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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126296
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】TiAl基合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20240912BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240912BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240912BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22C30/00
C22F1/18 H
C22F1/00 601
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 651B
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034586
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略イノベーション創造プログラム(SIP第2期)統合型材料開発システムによるマテリアル革命(研究開発課題:高性能TiAl基合金動翼の粉末造形プロセス開発と基盤技術構築)委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】蘇武 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】竹山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 広豊
(72)【発明者】
【氏名】山形 遼介
(72)【発明者】
【氏名】花見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 研児
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 康弘
(57)【要約】
【課題】所望の強度,延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るTiAl基合金は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含み、セル状組織の体積率が、10体積%以上70体積%以下であり、セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、
前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、
金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含み、
前記セル状組織の体積率が、10体積%以上70体積%以下であり、
前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であるTiAl基合金。
【請求項2】
前記金属組織は、30体積%以下のその他構成相を含み、
前記その他構成相は、旧β粒および/または塊状γ相を含む請求項1に記載のTiAl基合金。
【請求項3】
原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域または(β+α+γ)三相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含む金属組織を形成し、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるように前記第2温度および前記第2温度の保持時間を制御するTiAl基合金の製造方法。
【請求項4】
前記金属組織は、その他構成相を含み、
前記その他構成相は、旧β粒および/または塊状γ相を含み、
前記その他構成相の体積率が30体積%以下となるよう前記第1温度、前記第1温度の保持時間および前記第1温度からの前記冷却速度を制御する請求項3に記載のTiAl基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TiAl基合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TiAl基合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)と、が結合して構成される合金(金属間化合物)である(特許文献1参照)。TiAl基合金は、軽量かつ高温での強度が高いため、エンジンや航空宇宙機器の高温用構造材などへ適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2851445号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y-W.Kim:Materials Science and Engineering A192/193(1995) 519-533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旧α粒径の微細化または旧α粒界へのγ相または/およびβ相の析出により、TiAl基合金の高強度化および高延性化を達成できることが広く知られている。しかしながら、結晶粒径の微細化または粒界析出相は、破壊靭性を低下させる。例えば、粒界γ相を析出させたDuplex型のTiAl基合金では、高強度および高延性を示すが、高破壊靭性を得ることは難しい(非特許文献1参照)。
【0006】
