(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126300
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】半導体受光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034592
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】猪口 康博
【テーマコード(参考)】
5F149
【Fターム(参考)】
5F149AA04
5F149AB07
5F149BA05
5F149BB03
5F149BB07
5F149DA02
5F149DA05
5F149DA30
5F149GA06
5F149LA01
5F149LA02
5F149XB18
5F149XB37
(57)【要約】
【課題】暗電流を低減できる半導体受光素子を提供する。
【解決手段】半導体受光素子は、インジウムリン基板と、n型の第1III-V族化合物半導体層と、p型の第2III-V族化合物半導体層と、第1III-V族化合物半導体層と第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、第1III-V族化合物半導体層と光吸収層との間に設けられたホールバリア層と、第2III-V族化合物半導体層と光吸収層との間に設けられた電子バリア層と、を備え、第1III-V族化合物半導体層は、インジウムリン基板と光吸収層との間に設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムリン基板と、
n型の第1III-V族化合物半導体層と、
p型の第2III-V族化合物半導体層と、
前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、
前記第1III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられたホールバリア層と、
前記第2III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられた電子バリア層と、
を備え、
前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられる、半導体受光素子。
【請求項2】
前記光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有する、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含む、請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
前記ホールバリア層は、n型のアルミニウムガリウムインジウムヒ素層である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
前記ホールバリア層は、バルク層である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記電子バリア層は、p型のアルミニウムガリウムヒ素アンチモン層である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
前記電子バリア層は、バルク層である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項8】
前記電子バリア層と前記光吸収層との間に設けられたノンドープの第3III-V族化合物半導体層をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項9】
前記第3III-V族化合物半導体層は、ガリウムインジウムヒ素アンチモンを含む、請求項8に記載の半導体受光素子。
【請求項10】
前記ホールバリア層と前記光吸収層との間に設けられたノンドープの第4III-V族化合物半導体層をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体受光素子。
【請求項11】
前記第4III-V族化合物半導体層は、ガリウムインジウムヒ素を含む、請求項10に記載の半導体受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、n型ガリウムアンチモン(GaSb)基板を備える半導体光デバイスを開示する。GaSb基板上には、n型バルク半導体層、n型超格子層、ホールバリア層、セパレータ層、光吸収層、電子バリア層、p型超格子層およびp型バルク半導体層が順に設けられる。
【0003】
非特許文献1は、テルル(Te)がドープされたGaSb基板を備えるフォトダイオードを開示する。GaSb基板上には、GaSb層、n型コンタクト層、ホールバリア層、光吸収層、電子バリア層およびp型コンタクト層が順に設けられる。
【0004】
