(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126339
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】顔判定システム及びODデータ取得システム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240912BHJP
【FI】
G06T7/00 660A
G06T7/00 350B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034648
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】509335144
【氏名又は名称】株式会社JR西日本テクシア
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】末廣 和弥
(72)【発明者】
【氏名】浅野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】高月 啓太
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096CA05
5L096DA02
5L096FA66
5L096FA69
5L096GA51
5L096JA05
5L096JA22
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】顔画像が似ているか否かを判定する低コストの顔判定システムを提供する。
【解決手段】顔判定システム1は、学習済みの学習器2と、処理部3と、データベース4とを備える。学習器2は、複数の所定の学習用顔画像を判別するように学習済みであり、入力された顔画像が複数の学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データを生成する。顔判定システム1のデータ登録機能において、学習器2は、データ登録用顔画像が入力されて登録用多次元データを生成し、処理部3は、その登録用多次元データを含むデータをデータベース4に登録する。顔判定機能において、学習器2は、判定対象顔画像が入力されて判定対象多次元データを生成し、処理部3は、データベース4を参照し、その判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が判定対象顔画像に最も似ていると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔画像が入力される学習済みの学習器と、
前記学習器が出力したデータを処理する処理部と、
データを保存するデータベースとを備える顔判定システムであって、
前記学習器は、複数の所定の学習用顔画像を判別するように学習済みであり、入力された顔画像が複数の前記学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データを生成するものであり、
該顔判定システムは、データ登録機能と、顔判定機能とを有し、
データ登録機能において、
前記学習器は、データ登録用顔画像が入力されて登録用多次元データを生成し、
前記処理部は、その登録用多次元データを含むデータを前記データベースに登録し、
顔判定機能において、
前記学習器は、判定対象顔画像が入力されて判定対象多次元データを生成し、
前記処理部は、前記データベースを参照し、その判定対象多次元データに最も近似する前記登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が前記判定対象顔画像に最も似ていると判定することを特徴とする顔判定システム。
【請求項2】
前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離が小さいほどそれらの多次元データが近似すると処理することを特徴とする請求項1に記載の顔判定システム。
【請求項3】
前記データ登録機能において、前記処理部は、データ登録用顔画像から前記学習器が生成した登録用多次元データを、その登録用多次元データを一意に識別する識別符号と関連付けて前記データベースに登録し、
前記顔判定機能において、前記処理部は、前記データベースを参照し、前記判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データに関連付けられた識別符号を出力することを特徴とする請求項1に記載の顔判別システム。
【請求項4】
前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離の最小値が所定の閾値よりも大きいとき、前記判定対象顔画像に似た顔画像が前記データ登録用顔画像の中に無いと判定することを特徴とする請求項2に記載の顔判定システム。
【請求項5】
前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離の最小値が前記閾値以下のとき、その距離が最小値である前記登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が前記判定対象顔画像と同じであると判定することを特徴とする請求項4に記載の顔判定システム。