破壊靭性はTiAl基合金の実用上重要な特性であるが、強度,延性および破壊靭性を同時に改善するTiAl基合金の製造方法は知られていない。所望の強度,延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金を得ることは難しく、現状、いずれかの特性を犠牲にした形のTiAl基合金を使用せざるを得ないという問題がある。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、所望の強度,延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のTiAl基合金およびその製造方法は以下の手段を採用する。
【0009】
本開示は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含み、前記セル状組織の体積率が、10体積%以上70体積%以下であり、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であるTiAl基合金を提供する。
【0010】
本開示は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域または(β+α+γ)三相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含む金属組織を形成し、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるように前記第2温度および第2温度の保持時間を制御するTiAl基合金の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、所望の強度、延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Crを添加したTiAl基合金(Al:45原子%)の状態図である。
図2】Ti-45Al-6Cr[原子%]の組織写真を示す図である。
図3】第2熱処理時間とセル状組織体積率との関係を示す図である。
図4】セル状組織体積率と引張強度・破断伸び(室温)との関係を示す図である。
図5】セル状組織体積率と引張強度・耐力・破断伸び(750℃)との関係を示す図である。
図6】セル状組織の析出と、引張強度・破壊靭性(室温)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るTiAl基合金およびその製造方法は、航空エンジンの低圧タービン(LPT)動翼および高圧コンプレッサー(HPC)動翼、あるいはターボチャージャーのタービンホイールなどに適用されうる。
【0014】
<TiAl基合金>
TiAl基合金は、鋳造法、鍛造法および粉末冶金法などで製造された部材であってよい。粉末冶金法は、積層造形(AM)、金属粉末射出成形(MIM)および放電プラズマ焼結法(SPS)であってよい。MIMにより製造されたTiAl基合金は、他の方法に比べて酸素(O)を多く含む。
【0015】
TiAl基合金は、TiとAlとの金属間化合物で構成されている合金である。TiAl基合金は、TiとAlを主成分とする。「主成分」とは、多量に含まれる成分である。
【0016】
TiAl基合金は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%、を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなる。
【0017】
Alの含有量は、41原子%以上46原子%以下、好ましくは42原子%以上45原子%以下である。Alの含有量が41原子%よりも低いと、相対的にTiの含有量が高くなり比強度が低下してしまうことに加えて、高温における延性向上に効果的なγ相主体のセル状組織を形成することが難しくなる。Alの含有量が46原子%よりも高いと、高温における強度向上に効果的なβ相を含むセル状組織を形成することが難しくなる。
【0018】
β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせである。β安定化元素の含有量は、3原子%以上11原子%以下、好ましく4原子%以上10原子%である。β安定化元素の含有量が3原子%よりも低いと、高温における強度向上に効果的なβ相を含むセル状組織を形成することが難しくなる。β安定化元素の含有量が11原子%よりも高いと、高温における延性向上に効果的なγ相主体のセル状組織を形成することが難しくなる。
【0019】
β安定化元素の含有量と比較しAlの含有量が狭い範囲となっているのは、Al含有量の変動の方がTiAl基合金における相変態に大きく影響するためである。
【0020】
Niの含有量は、1.0原子%以下である。Niは、粉末冶金法、特にMIMまたはSPSのような焼結工程を含む場合、焼結を促進する焼結助剤として使用され、TiAl基合金焼結体の焼結密度を向上できる。また、Niはβ安定化元素としても作用するが、上記範囲の含有量のNiは、TiAl基合金における相変態にはAlの含有量ほど大きくは影響しない。
【0021】
Oの含有量は、1.5原子%以下である。TiAl基合金に含まれるOは、主にTiAl基合金の原材料や製造条件に由来する。Oの含有量が高すぎると、延性が低下する。
【0022】
Cの含有量は、0.6原子%以下である。Cは、TiAl基合金のクリープ特性を向上できる。上記範囲の含有量のCは、TiAl基合金における相変態にはAlの含有量ほど大きくは影響しない。
【0023】
Siの含有量は、0.5原子%である。Siは、TiAl基合金のクリープ特性を向上できる。上記範囲の含有量のSiは、TiAl基合金における相変態にはAlの含有量ほど大きくは影響しない。
【0024】
不可避的不純物は、H、NおよびFeなどである。
本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法では熱処理における適正な第1温度を選定することで結晶粒径の制御が可能なため、結晶粒微細化に効果的なBの含有は必須としない。
【0025】
上記TiAl基合金の組成を重量換算すると以下の通りである。
Alの含有量は、24.7重量%以上33.1重量%以下である。
【0026】
