(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126255
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】時計用ムーブメント、時計、および偏心軸部材
(51)【国際特許分類】
G04B 11/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G04B11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034525
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】川西 和志
(57)【要約】
【課題】容易に組み立てが可能な時計用ムーブメント、時計、および偏心軸部材を提供する。
【解決手段】偏心軸部材40は、偏心軸部材40の回転軸である回転軸部42と、回転軸部42に対して偏心し、爪レバー34に係合する偏心軸部41と、を備え、回転軸部42は、偏心軸部材40の+Z方向の端部に設けられ、偏心軸部41は、偏心軸部材40の-Z方向の端部に設けられる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転錘の回転によってゼンマイを巻き上げる自動巻上機構を有する時計用ムーブメントであって、
前記回転錘と、
香箱真と前記ゼンマイとを有する香箱車と、
前記香箱真と一体で回転し、前記ゼンマイを巻き上げる角穴車と、
前記角穴車を回転させる伝え車と、
前記伝え車に係合し、前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、前記伝え車を回転させる爪レバーと、
前記回転錘に連動して回転することで前記爪レバーに前記進退運動を行わせる偏心軸部材と、を有し、
前記偏心軸部材は、
前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、
前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、
前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、
前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項2】
前記回転錘の回転に連動して回転する偏心歯車をさらに有し、
前記偏心軸部材は、前記回転軸部と前記偏心軸部との間に、前記偏心歯車が取り付けられる歯車支持部を備えることを特徴とする請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項3】
前記爪レバーは、前記偏心軸部が挿通される孔を有し、
前記孔の中に配置され、前記偏心軸部を回転可能に支持する第1支持部材をさらに有し、
前記第1支持部材は、前記爪レバーの前記第1方向側の面よりも前記第1方向に突出し、前記歯車支持部に接触することを特徴とする請求項2に記載の時計用ムーブメント。
【請求項4】
前記歯車支持部は、前記第2方向に突出して前記爪レバーに接触する突出部を有することを特徴とする請求項2に記載の時計用ムーブメント。
【請求項5】
前記回転軸部を回転可能に支持する第2支持部材と、
前記第2支持部材より前記第2方向側に位置し、前記回転軸部を回転可能に支持する第3支持部材と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項6】
前記偏心軸部の前記第2方向に配置され、前記第2方向側から見たときに、前記偏心軸部の回転軌跡を覆う第4支持部材をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の時計用ムーブメント。
【請求項7】
前記回転軸部が挿通される貫通孔を有する第1受部材をさらに有し、
前記第3支持部材は、前記第1方向に沿った方向において、前記第1受部材とオーバーラップしていない領域を有することを特徴とする請求項5に記載の時計用ムーブメント。
【請求項8】
前記第1受部材の前記貫通孔の中に配置される保持部材をさらに有し、
前記第2支持部材は、前記第1受部材または前記保持部材に保持され、
前記第3支持部材は、前記保持部材に保持されることを特徴とする請求項7に記載の時計用ムーブメント。
【請求項9】
前記第1受部材の前記貫通孔は、前記第2方向側の端部において、前記保持部材から離間していることを特徴とする請求項8に記載の時計用ムーブメント。
【請求項10】
回転錘の回転によってゼンマイを巻き上げる自動巻上機構を有するムーブメントと、
前記ムーブメントを収容するケースと、を有し、
前記ムーブメントは、
前記回転錘と、
香箱真と前記ゼンマイとを有する香箱車と、
前記香箱真と一体で回転し、前記ゼンマイを巻き上げる角穴車と、
前記角穴車を回転させる伝え車と、
前記伝え車に係合し、前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、前記伝え車を回転させる爪レバーと、
前記回転錘に連動して回転することで前記爪レバーに前記進退運動を行わせる偏心軸部材と、を備え、
前記偏心軸部材は、
前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、
前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、
前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、
前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする時計。
【請求項11】
