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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126325
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】積層体、及び、光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240912BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 265/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C08F2/44 C
C08F20/00 510
C08F265/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034628
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶祐
(72)【発明者】
【氏名】唯木 隆伸
(72)【発明者】
【氏名】小川 智洋
(72)【発明者】
【氏名】葛原 満広
(72)【発明者】
【氏名】谷村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昂秀
(72)【発明者】
【氏名】須賀 健雄
(72)【発明者】
【氏名】岩切 翠
(72)【発明者】
【氏名】望月 彩音
(72)【発明者】
【氏名】阿部 修平
【テーマコード(参考)】
4F100
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4F100AH05
4F100AH05B
4F100AK01B
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK42
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA41B
4F100CA30B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ08B
4F100EJ54
4F100GB48
4F100JA07B
4F100JB12
4F100JB12B
4F100JB14
4F100JK12
4F100JK12B
4F100JK16B
4F100JN01
4F100JN01A
4F100JN01B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J011AA05
4J011AC04
4J011BA04
4J011PA69
4J011PB30
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA24
4J011SA74
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA01
4J011WA02
4J026AA47
4J026BA28
4J026DB06
4J026DB11
4J026DB36
4J026FA05
4J026FA09
4J026GA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】機械的強度に優れる硬化膜を有する積層体を提供する。
【解決手段】支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に硬化性組成物の硬化膜とを有し、前記硬化性組成物は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する、積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に硬化性組成物の硬化膜とを有し、
前記硬化性組成物は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する、積層体。
【請求項2】
前記高分子開始剤は、ヨウ素原子が(メタ)アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位に結合している末端構造を、1分子中に3個以上有するヨウ素末端重合体である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記硬化膜は、以下の引掻き強度試験で測定される表面強度が、0.50N以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
[引掻き強度試験:連続荷重式表面性測定機を用いて、直径0.05mmのサファイア針を使用し、移動距離10mm、移動速度0.2mm/secで硬化膜上を引掻き、荷重を0.05Nから1.96Nまで0.2mNごとに変化させて摩擦力を測定し、可変する荷重をxとしたときに、荷重xとx-0.02Nの範囲で、摩擦力の最大値fmaxと、最小値fminと、平均値faveを求め、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時の荷重Xを表面強度とする。]
【請求項4】
JIS K7361-1:1997に準拠した全光線透過率が90.0%以上で、且つ、JIS K7136:2000に準拠したヘイズが1.0%以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記高分子開始剤の炭素-ヨウ素結合当量(高分子開始剤の数平均分子量/1分子中の炭素-ヨウ素結合含有数)が4000g/eq以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積(ここで、比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が、80.0μm-1以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
前記高分子開始剤と分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計100質量部に対して、前記高分子開始剤の含有量は5~70質量部である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の積層体を含む、光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、及び、当該積層体を含む光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
支持体に硬化膜を形成してなる透明な積層体は、各種の用途に適用されるが、例えば各種ディスプレイやモジュール等の各種光学フィルムとして好適に使用され得る。
【0003】
特許文献1には、特定の相分離構造を有する膜を提供することを課題として、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーの少なくとも一つの末端に、アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位を介してヨウ素原子が結合した構造を有するヨウ素末端ポリマー(成分(A))及び分子内に少なくとも1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(成分(B))を含み、かつ成分(A)及び成分(B)の合計含有量に対し、成分(A)を1~99重量%含む硬化性組成物を該基材上で硬化してなる硬化膜が開示されている。
また、特許文献2には、良好な透明性および硬度と、良好な屈曲性を兼ね備える硬化膜を形成できる重合体として、ヨウ素原子がアクリル酸エステル単量体に由来する構成単位に結合している末端構造を、1分子中に1個以上有し、ガラス転移温度が-60~60℃である重合体が開示され、当該重合体と1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを含む、硬化性組成物の硬化膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6819034号公報
【特許文献2】特開2019-151840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示されているような、特定の相分離構造を有する膜は、例えば光学フィルム等の積層体への応用が期待される。しかしながら、特許文献1及び2に開示されている硬化膜では、表面の機械的強度が劣っていた。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、膜内部に相分離構造を有し、かつ高い表面強度を有する積層体、及び当該積層体を含む光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の[1]~[8]に関する。
[1] 支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に硬化性組成物の硬化膜とを有し、
前記硬化性組成物は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する、積層体。
[2] 前記高分子開始剤は、ヨウ素原子が(メタ)アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位に結合している末端構造を、1分子中に3個以上有するヨウ素末端重合体である、前記[1]に記載の積層体。
[3] 前記硬化膜は、以下の引掻き強度試験で測定される表面強度が、0.50N以上である、前記[1]又は[2]に記載の積層体。[引掻き強度試験:連続荷重式表面性測定機を用いて、直径0.05mmのサファイア針を使用し、移動距離10mm、移動速度0.2mm/secで硬化膜上を引掻き、荷重を0.05Nから1.96Nまで0.2mNごとに変化させて摩擦力を測定し、可変する荷重をxとしたときに、荷重xとx-0.02Nの範囲で、摩擦力の最大値fmaxと、最小値fminと、平均値faveを求め、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時の荷重Xを表面強度とする。]
[4] JIS K7361-1:1997に準拠した全光線透過率が90.0%以上で、且つ、JIS K7136:2000に準拠したヘイズが1.0%以下である、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層体。