【請求項6】
車両における乗車地と降車地との間の利用者数のデータであるODデータを取得するODデータ取得システムであって、
請求項1又は請求項2に記載の顔判定システムと、
顔画像を撮像するカメラと、
乗車時及び降車時の車両の情報位置を取得する位置情報取得部とを有し、
該ODデータ記録システムは、データ登録機能と、顔判定機能とを有し、
乗車時に実行される前記データ登録機能において、
前記カメラは、データ登録用顔画像として乗車する人の顔画像を撮像し、
前記学習器は、そのデータ登録用顔画像から登録用多次元データを生成し、
前記処理部は、その登録用多次元データと乗車時の位置情報を各乗客の乗客データとして前記データベースに登録し、
降車時に実行される前記顔判定機能において、
前記カメラは、判定対象顔画像として降車する人の顔画像を撮像し、
前記学習器は、その判定対象顔画像から判定対象多次元データを生成し、
前記処理部は、前記データベースを参照し、降車時の位置情報が無い乗客データ中、前記判定対象多次元データに最も近似する前記登録用多次元データを含む乗客データに降車時の位置情報を追加することを特徴とするODデータ取得システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔画像が似ているか否かを判定する顔判定システム、及びその顔判定システムを有するODデータ取得システムに関する。
【背景技術】
【0002】
路線バスは、地域住民にとって重要な公共交通機関である。しかし、人口減少や感染症等の影響によりバス事業者の経営環境は大変厳しい。特に、バス事業者にとって閑散路線の維持は容易ではなく、利用者増とコストダウンの経営努力が行われている。バスの利便性を向上するとともに、運行を効率化するために、ODデータに基づいてバスの運行ダイヤを改善することが望まれる。ODはオリジン(Origin)とデスティネイション(Destination)の略語である。ODデータは、出発地(乗車地)と目的地(降車地)との間の利用者数のデータである。
【0003】
鉄道や都市部のバスでは、運賃のキャッシュレス決済にICカードが利用されている。ICカード利用時のデータを用いることにより、ODデータが得られる。しかし、このようなICカードを利用するシステムは、高コストであるので導入できない事業者もある。
【0004】
ICカードを用いずに乗客の乗車駅と降車駅を特定する乗客管理装置が提案されている(特許文献1参照)。この乗客管理装置は、カメラで乗客を撮像し、顔認証により人物を特定し、その乗客の乗車駅と降車駅を特定し、課金処理を行う。しかし、このような顔認証を利用する装置は、課金に対応できる高い精度で人物を特定するので、非常に高コストである。
【0005】
汎用の顔認証技術は、精度を向上する開発が進められており、バスに乗車している乗客のように、限られた人を対象とし、ODデータの取得のように、課金に対応できるほど高精度でなくていい用途には、品質過剰となる場合がある。さらに、ODデータの取得以外でも、低コストの簡易な顔認証技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、顔画像が似ているか否かを判定する低コストの顔判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の顔判定システムは、顔画像が入力される学習済みの学習器と、前記学習器が出力したデータを処理する処理部と、データを保存するデータベースとを備えるシステムであって、前記学習器は、複数の所定の学習用顔画像を判別するように学習済みであり、入力された顔画像が複数の前記学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データを生成するものであり、該顔判定システムは、データ登録機能と、顔判定機能とを有し、データ登録機能において、前記学習器は、データ登録用顔画像が入力されて登録用多次元データを生成し、前記処理部は、その登録用多次元データを含むデータを前記データベースに登録し、顔判定機能において、前記学習器は、判定対象顔画像が入力されて判定対象多次元データを生成し、前記処理部は、前記データベースを参照し、その判定対象多次元データに最も近似する前記登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が前記判定対象顔画像に最も似ていると判定することを特徴とする。
【0009】
この顔判定システムにおいて、前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離が小さいほどそれらの多次元データが近似すると処理することが好ましい。
【0010】