回転錘の回転を利用して角穴車を回転させることによりゼンマイを巻き上げる自動巻上機構に用いられ、前記角穴車を回転させる伝え車に係合する爪レバーが取り付けられ、前記回転錘の回転に連動して回転することで前記爪レバーを前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行わせる偏心軸部材であって、
前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、
前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、
前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、
前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする偏心軸部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用ムーブメント、時計、および偏心軸部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、機械式時計におけるゼンマイの自動巻上機構は、回転錘と、回転錘に連動して回転する偏心軸部材と、偏心軸部材に取り付けられ、押し爪および引き爪を備えた爪レバーと、爪レバーの押し爪および引き爪が係合し、角穴車を回転させる伝え車とを備えている。
【0003】
この機構によれば、回転錘に連動して偏心軸部材が回転することで、爪レバーの押し爪および引き爪が、伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動する。そして、この進退運動に連動して伝え車が回転し、この伝え車の回転に連動して角穴車が回転し、ゼンマイが巻き上げられる。
【0004】
特許文献1の偏心軸部材は、軸方向の一方の端に設けられた第1回転軸部と、軸方向の他方の端に設けられた第2回転軸部と、第1回転軸部および前記第2回転軸部の間に位置する偏心軸部とを備えている。第2回転軸部の回転軸は、第1回転軸部の回転軸と同軸上に位置し、偏心軸部は、第1回転軸部および第2回転軸部の回転軸に対して偏心している。偏心軸部は、爪レバーに設けられた孔に挿通される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の偏心軸部材は、偏心軸部が第1回転軸部と第2回転軸部の間に位置しているため、爪レバーに設けられた孔に偏心軸部を挿通することが困難であった。具体的には、爪レバーを偏心軸部材に取り付けるときに、偏心軸部材を爪レバーに対して傾ける必要があり、爪レバーまたは偏心軸部材を変形させたり破損させたりする恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
時計用ムーブメントは、回転錘の回転によってゼンマイを巻き上げる自動巻上機構を有する時計用ムーブメントであって、前記回転錘と、香箱真と前記ゼンマイとを有する香箱車と、前記香箱真と一体で回転し、前記ゼンマイを巻き上げる角穴車と、前記角穴車を回転させる伝え車と、前記伝え車に係合し、前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、前記伝え車を回転させる爪レバーと、前記回転錘に連動して回転することで前記爪レバーに前記進退運動を行わせる偏心軸部材と、を有し、前記偏心軸部材は、前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする。
【0008】
時計は、回転錘の回転によってゼンマイを巻き上げる自動巻上機構を有するムーブメントと、前記ムーブメントを収容するケースと、を有し、前記ムーブメントは、前記回転錘と、香箱真とゼンマイとを有する香箱車と、前記香箱真と一体で回転し、前記ゼンマイを巻き上げる角穴車と、前記角穴車を回転させる伝え車と、前記伝え車に係合し、前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、前記伝え車を回転させる爪レバーと、前記回転錘に連動して回転することで前記爪レバーに前記進退運動を行わせる偏心軸部材と、を備え、前記偏心軸部材は、前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする。
【0009】
偏心軸部材は、回転錘の回転を利用して角穴車を回転させることによりゼンマイを巻き上げる自動巻上機構に用いられ、前記角穴車を回転させる伝え車に係合する爪レバーが取り付けられ、前記回転錘の回転に連動して回転することで前記爪レバーを前記伝え車に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行わせる偏心軸部材であって、前記偏心軸部材の回転軸である回転軸部と、前記回転軸部に対して偏心し、前記爪レバーに係合する偏心軸部と、を備え、前記回転軸部は、前記偏心軸部材の第1方向の端部に設けられ、前記偏心軸部は、前記偏心軸部材の前記第1方向と反対の第2方向の端部に設けられることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ムーブメントの要部を裏蓋側から見た裏面図。
【
図7】偏心軸部材を±Z方向に直交する方向から見た側面図。
【
図10】実施形態2の偏心軸部材を-Z側から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施形態1
以下、実施形態1に係るムーブメント10を有する時計1の概略構成について説明する。なお、実施形態1では、時計1を電子制御式機械時計として記載するが、時計1は、電気制御式機械時計に限らず、機械式時計であってもよい。
【0012】
図1は、時計1の表面側を示す正面図であり、
図2は、時計1の裏面側を示す裏面図である。
