表されるヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6アニオン)、または下記化学式(14)によって表され、PF6の一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオンである。
【0059】
【0060】
(化14)
化学式(4)の式中、qは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0061】
具体的には下記化学式(15)で表されるトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン(FAPアニオン)が挙げられる。
(化15)
【0062】
各種ボレートアニオンは、下記化学式(16)によって表されるテトラフルオロボレートアニオン(BF4アニオン)、下記化学式(17)によって表され、BF4アニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルボレートアニオンが挙げられる。各種パーフルオロアルキルボレートアニオンとしては、具体的には、例えば、モノ(フルオロアルキル)トリフルオロボレートアニオン、及びビス(フルオロアルキル)フルオロボレートアニオンが挙げられる。
【0063】
【0064】
(化17)
式中、sは0以上の整数、tは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0065】
柔粘性結晶を構成するカチオン成分としては、各種第4級アンモニウムカチオン、各種ピロリジニウムカチオン、各種ピペリジニウムカチオン、各種イミダゾリウムカチオン、各種ホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0066】
第4級アンモニウムカチオンとしては、下記化学式(18)で表され、炭素数を問わない直鎖アルキル基で置換されたテトラアルキルアンモニウムカチオンが挙げられる。
(化18)
式中、a、b、c及びdは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0067】
上記化学式(18)中、a、b、c及びdが2である場合、下記化学式(19)で表されるテトラエチルアンモニウムカチオン(TEAカチオン)である。
(化19)
【0068】
上記化学式(18)中、a、b及びcが2並びにdが1である場合、下記化学式(20)で表されるトリエチルメチルアンモニウムカチオン(TEMAカチオン)である。
(化20)
【0069】
また、第4級アンモニウムカチオンとしては、下記化学式(21)で表され、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が結合する五員環のピロリジニウムカチオンが挙げられる。
(化21)
式中、R1及びR2は、メチル基、エチル基又はイソプロピル基。
【0070】
上記化学式(21)で一般化される五員環のピロリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、下記化学式(22)で表されるN-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P12カチオン)、下記化学式(23)で表されるN-イソプロピル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P13isoカチオン)、下記化学式(24)で表されるN,N-ジエチルピロリジニウムカチオン(P22カチオン)が挙げられる。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
また、第4級アンモニウムとしては、下記化学式(25)で表されるスピロ型ピロリジニウムカチオン(SBPカチオン)が挙げられる。
(化25)
【0075】
各種ピペリジニウムカチオンは、次の化学式(26)に示され、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が六員環のピペリジニウムカチオンが挙げられる。
(化26)
式中、R3及びR4は、メチル基、エチル基又はイソプロピル基。
【0076】
上記化学式(26)で一般化される六員環のピペリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、下記化学式(27)で表され、R1がメチル基及びR2がエチル基である1-エチル-1-メチルピペリジニウムカチオンが挙げられる。
(化27)
【0077】
各種イミダゾリウムカチオンは、下記化学式(28)で表される1,3-ジアルキルイミダゾリウム又は1,2,3-トリアルキルイミダゾリウムカチオンである。
(化28)
式中、hとiは1以上3以下の整数、jは0又は1
【0078】
化学式(28)の式中、jが0、h及びiが1であれば、下記化学式(29)で表される1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン(DMIカチオン)である。このDMIカチオンの2位がメチル基で置換されてもよい。
(化29)
【0079】