非特許文献2は、インジウムリン(InP)基板を備える光検出器を開示する。InP基板上には、n型のインジウムガリウムヒ素(InGaAs)層、超格子層、光吸収層、p型のインジウムアルミニウムヒ素(InAlAs)層、p型のアルミニウムヒ素アンチモン(AlAsSb)層およびp型のInGaAs層が順に設けられる。超格子層は、InGaAs層およびガリウムヒ素アンチモン(GaAsSb)層を含む。光吸収層は、ノンドープのInGaAs層である。AlAsSb層は電子バリア層として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhaobing Tian, et al, "LowDark Current Structures for Long-wavelength Type-II Strained Layer SuperlatticePhotodiodes" Proc. of SPIE, Vol.8704 8704, 2013, 870415
【非特許文献2】Jingyi Wang, et al, "InP-BasedBroadband Photodetectors With InGaAs/GaAsSb Type-II Superlattice" IEEEElectron Device Letters, Vol.43, No.5, 2022, p.757-760
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
InP基板を備える半導体受光素子では、光吸収層とn型のInGaAs層との間にホールバリア層が設けられていない。
【0008】
本開示は、暗電流を低減できる半導体受光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る半導体受光素子は、インジウムリン基板と、n型の第1III-V族化合物半導体層と、p型の第2III-V族化合物半導体層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられたホールバリア層と、前記第2III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられた電子バリア層と、を備え、前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、暗電流を低減できる半導体受光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の半導体受光素子に含まれる光吸収層を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、半導体受光素子の量子効率と波長との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実験の半導体受光素子のエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第2実験の半導体受光素子のエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1実験および第2実験の半導体受光素子の暗電流とバイアス電圧との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0013】
(1)半導体受光素子は、インジウムリン基板と、n型の第1III-V族化合物半導体層と、p型の第2III-V族化合物半導体層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記第2III-V族化合物半導体層との間に設けられた光吸収層と、前記第1III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられたホールバリア層と、前記第2III-V族化合物半導体層と前記光吸収層との間に設けられた電子バリア層と、を備え、前記第1III-V族化合物半導体層は、前記インジウムリン基板と前記光吸収層との間に設けられる。
【0014】
上記半導体受光素子では、n型の第1III-V族化合物半導体層中のホール(少数キャリア)が光吸収層に流入することがホールバリア層により抑制される。p型の第2III-V族化合物半導体層中の電子(少数キャリア)が光吸収層に流入することが電子バリア層により抑制される。よって、少数キャリアの光吸収層への流入による暗電流を低減できる。
【0015】
(2)上記(1)において、前記光吸収層は、タイプIIの超格子構造を有してもよい。
【0016】
(3)上記(2)において、前記超格子構造は、ガリウムインジウムヒ素層およびガリウムヒ素アンチモン層を含んでもよい。
【0017】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、前記ホールバリア層は、n型のアルミニウムガリウムインジウムヒ素層であってもよい。
【0018】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つにおいて、前記ホールバリア層は、バルク層であってもよい。この場合、ホールバリア層は超格子構造を有していない。
