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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126342
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】円偏光発光材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/86 20060101AFI20240912BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240912BHJP
   H10K 50/11 20230101ALI20240912BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240912BHJP
【FI】
C07D209/86 CSP
C09K11/06 640
H10K50/11
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034655
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「π共役分子の内部を探索空間とする未来材料の創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 識人
(72)【発明者】
【氏名】西本 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】忍久保 洋
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC10
3K107DD59
3K107DD66
(57)【要約】
【課題】新規な、ΔEstが小さく、且つ円偏光発光を示す化合物を提供する
【解決手段】一般式(1a)又は(1b):
で表される化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a)又は(1b):
【化1】
[式中、Arは、一般式(2):
【化2】
(式中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アリール基又は置換若しくは非置換ヘテロアリール基を示す。Lは、単結合、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、プロパン-2,2’-ジイル基、カルボニル基又はチオニル基を示す。nは0又は1を示す。ただし、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR及びRとRからなる群より選ばれる少なくとも1組が一緒になって、置換若しくは非置換アリーレン基又は置換若しくは非置換ヘテロアリーレン基を形成してもよい。)
で表される1価の基を示す。]
で表される化合物。
【請求項2】
前記Lは、単結合であり、前記nは、1である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記R、R、R、R、R、R、R及びRは、水素原子である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光材料。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【請求項6】
一般式(3a)又は(3b):
【化3】
[式中、Xは、ハロゲン原子を示す。]
で表される化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence:CPL)を示す発光材料は、円偏光板フィルターを使用せずに円偏光を取り出すことができることから、高効率な3次元有機ELディスプレイの光源として注目を集めている。一方、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)を示す発光材料は、高いエネルギー変換効率を達成することができることから、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)発光材料への応用が期待されている。このため、より高い効率で電気を円偏光に変換可能な発光素子を実現すべく、TADF特性及びCPL特性を有する発光材料の開発が望まれている。
【0003】
TADFは、最低一重項励起状態(S1状態)と最低三重項励起状態(T1状態)とのエネルギー差(ΔEST)が十分に小さい場合に、通常では遷移確率が著しく低いT1状態からS1状態への逆項間交差を熱的に励起し、本来であれば無輻射過程で失活する三重項励起エネルギーを光に変換することができる発光過程である。
【0004】
これまで、ΔESTが小さくなるように設計された、不斉中心を有するいくつかの有機小分子が、TADF特性及びCPL特性を有することが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。しかしながら、TADF特性及びCPL特性を有する発光材料の選択肢が少なく、他にも両特性を兼ね備える発光材料が開発されることが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Commun. 2015, 51, 13268-13271.