β安定化元素の含有量は、3.8重量%以上24.7重量%以下である。β安定化元素がCr単独の場合、Cr含有量は3.9~15.1重量%である。β安定化元素がNb単独の場合、Nb含有量は6.8~24.1重量%である。β安定化元素がV単独の場合、V含有量は3.8~14.9重量%である。β安定化元素がMn単独の場合、Mn含有量は4.1~15.8重量%である。β安定化元素がMo単独の場合、Mo含有量は7.0~24.7重量%である。
【0027】
Niの含有量は、1.56重量%以下である。Cの含有量は、0.19重量%以下である。Siの含有量は、0.37重量%以下である。Oの含有量は、0.64重量%以下である。
【0028】
TiAl基合金の金属組織は、ラメラ組織とセル状組織とを含む。TiAl基合金におけるセル状組織の体積率は、10体積%以上70体積%以下である。
【0029】
金属組織の構成は上記に限定されず、ラメラ組織とセル状組織の他、旧β粒および/または塊状γ相などのその他構成相を含んでいてもよく、その他構成相の体積率は30体積%以下であることが好ましい。
【0030】
セル状組織およびその他構成相の体積率は、ラメラ組織の体積率が0%とならないよう制御される。TiAl基合金の金属組織は、少なくとも数体積%のラメラ組織を含む。TiAl基合金の金属組織は、例えば、セル状組織70体積%、ラメラ組織30体積%、その他構成相0体積%で構成されてもよい。TiAl基合金の金属組織は、例えば、セル状組織30体積%、ラメラ組織40体積%、その他構成相30体積%で構成されてもよい。
【0031】
ラメラ組織は、α相とγ相とが層状に規則的に積層されたα/γラメラ粒である。
【0032】
セル状組織は、β/γセル状組織および/またはα/γ/βセル状組織である。
セル状組織は、不連続析出反応によって生じるβ相およびγ相、またはα相、β相およびγ相の微細混合組織(セル)の集合体である。1個のセルのセル径は1~25μmと非常に微細な組織であり、複数のセルが連続的に集合した状態で存在することが特徴である。セル境界にβ相が点在する形態で存在する場合もある。
【0033】
その他構成相として区別した旧β粒はβ相主体、塊状γ相はγ相主体であるものの、室温までの冷却過程でβ相およびγ相の混合組織となりうるが、セル径1~25μmのセルから構成される連続的集合体のような組織形態とはならないことが、上記セル状組織との相違点である。
【0034】
<製造方法>
上記TiAl基合金の製造方法について説明する。
本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法は、鋳造法,鍛造法および粉末冶金法などで製造されたTiAl基合金を熱処理する工程を含む。熱処理は2段階で実施する。
【0035】
(第1熱処理)
1段階目の熱処理では、TiAl基合金を加熱して第1温度まで昇温させた後、該第1温度で所定時間保持する。加熱時のTiAl基合金の昇温速度は任意である。所定時間保持後、TiAl基合金を急冷し、少なくとも、後述する第2温度以下まで降温させる。
【0036】
第1温度は、TiAl基合金が(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域に保持される温度である。第1温度を(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の温度にする場合、(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の中でもα単相域に近い温度を選択することが好ましい。「近い」とは、平衡状態図、等温断面図から、てこの原理を用いて算出可能なα相分率が70%以上となる温度域である。
【0037】
例えば、第1温度は、1150℃以上1450℃以下、好ましくは1200℃以上1400℃以下である。
【0038】
例えば、第1温度の保持時間は、1分以上8時間以下、好ましくは30分以上4時間以下である。
【0039】
「急冷」とは、空冷以上の冷却速度で降温させることを意味する。急冷時の具体的な冷却速度は、第1温度から1000℃までの平均冷却速度で、30℃/分以上800℃/分以下、好ましくは100℃/分以上400℃/分以下である。急冷は、例えば、不活性ガス(Ar、Nなど)を用いたガスファン冷却で実施できる。熱処理する材料のサイズにより材料内部の冷却速度は変動するが、ガス流量調整により適正な冷却速度に制御することは可能である。
【0040】
(第2熱処理)
2段目の熱処理では、第1熱処理済みのTiAl基合金を加熱して第2温度まで昇温させた後、該第2温度で所定時間保持する。加熱時のTiAl基合金の昇温速度は任意である。所定時間保持後、TiAl基合金を冷却し、室温まで降温させる。冷却速度は任意である。
【0041】
第2温度は、TiAl基合金が(β+γ)二相域または(β+α+γ)三相域に保持される温度である。第2温度を(β+α+γ)三相域の温度にする場合、(β+α+γ)三相域の中でも(β+γ)に近い温度を選択することが好ましい。
【0042】
例えば、第2温度は、850℃以上1150℃以下、好ましくは900℃以上1100℃以下である。
【0043】
第2温度は、第1温度よりも10℃以上低い温度とする。第2温度は、第1温度とは異なる相状態となる温度領域に存在する温度である。
【0044】
第2温度の保持時間は、セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるように制御する。第2温度の保持時間を長くすると、セル状組織の体積率を高くできる。
【0045】
セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるように制御することで、所望の強度、延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金を得られる。セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるような保持時間は、予備試験等により取得できる。
【0046】
例えば、第2温度の保持時間は、1分以上240時間以下、好ましくは30分以上48時間以下である。
【0047】