[5] 前記高分子開始剤の炭素-ヨウ素結合当量(高分子開始剤の数平均分子量/1分子中の炭素-ヨウ素結合含有数)が4000g/eq以下である、前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層体。
[6] 前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積(ここで、比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が、80.0μm-1以上である、前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層体。
[7] 前記高分子開始剤と分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計100質量部に対して、前記高分子開始剤の含有量は5~70質量部である、前記[1]~[6]のいずれか1項に記載の積層体。
[8] 前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層体を含む、光学フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜内部に相分離構造を有し、かつ高い表面強度を有する積層体、及び当該積層体を含む光学フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による積層体の断面を模式的に示した図である。
図2】本発明の他の一実施形態による積層体の断面を模式的に示した図である。
図3】実施例1,2及び比較例3の積層体の硬化膜の表面強度測定結果を示した図である。
図4】実施例1の積層体の硬化膜の断面のAFM像である。
図5】実施例2の積層体の硬化膜の断面のAFM像である。
図6】比較例3の積層体の硬化膜の断面のAFM像である。
図7】表面強度測定の荷重Xの求め方を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る積層体、及び光学フィルムについて詳細に説明する。
以下、本発明の実施の形態や実施例などを、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態や実施例等の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。また、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明する場合があるが、上下方向が逆転してもよい。
「本明細書において、ある部材又はある領域等のある構成が、他の部材又は他の領域等の他の構成の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の構成の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の構成の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の構成の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
また、本明細書において「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではなく、「フィルム面(板面、シート面)」とは、対象となるフィルム状(板状、シート状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるフィルム状部材(板状部材、シート状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
また、本明細書において、「・・・に由来する構成単位」とは、ポリマーの製造原料として用いられたモノマーが、その単独重合又は共重合により得られたポリマー中で、ポリマーを構成する繰り返し単位として存在する一単位を表す。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタアクリロイルの各々を表す。
【0011】
I.積層体
本発明の1実施形態である積層体は、支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に硬化性組成物の硬化膜とを有し、
前記硬化性組成物は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する、積層体である。
【0012】
本発明の1実施形態である積層体は、含まれる硬化膜が、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する硬化性組成物の硬化膜であることにより、膜内部に相分離構造を有し、かつ高い表面強度を有する硬化膜を備えた積層体である。
分子内末端に炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内にエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する硬化性組成物の硬化膜においては、光重合が進んでいく過程で、比較的硬度が低くなりやすい高分子開始剤部分と、比較的硬度が高くなりやすい分子内にエチレン性不飽和結合を有する化合物が分離して相分離構造を形成する。従来の相分離構造を有する硬化膜は、耐擦傷性のような表面強度が劣っていた。相分離構造におけるドメインサイズが大きい場合、擦傷物が硬度の低い部分を擦りやすくなり、傷つきのきっかけを作りやすくなると考えられる。相分離構造におけるドメインサイズが小さくても、比較的硬度が高くなりやすい分子内にエチレン性不飽和結合を有する化合物の硬度が劣っていた。
それに対して、本発明の硬化膜は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を含む硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、高分子開始剤の3個以上の末端から分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が重合することで、相分離後のドメインの界面が共連続構造を取り、且つ、相分離構造が緻密になり、さらに硬度が高い部分の硬度も向上する。そのため、本発明の硬化膜は、擦傷物が硬度の高い部分を含んで擦りやすくなるため、傷つき難くなって、表面強度が高くなり、また、ドメインのサイズが小さくなるため硬化膜が透明になると考えられる。
【0013】
図1及び図2は、本発明の一実施形態による積層体の断面を模式的に示した図である。一実施形態において、積層体10は、図1および図2に示すように、支持体1と、当該支持体1の少なくとも一方の面(たとえば、片面または両面)に配置される硬化性組成物の硬化膜2を含む。
本発明の積層体は、支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に硬化性組成物の硬化膜とを有するが、さらに、その他の機能層を有していてもよい(図示せず)。
以下、本発明に特徴的な硬化膜より、順に説明する。
【0014】
1.硬化膜
本発明の硬化膜は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する硬化性組成物の硬化膜である。
【0015】
[硬化性組成物]
本発明の硬化膜の形成に用いられる硬化性組成物は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有し、さらに硬化触媒や、その他の任意成分を含有してよいものである。
【0016】
<高分子開始剤>
本発明に用いられる高分子開始剤は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有することを特徴とする。
本発明に用いられる高分子開始剤に含まれる、高分子鎖の末端に有する炭素-ヨウ素結合は、活性エネルギー線照射と加熱のうちの少なくとも1種によってラジカル開裂可能であり、特に活性エネルギー線照射により容易にラジカル開裂可能である。
【0017】
本発明に用いられる高分子開始剤に含まれる、高分子鎖は、ラジカル重合性二重結合を有するモノマーを重合して得られる重合体であってよい。その原料として用いるラジカル重合性二重結合を有するモノマーとしてはラジカル重合性の炭素間二重結合を有するモノマーであれば特に制限されないが、より具体的には後述するような(メタ)アクリル酸エステル系モノマーであってよい。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとは、(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体からなる単量体をいう。
【0018】
本発明に用いられる高分子開始剤は、ヨウ素原子が(メタ)アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位に結合している末端構造を、1分子中に3個以上有するヨウ素末端重合体であってよく、光や熱に対する安定性により優れる点から、ヨウ素原子がアクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位に結合している末端構造を、1分子中に3個以上有するヨウ素末端重合体であってよい。
【0019】
本発明の高分子開始剤に用いられる(メタ)アクリル酸エステル系モノマーは、下記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と称す場合がある。)であってよい。
CH=C(R)-C(O)O-R (1)
(式(1)において、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1~22のアルキル基、又はアルキレン鎖の炭素数が2~18であるポリアルキレングリコール鎖を有する置換基を表し、該アルキル基又はポリアルキレングリコール鎖を有する置換基は、置換基としてフェニル基、ベンジル基、エポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のパーフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルキルスルファニル基、トリアルコシキシリル基、又はポリシロキサン構造を有する基を有していてもよい。)
【0020】
上記式(1)式におけるRにおけるアルキル基及びアルキレン基は、直鎖、分岐または環状のいずれであってもよい。