化学式(28)の式中、jが0、hが1及びiが2であれば、下記化学式(30)で表される1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(EMIカチオン)である。このEMIカチオンの2位がメチル基で置換されてもよい。
(化30)
【0080】
化学式(28)の式中、jが0、hが1及びiが3であれば、下記化学式(31)で表される1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン(MPIカチオン)である。このMPIカチオンの2位がメチル基で置換されてもよい。
(化31)
【0081】
各種ホスホニウムカチオンは、下記化学式(32)で表され、炭素数を問わない直鎖アルキル基で置換された、テトラアルキルホスホニウムカチオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムカチオンとしては、例えばテトラエチルホスホニウムカチオン(TEPカチオン)が挙げられる。
(化32)
式中、e、f、g及びhは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0082】
このような柔粘性結晶を電解質層内に2種類以上含めるようにしてもよい。柔粘性結晶を構成可能な2種以上のアニオン成分が電解質層内で混合して用いると、アニオン成分を単種で使用する場合と比べて、電解質層のイオン伝導度が向上する。また、柔粘性結晶を構成可能な2種以上のカチオン成分が電解質層内で混合して用いると、カチオン成分が単種である場合と比べて、電解質層のイオン伝導度が向上する。
【0083】
固体電解質には、イオン性塩が更に含まれる。柔粘性結晶は、イオン伝導媒体となる柔粘性結晶で母相であり、イオン性塩は、柔粘性結晶内で陽イオン及び陰イオンに解離し、電解質として柔粘性結晶のアニオン及びカチオンの回転によってホッピングされ、結晶格子中の空隙を移動する。
【0084】
このイオン性塩は、蓄電デバイスの種類に応じればよい。リチウムイオン二次電池に対するイオン性塩としては、Li(CF3SO2)2N(通称:LiTFSA)、Li(FSO2)2N(通称:LiFSA)、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiTaF6、LiClO4、LiCF3SO3等が挙げられ、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。電気二重層キャパシタに対するイオン性塩としては、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0085】
有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、テトラフルオロボレート等を含むホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0086】
これら有機酸の塩、無機酸の塩、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。また、電気二重層キャパシタに対するイオン性塩としては、柔粘性結晶を構成する上記化学式(N)、(P)、(Q)及び(R)のカチオン成分を含む塩が挙げられる。
【0087】
固体電解質には、更に樹脂が含まれていてもよい。この樹脂は、固体電解質によるシート電極と集電体の接着性を更に上げることができる。この樹脂としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリエチレンカーボネート(PEC)、PECの誘導体、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、又はポリトリメチレンカーボネートとポリカーボネートの共重合体である。これらポリマーの1種を単独で用いてもよく、2種類以上が組み合わせられても良い。これらポリマーのうち、カーボネート系ポリマーは、例示であり、脂肪族ポリカーボネートであれば何れも使用可能である。また、2種以上を組み合わせて用いる場合、各種ポリマーが単重合の形態を採っていてもよく、2種以上のモノマーの共重合体として存在していてもよい。
【0088】
また、柔粘性結晶は、液体添加によって粘度が調整されている。従って、固体電解質には、この液体が残存してもよい。柔粘性結晶の粘度調整が可能な液体であれば種類は問わないが、電解質として性質を併せ持つイオン液体が好ましい。イオン液体は、室温を含む温度範囲において液体状態で存在する塩であり、イオンのみからなる液体である。
【0089】
イオン液体のアニオン成分としては、上式化学式(1)乃至(17)で上げた各種アミドアニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン、各種ホスフェートアニオン及び各種ボレートアニオン等が挙げられる。
【0090】
イオン液体のカチオン成分としては、イオン液体を構成し得るカチオン成分であれば特に限定されないが、例えば化学式(30)のEMIカチオン、化学式(31)のMPIカチオン、化学式(26)のピペリジニウム系のカチオン、化学式(32)のホスホニウム系のカチオン、BMIカチオン、DEMEカチオン、MEMPカチオン、P13カチオン及びピリジニウム系のカチオンが挙げられる。
