IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ YKK AP株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図1
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図2
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図3
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図4
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図5
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図6
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図7
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図8
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図9
  • 特開-型枠治具および型枠セット 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126290
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】型枠治具および型枠セット
(51)【国際特許分類】
   E04G 17/06 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E04G17/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034574
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和裕
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150BA42
2E150BA67
2E150BA72
2E150EA04
2E150EB14
2E150EB15
2E150EB20
2E150EC11
2E150EC22
2E150FA04
2E150FA22
2E150GB01
2E150HC02
2E150HC06
2E150HC11
2E150HG01
(57)【要約】
【課題】下レールおよび上レールを型枠パネルに対して容易に固定することのできる型枠治具を提供する。
【解決手段】型枠治具10は、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネル110における下縁が嵌め込まれる下レール130および上縁が嵌め込まれる上レール132を支持する。型枠治具10は、浮き上がりが防止されるように固定されており、下レールの下面に係合する下係合部としてのレール受部127と、上レール132の上面132cに係合する上係合部16と、上係合部16とレール受部127とを打設空間の外側で接続する棒状部材18と、レール受部127から棒状部材18を経て上係合部16に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能なパッチン錠20とを有する。レール受部127は、下レール130と他の型枠パネルとの間隔を保持する下側幅止め部材の一部を兼ねる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルにおける下縁が嵌め込まれる下レールおよび上縁が嵌め込まれる上レールを支持する型枠治具であって、
浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、
前記上レールの上面に係合する上係合部と、
前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、
前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、
を有する
ことを特徴とする型枠治具。
【請求項2】
前記打設空間は1つの側面が前記型枠パネルで形成され、対向する他の側面が他の型枠パネルで形成されており、
前記下係合部は、前記下レールと前記他の型枠パネルとの間隔を保持する下側幅止め部材の一部を兼ねる
ことを特徴とする請求項1に記載の型枠治具。
【請求項3】
前記締結具はパッチン錠である
ことを特徴とする請求項1に記載の型枠治具。
【請求項4】
前記上係合部は、下に開口するコ字形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の型枠治具。
【請求項5】
前記下係合部または前記上係合部とつながり前記打設空間の外方向に突出しており、ネジ挿通孔が形成されたヒレ片を有し、
前記棒状部材は端部に雄ネジ部を有し、該雄ネジ部が前記ネジ挿通孔を通りナットによって前記ヒレ片に固定され、または抜け止めされている