上記式(1)式におけるRとしては、特に炭素数1~18の、置換基としてエポキシ基、水酸基、ジアルキルアミノ基、炭素数1~4のアルコキシ基を有していてもよいアルキル基が好ましい。とりわけ炭素数1~6の、置換基としてエポキシ基、水酸基、炭素数1~2のアルコキシ基を有していてもよいアルキル基が好ましく、炭素数1~6の、置換基としてエポキシ基を有していてもよいアルキル基が更に好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより更に好ましい。
【0021】
化合物(1)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、n-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリレート、2-イソシアノエチル(メタ)アクリレート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、炭素数1~18のパーフルオロアルキルを有するパーフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(リン酸)エチル(メタ)アクリレート(2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート)、トリアルコキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
これらのうち、表面強度を高めやすい点において、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及び炭素数1~6のパーフルオロアルキルを有するパーフルオロエチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、及び炭素数1~3のパーフルオロアルキルを有するパーフルオロエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、及びt-ブチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0023】
本発明に用いられる高分子開始剤に含まれる高分子鎖として、ラジカル重合性二重結合を有するモノマーを重合して得られる重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー以外の他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと共重合可能なモノマーであればよく、他のラジカル重合性二重結合を有するモノマーが挙げられる。他のモノマーとしては、例えばアクリロニトリル、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、スチレンなどが挙げられる。
【0024】
本発明に用いられる高分子開始剤に含まれる高分子鎖として、ラジカル重合性二重結合を有するモノマーを重合して得られる重合体には、1種類のモノマーに由来する構成単位が含まれていてもよく、2種以上のモノマーに由来する構成単位が含まれていてもよい。2種以上のモノマーに由来する構成単位が含まれている場合、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0025】
本発明に用いられる高分子開始剤において、重合体の全構成単位中、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むものであってよく、70質量%以上含むものであってよく、90質量%以上含むものであってよく、100質量%含むものであってもよい。高分子開始剤における重合体の全構成単位中、他のラジカル重合性二重結合を有するモノマーに由来する構成単位は、50質量%以下含むものであってよく、30質量%以下含むものであってよく、10質量%以下含むものであってよく、0質量%であってもよい。
なお、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位等の含有量とは原料の仕込質量から求められるものである。
【0026】
また、本発明に用いられる高分子開始剤において、重合体の全構成単位中、化合物(1)に由来する構成単位を50質量%以上含むものであってよく、70質量%以上含むものであってよく、90質量%以上含むものであってよく、100質量%含むものであってもよい。
【0027】
また、本発明に用いられる高分子開始剤において、重合体の全構成単位中、アクリル酸エステル系モノマーに由来する構成単位を50質量%以上含むものであってよく、70質量%以上含むものであってよく、90質量%以上含むものであってよく、100質量%含むものであってもよい。この場合において、重合体の全構成単位中、メタクリル酸エステル系モノマーを含む他のラジカル重合性二重結合を有するモノマーに由来する構成単位は、50質量%以下含むものであってよく、30質量%以下含むものであってよく、10質量%以下含むものであってよく、0質量%であってもよい。
【0028】
本発明に用いられる高分子開始剤は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有するが、高い表面強度を実現する点から、分子内末端に4個以上の炭素-ヨウ素結合を有してよい。
本発明に用いられる高分子開始剤において、1分子中の末端に有する炭素-ヨウ素結合の数は、相分離構造形成の点から、10個以下であってよく、8個以下であってよく、6個以下であってもよい。
【0029】
本発明に用いられる高分子開始剤の分子量は、硬化膜内で良好な共連続ミクロ相分離構造が得られやすい点で、数平均分子量(Mn)が800~150,000であることが好ましく、2,000~100,000がより好ましく、3,000~50,000がさらに好ましく、4,000~30,000がよりさらに好ましい。
本発明に用いられる高分子開始剤の分子量は、高分子開始剤の重合条件により制御できる。例えば、後述の精密ラジカル重合(「リビングラジカル重合」ともいう。)において、モノマー、重合開始剤、触媒の濃度、光照射量又は反応温度、反応時間等によって分子量を制御でき、モノマー濃度を高く、重合開始剤濃度を低く、触媒濃度を高く、光照射量又は反応温度を高く、反応時間を長くすると高分子量となる傾向にある。
精密ラジカル重合は分子量の制御が容易であり、本発明に用いられる高分子開始剤として分子量分布(Mw/Mn)の狭い重合体を製造することができる。本発明に用いられる高分子開始剤の分子量分布(Mw/Mn)は2.0以下が好ましく、特に1.6以下が好ましい。一方、重合体Aの分子量分布は通常、1.0より大きい。
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の値である。
【0030】
本発明に用いられる高分子開始剤の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、具体的には、GPC(島津製作所製「RID-10A/CBM-20A/DGU-20A3,LC-20AD/DPD-M20A/CTO-20A」)を用いて以下の測定条件で測定する。
カラム:東ソー社製「TSKgel superHM-N」
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)
溶媒:クロロホルム、温度:40℃、流速:0.3mL/分、注入量:20μL
濃度:0.1質量%
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン
【0031】
本発明に用いられる高分子開始剤の炭素-ヨウ素結合当量は、4500g/eq以下であってよく、4000g/eq以下であってよい。
ここで炭素-ヨウ素結合当量とは、高分子開始剤における炭素-ヨウ素結合1モル当量当たりの数平均分子量のことであり、下記数式(I)により求める。
数式(I) 炭素-ヨウ素結合当量(g/eq)=高分子開始剤の数平均分子量(Mn)/高分子開始剤の1分子中の炭素-ヨウ素結合含有数
【0032】
本発明に用いられる高分子開始剤と分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計100質量部に対して、高分子開始剤の含有量は5~70質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましく、15~30質量部がさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化膜の屈曲性が向上し、上限値以下であると硬化膜の表面強度が向上しやすい。
【0033】
(高分子開始剤の製造方法)
本発明に用いられる高分子開始剤は、重合反応の開始点(重合開始末端)がヨウ素原子で保護されている化合物(ドーマント種)を開始剤として用い、触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー等のモノマー1種以上を重合反応させる方法で製造してよい。開始点を3個以上有するドーマント種を開始剤として用いることにより、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤(「多官能高分子ドーマント」ともいう。)を製造できる。
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの2種以上を混合して重合させた場合、ランダム共重合鎖が形成される。
【0034】
ヨウ素原子で保護された開始点を3個以上有するドーマント種としては、トリメチロールエタントリス(2-ヨード-2-メチルプロパノエート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-ヨード-2-メチルプロパノエート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2ーヨードー2ーメチルプロパノエート)、グリセロールトリス(2-ヨードイソブチレート)、1,3,5-トリス(ヨードエチル)ベンゼン等が挙げられる。
ヨウ素原子で保護された開始点を3個以上有するドーマント種は、市販品からも入手可能であるが、有機ハロゲン化合物のハロゲン原子をヨウ素原子に置換する方法で製造できる。例えば、対応する臭素化物をアセトン中でヨウ化ナトリウムと室温で2時間反応させ、副生する臭化ナトリウムを沈殿除去することによって製造できる。
ドーマント種の使用量は、所望の分子量に応じて設定できる。
【0035】
