IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工航空エンジン株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧 ▶ 大阪冶金興業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-TiAl基合金およびその製造方法 図1
  • 特開-TiAl基合金およびその製造方法 図2
  • 特開-TiAl基合金およびその製造方法 図3
  • 特開-TiAl基合金およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126297
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】TiAl基合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20240912BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240912BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240912BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22C30/00
C22F1/18 H
C22F1/00 650A
C22F1/00 601
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 651B
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034587
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略イノベーション創造プログラム(SIP第2期)統合型材料開発システムによるマテリアル革命(研究開発課題:高性能TiAl基合金動翼の粉末造形プロセス開発と基盤技術構築)委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】蘇武 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】竹山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 広豊
(72)【発明者】
【氏名】山形 遼介
(72)【発明者】
【氏名】花見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 研児
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 康弘
(57)【要約】
【課題】所望の強度,延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るTiAl基合金は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含み、セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、二次層状組織は、上記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、セル状組織または二次層状組織の体積率が、1体積%以上50体積%以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、
前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、
金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含み、
前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、
前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、
前記セル状組織または二次層状組織の体積率が、1体積%以上50体積%以下であるTiAl基合金。
【請求項2】
前記金属組織が、その他構成相を含み、
前記その他構成相が、塊状γ相を含み、
前記その他構成相の体積率が、30体積%以下である請求項1に記載のTiAl基合金。
【請求項3】
原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域、(β+α+γ)三相域または(α+γ)二相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含む金属組織を形成し、
前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、
前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも微細なα/γラメラ粒であり、
前記セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるように前記第2温度および第2温度保持時間を制御するTiAl基合金の製造方法。
【請求項4】
前記金属組織が、その他構成相を含み、
前記その他構成相が、塊状γ相を含み、