時計1は、円筒状のケースである外装ケース2を備え、外装ケース2の内周側には、文字板3が配置されている。外装ケース2の2つの開口のうち、表面側の開口は、図示しないカバーガラスで塞がれており、裏面側の開口は裏蓋8で塞がれている。裏蓋8は、リング状の枠8Aと、枠8Aに取り付けられた透明な裏蓋ガラス8Bとで構成されている。また、外装ケース2にはバンドが取り付けられている。
【0013】
なお、以下の説明において、文字板3の表面に平行で、文字板3の9時と3時とを結ぶ直線と平行な軸をX軸とし、文字板3の表面に平行で、文字板3の12時と6時とを結ぶ直線と平行な軸をY軸とする。また、文字板3の表面の法線方向をZ軸とする。X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交する。
【0014】
X軸に平行な方向のうち、文字板3の9時から3時に向かう方向が+X方向であり、その反対方向が-X方向である。また、Y軸に平行な方向のうち、文字板3の6時から12時に向かう方向が+Y方向であり、その反対方向が-Y方向である。また、Z軸に平行な方向のうち、裏蓋8からカバーガラスに向かう方向が+Z方向であり、その反対方向が-Z方向である。+Z方向は、第1方向に相当し、-Z方向は、第2方向に相当する。
【0015】
時計1は、外装ケース2内に収容されたムーブメント10と、時刻情報を指示する時針4A、分針4B、秒針4Cと、ゼンマイの巻き上げ残量を指示するパワーリザーブ針5とを備えている。文字板3には、カレンダー小窓3Aが設けられており、カレンダー小窓3Aから、日車6が視認可能となっている。ムーブメント10は、時計用ムーブメントの一例である。
【0016】
図2に示す回転錘31には、開口314が形成され、回転錘31の位置によってパワーリザーブ針5が視認できないことが少なくなるように構成されている。円盤形状の輪列受12の裏面には、扇形の目盛部12Aが設けられている。この目盛部12Aをパワーリザーブ針5が指示することで、ゼンマイ210(
図4参照)の巻き上げ残量を表示できる。
【0017】
外装ケース2の側面には、りゅうず7が設けられている。りゅうず7は、時計1の中心に向かって押し込まれた0段位置から1段位置および2段位置に引き出されて移動することができる。
【0018】
りゅうず7を0段位置で回転すると、後述するように、ムーブメント10に設けた機械的エネルギー源であるゼンマイ210を巻き上げることができる。ゼンマイ210の巻き上げに連動して、パワーリザーブ針5が移動する。
【0019】
りゅうず7を1段位置に引いて回転すると、後述する切換機構50によってりゅうず7の回転が伝達される歯車が切り替わり、日車6を移動して日付を合わせることができる。
【0020】
りゅうず7を2段位置に引くと秒針4Cが停止し、2段位置でりゅうず7を回転すると、切換機構50によってりゅうず7の回転が伝達される歯車が切り替わり、時針4A、分針4Bが移動して時刻を合わせることができる。切換機構50の構成や、りゅうず7による日車6や時針4A、分針4Bの修正方法は、従来の時計と同様であるため説明を省略する。
【0021】
[ムーブメント]
次に、ムーブメント10について、
図2~
図5を参照して説明する。
図3は、回転錘31や輪列受12などを取り外した状態のムーブメント10の要部を裏蓋8側から見た裏面図である。
図4は、
図3のA-A線に沿った断面図であり、
図5は、
図3のB-B線に沿った断面図である。
【0022】
ムーブメント10は、
図3に示すように、時刻表示用輪列20と、巻上機構30と、切換機構50と、パワーリザーブ機構60と、発電機70と、回路部80とを備えている。
【0023】
[時刻表示用輪列]
時刻表示用輪列20は、
図3に示すように、香箱車21と、二番車22(
図4および
図5参照)と、三番車23と、四番車24と、五番車25と、六番車26とを備えている。
【0024】
香箱車21は、
図4に示すように、ゼンマイ210と香箱真220とを有している。具体的には、香箱車21には、ゼンマイ210が収納され、ゼンマイ210の中心側の端縁は香箱真220に取り付けられている。香箱真220には、香箱真220と一体で回転する角穴車211が取り付けられている。このため、角穴車211を回転することで機械的エネルギー源であるゼンマイ210を巻き上げることができ、このゼンマイ210の巻き上げで蓄積される機械的エネルギーによって香箱車21が回転すると、二番車22、三番車23、四番車24、五番車25、六番車26が順次回転する。
【0025】
図4に示すように、二番車22には筒かな28が取り付けられ、四番車24には秒針軸29が取り付けられている。また、筒かな28の外周には、図示しない日の裏車を介して筒かな28の回転が伝達される筒車27が配置されている。筒車27、筒かな28、秒針軸29には、それぞれ時針4A、分針4B、秒針4Cが取り付けられる。
【0026】
六番車26は、図示しないローターかなに噛合しており、六番車26が回転すると、発電機70のローターが回転する。
【0027】
[切換機構]
切換機構50は、りゅうず7の引き出し操作に応じて、りゅうず7の回転力の伝達先を切り換える機構であり、巻真13、つづみ車、きち車14、オシドリ、カンヌキ、カンヌキ押え、小鉄レバー、小鉄車などを備えている。これらの切換機構50の構成は、一般的な時計と同様であるため、説明を省略する。
【0028】
[パワーリザーブ機構]
パワーリザーブ機構60は、駆動源であるゼンマイ210の巻き上げ残量を表示する機構である。パワーリザーブ機構60は、遊星歯車機構61と、巻上げ表示輪列62と、巻戻し表示輪列63と、巻印第1中間車64と、巻印第2中間車65と、巻印車66と、
図2に示す輪列受12上に配置された扇形の目盛部12Aと、パワーリザーブ針5とを備える。目盛部12Aには、パワーリザーブ針5が指示する略帯状の目盛が表示されている。なお、駆動源であるゼンマイ210の巻き上げ残量によって、時計1の持続時間が推定できるため、目盛部12Aに持続時間を示す数字を印字すれば、パワーリザーブ針5で持続時間を指示できる。