触媒は、重合鎖末端のヨウ素原子を引き抜いて精密ラジカル重合を進行させる機能を有するものを用いる。例えば、テトラブチルアンモニウムヨージド、エチルメチルイミダゾリウムヨージド等の第四級アンモニウムヨージド;トリブチルスルホニウムヨージド等のスルホニウムヨージド;ジフェニルヨードニウムヨージド等のヨードニウムヨージド;トリブチルメチルホスホニウムヨージド等のホスホニウムヨージド;テトラキス(ジメチルアミノ)エチレン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン等のアミン類;トリフェニルホスフィン、トリス(2-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン等のホスフィン類;が挙げられる。触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
触媒の使用量は、所望の重合度や重合時間に応じて設定できる。例えば、開始剤として用いるドーマント種のヨウ素原子に対して0.05~10モル当量が好ましく、0.3~8モル当量がより好ましく、1~6モル当量がさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であると、重合速度が遅くなりすぎないため、重合時間が長くならず、所定の重合時間で所望の分子量の重合体を得ることが容易となる。上限値以下であると重合速度が速くなりすぎず、分子量分布を狭くできる。
【0036】
高分子開始剤の製造時には、溶媒を用いてもよい。
溶媒としては、例えば水、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブチルアルコール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級あるいは多価のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワジールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶媒;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロゾルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;ジアルキルグリコールエーテル類等が挙げられる。
溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒を用いる場合の使用量は、例えば重合反応に用いる全モノマーの1質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.3~2質量部がより好ましい。
【0037】
高分子開始剤の製造時には、さらにヨウ素を用いてもよい。
ヨウ素の使用量は、ヨウ素末端に対し0.01~0.1モル当量が好ましく、0.03~0.07モル当量がより好ましい。下限値以上であると分子量を制御しやすくヨウ素末端を補償でき、上限値以下であると適度な重合速度が得られる点から好ましい。
ヨウ素を用いる場合には、前記溶媒に溶解してヨウ素の溶液として用いることが好ましい。
【0038】
高分子開始剤の重合反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
高分子開始剤の重合反応は、加熱により製造することができるが、所定のエネルギーに対応する波長の光を照射して重合反応を生起させてもよい。光を照射して重合を進める場合には、後述の反応温度よりも低い温度で重合することが可能であり、また、低沸点のモノマーも重合でき、また、重合の暴走を抑制できる点からも好ましい。
重合反応は90℃以上で行われる。重合温度は90~140℃が好ましく、100~130℃がより好ましく、110~120℃がさらに好ましい。
また、紫外線等の光を照射して重合を進める場合の照度としては、1mW/cm以上であってよく、10~100mW/cmが好ましい。
反応時間は、反応温度や目的とする分子量によっても異なるが、通常10分~150時間程度であり、好ましくは10分~24時間程度である。
【0039】
重合反応の終了後、加熱により製造した場合は反応液の温度を0~40℃程度に下げた後、必要に応じて、水、メタノール、ジエチルエーテル、ヘプタン等の貧溶媒で沈殿精製し、固液分離して目的の重合体が得られる。
重合反応から精製、固液分離に至る操作は遮光下で行うことが好ましい。また製造後の保管も、遮光下で行うことが好ましい。
【0040】
<分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物>
分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレートや、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートや、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物、イソシアヌレート構造を有する多官能(メタ)アクリレート等の窒素原子含有複素環構造を有する3官能以上の多官能(メタ)アクリレート;デンドリマー構造を有する3官能以上の多官能(メタ)アクリレート、ハイパーブランチポリマー構造を有する多官能(メタ)アクリレート等の多分岐樹枝状構造を有する3官能以上の多官能(メタ)アクリレート;トリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートが付加した3官能以上のウレタン(メタ)アクリレート、イソシアネート化合物とジオール化合物を反応させて得られた末端にイソシアネート基を有する反応生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートが付加したウレタン(メタ)アクリレート等の3官能以上のウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いることも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
本発明においては硬化膜の表面強度を向上するために分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を用いるが、1分子中のエチレン性不飽和結合の上限値は特に限定されるものではない。1分子中のエチレン性不飽和結合の上限値は、通常、15個以下であり、反応率の点から、好ましくは10個以下、より好ましくは6個以下、更に好ましくは5個以下である。
【0042】
これらのうち、表面強度を向上しやすい点から、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド変性トリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
中でも特に高分子開始剤の溶解性の点では3官能アクリレートが好ましく、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0043】
本発明に用いられる高分子開始剤と分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計100質量部に対して、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物は30~95質量部が好ましく、50~90質量部がより好ましく、70~85質量部がさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化膜の表面強度が向上し、上限値以下であると硬化膜の屈曲性が向上しやすい。
【0044】
本発明に用いられる硬化性組成物において、前記高分子開始剤と前記分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計含有割合は、硬化性組成物の固形分全量に対して、60~100質量%であってよく、70~99質量%であってよく、80~97質量%であってよい。本発明において硬化性組成物中の固形分とは、硬化性組成物に含まれる溶媒以外の成分の合計を意味し、液状モノマー等も含まれる。
【0045】
<硬化触媒>
本発明の硬化性組成物は、さらに硬化触媒を含有することが好ましい。硬化触媒は、前記高分子開始剤の末端のヨウ素原子を引き抜いて精密ラジカル重合を進行させる機能を有するものを用いることが好ましい。硬化触媒の例示は、前記高分子開始剤の製造方法において用いる触媒の例示と同様であってよい。硬化触媒は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
硬化触媒の含有量は、本発明に用いられる高分子開始剤と分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物の合計100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。前記範囲の下限値以上であると光硬化性が良好なものとなり、表面強度を向上しやすく、上限値以下であると透明性に優れる硬化膜を得やすい。
【0046】
<その他の成分>
本発明の硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物、及び硬化触媒以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、溶媒、分子内に1個または2個のエチレン性不飽和結合を有する化合物、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機又は無機粒子などの公知の添加剤が挙げられる。これらのその他の成分としては、従来公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0047】
溶媒としては、特に限定されるものではなく、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物や下地となる支持体の材質、組成物の塗布方法などを考慮して適宜選択される。溶媒の具体例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。
これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒及びケトン系溶媒が好ましく使用される。
【0048】
溶媒の使用量には特に制限はなく、調製される硬化性組成物の塗布性、液の粘度・表面張力、固形分の相溶性等を考慮して適宜決定される。通常、本発明の硬化性組成物は、上述の溶媒を用いて固形分濃度が20~100質量%、好ましくは30~100質量%の塗液として調製される。なお、本発明の硬化性組成物は溶媒を含まず、固形分100質量%のものであってもよい。