【0019】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1つにおいて、前記電子バリア層は、p型のアルミニウムガリウムヒ素アンチモン層であってもよい。この場合、AlAsSbに比べてアルミニウムの組成比を小さくできる。よって、アルミニウムの酸化による電子バリア層の酸化を抑制できる。
【0020】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つにおいて、前記電子バリア層は、バルク層であってもよい。この場合、電子バリア層は超格子構造を有していない。
【0021】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つにおいて、前記電子バリア層と前記光吸収層との間に設けられたノンドープの第3III-V族化合物半導体層をさらに備えてもよい。この場合、p型ドーパントが電子バリア層から光吸収層に拡散することを抑制できる。
【0022】
(9)上記(8)において、前記第3III-V族化合物半導体層は、ガリウムインジウムヒ素アンチモンを含んでもよい。この場合、GaInAsに比べて価電子帯の上端に形成されるノッチを小さくできる。その結果、光吸収層において光吸収により生じたホールが第2III-V族化合物半導体層に流入し易くなる。
【0023】
(10)上記(1)から(9)のいずれか1つにおいて、前記ホールバリア層と前記光吸収層との間に設けられたノンドープの第4III-V族化合物半導体層をさらに備えてもよい。この場合、n型ドーパントがホールバリア層から光吸収層に拡散することを抑制できる。
【0024】
(11)上記(10)において、前記第4III-V族化合物半導体層は、ガリウムインジウムヒ素を含んでもよい。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一または同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0026】
図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1の半導体受光素子に含まれる光吸収層を模式的に示す断面図である。
図1に示される半導体受光素子100は、例えばフォトダイオードである。半導体受光素子100は、インジウムリン(InP)基板10と、n型の第1III-V族化合物半導体層12と、p型の第2III-V族化合物半導体層14と、光吸収層16とを備える。光吸収層16は、第1III-V族化合物半導体層12と第2III-V族化合物半導体層14との間に設けられる。
【0027】
半導体受光素子100は、ホールバリア層HBと電子バリア層EBとを備える。ホールバリア層HBは、第1III-V族化合物半導体層12と光吸収層16との間に設けられる。ホールバリア層HBの価電子帯の上端のエネルギーは、第1III-V族化合物半導体層12の価電子帯の上端のエネルギーよりも小さい。ホールバリア層HBは、光吸収層16から第1III-V族化合物半導体層12へのホールの移動を妨げる。電子バリア層EBは、第2III-V族化合物半導体層14と光吸収層16との間に設けられる。電子バリア層EBの伝導帯の下端のエネルギーは、第2III-V族化合物半導体層14の伝導帯の下端のエネルギーよりも大きい。電子バリア層EBは、光吸収層16から第2III-V族化合物半導体層14への電子の移動を妨げる。
【0028】
InP基板10は、半絶縁性基板であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12は、InP基板10の主面と光吸収層16との間に設けられてもよい。InP基板10の主面は(100)面であってもよい。
【0029】
第1III-V族化合物半導体層12は、n型のガリウムインジウムヒ素(GaxIn1-xAs又はGaInAs)層であってもよい。xはガリウム(Ga)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.46から0.48であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12におけるn型ドーパント濃度は5×1017から3×1019cm-3であってもよい。第1III-V族化合物半導体層12の厚さは0.2から3μmであってもよい。
【0030】
第2III-V族化合物半導体層14は、p型のガリウムインジウムヒ素(GaxIn1-xAs又はGaInAs)層であってもよい。xはガリウム(Ga)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.46から0.48であってもよい。第2III-V族化合物半導体層14におけるp型ドーパント濃度は5×1017から3×1019cm-3であってもよい。第2III-V族化合物半導体層14の厚さは0.2から3μmであってもよい。
【0031】
光吸収層16はノンドープのIII-V族化合物半導体層であってもよい。本明細書において、「ノンドープ」は、意図的にドーパントがドープされないことを意味する。よって、「ノンドープ」は、1×10
15cm
-3未満のp型ドーパント濃度を有してもよいし、1×10
15cm
-3未満のn型ドーパント濃度を有してもよい。光吸収層16は、タイプIIの超格子構造を有してもよい。