ことを特徴とする請求項1に記載の型枠治具。
【請求項6】
コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルと、
前記型枠パネルの下縁が嵌め込まれる下レールと、
前記型枠パネルの上縁が嵌め込まれる上レールと、
浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、
前記上レールの上面に係合する上係合部と、
前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、
前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、
を有する
ことを特徴とする型枠セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルに対して適用される型枠治具および型枠セットに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の基礎には立ち上がり部がある。立ち上がり部を形成するためのコンクリート型枠として型枠パネルが用いられている。立ち上がり部の形成のためには型枠パネルを対向するように立設してその間にコンクリートを打設する。型枠パネルは、養生してコンクリートが硬化した後に脱型する場合とそのまま残置する場合とがある。型枠パネルを残置させる場合には、脱型の手間がなく、立ち上がり部の強度を補強することができ、さらにコンクリートを空気から遮断して酸化による劣化を抑制することができる。残置させる型枠パネルとしては、特許文献1に記載のものが挙げられる。この型枠パネルは、正面視で略正方形であって、多数の角波形状の断面を形成するように板材をプレスしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-7967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の型枠パネルは薄板をプレス成形したものであって軽量ではあるが曲がりやすいため、立ち上がり部に沿って正しく直線状に配置させるためには下縁を嵌め込む下レール、および上縁を嵌め込む上レールを設けることが望ましい。
【0005】
コンクリート打設時に型枠パネルが浮き上がらず、かつ型枠セットが十分な強度を確保するためには下レールおよび上レールが型枠パネルと確実に固定されている必要があり、その固定手段としてはレールの側方からインパクトドライバなどでビス打ちすることが考えられる。しかしながら、通常サイズの家屋の基礎であっても必要となるビス打ち箇所は非常に多くなる。特に下レールは低い箇所にあってビス打ちのために作業者は無理な姿勢を強いられることとなり負担が大きい。また、インパクトドライバなどの工具の多用は作業者の疲労要因となる。さらに、特許文献1に記載の型枠パネルは角波形状の断面を有しており、嵌め込まれるレールがコ字形状断面であるためレールの両側面に亘ってビスを打つことが難しい。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、下レールおよび上レールを型枠パネルに対して容易に固定することのできる型枠治具および型枠セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる型枠治具は、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルにおける下縁が嵌め込まれる下レールおよび上縁が嵌め込まれる上レールを支持する型枠治具であって、浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、前記上レールの上面に係合する上係合部と、前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる型枠セットは、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルと、前記型枠パネルの下縁が嵌め込まれる下レールと、前記型枠パネルの上縁が嵌め込まれる上レールと、浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、前記上レールの上面に係合する上係合部と、前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下レールおよび上レールに対して下係合部および上係合部で係合し、その間は棒状部材で接続されるとともに切り離し可能な締結具で締結されていることから、基本的に工具やビス止めが不要となって、下レールおよび上レールを型枠パネルに対して容易に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】型枠パネル、該型枠パネルを含む型枠セット、および型枠セットによって形成される基礎の模式平面図である。
図2】外周部の周辺における型枠パネル、型枠セットおよび基礎の縦断面図である。
図3】中通り部の周辺における型枠パネル、型枠セットおよび基礎の縦断面図である。
図4】型枠パネルの斜視図である。
