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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126273
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3256 20160101AFI20240912BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240912BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240912BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16J15/3256
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034552
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 稚菜
(72)【発明者】
【氏名】大森 恵太
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J042AA03
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA01
3J042CA02
3J042CA10
3J042CA12
3J042DA02
3J043AA17
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA11
3J043HA04
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA16
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J216DA21
3J216EA03
3J216EA05
(57)【要約】
【課題】密封装置を構成する各部材・各部位の寸法公差等を考慮しなくても、シール性能とトルク低減の両立を図ることができる密封装置を提供する。
【解決手段】第1シール部材10と前記第2シール部材20とが組み合わさった状態で2部材間(2,5)に設けられる密封装置8,9であって、前記第1シール部材及び前記第2シール部材が組み合わされた初期状態において、前記第1シール部材と前記第2シール部材とが対向して設けられる対向部位の間の少なくとも一か所に易削性を有したコーティング層40が設けられており、前記初期状態から前記第1シール部材と前記第2シール部材とが相対回転した状態において、前記コーティング層が対向する部位に摺接することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、前記固定側部材に対して相対的に同軸回転する回転側部材との2部材による環状空間を密封し、前記回転側部材に嵌合される第1シール部材と、前記固定側部材に嵌合される第2シール部材とを備え、前記第1シール部材と前記第2シール部材とが組み合わさった状態で前記2部材間に設けられる密封装置であって、
前記第1シール部材及び前記第2シール部材が組み合わされた初期状態において、前記第1シール部材と前記第2シール部材とが対向して設けられる対向部位の間の少なくとも一か所に易削性を有したコーティング層が設けられており、
前記初期状態から前記第1シール部材と前記第2シール部材とが相対回転した状態において、前記コーティング層が対向する部位に摺接することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1シール部材は、前記回転側部材に嵌合される第1嵌合円筒部と、前記第1嵌合円筒部の一端部から外径方向に延びる第1円板部と、該第1円板部の外径側の一端部から軸方向に延びる延出円筒部とを有し、
前記第2シール部材は、前記固定側部材に嵌合される第2嵌合円筒部を有しており、
前記固定側部材及び前記回転側部材間に設けられた状態において、前記第1シール部材の前記延出円筒部と前記第2シール部材の前記第2嵌合円筒部とが径方向に対向して設けられ、
前記対向部位の間は、前記延出円筒部と前記第2嵌合円筒部との間であることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1シール部材は、前記回転側部材に嵌合される第1嵌合円筒部と、前記第1嵌合円筒部の一端部から外径方向に延びる第1円板部とを有し、
前記第2シール部材は、前記固定側部材に嵌合される第2嵌合円筒部を有した芯体部材と、前記芯体部材に固着されたシールリップ部とを有しており、
前記シールリップ部は、前記第1シール部材の前記第1円板部に軸方向に対向して摺接するように設けられ、
前記対向部位の間は、前記第1円板部と前記シールリップ部との間であることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記延出円筒部と前記第2嵌合円筒部とが対向する面のいずれか一方の面には、凹凸部もしくは他の箇所よりも表面が粗い粗面部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、
前記コーティング層は、摩擦係数を低減する粉末状の添加剤が混合された固体潤滑剤で構成されることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、
前記コーティング層は、硬化反応タイプの液状接着剤で構成されることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材と回転側部材との2部材による環状空間を密封し、回転側部材に嵌合される第1シール部材と、前記固定側部材に嵌合される第2シール部材とを備え、2部材間に設けられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び下記特許文献2には、車輪用軸受装置に設けられる上記構成の密封装置が開示されている。下記特許文献1には、内方部材及び外方部材の密封部材との接触部分に撥水処理層が設けられ、密封部材の表面全体に撥水処理層が設けられた例等が記載されている。これによれば、泥水等の侵入しやすい部分に撥水処理層を設けることで泥水等の侵入が防止できるとされている。また下記特許文献2には、密封装置に備えるゴム製のリップの表面に、親水性樹脂をバインダとした潤滑被膜が形成されたものが記載されている。これによれば、リップに潤滑被膜を形成することで、リップの摺動抵抗を抑制し、回転トルク低減効果を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-298367号公報