【0029】
巻上げ表示輪列62は、香箱真220に噛み合う歯車を含む複数の歯車で構成され、香箱真220の回転、つまりゼンマイ210の巻き上げ操作に連動して回転する。この香箱真220の回転は、巻上げ表示輪列62を介して遊星歯車機構61に伝達される。巻戻し表示輪列63は、香箱車21に噛み合う歯車を含む複数の歯車で構成され、香箱車21の回転、つまりゼンマイ210の巻き戻しに連動して回転する。この香箱車21の回転は、巻戻し表示輪列63を介して遊星歯車機構61に伝達される。
【0030】
遊星歯車機構61は、詳細は省略するが、ゼンマイ210の巻き上げに連動して巻印第1中間車64を第1回転方向に回転し、ゼンマイ210の巻き戻しに連動して巻印第1中間車64を第1回転方向とは逆の第2回転方向に回転するように構成されている。巻印第1中間車64は、巻印第2中間車65を介して巻印車66を回転する。巻印車66の軸には、パワーリザーブ針5が取り付けられている。
【0031】
[巻上機構]
巻上機構30は、手動巻上機構と、自動巻上機構とを備えている。
【0032】
[手動巻上機構]
手動巻上機構は、
図3に示すように、りゅうず7が取り付けられる巻真13と、図示しないつづみ車と、きち車14と、丸穴車15と、角穴第1伝え車16と、角穴第2伝え車17と、角穴第3伝え車18とを備える。角穴第2伝え車17は、別体のかなと歯車が同軸に配置されて一体で回転し、角穴第3伝え車18は、後述する伝え車35のかなに噛み合っている。このため、りゅうず7を回転することで、伝え車35を介して角穴車211および香箱真220が回転し、ゼンマイ210が巻き上げられる。
【0033】
[自動巻上機構]
図2~
図5に示すように、自動巻上機構は、
図2に示す回転錘31と、ベアリング32と、
図3に示す偏心歯車33、爪レバー34、伝え車35を備える。自動巻上機構は、回転錘31の回転によってゼンマイ210を巻き上げる。
【0034】
回転錘31は、錘体部311および重錘部312を備えている。錘体部311は、薄板状に形成され、ベアリング32に固定される中心軸部313と、開口314とを備えている。重錘部312は、錘体部311の外周に連続して形成され、錘体部311に比べて肉厚に形成されている。回転錘31は、錘体部311および重錘部312が一体に形成されている。
【0035】
ベアリング32は、回転錘31を回転可能に支持する軸受であり、
図4および
図5に示すように、輪列受12に固定された内輪321と、回転錘31と一体で回転する外輪322と、内輪321および外輪322間に配置されたボール323とを備えている。外輪322の外周面には歯車322Aが形成されている。
【0036】
偏心歯車33は、
図5に示すように、ベアリング32の歯車322Aに噛合しており、回転錘31の回転に連動して正逆両方向に回転する。また、偏心歯車33は、後述する偏心軸部材40の歯車支持部43に取り付けられている。偏心歯車33は、偏心軸部材40の回転軸部42を回転軸として、偏心軸部材40とともに回転する。つまり、回転軸部42は、偏心歯車33および偏心軸部材40の回転軸である。
【0037】
爪レバー34は、本体部341と、本体部341から延出し、端部が伝え車35に係合する引き爪342と、本体部341から延出し、端部が伝え車35に係合する押し爪343とを備えている。
【0038】
図6は、
図3のC-C線に沿った断面図である。
図6に示すように、爪レバー34の本体部341には、±Z方向に貫通する孔344が形成されている。孔344の中には、ルビーなどで形成された環状の第1穴石55と、金属などで形成された環状の緩衝部材51とが配置されている。第1穴石55は、本体部341の孔344に、緩衝部材51を介して設けられている。第1穴石55には、孔551が形成されている。第1穴石55の孔551には、偏心軸部材40の偏心軸部41が挿通される。つまり、偏心軸部41は、第1穴石55の孔551に挿通されることにより、爪レバー34に設けられた孔344に挿通される。これにより、偏心軸部41は、爪レバー34に係合する。第1穴石55は、偏心軸部41を回転可能に支持している。第1穴石55は、第1支持部材の一例である。
【0039】
偏心軸部材40の偏心軸部41は、偏心歯車33および偏心軸部材40の回転軸である回転軸部42に対して偏心している。このため、偏心歯車33が回転錘31に連動して回転すると、偏心軸部材40の偏心軸部41に取り付けられた爪レバー34は、伝え車35に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、伝え車35を一方向に回転させる。
【0040】
伝え車35は、角穴車211に噛み合っており、角穴車211を一方向に回転させる。角穴車211が回転すると、香箱真220が角穴車211と一体で回転し、香箱車21に収容されたゼンマイ210が巻き上げられる。このような自動巻上機構によれば、例えば、ユーザーが腕に時計1を装着した状態で腕を振り、回転錘31を回転させることで、ゼンマイ210を巻き上げることができる。
【0041】
[偏心軸部材の構成]
図7は、偏心軸部材40を±Z方向に直交する方向から見た側面図であり、
図8は、偏心軸部材40を+Z側から見た斜視図である。以下、
図6、
図7および
図8を参照し、偏心軸部材40について詳述する。
【0042】
偏心軸部材40は、回転錘31に連動して回転することで爪レバー34に進退運動を行わせる。偏心軸部材40は、+Z側から順に、回転軸部42、歯車受け部44、歯車支持部43、および偏心軸部41を備える。これらの各部は、一体で形成されている。偏心軸部材40は、例えば、柱状の軸部材を回転させながら切削加工することで形成できる。
【0043】
回転軸部42は、円柱形状を有し、偏心軸部材40の+Z方向の端部に設けられている。回転軸部42は、