この顔判定システムにおいて、前記データ登録機能において、前記処理部は、データ登録用顔画像から前記学習器が生成した登録用多次元データを、その登録用多次元データを一意に識別する識別符号と関連付けて前記データベースに登録し、前記顔判定機能において、前記処理部は、前記データベースを参照し、前記判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データに関連付けられた識別符号を出力することが好ましい。
【0011】
この顔判定システムにおいて、前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離の最小値が所定の閾値よりも大きいとき、前記判定対象顔画像に似た顔画像が前記データ登録用顔画像の中に無いと判定することが好ましい。
【0012】
この顔判定システムにおいて、前記顔判定機能において、前記処理部は、前記判定対象多次元データと前記登録用多次元データとの間の距離の最小値が前記閾値以下のとき、その距離が最小値である前記登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が前記判定対象顔画像と同じであると判定することが好ましい。
【0013】
本発明のODデータ取得システムは、車両における乗車地と降車地との間の利用者数のデータであるODデータを取得するODデータ取得システムであって、請求項1に記載の顔判定システムと、顔画像を撮像するカメラと、乗車時及び降車時の車両の情報位置を取得する位置情報取得部とを有し、該ODデータ記録システムは、データ登録機能と、顔判定機能とを有し、乗車時に実行される前記データ登録機能において、前記カメラは、データ登録用顔画像として乗車する人の顔画像を撮像し、前記学習器は、そのデータ登録用顔画像から登録用多次元データを生成し、前記処理部は、その登録用多次元データと乗車時の位置情報を各乗客の乗客データとして前記データベースに登録し、降車時に実行される前記顔判定機能において、前記カメラは、判定対象顔画像として降車する人の顔画像を撮像し、前記学習器は、その判定対象顔画像から判定対象多次元データを生成し、前記処理部は、前記データベースを参照し、降車時の位置情報が無い乗客データ中、前記判定対象多次元データに最も近似する前記登録用多次元データを含む乗客データに降車時の位置情報を追加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の顔判定システムによれば、判定対象顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像を判定するので、ある程度の精度で、それらの顔画像が撮像された人が同一人物であるか否かが分かる。判定対象顔画像がデータ登録用顔画像のいずれかである条件下で顔判定システムを用いることにより、判定の精度が高くなる。顔判定システムは、顔画像から特徴量を抽出する顔認証システムではないので、低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の第1の実施形態に係る顔判定システムのブロック構成図である。
【
図2】
図2は同システムにおける学習器の学習用顔画像の説明図である。
【
図3】
図3は同システムにおける多次元データ生成の一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は同システムにおける複数の多次元データ生成を例示する説明図である。
【
図5】
図5は同システムにおけるデータ処理の処理フロー図である。
【
図6】
図6は同システムにおけるデータベースに登録されるデータの形式を例示する図である。
【
図7】
図7は同システムにおける判定対象多次元データと登録用多次元データを例示する図である。
【
図8】
図8は本発明の一実施形態に係るODデータ取得システムのブロック構成図である。
【
図9】
図9はODデータ取得システムにおけるデータ処理の処理フロー図である。
【
図10】
図10はODデータ取得システムにおけるデータベースに登録されるデータの形式を例示する図である。
【
図11】
図11は本発明の第2の実施形態に係る顔判定システムにおけるデータ処理の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る顔判定システムについて
図1乃至
図7を参照して説明する。
図1に示すように、顔判定システム1は、学習済みの学習器2と、処理部3と、データベース4とを備える。
【0017】
一般的に学習器とは、機械学習における学習システムである。機械学習には、学習の段階と認識の段階がある。学習器は、学習の段階において、与えられた学習データ(学習用のデータ)をもとに分類や判定した結果と、正答とを比較し、内部パラメーターを調整することによって、よりよい結果を導く。学習済みの学習器は、認識の段階において、学習データ以外の入力データについて分類や判定を行う。
【0018】
学習器2は、顔画像が入力される。つまり、学習器2の入力データは顔画像である。処理部3は、学習器2が出力したデータを処理する。データベース4は、データを保存する。
【0019】