【0091】
BMIカチオンは、次の化学式(33)で示される1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンである。
【化33】
化学式(33)中、ブチル基はn-ブチル基である。
【0092】
DEMEカチオンは、次の化学式(34)に示されるN,N-ジエチル-N-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオンである。
【化34】
【0093】
MEMPカチオンは、次の化学式(35)に示されるN-(2-メトキシエチル)―N―メチルピロリジウムカチオンである。
【化35】
【0094】
P13カチオンは、次の化学式(36)に示されるN-プロピル-N-メチルピロリジニウムカチオンである。
【化36】
【0095】
尚、ピロリジニウム骨格を有するカチオンであれば、MEMPカチオン及びP13カチオンに限らず用いることができる。ピロリジニウム骨格を有するカチオンとしては、例えば、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-プロピル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-エチル-1-エチルピロリジニウムカチオン、1-プロピル-1-エチルピロリジニウムカチオン、又は1-ブチル-1-エチルピロリジニウムカチオンが挙げられる。
【0096】
ピリジニウム系のカチオンは、次の化学式(37)に示される2位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオン、化学式(38)に示される3位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオン、及び化学式(39)に示される4位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオンが挙げられる。
【0097】
【化37】
化学式(37)中、nは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0098】
化学式(37)に示される2位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオンとしては、例えば1-エチル-2-メチルピリジニウムカチオン、1-プロピル-2-メチルピリジニウムカチオン、及び1-ブチル-2-メチルピリジニウムカチオンが挙げられる。
【0099】
【化38】
化学式(38)中、nは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0100】
化学式(38)に示される3位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオンとしては、例えば1-エチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-プロピル-3-メチルピリジニウムカチオン及び1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオンが挙げられる。
【0101】
【化39】
化学式(39)中、nは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0102】
化学式(39)に示される4位がメチル基で置換されたピリジニウムカチオンとしては、例えば1-エチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-プロピル-4-メチルピリジニウムカチオン、及び1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオンが挙げられる。
【0103】
柔粘性結晶の粘度を調整する液体としては、イオン液体以外にも、またはイオン液体に加えて、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン又はエチルメチルカーボネート等の有機溶媒を用いることができる。柔粘性結晶とイオン液体とのモル比は、4:6~9:1の範囲が好ましく、特に好ましくは導電性の観点から4:6~6:4である。柔粘性結晶の粘度調整のために、イオン液体を当該範囲内に収め、不足分を有機溶媒で補うようにしてもよい。
【0104】
また、柔粘性結晶となるイオンが溶媒中に溶けこんだ溶液から柔粘性結晶を析出させる過程で、一部液体を蒸散させずに液体含む状態、つまり液体が添加された状態で柔粘性結晶を得て、粘度を調整してもよい。
【0105】
電極合剤に含まれるバインダは、繊維状であり、電極活物質粒子と導電助剤を絡め取って複合化する。但し、繊維状のバインダは、柔粘性結晶の粘度を調整した液分を吸い取り、混練を難しくする。このバインダとしては、ポリオレフィン、ポリアルキレン、ポリ塩化ビニレン、セルロース、セルロースアセテート、硫酸セルロース、セルロース塩及びアクリルポリマーが挙げられる。
【0106】
ポリオレフィンとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びこれらのコポリマーが挙げられる。ポリアルキレンとしては、ポリエーテル、スチレン-ブタジエン、ポリシロキサン、分岐ポリエーテル、ポリビニルエーテル及びこれらのコポリマーが挙げられる。ポリ塩化ビニレンとしては、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエチレン-ブロック-ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシロキサン-石炭アルキルメチルシロキサン及びこれらのコポリマーが挙げられる。
【0107】
セルロースとしては、カルボキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース及びカルボキシイソプロピルセルロースが挙げられる。セルロースアセテートとしては、セルロースエステル、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)が挙げられる。セルロース塩としては、ナトリウムセルロースエステル、アンモニウムセルロースエステル、リチウムセルロースエステル、硝酸セルロースナトリウム、カルボキシアルキルセルロースナトリウム及びナトリウムセルロース誘導体が挙げられる。
【0108】
アクリルポリマーとしては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル及びその誘導体が挙げられる。
【0109】
(電極合剤の製造方法)
このような電極合剤の製造方法を説明する。まず、電極合剤の製造方法は、乾式混合であり、攪拌槽に対して、固体電解質に投入する固体電解質投入工程と、導電助剤を投入する導電助剤投入工程と、電極活物質粒子を投入する活物質投入工程と、バインダを投入するバインダ投入工程とを含む。各投入工程は、投入のみならず、攪拌槽内での攪拌、混合又は混練する処理も含んでもよい。攪拌槽は、攪拌槽内に投入されたものを、攪拌、混合又は混錬することができればよく、例えば、ライカイ器、石臼式摩砕機、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを使用することができる。
【0110】
固体電解質投入工程で投入される固体電解質は、少なくとも柔粘性結晶を含み、または柔粘性結晶に対してイオン性塩、イオン液体、樹脂、有機溶媒、これらの複数又は全部が混合した混合体である。固体電解質投入工程で投入される柔粘性結晶又は混合体内の柔粘性結晶は、イオン液体、有機溶媒又は両方が添加されて混練されることで粘度が調整される。柔粘性結晶の粘度は、0.5Pa・s以上50Pa・s以下が好ましい。柔粘性結晶の粘度範囲がこの範囲に収まると、シート電極の充填率、即ちシート電極の密度が向上する。
【0111】
また、柔粘性結晶となるイオンが溶媒中に溶けこんだ溶液から柔粘性結晶を析出させる過程で、一部液体を蒸散させずに液体を含む状態、つまり液体が添加された状態で柔粘性結晶を得て、粘度を調整してもよい。
【0112】
図1は、電極合剤の各材料を投入する順序を示す各種フローである。
図1において、丸印のタイミングが、電極活物質粒子と導電助剤を攪拌槽に投入してよいタイミングであり、x印のタイミングが、電極活物質粒子と導電助剤を攪拌槽に投入してはならないタイミングである。
【0113】
図1の(a)乃至(d)に示すように、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の両方を経る前に、導電助剤投入工程と活物質投入工程を完了させなくてはならない。換言すれば、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の何れか一方よりも先に、または両方よりも先に、導電助剤投入工程と活物質投入工程の両方を経て、導電助剤と電極活物質粒子とを混合しなくてはならない。さらに換言すれば、固体電解質投入工程とバインダ投入工程と導電助剤投入工程と活物質投入工程のうち、固体電解質投入工程又はバインダ投入工程が最後の投入工程となり、最後に固体電解質またはバインダが投入され、混合される。
【0114】
例えば、
図1の(a)に示すように、攪拌槽にバインダを投入するバインダ投入工程を最初に経てから、導電助剤を投入する導電助剤投入工程と、電極活物質粒子を投入する活物質投入工程とを行う。導電助剤投入工程と活物質投入工程は、何れが先でもよく、同時でもよい。また、導電助剤と活物質が混合されたものを投入してもよい。そして、導電助剤投入工程と活物質投入工程を終えた後、固体電解質に投入する固体電解質投入工程に移る。
【0115】
または、
図1の(b)に示すように、固体電解質投入工程を最初に経てから、導電助剤投入工程と活物質投入工程とを行う。そして、導電助剤投入工程と活物質投入工程を終えた後、バインダ投入工程に移る。
【0116】
または、
図1の(c)に示すように、導電助剤投入工程と活物質投入工程の一方を最初に経てから、次にバインダ投入工程を行い、その後に導電助剤投入工程と活物質投入工程の他方を経てから、固体電解質投入工程に移る。または、
図1の(d)に示すように、導電助剤投入工程と活物質投入工程の一方を最初に経てから、次に固体電解質投入工程を行い、その後に導電助剤投入工程と活物質投入工程の他方を経てから、バインダ投入工程に移る。
【0117】
即ち、