図6に示すように、+Z方向の端部に配置された第2穴石56と、第2穴石56より-Z側に配置された第3穴石57とによって回転可能に支持されている。具体的には、回転軸部42は、第2穴石56に形成された孔561、および第2穴石56より-Z側に位置する第3穴石57に形成された孔571に挿通される。第2穴石56は、第2支持部材の一例であり、第3穴石57は、第3支持部材の一例である。
【0044】
回転軸部42は、+Z側から順に、第1回転軸部421、第2回転軸部422、および第3回転軸部423を備える。偏心軸部材40は、回転軸部42を回転軸として回転する。具体的には、偏心軸部材40は、回転軸部42の中心軸L1を回転軸として回転する。中心軸L1は、Z軸に平行な直線である。
【0045】
第1回転軸部421、第2回転軸部422、第3回転軸部423の直径は、回転軸部42の強度を確保できる寸法以上である。さらに、回転軸部42の径が大きいほど、第2穴石56および第3穴石57と回転軸部42と間に生じる摩擦などによるトルクの損失が大きくなる。よって、第1回転軸部421、第2回転軸部422、および第3回転軸部423の直径は、強度を確保しつつ、トルク損失を最小に抑えた寸法である。
【0046】
第1回転軸部421は、回転軸部42において最も径が小さく、第2穴石56の孔561の内径以下の直径を有する。そして、第1回転軸部421は、第2穴石56によって、回転可能に支持されている。
【0047】
第2回転軸部422は、第1回転軸部421より直径が大きく、第3回転軸部423より直径が小さい。
第3回転軸部423は、回転軸部42において最も直径が大きく、第3穴石57の孔571の内径以下の直径を有する。そして、第3回転軸部423は、第3穴石57によって、回転可能に支持されている。
【0048】
歯車受け部44は、円盤形状を有し、平面中心が中心軸L1上に位置している。歯車受け部44は、回転軸部42より-Z方向に位置している。歯車受け部44は、後述する歯車支持部43に取り付けられる偏心歯車33を+Z側から受けることによって、偏心軸部材40に対する偏心歯車33の±Z方向の変位を抑制する。
【0049】
歯車受け部44は、+Z側の面に、+Z方向に突出する歯車支え部441を有する。歯車支え部441は、中心軸L1を中心としたリング形状を有する。歯車支え部441は、第1斜面4411と、第2斜面4412と、略平坦な接触面4413とを有する。第1斜面4411は、歯車受け部44の+Z側の面から、+Z方向と、中心軸L1に対する半径方向の外向きとを合成した方向に傾き、接触面4413の内径側に接続する。第2斜面4412は、歯車受け部44の+Z側の面から、+Z方向と、中心軸L1に対する半径方向の内向きとを合成した方向に傾き、接触面4413の外径側に接続する。つまり、歯車支え部441は、中心軸L1に沿った断面において、台形形状を有する。歯車支え部441は、接触面4413が第3穴石57と接触し、第3穴石57によって支持される。すなわち、接触面4413の外径は、第3穴石57の外径より小さく、接触面4413の内径は、第3穴石57の内径よりも大きい。
歯車受け部44がこのような歯車支え部441を備えることによって、第3穴石57と偏心軸部材40の接触領域を少なくすることができ、摩擦の発生を抑制することができる。
【0050】
歯車支持部43は、歯車受け部44の-Z側の面に形成され、歯車受け部44よりも径が小さい円盤形状を有する。歯車支持部43の平面中心は中心軸L1上に位置している。歯車受け部44および歯車支持部43は、±Z方向において、回転軸部42と偏心軸部41との間に配置されている。
歯車支持部43は、偏心歯車33の平面中心に設けられた孔に挿通される。そして、偏心歯車33は、歯車支持部43と一体となって回転する。
【0051】
偏心軸部41は、円柱形状を有している。偏心軸部41の偏心軸L2は、中心軸L1から偏心している。ただし、±Z方向から見る平面視において、偏心軸部41の一部は、回転軸部42と重なっている。偏心軸部41は、歯車支持部43の-Z側の面から-Z方向に突出している。すなわち、偏心軸部41は、偏心軸部材40の-Z方向の端部に設けられている。偏心軸部41の直径は、第1穴石55の孔551の内径以下である。そして、偏心軸部41は、第1穴石55によって、回転可能に支持されている。
【0052】
図6に示すように、爪レバー34の+Z側の面345は、第1穴石55の+Z方向の面552と比較して、-Z方向に位置している。すなわち、第1穴石55の+Z方向の面552は、爪レバー34の+Z側の面345と比較して、歯車支持部43に近くに位置している。言い換えれば、第1穴石55は、爪レバー34の+Z側の面345よりも+Z方向に突出している。そして、第1穴石55の+Z側の面552は、歯車支持部43に接触している。
【0053】
このような偏心軸部材40の構成により、偏心歯車33は、偏心軸部材40とともに、中心軸L1を中心にして回転する。また、偏心軸部41は、中心軸L1を中心にして公転する。これにより、偏心軸部41に回転可能に取り付けられた爪レバー34は、伝え車35に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動する。なお、爪レバー34の進退運動のストロークは、中心軸L1と偏心軸L2との距離の2倍の長さとなる。
【0054】
[偏心軸部材の受構造]
図6に示すように、ムーブメント10は、各部品を支持したり位置決めしたりするための板部材として、-Z側から順に順に、輪列受12と、第1受部材92と、地板93とを備える。
輪列受12の一部は、偏心軸部材40の-Z方向に位置している。そして、輪列受12には、偏心軸部材40の-Z側に穴が形成され、その穴に第4穴石58が配置されている。つまり、第4穴石58は、偏心軸部41の端部より-Z方向に配置される。
【0055】