学習器2及び処理部3は、どちらもハードウェアとしてCPUとメモリ等を有し、プログラムを実行することによって機能する。学習器2及び処理部3のハードウェアは、例えばPC(パーソナルコンピュータ)であり、1台のPCを兼用しても、それぞれ別のPCでもよい。データベース4は、電子的に保存され、アクセスできる組織化されたデータの集合である。データベース4のハードウェアは、例えばPCのSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)又はハードディスクである。
【0020】
顔判定システム1は、カメラ5が接続される。カメラ5は、1台でも複数台でもよい。カメラ5は、顔が写った画像(カメラ画像)を撮像する。カメラ5の撮像範囲がほぼ顔である場合、カメラ画像は、顔画像として顔判定システム1の学習器2に入力される。また、処理部3が前処理としてカメラ画像の顔部分を抽出して学習器2に入力してもよい。また、カメラ画像を学習器2にそのまま入力し、学習器2がその画像の顔部分を抽出してもよい。なお、顔判定システム1がその構成としてカメラ5を有してもよい。
【0021】
学習器2の機械学習について説明する。
図2に示すように、学習用顔画像は、機械学習における学習データであり、一定数の異なる人の顔画像である。学習用顔画像の数は、例えば100程度である。学習用顔画像の各々は、個人名ではなく、学習用顔画像を一意に特定するための識別符号である顔IDで特定される。
図2に示す例では、顔IDは、face001、face002、face003、……、face100である。学習器2の機械学習は、教師あり学習である。例えば、学習器2は、学習用顔画像face001が入力されると、その顔画像が学習用顔画像face001であると判別するように学習が行われる。他の顔IDの学習用顔画像についても同様であり、学習器2は、学習用顔画像facei(001≦i≦n,n=100)が入力されると、その顔画像が学習用顔画像faceiであると判別するように学習が行われる。このような機械学習により、学習器2は、複数nの所定の学習用顔画像facei(001≦i≦n)を判別(互いに区別)するように学習済みである。
【0022】
学習器2は、顔画像が入力されるが、顔認証システムではない。顔認証システムは、不特定の顔画像を特徴量と呼ばれる数値データに変換する。特徴量は、同一人物であるか否かを判定するために用いられる。これに対して、学習器2は、複数の所定の顔画像(学習用顔画像)を判別する(互いに区別する)。学習器2は、例えば、100クラス程度のクラスに分類する分類器(多クラス分類器)である。分類器は、顔認証システムと比べて低コストである。
【0023】
学習済みの学習器2に学習用顔画像以外の顔画像が入力された場合について説明する。例えば、
図3に示すように、学習用顔画像以外の顔画像が学習器2に入力される。
図3に示す例では、入力される顔画像にはID0001が付与されている。この例では、学習器2は、顔画像ID0001が学習用顔画像face001である信頼度として28%を出力し、学習用顔画像face002である信頼度として0%を出力し、学習用顔画像face003である信頼度として0%を出力し、学習用顔画像face004である信頼度として1%を出力し、学習用顔画像face005である信頼度として16%を出力し、以下同様に、学習用顔画像face100である信頼度として2%を出力している。入力された顔画像が学習用顔画像と同一ではない場合、各信頼度の数値は0%以上100%未満となる。この例では、顔画像ID0001は、学習用顔画像face001にある程度似ているので、学習用顔画像face001である信頼度が28%であり、学習用顔画像face002に全然似ていないので、学習用顔画像face002である信頼度が0%である。学習用顔画像がn個である場合、学習器2は、n個の信頼度を出力する。これにより、そのn個の信頼度を要素とするn次元データ(28,0,0,1,16,…,2)ができる。すなわち、学習器2は、入力された顔画像が複数nの学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データ(n次元データ)を生成する。その多次元データは、n次元空間の座標で表される。
【0024】
図4に例示するように、学習器2は、顔画像ID0001が入力されると、多次元データ(28,0,0,1,16,…,2)を生成する。別の顔画像ID0002が入力されると、別の多次元データ(12,0,0,0,5,…,0)を生成する。別の顔画像IDxxxxが入力されると、別の多次元データ(0,0,11,2,0,…,15)を生成する。入力される顔画像が異なると、生成される多次元データが異なる。後述するように、顔判定システム1は、このように生成される多次元データを用いて顔画像が似ているか否かを判定する。
【0025】
顔判定システム1におけるデータ処理の流れを説明する。
図5に示すように、顔判定システム1は、データ登録機能と、顔判定機能を有する。
【0026】
データ登録機能において、カメラ5は、データ登録用顔画像を撮像する(