図1の(a)乃至(d)のx印のタイミングが示すように、バインダ投入工程と固体電解質投入工程を経た後、導電助剤投入工程と活物質投入工程とを行ってはならない。バインダと固体電解質とを混練するとき、柔粘性結晶の粘度を調整するために用いた液分がバインダに吸い取られてしまい、固体電解質とバインダの凝集が発生してしまう。固体電解質とバインダとが凝集した後は、混合物の流動性が失われ、導電助剤及び電極活物質粒子を混練することができなくなる。そのため、シート電極に成形できず、またはシート電極を集電体に接着することができない。
【0118】
好ましくは、
図1の(d)に示した、導電助剤投入工程と活物質投入工程とを最初に経てから、固体電解質投入工程を行い、次にバインダ投入工程を移る。この材料投入手順を採ると、柔粘性結晶によるシート電極と集電体との接着強度が最も高くなる。
【0119】
(シート電極の製造方法)
この電極合剤を用いてシート電極は次の通り作製される。まず、柔粘性結晶の粘度調整のために有機溶媒を用いた場合、乾燥工程によって電極合剤から有機溶媒を除去することが好ましい。圧延処理の前に乾燥工程を経ることで、シート電極の充填率、即ち電極密度が向上する。
【0120】
乾燥後は、ロールプレスを用いて電極合剤を圧延化することで、シート電極を成形する。この電極合剤を用いたシート電極は、100μm以上又は200μmを超える厚みとすることができる。圧延処理では、一般には50000~1000000N/cm2、好ましくは100000~500000N/cm2の範囲である。また、圧延処理の温度には特別な制限がなく、処理を常温で行っても良く加熱条件下で行っても良い。
【0121】
そして、圧延処理後、シート電極を集電体に貼り付ける。シート電極と集電体との貼り付けにおいては、シート電極中の柔粘性結晶の割合が10wt%以上50wt%以下となっていることが好ましく、20wt%以上30wt%以下がより好ましい。シート電極内の柔粘性結晶がシート表面において、固体電解質中の樹脂の分散状態体を好適にさせ、良好な接着性を実現でき、貼り付けの際に新たな接着剤を省くことができる。
【0122】
シート電極が貼り付けられる集電体は、導電体であり、シート電極の支持基板ともなる。シート電極は、集電体の片面又は両面に貼り付けられる。集電体としては、例えば白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料が使用される。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0123】
柔粘性結晶とは別に、集電体にシート電極を貼り付けるための接着剤を用いる場合には、ゴム系接着剤等を用いることができる。
【実施例0124】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
次の通り、実施例1の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。まず、電極合剤の作製に先立って、固体電解質を作製した。柔粘性結晶は、P12TFSA柔粘性結晶とP12FSAの2種類を用いた。P12TFSA柔粘性結晶は、N-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P12カチオン)とビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TFSA)により構成される。P12FSAは、P12カチオンとビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSAアニオン)により構成される。P12TFSAとP12FSAを4:6のモル比でバイアル瓶に加えた。
【0126】
バイアル瓶には、更に、P12カチオンの合計に対して30mol%となるように電解質であるLi(CF3SO2)2N(LiTFSA)を加え、またP12カチオンの合計に対して10wt%となるように樹脂であるポリエチレンカーボネート(PEC)を加えた。そして、有機溶媒として、バイアル瓶には、柔粘性結晶と電解質と樹脂の総計の固形分濃度が85wt%となるようにアセトニトリルを加えた。この結果、固体電解質の粘度は1Pa・sであった。
【0127】
電極合剤の各材料の投入手順としては、電極活物質粒子としてリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)を最初に乳鉢に投入し、次に導電助剤としてケッチェンブラックを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。電極活物質粒子と導電助剤を乳鉢に投入した後、固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、バインダとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0128】
乳鉢内に投入された各材料は、電極活物質粒子が67wt%であり、導電助剤が3wt%であり、固体電解質が29wt%であり、バインダが1wt%であった。
【0129】
この電極合剤を60℃の温度環境下に晒してアセトニトリルを揮発除去した。アセトニトリルを除去した後、ロールプレスを用いて電極合剤を厚さ100μmのシート電極になるように圧延した。圧延後、シート電極をアルミニウム製の集電体に貼り付けた。