ムーブメント10を-Z側から見たときに、第4穴石58は、偏心軸部41の回転軌跡を覆っている。すなわち、第4穴石58の直径は、偏心軸部41の回転軌跡よりも大きい。第4穴石58は、第4支持部材の一例である。
【0056】
第1受部材92は、偏心軸部材40の回転軸部42を挿通するための貫通孔921を有する。回転軸部42は、保持部材94に保持された状態で貫通孔921内に配置される。つまり、保持部材94も貫通孔921の中に配置されている。第1受部材92の貫通孔921の内径は、+Z側においては第1内径D11であって、-Z側においては第2内径D12である。第1内径D11は、第2内径D12より小さい。
【0057】
図9は、保持部材94の断面図である。
保持部材94は、±Z方向に沿った方向に延びる円筒形状の部材である。保持部材94の外径は、+Z側においては第1外径D21であって、-Z方向においては第2外径D22である。
【0058】
図6および
図9に示すように、貫通孔921の第1内径D11は、保持部材94の第1外径D21と略同一である。よって、保持部材94のうち、外径が第1外径D21である領域は、第1受部材92の貫通孔921のうち、内径が第1内径D11である領域によって保持されている。また、貫通孔921の第2内径D12は、保持部材94の第2外径D22より大きい。そして、保持部材94のうち、外径が第2外径D22である領域は、第1受部材92に接していない。言い換えれば、貫通孔921は、-Z側の端部において、保持部材94から離間している。このため、保持部材94は、-Z側において、第2内径D12の範囲内で揺動することができる。
【0059】
保持部材94は、偏心軸部材40を挿通するための±Z方向に沿った貫通孔942を有する。貫通孔942の内径は、+Z側においては第1内径D31であって、-Z側においては第2内径D32である。第1内径D31は、第2内径D32より小さい。また、保持部材94の第1内径D31は、第2穴石56の外径と略同じである。よって、保持部材94は、内径が第1内径D31の領域において第2穴石56を保持する。また、保持部材94の第2内径D32は、第3穴石57の外径と略同じである。よって、保持部材94は、内径が第2内径D32の領域において第3穴石57を保持する。
【0060】
保持部材94の-Z方向の端部に位置する上面943は、第1受部材92の-Z方向の上面924より-Z方向に位置する。すなわち、第3穴石57の-Z方向の上面572は、第1受部材92の-Z方向の上面924より-Z方向に位置する。よって、第3穴石57は、±Z方向に沿った方向において、第1受部材92とオーバーラップしていない領域を有している。
【0061】
以上説明したように、実施形態1においては、次のような効果を有する。
【0062】
ムーブメント10は、回転錘31の回転によってゼンマイ210を巻き上げる自動巻上機構を有する時計用ムーブメントであって、回転錘31と、香箱真220とゼンマイ210とを有する香箱車21と、香箱真220と一体で回転し、ゼンマイ210を巻き上げる角穴車211と、角穴車211を回転させる伝え車35と、伝え車35に係合し、伝え車35に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、伝え車35を回転させる爪レバー34と、回転錘31に連動して回転することで爪レバー34に進退運動を行わせる偏心軸部材40と、を有し、偏心軸部材40は、偏心軸部材40の回転軸である回転軸部42と、回転軸部42に対して偏心し、爪レバー34に設けられた孔344に挿通される偏心軸部41と、を備え、回転軸部42は、偏心軸部材40の+Z方向の端部に設けられ、偏心軸部41は、偏心軸部材40の+Z方向と反対の-Z方向の端部に設けられることを特徴とする。
【0063】
このムーブメント10によれば、偏心軸部41が偏心軸部材40の端部に位置しているため、爪レバー34を偏心軸部材40に容易に取り付けることができる。
また、偏心軸部材40を工作機械などを用いて製造する際に、回転軸部42と偏心軸部41との間でのみ加工軸を変えれば偏心軸部材40を製造することが可能である。よって、従来技術に記載の偏心軸部材と比較して、加工軸の変更が少なく、加工が容易となる。
【0064】
ムーブメント10は、回転錘31の回転に連動して回転する偏心歯車33をさらに有し、偏心軸部材40は、回転軸部42と偏心軸部41との間に、偏心歯車33が取り付けられる歯車支持部43を備えることを特徴とする。
【0065】
従来技術では、偏心軸部材をムーブメントに組み込んだときに、爪レバーが偏心歯車の+Z側に位置するため、爪レバーが偏心歯車によって隠れ、爪レバーの位置を確認するのが困難であった。そのため、従来技術では、偏心歯車に爪レバーの位置を確認するための穴を設ける必要があった。
対して、このムーブメント10によれば、偏心軸部材40をムーブメント10に組み込んだときに、爪レバー34が偏心歯車33の-Z側に位置するため、組み立て時に爪レバー34の位置を-Z側から容易に確認できる。よって、確認用の穴を偏心歯車33に設ける必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0066】
ムーブメント10は、爪レバー34に設けられた孔344の中に配置され、偏心軸部41を回転可能に支持する第1穴石55をさらに有し、第1穴石55は、爪レバー34の+Z側の面345よりも+Z方向に突出し、歯車支持部43に接触することを特徴とする。
このムーブメント10によれば、第1穴石55が歯車支持部43に接触するため、爪レバー34が進退運動を行う際に爪レバー34と歯車支持部43との間に生じる摩擦を抑制することができる。
【0067】
ムーブメント10は、回転軸部42を回転可能に支持する第2穴石56と、第2穴石56より-Z側に位置し、回転軸部42を回転可能に支持する第3穴石57と、をさらに有することを特徴とする。
【0068】
このムーブメント10によれば、偏心軸部材40の回転軸部42を2箇所で支持しているため、偏心軸部材40の半径方向の変位を抑えることができる。