図5のステップS001)。データ登録機能では、学習器2に入力される顔画像は、データ登録用顔画像である。そして、学習器2は、そのデータ登録用顔画像が入力されて登録用多次元データを生成する(S002)。登録用多次元データは、入力されたデータ登録用顔画像が複数nの学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データ(n次元データ)である。そして、処理部3は、その登録用多次元データを含むデータをデータベース4に登録する(S003)。このような処理によって、カメラが人のデータ登録用顔画像を撮像するたびに、各人のデータがデータベース4に登録される(S004)。
【0027】
図6に示すように、データベース4は、データを表形式のテーブルとして有する。テーブルの行であるレコードは、登録用多次元データを含む各人のデータに対応する。
【0028】
本実施形態では、処理部3は、データ登録機能において、データ登録用顔画像から学習器2が生成した登録用多次元データを、その登録用多次元データを一意に識別する識別符号(ID)と関連付けてデータベース4に登録する。データベース4のテーブルの列であるカラムには、識別符号(ID)と登録用多次元データのカラムがある。データベース4のカラムは、識別符号(ID)と登録用多次元データの2つに限定されず、識別符号(ID)に関連付けたそれ以外のデータのカラムを有してもよい。
【0029】
顔判定機能において、カメラ5は、判定対象顔画像を撮像する(
図5のステップS005)。顔判定機能では、学習器2に入力される顔画像は、判定対象顔画像である。そして、学習器2は、その判定対象顔画像が入力されて判定対象多次元データを生成する(S006)。判定対象多次元データは、入力された判定対象顔画像が複数nの学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データ(n次元データ)である。そして、処理部3は、データベース4を参照し、その判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が判定対象顔画像に最も似ていると判定する(S007及びS008)。
【0030】
多次元データの近似について説明する。本実施形態では、顔判定機能において、処理部3は、判定対象多次元データと登録用多次元データとの間の距離が小さいほどそれらの多次元データが近似すると処理する。
【0031】
n次元データ間(多次元データ間)の距離の代表的のものは、n次元ユークリッド空間におけるユークリッド距離である。n次元データは、n次元座標で表され、n次元の直交座標系において、n次元データp=(p1,p2,…,pn)とq=(q1,q2,…,qn)との間のユークリッド距離d(q,p)は、下記の数式1で算出される。
【0032】
【0033】
なお、n次元データ間の距離は、ユークリッド距離に限定されない。n次元を扱う数学において距離とは、距離の公理を満たす量である。
【0034】
距離の公理は、2点p,qが与えらえたとき、実数d(q,p)を与える規則であり、次の(1)~(4)の全てを満たすものを距離という。(1)d(q,p)≧0、距離は負にならない。(2)d(q,p)=0ならばp=q,かつp=qならばd(q,p)=0、距離が零なのは同じ点に限る。(3)d(p,q)=d(q,p)、対称律。(4)d(q,p)≦d(q,r)+d(r,p)、三角不等式。
【0035】
例えば、ユークリッド距離の2乗、すなわち数式1の平方根を外したものは、距離の公理を満たすので距離である。ユークリッド距離の大小関係は、ユークリッド距離の2乗の大小関係と同じであるので、距離の比較において平方根の計算は省略できる。また、例えば、(qi-pi)の絶対値(1≦i≦n)のi=1からnまでの総和も距離の公理を満たすので距離である。この距離の算出は、2乗の計算が不要である。
【0036】
なお、多次元データ(n次元データ)の近似は、n次元データ間の距離に限定されない。n次元データは、線形代数ではn次元ベクトル空間のベクトルでもあるので、例えば、多次元データの近似の判定に、ベクトルのコサイン類似度を用いてもよい。
【0037】
図7に示す例では、判定対象多次元データは、(24,1,0,0,8,…,0)である。登録用多次元データは、
図4、
図6に示す例と同じである。データ登録用顔画像ID0001の登録用多次元データは、(28,0,0,1,16,…,2)である。判定対象多次元データ(24,1,0,0,8,…,0)と、データ登録用顔画像ID0001の登録用多次元データ(28,0,0,1,16,…,2)との間の距離は、数式1で算出すると1.232である。同様に、判定対象多次元データと、データ登録用顔画像ID0002の登録用多次元データ(12,0,0,0,5,…,0)との間の距離は、1.846である。判定対象多次元データと、データ登録用顔画像IDxxxxの登録用多次元データ(0,0,11,2,0,…,15)との間の距離は、2.853である。処理部3は、その判定対象多次元データ(24,1,0,0,8,…,0)との距離が最小(1.232)である登録用多次元データ(28,0,0,1,16,…,2)の生成に用いられたデータ登録用顔画像ID0001が判定対象顔画像に最も似ていると判定する。すなわち、処理部3は、判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が判定対象顔画像に最も似ていると判定する。