【特許文献2】特開2011-12740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような密封装置は、シール性能とトルク低減の両立を図ることが課題となる。これを解決するひとつの策としては、泥水等の侵入部位にシールリップを配するのではなく、ラビリンス(隙間)を構成し、泥水等の侵入を抑制する策が知られている。このラビリンスを構成する隙間は、微小であればあるほど、シール性能が向上しつつ、対向して配置される部材に摺接しないので、トルクの低減を図ることができる。しかし、2部材で構成され2部材間に設けられる密封装置の場合、各部材・各部位の寸法公差等を考慮する必要があるため、設計可能なラビリンスの寸法には限界がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、密封装置を構成する各部材・各部位の寸法公差等を考慮しなくても、シール性能とトルク低減の両立を図ることができる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の密封装置は、固定側部材と、前記固定側部材に対して相対的に同軸回転する回転側部材との2部材による環状空間を密封し、前記回転側部材に嵌合される第1シール部材と、前記固定側部材に嵌合される第2シール部材とを備え、前記第1シール部材と前記第2シール部材とが組み合わさった状態で前記2部材間に設けられる密封装置であって、前記第1シール部材及び前記第2シール部材が組み合わされた初期状態において、前記第1シール部材と前記第2シール部材とが対向して設けられる対向部位の間の少なくとも一か所に易削性を有したコーティング層が設けられており、前記初期状態から前記第1シール部材と前記第2シール部材とが相対回転した状態において、前記コーティング層が対向する部位に摺接することを特徴とする。
【0007】
上記密封装置において、前記第1シール部材は、前記回転側部材に嵌合される第1嵌合円筒部と、前記第1嵌合円筒部の一端部から外径方向に延びる第1円板部と、該第1円板部の外径側の端部から軸方向に延びる延出円筒部とを有し、前記第2シール部材は、前記固定側部材に嵌合される第2嵌合円筒部を有しており、前記固定側部材及び前記回転側部材間に設けられた状態において、前記第1シール部材の前記延出円筒部と前記第2シール部材の前記第2嵌合円筒部とが径方向に対向して設けられ、前記対向部位の間は、前記延出円筒部と前記第2嵌合円筒部との間としてもよい。
【0008】
また、上記密封装置において、 前記第1シール部材は、前記回転側部材に嵌合される第1嵌合円筒部と、前記第1嵌合円筒部の一端部から外径方向に延びる第1円板部とを有し、前記第2シール部材は、前記固定側部材に嵌合される第2嵌合円筒部を有した芯体部材と、前記芯体部材に固着されたシールリップ部とを有しており、前記シールリップ部は、前記第1シール部材の前記第1円板部に軸方向に対向して摺接するように設けられ、前記対向部位の間は、前記第1円板部と前記シールリップ部との間としてもよい。
【0009】
また、上記密封装置において、前記延出円筒部と前記第2嵌合円筒部とが対向する面のいずれか一方の面には、凹凸部もしくは他の箇所よりも表面が粗い粗面部が設けられてもよい。 また、上記密封装置において、前記コーティング層は、摩擦係数を低減する粉末状の添加剤が混合された固体潤滑剤で構成されるものでもよく、硬化反応タイプの液状接着剤で構成されるものでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の密封装置は上述した構成とされるため、密封装置を構成する各部材・各部位の寸法公差等を考慮しなくても、シール性能とトルク低減の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る密封装置が適用される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る密封装置を示す図である。(a)は第1シール部材及び第2シール部材が組み合わされた初期状態を示した模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
図3】第1実施形態に係る密封装置の変形例を説明するための部分拡大図である。(a)は突起部が設けられている一方の部材のみを示す模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材が組み合わされた初期状態を示した模式的断面図、(c)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
図4】本発明に係る第2実施形態を示す図であり、図1のY部の拡大図である。(a)は第1シール部材及び第2シール部材が組み合わされた初期組付状態を示した模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
図5】第2実施形態に係る密封装置の変形例を説明するための部分拡大図である。(a)は粗面化処理が施されている一方の部材のみを示す模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材が組み合わされた初期状態を示した模式的断面図、(c)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
図6】本発明に係る第3実施形態を示す図であり、図1のX部の拡大図である。(a)は第1シール部材及び第2シール部材が組み合わされた初期状態を示した模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図、(c)は図6(b)の部分拡大図である。
図7】本発明に係る第4実施形態を示す図であり、図1のX部の拡大図である。(a)は2部材間への初期組付状態を示した模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
図8】第4実施形態に係る密封装置の変形例を説明するための図であり、図1のX部の拡大図である。(a)は2部材間への初期組付状態を示した模式的断面図、(b)は第1シール部材及び第2シール部材の相対回転によりラビリンスが形成された状態を示した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。なお、以下において軸Lに沿って車輪に向く側(図1等において左側)を車輪側、車体に向く側(図1等において右側)を車体側とする。
【0013】