図5】2枚の型枠パネルの端部の拡大斜視図である。
図6】複数の型枠治具を備える型枠セットの一部を示す斜視図である。
図7】型枠治具の下部を示す斜視図であり、(a)はパッチン錠が締結されている状態を示し、(b)はパッチン錠が解除されている状態を示す。
図8】複数の型枠治具を備える型枠セットを組み立てる様子を示す斜視図である。
図9】二度打ちの基礎の施工に型枠治具を適用した場合に断面図である。
図10】変形例にかかる型枠治具の上端部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる発明名称の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態にかかる型枠治具10は、同じく本発明の実施形態にかかる型枠セット112の一部を構成するものである。
【0013】
図1は、型枠パネル110、該型枠パネル110を含む型枠セット112、および型枠セット112によって形成される基礎114の模式平面図である。基礎114はコンクリート基礎である。図2は、外周部118aの周辺における型枠パネル110、型枠セット112および基礎114の縦断面図である。図3は、中通り部118bの周辺における型枠パネル110、型枠セット112および基礎114の縦断面図である。図1図2図3は、型枠セット112に対してコンクリート打設を行った状態を示している。図1では、型枠パネル110が視認可能となるように上レール132を省略している。基礎114は、例えば戸建て住宅等のべた基礎であるが、布基礎であってもよい。なお、図1では後述する型枠治具10を省略して示している。また、図3の左側部分ではレール受部137が型枠治具10のヒレ片16dと重ならないように、該型枠治具10の上部を省略している。
【0014】
図1図2図3に示すように、基礎114は、平面状に広がる耐圧版部116と、鉛直に起立する壁状の立ち上がり部118とを有している。立ち上がり部118の高さHおよび幅Wは規格化されている。立ち上がり部118は、耐圧版部116の縁に沿った外周部118aと、該外周部118aによって囲まれた範囲で耐圧版部116上に設けられる中通り部118bとに区分される。基礎114には、耐圧版部116内で升目状に配設されるスラブ配筋120と、立ち上がり部118内で上方に突出している立ち上がり配筋122とが設けられている。各図で示す基礎114は、耐圧版部116と立ち上がり部118とを1回のコンクリート打設で施工する例である。
【0015】
型枠セット112は、内周側の型枠パネル110、外周型枠パネル124、外周部枠支持部材126、立ち上がり部枠支持部材128、下レール130、上レール132、上端補強部材134および幅止め部材136を備えている。また、型枠セット112は、後述する型枠治具10を含む。
【0016】
外周型枠パネル124は、外周部118aの外周面118aaを区画するものであり、基盤138の上に配置され、基盤138や地面等に固定したサポート部材139によって支持されている。外周型枠パネル124は、本体である板材124aと、該板材124aの外表面に取り付けた枠材124bとから構成されている。板材124aは、合板等の非金属によって成形した薄板状を成すものである。板材124aの内表面には、硬化したコンクリートとの離型性を向上させるため、樹脂製のフィルムを設けたり、離型材を塗布してもよい。外周型枠パネル124は複数枚が並列して配設され、相互間は保持金具140や枠材124bを貫通するネジなどによって連結されている。上端補強部材134は、幅止め部材136を介して外周型枠パネル124の上端部に配置するもので、枠材124bと同様、アルミニウム合金等の金属によって成形した角筒状に構成してある。
【0017】
型枠パネル110は、外周部118aの内周面118ab、中通り部118bの対向する両側の側面118baおよび中通り部118bの端面118bbを区画するものである。型枠パネル110は、内周面118ab、側面118baおよび端面118bbに沿って連続的に配設可能となっている。型枠パネル110は、外周部118aおよび中通り部118bによって閉じられた閉領域の全面を1枚で区画することが可能であるが、条件によっては一部に他のパネルを組み合わせて用いてもよい。
【0018】
型枠パネル110は、外周型枠パネル124と対面している箇所では外周部枠支持部材126によって下面が支持されている。外周部枠支持部材126は、支持部本体126a、固定用ネジ部材126bおよび支持片126cを備えている。支持部本体126aは外周型枠パネル124に取り付けられ、固定用ネジ部材126bを内周側に向けて突出するように保持する。外周部枠支持部材126は、型枠パネル110と外周型枠パネル124との間隔を保持する幅止め部材を兼ねている。
【0019】