【0038】
本実施形態では、顔判定機能において、処理部3は、データベース4を参照し、判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データに関連付けられた識別符号を出力する(上記の例ではID0001)。すなわち、処理部3は、判定対象顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像の識別符号を出力する。この識別符号により、データ登録用顔画像(識別符号がID0001~IDxxxx)のうち判定対象の顔画像(判定対象顔画像)に最も似ている顔画像(識別符号がID0001)が特定される。
【0039】
判定対象顔画像がデータ登録用顔画像のいずれかである条件下で顔判定システム1を用いると、判定用顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像は、同一人物の顔画像である蓋然性が高い。例えば、建物又は車両等に入った人の顔画像をデータ登録用顔画像とし、同じ建物又は車両等から出た人の顔画像を判定対象顔画像とすると、判定対象顔画像は、データ登録用顔画像のいずれかである。したがって、顔判定システム1は、建物又は車両等に出入りする人が同一人物であるか否かの判定に適している。
【0040】
以上、本実施形態に係る顔判定システム1によれば、判定対象顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像を判定するので、ある程度の精度で、それらの顔画像が撮像された人が同一人物であるか否かが分かる。判定対象顔画像がデータ登録用顔画像のいずれかである条件下で顔判定システム1を用いることにより、判定の精度が高くなる。顔判定システム1は、顔画像から特徴量を抽出する顔認証システムではないので、低コストである。
【0041】
本発明の一実施形態に係るODデータ取得システムについて
図8乃至
図10を参照して説明する。ODデータ取得システムは、顔判定システム1の一つの利用例であり、ODデータを取得するシステムである。ODデータは、車両における乗車地と降車地との間の利用者数のデータである。ODデータ取得システムは、降車する人がどの乗客に一番似ているかを判定することによってODデータを取得する。
【0042】
図8に示すように、ODデータ取得システム6は、顔判定システム1と、顔画像を撮像するカメラ5と、位置情報取得部7とを有する。ODデータ取得システム6は、車両に搭載される。本実施形態では、車両はバスである。位置情報取得部7は、乗車時及び降車時の車両の情報位置を取得する装置である。
【0043】
ODデータ取得システム6の構成要素である顔判定システム1は、学習済みの学習器2と、処理部3と、データベース4を有する。処理部3は、前述した顔判定システム1としての処理に加えて、ODデータ取得システム6固有の処理も行う。
【0044】
車両に乗車口と降車口がある場合、カメラ5は、乗車口と降車口にそれぞれ設けられる。車両に乗降口がある場合、カメラ5は、乗降口に設けられる。なお、カメラ5を顔判定システム1に含めてもよい。
【0045】
位置情報取得部7が取得する位置情報は、ODデータ取得システム6に入力される停留所情報である。車両に自車がどの停留所に停まっているかの停留所情報を有する機器が搭載されている場合、その機器が有する停留所情報がODデータ取得システム6に入力される。この場合、位置情報取得部7は、入力インタフェースである。車両の乗務員又は調査員が位置情報をODデータ取得システム6に手動で入力する場合には、位置情報取得部7は、入力操作を受ける入力装置である。位置情報取得部7が取得する位置情報は、衛星測位による緯度経度であってもよい。衛星測位は、例えば、GPS(全地球測位システム)又は準天頂衛星システムである。この場合、位置情報取得部7は、GPS受信機又は準天頂衛星システムの受信機である。停留所の緯度経度と、位置情報取得部7が取得した緯度経度から、乗車時の停留所(乗車地)及び降車時の停留所(降車地)が分かる。
【0046】
図9に示すように、ODデータ取得システム6は、データ登録機能と、顔判定機能とを有する。
【0047】
データ登録機能は、乗車時に実行される。そのデータ登録機能において、カメラ5は、データ登録用顔画像として乗車する人の顔画像を撮像する(
図9のステップS601)。そして、学習器2は、そのデータ登録用顔画像から登録用多次元データを生成する(S602)。そして、処理部3は、その登録用多次元データと、位置情報取得部7が取得した乗車時の位置情報を各乗客の乗客データとしてデータベース4に登録する(S603)。このような処理によって、カメラ5が乗車する人のデータ登録用顔画像を撮像するたびに、乗車した人の乗客データがデータベース4に登録される(S604)。
【0048】