【0049】
<硬化性組成物の調製方法>
硬化性組成物の調製方法は特に限定されず、例えば分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物と、と、必要に応じて添加される硬化触媒などの成分を混合することにより調製できる。
【0050】
[硬化膜の製造]
本発明に用いられる硬化性組成物を後述する支持体の上で硬化させることにより、支持体の上に硬化性組成物の硬化膜を形成できる。具体的には、硬化性組成物を支持体上に塗布し、必要であれば乾燥させ、得られた塗膜に活性エネルギー線照射と加熱のうちの少なくとも1種を行うことによって硬化させ、硬化膜を得ることができる。生産性の点から、得られた塗膜に活性エネルギー線照射を行うことによって硬化させ、硬化膜を得てよい。
なお、本明細書において活性エネルギー線とは、代表的に、紫外線、電子線、X線、α線、β線、γ線のような電離放射線、マイクロ波、高周波等を意味する。しかし、活性エネルギー線は、上記に限定されるものではなく、ラジカル性活性種を発生させ得るならば、いかなるエネルギー種でもよく、可視光線、赤外線、およびレーザー光線でもよい。
【0051】
本発明に用いられる硬化性組成物を支持体上に塗布する法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スピンコート法、ローラーコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法等が例示できる。
【0052】
硬化性組成物(塗膜)を硬化させるための活性エネルギー線の照度は特に限定されるものではないが、好ましくは1,000mW/cm以下であり、より好ましくは600mW/cm以下であり、より好ましくは300mW/cm以下であり、更に好ましくは200mW/cm以下であり、特に好ましいのは100mW/cm以下である。また、硬化性組成物(塗膜)を硬化させるための活性エネルギー線の照度は好ましくは1mW/cm以上であり、より好ましくは5mW/cm以上であり、更に好ましくは10mW/cm以上であり、特に好ましいのは15mW/cm以上である。照度が上記上限以下であると相分離構造を形成するのに十分な重合時間が確保されるために好ましい。また、照度が上記下限以上であると活性エネルギー線照射により高分子開始剤の末端活性ラジカルが重合に必要な量発生するため所望の相分離構造を形成し易くなるために好ましい。
【0053】
硬化性組成物(塗膜)を硬化させるための活性エネルギー線の照射時間は特に限定されるものではないが、好ましくは1分以上であり、より好ましくは10分以上であり、更に好ましくは30分以上であり、特に好ましくは60分以上である。また、硬化性組成物(塗膜)を硬化させるための活性エネルギー線の照射時間は好ましくは24時間以内であり、より好ましくは10時間以内であり、更に好ましくは5時間以内であり、特に好ましいのは2時間以内である。活性エネルギー線の照射時間が上記下限以上であると、高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とによって架橋が進むために膜の強度が高くなり易いため好ましい。また、活性エネルギー線の照射時間が上記上限以内であると相分離が形成するまでに必要な時間が十分に確保されるために好ましい。
【0054】
また、硬化性組成物(塗膜)を硬化させるための活性エネルギー線の積算光量は特に限定されるものではないが、積算光量が100mJ/cm~20,000mJ/cmとなるよう照射することが好ましい。
光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド、キセノンフラッシュ、紫外線LED、電子線、カーボンアークランプ、ヘリウム・カドミウムレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、およびアルゴンレーザーなどが例示できる。
【0055】
硬化性組成物(塗膜)を硬化させるために活性エネルギー線を照射する際には、硬化性組成物(塗膜)を後述する支持体のうち、透明基材により塗膜を被覆した後、活性エネルギー線を照射してもよい。透明基材により塗膜を被覆した後、活性エネルギー線を照射すると、塗膜表面の酸素による重合阻害を抑制することができ、硬化時間を短縮でき、表面強度を高くすることができる。
【0056】
後述の実施例に示されるように、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を含む硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、高分子開始剤の末端から分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が重合することで、相分離後のドメインの界面が共連続構造を取り、且つ、架橋構造が緻密になることから、ドメインのサイズが小さくなるため硬化膜が透明になり、且つ、表面強度が高くなるものと考えられる。
なお、ここで、「相分離構造」とは、原子間力顕微鏡(AFM)による解析において位相像として、区別される構造を有していることを意味し、相分離構造の有無は、後述の原子間力顕微鏡(AFM)による解析により確認することができる。
【0057】
具体的には、AFMで測定した硬化膜断面の位相像(AFM像)において、硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積(ここで、比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が、80.0μm-1以上であってよく、さらに90.0μm-1以上であってよい。
本発明の膜における比表面積は膜内部に形成された相分離構造のドメインサイズの指標となるものであり、比表面積の値が大きいほどドメインサイズは小さいことを示す。
【0058】
本発明の硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積は、硬化膜の断面のうち、硬化膜表面(支持体とは反対側の表面)から深さ3μm~5μmまでの1μm×1μm領域の3領域について、原子間力顕微鏡(AFM)測定を行って、3領域の測定から得られた値の算術平均値とする。 硬化膜表面(支持体とは反対側の表面)から深さ3μm~5μmまでの領域に支持体表面から1μm以内の領域が含まれる場合には、支持体表面から1μm以内の領域が含まれないように測定する。硬化膜の膜厚が4μm以下の場合には、膜厚の中央部において1μm×1μm領域の3領域を選択して測定する。なお、膜厚が1μm以下の場合には、膜厚の中央部において、膜厚の半分の厚み部分を測定する。
【0059】
硬化膜の相分離構造の有無、およびドメインの比表面積は、具体的には、以下の方法で求める。
得られた積層体を1mm×1cmのサイズに切り出し、電子顕微鏡用平板包埋板(堂阪イーエム株式会社)に入れ、更に包埋樹脂(東亜合成社製 可視光硬化性包埋樹脂「アロニックスLCR D-800」)を半分まで入れ、10秒間紫外線照射(ランプ:USHIO社製、「SP-9 SPOT CURE」)する。硬化により流動性が低くなった前述の包埋樹脂中に切り出した硬化膜付PET基板を中心に配置させ、更に包埋樹脂を加えて、包埋樹脂が完全に硬化するまで紫外線照射する。サンプルを含有する包埋樹脂を常温切削ウルトラミクロトーム(ライカ社製、「EM UC7」)にて平滑な断面を切り出し、断面を操作プローブ顕微鏡(Oxford Instruments社製「MFP-3D」)を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)観察(タッピングモード)を行う。
AFM観察(タッピングモード)の測定条件は次の通りである。
プローブとしてOLYMPUS社製「OMCL-AC160TS R3Target」を用いて、ピエゾ素子に加える電圧信号で自由振幅の際の振幅値(Amplitude)を1V、測定時のプローブの振幅値(Set Point)を800mVを初期値として測定を開始する。2つのパラメーターを変えて、すべての測定点において位相が90度以下となるように設定する(斥力モードで測定した)。振幅の変化を0にするように調節する速さ(Gain、エラーへの応答速度)を発振する手前まで上げる。
設定値
Scan Size:1μm
Scan Rate:1.0Hz
Scan Point, Scan Line(解像度):256
Scan Angle:90度
また、比表面積は下記方法により解析して求める。
【0060】
(比表面積の解析)
画像解析ソフトウェア(Oxford Instruments社製 Asylum Research MFP3D 120804)用いて以下の手順に従って比表面積を算出する。
AFM(原子間力顕微鏡)で測定した硬化膜断面の位相像(AFM像)を開き、ベースラインをゼロ点補正(0次でフィッティング)することで、画像を平滑化する。具体的には、「Modify panel」の「Flatten」タブの「Flatten order」を「0」として「Flatten」をクリック、「Planefit」タブの「Planefit order」を「3」にし「X」をクリックする。さらに、操作:「Modify panel」の「Mask」タブの「Threshold」を0にして、「inverse」のチェックを外し、「Calc Mask」をクリックすることでゼロ点で0以上にマスクを設定する。続いて、0以下のエリアを粒子として認識させるために、「Analyze panel」の「Particle analysis」タブの「Set particle」をクリックし、続いて「Analysis Particles」をクリックする。解析終了後、「Detailed Stats」を開き、「Perimeter」の値を「Area」で割ることで比表面積(比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が算出される。
【0061】
また、硬化膜は、以下の引掻き強度試験で測定される表面強度が、0.50N以上であってよく、さらに0.54N以上であってよく、0.60N以上であってよく、0.70N以上であってもよい。
[引掻き強度試験:連続荷重式表面性測定機を用いて、直径0.05mmのサファイア針を使用し、移動距離10mm、移動速度0.2mm/secで硬化膜上を引掻き、荷重を0.05Nから1.96Nまで0.2mNごとに変化させて摩擦力を測定し、可変する荷重をxとしたときに、荷重xとx-0.02Nの範囲で、摩擦力の最大値fmaxと、最小値fminと、平均値faveを求め、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時の荷重Xを表面強度とする。]
