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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126269
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】昇降機用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 11/08 20060101AFI20240912BHJP
   B66B 23/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B66B11/08 G
B66B23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034544
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 章智
【テーマコード(参考)】
3F306
3F321
【Fターム(参考)】
3F306BA09
3F321CA17
(57)【要約】
【課題】複数に分割されたライニングを使用する場合でも、制動荷重によるライニングの剥がれを抑制することができる昇降機用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】昇降機の巻上機に連結されるドラムと、ドラムの外周面に接触してドラムに制動力を付与するライニングと、ライニングが取り付けられるシューと、を備える昇降機用ブレーキ装置において、ライニングは、ドラムの円周方向で複数に分割され、シューは、ドラムの外周面と対向する対向面に、ドラムの円周方向に間隔をあけて形成された複数の凹溝を有し、ライニングは、凹溝に嵌合した状態でシューに取り付けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機の巻上機に連結されるドラムと、前記ドラムの外周面に接触して前記ドラムに制動力を付与するライニングと、前記ライニングが取り付けられるシューと、を備える昇降機用ブレーキ装置において、
前記ライニングは、前記ドラムの円周方向で複数に分割され、
前記シューは、前記ドラムの外周面と対向する対向面に、前記ドラムの円周方向に間隔をあけて形成された複数の凹溝を有し、
前記ライニングは、前記凹溝に嵌合した状態で前記シューに取り付けられている
昇降機用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記凹溝は、蟻溝形状に形成され、
前記ライニングの少なくとも一部は、前記蟻溝形状に対応する台形に形成されている
請求項1に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ライニングは、前記シューの幅方向から前記凹溝に挿入可能に構成されている
請求項1に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ライニングと前記凹溝の嵌合部分に隙間が設けられている
請求項1に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記凹溝の長さ方向における前記ライニングの位置ずれを抑制するホルダーをさらに備える
請求項1に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記ホルダーは、前記凹溝の底面に前記ライニングを押し付ける押さえ部を有する
請求項5に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ホルダーは、前記ライニングの摩耗量が所定量に達したときに前記ドラムの外周面に接触する接触面を有するとともに、少なくとも前記接触面が色付けされている
請求項5に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項8】
前記複数に分割された各々の前記ライニングの位置ずれが共通の前記ホルダーによって抑制されている
請求項5に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【請求項9】
前記ホルダーは、前記シューの幅方向で前記ライニングを挟むように前記シューの端面に取り付けられている
請求項5に記載の昇降機用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターやエスカレーターなどの昇降機は、昇降用の巻上機を制動するブレーキ装置を備えている。このような昇降機用ブレーキ装置の1つとして、レバー式のブレーキ装置が知られている。レバー式のブレーキ装置は、ドラム式のブレーキ装置の一種であり、レバーのてこ比を利用してドラムを制動する。レバー式のブレーキ装置は、昇降機の巻上機に連結されるドラムと、ドラムの外周面に接触してドラムに制動力を付与するライニングと、ライニングが取り付けられるシューと、を備えている。
【0003】
従来、レバー式のブレーキ装置には、軟質ライニングが用いられているが、製造工程上の環境配慮の観点から、一部のメーカーでは軟質ライニングが製造中止になっている。一方で、ディスク式のブレーキ装置や直動式のブレーキ装置には、面圧に強くて耐久性の高い硬質ライニングが用いられている。