【0130】
(実施例2)
実施例2の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例2は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。実施例2では、電極活物質粒子を最初に乳鉢に投入し、次に導電助剤としてケッチェンブラックを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。電極活物質粒子と導電助剤を乳鉢に投入した後、バインダを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0131】
(実施例3)
実施例3の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例3は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。実施例3では、最初にバインダを乳鉢に投入し、次に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0132】
(実施例4)
実施例4の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例4は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。実施例4では、最初にバインダを乳鉢に投入し、次に導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0133】
(実施例5)
実施例5の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例5は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。実施例5では、最初に固体電解質を乳鉢に投入し、次に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、バインダを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0134】
(実施例6)
実施例6の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例6は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。実施例6では、最初に固体電解質を乳鉢に投入し、次に導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、バインダを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0135】
このように、実施例1乃至6の電極合剤は、固体電解質とバインダとが接触する前に、電極活物質粒子と導電助剤が攪拌槽に投入されて混練された。
【0136】
(比較例1)
比較例1の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。比較例1は、実施例1と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。比較例1では、最初にバインダを乳鉢に投入し、次に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0137】
(比較例2)
比較例2の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。比較例2は、実施例2と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。比較例2では、最初にバインダを乳鉢に投入し、次に導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更に固体電解質を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0138】
(比較例3)
比較例3の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。比較例3は、実施例3と比べて、電極合剤の製造工程における各材料の投入手順が異なる。比較例3では、最初に固体電解質を乳鉢に投入し、次に電極活物質粒子を乳鉢に投入して乳棒にて混練し、更にバインダを乳鉢に投入して乳棒にて混練した。最後に、導電助剤を乳鉢に投入して乳棒にて混練した。
【0139】
このように、比較例1乃至3の電極合剤は、固体電解質とバインダとが接触した後に、電極活物質粒子と導電助剤の一方が攪拌槽に投入されて混練された。
【0140】
(成形成否)
実施例1乃至6並びに比較例1乃至3のシート電極の成形成否について下表1に示す。下表1において、丸印は、100μm厚のシート電極の成形に成功したことを示し、x印は、圧延できずにシート電極が成形できなかったことを示す。また、実施例1乃至6並びに比較例1乃至3のシート電極の電極密度を測定し、下表1に示す。
【0141】