支持片126cは、鉛直向きの屈曲部126caの下端から水平部126cbが延在しており、さらにその端部にレール受部127を有している。レール受部127は、上に開口するコ字(角型U字)形状であり、外壁127aと内壁127bとこれらの下端同士を水平に接続する底壁127cとを有している。底壁127cは下レール130よりわずかに幅が広く、レール受部127には下レール130が嵌め込まれて該下レール130および型枠パネル110の下面を支持する。外壁127aおよび内壁127bは対向しており、それぞれ下レール130の側面を支持するのに十分な高さを有している。なお、外壁127a、内壁127bの「外」および「内」とは、側方を型枠で仕切られたコンクリートの打設空間129を基準としている。後述する各部品についても同様である。
【0020】
外壁127aの上端には小さい返り部127dが設けられている。返り部127dは外側に向かって略U字状に折り返された形状で下向き開口となっている。
【0021】
下レール130は上方に開口するコ字形状の部材であり、外片130aと内片130bとの間で型枠パネル110がずれないように保持している。外片130aは内片130bよりやや高く、コンクリート打設時に型枠パネル110に対して内周向きの力が加わったときに該型枠パネル110を安定して支持することができる。ただし、施工条件により外片130aと内片130bとの高さを逆にしてもよい。下レール130は、例えばアルミニウム合金等による押し出し材である。
【0022】
上レール132は、外片132aと内片132bとの間で型枠パネル110の上部をずれないように保持している。上レール132は下レール130と同じものを上下逆向きにして適用可能である。幅止め部材136は、型枠パネル110及び外周型枠パネル124の上端部間に掛け渡すことにより、これらの相互間距離が変化する事態を防止する。幅止め部材136は、一端に上レール132を介して型枠パネル110の上端部を支持するレール受部137を有する。レール受部137は、下に開口するコ字形状であり、外壁137aと内壁137bとこれらの下端同士を水平に接続する底壁137cとを有している。レール受部137は上記のレール受部127と同形状かつ上下逆となっている。ただし、レール受部137には返り部127dは設けられていない。
【0023】
図3に示すように、型枠パネル110は、中通り部118bの側面118baを区画する箇所では立ち上がり部枠支持部材128によって下面が支持されている。立ち上がり部枠支持部材128は、基盤138に載置される脚部128aと、該脚部128aから上方に突出する2本の支柱128bと、これらの支柱128bによって水平に支持されている梁部128cとを有する。梁部128cの両端にはレール受部127が設けられている。レール受部127は外周部枠支持部材126におけるものと同じである。梁部128cおよび両端のレール受部127は対向する2枚の型枠パネル110の間隔を保持する幅止め部材を兼ねている。この箇所においても型枠パネル110の上部には上レール132が設けられる。また、この箇所においても型枠パネル110の上部同士は上レール132を介して幅止め部材136によって相互距離が保たれている。上記の幅止め部材136には一端にレール受部137が設けられているのに対し、この箇所の幅止め部材136では両端にレール受部137が設けられている。
【0024】
型枠パネル110についてさらに説明する。
図4は、型枠パネル110の斜視図である。図5は、2枚の型枠パネル110の端部の拡大斜視図である。
【0025】
型枠パネル110は、上記のようにコンクリート型枠として使用するものである。型枠パネル110は、長辺142a同士が隣接するように組まれた短冊状の複数の板片142によって構成されている。型枠パネル110はいわゆるスラット構造であり、隣接する板片の長辺142a同士が該長辺142aに沿う方向を基準として回転可能に接続されている。板片142は、例えば鋼板をプレス加工して得られる。
【0026】
具体的には、板片142は一対の長辺142aに沿って鉤手部144a,144bを有しており、隣接する板片142同士は鉤手部144aと鉤手部144bとが係合して回転可能な構成となっている。鉤手部144a,144bはそれぞれ略360度程度の円弧による渦形状となっている。一方の長辺142aに沿った鉤手部144aは他方の長辺142aに沿った鉤手部144bよりやや小さくなっており、大きさの違いによって係合が可能となっている。板片142は、平面部142b、および該平面部142bの両端から長辺142aまでの一対の斜面部142cを有し、平面部142bと斜面部142cとは角部142dを形成している。また、平面部142bの中央には長尺方向に沿った直線状の屈曲筋142eが形成されている。
【0027】
図5に示すように、隣接する板片142のうち一方は、長辺142aの端部に鉤手部144aのない欠損部142fが形成されており、他方には、長辺142aの端部に鉤手部144bを加締めた抜止部142gを有する。抜止部142gが鉤手部144aの端面に当接することにより板片142同士の変位が制限されて抜け止めの作用がある。抜止部142gはペンチなどの工具によって容易に形成可能である。また、抜止部142gは同様の工具により元の鉤手部144bの形状に戻すこと又は切り取ることも可能であり、隣接する板片142を離脱させることができる。これにより、必要に応じて型枠パネル110を短くすることができる。さらに、2つの型枠パネル110の双方の端部の板片142の鉤手部144aと鉤手部144bとを係合させて抜止部142gを形成することにより、型枠パネル110を長くすることができる。これらの作業は簡易な工具によって容易に行うことができ、施工現場での対応が可能である。
