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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126261
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】基礎構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/12 20060101AFI20240912BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20240912BHJP
   E02D 27/48 20060101ALI20240912BHJP
   E02D 27/44 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
E02D27/12
E02D27/34 Z
E02D27/48
E02D27/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034533
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康之
(72)【発明者】
【氏名】佐山 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】小貫 真広
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA01
2D046DA31
(57)【要約】
【課題】既存杭を地盤の一部として評価して設計する基礎構造の設計方法を提供する。
【解決手段】地盤および基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定するステップS2と、残置杭モデルおよび比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、地盤の地盤ばねと減衰係数を求めるステップS3と、求めた地盤ばねと減衰係数を用いて、残置杭モデルと構造物モデルの連成系、比較モデルと構造物モデルの連成系について地震応答解析を行うステップS4と、残置杭モデルの場合と比較モデルの場合の地震時の構造物モデルの応答値を比較して、既存杭の影響を評価し、評価した結果に基づいて、既存杭が残置された盤に構築される基礎構造の諸元を設定するステップS5~S7とを有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に上下方向に延びる構造物を支持するために前記地盤に構築される基礎構造を設計する方法であって、
前記構造物を上下方向に離れた複数の質点で表すとともに、隣り合う前記質点間において所定の曲げ剛性およびせん断剛性を有する一本の棒状の多質点モデルとしてモデル化した構造物モデルを設定するステップと、
前記地盤および前記基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、前記地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、前記地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定するステップと、
前記残置杭モデルおよび前記比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、前記地盤の地盤ばねと減衰係数を求めるステップと、
求めた前記地盤ばねと前記減衰係数を用いて、前記残置杭モデルと前記構造物モデルの連成系、前記比較モデルと前記構造物モデルの連成系について地震応答解析を行うステップと、
前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値を比較して、前記既存杭の影響を評価し、評価した結果に基づいて、前記既存杭が残置された前記盤に構築される前記基礎構造の諸元を設定するステップとを有することを特徴とする基礎構造の設計方法。
【請求項2】
前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値の差異が所定の閾値以下となるように、前記残置杭モデルにおける前記基礎構造の諸元を設定するステップを有することを特徴とする請求項1に記載の基礎構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸上風力発電施設などの基礎構造の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、陸上風力発電施設のリプレース工事において、基礎を構成する既存杭の撤去を行うことがある。既存杭の撤去作業には、多大なコストと時間を要することから、リプレース後の風力発電設備を迅速に再稼働するために、既存杭の位置を避けた場所に新たに基礎を構築し、この基礎の上に風力発電施設を建設する場合が多かった。
【0003】
風力発電施設の基礎として、既存杭を再利用もしくは残置することが可能になれば、新設工事に必要な土地の取得や造成工事を減らせるとともに、既存杭の撤去が不要になるので、コストの削減と工期短縮を図れる。また、環境負荷の軽減にもつながる。
【0004】
既存杭を残置する場合の一般的な施工手順は、次のとおりである。まず、既存杭を新設フーチング基礎の均しコンクリート下端より概ね数+cm以深で切断することで、新設フーチング基礎下の均しコンクリートと既存杭の間にクリアランスを設け、縁を切る。その後、既存杭の周囲に既存杭より大径の新設杭を既存杭の杭先端レベルよりも深い深度まで打設し、新設杭の上にフーチング基礎を新設する。こうした既存杭を残置した基礎構造としては、例えば特許文献1~4に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-178487号公報