前記その他構成相の体積率が30体積%以下となるように前記第1温度、前記第1温度の保持時間および前記冷却速度を制御する請求項3に記載のTiAl基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TiAl基合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TiAl基合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)と、が結合して構成される合金(金属間化合物)である(特許文献1参照)。TiAl基合金は、軽量かつ高温での強度が高いため、エンジンや航空宇宙機器の高温用構造材などへ適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2851445号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y-W.Kim:Materials Science and Engineering A192/193(1995) 519-533
【非特許文献2】Y-W.Kim and S-L.Kim:Intermetallics 53 (2014) 92-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旧α粒径の微細化または旧α粒界へのγ相または/およびβ相の析出などにより、TiAl基合金の高強度化および高延性化を達成できることが広く知られている(非特許文献1参照)。
一方、粒界γ相を析出させたDuplex型のTiAl基合金は、γ相が析出されていないフルラメラ組織のTiAl基合金に比べてクリープ特性が顕著に低い(非特許文献2参照)。
【0006】
強度,延性およびクリープ特性は、TiAl基合金の実用上重要な特性であり、これらを同時に改善することが望まれている。しかしながら、非特許文献2に記載されているように、所望の強度,延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金を得ることは難しく、現状、いずれかの特性を犠牲にした形のTiAl基合金を使用せざるを得ないという問題がある。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、所望の強度,延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のTiAl基合金およびその製造方法は以下の手段を採用する。
【0009】
本開示の第1態様は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含み、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、前記セル状組織または二次層状組織の体積率が、1体積%以上50体積%以下であるTiAl基合金を提供する。
【0010】
本開示の第2態様は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域、(β+α+γ)三相域または(α+γ)二相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含む金属組織を形成し、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、前記セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるように前記第2温度および第2温度の保持時間を制御するTiAl基合金の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、セル状組織または二次層状組織の体積率を制御することで、所望の強度,延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】β安定化元素を添加したTiAl基合金(Al:47原子%)の状態図である。
図2】Ti-47Al-5Nb-3Cr[原子%]の組織写真を示す図である。
図3図2とは別の態様で熱処理したTi-46Al-5Nb-1Cr[原子%]の組織写真を示す図である。
図4】セル状組織の体積率と、引張特性およびラプチャー時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係るTiAl基合金およびその製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態に係るTiAl基合金およびその製造方法は、航空エンジンの低圧タービン(LPT)動翼および高圧コンプレッサー(HPC)動翼、あるいはターボチャージャーのタービンホイールなどに適用されうる。
【0015】
<TiAl基合金>
TiAl基合金は、鋳造法、鍛造法および粉末冶金法などで製造された部材であってよい。粉末冶金法は、積層造形(AM)、金属粉末射出成形(MIM)および放電プラズマ焼結法(SPS)であってよい。MIMにより製造されたTiAl基合金は、他の方法に比べて酸素(O)を多く含む。
【0016】
TiAl基合金は、TiとAlとの金属間化合物で構成されている合金である。TiAl基合金は、TiとAlを主成分とする。「主成分」とは、多量に含まれる成分である。
【0017】
TiAl基合金は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%、を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなる。