【0028】
型枠パネル110では、鉤手部144a,144bが大きい角度範囲に亘る円弧の渦形状同士が係合していることから、概念的には2本のポールが同心状に存在しているのと同様であって高強度であって反りにくく、コンクリート打設時に作用する内圧に耐え得る。また、板片142は、平面部142b、および該平面部142bの両端から長辺142aまでの一対の斜面部142cを有する台形断面となっており、さらに曲がりにくくなっている。平面部142bには長尺方向に沿った直線状の屈曲筋142eが形成されていることから、一層高強度となっている。
【0029】
型枠パネル110は複数の板片142から構成されており、隣接する板片142の長辺142a同士が回転可能に接続されていることから、ロール状に巻き取っておくことで保管および搬送が可能であるとともに、ロール状態から巻き出しながら型枠セット112の一部として設置する施工が可能になり施工性が向上する。ただし、型枠セット112に適用される型枠パネルはこれに限らず、例えば特許文献1に記載のものであってもよい。
【0030】
(型枠治具10)
次に、型枠治具10について説明する。
図6は、複数の型枠治具10を備える型枠セット112の一部を示す斜視図である。図7は、型枠治具10の下部を示す斜視図であり、(a)はパッチン錠20が締結されている状態を示し、(b)はパッチン錠20が解除されている状態を示す。図8は、複数の型枠治具10を備える型枠セット112を組み立てる様子を示す斜視図である。なお、型枠パネル110は図4および図5以外では模式的に単板状に示している。
【0031】
上記のとおり型枠治具10は型枠セット112の一部を構成するが、構成要素の一部であるレール受部127以外はコンクリートの打設および養生後には取り外されて再利用が可能である。立ち上がり部118を形成するためにコンクリートが打設される空間を打設空間129とする。型枠治具10は打設空間129の側面を形成する型枠パネル110における下縁が嵌め込まれる下レール130および上縁が嵌め込まれる上レール132を支持するものである。型枠治具10は、外周部118a(図2参照)に対しては内周面118abに適用し、中通り部118b(図3参照)に対しては対向する両側の側面118baに適用するとよい。
【0032】
型枠治具10は、下レール130の下面130cに係合するレール受部(下係合部)127と、上レール132の上面132cに係合する上係合部16と、レール受部127と上係合部16とを打設空間129の外側で接続する棒状部材18と、レール受部127と棒状部材18との間に設けられるパッチン錠(締結具)20とを有する。レール受部127は外周部枠支持部材126または立ち上がり部枠支持部材128の一部を兼ねている。このようにレール受部127は型枠治具10と幅止め部材としての外周部枠支持部材126または立ち上がり部枠支持部材128とを兼ねることが合理的で好ましいが、条件によってはそれぞれ独立的なものとしてもよい。
【0033】
下係合部となるレール受部127は、外壁127aと内壁127bとの間に下レール130が嵌め込まれ、該下レール130の下面130cに係合し、上方への変位が規制される。レール受部127の構造は上記した通りである。
【0034】
上係合部16は上レール132に対して上から掛けて上面132cに係合して下方への変位が規制される。上係合部16は、下に開口するコ字形状であり、外壁16aと内壁16bとこれらの上端同士を水平に接続する天壁16cとを有している。天壁16cは上レール132よりわずかに幅が広く、上係合部16の内側には上レール132が嵌め込まれる。内壁16bは上レール132に係合するのに十分な高さを有しているが、コンクリートの打設による立ち上がり部118の高さH(図2参照)に重ならない程度となっている。ただし、コンクリートの打設後で型枠治具10を取り外した後に行われるレベリング材の注入高さ範囲に達していても構わない。外壁16aは上レール132に係合するのに十分な高さで、内壁16bより適度に長くなっている。上係合部16にはヒレ片16dが設けられている。ヒレ片16dは外壁16aの下端とつながり打設空間129の外方向に突出しており、中央にはネジ挿通孔16daが形成されている。
【0035】
パッチン錠20はスナップ錠またはドローラッチとも呼ばれる部品であり、一般に扉や蓋を開かないようにする用途に用いられる留め金の一種である。パッチン錠20にはばね要素をもたせたものやトグル構成のものなども含み得る。
【0036】
図7(a),(b)に示すように、パッチン錠20は、ベース金具20a、レバー20b、および連結具20cを有する。レバー20bは下端部がベース金具20aの下端部に軸支されて回動可能となっている。連結具20cは矩形枠形状であり、その一辺がレバー20bにおける下端の軸支部よりやや上の箇所で回動可能に設けられており、対向する他の一辺がレール受部127の返り部127dに係合する。つまり、返り部127dはパッチン錠20の一部を兼ねている。