図2に示されるように、光吸収層16の超格子構造は、ノンドープのGa
xIn
1-xAs(又はGaInAs)層L1およびノンドープのGaAs
ySb
1-y(又はGaAsSb)層L2を含んでもよい。xはガリウム(Ga)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.4から0.7であってもよい。yはヒ素(As)組成である。yは0.2から0.6であってもよい。Ga
xIn
1-xAs層L1およびGaAs
ySb
1-y層L2は、第1方向D1に沿って交互に配列され得る。第1III-V族化合物半導体層12に最も近い光吸収層16の下面には、Ga
xIn
1-xAs層L1が位置してもよい。これにより、半導体層上にGa
xIn
1-xAs層L1を結晶性良く形成できる。第2III-V族化合物半導体層14に最も近い光吸収層16の上面には、GaAs
ySb
1-y層L2が位置してもよい。これにより、GaAs
ySb
1-y層L2上に半導体層を結晶性良く形成できる。Ga
xIn
1-xAs層L1およびGaAs
ySb
1-y層L2のペア数(周期)は、200から400であってもよい。Ga
xIn
1-xAs層L1の厚さは3から6nmであってもよい。GaAs
ySb
1-y層L2の厚さは3から6nmであってもよい。GaAs
ySb
1-y層L2の厚さは、Ga
xIn
1-xAs層L1の厚さと同じであってもよいし、異なってもよい。
【0032】
電子バリア層EBは、p型のIII-V族化合物半導体層であってもよい。電子バリア層EBは、p型のアルミニウムガリウムヒ素アンチモン(AlxGa1-xAsySb1-y又はAlGaAsSb)層であってもよい。xはアルミニウム(Al)組成である。yはヒ素(As)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.6から0.85であってもよい。yは0より大きく1より小さい。yは0.5から0.6であってもよい。電子バリア層EBは、第2III-V族化合物半導体層14のp型ドーパント濃度よりも小さいp型ドーパント濃度を有してもよい。電子バリア層EBにおけるp型ドーパント濃度は5×1017から2×1019cm-3であってもよい。電子バリア層EBは、第2III-V族化合物半導体層14の厚さより小さい厚さを有してもよい。電子バリア層EBの厚さは5から50nmであってもよい。電子バリア層EBは、バルク層であってもよい。電子バリア層EBは、超格子構造を有しておらず、単一層であってもよい。
【0033】
ホールバリア層HBは、n型のIII-V族化合物半導体層であってもよい。ホールバリア層HBは、n型のアルミニウムガリウムインジウムヒ素(AlxGa1-xInyAs1-y又はAlGaInAs)層であってもよい。xはアルミニウム(Al)組成である。yはインジウム(In)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.2から0.45であってもよい。yは0より大きく1より小さい。yは0.025から0.28であってもよい。ホールバリア層HBは、第1III-V族化合物半導体層12のn型ドーパント濃度よりも小さいn型ドーパント濃度を有してもよい。ホールバリア層HBにおけるn型ドーパント濃度は5×1017から2×1019cm-3であってもよい。ホールバリア層HBは、第1III-V族化合物半導体層12の厚さより小さい厚さを有してもよい。ホールバリア層HBの厚さは5から50nmであってもよい。ホールバリア層HBは、バルク層であってもよい。ホールバリア層HBは、超格子構造を有しておらず、単一層であってもよい。
【0034】
半導体受光素子100は、電子バリア層EBと光吸収層16との間に設けられたノンドープの第3III-V族化合物半導体層13をさらに備えてもよい。第3III-V族化合物半導体層13は、p型ドーパントが電子バリア層EBから光吸収層16に拡散することを抑制できる。第3III-V族化合物半導体層13は、ガリウムインジウムヒ素アンチモン(GaxIn1-xAsySb1-y又はGaInAsSb)を含んでもよい。xはガリウム(Ga)組成である。yはヒ素(As)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.8から0.95であってもよい。yは0より大きく1より小さい。yは0.55から0.70であってもよい。第3III-V族化合物半導体層13は、第2III-V族化合物半導体層14の厚さより小さい厚さを有してもよい。第3III-V族化合物半導体層13は、電子バリア層EBの厚さより大きい厚さを有してもよい。第3III-V族化合物半導体層13の厚さは20から80nmであってもよい。
【0035】