【0018】
Alの含有量は、45原子%以上49原子%以下、好ましくは46原子%以上48原子%以下である。Alの含有量が45原子%よりも低いと、高温における強度向上に効果的なβ相を含むセル状組織を形成しやすくなり、高温強度を向上できるが、逆に、旧β粒の残留およびセル状組織内のβ相量が多くなりやすく、高いクリープ特性を兼ね備えることが難しくなる。Alの含有量が49原子%よりも高いと、γ単相域が高温まで安定的な平衡相となるため、α/γラメラ粒界にセル状組織または二次層状組織を析出させることが難しくなる。
【0019】
β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせである。β安定化元素の含有量は、3原子%以上11原子%以下、好ましく4原子%以上10原子%である。β安定化元素の含有量が3原子%よりも低いと、(β+α)二相域の温度が高温側にシフトし、温度範囲も極端に狭くなるため、鍛造性および焼結性などの製造性が悪化する。β安定化元素の含有量が11原子%よりも高いと、α/γラメラ組織の熱安定性が低下してしまうため、高いクリープ特性を得ることが難しくなる。
【0020】
β安定化元素の含有量と比較しAlの含有量が狭い範囲となっているのは、Al含有量の変動の方がTiAl基合金における相変態に大きく影響するためである。
【0021】
Niの含有量は、1.0原子%以下である。Niは、粉末冶金法、特にMIMおよびSPSのような焼結工程を含む場合、焼結を促進する焼結助剤として使用され、TiAl基合金焼結体の焼結密度を向上できる。Niはβ安定化元素としても作用するが、上記範囲の含有量のNiは、TiAl基合金における相変態にはAlの含有量ほど大きくは影響しない。
【0022】
Oの含有量は、1.5原子%以下である。TiAl基合金に含まれるOは、主にTiAl基合金の原材料または製造条件に由来する。Oはα安定化元素として作用するため、Oの含有量が増えると、α単相域、(α+γ)二相域、および(α+γ)二相域がよりβ安定化元素含有量が高い側へ拡大する。Oの含有量が高すぎると、延性が低下する。
【0023】
Cの含有量は、0.6原子%以下である。Cは、TiAl基合金のクリープ特性を向上できる。Cはα安定化元素として作用するが、上記範囲の含有量のCは、TiAl基合金における相変態にはOの含有量ほど大きくは影響しない。
【0024】
Siの含有量は、0.5原子%である。Siは、TiAl基合金のクリープ特性を向上できる。上記範囲の含有量のSiは、TiAl基合金における相変態にはAlの含有量ほど大きくは影響しない。
【0025】
不可避的不純物は、H、NおよびFeなどである。
本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法では、熱処理における適正な第1温度を選定することで結晶粒径の制御が可能なため、結晶粒微細化に効果的なBの含有は必須としない。
【0026】
上記TiAl基合金の組成を重量換算すると以下の通りである。
Alの含有量は、27.6重量%以上35.8重量%以下である。
【0027】
β安定化元素の含有量は、3.9重量%以上25.1重量%以下である。β安定化元素がCr単独の場合、Cr含有量は4.0~15.4重量%である。β安定化元素がNb単独の場合、Nb含有量は6.9~24.5重量%である。β安定化元素がV単独の場合、V含有量は3.9~15.1重量%である。β安定化元素がMn単独の場合、Mn含有量は4.2~16.1重量%である。β安定化元素がMo単独の場合、Mo含有量は7.1~25.1重量%である。
【0028】
Niの含有量は、1.58重量%以下である。Cの含有量は、0.20重量%以下である。Siの含有量は、0.38重量%以下である。Oの含有量は、0.65重量%以下である。
【0029】
TiAl基合金の金属組織は、ラメラ組織と、セル状組織または二次層状組織と含む。TiAl基合金におけるセル状組織または二次層状組織の体積率は、1体積%以上50体積%以下である。
【0030】
金属組織の構成は上記に限定されず、α/γラメラ粒とセル状組織または二次層状組織の他、塊状γ相などのその他構成相を含んでいてもよい。その他構成相の体積率は30体積%以下であることが好ましい。
【0031】
ラメラ組織は、α相とγ相とが層状に規則的に積層されたラメラ粒である。
【0032】
セル状組織は、β/γセル状組織またはα/γ/βセル状組織である。
セル状組織は、不連続析出反応によって生じるβ相およびγ相、またはα相、γ相およびβ相の微細混合組織(セル)の集合体である。1個のセルのセル径は1~25μmと非常に微細な組織であり、複数のセルが連続的に集合した状態で存在することが特徴である。セル境界にβ相が点在する形態で存在する場合もある。
【0033】
その他構成相として区別した塊状γ相はγ相主体であるものの、室温までの冷却過程でβ相およびγ相の混合組織となりうるが、セル径1~25μmのセルから構成される連続的集合体のような組織形態とはならないことが、上記セル状組織との相違点である。
【0034】
二次層状組織は、上記ラメラ組織(α/γラメラ粒)の粒界に析出した、該ラメラ組織よりも粒径が小さなα/γラメラ粒の集合体である。
【0035】
本実施形態に係るTiAl基合金の場合、二次層状組織析出前のラメラ組織(α/γラメラ粒)のγ相割合に関わらず、二次層状組織はγ相主体のα/γラメラ粒の集合体となるため、同じ相構成のα/γラメラ粒であっても明瞭に識別可能である。