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 17756-17765.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な、ΔEstが小さく、且つ円偏光発光を示す化合物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、シクロビスビフェニレンカルボニル誘導体分子は、捻じれた環状構造に由来するキラリティーを有し、特徴的な光学特性を示すことを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0008】
項1. 一般式(1a)又は(1b):
【0009】
【化1】
【0010】
[式中、Arは、一般式(2):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アリール基又は置換若しくは非置換ヘテロアリール基を示す。Lは、単結合、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、プロパン-2,2’-ジイル基、カルボニル基又はチオニル基を示す。nは0又は1を示す。ただし、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR及びRとRからなる群より選ばれる少なくとも1組が一緒になって、置換若しくは非置換アリーレン基又は置換若しくは非置換ヘテロアリーレン基を形成してもよい。)
で表される1価の基を示す。]
で表される化合物。
【0013】
項2.前記Lは、単結合であり、前記nは、1である、項1に記載の化合物。
【0014】
項3.前記R、R、R、R、R、R、R及びRは、水素原子である、項1又は2に記載の化合物。
【0015】
項4.項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光材料。
【0016】
項5.項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【0017】
項6.一般式(3a)又は(3b):
【0018】
【化3】
【0019】
[式中、Xは、ハロゲン原子を示す。]
で表される化合物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、新規な、ΔEstが小さく、且つ円偏光発光を示す化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の骨格である、シクロビスビフェニレンカルボニルのエネルギーダイアグラムである。
図2】化合物1のHNMRスペクトルである。
図3】化合物1の13CNMRスペクトルである。
図4】化合物1のマススペクトルである。
図5】化合物2のHNMRスペクトルである。
図6】化合物2の13CNMRスペクトルである。
図7】化合物2のマススペクトルである。
図8】化合物3のHNMRスペクトルである。
図9】化合物3の13CNMRスペクトルである。
図10】化合物3のマススペクトルである。
図11】化合物4のHNMRスペクトルである。
図12】化合物4の13CNMRスペクトルである。
図13】化合物4のマススペクトルである。
図14】化合物2(実施例1;カルバゾール4位置換体)の紫外可視吸収スペクトル(左軸)及び発光スペクトル(右軸)である。横軸は波長(nm)である。
図15】化合物2の発光減衰曲線である。横軸は経過時間(ns)である。
図16】化合物2の円偏光発光特性(左軸:円二色性(CD);右軸:円偏光発光(CPL))を示す結果である。横軸は波長(nm)である。
図17】化合物4(実施例2;カルバゾール5位置換体)の紫外可視吸収スペクトル(左軸)及び発光スペクトル(右軸)である。横軸は波長(nm)である。
図18】化合物4の発光減衰曲線である。横軸は経過時間(ns)である。
図19】化合物4の円偏光発光特性(左軸:円二色性(CD);右軸:円偏光発光(CPL))を示す結果である。横軸は波長(nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0023】
また、本明細書において、「A~B」との数値範囲の表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0024】
(1)化合物
本発明の化合物は、一般式(1a)又は(1b):
【0025】
【化4】
【0026】
[式中、Arは、一般式(2):
【0027】
【化5】
【0028】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、L及びnは、前記に同じである。)
で表される1価の基を示す。]
で表される化合物である。本発明の化合物は、ΔEstが小さく、且つ円偏光発光(CPL)を示し得る。また、本発明の好ましい化合物は、熱活性化遅延蛍光(TADF)及び円偏光発光を示し得る。
【0029】
本発明の化合物は、シクロビスビフェニレンカルボニル骨格を有する。図1に示す通り、シクロビスビフェニレンカルボニルは、中央の環状構造が八の字に捻じれた状態がエネルギー的に安定である。具体的には、左巻きのヘリシティーを有するM,M体(図1左下に示す)、又は、この鏡像異性体である、右巻きのヘリシティーを有するP,P体の構造をとる状態が安定である。つまり、シクロビスビフェニレンカルボニルは、一対の光学活性なヘリックスのエナンチオマーが存在し得る。シクロビスビフェニレンカルボニルの不斉は、例えば、150℃以下の低温において、固定され得る。非置換のシクロビスビフェニレンカルボニルは、室温では、通常発光を示さない。
【0030】
なお、本明細書において、一見捻じれを有していない化学式で化合物の構造を表現することがあるが、これは、便宜上、化合物中の元素及びその結合様式を明示するためのみに行われるのであって、それらの化合物をいずれかの立体配座に限定するものではない。