【0037】
パッチン錠20は、レバー20bをベース金具20aに対してやや開いた状態で連結具20cを返り部127dに掛け(図7(b))、その後にレバー20bを倒してベース金具20aに重ね合わせるようにすることで連結具20cに適度な張力がかかりレール受部127と棒状部材18との間を確実且つ瞬時に締結することができる(図7(a))。連結具20cは張力が加わることにより弾性的に極僅かに伸び得るが、実質的には剛体であって十分な強度を有している。締結状態のパッチン錠20ではレバー20bはベース金具20aに重ね合わせられた状態に維持される。レバー20bは梃子の原理で連結具20cを操作するため適度に軽い力で大きな張力を発生させることができる。パッチン錠20の解除は、レバー20bをベース金具20aから引き起こせばよい。解除操作も適度に軽い力で且つ瞬時に行うことができる。このように、パッチン錠20では2つの部材間を容易な操作で締結および解除が可能である。
【0038】
ベース金具20aはレバー20bに合った縦長形状であり、その上端からはヒレ片20dが打設空間129の外方向に突出している。ヒレ片20dは上記のヒレ片16dと同形状であって、中央にはネジ挿通孔20daが形成されている。
【0039】
棒状部材18は上下の端部に雄ネジ部18aが設けられている。上の雄ネジ部18aはヒレ片16dのネジ挿通孔16daを通り、下の雄ネジ部18aはヒレ片20dのネジ挿通孔20daを通りそれぞれナット22によって相対的な位置決めがなされ、ヒレ片16dとヒレ片20dとの距離が調整可能となっている。型枠パネル110の高さは規格されており、ヒレ片16dとヒレ片20dとの距離は予め規格値に応じて設定しておけばよいが、施工条件等によっては微調整をしてもよい。
【0040】
雄ネジ部18aとヒレ片16dおよびヒレ片20dとの位置決めは2つのナット22で挟持してダブルナット状に締めて固定してもよいし、抜け止めとしてヒレ片16dとヒレ片20dの互いに非対向の面に1つのナット22を設けてもよい。ナット22にはワッシャを組み合わせて適用してもよい。図示を省略するが、棒状部材18としてボルトを適用し、ヒレ片16dおよびヒレ片20dのいずれか一方にはヘッド部を抜け止めとして用いてもよい。
【0041】
図8に示すように、複数の型枠治具10を備える型枠セット112を組み立てる際には、レール受部127に下レール130を嵌め(矢印A1)、下レール130に型枠パネル110の下縁を嵌め(矢印A2)、型枠パネル110の上縁に上レール132を嵌め(矢印A3)、上レール132に幅止め部材136を取り付ける(矢印A4)。さらに、型枠治具10の上係合部16を上レール132に対して上から掛け(矢印A5)、パッチン錠20の連結具20cをレール受部127の返り部127dに掛けた上で(矢印A6)、レバー20bを倒してベース金具20aに重ね合わせればよい。
【0042】
このようにして下レール130と上レール132とは型枠治具10によって確実に保持される。このような施工によれば、レール受部127、下レール130、上レール132および型枠パネル110には基本的にビス打ちが不要であり、下レール130および上レール132を型枠パネル110に対して容易に固定することができる。また、図8の矢印A1~A6で示す操作は他の工具や慣れが不要であって作業者の負担が小さく、作業時間の短縮化が図られる。
【0043】
レール受部127は外周部枠支持部材126または立ち上がり部枠支持部材128の一部であることから、コンクリート打設時の浮き上がりが防止されるように固定されており(下レール130の延在方向には多少の遊びがあっても構わない)、該レール受部127に対して型枠治具10を介して上方変位が規制されている上レール132は上方に浮き上がることがない。上縁が上レール132によって抑えられている型枠パネル110は上方に浮き上がることがない。型枠パネル110が上から嵌り込んでいる下レール130は上方に浮き上がることがない。
【0044】
型枠治具10は基本的に下レール130と上レール132との間を弾性要素を介することなく剛体状に連接しており高強度であって、コンクリート打設時の大きな浮力に耐えることができる。型枠治具10は簡易構造であり廉価に製作可能であり、しかもほとんどが再利用可能であることからコスト上の効果がある。
【0045】
図9は、二度打ちの基礎の施工に型枠治具10を適用した場合に断面図である。上記では耐圧版部116と立ち上がり部118とを1回のコンクリート打設で施工する場合を例にしたが、図9に示すように型枠治具10は耐圧版部116と立ち上がり部118とを分けて2回のコンクリート打設で施工する場合にも適用可能である。
【0046】
この場合、1回目の打設で形成された耐圧版部116に対し、立ち上がり部118が形成される部分に幅止め部材24の梁部24aをネジ26などによって固定する。梁部24aは上記の立ち上がり部枠支持部材128における梁部128cと多少高さ位置が異なるが実質的に同じ作用のものであり、両端にレール受部127が設けられ、立ち上がり部枠支持部材128と同様に適度な間隔で複数設けられる。下レール130、上レール132、型枠パネル110および幅止め部材136は上記の場合と同様であり、型枠治具10も同様に適用される。