【0069】
ムーブメント10は、偏心軸部41の-Z方向に配置され、-Z側から見たときに、偏心軸部41の回転軌跡を覆う第4穴石58をさらに有することを特徴とする。
【0070】
このムーブメント10によれば、第4穴石58が-Z方向から偏心軸部材40を支持しているため、偏心軸部材40の軸方向の変位を抑えることができる。
【0071】
ムーブメント10は、回転軸部42が挿通される貫通孔921を有する第1受部材92をさらに有し、第3穴石57は、±Z方向に沿った方向において、第1受部材92とオーバーラップしていない領域を有することを特徴とする。
【0072】
このムーブメント10によれば、第3穴石57の全体が第1受部材92とオーバーラップしている場合と比較して、偏心軸部材40の回転軸部42を支持する第2穴石56と第3穴石57との距離を長くすることができる。
第2穴石56および第3穴石57における回転軸部42を挿通する孔561および孔571は、回転軸部42に対して遊びを設ける場合がある。このような場合には、偏心軸部材40は、第2穴石56および第3穴石57に支持されていながら傾く可能性がある。第2穴石56と第3穴石57との距離を長くすることによって、半径方向のずれ量に対する偏心軸部材40の傾き量を小さくすることができる。
【0073】
ムーブメント10は、第1受部材92の貫通孔921の中に配置される保持部材94をさらに有し、第2穴石56および第3穴石57は、保持部材94に保持されることを特徴とする。
【0074】
このムーブメント10によれば、保持部材94を設けることにより、第3穴石57が第1受部材92とオーバーラップしていない領域を有する構成を簡単に実現することができる。
【0075】
ムーブメント10において、第1受部材92の貫通孔921は、-Z側の端部において、保持部材94から離間していることを特徴とする。
【0076】
このムーブメント10によれば、貫通孔921の-Z側の端部が保持部材94から離間しているため、時計1を落下するなど、時計1に大きな衝撃が加わった場合に、保持部材94の-Z側の端部が撓むことによって、衝撃を吸収することができる。よって、偏心軸部材40や第3穴石57が衝撃によって破損することを防ぐことができる。
【0077】
時計1は、回転錘31の回転によってゼンマイ210を巻き上げる自動巻上機構を有するムーブメント10と、ムーブメント10を収容する外装ケース2と、を有し、ムーブメント10は、回転錘31と、香箱真220とゼンマイ210とを有する香箱車21と、香箱真220と一体で回転し、ゼンマイ210を巻き上げる角穴車211と、角穴車211を回転させる伝え車35と、伝え車35に係合し、伝え車35に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行うことによって、伝え車35を回転させる爪レバー34と、回転錘31に連動して回転することで爪レバー34に進退運動を行わせる偏心軸部材40と、を備え、偏心軸部材40は、偏心軸部材40の回転軸である回転軸部42と、回転軸部42に対して偏心し、爪レバー34に設けられた孔344に挿通される偏心軸部41と、を備え、回転軸部42は、偏心軸部材40の+Z方向の端部に設けられ、偏心軸部41は、偏心軸部材40の+Z方向と反対の-Z方向の端部に設けられることを特徴とする。
【0078】
この時計1によれば、偏心軸部41が偏心軸部材40の端部に位置しているため、爪レバー34を偏心軸部材40に容易に取り付けることができる。
また、偏心軸部材40を工作機械などを用いて製造する際に、回転軸部42と偏心軸部41との間でのみ加工軸を変えれば偏心軸部材40を製造することが可能である。よって、従来技術に記載の偏心軸部材と比較して、加工軸の変更が少なく、加工が容易となる。
【0079】
偏心軸部材40は、回転錘31の回転を利用して角穴車211を回転させることによりゼンマイ210を巻き上げる自動巻上機構に用いられ、角穴車211を回転させる伝え車35に係合する爪レバー34が取り付けられ、回転錘31の回転に連動して回転することで爪レバー34を伝え車35に近づく方向および遠ざかる方向に進退運動を行わせる偏心軸部材40であって、偏心軸部材40の回転軸である回転軸部42と、回転軸部42に対して偏心し、爪レバー34に設けられた孔344に挿通される偏心軸部41と、を備え、回転軸部42は、偏心軸部材40の+Z方向の端部に設けられ、偏心軸部41は、偏心軸部材40の+Z方向と反対の-Z方向の端部に設けられることを特徴とする。
【0080】
この偏心軸部材40によれば、偏心軸部41が偏心軸部材40の端部に位置しているため、爪レバー34を偏心軸部材40に容易に取り付けることができる。
また、偏心軸部材40を工作機械などを用いて製造する際に、回転軸部42と偏心軸部41との間でのみ加工軸を変えれば偏心軸部材40を製造することが可能である。よって、従来技術に記載の偏心軸部材と比較して、加工軸の変更が少なく、加工が容易となる。
【0081】
2.実施形態2
次に、実施形態2について説明する。
以下の説明では、実施形態1との相違点を中心に説明し、実施形態1と同様の事項に関してはその説明を省略する。
【0082】
図10は、実施形態2の偏心軸部材40を-Z側から見た斜視図であり、
図11は、実施形態2に係るムーブメント10の断面図である。なお、
図10および
図11において、実施形態1と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0083】
実施形態2に係る偏心軸部材40において、歯車支持部43は、-Z側の面に、-Z方向に突出する突出部431を有している。突出部431は、爪レバー34の+Z側の面345と接触し、爪レバー34の進退運動を支える。
【0084】