本実施形態に係る密封装置は、固定側部材2と、固定側部材2に対して相対的に同軸回転する回転側部材5との2部材による環状空間Sを密封し、回転側部材5に嵌合される第1シール部材10と、固定側部材2に嵌合される第2シール部材20とを備え、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わさった状態で2部材間に設けられるものである。当該密封装置は、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、第1シール部材10と第2シール部材20とが対向して設けられる対向部位の間の少なくとも一か所に易削性を有したコーティング層40が設けられており、前記初期状態から第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転した状態において、コーティング層40が対向する部位に摺接するように設けられる。よって、回転側部材5が回転すると、第1シール部材10及び第2シール部材20のいずれか一方にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られるので、微小な隙間を構成することができる。そして、当該隙間は、シール機能を有するラビリンスとして作用する。以下、詳述する。
【0014】
<第1実施形態>
まず、図1図3を参照しながら第1実施形態に係る密封装置8について説明する。 図1は、密封装置8が装着される軸受装置1を示す。軸受装置1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持し、大略的に、上述の固定側部材に相当する外輪2と、上述の回転側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転側部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント70を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7は、ナット71によってハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状空間Sが形成される。環状空間S内には、リテーナ6aに保持された状態で2列の転動体6…が外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上部31を介して径方向外方に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。密封装置8は、外輪2と内輪部材4との間の環状空間Sを密封するために設けられ、外輪2の車体側の端部に装着される。
【0015】
密封装置8は、第1シール部材10と第2シール部材20とを備える。第1シール部材10は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略U字状の円筒形とされる。第1シール部材10は、内輪部材4の外周面4bに嵌合される円筒状の第1嵌合円筒部12と、第1嵌合円筒部12の一端部12aから外径方向に延出する第1円板部13と、第1円板部13の外径側の一端部13aから軸方向に延びる延出円筒部11とを備える。なお、図2に示す例には、図示していないが、第1円板部13の車体側の外面13bに、N極とS極とが周方向に交互に着磁された円板状の磁気エンコーダを設け、車体に設けられた磁気センサ(不図示)とにより車輪の回転速度等を検出する構成としてもよい。
【0016】
第2シール部材20は、芯体部材21と、シールリップ部24とを備える。芯体部材21は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略逆L字状の円筒形とされる。芯体部材21は、外輪2の内周面2bに嵌合される円筒状の第2嵌合円筒部22と、第2嵌合円筒部22の一端部22aから内径方向に延びる第2円板部23とを備える。第2円板部23は、密封装置8を軸受装置1に組み付ける前において、密封装置8,8同士を積み重ねて搬送する際に、第1円板部13の外面13bが積み重ねられる第1平坦部23cと、傾斜している傾斜部23dと、内径方向に延びる第2平坦部23eとを有する。シールリップ部24は、ゴム等の弾性体からなり、芯体部材21に固着されるシール基部24aと、シール基部24aから軸方向に延出して形成される複数のアキシャルリップ24b,24bと、シール基部24aから径方向内側(環状空間S側)に延出するグリースリップ24cと、第2嵌合円筒部22の他端部22bの外径側に設けられる環状突部24dとを備える。
【0017】
シール基部24aは、芯体部材21の内面側の全体を覆うように配されており、シール基部24aの一方の端部は、第2円板部23の内径側の一端部23aを回り込むように設けられている。シール基部24aの他方の端部は、第2嵌合円筒部22の他端部22bをも回り込むように設けられる。アキシャルリップ24b,24bは、第1円板部13の内面13c側に向けて外径方向に斜めに傾斜して配されるように形成される。複数あるうちの内径側に配されたアキシャルリップ24bの先端部24baは、第1円板部13の内面13cに弾性変形して摺接され、複数あるうちの外径側に配されたアキシャルリップ24bは非接触の状態に設けられる。第1円板部13の内面13cに摺接するアキシャルリップ24bの先端部24baには摺動性を向上させるためのグリース(不図示)が充填されている。グリースリップ24cは、シール基部24aの内径側の一部から、対向して配される第1嵌合円筒部12の内面12bに向いて環状空間S方向に傾斜して形成されており、グリースリップ24cの先端部24caは第1嵌合円筒部12の内面12bに弾性変形した状態で摺接する。この第1嵌合円筒部12の内面12bに摺接するグリースリップ24cの先端部24caにも摺動性を向上させるためのグリース(不図示)が充填されている。環状突部24dは、外径側に隆起して形成されており、第2シール部材20が外輪2の内周面2bに嵌合された際に、外輪2の内周面2bとシール基部24aとの間に圧縮した状態で介在するように設けられる。この環状突部24dが外輪2の内周面2bとシール基部24aとの間に圧縮した状態で介在することにより、外部空間から外輪2の内周面2bと芯体部材21の第2嵌合円筒部22との嵌合部位への泥水等の浸入を抑制する。
【0018】