【0031】
本発明の化合物は、通常、上記シクロビスビフェニレンカルボニル骨格に由来する、八の字に捻じれた環状構造を有する。つまり、本発明の化合物もまた、一対の光学活性なヘリックスのエナンチオマーが存在し得るものであり、M,M体又はP,P体の構造をとる状態が安定である。本発明の化合物の不斉は、例えば、150℃以下の低温において、固定され得る。このため、本発明の化合物は、不斉炭素中心を有していない場合にも、円偏光発光を示すことができる。
【0032】
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、不斉炭素原子の存在等による光学異性体(R、S体、α、β配置、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、回転異性体(配座異性体)、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。また、本発明においては、互変異性体による異性体をもすべて包含する
また、本発明における光学異性体は、100%純粋なものだけでなく、50%未満のその他の光学異性体が含まれていてもよい。円偏光性をより大きく得る観点からは、光学純度はより高いことが好ましい。光学純度は、100%未満であってもよく、例えば、99%以上、95%以上、90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、50%以上、40%以上、30%以上、20%以上、10%以上、または5%以上であってもよい。なお、光学純度0%がラセミ体となる。
【0033】
本発明の化合物が一方の光学異性体を優位に含む場合、本発明の化合物を含む発光材料において右巻きまたは左巻きの構造が物理的に優位に形成され、これが円偏光発光を示すことを可能にする。円偏光発光を示す場合、特定の回転方向の光を利用することができ、優れた光学材料(特に、発光素子)を実現することができる。
【0034】
円偏光発光の評価には、異方性因子gCPL(以下、「g値」ともいう)が用いられる。g値は、左円偏光発光成分の強度I及び右円偏光発光成分の強度Iを用いて、次の式によって定義される。
【0035】
【数1】
【0036】
(式中、μは電子遷移双極子モーメント、mは磁気遷移双極子モーメントを示す。)
本明細書において、「円偏光発光を示す」とは、g値が1×10-4以上であることを意味する。本発明の化合物のg値は、2以下であれば特に制限されないが、5×10-4以上が好ましく、1×10-3以上がより好ましく、3×10-3以上がさらに好ましい。g値は、円偏光ルミネッセンス測定システムを用いて測定することができる。
【0037】
有機発光素子においては、電流励起により、発光材料の最低一重項励起状態(S1状態)と最低三重項励起状態(T1状態)とがそれぞれ25%と75%の割合で生成する。単純な蛍光のみを放出する化合物であれば、T1状態は、室温では光を放出することなく失活するため、25%のS1状態しか利用できない。本発明の化合物は、S1状態とT1状態とのエネルギー差(ΔEST)が小さく、室温程度の熱エネルギーであっても、励起により生じたT1状態からS1状態に変換され、遅延蛍光(熱活性化遅延蛍光;TADF)を放出し得る。つまり、本発明の化合物のようにΔESTが小さい場合、電流励起で生成した75%のT1状態をS1状態へ変換することができ、変換されたS1状態も含めてほぼ100%のS1状態からの蛍光発光が利用し得るため、単純な蛍光発光化合物を用いる場合よりも発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0038】
本明細書において、「ΔEstが小さい」とは、ΔEstが0.5eV以下であることを意味する。本発明の化合物のΔEstは、上記数値範囲内であれば特に制限されないが、0.3eV以下が好ましく、0.2eV以下がより好ましく、0.1eV以下がさらに好ましい。ΔEstは、蛍光寿命測定装置を用いて測定することができる。
【0039】
本発明の化合物は、異なる寿命を有する2成分の蛍光を示すことが好ましい。特に制限されないが、当該2成分の蛍光のうち、長い寿命を有する蛍光の蛍光寿命が50ns以上1ms以下である場合に三重項(トリプレット)の関与が示唆され、すなわち、TADF特性が発現し得ることが経験的に判明している。特に制限されないが、当該2成分の蛍光のうち、短い寿命を有する蛍光の蛍光寿命は、通常、0.1ns以上100ns未満である。蛍光寿命は、蛍光寿命測定装置を用いて測定することができる。
【0040】
本発明の化合物は、熱活性化遅延蛍光を示す場合により多くの励起子を光として取り出すことができるため、蛍光量子収率(Φ)が高くなり易い。本発明の化合物の蛍光量子収率としては、特に制限されないが、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。
【0041】
以上の発光特性の測定又は評価は、溶液中の化合物を用いて実施されてもよいし、固体の状態の化合物を用いて実施されてもよい。また、測定又は評価は、いずれの温度で実施されてもよいが、室温で実施されることが好ましい。
【0042】
上記特徴を有する本発明の化合物は、文献未記載の新規化合物である。また、八の字型の環状構造を有し、熱活性化遅延蛍光及び円偏光発光を示す化合物は、これまでに報告されておらず、本発明の発明者らによって初めて見出された。
【0043】