【0036】
<製造方法>
上記TiAl基合金を製造する方法について説明する。
本実施形態に係るTiAl基合金の製造方法は、鋳造法,鍛造法および粉末冶金法などで製造されたTiAl基合金を熱処理する工程を含む。熱処理は2段階で実施する。
【0037】
(第1熱処理)
1段階目の熱処理では、TiAl基合金を加熱して第1温度まで昇温させた後、該第1温度で所定時間保持する。加熱時のTiAl基合金の昇温速度は任意である。所定時間保持後、TiAl基合金を急冷し、少なくとも、後述する第2温度以下まで降温させる。
【0038】
第1温度は、TiAl基合金が(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域に保持される温度である。第1温度を(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の温度にする場合、(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の中でもα単相域に近い温度を選択することが好ましい。「近い」とは、平衡状態図、等温断面図から、てこの原理を用いて算出可能なα相分率が70%以上となる温度域である。
【0039】
例えば、第1温度は、1200℃以上1500℃以下、好ましくは1250℃以上1450℃以下である。
【0040】
例えば、第1温度の保持時間は、1分以上16時間以下、好ましくは30分以上8時間以下である。
【0041】
「急冷」とは、空冷以上の冷却速度で降温させることを意味する。急冷時の具体的な冷却速度は、第1温度から1000℃までの平均冷却速度で、30℃/分以上800℃/分以下、好ましくは100℃/分以上400℃/分以下である。急冷は、例えば、不活性ガス(Ar、Nなど)を用いたガスファン冷却で実施できる。熱処理する材料のサイズにより材料内部の冷却速度は変動するが、ガス流量調整により適正な冷却速度に制御することは可能である。
【0042】
(第2熱処理)
2段目の熱処理では、第1熱処理済みのTiAl基合金を加熱して第2温度まで昇温させた後、該第2温度で所定時間保持する。加熱時のTiAl基合金の昇温速度は任意である。所定時間保持後、TiAl基合金を冷却し、室温まで降温させる。冷却速度は任意である。
【0043】
第2温度は、TiAl基合金が(β+γ)二相域、(β+α+γ)三相域または(α+γ)二相域に保持される温度である。二次層状組織を形成したい場合、第2温度を(α+γ)二相域、または(α+γ)二相域に近い(β+α+γ)三相域の温度にする。セル状組織を形成したい場合は、第2温度を(β+γ)二相域、または(β+γ)二相域に近い(β+α+γ)三相域の温度にする。
【0044】
例えば、第2温度は、900℃以上1200℃以下、好ましくは950℃以上1150℃以下である。
【0045】
第2温度は、第1温度よりも10℃以上低い温度とする。第2温度は、第1温度とは異なる相状態となる温度領域に存在する温度である。
【0046】
第2温度の保持時間は、セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるように制御する。第2温度の保持時間を長くすると、セル状組織または二次層状組織の体積率を高くできる。
【0047】
セル状組織および二次層状組織は、γ相を主体とした微細構造を有する。このよう微細なセル状組織または二次層状組織を備えることで、強度、耐力および延性が向上する。一方、ラメラ組織は、クリープ特性が高い。セル状組織および二次層状組織は、粒界が変形することを防ぎクリープ特性を向上させることができるが、クリープ特性の主体はラメラ組織であるため、セル状組織または二次層状組織の体積率は高すぎない方がよい。
【0048】
セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるように制御することで、所望の強度、延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金を得られる。セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるような保持時間は、予備試験等により取得できる。
【0049】
例えば、第2温度の保持時間は、1分以上240時間以下、好ましくは30分以上48時間以下である。
【0050】
第2熱処理は、第1熱処理の後、連続して実施されてもよいが、これに限定されず、時間を空けて第1熱処理とは別個に実施されてもよい。
【0051】
各相の変態温度域はTiAl基合金の組成によって異なる。第1温度および第2温度としては、熱処理対象のTiAl基合金の組成に応じた状態図に基づいて適した温度が選択される。
【0052】
次に、図を参照して、上記熱処理の作用効果について説明する。
(状態図)
図1に、β安定化元素を添加したTiAl基合金(Al:47原子%)の状態図を示す。同図において、横軸はM含有量(原子%)、縦軸は温度(K)である。β安定化元素(M)は、Nb(5原子%)およびCr(3原子%)である。TiAl基合金のO含有量は、0.13原子%である。
【0053】
図1によれば、β安定化元素(M)の含有量が増えると、より低い温度でもβ相を含む相構成となり得る。これは、β安定化元素を添加することで、β相が安定化して存在できるようになるからである。NbおよびCrに替えて他のβ安定化元素を添加した場合にも、同様の傾向が示される。