表面強度の指標とする前記荷重Xは、摩擦力の値に乱れが確認され始めた、膜面傷付き開始荷重を表す。
図7は、表面強度測定の荷重Xの求め方を説明する図であり、摩擦力測定の一部拡大図である。図7に示すように、可変する荷重をxとしたときに、“x-0.02(N)~x(N)の範囲”の摩擦力において、最大値fmaxと、最小値fminと、x-0.02(N)~x(N)の範囲に含まれる0.2mNごとの計101点の摩擦力の平均値faveとを求める。そして、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は、[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時を荷重Xとし、摩擦力の値に乱れが確認され始めた膜面傷付き開始荷重とする。
上記引掻き強度試験は、積層体の中央部の硬化膜表面を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とする。本明細書における「3回測定する」とは、同じ場所を3回測定するのではなく、異なる3箇所を測定することを意味するものとする。
【0062】
2.支持体
本発明の積層体に用いられる支持体の構成材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル系樹脂、アセチルセルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の光透過性樹脂やこれらの混合物、又は、ガラス等が挙げられる。支持体は必要に応じて、可塑剤、紫外線吸收剤、易滑剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
【0063】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートの少なくとも1種を構成成分とする樹脂等が挙げられる。
アセチルセルロース系樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂が挙げられる。なお、トリアセチルセルロース系樹脂としては、純粋なトリアセチルセルロース以外に、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートの如くセルロースとエステルを形成する脂肪酸として酢酸以外の成分も併用した物であってもよい。また、これらトリアセチルセルロースには、必要に応じて、ジアセチルセルロース等の他のセルロース低級脂肪酸エステルが添加されていてもよい。
シクロオレフィンポリマー系樹脂としては、例えばノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンモノマー等の重合体が挙げられる。シクロオレフィンポリマー系基材の市販品としては、例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオネックスやゼオノア(ノルボルネン系樹脂)、住友ベークライト株式会社製のスミライトFS-1700、JSR株式会社製のアートン(変性ノルボルネン系樹脂)、三井化学株式会社製のアペル(環状オレフィン共重合体)、Ticona社製のTopas(環状オレフィン共重合体)、日立化成株式会社製のオプトレッツOZ-1000シリーズ(脂環式アクリル樹脂)等が挙げられる。
【0064】
折り畳み試験において割れ又は破断が発生しにくいだけでなく、優れた硬度及び透明性をも有する点から、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂であってもよい。なお、ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミドのみならず、芳香族ポリアミド(アラミド)を含む概念である。
【0065】
支持体としては、光透過性を有する光透過性基材であってよい。本明細書における「光透過性」とは、光を透過させる性質を意味し、例えば、全光線透過率が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であることを含む。光透過性とは、必ずしも透明である必要はなく、半透明であってもよい。
上記全光線透過率は、後述する積層体の全光線透過率と同様に、ヘイズメーターを用いてJIS K7361-1:1997に準拠した方法により測定する。
【0066】
支持体の厚みは、用途に応じて適宜選択できる。支持体の厚みは、例えば25~1000μm程度であってよい。
例えば、ディスプレイ表示装置に用いる場合は軽量化や薄型化の観点から、25~200μmが好ましい。
【0067】
支持体は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理や下塗り処理が施されていてもよく、易接着層を備えていてもよい。これらの処理が予め施されていることで、支持体上に形成される前記硬化膜等との密着性を向上させることができる。また、前記硬化膜等を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄等により、支持体の表面は、除塵、清浄化されていてもよい。
【0068】
3.特性
本発明の積層体のヘイズ値は、1.0%以下であることが好ましい。積層体のヘイズ値が1.0%以下であれば、優れた透明性を得ることができる。上記ヘイズ値は、0.7%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がより更に好ましく、数値が小さいほど好ましい。
本発明の積層体において、支持体と前記硬化膜のみの積層体のヘイズ値は、1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下が更に好ましく、0.3%以下がより更に好ましく、数値が小さいほど好ましい。
ヘイズ値(%)は、ヘイズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠した方法により測定する。上記ヘイズ値は、積層体の中央部を50mm×50mmの大きさに切り出した後、硬化膜表面側が非光源側となるように設置し、積層体1つに対して異なる箇所を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とする。
【0069】
また、本発明の積層体の全光線透過率は、88.0%以上であることが好ましい。積層体の全光線透過率が88.0%以上であれば、優れた透明性を得ることができる。上記全光線透過率は、90.0%以上であることがより好ましく、数値が大きいほど好ましい。
本発明の積層体において、支持体と前記硬化膜のみの積層体の全光線透過率は、88.0%以上であることが好ましく、90.0%以上であることがより好ましい。
全光線透過率(%)は、ヘイズメーターを用いてJIS K7361-1:1997に準拠した方法により測定する。上記全光線透過率は、積層体の中央部を50mm×50mmの大きさに切り出した後、硬化膜表面側が非光源側となるように設置し、積層体1つに対して異なる箇所を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とする。
なお、ヘイズや全光線透過率を測定するために、積層体を50mm×50mmの大きさに切り出せない場合、ヘイズメーターの入口開口の直径より大きい大きさに積層体を切り出してもよい。光学フィルムの大きさが小さい場合は、光源スポットが外れない範囲で少しずつずらす、または角度を変えるなどして測定点を3箇所にする。
【0070】
4.その他の機能層
本発明の積層体には、支持体と前記硬化膜の他に、必要に応じて、その他の機能層をさらに備えていてもよい。その他の機能層は、用途に応じて適宜選択される。
本発明の積層体に含まれるその他の機能層としては、例えば、紫外線吸収層、粘着層、屈折率調整層、色相調整層、帯電防止層、ハードコート層等が挙げられる。その他の機能層としては、従来公知の層を適宜選択して用いることができる。
【0071】
5.用途
本発明の硬化膜を備えた積層体は、硬化膜が膜内部に相分離構造を有し、ドメインサイズが小さく、透明性に優れ、かつ高い表面強度を有するものを得ることが可能であるため、特に各種の光学用途に用いられる光学フィルムとして好適に使用され得る。
【0072】
II.第2の実施形態の積層体
本発明の第2の実施形態の積層体は、支持体と、当該支持体の少なくとも一方の面に相分離構造を有する硬化膜とを有し、
前記硬化膜は、ヨウ素を含み、
前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積(ここで、比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が、80.0μm-1以上であり、
前記硬化膜は、以下の引掻き強度試験で測定される表面強度が、0.50N以上である積層体である。
[引掻き強度試験:連続荷重式表面性測定機を用いて、直径0.05mmのサファイア針を使用し、移動距離10mm、移動速度0.2mm/secで硬化膜上を引掻き、荷重を0.05Nから1.96Nまで0.2mNごとに変化させて摩擦力を測定し、可変する荷重をxとしたときに、荷重xとx-0.02Nの範囲で、摩擦力の最大値fmaxと、最小値fminと、平均値faveを求め、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時の荷重Xを表面強度とする。]
【0073】
本発明の第2の実施形態の積層体は、前記硬化膜がヨウ素を含み、前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積が、80.0μm-1以上であり、且つ、前記所定の引掻き強度試験で測定される表面強度が、0.50N以上であることから、膜内部に相分離構造を有し、かつ高い表面強度を有する積層体を提供することができる。
前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積が、80.0μm-1以上とドメインが小さいことから、透明性も良好になる。
本発明の第2の実施形態の積層体において、前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積は、さらに90.0μm-1以上であってよい。
本発明の第2の実施形態の積層体において、前記所定の引掻き強度試験で測定される表面強度は、0.54N以上であってよく、0.60N以上であってよく、0.70N以上であってもよい。
【0074】