図10に示すように、データベース4は、乗車した人を撮像した顔画像から生成した登録用多次元データのカラムと、乗車時の位置情報のカラムを少なくとも有する。また、乗客データは、降車時の位置情報のカラムがある。降車時の位置情報のカラムは、降車する前は空欄である。
【0049】
顔判定機能は、降車時に実行される(
図9参照)。その顔判定機能において、カメラ5は、判定対象顔画像として降車する人の顔画像を撮像する(S605)。そして、学習器2は、その判定対象顔画像が入力されて判定対象多次元データを生成する(S606)。判定対象多次元データは、入力された判定対象顔画像が複数nの学習用顔画像の各々である信頼度を要素とする多次元データ(n次元データ)である。そして、処理部3は、データベース4を参照し、降車時の位置情報が無い乗客データ中、すなわちまだ乗車している乗客の乗客データ中、判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データを含む乗客データに降車時の位置情報を追加する(S607及びS608)。
【0050】
これにより、ODデータ取得システム6において、降車した乗客の乗客データには、乗車時の位置情報と、降車時の位置情報が含まれることになり、ODデータが得られる(
図10参照)。また、降車時の位置情報が有る乗客データは、降車した乗客の乗客データであることが分かる。
【0051】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る顔判定システム10について
図1を流用し、
図11を参照して説明する。第2の実施形態の顔判定システム10は、判定対象顔画像がデータ登録用顔画像のいずれでもない場合に対応するための処理を第1の実施形態の顔判定システム1に追加したものである。本実施形態の顔判定システム10は、第1の実施形態の顔判定システム1と同様の構成を有し(
図1参照)、処理部3におけるデータ処理が一部追加される。第1の実施形態と同等の箇所には同じ符号を付している。以下の説明において、第1の実施形態と同等の箇所の説明は省略する。
【0052】
顔判定システム10におけるデータ処理の流れを説明する。
図11に示すように、第2の実施形態において、データ登録機能(S001~S004)及び顔判定機能の途中まで(S005~S008)は、第1の実施形態と同じである。本実施形態では、判定対象多次元データと登録用多次元データとの近似の判定に、前述した多次元データ間の距離を用いる。すなわち、判定対象多次元データと登録用多次元データとの間の距離が小さいほどそれらの多次元データが近似すると処理する。つまり、判定対象多次元データに最も近似する登録用多次元データは、それらの多次元データ間の距離が最小である(S007)。その距離が最小である登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が判定対象顔画像に最も似ていると判定する(S008)。
【0053】
そして、顔判定機能において、処理部3は、判定対象多次元データと登録用多次元データとの間の距離の最小値が所定の閾値よりも大きいとき(S009でYes)、その判定対象顔画像に似た顔画像がデータ登録用顔画像の中に無いと判定する(S010)。
【0054】
判定対象顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像が定量的似ていない(距離が閾値より大きい)ということは、その判定対象顔画像がどのデータ登録用顔画像にも似ていないからである。その閾値は、顔判定システム10にいろいろな顔画像を入力して出力される距離のデータに基づいて予め設定される。
【0055】
処理部3は、判定対象多次元データと登録用多次元データとの間の距離の最小値がその閾値以下のとき(S009でNo)、その距離が最小値である登録用多次元データの生成に用いられたデータ登録用顔画像が判定対象顔画像と同じであると判定する(S011)。
【0056】
判定対象顔画像に最も似ているデータ登録用顔画像が定量的に似ている(距離が閾値以下)ということは、そのデータ登録用顔画像が判定対象顔画像と同じである蓋然性が高い。その場合、データ登録用顔画像と判定対象顔画像は、同一人物の顔画像であると判定する。
【0057】
この顔判定システム10の利用例として、無人駅での駅内設備の一時利用時の同一人物判定に用いてもよい。例えば、顔判定システム10を無人駅に設け、改札内のトイレを借りるために入場した人の顔画像を撮像してデータ登録用顔画像とし、トイレを利用後に改札を出る人の顔画像を撮像して判定対象顔画像とし、顔判定システム10によって入場した人物との一致を確認して改札機を通過できるようにしてもよい。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、顔判定システム1又は10をODデータの取得や、無人駅での駅内設備の一時利用時の同一人物判定以外に用いてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1、10 顔判定システム
2 学習器
3 処理部
4 データベース
5 カメラ
6 ODデータ取得システム
7 位置情報取得部