【0047】
図10は、変形例にかかる型枠治具10Aの上端部を示す断面図である。型枠治具10Aが適用される場合の型枠セット112では上レール132を支持する幅止め部材136のレール受部137は上記のレール受部127と上下逆形状であり、外壁137aの下端部に返り部137dが形成されている。返り部137dは上記の返り部127dに相当する。
【0048】
型枠治具10Aではレール受部137が上記の上係合部16の機能を兼ねる。つまり、型枠治具10Aはヒレ片16dとともにL字アングルを形成する金具16Aを有しており、該金具16Aの上端の返り部16Aaが返り部137dに係合するようになっている。図示を省略するが型枠治具10Aは上下逆にして適用することも可能である。この場合、金具16Aの返り部16Aaがレール受部127の返り部127dに係合し、パッチン錠20の連結具20cがレール受部137の返り部137dに係合する。この場合の幅止め部材136は、上記の幅止め部材24(図9参照)を上下逆にして適用可能である。
【0049】
上記の例ではパッチン錠20が下係合部であるレール受部127と棒状部材18との間に設けられているが、パッチン錠20は下係合部から棒状部材18を経て上係合部16に至るいずれかの箇所に設けられ、締結および切り離しが可能となっていればよい。このような締結具はパッチン錠20に限らず、例えば回転ファスナーであってもよい。ナット22とヒレ片16dおよびヒレ片20dによる棒状部材18の長さ調整部はいずれか一方だけでもよい。つまり、いずれか一方は省略して棒状部材18に対して他の手段(例えば溶接など)で固定されていてもよい。型枠パネル110は上記のものに限らず、下縁および上縁を下レール130および上レール132で案内および補強するものであればよい。
【0050】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0051】
本発明にかかる型枠治具は、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルにおける下縁が嵌め込まれる下レールおよび上縁が嵌め込まれる上レールを支持する型枠治具であって、浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、前記上レールの上面に係合する上係合部と、前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、を有することを特徴とする。
【0052】
本発明にかかる型枠セットは、コンクリートが打設される打設空間の側面を形成する型枠パネルと、前記型枠パネルの下縁が嵌め込まれる下レールと、前記型枠パネルの上縁が嵌め込まれる上レールと、浮き上がりが防止されるように固定されており、前記下レールの下面に係合する下係合部と、前記上レールの上面に係合する上係合部と、前記上係合部と前記下係合部とを前記打設空間の外側で接続する棒状部材と、前記下係合部から前記棒状部材を経て前記上係合部に至るいずれかの箇所に設けられ、切り離し可能な締結具と、を有することを特徴とする。
【0053】
本発明によれば、下レールおよび上レールに対して下係合部および上係合部で係合し、その間は棒状部材で接続されるとともに切り離し可能は締結具で締結されていることから、基本的に工具やビス止めが不要となって、下レールおよび上レールを型枠パネルに対して容易に固定することができる。
【0054】
本発明では、前記打設空間は1つの側面が前記型枠パネルで形成され、対向する他の側面が他の型枠パネルで形成されており、前記下係合部は、前記下レールと前記他の型枠パネルとの間隔を保持する下側幅止め部材の一部を兼ねてもよい。これにより下係合部と下側幅止め部材の一部とが兼用されて合理的である。
【0055】
本発明では、前記締結具はパッチン錠であってもよい。パッチン錠によれば締結および解除が一層容易となる。
【0056】
本発明では、前記上係合部は、下に開口するコ字形状であってもよい。
【0057】
本発明では、前記下係合部または前記上係合部とつながり前記打設空間の外方向に突出しており、ネジ挿通孔が形成されたヒレ片を有し、前記棒状部材は端部に雄ネジ部を有し、該雄ネジ部が前記ネジ挿通孔を通りナットによって前記ヒレ片に固定され、または抜け止めされていてもよい。このようなヒレ片によれば下レールと上レールとの距離に応じて棒状部材の有効長さを調整することができる。
【符号の説明】
【0058】
10,10A 型枠治具、16 上係合部、16d ヒレ片、18 棒状部材、18a 雄ネジ部、20 パッチン錠、20a ベース金具、20b レバー、20c 連結具、20d ヒレ片、22 ナット、24 幅止め部材(下側幅止め部材)、126 外周部枠支持部材(下側幅止め部材)、127 レール受部(下係合部)、128 立ち上がり部枠支持部材(下側幅止め部材)、130 下レール、132 上レール、136 幅止め部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10