半導体受光素子100は、ホールバリア層HBと光吸収層16との間に設けられたノンドープの第4III-V族化合物半導体層15をさらに備えてもよい。第4III-V族化合物半導体層15は、n型ドーパントがホールバリア層HBから光吸収層16に拡散することを抑制できる。第4III-V族化合物半導体層15は、ガリウムインジウムヒ素(GaxIn1-xAs又はGaInAs)を含んでもよい。xはガリウム(Ga)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.4から0.5であってもよい。第4III-V族化合物半導体層15は、第1III-V族化合物半導体層12の厚さより小さい厚さを有してもよい。第4III-V族化合物半導体層15は、ホールバリア層HBの厚さより大きい厚さを有してもよい。第4III-V族化合物半導体層15の厚さは20から80nmであってもよい。
【0036】
半導体受光素子100は、n型のIII-V族化合物半導体層20をさらに備えてもよい。III-V族化合物半導体層20は、InP基板10と第1III-V族化合物半導体層12との間に設けられる。III-V族化合物半導体層20は、コンタクト層であってもよい。III-V族化合物半導体層20は、第1III-V族化合物半導体層12のn型ドーパント濃度よりも高いn型ドーパント濃度を有する。III-V族化合物半導体層20は、GaInAs層であってもよい。III-V族化合物半導体層20には、電極30が接続されてもよい。
【0037】
半導体受光素子100は、p型のIII-V族化合物半導体層22をさらに備えてもよい。第2III-V族化合物半導体層14は、III-V族化合物半導体層22と電子バリア層EBとの間に設けられる。III-V族化合物半導体層22は、コンタクト層であってもよい。III-V族化合物半導体層22は、第2III-V族化合物半導体層14のp型ドーパント濃度よりも高いp型ドーパント濃度を有する。III-V族化合物半導体層22は、GaInAs層であってもよい。III-V族化合物半導体層22には、電極40が接続されてもよい。
【0038】
InP基板10、III-V族化合物半導体層20、第1III-V族化合物半導体層12、ホールバリア層HB、第4III-V族化合物半導体層15、光吸収層16、第3III-V族化合物半導体層13、電子バリア層EB、第2III-V族化合物半導体層14およびIII-V族化合物半導体層22は、第1方向D1に沿ってこの順に配列され得る。第1方向D1は、InP基板10の主面に直交してもよい。第1方向D1は光吸収層16の厚さ方向であってもよい。第1方向D1は、第1III-V族化合物半導体層12から第2III-V族化合物半導体層14に向かう方向であってもよい。第1方向D1は、結晶成長方向であってもよい。
【0039】
半導体受光素子100は、入射光Lを検出できる。入射光Lは、0.4から4μmの波長を有する可視光または赤外光であってもよい。入射光Lは、第1方向D1に進んでもよい。入射光Lは、InP基板10を通って光吸収層16に入射してもよい。半導体受光素子100は、2から4μmのカットオフ波長(吸収端波長)を有してもよい。半導体受光素子100は、ガス分析装置の分光システム、イメージングシステムまたは光通信システムにおいて使用され得る。
【0040】
図3は、半導体受光素子の量子効率と波長との関係の一例を示すグラフである。
図3のグラフにおいて、横軸は、光吸収層が吸収する光の波長(μm)を示す。縦軸は、半導体受光素子の量子効率を示す。
図3に示される例において、光吸収層は、波長2.5μm以下の光を吸収する。すなわち、カットオフ波長は約2.5μmである。
【0041】
半導体受光素子100によれば、n型の第1III-V族化合物半導体層12中のホール(少数キャリア)が光吸収層16に流入することがホールバリア層HBにより抑制される。p型の第2III-V族化合物半導体層14中の電子(少数キャリア)が光吸収層16に流入することが電子バリア層EBにより抑制される。よって、少数キャリアの光吸収層16への流入による暗電流を低減できる。
【0042】
電子バリア層EBがAlGaAsSb層である場合、AlAsSbに比べてアルミニウムの組成比を小さくできる。よって、アルミニウムの酸化による電子バリア層EBの酸化を抑制できる。
【0043】
第3III-V族化合物半導体層13がガリウムインジウムヒ素アンチモンを含む場合、GaInAsに比べて価電子帯の上端に形成されるノッチ(
図4及び
図5参照)を小さくできる。その結果、光吸収層16において光吸収により生じたホールが第2III-V族化合物半導体層14に流入し易くなる。
【0044】
以下、半導体受光素子100の評価のために行った種々の実験について説明する。以下に説明する実験は、本発明を限定するものではない。
【0045】
(第1実験)
第1実験の半導体受光素子は、半導体受光素子100に類似した以下の構成を有する。
InP基板10:InP基板、
第1III-V族化合物半導体層12:n型のGaxIn1-xAs(x=0.47)層、n型ドーパント濃度2×1018cm-3、厚さ1.5μm、
ホールバリア層HB:n型のAlxGayIn1-x-yAs(x=0.3、y=0.17)層、
第4III-V族化合物半導体層15:i型のGaxIn1-xAs(x=0.47)層、
光吸収層16:GaxIn1-xAs(x=0.47)層及びGaAsySb1-y(y=0.51)層を含むタイプIIの超格子構造、280周期、
第3III-V族化合物半導体層13:i型のGaxIn1-xAsySb1-y(x=0.9、y=0.6)層、厚さ50nm、