本発明の第2の実施形態の積層体において、前記硬化膜がヨウ素を含むことは、X線光分光法により確認することができる。
本発明の第2の実施形態の積層体において、前記硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積は、前述の積層体の相分離構造のドメインの比表面積と同様に測定するものとする。
本発明の第2の実施形態の積層体において、表面強度は、前述の積層体の表面強度と同様に測定するものとする。
【0075】
本発明の第2の実施形態の積層体は、ヘイズ値が、1.0%以下であることが好ましい。積層体のヘイズ値が1.0%以下であれば、優れた透明性を得ることができる。上記ヘイズ値は、0.7%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がより更に好ましく、数値が小さいほど好ましい。
当該ヘイズ値は、前述の積層体のヘイズ値と同様に測定するものとする。
【0076】
また、本発明の第2の実施形態の積層体は、全光線透過率は、88.0%以上であることが好ましい。積層体の全光線透過率が88.0%以上であれば、優れた透明性を得ることができる。上記全光線透過率は、90.0%以上であることがより好ましく、数値が大きいほど好ましい。
当該全光線透過率は、前述の積層体の全光線透過率と同様に測定するものとする。
【0077】
本発明の第2の実施形態の積層体において、相分離構造を有する硬化膜は、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する硬化性組成物の硬化膜であってよい。本発明の第2の実施形態の積層体において用いられる、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とは、それぞれ、前述と同様であってよい。また、相分離構造を有する硬化膜は、前述の本発明に用いられる硬化性組成物に含有し得るその他の成分又はその反応物が含まれていてもよい。
【0078】
本発明の第2の実施形態の積層体において、支持体は、前述と同様であってよい。
本発明の第2の実施形態の積層体において、さらに含まれていてもよい機能層は、前述と同様であってよい。
本発明の第2の実施形態の積層体において、用途は、前述と同様であってよい。
【0079】
III.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、前記本発明の積層体を含む。
本発明の光学フィルムとしては、例えば、ハードコートフィルム、帯電防止コートフィルム、防眩コートフィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、楕円偏光フィルム、反射防止フィルム、光拡散フィルム、輝度向上フィルム、プリズムフィルム(プリズムシートともいう)、導光フィルム(導光板ともいう)等が挙げられる。
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置、PDPモジュール、タッチパネルモジュール、有機ELモジュール等の表示装置に用いられる。
【実施例0080】
[評価方法]
以下、特に断りがない場合は、温度25℃、湿度50%の環境で測定又は評価を行った。
実施例及び比較例の硬化膜又は積層体評価において、硬化膜の表面強度はガラス基材に硬化膜を備えた積層体を用いて測定し、ドメインの比表面積及び光学特性の評価はPET基材に硬化膜を備えた積層体を用いて測定した。
【0081】
<高分子開始剤の分子量測定>
GPC測定法により以下の条件にて、得られた高分子開始剤の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。
機器:島津製作所製「RID-10A/CBM-20A/DGU-20A3,LC-20AD/DPD-M20A/CTO-20A」
カラム:東ソー社製「TSKgel superHM-N」
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)
溶媒:クロロホルム、温度:40℃、流速:0.3mL/分、注入量:20μL
濃度:0.1質量%
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン
【0082】
<高分子開始剤の末端構造の同定>
MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization:マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)-TOF(Time Of Flight:飛行時間型)法(Bruker社製「Autoflex III」を使用)、励起レーザー強度:出力60%)でポリマーの分子量を測定し、下記数式(II)に適合する分子量が確認されるか否かで末端構造を同定した。
数式(II)
MIN+(MM1×N1+MM2×N2+・・・)+MI×NI+MH
又は
MIN+(MM1×N1+MM2×N2+・・・)+MI×NI+MNa
MIN:ヨウ素乖離後の開始剤の分子量
MM1、MM2・・・:主幹ポリマーを構成するモノマーの分子量(M1、M2・・・は異なるモノマーを表す。)
N:自然数
MI:ヨウ素原子の原子量(=126.90)
NI:ヨウ素原子の数
MH:水素原子の原子量(=1.01)
MNa:ナトリウム原子の原子量(22.99)
【0083】
<硬化膜の相分離構造のドメインの比表面積>
得られた積層体(硬化膜付PET基板)を1mm×1cmのサイズに切り出し、電子顕微鏡用平板包埋板(堂阪イーエム株式会社)に入れ、更に包埋樹脂(東亜合成社製 可視光硬化性包埋樹脂「アロニックスLCR D-800」)を半分まで入れ、10秒間紫外線照射(ランプ:USHIO社製、「SP-9 SPOT CURE」)した。硬化により流動性が低くなった前述の包埋樹脂中に切り出した硬化膜付PET基板を中心に配置させ、更に包埋樹脂を加えて、包埋樹脂が完全に硬化するまで紫外線照射した。サンプルを含有する包埋樹脂を常温切削ウルトラミクロトーム(ライカ社製、「EM UC7」)にて平滑な断面を切り出し、断面を操作プローブ顕微鏡(Oxford Instruments社製「MFP-3D」)を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)観察(タッピングモード)を行った。
硬化膜断面のうち、硬化膜表面(支持体とは反対側の表面)から深さ3μm~5μmまでの1μm×1μm領域の3領域について、原子間力顕微鏡(AFM)測定を行って、3領域の測定から得られた比表面積の解析値の算術平均値を求め、比表面積とした。
【0084】
AFM観察(タッピングモード)の測定条件は次の通りである。
プローブとしてOLYMPUS社製「OMCL-AC160TS R3Target」を用いて、ピエゾ素子に加える電圧信号で自由振幅の際の振幅値(Amplitude)を1V、測定時のプローブの振幅値(Set Point)を800mVを初期値として測定を開始した。2つのパラメーターを変えて、すべての測定点において位相が90度以下となるように設定した(斥力モードで測定した)。振幅の変化を0にするように調節する速さ(Gain、エラーへの応答速度)を発振する手前まで上げた。
設定値
Scan Size:1μm
Scan Rate:1.0Hz
Scan Point, Scan Line(解像度):256
Scan Angle:90度
また、比表面積は下記方法により解析して求めた。
【0085】
(比表面積の解析)
画像解析ソフトウェア(Oxford Instruments社製 Asylum Research MFP3D 120804)用いて以下の手順に従って比表面積を算出した。
AFM(原子間力顕微鏡)で測定した硬化膜断面の位相像(AFM像)を開き、ベースラインをゼロ点補正(0次でフィッティング)することで、画像を平滑化する。具体的には、「Modify panel」の「Flatten」タブの「Flatten order」を「0」として「Flatten」をクリック、「Planefit」タブの「Planefit order」を「3」にし「X」をクリックする。さらに、操作:「Modify panel」の「Mask」タブの「Threshold」を0にして、「inverse」のチェックを外し、「Calc Mask」をクリックすることでゼロ点で0以上にマスクを設定する。続いて、0以下のエリアを粒子として認識させるために、「Analyze panel」の「Particle analysis」タブの「Set particle」をクリックし、続いて「Analysis Particles」をクリックする。解析終了後、「Detailed Stats」を開き、「Perimeter」の値を「Area」で割ることで比表面積(比表面積[μm-1]=境界線の長さ[μm]/面積[μm])が算出される。
【0086】
<硬化膜の表面強度>
連続荷重式表面性測定機(製品名「トライボギア Type 22H」、新東科学株式会社製)を用いて、直径0.05mmのサファイア針を使用し、移動距離10mm、移動速度0.2mm/secで硬化膜の表面を引掻き、荷重を0.05Nから1.96Nまで0.2mNごとに変化させて摩擦力を測定し、可変する荷重をxとしたときに、荷重xとx-0.02Nの範囲で、摩擦力の最大値fmaxと、最小値fminと、平均値faveを求め、[(最大値fmax/平均値fave)-1]の値、又は[1-(最小値fmax/平均値fave)]の値のいずれかが、最初に0.20以上となる時の荷重Xを表面強度とした。
硬化膜表面の異なる箇所を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とした。
【0087】
<ヘイズ>
ヘイズ値(%)は、ヘイズメーター(製品名「HM-150」、村上色彩技術研究所製)を用いてJIS K7136:2000に準拠した方法により測定した。上記ヘイズ値は、積層体の中央部を50mm×50mmの大きさに切り出した後、硬化膜表面側が非光源側となるように設置し、積層体1つに対して異なる箇所を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とした。
【0088】
<全光線透過率>
全光線透過率(%)は、ヘイズメーター(製品名「HM-150」、村上色彩技術研究所製)を用いてJIS K7361-1:1997に準拠した方法により測定した。上記全光線透過率は、積層体の中央部を50mm×50mmの大きさに切り出した後、硬化膜表面側が非光源側となるように設置し、積層体1つに対して異なる箇所を3回測定し、3回測定して得られた値の算術平均値とした。
【0089】
(合成例1)