一般式(2)において、アルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用できる。直鎖アルキル基としては、炭素数1~6(特に1~4)の直鎖アルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖アルキル基としては、炭素数3~6(特に3~5)の分岐鎖アルキル基が好ましく、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0044】
一般式(2)において、アルキル基は、置換基を有していてもよい。アルキル基が有していてもよい置換基としては、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基、後述のアルコキシ基、後述のアミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0045】
一般式(2)において、アリール基としては、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等の炭素数6~18(特に6~14)のアリール基が挙げられる。
【0046】
一般式(2)において、アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、後述のヘテロアリール基、上記アルキル基、後述のアルコキシ基、後述のアミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0047】
一般式(2)において、ヘテロアリール基としては、単環ヘテロアリール基及び多環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、ピロリジル基、ピロリル基、テトラヒドロチエニル基、チエニル基、オキソラニル基、フラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0048】
一般式(2)において、ヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルキル基、後述のアルコキシ基、後述のアミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0049】
一般式(2)において、置換基であるアルコキシ基としては、炭素数1~6(特に1~4)のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
一般式(2)において、置換基であるアルコキシ基は、さらに置換基を有していてもよい。アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルコキシ基、後述のアミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0051】
一般式(2)において、置換基であるアミノ基としては、鎖状アミノ基及び環状アミノ基のいずれも採用できる。鎖状アミノ基としては、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルキル基、上記アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアミノ基が挙げられ、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアミノ基(ジアルキルアミノ基等)が挙げられる。また、環状アミノ基としては、例えば、ピロリジル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリル基等が挙げられ、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルキル基、上記アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0052】
一般式(2)において、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR及びRとRからなる群より選ばれる少なくとも1組が一緒になって、置換若しくは非置換アリーレン基又は置換若しくは非置換ヘテロアリーレン基を形成してもよい。
【0053】
一般式(2)において、アリーレン基は、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントレニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、フルオレニレン基、ピレニレン基、トリフェニレニレン基等の炭素数6~18(特に6~14)のアリーレン基が挙げられる。
【0054】
一般式(2)において、アリーレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0055】
一般式(2)において、ヘテロアリーレン基としては、単環ヘテロアリーレン基及び多環ヘテロアリーレン基のいずれも採用でき、例えば、ピロリジレン基、ピロリレン基、テトラヒドロチエニレン基、チエニレン基、オキソラニレン基、フラニレン基、イミダゾリレン基、ピラゾリレン基、チアゾリル基、オキサゾリレン基、ピペリジレン基、ピリジレン基、ピラジレン基、インドリレン基、イソインドリレン基、ベンゾイミダゾリレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、キノキサリレン基等が挙げられる。
【0056】
一般式(2)において、ヘテロアリーレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、特に制限はなく、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アリール基、上記ヘテロアリール基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0057】