電子バリア層EB:p型のAlxGa1-xAsySb1-y(x=0.8、y=0.55)層、p型ドーパント濃度1×1018cm-3、厚さ20nm、
第2III-V族化合物半導体層14:p型のGaxIn1-xAs(x=0.47)層、p型ドーパント濃度1×1019cm-3、厚さ0.5μm。
【0046】
(第2実験)
第2実験の半導体受光素子は、ホールバリア層HB及び電子バリア層EBを備えず、第3III-V族化合物半導体層13がi型のGaInAs層であること以外は第1実験の半導体受光素子と同じ構成を有する。
【0047】
(第1実験結果)
第1実験および第2実験の半導体受光素子について、シミュレーションにより、エネルギーバンド図を作成した。シミュレーションに用いられた温度Tは250ケルビン(K)である。半導体受光素子に印加されるバイアス電圧Vbは-1Vである。シミュレーションの結果を
図4および
図5に示す。
【0048】
図4および
図5は、それぞれ第1実験および第2実験の半導体受光素子のエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図4および
図5のグラフにおいて、横軸は、光吸収層の厚さ方向(第1方向D1)における位置(μm)を示す。縦軸は、エネルギー(eV)を示す。グラフ中、Ecは伝導帯の下端のエネルギーを示し、Evは価電子帯の上端のエネルギーを示す。
【0049】
図4に示されるように、第1実験では、電子バリア層EBによって伝導帯の下端に電子の障壁が形成され、ホールバリア層HBによって価電子帯の上端にホールの障壁が形成される。一方、
図5に示されるように、第2実験では、伝導帯の下端に電子の障壁が形成されず、価電子帯の上端にホールの障壁が形成されない。よって、n型のGaInAs層中のホール(少数キャリア)が光吸収層に流入することがホールバリア層により抑制される。p型のGaInAs中の電子(少数キャリア)が光吸収層に流入することが電子バリア層により抑制される。
【0050】
また、
図5では、光吸収層とp型のGaInAs層との間に位置するi型のGaInAs層によって価電子帯の上端にノッチが形成されている。このノッチは、光吸収層において光吸収により生じたホールがp型のGaInAs層に流入する時の障壁となる。一方、
図4では、光吸収層とp型のGaInAs層との間にi型のGaInAsSb層が位置している。i型のGaInAsSb層によって形成されるノッチの高さは、
図5のノッチの高さよりも小さい。よって、アンチモンの添加によりノッチの高さを小さくできることが分かる。
【0051】
(第2実験結果)
第1実験および第2実験の半導体受光素子について、シミュレーションにより、バイアス電圧に対する暗電流を計算した。温度は250ケルビン(K)である。シミュレーションの結果を
図6に示す。
【0052】
図6は、第1実験および第2実験の半導体受光素子の暗電流とバイアス電圧との関係の一例を示すグラフである。
図6のグラフにおいて、横軸は、半導体受光素子に印加されるバイアス電圧(V)を示す。縦軸は、暗電流(A/cm
2)を示す。グラフ中、EX1は第1実験の結果を示し、EX2は第2実験の結果を示す。
【0053】
図6に示されるように、バイアス電圧によらず、第1実験の半導体受光素子の暗電流は、第2実験の半導体受光素子の暗電流の1/10以下であり、非常に小さかった。
【0054】
以上、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
10…InP基板
12…第1III-V族化合物半導体層
13…第3III-V族化合物半導体層
14…第2III-V族化合物半導体層
15…第4III-V族化合物半導体層
16…光吸収層
20…III-V族化合物半導体層
22…III-V族化合物半導体層
30…電極
40…電極
100…半導体受光素子
D1…第1方向
EB…電子バリア層
HB…ホールバリア層
L…入射光
L1…GaxIn1-xAs層
L2…GaAsySb1-y層
【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
ホールバリア層HBは、n型のIII-V族化合物半導体層であってもよい。ホールバリア層HBは、n型のアルミニウムガリウムインジウムヒ素(AlxGa
y
In
1-x-y
As又はAlGaInAs)層であってもよい。xはアルミニウム(Al)組成である。yはガリウム(Ga)組成である。xは0より大きく1より小さい。xは0.2から0.45であってもよい。yは0より大きく1より小さい。yは0.025から0.28であってもよい。ホールバリア層HBは、第1III-V族化合物半導体層12のn型ドーパント濃度よりも小さいn型ドーパント濃度を有してもよい。ホールバリア層HBにおけるn型ドーパント濃度は5×1017から2×1019cm-3であってもよい。ホールバリア層HBは、第1III-V族化合物半導体層12の厚さより小さい厚さを有してもよい。ホールバリア層HBの厚さは5から50nmであってもよい。ホールバリア層HBは、バルク層であってもよい。ホールバリア層HBは、超格子構造を有しておらず、単一層であってもよい。