【特許文献2】特開2016-191191号公報
【特許文献3】特開2006-299659号公報
【特許文献4】特開2002-97649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、風力発電施設は一般に上部構造が下部構造に比べて重いいわゆるトップヘビーであるため、風車タワーとフーチング基礎の接合部であるペデスタルに大きな荷重が作用する。風車タワーとコンクリート製のフーチング基礎は、鋼製アンカーボルトによって異種材料の継手構造として接合しており、応力状態が複雑である。一方、上記の特許文献1等に記載の基礎構造は、一般的な建物の基礎構造に使用することを想定しており、応力状態が複雑な風力発電施設の基礎構造にそのまま適用できるかどうかは不明である。適用後に、既存杭が稼働中の風力発電施設に悪影響を与える可能性もある。
【0007】
そこで、本発明者は、風力発電施設のリプレース後の早期運開を目指すために、既存杭を残置したままで新規に構築される基礎構造について、既存杭が新設の風力発電施設に与える影響を分析し、その技術的な実現可能性について検討した。この結果、既存杭を地盤の一部として評価して基礎構造を設計するという以下の本発明に至った。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、既存杭を地盤の一部として評価して設計する基礎構造の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る基礎構造の設計方法は、地盤上に上下方向に延びる構造物を支持するために前記地盤に構築される基礎構造を設計する方法であって、前記構造物を上下方向に離れた複数の質点で表すとともに、隣り合う前記質点間において所定の曲げ剛性およびせん断剛性を有する一本の棒状の多質点モデルとしてモデル化した構造物モデルを設定するステップと、前記地盤および前記基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、前記地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、前記地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定するステップと、前記残置杭モデルおよび前記比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、前記地盤の地盤ばねと減衰係数を求めるステップと、求めた前記地盤ばねと前記減衰係数を用いて、前記残置杭モデルと前記構造物モデルの連成系、前記比較モデルと前記構造物モデルの連成系について地震応答解析を行うステップと、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値を比較して、前記既存杭の影響を評価し、評価した結果に基づいて、前記既存杭が残置された前記盤に構築される前記基礎構造の諸元を設定するステップとを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の基礎構造の設計方法は、上述した発明において、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値の差異が所定の閾値以下となるように、前記残置杭モデルにおける前記基礎構造の諸元を設定するステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る基礎構造の設計方法によれば、地盤上に上下方向に延びる構造物を支持するために前記地盤に構築される基礎構造を設計する方法であって、前記構造物を上下方向に離れた複数の質点で表すとともに、隣り合う前記質点間において所定の曲げ剛性およびせん断剛性を有する一本の棒状の多質点モデルとしてモデル化した構造物モデルを設定するステップと、前記地盤および前記基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、前記地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、前記地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定するステップと、前記残置杭モデルおよび前記比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、前記地盤の地盤ばねと減衰係数を求めるステップと、求めた前記地盤ばねと前記減衰係数を用いて、前記残置杭モデルと前記構造物モデルの連成系、前記比較モデルと前記構造物モデルの連成系について地震応答解析を行うステップと、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値を比較して、前記既存杭の影響を評価し、評価した結果に基づいて、前記既存杭が残置された前記盤に構築される前記基礎構造の諸元を設定するステップとを有するので、既存杭を地盤の一部として評価して設計する基礎構造の設計方法を提供することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の基礎構造の設計方法によれば、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値の差異が所定の閾値以下となるように、前記残置杭モデルにおける前記基礎構造の諸元を設定するステップを有するので、地震時の構造物モデルの応答値の差異を調べることで、既存杭が残置された地盤に構築される基礎構造の諸元を設定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る基礎構造の設計方法の実施の形態を示す概略フロー図である。