第1シール部材10と第2シール部材20とは、第1円板部13の内面13cと第2円板部23の内面23bとが軸方向に対向するように組み合わされる。また、第1シール部材10と第2シール部材20とは、延出円筒部11と第2嵌合円筒部22とが径方向に対向するように配置され、第1円板部13と第2円板部23とが軸方向に対向するように配置される。そして、密封装置8では、第1シール部材10と第2シール部材20とが対向して設けられる対向部位の間、すなわち、延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間、及び延出円筒部11の一端部11aと第2円板部23の内面23bとの間に、易削性を有したコーティング層40が設けられている。コーティング層40は、固化した状態で、シールリップ部24よりも柔らかく、摩耗し易い特性を有している。具体的には、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間に、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられている。さらに詳述すると、コーティング層40は、第2嵌合円筒部22の内径面22cに固着されたシール基部24aの内径固着面24aaに、液状のコーティング剤が塗布されて設けられている。固化する前のコーティング剤の初期の塗布量は、図2(a)の2点鎖線で示すように、対向部位の間の間隔よりも若干大きくなるように多めに塗布するとよい。そしてこの状態で、第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせると、コーティング剤は、第2嵌合円筒部22と第2円板部23とで構成される入隅部(第2嵌合円筒部22の一端部22aの近傍)側にまで設けられる。そしてコーティング剤が固化することで、コーティング層40は、延出円筒部11の一端部11aと第2円板部23の第1平坦部23c及び傾斜部23dの内面側の間にまで設けられる。コーティング層40は、シール基部24aの内径固着面24aa及び外径固着面24abに固着した状態になるとともに、延出円筒部11の外径面11b及び一端部11aの端面に接触した状態になる(図2(a)参照)。
【0019】
ここで用いられるコーティング層40としては、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転することで、コーティング層40が削られ、微小な隙間L1,L2(図2(b)参照)を構成することができる易削性(削られ易さ)を有していれば、特に限定されない。コーティング層40は、微小な隙間L1,L2が形成された後は、対向部位の間に隙間L1,L2を確保した状態で維持される粘性・保形性も備えている。
【0020】
コーティング層40となるコーティング剤としては、例えば、固体潤滑剤や液状接着剤等が挙げられる。固体潤滑剤としては、特に限定されないが、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を用いてもよく、例えば摩擦係数が0.04~0.1等、摩擦係数が0.1以下のものが採用される。また固体潤滑剤には、摩擦係数をさらに低減する粉末状の添加剤が混合されてもよい。上記構成によれば、削り取られて隙間が形成されるまでの摩擦抵抗を抑えることができる。また固体潤滑剤には、バインダーとして撥水性のあるフッ素樹脂剤を混合してもよい。撥水性のあるものを固体潤滑剤のバインダーとすれば、フッ素樹脂剤は摩擦には強くないため、コーティング層40の易削性に影響を与えず、隙間L1,L2が形成された後においてラビリンス通路が撥水性のあるコーティング層40で覆われていることになり、外部からの泥水等の浸入を一層効果的に防ぐことができる。またコーティング層40として、このように摩擦係数が低い固体潤滑剤を用いれば、削られた後の摩耗粉がアキシャルリップ24b等の充填されたグリースと混ざっても、削られた後の摩耗粉も摩擦係数が低いため、グリースの潤滑への影響を抑えることができる。
【0021】
コーティング層40の層厚は、第1シール部材10と第2シール部材20とが対向して設けられる対向部位の間に隙間なく設けられる厚みとなるため、500μm~2mm程度とされる。500μmを下回るとシール基部24aの内径固着面24aaと延出円筒部11の外径面11bとが内輪5の回転時等に接触してしまう可能性がある。また2mmを超えると、密封装置8を構成する第1シール部材10及び第2シール部材29の設計寸法に影響がでてしまう。
【0022】
図2(a)に示す例では、第2シール部材20の内径固着面24aaにコーティング剤が塗布され、コーティング剤は、第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせることで、図2(a)に示すように第2嵌合円筒部22と第2円板部23とで構成される入隅部(第2嵌合円筒部22の一端部22aの近傍)側にまで設けられた状態(初期状態)で固化し、コーティング層40となる。そして上記初期状態から第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第1シール部材10にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られるので、微小な隙間L1,L2を構成することができる。より具体的には、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、延出円筒部11の外径面11b及び延出円筒部11の一端部11aに接触したコーティング層40が、外径面11b及び一端部11aに対して非接触になるまで削られ、図2(b)に示すように微小な隙間L1,L2を形成することができる。このようにして形成される隙間L1,L2は、第1シール部材10の延出円筒部11の外径面11bとコーティング層40との間及び延出円筒部11の一端部11aとコーティング層40との間に形成され、このとき、回転させる側は、第1シール部材10でも第2シール部材20でもいずれもよい。
【0023】
ここで隙間L1,L2を形成するための第1シール部材10及び第2シール部材20の初期の相対回転は、密封装置8を図1に示す軸受装置1の外輪2と内輪部材4との間に装着し回転側部材である内輪部材4を回転させることにより、微小な隙間L1,L2を形成してもよい。この場合、密封装置8は、外輪2と内輪部材4との間に設けられた状態において、第1シール部材10の延出円筒部11と第2シール部材20の第2嵌合円筒部22とが径方向に対向して設けられ、第1シール部材10の延出円筒部11の一端部11aと第2シール部材20の第2円板部23とが軸方向に対向して設けられる。そして、これら径方向及び軸方向の対向部位の間に、隙間なく設けられたコーティング層40が、内輪部材4の回転によって削られ、密封装置8の対向部位の間に微小な隙間L1,L2を構成することができる。このようにして形成される隙間L1,L2は、加工等によって形成し難い極めて小さい隙間寸法を実現できる。よって、隙間L1,L2は、シール機能を有するラビリンスとして作用し、非接触シール構造を構成できるので、低トルク化を図ることができる。また、この微小な隙間L1,L2は、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わせられた後の初期の相対回転によって形成されるため、第1シール部材10及び第2シール部材20の寸法公差が存在しても、その寸法公差の影響を受けて、隙間の大きさが変動することを抑制できる。