【0054】
また、図1には示さないが、酸素の含有量の変化に応じて、各相の変態温度域はシフトする。
【0055】
β安定化元素および酸素の含有量に応じて、状態図の適正な範囲から第1温度および第2温度を選択して熱処理することで、セル状組織または二次層状組織を析出させられる。
【0056】
第1温度において、TiAl基合金は、(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域に保持される。第1温度を(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の温度にする場合、(α+γ)二相域、(β+α)二相域、または(β+α+γ)三相域の中でもα単相域に近い温度を選択することが好ましい。第1温度では、α相がTiAl基合金の主な構成相となる。α相は冷却されるとα相とγ相が層状に積層されたα/γラメラ組織に変態する、または急冷時の冷却速度が速い場合、フェザリー組織に変態するが、第2熱処理において第2温度で保持されることで最終的にα/γラメラ組織に変態する。
【0057】
第1温度で所定時間保持した後、急冷することで、TiAl基合金中にγ生成能およびβ生成能の高い過飽和固溶体が形成される。
【0058】
第1熱処理後、第1温度よりも低温の第2温度で保持することで、旧α粒界(α/γラメラ粒界)からβ/γセル状組織またはα/γ/βセル状組織、あるいはα/γ二次層状組織が形成される。
【0059】
(組織写真)
図2に、Ti-47Al-5Nb-3Cr[原子%]の組織写真を示す。TiAl基合金におけるO含有量は、0.80原子%である。Ti-47Al-5Nb-3Cr[原子%]は、1300℃で第1熱処理し、450℃/分で急冷した後、1000℃で第2熱処理したTiAl基合金である。
【0060】
図2のTiAl基合金では、α/γラメラ組織(lamellar)の粒界に微細構造のα/γ/βセル状組織(cellular)が析出していることを確認できる。
図1の状態図では、α安定化元素として作用するOの添加量を考慮していないため、第2温度は(β+γ)二相域である。セル状組織は平衡相であるため、Oの添加量を考慮すると、逆に、状態図が(β+α+γ)三相域であることが判明する。このように、Oのような通常状態図で考慮しない成分が含有した合金であっても、実験データにより状態図を補正して、正確な第1温度および第2温度を設定することが可能である。
【0061】
図3に、Ti-46Al-5Nb-1Cr[原子%]の組織写真を示す。TiAl基合金におけるO含有量は、0.88原子%である。Ti-46Al-5Nb-1Cr[原子%]は、1350℃で第1熱処理し、450℃/分で急冷した後、1100℃で第2熱処理したTiAl基合金である。
【0062】
図3のTiAl基合金では、α/γラメラ組織の粒界に微細構造のα/γ二次層状組織が析出していることを確認できる。
図1の状態図では、α安定化元素として作用するOの添加量を考慮していないため、第2温度はγ単相域である。二次層状組織は平衡相であるため、Oの添加量を考慮すると、逆に、状態図が(α+γ)二相域であることが判明する。このように、Oのような通常状態図で考慮しない成分が含有した合金であっても、実験データにより状態図を補正して、正確な第1温度および第2温度を設定することが可能である。
【0063】
(セル状組織体積率)
以下の合金を用い、セル状組織の体積率が引張特性およびクリープ特性に与える影響について検討した。
合金1:Ti-46.0Al-5Nb-3Cr-0.2C-0.80O[原子%]
合金2:Ti-46.6Al-5Nb-3Cr-0.6C-0.82O[原子%]
上記の合金組成は、原料の配合組成ではなく、第2熱処理後の化学分析値である。
【0064】
第1熱処理は、第1温度1300℃、保持時間8時間、冷却速度450℃/分で実施した。室温まで冷却した後、別途第2熱処理を施した。第2熱処理は、第2温度1000℃、保持時間16時間、Arガスファン冷却で実施した。セル状組織の体積率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複数の反射電子像(BEI)において、セル状組織の占める面積率を画像分析法により定量化し、複数のBEIから得られた平均面積率が体積率と等価であることから求めた。
【0065】
合金1,2について、引張試験を実施し、750℃における引張強度、0.2%耐力および破断伸びを測定した。また、クリープ破断試験を実施し、900℃、120MPaにおけるラプチャー時間を測定した。図4に、結果を示す。
【0066】
図4には、比較として、第1熱処理をせず第2熱処理のみ実施した合金1,2の引張特性およびラプチャー時間を記載した。合金1,2のいずれにおいても、セル状組織が析出することで、高温引張強度,0.2%耐力および破断伸びが向上した。また、セル状組織の析出により、ラプチャー時間の向上も確認された。
【0067】
同一条件の第1熱処理および第2熱処理を施した場合、Alの含有量が低く、α安定化元素であるC,Oの含有量が低い合金1の方が、セル状組織の体積率は高くなった。また、クリープ特性向上に効果的なCの含有量上限値を含む合金2においても、セル状組織が形成された。
【0068】