図2図2(1)は構造物モデルの一例を示す図であり、(2)はモデル対象の風力設備の側面図である。
図3図3は、既存杭の再利用の概念図であり、(1)は斜視側面図、(2)は斜視上面図である。
図4図4は、インピーダンス解析の概念図であり、(1)は水平加振時、(2)は回転加振時である。
図5図5は、地盤および基礎構造のモデルの概念図である。
図6図6は、地震応答解析結果の一例を示す図であり、(1)は最大せん断力、(2)は最大転倒モーメントである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る基礎構造の設計方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施の形態に係る基礎構造の設計方法は、既存杭が残置される地盤上に上下方向に延びる構造物を支持するために地盤に構築される基礎構造を設計する方法である。本実施の形態では、構造物、地盤および基礎構造をスウェイ・ロッキングモデル(以下、SRモデルという。)でモデル化する。構造物として、タワーとナセル・ロータを備える風力発電設備の場合を例にとり説明するが、本発明の構造物はこれに限るものではない。
【0016】
本実施の形態は、図1に示されるステップS1~S7の手順で実施される。
まず、ステップS1において、構造物モデルを設定する。本実施の形態においては、タワーを上下方向に離れた複数の質点で表すとともに、隣り合う質点間において所定の曲げ剛性およびせん断剛性を有する一本の棒状の多質点モデルとしてモデル化する。図2(1)に、構造物モデルの一例を示す。これは、図2(2)の風力発電設備をモデル化したものである。図の例では、タワーを39質点(ハブ高さ98.3m)に分割し、各質点間の断面をもとに評価した曲げ剛性・せん断剛性を有する多質点の曲げせん断モデルを示している。ナセル・ロータ部分の重量は最上部で1質点に集中して付加した。
【0017】
一方、ステップS2において、地盤および基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定する。地盤については、PS検層などによって得られる施工地点の地盤の層別構成および特性に基づいてモデル化し、工学的基盤面は例えばせん断波速度Vsが400m/s以上の地盤に設定する。
【0018】
残置杭モデルは、地盤と、既存杭と、新設杭と、フーチング基礎からなるモデルであり、図3に示すように、地盤に残置される複数の既存杭の周囲に新設杭を設置し、新設杭の上にフーチング基礎を設置したものである。比較モデルは、残置杭モデルにおいて既存杭の部分を周囲と同等の地盤に置換してモデル化したものである。本実施の形態では、残置杭モデルおよび比較モデルとして、有限要素(FEM)解析用の有限要素モデルと、薄層要素法を合わせたハイブリッドモデルを設定した。薄層要素法は、無限に広い水平成層地盤を薄い層に分割して離散化する方法である。
【0019】
フーチング基礎は、シェル要素でモデル化し、節点間の距離が極端に異ならないようにしている。既存杭および新設杭は、ビーム要素でモデル化し、節点は概ね1m程度に分割している。地盤は、層厚が杭節点分割の1/4程度を基本として概ね0.25m程度に分割している。
【0020】
なお、本実施の形態では、既存杭として場所打ち杭(杭径φ1200mm、杭長23.6m×8本)を想定し、フーチング基礎の下端から500mmで切断するものとした。また、新設杭として場所打ち杭(杭径φ2000mm、杭長24.9m×8本)を、フーチング基礎としてペデスタルの平面形状が八角形のコンクリート(フーチング幅17m、厚さ4.2m)を想定した。既存杭と新設杭の先端は、工学的基盤面以深に位置している。コンクリートの設計基準強度40N/mm、基礎全重量1969tfとした。
【0021】
また、本実施の形態の残置杭モデルおよび比較モデルにおいては、フーチング基礎モデルの版厚を1.0mに設定し、ヤング率を1.0×1011(kN/m)に、ポアソン比を0.2に設定した。また、既存杭モデルと新設杭モデルのヤング率を2.36×10(kN/m)に、ポアソン比を0.2に設定した。
【0022】
次のステップS3では、ステップS2で設定した残置杭モデルおよび比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、水平方向、回転方向の地盤の地盤ばねと減衰係数を算定する。この算定には、例えば「SuperFLUSH/3DS(周波数領域による動的相互作用解析プログラム)」などの解析ソフトを利用することができる。図4に、本実施の形態のインピーダンス解析の概念図を示す。図4において、符号1は底面鉛直ばね、符号2は杭鉛直ばね、符号3は底面水平ばね、符号4は杭水平ばね、符号5は全節点間の相互作用ばねである。図5に、地盤および基礎構造のモデル(残置杭モデルの場合)の概念図を示す。加振-変位解を高精度に算定するため、図5に示すように地盤モデルの深さHは400m程度以上とし、その下端に粘性境界を設定する。
【0023】
なお、周波数(振動数)毎に単位力による水平加振(図4(1)を参照)と単位モーメントによる回転加振(図4(2)を参照)とをそれぞれ実施し、基礎の水平変位と基礎の回転変位を算定する。その結果から、基礎の水平変位、基礎の回転変位、水平-回転の連成項(連成する変位)の2行2列の変位行列を作成し、その逆行列を計算することにより、動的地盤(水平地盤ばねと回転地盤ばね)として評価する。