【0024】
<変形例>
次に密封装置8の変形例について、図3(a)~図3(c)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する構成及び効果の説明は省略する。
【0025】
図3(a)~図3(c)に示す変形例は、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第2シール部材20にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られ、微小な隙間L1を構成する点で上記実施形態と異なる。また当該変形例は、シール基部24aの内径固着面24aaに凹凸部25を構成する凸部25aが設けられている点で上記実施形態と異なる。凹凸部25の構成は、図例に限定されず、コーティング層40の易削性が促進される凹凸であればよいので、凸部25aの数も図例より多くてもよい。また図3に示す凸部25a及び凹部25bは、断面視において方形状であるが、湾曲形状でもよいし、三角形状であってもよい。またこの凹凸部25は、全周に設けられてもよいし、半周でも間隔を空けて間欠的に設けられたものとしてもよいし、均等に配置されるものでもランダムに配置されるものでもよい。図3(a)に示すように、内径固着面24aaに凹凸部25が構成されている場合、第1シール部材10の外径面11bの略全面にコーティング剤を塗布し、第1シール部材10の延出円筒部11の外径面11bにコーティング層40を設ける。その後、図3(b)に示すように第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせる。そして第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転した状態において、凹凸部25によってコーティング層40が確実に削られ、内径固着面24aa側に、図3(c)に示すように微小な隙間L1,L2を形成することができる。
【0026】
<第2実施形態>
次に図4を参照しながら、第2実施形態に係る密封装置9について説明する。なお、第1実施形態と共通する構成及び効果の説明は省略する。密封装置9は、外輪2とハブ輪3との間の環状空間Sを密封するために設けられ、外輪2の車輪側の端部に装着される。
【0027】
密封装置9は、第1シール部材10と第2シール部材20とを備える。第1シール部材10は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略U字状の円筒形とされ、第1円板部13の外径側の一端部13aから軸方向に延びる延出円筒部11には、段差状に形成された段差部11cが設けられる。第1円板部13は、外輪2の外周面2cと略同じ位置まで設けられ、ハブ輪3への装着状態において、延出円筒部11が外周面2cよりもさらに外径側に設けられ、外輪2の外周面2cの端部を覆うように配される。第1嵌合円筒部12は、ハブ輪本体30に嵌合され、第1円板部13は立上部31に当接した状態に装着される。
【0028】
第2シール部材20は、芯体部材21と、シールリップ部24とを備える。芯体部材21は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略逆L字状の円筒形とされ、円筒状の第2嵌合円筒部22が、外輪2の外周面2cに嵌合される。複数設けられたアキシャルリップ24b,24bのうち、外径側に設けられたアキシャルリップ24bは、第1円板部13の外径側の一端部13aに向けて傾斜して形成される。複数設けられたアキシャルリップ24b,24bのうち、内径側に設けられたアキシャルリップ24bは第1円板部13の内径側に接触して設けられ,アキシャルリップ24b,24b同士の間隔が第1実施形態よりも大きく確保されている。
【0029】
第1シール部材10と第2シール部材20とは、第1円板部13の内面13cと第2円板部23の内面23bとが軸方向に対向するように組み合わされるとともに、延出円筒部11と第2嵌合円筒部22とが径方向に対向するように配置され、第1円板部13と第2円板部23とが軸方向に対向するように配置され、密封装置9を構成する。そして、密封装置9では、延出円筒部11の内径面11dと第2嵌合円筒部22の外径面22dとの間に、易削性を有したコーティング層40が図4(a)に示すように隙間なく設けられる。具体的には、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、延出円筒部11の内径面11dと第2嵌合円筒部22の外径面22dとの間に、隙間なく全面に亘ってコーティング剤が設けられるように、外径面22dに固着されたシール基部24aの外径固着面24abにコーティング剤を塗布する。つまり、コーティング層40は、第2シール部材20の外径固着面24abに固着され、第1シール部材10である延出円筒部11の内径面11dに摺接するように設けられている。コーティング剤の初期の塗布量は、図4(a)の2点鎖線で示すように、コーティング層40の層が、対向部位の間の間隔よりも若干大きくなるように多めに塗布するとよい。この状態で、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わされ、これらが組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、コーティング層40が第1シール部材10を構成する延出円筒部11の内径面11dに摺接して削られる。そして、コーティング層40が内径面11dに対して非接触になるまで削られることで、図4(b)に示すように微小な隙間L1を形成することができる。このようにして形成される隙間L1は、第1シール部材10の延出円筒部11の内径面11dとコーティング層40との間に形成される。
【0030】
隙間L1を形成するための第1シール部材10及び第2シール部材20の回転は、第1実施形態と同様、密封装置9を図1に示す軸受装置1の外輪2とハブ輪3との間に装着し回転側部材であるハブ輪3の回転により、形成してもよいし、装着前の段階で第1シール部材10及び第2シール部材20を相対回転させて隙間L1を形成してから軸受装置1に装着してもよい。
【0031】