一般式(2)において、R、R、R、R、R、R、R及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0058】
このような条件を満たす本発明の化合物としては、一般式(1a’)又は(1b’):
【0059】
【化6】
【0060】
[式中、Arは、前記に同じである。]
で表される化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、
【0061】
【化7】
【0062】
【化8】
【0063】
で表される化合物等が挙げられる。
【0064】
(2)化合物の製造方法
本発明の化合物は、以下のスキーム1-a又は1-bに従い製造することができる。本方法によれば、大スケールで、高い収率で本発明の化合物を得ることができる。
【0065】
【化9】
【0066】
【化10】
【0067】
[式中、Ar、R、R、R、R、R、R、R、R、L及びnは、前記に同じである。Xは、ハロゲン原子を示す。]
スキーム1-a及び1-bで示される反応において、一般式(3a)又は(3b)で表される化合物1モルに対し、一般式(2’)で表される化合物を1モルから過剰量、触媒を1モルから過剰量、配位子を1モルから過剰量、塩基を1モルから過剰量使用し、溶媒の存在下に室温~溶媒の沸点程度の温度下に1~24時間反応させることで、一般式(1a)又は(1b)で表される化合物を得ることができる。
【0068】
一般式(3a)又は(3b)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。なかでも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0069】
スキーム1-a及び1-bで示される反応において使用され得る触媒としては、クロスカップリング反応を触媒する公知の触媒をいずれも採用することができ、例えば、Pd(dba)・CHCl、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒が好ましい。
【0070】
スキーム1-a及び1-bで示される反応において使用され得る配位子としては、上記触媒と組み合わせて用いられる公知の配位子をいずれも採用することができ、例えば、[HP(tBu)]BF、酢酸パラジウム等が好ましい。
【0071】
スキーム1-a及び1-bで示される反応において使用され得る塩基としては、公知の塩基をいずれも採用することができ、例えば、tBuONa、tBuOK等が好ましい。
【0072】
スキーム1-a及び1-bで示される反応において使用され得る溶媒としては、公知の溶媒をいずれも採用することができ、例えば、トルエン、ベンゼン等の非極性溶媒、水等のプロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0073】
上記スキーム1-a及び1-bで示される反応により得られる本発明の化合物は、右巻き及び左巻きのヘリシティーを有するラセミ体の生成物として得られ得る。あるいは、上記一般式(3a)又は(3b)で表される化合物が一方のヘリシティーを有する光学異性体を優位に含み、且つ上記スキーム1-a及び1-bで示される反応の反応温度が低温(例えば、150℃以下)である場合、本発明の化合物は、当該出発物に対応するヘリシティーを有する光学異性体を優位に含む生成物として得られ得る。
【0074】
このため、上記スキーム1-a及び1-bで示される反応により得られる本発明の化合物は、さらなる操作によって光学的に分離されて使用されてもよいし、分離せずにそのまま使用されてもよい。光学的に分離することによって、一方の光学異性体が優位に存在する生成物を得ることができ、当該異性体のヘリシティーに対応する円偏光発光を容易に取り出すことができる。異性体の光学分割は、完全な分離でなくてよく、一方のヘリシティーを有する光学異性体が優位となる(一方が他方よりも量が多い)場合であってもよく、完全に分離する場合であってもよい。
【0075】
光学分割のための操作としては、特に限定されず、例えば、キラルカラムを用いた液体クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))で分離することができる。すなわち、上記の化合物の溶液をキラムカラムに通すと、ヘリシティーによって保持時間が異なることから、分離することが可能である。キラルカラムとしては、これに限定されるものではないが、シリカゲル系の固定相のものを用いることができ、通常、市販のものを使用することができる。カラムとしては、例えば、セルロース誘導体(例えば、セルロース・トリス(3,5-ジクロロフェニルカルバメート)等)をシリカゲル担体に固定化した固定相のものを用いることができる。液体クロマトグラフィーに用いる溶媒(移動相、サンプル溶解溶液)としては、市販のカラムにて規定された仕様に準じた溶媒を使用することができ、これに限定されるものではないが、例えば、有機溶媒単独または水との混合溶媒を用いることができ、例えば、ヘキサン等の炭化水素、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等のアルコール、酢酸エチル等のエステル、テトラヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル、メチルエチルケトン等のケトン、及びジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、並びにこれらの2種以上の混合溶媒、又はそれらの有機溶媒と水との混合溶媒等を用いることができる。