【0024】
また、実部の静的値(低振動数側:0.1Hz)を地盤ばねとして評価し、虚部の特定振動数(下限値に設定)における勾配を減衰係数として評価する。地盤ばね値は、静的振動数に相当するf=0.1Hzにおける値とする。地盤ばねの減衰係数は、動的地盤ばねの虚部の勾配のうち、下限となる値とする。
【0025】
次のステップS4では、ステップS3で求めた地盤ばねと減衰係数を用いて、SRモデルに対する地震応答解析を行う。すなわち、残置杭モデルと構造物モデルの連成系、比較モデルと構造物モデルの連成系のそれぞれについて地震応答解析を行う。具体的には、図2(1)に示されるタワーの底面に水平ばね(水平地盤ばね)と回転地盤ばねを付加して、水平ばねの位置に地震動を入力し、地震応答解析を実施する。入力する地震動としては、極めて稀に発生する地震動(レベル2地震動)を用いることが好ましい。図5に、地震応答解析結果の一例を示す。図5(1)はタワーの最大せん断力、(2)はタワーの最大転倒モーメントである。各図の凡例において、残置杭無は、比較モデルと構造物モデルの連成系の解析結果、残置杭有は、残置杭モデルと構造物モデルの連成系の解析結果に相当する。
【0026】
次のステップS5では、ステップS4の地震応答解析結果に基づいて、残置杭モデルの場合と比較モデルの場合の地震時の構造物モデルの応答値を比較する。
【0027】
次のステップS6では、ステップS5の比較結果に基づいて、構造物に対する既存杭(残置杭)の影響を評価する。図5の例では、残置杭無、残置杭有のタワーの応答値の差異は1%程度と非常に小さいことから、タワーに対する残置杭の影響は殆どないと評価することができる。
【0028】
次のステップS7では、ステップS6の評価結果に基づいて、既存杭が残置された地盤に構築される基礎構造の諸元を設定する。上記のステップS6において残置杭の影響が殆どないと評価された場合には、上記の残置杭モデルに対応する基礎構造(既設杭、新設杭、フーチング基礎)の諸元に基づいて、基礎構造の諸元(寸法、物性値等)を設計することができる。この場合、例えば、上記の残置杭モデルに対応する基礎構造(既設杭、新設杭、フーチング基礎)の諸元を、設計値として設定してもよい。
【0029】
このように、本実施の形態によれば、既存杭を地盤の一部として評価して設計する基礎構造の設計方法を提供することができる。本実施の形態を、風力発電施設のリプレース工事の基礎構造の設計に適用すれば、既存杭を撤去せずに残置したまま新規の基礎構造を構築可能な設計条件を得ることができる。そして、既存杭を撤去せずに残置したまま基礎構造を構築できれば、リプレース後の風力発電施設を迅速に再稼働することが可能である。
【0030】
なお、上記の実施の形態において、残置杭モデルの場合と比較モデルの場合の地震時の構造物モデルの応答値(例えば、最大せん断力、最大転倒モーメントなど)の差異が所定の閾値(例えば数%など)以下となるように、残置杭モデルにおける基礎構造の諸元を設定してもよい。地震時の構造物モデルの応答値の差異を調べることで、既存杭が残置された地盤に構築される基礎構造の諸元を設定することが可能である。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る基礎構造の設計方法によれば、地盤上に上下方向に延びる構造物を支持するために前記地盤に構築される基礎構造を設計する方法であって、前記構造物を上下方向に離れた複数の質点で表すとともに、隣り合う前記質点間において所定の曲げ剛性およびせん断剛性を有する一本の棒状の多質点モデルとしてモデル化した構造物モデルを設定するステップと、前記地盤および前記基礎構造を有限要素解析用の有限要素モデルとしてモデル化し、前記地盤に既存杭が残置される場合の残置杭モデルと、前記地盤に既存杭が残置されない場合の比較モデルとを設定するステップと、前記残置杭モデルおよび前記比較モデルを用いてインピーダンス解析を行い、前記地盤の地盤ばねと減衰係数を求めるステップと、求めた前記地盤ばねと前記減衰係数を用いて、前記残置杭モデルと前記構造物モデルの連成系、前記比較モデルと前記構造物モデルの連成系について地震応答解析を行うステップと、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値を比較して、前記既存杭の影響を評価し、評価した結果に基づいて、前記既存杭が残置された前記盤に構築される前記基礎構造の諸元を設定するステップとを有するので、既存杭を地盤の一部として評価して設計する基礎構造の設計方法を提供することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の基礎構造の設計方法によれば、前記残置杭モデルの場合と前記比較モデルの場合の地震時の前記構造物モデルの応答値の差異が所定の閾値以下となるように、前記残置杭モデルにおける前記基礎構造の諸元を設定するステップを有するので、地震時の構造物モデルの応答値の差異を調べることで、既存杭が残置された地盤に構築される基礎構造の諸元を設定することができる。
【0033】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る基礎構造の設計方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「12.つくる責任、つかう責任」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る基礎構造の設計方法は、地盤に構築される基礎構造の設計に有用であり、特に、既存杭を地盤の一部として評価して設計するのに適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6