尚、電極密度は、圧延により厚みを100μmに調整したシート電極を1cm角に切り出し、重量を測定した。得られた重量(g)を0.0001cm(100μm)で割り、電極密度(g/cc)とした。
【0142】
【0143】
表1に示すように、実施例1乃至6の電極合剤を用いた場合、100μm厚のシート電極を作製することができた。一方、比較例1乃至3の電極合剤は圧延処理ができず、100μm厚のシート電極に成形することができなかった。実施例1乃至6は、固体電解質とバインダとが接触する前に、電極活物質粒子と導電助剤が攪拌槽に投入されて混練された電極合剤である。一方、比較例1乃至3は、固体電解質とバインダとが接触した後に、電極活物質粒子と導電助剤の一方が攪拌槽に投入されて混練された電極合剤である。
【0144】
これにより、柔粘性結晶に液体を添加することで、当該柔粘性結晶の粘度を調整し、固体電解質投入工程とバインダ投入工程の両方を経る前に、導電助剤投入工程と活物質投入工程を経ることで、100μm厚のシート電極を成形できることが確認された。
【0145】
尚、実施例1の電極合剤で作製されたシート電極は、集電体への接着強度が実施例2乃至6と比べても良好であった。即ち、実施例1の投入手順によれば、バインダや集電体と接着するための接着剤を更に低減できることが確認された。
【0146】
(実施例7)
実施例7の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。実施例7の電極合剤は実施例1と同一である。実施例7と実施例1とはシート電極の厚みが異なる。実施例7では、ロールプレスを用いて電極合剤を厚さ200μmのシート電極になるように圧延した。圧延後、シート電極をアルミニウム製の集電体に貼り付けた。
【0147】
(比較例4)
比較例4の電極合剤を作製し、更にシート電極を作製した。比較例4の電極合剤は、実施例7と比べて、液体を添加することで柔粘性結晶の粘度を調整する固体電解質調整工程が省かれている点が異なる。即ち、バイアル瓶にP12TFSA柔粘性結晶とP12FSAの2種類を加えた。また、バイアル瓶にはP12カチオンの合計に対して30mol%となるように電解質であるLi(CF3SO2)2N(LiTFSA)を加えた。更に、バイアル瓶にはP12カチオンの合計に対して10wt%となるように樹脂であるポリエチレンカーボネート(PEC)を加えた。この後、実施例7ではアセトニトリルを加えて、固体電解質の粘度を1Pa・sに調整している。一方、比較例4では液体による粘度調整を行わなかった。
【0148】
(SEM観察)
実施例7及び比較例4のシート電極の表面を走査型電子顕微鏡を用いて5.00k倍で観察し、また電極密度と充填率を測定した。充填率は次の通り計算した。まず、充填率の計算は、シート電極を構成する各材料の真密度を、組成割合(電極活物質粒子が67wt%、導電助剤が3wt%、固体電解質が29wt%、バインダが1wt%)で割り当てて得られたものを充填率100%(電極密度:3.235g/cc)とした。このとき、得られたシート電極の密度を分子に、理想的な充填率100%の電極の密度を分母にしたときに得られたものを充填率として計算した。
【0149】
図2は、このSEM観察の結果を示すSEM像の写真であり、(a)は実施例7であり、(b)は比較例4である。
図2に示すように、実施例7のシート電極は高充填率であり、具体的には電極密度が3.02g/ccであり、充填率が93.4%であった。一方、比較例4のシート電極には空疎な領域が多く見られ、電極密度が2.82g/ccであり、充填率が87.1%であった。これにより、柔粘性結晶に液体を添加することで、良好なシート電極が作製されることが確認された。
【0150】
(実施例8乃至11)
実施例8乃至11のシート電極を作製した。実施例8は、実施例7と同一の製造方法及び製造条件により作製された。実施例9は、実施例8と比較して圧延処理の前の乾燥工程を省いた点が異なる。即ち、電極合剤からアセトニトリルを揮発除去せずに、ロールプレスを用いて電極合剤を厚さ100μmのシート電極になるように圧延した。
【0151】
また、実施例10は、実施例1と比べて、電極合剤に添加する電極活物質がグラファイトである点で異なり、各材料の投入手順は同一である。実施例11は、実施例10と比較して圧延処理の前の乾燥工程を省いた点が異なる。即ち、電極合剤からアセトニトリルを揮発除去せずに、ロールプレスを用いて電極合剤を厚さ100μmのシート電極になるように圧延した。
【0152】
これら実施例8乃至11のシート電極の充填率を測定した。充填率の測定結果を頭3に示す。
図3は、圧延処理前の乾燥工程の有無に係る実施例8乃至11のシート電極の充填率を示すグラフである。
【0153】
図3に示すように、圧延処理の前に乾燥工程を含み、柔粘性結晶の粘度を調整した液体を除去した実施例8は、充填率が93.3%となった。これに対し、圧延処理の前の乾燥工程を省いた実施例9は、充填率が90.5%であった。また、圧延処理の前に乾燥工程を含み、柔粘性結晶の粘度を調整した液体を除去した実施例10は、充填率が91.9%となった。これに対し、圧延処理の前の乾燥工程を省いた実施例11は、充填率が88.8%であった。
【0154】
このように、圧延処理の前に乾燥工程を含み、柔粘性結晶の粘度を調整した液体を除去した場合、シート電極の電極密度を高められることが確認された。