【0004】
そこで、レバー式のブレーキ装置に用いられるライニングを軟質ライニングから硬質ライニングに変更することも考えられる。しかし、硬質ライニングを軟質ライニングと同じ形状とした場合は、硬質ライニングが制動時の変形に耐えられずに割れてしまう可能性がある。
【0005】
特許文献1には、レバー式のブレーキ装置に用いられるライニングに関して、複数に分割された焼結金属製のライニング(ライニング材)を、従来のライニングと同一面積を有する台座に間隔をあけて貼り付ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-110751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ライニングが貼り付けられる台金の表面が平滑な形状になっているため、次のような不具合が生じるおそれがある。
例えば昇降機の非常停止時に回転中のドラムにライニングを押し付けると、ドラムとライニングの接触界面に摩擦力が発生し、この摩擦力によってライニングはドラム回転方向の荷重(以下、「制動荷重」ともいう。)を受ける。制動荷重は、ライニングの貼り付け面に剪断荷重として加わる。このため、台座の表面が平滑な形状になっていると、制動荷重を受けたときにライニングが剥がれやすくなる。
【0008】
本発明の目的は、複数に分割されたライニングを使用する場合でも、制動荷重によるライニングの剥がれを抑制することができる昇降機用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば、特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一つを挙げるならば、昇降機の巻上機に連結されるドラムと、ドラムの外周面に接触してドラムに制動力を付与するライニングと、ライニングが取り付けられるシューと、を備える昇降機用ブレーキ装置において、ライニングは、ドラムの円周方向で複数に分割され、シューは、ドラムの外周面と対向する対向面に、ドラムの円周方向に間隔をあけて形成された複数の凹溝を有し、ライニングは、凹溝に嵌合した状態でシューに取り付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数に分割されたライニングを使用する場合でも、制動荷重によるライニングの剥がれを抑制することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置の正面図である。
図2】第1実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。
図3図2の左方向からシューとライニングを見た図である。
図4図2のP部におけるライニングの取付構造を説明する図である。
図5】第2実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。
図6】ライニングの取付状態をシューの幅方向から見た拡大図である。
図7図6のB-B断面図である。
図8】第3実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置が備えるシューとライニングの構造を説明する図である。
図9】第3実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す拡大図である。
図10】第4実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、ライニングの取付状態をシューの幅方向から見た拡大図である。
図11図10のC-C断面図である。
図12】第4実施形態におけるライニングの取付方法を説明する図である。
図13】第5実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。
図14図13の左方向からシューとライニングを見た図である。
図15】変形例を説明する図(その1)である。
図16】変形例を説明する図(その2)である。
図17】他の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置の正面図である。
図1に示すように、昇降機用ブレーキ装置10は、昇降機の巻上機(図示せず)に連結されドラム11と、ドラム11の両側に配置された一対のレバー12と、一対のレバー12を付勢するバネ13と、電磁力を発生する電磁力発生部14と、ドラム11の外周面11aに接触してドラム11に制動力を付与するライニング15と、ライニング15が取り付けられるシュー16と、レバー12の支点17を支持するベース18と、を備えるレバー式のブレーキ装置である。昇降機用ブレーキ装置10は、エレベーターやエスカレーターなどの昇降機に用いられる。
【0014】