上記構成によれば、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第1シール部材10にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られることで、密封装置9の対向部位の間に微小な隙間L1を構成することができ、隙間L1は、シール機能を有するラビリンスとして作用し、非接触シール構造を構成できるので、低トルク化を図ることができる。また、この微小な隙間L1を、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わせられた後の初期の回転によって形成されるため、第1シール部材10及び第2シール部材20の寸法公差が存在しても、その寸法公差の影響を受けて、隙間の大きさが変動することを抑制できる。
【0032】
<変形例>
次に密封装置9の変形例について、図5(a)~図5(c)を参照しながら説明する。なお、上記実施形態及び上記変形例と共通する構成及び効果の説明は省略する。
【0033】
図5(a)~図5(c)に示す変形例は、第1シール部材10の延出円筒部11の内径面11dに他の箇所より表面が粗い粗面部26が設けられている点で上記実施形態と異なる。ここで他の箇所とは、例えば延出円筒部11の外径面11bや第2嵌合円筒部22の外径面22dや外径固着面24ab等、延出円筒部11の内径面11d以外の箇所のことであり、内径面11dは、これら他の箇所より表面が粗く形成される。粗面部26の粗さ度合いは特に限定されず、コーティング層40の易削性が促進される微小な凹凸面であればよい。粗面度も特に限定されず、粗面部26の形成方法は、ショットピーニング等、特に限定されない。また図5(a)のZ部拡大図では、表面が略均一に凹凸状となっているが、ランダムな凹凸状であってもよい。また粗面部26が設けられる領域は、図例のものは内径面11d全体に設けているが、コーティング層40が接触する箇所が粗面部26であればよい。さらに粗面部26は、全周に設けられてもよいし、半周でも間隔を空けて間欠的に設けられたものとしてもよい。
【0034】
図5(a)に示すように、第1シール部材10である延出円筒部11の内径面11dに粗面部26が設けられている場合、第2シール部材20の外径固着面24abにコーティング剤を塗布し、その後、図5(b)に示すように第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせる。そして第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、粗面部26によってコーティング層40が確実に削られ、延出円筒部11の内径面11d側に、図5(c)に示すように微小な隙間L1を形成することができる。
【0035】
<第3実施形態>
次に図6を参照しながら、第2実施形態に係る密封装置8Aについて説明する。なお、第1実施形態と共通する構成及び効果の説明は省略する。密封装置8Aは、第1実施形態に係る密封装置8と同様に外輪2と内輪部材4との間の環状空間Sを密封するために設けられ、外輪2の車体側の端部に装着される。
【0036】
密封装置8Aは、第1シール部材10の構成は第1実施形態の第1シール部材10と同様であるが、コーティング層40が延出円筒部11の外径面11bでなく、第1円板部13の内面13cに設けられている点で異なる。また第2シール部材20が、芯体部材21とシールリップ部24とを備える点は第1実施形態の第2シール部材20と同様であるが、アキシャルリップ24bが複数でなく、第1嵌合円筒部12の内面12bに摺接するシールリップ部24が、複数設けられる点で異なる。具体的には、シールリップ部24は、第1シール部材10の第1円板部13に軸方向に対向して摺接するように設けられたアキシャルリップ24bと、第1嵌合円筒部12に径方向に対向し第1嵌合円筒部12の一端部12aの方向に斜めに傾斜して摺接するラジアルリップ24eと、第1嵌合円筒部12に径方向に対向し環状空間S側に斜めに傾斜して摺接するグリースリップ24cとを備える。
【0037】
密封装置8Aでは、第1円板部13の内面13cとアキシャルリップ24bの先端部24baとの間に、易削性を有したコーティング層40が図6(a)に示すように隙間なく設けられる。具体的には、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、第1円板部13の内面13cとアキシャルリップ24bの先端部24baとの間に、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられるように、第1円板部13の内面13cにコーティング剤を塗布する。この場合、コーティング剤を塗布する箇所が、略U字状の底面に相当する第1シール部材10の第1円板部13の内面13cになるので、塗布し易い。コーティング剤が塗布された状態では、第1円板部13の内面13cにコーティング剤が固着し、アキシャルリップ24bは、コーティング層40に摺接するように設けられている。
【0038】
密封装置8Aにおいても、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第2シール部材20にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られるので、微小な隙間L3を構成することができる。具体的には、第2シール部材20を構成するアキシャルリップ24bの先端部24baによってコーティング層40が、非接触になるまで削られ、図6(b)に示すように微小な隙間L3を形成することができる。このようにして形成される隙間L3は、アキシャルリップ24bの先端部24baとコーティング層40との間に形成される。 隙間L3を形成するための第1シール部材10及び第2シール部材20の初期の回転は、第1実施形態と同様、軸受装置1に装着後の初期の回転により、形成してもよいし、装着前の段階で第1シール部材10及び第2シール部材20を相対回転させて隙間L3を形成してから軸受装置1に装着してもよい。
【0039】
上記構成によれば、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第2シール部材20を構成するアキシャルリップ24bの先端部24baにコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が回転によって削られることで、密封装置8Aの対向部位の間に微小な隙間L3を構成することができる。そして、隙間L3は、シール機能を有するラビリンスとして作用し、非接触シール構造を構成できるので、軸受装置1の低トルク化を図ることができる。また、この微小な隙間L3を、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わせられた後の初期の回転によって形成されるため、第1シール部材10及び第2シール部材20の寸法公差が存在しても、その寸法公差の影響を受けて、隙間の大きさが変動することを抑制できる。