セル状組織は、セル状析出反応により形成される組織であり、Johnson-Mehl-Avrami式に従い、第2温度の保持時間を長くするほど、セル状組織の析出反応が進展し、セル状組織の体積率が高くなる。また、セル状組織の成長速度は拡散係数に依存し、拡散係数は温度に依存することから、第2温度を高くするとセル状組織の析出反応が進展しやすいことは自明である。よって、第2熱処理の第2温度および保持時間によってセル状組織の体積率を制御できることも明らかである。
【0069】
本実施形態に係るTiAl基合金の場合、二次層状組織は強化相であるα相を含む微細構造であり、γ相主体のα/γラメラ粒の集合体となるため、α/γ/βセル状組織と類似の役割を担うことが可能である。
【0070】
α相よりも更に効果的な強化相であるβ相を含むβ/γセル状組織およびα/γ/βセル状組織の方が高温引張強度および0.2%耐力を向上しやすい。そのため、強度および耐力向上の点ではβ/γセル状組織およびα/γ/βセル状組織に比べ二次層状組織の効果は劣る。しかしながら、逆に、クリープ特性に悪影響となりうるβ相を析出させないことから、セル状組織に比べ二次層状組織の方が、クリープ特性向上に対する効果が得られやすい。このため、効果的に向上できる特性に差異はあるものの、セル状組織または二次層状組織のいずれの析出であっても類似の役割を担うことが可能である。
【0071】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のTiAl基合金およびその製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0072】
本開示の第1態様に係るTiAl基合金は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素は、Cr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであり、金属組織がα/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含み、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、前記セル状組織または二次層状組織の体積率が、1体積%以上50体積%以下である。
【0073】
上記第1態様において、前記金属組織が、その他構成相を含み、前記その他構成相が、塊状γ相を含み、前記その他構成相の体積率が、30体積%以下であってよい。
【0074】
本開示の第2態様に係るTiAl基合金の製造方法は、原子%で、Al:45~49%、β安定化元素:3~11%、Ni:≦1.0%、C:≦0.6%、Si:≦0.5%、O:≦1.5%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、前記β安定化元素がCr、Nb、V、MnおよびMoのいずれか、または、それらの組み合わせであるTiAl基合金を(α+γ)二相域、α単相域、(β+α)二相域または(β+α+γ)三相域にある第1温度で所定時間保持した後、空冷以上の冷却速度で急冷し、前記急冷した前記TiAl基合金を、(β+γ)二相域、(β+α+γ)三相域または(α+γ)二相域にある第2温度で所定時間保持して、α/γラメラ粒と、α/γラメラ粒界に析出されたセル状組織または二次層状組織とを含む金属組織を形成し、前記セル状組織は、(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織であり、前記二次層状組織は、前記α/γラメラ粒よりも粒径が小さなα/γラメラ粒であり、前記セル状組織または二次層状組織の体積率が1体積%以上50体積%以下となるように前記第2温度および第2温度保持時間を制御する。
【0075】
上記第2態様において、前記金属組織が、その他構成相を含み、前記その他構成相が、塊状γ相を含み、前記その他構成相の体積率が30体積%以下となるように前記第1温度、前記第1温度の保持時間および前記冷却速度を制御してもよい。
【0076】
強化相であるα相を含む二次層状組織、または強化相であるα相およびβ相を含むセル状組織は、いずれも微細組織である。このような二次層状組織またはセル状組織の析出により、TiAl基合金の0.2%耐力および引張強度は向上する。
【0077】
セル状組織および二次層状組織は、いずれも高温延性相として振る舞うγ相を主体とした構造である。このようなセル状組織および二次層状組織の析出により、TiAl基合金の破断伸びが向上する。
【0078】
セル状組織は(β/γ)セル状組織または(α/γ/β)セル状組織である。二次層状組織は、粒径が小さなα/γラメラ粒である。セル状組織または二次層状組織は、旧α粒界から不連続析出反応により旧α粒径(α/γラメラ粒径)を維持したまま析出された組織である。α/γラメラ粒径を維持したまま熱力学的に安定なセル状組織または二次層状組織でラメラ粒界を被覆することで、ラメラ粒界近傍での動的再結晶や変形を抑制できるため、クリープ特性が向上する。このように、セル状組織および二次層状組織の析出により、TiAl基合金のクリープ特性が向上する。
【0079】
Oの含有量が高いと、延性が低下する。そのため、一般的にはOの含有量は低く抑えることが好まれるが、Oの含有量を低くしようとすると製造コストが増加する。本開の上記態様では、熱処理を2段階で実施することで、セル状組織および二次層状組織の体積率を制御できるため、上記範囲のOの含有量であれば所望の延性を有する合金となりうる。
【0080】
本開示によれば、所望の強度,延性およびクリープ特性を兼ね備えたTiAl基合金を得られる。
図1
図2
図3
図4