ドラム11は、巻上機の出力軸と共に回転する金属製の部材である。レバー12は、支点17を中心に回動自在に支持されている。レバー12の端部12aは、バネ13によって付勢されている。バネ13は、一対のレバー12を制動方向に付勢している。ここでいう制動方向とは、シュー16を介してライニング15をドラム11の外周面11aに押し付ける方向をいう。なお、図1においては、2つのバネ13で一対のレバー12を両側から付勢しているが、これ以外にも、図示はしないが1つのバネで一対のレバーを制動方向に付勢することも可能である。
【0015】
電磁力発生部14は、例えば図示はしないが、電磁コイルと、固定鉄心と、可動鉄心とを備え、通電によって電磁コイルに電流が流れると、バネ13の付勢力に打ち勝つ電磁力を発生する。一対のレバー12は、電磁力発生部14が発生する電磁力により、制動方向と反対方向、すなわちブレーキを解放する方向に変位する。また、一対のレバー12は、電磁力発生部14への通電が遮断されて電磁コイルに電流が流れなくなると、バネ13の付勢力によって制動方向に変位する。つまり、昇降機用ブレーキ装置10は、電磁力発生部14が通電状態のときだけブレーキが解除される仕組みになっている。
【0016】
シュー16は、上述したレバー12と同様にドラム11の両側に対をなして配置されている。シュー16は、例えば鋳鉄などの金属製の部材であり、ドラム11の外周面11aに沿うように弧状に形成されている。また、シュー16は、レバー12にネジ19によって取り付けられている。
【0017】
ライニング15は、硬質ライニングによって構成されている。硬質ライニングは、軟質ライニングに比べて許容面圧が高い。硬質ライニングと軟質ライニングは、ライニングの構成材料と加工方法が異なる。具体的には、硬質ライニングは、無機繊維、有機繊維、特殊配合熱硬化性合成樹脂及び充填材等を配合し、この配合物を加圧、加熱成型して、所定の寸法に仕上げた硬質モールド状のライニングである。これに対して、軟質ライニングは、金属繊維入り特殊ガラスを製織した混合布に特殊合成樹脂結合材を含浸させた布材を、乾燥、加熱、加圧後に所定の寸法に仕上げた軟質(半硬質)のベルト状のライニングである。
【0018】
ライニング15は、ドラム11の円周方向(図1のR方向)で複数に分割されている。このように複数に分割されたライニング15を使用することにより、ライニング15を硬質ライニングで構成した場合でも、ライニング15の割れを抑制することができる。本実施形態においては、一例として、ドラム11の円周方向でライニング15が3つに分割され、これら3つのライニング15が1つのシュー16に取り付けられている。
【0019】
図2は、第1実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。また、図3は、図2の左方向からシューとライニングを見た図であり、図4は、図2のP部におけるライニングの取付構造を説明する図である。
なお、一対のシュー16は、図1において、ドラム11を間に挟んで左右対称に配置されるが、基本的な構造は同じであるため、ここでは一方のシュー16とこれに取り付けられるライニング15についてのみ説明する。
【0020】
図2図4に示すように、シュー16は、ドラム11の外周面11aと対向する対向面20に複数の凹溝22を有している。シュー16の対向面20は、ドラム11の外周面11aに沿って凹面状に形成されている。凹溝22は、シュー16の対向面20の一部を凹ませて形成されている。本実施形態においては、ライニング15の分割数(本形態例では3つ)に応じて、レバー12の対向面20に3つの凹溝22が形成されている。
【0021】
3つの凹溝22は、ドラム11の円周方向(図1のR方向)に間隔をあけて形成されている。そして、各々の凹溝22に1つずつライニング15が嵌合している。凹溝22は、シュー16の幅方向X(図3)に長い帯状に形成されている。シュー16の幅方向Xは、ドラム11の中心軸方向と平行な方向である。凹溝22は、シュー16の全幅にわたって形成され、ライニング15は、シュー16の全幅にわたって凹溝22に嵌合している。つまり、図3のX方向における凹溝22の長さ寸法とライニング15の長さ寸法は、シュー16の幅寸法とほぼ同じである。
【0022】
図4に示すように、凹溝22の深さ寸法Ldは、ライニング15の厚み寸法Ltよりも小さく設定されている。また、凹溝22の幅方向Lw1は、ライニング15の幅寸法Lw2よりも僅かに大きく設定されている。凹溝22の幅方向Lw1とライニング15の幅寸法Lw2との差は、例えば、常温環境で0.1mm~1.0mm程度である。これにより、ライニング15と凹溝22の嵌合部分には、上述した寸法差(Lw1-Lw2)に対応する隙間が設けられる。また、シュー16にライニング15を取り付ける場合は、図4の左右方向(矢印で示す方向)からライニング15を凹溝22に嵌合させることができる。また、凹溝22は、シュー16の全幅にわたって形成されている。このため、シュー16にライニング15を取り付ける場合は、シュー16の幅方向Xからライニング15を凹溝22に挿入することにより、ライニング15を凹溝22に嵌合させることもできる。
【0023】
第1実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置10においては、電磁力発生部14を通電状態から非通電状態に切り替えると、一対のレバー12がバネ13の付勢力によって制動方向に変位する。これにより、各々のライニング15は、ドラム11の外周面11aに押し付けられる。その際、回転中のドラム11にライニング15を押し付けると、ドラム11とライニング15の接触界面に摩擦力が発生し、この摩擦力によってライニング15はドラム回転方向の荷重、すなわち制動荷重を受ける。