【0040】
<第4実施形態>
次に図7及び図8を参照しながら、第4実施形態に係る密封装置8Bについて説明する。なお、第1実施形態と共通する構成及び効果の説明は省略する。
【0041】
密封装置8Bは、第1シール部材10及び第2シール部材20の構成は第1実施形態の第1シール部材10及び第2シール部材20と同様であるが、コーティング層40が延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間だけでなく、第1円板部13の内面13cにも設けられている点で異なる。
【0042】
密封装置8Bでは、延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間、さらに第1円板部13の内面13cとアキシャルリップ24bの先端部24baとの間に、易削性を有したコーティング層40が図7(a)に示すように隙間なく設けられる。具体的には、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間に、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられるように内径面22cに固着されたシール基部24aの内径固着面24aaにコーティング剤を塗布する。また第1円板部13の内面13cとアキシャルリップ24bの先端部24baとの間にも、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられるように第1円板部13の内面13cにコーティング剤を塗布する。
【0043】
密封装置8Bにおいても、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第1シール部材10にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られることで、密封装置8Bの対向部位の間に微小な隙間L1,L2,L3を構成することができる。具体的には、第1シール部材10を構成する延出円筒部11の外径面11bにコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が、内径面22cに対して非接触になるまで削られ、図7(b)に示すように微小な隙間L1,L2を形成することができる。また同様に第2シール部材20を構成するアキシャルリップ24bの先端部24baがコーティング層40に摺接し、先端部24baが非接触になるまで削られ、図7(b)に示すように微小な隙間L3を形成することができる。このようにして形成される隙間L3は、アキシャルリップ24bの先端部24baとコーティング層40との間に形成される。隙間L1,L2,L3を形成するための第1シール部材10及び第2シール部材20の初期の回転は、第1実施形態と同様、軸受装置1に装着後の初期の回転により、形成してもよいし、装着前の段階で第1シール部材10及び第2シール部材20を相対回転させて隙間L1,L2,L3を形成してから軸受装置1に装着してもよい。
【0044】
上記構成によれば、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第2シール部材20にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が回転によって削られることで、密封装置8Bの対向部位の間に微小な隙間L1,L2,L3を構成することができ、隙間L1,L2,L3は、シール機能を有するラビリンスとして作用し、非接触シール構造を構成できるので、軸受装置1の低トルク化を図ることができる。また、この微小な隙間L1,L2,L3を、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わせられた後の初期の回転によって形成されるため、第1シール部材10及び第2シール部材20の寸法公差が存在しても、その寸法公差の影響を受けて、隙間の大きさが変動することを抑制できる。
【0045】
<変形例>
次に上述の密封装置8Bの変形例について、図8(a)、図8(b)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する構成及び効果の説明は省略する。図8(a)及び図8(b)に示す密封装置8B’は、易削性を有したコーティング層40が延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間と、第1嵌合円筒部12の内面12bに設けられている点で密封装置8Bと異なる。
【0046】
具体的には、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態において、延出円筒部11の外径面11bと第2嵌合円筒部22の内径面22cとの間に、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられるように内径面22cに固着されたシール基部24aの内径固着面24aaにコーティング剤を塗布する。また第1嵌合円筒部12の内面12bとグリースリップ24cの先端部24caとの間にも、隙間なく全面に亘ってコーティング層40が設けられるように第1嵌合円筒部12の内面12bにコーティング剤を塗布する。
【0047】
密封装置8B’においても、第1シール部材10及び第2シール部材20が組み合わされた初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第1シール部材10にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が削られることで、密封装置8B’の対向部位の間に微小な隙間L1,L2,L4を構成することができる。第2嵌合円筒部22の内径面22cに接触した延出円筒部11の外径面11b側のコーティング層40が、内径面22cに対して非接触になるまで削られ、図8(b)に示すように微小な隙間L1,L2を形成することができる。また同様に第2シール部材20を構成するグリースリップ24cの先端部24caがコーティング層40に摺接し、先端部24caが非接触になるまで削られ、図8(b)に示すように微小な隙間L4を形成することができる。このようにして形成される隙間L4は、グリースリップ24cの先端部24caとコーティング層40との間に形成される。隙間L1,L2,L4を形成するための第1シール部材10及び第2シール部材20の初期の回転は、第1実施形態と同様、軸受装置1に装着後の初期の回転により、形成してもよいし、装着前の段階で第1シール部材10及び第2シール部材20を相対回転させて隙間L1,L2,L4を形成してから軸受装置1に装着してもよい。