第2熱処理は、第1熱処理の後、連続して実施されてもよいが、これに限定されず、時間を空けて第1熱処理とは別個に実施されてもよい。
【0048】
各相の変態温度域はTiAl基合金の組成によって異なる。第1温度および第2温度としては、熱処理対象のTiAl基合金の組成に応じた状態図に基づいて適した温度が選択される。
【0049】
次に、図を参照して、上記熱処理の作用効果について説明する。
(状態図)
図1に、Crを添加したTiAl基合金(Al:45原子%)の状態図を示す。同図において、横軸はCr含有量(原子%)、縦軸は温度(K)、細線(および白丸)は酸素含有量0.13原子%(0.13O)、太線は酸素含有量0.75原子%(+0.75O)である。図1において、+0.75OであるTiAl基合金の相は括弧で括って表記する。
【0050】
酸素含有量0.13原子%(0.13O)のTiAl基合金は、鋳造法、鍛造法または粉末冶金法のうちAM法で製造された合金を想定したものである。酸素含有量0.75原子%(+0.75O)のTiAl基合金は、粉末冶金法のうちMIM法で製造された合金を想定したものである。
【0051】
図1に示すように、酸素含有量の増加に伴い、各相の変態温度域はシフトする。
【0052】
図1に示すように、Cr含有量が増えると、より低い温度でもβ相を含む相構成となり得る。これは、Crを添加することで、β相が安定化して存在できるようになるからである。Crに代えて他のβ安定化元素を添加した場合にも、同様の傾向が示される。
【0053】
図1のような状態図を用いることで、熱処理対象のTiAl基合金に適した第1温度および第2温度を定めることができる。図1では、酸素含有量およびβ安定化元素含有量に応じて、状態図の適正な範囲から第1温度および第2温度を選択できる。
【0054】
例えば、Crが5~6原子%添加され、Oが0.75原子%添加されたTiAl基合金(Ti-45Al-5~6Cr-0.75O[原子%])では、第1温度を1523K(約1250℃)~1623K(約1350℃)から選択すればよい。上記範囲であれば、Oが0.75原子%含有している場合、TiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域のいずれかに保持できる。第2温度は、1423K(約1150℃)以下の範囲から選択できる。それにより、TiAl基合金を(β+γ)二相域または(β+α+γ)三相域に保持できる。
【0055】
第1温度において、TiAl基合金は、(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域に保持される。第1温度を(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の温度にする場合、(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の中でもα単相域に近い温度を選択することが好ましい。よって、第1温度では、α相がTiAl基合金の主な構成相となる。α相は冷却されるとα相とγ相が層状に積層されたα/γラメラ組織に変態する、または急冷時の冷却速度が速い場合、フェザリー組織に変態するが、第2熱処理において第2温度で保持されることで最終的にα/γラメラ組織に変態する。
【0056】
第1温度で所定時間保持した後、急冷すると、TiAl基合金中にγ生成能およびβ生成能の高い過飽和固溶体が形成される。
【0057】
第1熱処理後、第1温度よりも低温の第2温度で保持することで、旧α粒界(α/γラメラ粒界)からの不連続析出反応により、セル状組織が形成される。
【0058】
(組織写真)
図2に、Ti-45Al-6Cr[原子%]の組織写真を示す。Ti-45Al-6Cr[原子%]は、1250℃で第1熱処理し、450℃/分で急冷した後、1000℃で第2熱処理したTiAl基合金である。酸素含有量は0.82原子%である。
【0059】
図2のTiAl基合金では、ラメラ組織(lamellar)の間(旧α粒界)に微細構造のセル状組織(cellular)が析出していることを確認できる。
【0060】
(第2熱処理時間とセル状組織体積率)
Al含有量の異なるTiAl基合金(合金1~3)について、上記実施形態に従って熱処理を実施し、セル状組織の体積率について検討した。
合金1:Ti-42.3Al-4Nb-3Cr-0.76O[原子%]
合金2:Ti-43.0Al-4Nb-3Cr-0.83O[原子%]
合金3:Ti-43.8Al-4Nb-3Cr-0.71O[原子%]
【0061】
第1熱処理は、第1温度1250℃、保持時間2時間、冷却速度450℃/分で実施した。室温まで冷却した後、別途第2熱処理を施した。第2熱処理は、第2温度1000℃、保持時間3時間または16時間、Arガスファン冷却で実施した。セル状組織の体積率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複数の反射電子像(BEI)において、セル状組織の占める面積率を画像分析法により定量化し、複数のBEIから得られた平均面積率が体積率と等価であることから求めた。
【0062】
図3に、第2熱処理時間とセル状組織体積率との関係を示す。同図において、横軸は、第2熱処理の保持時間(Aging
Time,Tage [Hr])、縦軸はセル状組織体積率(Vcell[%])である。
【0063】
図3において、■,●,◆は、それぞれ合金1,2,3の実測値(第2熱処理の保持時間3時間、16時間)である。図3において、実線(Line)は、それぞれ合金1,2,3の実測値を用いてJohnson-Mehl-Avrami式から算出した計算値である。
【0064】
図3によれば、Alの含有量に応じてセル状組織の体積率は変化した。Alの含有量が低いほど、セル状組織の体積率は高くなった。
【0065】
図3によれば、第2温度の保持時間を長くするほど、セル状組織の析出反応が進展し、セル状組織の体積率が高くなった。
【0066】
以上の結果から、TiAl基合金の組成、第2温度の保持時間(第2熱処理時間)によってセル状組織の体積率を制御できることが示唆された。また、セル状組織の成長速度は拡散係数に依存し、拡散係数は温度に依存することから、第2温度を高くするとセル状組織の析出反応が進展しやすいことは自明であり、第2熱処理の第2温度によってセル状組織の体積率を制御できることも明らかである。