【0024】
ここで、ライニング15は、上述したとおり凹溝22に嵌合した状態でシュー16に取り付けられている。このため、ドラム11への押し付けによってライニング15に制動荷重が加わった場合は、この制動荷重を、ライニング15と凹溝22の嵌合部分(引っ掛かり部分)で受けることができる。したがって、制動荷重によるライニング15の剥がれを抑制することができる。
【0025】
また、ライニング15は、シュー16の幅方向Xから凹溝22に挿入可能に構成されている。このため、ライニング15の摩耗量が所定量を超えてライニング15の交換が必要になった場合は、昇降機用ブレーキ装置10を分解することなく、ライニング交換作業を行うことができる。具体的には、例えばバネ13の付勢力に抗してレバー12の端部12aを工具等でバネ圧縮方向に押し込むことによりブレーキを解放させ、その状態で交換前のライニング15を凹溝22から引き抜いた後、新品のライニング15を凹溝22に差し込むことにより、ライニング15を交換することができる。これにより、ライニング交換作業を含む昇降機用ブレーキ装置10の保全作業に必要な作業時間の短縮と保全費用の低減を図ることができる。
【0026】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。また、図6は、ライニングの取付状態をシューの幅方向(図5のA方向)から見た拡大図であり、図7は、図6のB-B断面図である。
第2実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置は、上述した第1実施形態の場合と比較して、ライニングの取付構造が異なる。
【0027】
図5図7に示すように、ライニング15は、上述した第1実施形態と同様に、シュー16に形成された凹溝22に嵌合されている。また、シュー16には、1つのライニング15につき、2つずつホルダー24が取り付けられている。ホルダー24は、凹溝22の長さ方向(図5のX方向)でライニング15の位置ずれを抑制する部材である。ホルダー24は、図5のX方向でライニング15を両側から挟むように、凹溝22の長さ方向の両端部に取り付けられている。
【0028】
ホルダー24は、六角ボルト25によってシュー16に取り付けられている。さらに詳述すると、シュー16の凹溝22の底面には、ホルダー24の取付位置に対応してネジ孔が形成され、ホルダー24には六角ボルト25の雄ネジ部分を通す貫通孔が形成されている。そして、ホルダー24は、ホルダー24の貫通孔を通して六角ボルト25を凹溝22のネジ孔に噛み合わせ、その状態で六角ボルト25を締め付けることによりシュー16に固定されている。なお、本実施形態においては、一例として、六角ボルト25を用いてホルダー24を固定しているが、固定手段は六角ボルト25に限らず、種々の変更が可能である。
【0029】
図5のX方向におけるライニング15の長さ寸法は、凹溝22の長さ寸法よりも短く設定され、これによって凹溝22の長さ方向の両端部にホルダー取付用のスペースが確保されている。また、ライニング15は、図7に示すように、凸部151を有する段付き構造になっている。また、ライニング15は、ライニング15の長さ方向の両端部に薄肉部152を有している。ライニング15の凸部151は、シュー16の対向面20よりもドラム11側に突出する状態で配置されている。このため、電磁力発生部14が非通電状態のときは、ライニング15の凸部151がドラム11の外周面11aに押し付けられる。
【0030】
ホルダー24は、例えば、メッキ鋼板等の金属の曲げ板で構成される。ホルダー24は、固定部241と、立ち上がり部242と、押さえ部243とを一体に有している。固定部241は、六角ボルト25によって凹溝22の底面に固定されている。立ち上がり部242は、固定部241と直角をなすように、凹溝22の底面から垂直に立ち上がっている。また、立ち上がり部242は、固定部241と押さえ部243とを連結している。立ち上がり部242は、凹溝22の長さ方向におけるライニング15の位置ずれを抑制するために、ライニング15の長さ方向の端面153(図7)に接触又は近接する状態で配置されている。押さえ部243は、立ち上がり部242と直角をなすように、凹溝22の底面と平行に配置されている。押さえ部243は、ライニング15の薄肉部152の上に重ねて配置され、この状態でライニング15を凹溝22の底面に押し付けている。
【0031】
第2実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置においては、上述した第1実施形態の場合と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。
第2実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置は、凹溝22の長さ方向におけるライニング15の位置ずれを抑制するホルダー24を備えている。このため、ブレーキの作動や解除の繰り返しによるライニング15の位置ずれをホルダー24によって抑制し、安定したブレーキ性能を維持することができる。また、シュー16にネジ等でライニング15を固定しなくてもよいため、ライニング15への孔加工が不要になる。