【0048】
上記構成によれば、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転すると、第2シール部材20にコーティング層40が摺接し、この摺接によりコーティング層40が回転によって削られることで、密封装置8B’の対向部位の間に微小な隙間L1,L2,L4を構成することができ、隙間L1,L2,L4は、シール機能を有するラビリンスとして作用し、非接触シール構造を構成できるので、低トルク化を図ることができる。また、この微小な隙間L1,L2,L4を、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わせられた後の初期の回転によって形成されるため、第1シール部材10及び第2シール部材20の寸法公差が存在しても、その寸法公差の影響を受けて、隙間の大きさが変動することを抑制できる。
【0049】
上述した各実施形態の密封装置8~8B’,9は、図面の形状・構成に限定されることはない。例えば、第1シール部材10や芯体部材21は、鋼板に限定されず硬質な樹脂材料等で形成されてもよい。また、シールリップ部24の形状や個数は図示したものに限定されることはなく、またゴム材以外の弾性を有する樹脂材等で構成されてもよい。図示していないが、密封装置8だけでなく、密封装置8A~8B’の第1円板部13の外面側に、N極とS極とが周方向に交互に着磁された環状の磁気エンコーダが設けられていてもよい。また上記実施形態では、固定側部材が外輪2、回転側部材が内輪5の例を説明したが、これに限定されず、固定側部材が内輪、回転側部材が外輪であってもよい。
【0050】
凹凸部25及び粗面部26は、コーティング層40の削れ性を促進するために設けられるため、その形成位置や構成も図例に限定されない。例えば図2(a)に示す密封装置8や図7(a)に示す密封装置8Bの場合、延出円筒部11の外径面11bに凹凸部25や粗面部26が設けられてもよい。また図3(a)~図3(c)に示す凹凸部25に変えてシール基部24aに粗面部26を設けてもよいし、図5(a)~図5(c)に示す粗面部26に変えて延出円筒部11の内径面11dに凹凸部25を設けてもよい。またアキシャルリップ24bやグリースリップ24cの先端部24ba,24caに凹凸部25や粗面部26を設けてもよい。さらに例えば図7(a)の例において、延出円筒部11の外径面11bには凹凸部25を設ける一方、アキシャルリップ24bの先端部24baには粗面部26を設ける等、隙間を形成したい箇所に応じて凹凸部25と粗面部26とを組み合わせてもよい。
【0051】
コーティング剤としては、上記の他、液状接着剤も好適に用いられ、特に限定されないが、例えば硬化反応タイプのものを用いてもよい。この場合、コーティング剤が液状であるため、コーティング層40を配する対向部位の間になじませ易い。つまり、第1シール部材10と第2シール部材20とが対向部位及び対向部位の間の形状に制約を受けることなく、コーティング層40を設けることができる。液状接着剤としては、例えば2液硬化タイプのエポキシ系樹脂接着剤としてもよい。この場合、通常、主剤と硬化剤とを同量混ぜるが、本実施形態の場合は、硬化剤の配合量を減らして完全に固まらないようにして用いるとよい。また液状接着剤とする場合、摺動抵抗を減らすため、上述の固体潤滑剤を添加して混ぜてもよい。
【0052】
またコーティング層40は、第1シール部材10と第2シール部材20とが対向して設けられる対向部位の間の少なくとも一か所に設けられていればよいため、図例に限定されず、対向部位の間のすべての箇所、例えば図7(a)の密封装置8Bにおいて、第1嵌合円筒部12の内面12bとグリースリップ24cの先端部24caとの間にも、コーティング層を設けてもよい。さらに対向部位の間に、設けられるコーティング層40は、隙間なくまんべんなく配されることが望ましいが、気泡も含めた多少の隙間やコーティング層40が配されていない箇所が部分的に多少あってもよい。
【0053】
また、コーティング層40は、第1シール部材10又は第2シール部材20のいずれかに摺接するものに限らず、対向する部位、例えば、第1シール部材10に設けられたコーティング層と第2シール部材20に設けられたコーティング層同士が摺接するようにしてもよい。すなわち、例えば、コーティング剤を、延出円筒部11の外径面11b及びシール基部24aの内径固着面24aaのそれぞれに塗布した後、第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせることで、互いにコーティング層が対向するようになり、コーティング層同士が摺接するようにしてもよい。また、第1シール部材10と第2シール部材20とを組み合わせた後、延出円筒部11とシール基部24aとの間にコーティング剤を塗布し、その後、コーティング剤が固化することで、延出円筒部11とシール基部24aとの間にコーティング層を設けてもよい。この場合、初期状態から、第1シール部材10と第2シール部材20とが相対回転する際には、コーティング層が分割して、コーティング層同士が摺接するようになる。
【0054】
また、第1シール部材10と第2シール部材20とが組み合わされた初期状態の後、外輪2と内輪部材4とが相対回転する際に環状空間Sの径方向の間隔が狭まり、第1シール部材10及び第2シール部材20のいずれか一方がコーティング層40に接する構成であれば、第1シール部材10及び第2シール部材20の取り付け時には、例えば、コーティング層40と第1シール部材10又は第2シール部材20との間に、寸法公差程度の僅かな隙間が存在していもよい。
【0055】
また、第1シール部材10と第2シール部材20は、必ずしも組み合わさった状態で、軸受装置1に装着されていなくともよい。例えば、第1シール部材10を内輪5に装着し、第2シール部材20を外輪2に装着した後で、外輪2と内輪5とを組み付ける際に、第1シール部材10と第2シール部材20が組み合わさるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 軸受装置
2 外輪(固定側部材)
5 内輪(回転側部材)
8,8A,8B,8B’,9 密封装置
S 環状空間
10 第1部材
20 第2部材
25 凹凸部
26 粗面部
40 コーティング層
L1,L2,L3,L4 隙間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8