第1受部材92は、偏心軸部材40および保持部材94を挿通するための貫通孔921を有する。貫通孔921の内径は、+Z側においては第1内径D41であって、-Z側においては第2内径D42である。第1内径D41は、第2内径D42より小さい。
保持部材94は、±Z方向に沿った方向に延びる円筒形状の部材である。保持部材94の外径は略一定である。
【0085】
貫通孔921の第1内径D41は、第2穴石56の外径と略同一である。よって、第2穴石56は、第1受部材92の貫通孔921のうち、内径が第1内径D41である領域によって保持されている。また、貫通孔921の第2内径D42は、保持部材94の外径と略同一である。よって、保持部材94は、第1受部材92の貫通孔921のうち、内径が第2内径D42である領域によって保持されている。
【0086】
保持部材94は、偏心軸部材40の回転軸部42を挿通するための±Z方向に沿った貫通孔942を有する。保持部材94の貫通孔942の内径は、-Z方向の端部において、第3穴石57の外径と略同じある。よって、保持部材94は、第3穴石57を保持する。
【0087】
保持部材94の-Z側の端部に位置する上面943は、第1受部材92の-Z側の上面924より-Z方向に位置する。すなわち、第3穴石57の-Z側の上面572は、第1受部材92の-Z側の上面924より-Z方向に位置する。よって、第3穴石57は、±Z方向に沿った方向において、第1受部材92とオーバーラップしていない領域を有している。
【0088】
以上説明したように、実施形態2においては、次のような効果を有する。
【0089】
ムーブメント10において、歯車支持部43は、-Z方向に突出して爪レバー34に接触する突出部431を有することを特徴とする。
【0090】
このムーブメント10によれば、歯車支持部43が、偏心軸部41に取り付けられた爪レバー34に接触する突出部431を有するため、爪レバー34と偏心歯車33との接触を抑制できるとともに、爪レバー34と歯車支持部43との接触を最小限に抑えることがでる。このため、爪レバー34の進退運動に伴って生じる摩擦を低減することができる。
【0091】
ムーブメント10は、第1受部材92の貫通孔921の中に配置される保持部材94をさらに有し、第2穴石56は、第1受部材92に保持され、第3穴石57は、保持部材94に保持されることを特徴とする。
【0092】
このムーブメント10によれば、保持部材94を設けることにより、第3穴石57が第1受部材92とオーバーラップしていない領域を有する構成を簡単に実現することができる。
【0093】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形、改良などは、本発明に含まれるものである。
【0094】
上記実施形態では、爪レバー34に設けられた孔344に偏心軸部41が挿通されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、爪レバー34に突部が設けられ、その突部が歯車支持部43に設けられた孔に挿通されていてもよい。この場合、歯車支持部43に設けられた孔が偏心軸部41に相当する。
【0095】
上記実施形態では、±Z方向から見る平面視において、偏心軸部41の一部が回転軸部42と重なっているが、本発明はこれに限定されない。例えば、平面視において偏心軸部41の全体が回転軸部42と重なっていなくてもよい。
【0096】
上記実施形態では、爪レバー34の孔344には、緩衝部材51および第1穴石55を介して偏心軸部41が挿通されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、孔344の内周面に滑り加工などが施されて、爪レバー34が偏心軸部41に回転可能に取り付けられる構成であれば、緩衝部材51および第1穴石55を介在させる必要はない。同様に、偏心軸部材40を回転可能に支持する第2穴石56、第3穴石57、および第4穴石58についても省略可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…時計、2…外装ケース、3…文字板、3A…カレンダー小窓、4A…時針、4B…分針、4C…秒針、5…パワーリザーブ針、6…日車、7…りゅうず、8…裏蓋、8A…枠、8B…裏蓋ガラス、10…ムーブメント、12…輪列受、12A…目盛部、13…巻真、14…きち車、15…丸穴車、16…角穴第1伝え車、17…角穴第2伝え車、18…角穴第3伝え車、20…時刻表示用輪列、21…香箱車、22…二番車、23…三番車、24…四番車、25…五番車、26…六番車、27…筒車、28…筒かな、29…秒針軸、30…巻上機構、31…回転錘、32…ベアリング、33…偏心歯車、34…爪レバー、35…伝え車、40…偏心軸部材、41…偏心軸部、42…回転軸部、43…歯車支持部、44…歯車受け部、50…切換機構、51…緩衝部材、55…第1穴石、56…第2穴石、57…第3穴石、58…第4穴石、60…パワーリザーブ機構、61…遊星歯車機構、62…巻上げ表示輪列、63…巻戻し表示輪列、64…巻印第1中間車、65…巻印第2中間車、66…巻印車、70…発電機、80…回路部、92…第1受部材、93…地板、94…保持部材、210…ゼンマイ、211…角穴車、220…香箱真、311…錘体部、312…重錘部、313…中心軸部、314…開口、321…内輪、322…外輪、322A…歯車、323…ボール、341…本体部、342…引き爪、343…押し爪、344…孔、345…面、421…第1回転軸部、422…第2回転軸部、423…第3回転軸部、431…突出部、441…歯車支え部、551…孔、552…面、561…孔、571…孔、572…上面、921…貫通孔、924…上面、942…貫通孔、943…上面、4411…第1斜面、4412…第2斜面、4413…接触面、D11…第1内径、D12…第2内径、D21…第1外径、D22…第2外径、D31…第1内径、D32…第2内径、D41…第1内径、D42…第2内径、L1…中心軸、L2…偏心軸。