【0032】
また、ホルダー24は、凹溝22の底面にライニング15を押し付ける押さえ部243を有している。このため、上記第1実施形態で図4を参照して説明した凹溝22の幅方向Lw1とライニング15の幅寸法Lw2との差(Lw1-Lw2)に起因するライニング15のがたつきを抑制することができる。
【0033】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置が備えるシューとライニングの構造を説明する図であり、図9は、第3実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す拡大図である。
図8及び図9に示すように、シュー16Aには複数の凹溝22Aが形成されている。ライニング15Aは、シュー16Aの凹溝22Aに嵌合されている。シュー16Aの凹溝22Aは、蟻溝形状に形成されている。また、ライニング15Aは、凹溝22Aの蟻溝形状に対応する台形に形成されている。また、凹溝22Aとライニング15Aの嵌合部分には、適度な隙間G(図9)が設けられ、この隙間Gの存在により、シュー16Aの幅方向(図9の紙面と垂直な方向)から凹溝22Aにライニング15Aを挿入できる構成になっている。
【0034】
上述した隙間Gは、図9に示すように、ライニング15Aを凹溝22Aの底面に押し付けた状態で、ライニング15Aの両側に確保される隙間であり、常温環境では両側合わせて0.1mm~1.0mm程度である。このような隙間Gを設けることにより、例えば、回転するドラム11との接触によってライニング15Aが熱膨張した場合に、熱膨張によってライニング15Aと凹溝22Aとの嵌合部分に応力が発生することを抑制し、ライニング15Aやシュー16Aの割れを防ぐことができる。一方で、ライニング交換作業は、ライニング15Aが熱膨張していないときに行われるため、上述した隙間Gの存在により、昇降機用ブレーキ装置を分解することなく、ライニング15Aを交換することができる。このような効果は、上述した第1実施形態及び第2実施形態において、ライニング15と凹溝22の嵌合部分に、凹溝22の幅方向Lw1とライニング15の幅寸法Lw2の差分相当の隙間(常温環境で0.1mm~1.0mm程度)を設けた場合にも同様に得られる。
【0035】
また、第3実施形態においては、シュー16Aの対向面20Aの法線方向(図9の左右方向)におけるライニング15Aの位置が、蟻溝形状の凹溝22Aと台形のライニング15Aとの引っ掛かりによって規制される。このため、上述した第1実施形態の場合と比較して、制動荷重によるライニング15Aの剥がれを、より効果的に抑制することができる。
【0036】
なお、第3実施形態においては、図9に示すように、ライニング15A全体が台形に形成されているが、これに限らず、ライニング15Aの一部であって、かつ、蟻溝形状の凹溝22Aに嵌合する部分のみが台形に形成されていてもよい。
【0037】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、ライニングの取付状態をシューの幅方向から見た拡大図であり、図11は、図10のC-C断面図である。
第4実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シュー16Aの凹溝22Aを蟻溝形状とし、この蟻溝形状に対応してライニング15Aを台形に形成した点は、上述した第3実施形態と同様である。ただし、第4実施形態においては、シュー16Aにホルダー24が取り付けられ、このホルダー24の取り付けに対応してライニング15Aが段付き構造になっている点が、第3実施形態の場合と異なる。
【0038】
ホルダー24は、上述した第2実施形態の場合(図6図7)と同様の構造を有する。ライニング15Aは、凸部151Aと、薄肉部152Aと、端面153Aとを有する。ホルダー24の固定部241は、六角ボルト25によって凹溝22Aの底面に固定されている。ホルダー24の立ち上がり部242は、ライニング15Aの端面153Aに接触又は近接して配置されている。ホルダー24の押さえ部243は、ライニング15Aの薄肉部152Aの上に重ねて配置され、この状態でライニング15Aを凹溝22Aの底面に押し付けている。
【0039】
第4実施形態において、シュー16Aにライニング15Aを取り付ける場合は、図12に示すように、シュー16の幅方向Xと平行な方向からライニング15Aを凹溝22Aに挿入することにより、ライニング15Aを凹溝22Aに嵌合させる。このとき、凹溝22Aの底面に形成されているネジ孔26がライニング15Aによって隠れないよう、ライニング15Aの挿入量を調整する。次に、図10及び図11に示すように、ホルダー24を六角ボルト25によってシュー16Aに取り付ける。
【0040】