【0067】
(セル状組織の析出がTiAl基合金の機械的特性に与える影響)
熱処理後の合金1~3について、引張試験、シェブロンノッチ3点曲げ試験を実施し、引張強度、破断伸び、0.2%耐力(以降、耐力)および破壊靭性を測定した。試験は室温または750℃加熱下で実施した。引張試験における歪み速度は、室温では8.3×10-5[s-1]、750℃加熱下では8.3×10-4[s-1]、3点曲げ試験における試験速度は、8.3×10-5[mm・s-1]とした。
【0068】
図4に、セル状組織の体積率と引張強度・破断伸び(室温)との関係を示す。同図において、横軸はセル状組織の体積率(Vcell[%])、左縦軸は室温における引張強度(UTSR.T.[MPa])、右縦軸は室温における破断伸び(ELR.T.[MPa])、SOLID(実線)は引張強度、SOLID(破線)は破断伸びである。■,●,◆は、それぞれ合金1,2,3の実測値である。
【0069】
図4によれば、セル状組織が形成されることで、引張強度が向上した。一方、セル状組織の形成は、破断伸びには影響しなかった。
【0070】
図5に、セル状組織の体積率と引張強度・耐力・破断伸び(750℃)との関係を示す。同図において、横軸はセル状組織の体積率(Vcell[%])、左縦軸は750℃における引張強度(UTSH.T.[MPa])および耐力(YSH.T.[MPa])、右縦軸は750℃における破断伸び(ELH.T.[MPa])、実線は引張強度、破線は破断伸び、線なし(□,〇,◇)は耐力である。■,●,◆(□,〇,◇)は、それぞれ合金1,2,3の実測値である。
【0071】
図5によれば、室温での試験と同様に、セル状組織が形成されることで、(高温)引張強度が向上した。また、750℃の高温では、セル状組織の形成により、耐力および破断伸びも向上した。
【0072】
図5によれば、セル状組織の体積率が10%以上であれば、750℃の高温では、耐力および破断伸びの明瞭な向上効果が発現する。セル状組織の体積率が70%以下であれば、750℃での引張強度の極大値を含むことが可能である。
【0073】
図6に、セル状組織の析出と、引張強度・破壊靭性(室温)との関係を示す。同図において、横軸は室温における破壊靭性[MPa√m]、縦軸は室温における引張強度[MPa]である。図6には、合金1~3、および従来法(結晶粒径の微細化または粒界析出相による強化)で製造した様々なTiAl基合金の結果も記載する。
【0074】
図6によれば、セル状組織が析出されていないTiAl基合金では、引張強度と破壊靭性とはトレードオフの関係にあることが確認された(右下から左上に向かう矢印参照)。引張強度が高ければ、破壊靭性は低くなる。一方、セル状組織が析出しているTiAl基合金(合金1~3)では、引張強度および破壊靭性が同時に向上することが確認された(図中央、左下から右上に向かう矢印参照)。
【0075】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のTiAl基合金およびその製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0076】
本開示の第1態様に係るTiAl基合金は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含み、前記セル状組織の体積率が、10体積%以上70体積%以下であり、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織である。
【0077】
上記第1態様において、前記金属組織は、30体積%以下のその他構成相を含み、前記その他構成相は、旧β粒および/または塊状γ相を含んでもよい。
【0078】
本開示の第2態様に係るTiAl基合金の製造方法は、原子%で、Al:41~46%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域または(β+α+γ)三相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織とを含む金属組織を形成し、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記セル状組織の体積率が10体積%以上70体積%以下となるように前記第2温度および第2温度の保持時間を制御する。
【0079】
上記第2態様において、前記金属組織は、その他構成相を含み、前記その他構成相は、旧β粒および/または塊状γ相を含み、前記その他構成相の体積率が30体積%以下となるよう前記第1温度、前記第1温度の保持時間および前記第1温度からの前記冷却速度を制御してもよい。
【0080】
セル状組織は、強化相であるβ相を含む微細組織である。このようなセル状組織の析出により、TiAl基合金の耐力および引張強度は向上する。
【0081】
セル状組織は、高温延性相であるγ相を主体とした構造である。このようなセル状組織の析出により、TiAl基合金の破断伸びが向上する。
【0082】
セル状組織は、旧α粒界から不連続析出反応により旧α粒径(α/γラメラ粒径)を維持したまま析出された組織である。旧α粒径を維持したままとすることで破壊靭性を確保でき、セル状組織の析出により、TiAl基合金の耐力、引張強度および破断伸びが向上する。
【0083】
TiAl基合金において微量成分であるOの含有量が高いと、延性が低下する。そのため、一般的にはOの含有量は低く抑えることが好まれるが、Oの含有量を低くしようとすると製造コストが増加する。本開示の第2態様では、熱処理を2段階で実施することで、セル状組織の体積率を制御できるため、上記範囲のOの含有量であれば所望の延性を有する合金を得られる。
【0084】
本開示の上記態様によれば、所望の強度、延性および破壊靭性を兼ね備えたTiAl基合金を得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6