【0076】
(3)中間体
本発明の化合物の中間体は、一般式(3a)又は(3b):
【0077】
【化11】
【0078】
[式中、Xは、ハロゲン原子を示す。]
で表される化合物である。
【0079】
本発明の化合物の中間体は、本発明の化合物と同様の八の字型に捻じれた環状構造を有する。
【0080】
上述の通り、一般式(3a)又は(3b)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。なかでも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましく、臭素原子がさらに好ましい。
【0081】
本発明の化合物の中間体は、上述の本発明の化合物の製造方法によって、上記一般式(1a)又は(1b)で表される化合物に変換されることによって、新規な、熱活性化遅延蛍光及び円偏光発光を示す化合物を提供することを可能にする。中間体もまた、文献未記載の新規化合物である。
【0082】
本発明の化合物の中間体は、通常、上記シクロビスビフェニレンカルボニル骨格に由来する、八の字に捻じれた環状構造を有する。つまり、中間体もまた、一対の光学活性なヘリックスのエナンチオマーが存在し得るものであり、M,M体又はP,P体の構造をとる状態が安定である。中間体の不斉は、例えば、150℃以下の低温において、固定され得る。中間体は、室温では、通常発光を示さない。
【0083】
(4)中間体の製造方法
本発明の化合物の中間体は、以下のスキーム2-a又はスキーム2-bに従い製造することができる。本方法によれば、大スケールで、高い収率で本発明の化合物及びその中間体を得ることができる。
【0084】
【化12】
【0085】
[式中、Xは、前記に同じである。]
スキーム2-aにおいて、一般式(4a)で表される化合物1モルに対し、酸化剤を1モルから過剰量使用し、溶媒の存在下に室温~溶媒の沸点程度の温度下に1~24時間反応させることで、一般式(3a)で表される化合物を得ることができる。
【0086】
スキーム2-aで示される反応において使用され得る酸化剤としては、十分に反応を進行させる公知の酸化剤をいずれも採用することができ、例えば、NaCr、KCr、KMnO等が好ましい。
【0087】
スキーム2-aで示される反応において使用され得る溶媒としては、公知の溶媒をいずれも採用することができ、例えば、プロピオン酸、酢酸等が好ましい。
【0088】
【化13】
【0089】
[式中、Xは、前記に同じである。]
スキーム2-bにおいて、一般式(4b)で表される化合物1モルに対し、ハロゲン化剤を1モルから過剰量使用し、酸を1モルから過剰量使用し、溶媒の存在下に室温~溶媒の沸点程度の温度下に1~24時間反応させることで、一般式(3b)で表される化合物を得ることができる。
【0090】
スキーム2-bで示される反応において使用され得るハロゲン化剤としては、十分に反応を進行させる公知のハロゲン化剤をいずれも採用することができ、例えば、N-ブロモスクシンイミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン等が好ましい。
【0091】
スキーム2-bで示される反応において使用され得る酸としては、十分に反応を進行させる公知の酸をいずれも採用することができ、例えば、濃硫酸、メタンスルホン酸等が好ましい。
【0092】
スキーム2-bで示される反応において使用され得る溶媒としては、公知の溶媒をいずれも採用することができ、例えば、水、メタノール等が好ましい。
【0093】
(5)有機発光材料及び有機発光素子
本発明の化合物は、高い効率で円偏光を発することができる有機発光材料の提供を可能にする点で有用である。本発明の化合物を含む有機発光材料としては、フィルム、インク、蛍光色素、フィルター、シート、レンズ等が挙げられる。その中でも、後述する有機発光素子の発光層を構成するフィルムであることが好ましい。
【0094】
本発明の化合物を含むフィルム(発光層)は、特に制限されず、例えば、湿式法又は乾式法により形成され得る。湿式法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット法(スプレー法)、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。乾式法としては、特に制限されず、例えば、真空蒸着法が挙げられる。
【0095】
特に、本発明の化合物は、高い効率で円偏光を発することができる有機発光素子の提供を可能にする点で有用である。有機発光素子としては、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)及び有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)等が挙げられる。
【0096】
有機フォトルミネッセンス素子は、基材上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。
【0097】
有機フォトルミネッセンス素子に含まれる基材としては、特に制限されず、例えば、例えばガラス、プラスチック、クォーツ、シリコン又はそれらの組み合わせで形成された公知の基材を広く適用することができる。
【0098】
有機エレクトロルミネッセンス素子に含まれる陽極及び陰極としては、特に制限されず、例えば、金属、合金、導電性化合物又はそれらの組み合わせで形成された公知の陽極及び陰極をそれぞれ適用することができる。
【0099】