第4実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置によれば、上述した第2実施形態及び第3実施形態と同様の効果が得られる。また、上述のようにホルダー24を取り付けた場合は、ライニング15Aの摩耗量が所定量t(図11)に達したときに、ホルダー24の押さえ部243の表面243aがドラム11の外周面11aに接触する。その場合、接触面に相当する押さえ部243の表面243aが、ペンキなどの塗料で色付けされた構成になっていると、ドラム11の外周面11aに押さえ部243の表面243aが接触したときに、その接触箇所で押さえ部243の表面243aからドラム11の外周面11aに色が移ることで、ドラム11の外周面11aの色が変化する。
【0041】
これにより、昇降機用ブレーキ装置の定期点検などでは、ドラム11の外周面11aの色が変化しているかどうかにより、ライニング15Aの摩耗量が所定量tに達したかどうかを判別することができる。このような効果は、上述した第2実施形態におけるホルダー24の押さえ部243の表面に色付けした場合にも同様に得られる。なお、ホルダー24は、押さえ部243の表面243aのみが色付けされていてもよいし、押さえ部243の表面243aを含むホルダー24の全面が色付けされていてもよい。ホルダー24の全面が塗装などによって色付けされる場合は、ホルダー24を構成する金属の曲げ板がメッキされていなくてもよい。
【0042】
<第5実施形態>
図13は、第5実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シューにライニングを取り付けた状態を示す図である。また、図14は、図13の左方向からシューとライニングを見た図である。
第5実施形態に係る昇降機用ブレーキ装置において、シュー16Aの凹溝22Aを蟻溝形状とし、この蟻溝形状に対応してライニング15Aを台形に形成した点は、上述した第3実施形態と同様である。ただし、第4実施形態においては、シュー16Aにホルダー24Bが取り付けられている点が、第3実施形態の場合と異なる。
【0043】
ホルダー24Bは、図14に示すように、平らな板状に形成されるとともに、シュー16Aの幅方向Xの端面にネジ27によって取り付けられている。また、ホルダー24Bは、図13に示すように、3つに分割された各々のライニング15Aに重なり合うように円弧状に形成されている。これにより、凹溝22Aの長さ方向(図14のX方向)における各々のライニング15Aの位置ずれは、共通のホルダー24Bによって抑制される。このため、各々のライニング15Aの位置ずれを個別のホルダー24によって抑制する場合(例えば、図5図7図10図11を参照)に比べて、部品点数の削減と部品組立工数の削減を図ることができる。また、ホルダー24Bは、シュー16Aの幅方向Xでライニング15Aを挟むようにシュー16Aの端面に取り付けられている。これにより、ホルダー24Bの取付作業を容易に行うことができる。
【0044】
なお、第5実施形態においては、凹溝22Aの長さ方向における各々のライニング15Aの位置を共通のホルダー24Bによって抑制しているが、変形例として、図15及び図16に示すように、押さえ部243Cを有するホルダー24Cをネジ27によってシュー16Aの端面に取り付けた構成を採用してもよい。この構成において、ホルダー24Cの押さえ部243Cは、各々のライニング15Aの薄肉部152Aの上に重ねて配置され、この状態で各々のライニング15Aを凹溝22Aの底面に押さえ付けている。
【0045】
また、他の変形例として、図17に示すように、押さえ部243Dを有するホルダー24Dをネジ28によってシュー16Aの対向面20Aに取り付けた構成を採用してもよい。ライニング15Aは、上記第4実施形態の場合と同様に、凸部151A及び薄肉部152Aを有している(図10図11)。ホルダー24Dの押さえ部243Dは、各々のライニング15Aの薄肉部152Aの上に重ねて配置され、この状態で各々のライニング15Aを凹溝22Aの底面に押さえ付けている。このような構成においても、凹溝22Aの長さ方向(図17のX方向)における各々のライニング15Aの位置ずれが、共通のホルダー24Dによって抑制される。このため、部品点数の削減と部品組立工数の削減を図ることができる。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。たとえば、上述した実施形態では、本発明の内容を理解しやすいように詳細に説明しているが、本発明は、上述した実施形態で説明したすべての構成を必ずしも備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、これを削除し、または他の構成を追加し、あるいは他の構成に置換することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…昇降機用ブレーキ装置、11…ドラム、11a…外周面、15,15A…ライニング、16,16A…シュー、20,20A…対向面、22,22A…凹溝、24,24B,24C,24D…ホルダー、243,243C,243D…押さえ部、243a…表面(接触面)、G…隙間
図1
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図3
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