エチルアクリレート(15ml,300eq)、トリフェニルホスフィンPPh(723.05mg,6eq)、I(17.49mg,0.15eq)のアニソール溶液に、トリメチロールエタントリス(2-ヨード-2-メチルプロパノエート)(3官能開始剤)(325.34mg,1eq)を加え、窒素フローと減圧を1分間ずつ計30分繰り返すことで脱気した。UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで15分間光重合した。メタノールでの透析を経て3官能高分子ドーマント PEA-I(M=12,000,M/M=1.23)を無色粘性液体として得た。
【0090】
(合成例2)
エチルアクリレート(15ml,400eq)、トリフェニルホスフィンPPh(723.05mg,8eq)、I(17.49mg,0.20eq)のアニソール溶液に、ペンタエリスリトールテトラキス(2-ヨード-2-メチルプロパノエート)(4官能開始剤)(325.34mg,1eq)を加え、窒素フローと減圧を1分間ずつ計30分繰り返すことで脱気した。UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで15分間光重合した。メタノールでの透析を経て4官能高分子ドーマント PEA-I(M=16,000,M/M=1.20)を無色粘性液体として得た。
【0091】
(比較合成例1)
特開2019-151840号公報の段落0068を参照して、n-ブチルアクリレート単位からなる重合鎖の1つの末端にヨウ素原子が結合したヨウ素末端重合体(PBA-I、M=5,000,M/M=1.20)を無色透明粘稠液体として得た。
【0092】
(比較合成例2)
エチルアクリレート(15ml,300eq)、トリフェニルホスフィンPPh(723.05mg, 6eq)、I(17.49mg,0.15eq)のアニソール溶液に、エチル2-ヨードイソブチレート(単官能開始剤)(325.34mg,1eq)を加え、窒素フローと減圧を1分間ずつ計30分繰り返すことで脱気した。UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで15分間光重合した。メタノールでの透析を経て単官能高分子ドーマント PEA-I(M=4000,M/M=1.25)を無色粘性液体として得た。
【0093】
(比較合成例3)
エチルアクリレート(15ml,300eq)、トリフェニルホスフィンPPh(723.05mg,6eq)、I(17.49mg,0.15eq)のアニソール溶液に、エチレングリコールビス(2-ヨードイソブチレート)(2官能開始剤)(325.34mg,1eq)を加え、窒素フローと減圧を1分間ずつ計30分繰り返すことで脱気した。UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで15分間光重合した。メタノールでの透析を経て3官能高分子ドーマント PEA-I(M=8,000,M/M=1.29)を無色粘性液体として得た。
【0094】
(実施例1)
(1)PET基材の積層体
トリフェニルホスフィンPPh(13.11mg、3.9質量部)をトリメチロールプロパントリアクリレートTMPTA(0.210ml,70質量部)に溶解後、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部,1eq)を溶解させ、硬化性組成物1を調製した。易接着層付きPET基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン100A4160」)の易接着処理面に、硬化性組成物1を#16番のバーコーターを用いて成膜し、成膜面をガラス基材(松浪硝子工業株式会社製「白スライドグラスS1111」)で被覆した。ガラス基材側から、UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで1時間精密UV硬化し、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を得た。
(2)ガラス基材の積層体
前記(1)と同様にして硬化性組成物1を調製した。ガラス基材(松浪硝子工業株式会社製「白スライドグラスS1111」)に硬化性組成物1を#16番のバーコーターを用いて成膜し、成膜面をPET基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン100A4160」)の未処理面で被覆した。PET基材側から、UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで1時間精密UV硬化し、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を得た。
【0095】
(実施例2)
(1)PET基材の積層体
トリフェニルホスフィンPPh(13.11mg、3.9質量部)をトリメチロールプロパントリアクリレートTMPTA(0.210ml,70質量部)に溶解後、合成例2で得られたPEA-I(100mg,30質量部,1eq)を溶解させ、硬化性組成物2を調製した。易接着層付きPET基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン100A4160」)の易接着処理面に、硬化性組成物2を#16番のバーコーターを用いて成膜し、成膜面をガラス基材(松浪硝子工業株式会社製「白スライドグラスS1111」)で被覆した。ガラス基材側から、UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで1時間精密UV硬化し、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を得た。
(2)ガラス基材の積層体
前記(1)と同様にして硬化性組成物2を調製した。ガラス基材(松浪硝子工業株式会社製「白スライドグラスS1111」)に硬化性組成物2を#16番のバーコーターを用いて成膜し、成膜面をPET基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン100A4160」)の未処理面で被覆した。PET基材側から、UV照射装置としてウシオ電機製SP-9を用いて照度15mW/cmで1時間精密UV硬化し、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を得た。
【0096】
(比較例1)
(1)PET基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例1で得られたPBA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むPET基材の積層体を得た。
(2)ガラス基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例1で得られたPBA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むガラス基材の積層体を得た。
【0097】
(比較例2)
(1)PET基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例2で得られたPEA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むPET基材の積層体を得た。
(2)ガラス基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例2で得られたPEA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むガラス基材の積層体を得た。
【0098】
(比較例3)
(1)PET基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例3で得られたPEA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むPET基材の積層体を得た。
(2)ガラス基材の積層体
実施例1において、合成例1で得られたPEA-I(100mg,30質量部)の代わりに、比較合成例2で得られたPEA-I(100mg,30質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして、無色透明な硬化膜(膜厚20μm)を含むガラス基材の積層体を得た。
【0099】
実施例1、2の積層体及び比較例1~3の積層体の硬化膜の評価結果を表1に示す。
また、実施例1,2及び比較例3の積層体の硬化膜表面強度測定結果を図3に示す。
また、実施例1の積層体の硬化膜の断面のAFM像を図4に示す。
また、実施例2の積層体の硬化膜の断面のAFM像を図5に示す。
また、比較例3の積層体の硬化膜の断面のAFM像を図6に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、分子内末端に3個以上の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤と、分子内に3個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物とを含有する硬化性組成物を用いた本発明の実施例1~2の積層体は、硬化膜の内部にドメインの比表面積が大きい、すなわちドメインが小さい相分離構造を有し、高い表面強度を有する硬化膜を備えることが明らかにされた。本発明の実施例1~2の積層体は、全光線透過率が高く、且つヘイズが小さく、透明性にも優れていた。
一方、従来技術の特許文献2(特開2019-151840号公報)の実施例2に相当する高分子開始剤を用いた比較例1では、表面強度は0.13Nであり、硬化膜は表面強度が劣っていた。
実施例1の硬化膜の高分子開始剤の代わりに、炭素-ヨウ素結合当量は同じだが分子内末端に1個の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤を用いた比較例2では、実施例1及び2に比べてドメインの比表面積が小さい、すなわちドメインが大きい相分離構造を有する硬化膜となり、硬化膜は表面強度が劣っていた。
実施例1の硬化膜の高分子開始剤の代わりに、炭素-ヨウ素結合当量は同じだが分子内末端に2個の炭素-ヨウ素結合を有する高分子開始剤を用いた比較例3では、実施例1及び2に比べてドメインの比表面積が小さい、すなわちドメインが大きい相分離構造を有する硬化膜となり、当該硬化膜は表面強度が劣っていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7