有機エレクトロルミネッセンス素子に含まれる発光層以外の有機層としては、例えば、正孔輸送層、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層、電子注入層、電子輸送層、励起子障壁層等を挙げることができる。これらとしては、特に制限されず、公知のものを広く適用することができる。
【0100】
本発明の化合物、有機発光材料(特に、発光層)及び有機発光素子は、ディスプレイ及びスクリーン(特に、3Dディスプレイ及び3Dスクリーン)に組み込むことができる。
【実施例0101】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
後述する化合物を同定する際、HNMR測定及び13CNMR測定にはVarian INOVA-500分光計(Bruker社製)を、質量分析にはmicrOTOF(Bruker社製)をそれぞれ用いた。
【0103】
合成した化合物の発光特性は、次の各試験によって評価した。各試験は、塩化メチレン溶液中の化合物を用いて実施した。
【0104】
(紫外可視吸収スペクトル)
測定機器:V670(日本分光社製)
走査速度:400nm/min
波長:250nm~700nm(化合物2)、250nm~600nm(化合物4)
濃度:2.1×10-5M(化合物2)、4.4×10-5M(化合物4)
データ取込間隔:0.5nm
(発光スペクトル)
測定機器:FP-8550(日本分光社製)
測定雰囲気:窒素雰囲気下
走査速度:200nm/min
濃度:1.9×10-5M(化合物2)、1.7×10-5M(化合物4)
データ取込間隔:0.5nm
励起波長:405nm
(蛍光量子収率)
測定機器:FP-8550(日本分光社製)
測定雰囲気:窒素雰囲気下
走査速度:200nm/min
濃度:1.9×10-5M(化合物2)、1.7×10-5M(化合物4)
データ取込間隔:0.5nm
励起波長:405nm
(蛍光寿命)
測定機器:Quantaurus-Tau(浜松ホトニクス社製)
測定雰囲気:大気下又は窒素雰囲気下
励起波長:405nm
検出波長:520又は525nm(化合物2)、540nm(化合物4)
時間レンジ:10μs又は50μs(化合物2)、501ns(化合物4)
StopCondition:peak(100000)
(円二色性特性)
測定機器:J―1500(日本分光社製)
測定雰囲気:大気下
波長:250nm~550nm(化合物2)、250nm~600nm(化合物4)
走査速度:100nm/min
濃度:1.6×10-5M(化合物2;黒及びグレー)、2.1×10-5M(化合物4;黒)、1.6×10-5M(化合物4;グレー)
データ取込間隔:0.1nm
積算回数:4回
(円偏光発光特性)
測定機器:CPL-300(日本分光社製)
測定雰囲気:窒素雰囲気下
走査速度:100nm/min
濃度:2.6×10-5M(化合物2;黒)、2.2×10-5M(化合物2;グレー)、2.1×10-5M(化合物4;黒)、1.6×10-5M(化合物4;グレー)
データ取込間隔:0.5nm
励起波長:300nm
積算回数:4回(化合物2)、2回(化合物4)
(分子軌道計算)
プログラム:Gaussian 16
[実施例1:4位置換体の合成]
下記工程1-1及び1-2に従い、カルバゾール4位置換体(化合物2;実施例1)を合成した。
【0105】
工程1-1:中間体の合成
【0106】
【化14】
【0107】
2,7,10,15-テトラブロモ[g,p]ジベンゾクリセン(CAS:2135768-85-1、0.60g、1.0mmol)、二クロム酸ナトリウム二水和物(CAS:7789-12-0、3.0g、10mmol)及びプロピオン酸(CAS:79-09-4、80mL)を容量300mLのナスフラスコに入れ、混合物を12時間還流した。混合物を室温に戻した後、水(180mL)を加えて室温で静置した。析出した白色沈澱を濾過により溶液から分離し、水で洗浄した後、減圧下で乾燥させた。得られた固体を再結晶(塩化メチレン/メタノール)により精製した。以上の操作により化合物1(白色固体、0.46g、0.69mmol)を収率69%で得た。化合物1のHNMRスペクトル、13CNMRスペクトル及びマススペクトルを図2~4に示す。
【0108】
工程1-2:カルバゾール環の導入
【0109】
【化15】
【0110】
化合物1(50mg、74μmol)、カルバゾール(CAS:86-74-8、62mg、0.37mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)-クロロホルム付加体(CAS:52522-40-4、85mg,8.1μmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(CAS:131274-22-1、6.1mg,21μmol)及びナトリウムt-ブトキシド(CAS:865-48-5、75mg,0.78mmol)をシュレンクフラスコに入れ、容器内を窒素で置換した。混合物に対して脱気・脱水したトルエン(1.5mL)を加え、混合物を120度で24時間加熱した。混合物を室温まで冷却させた後、混合物に対して塩化メチレンを加え、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、乾燥剤を濾過により除いた。得られた溶液から溶媒をエバポレーターで留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた固体を再結晶(塩化メチレン/メタノール)によりさらに精製した。以上の操作により化合物2(黄色固体、43mg、42μmol)を収率57%で得た。化合物2のHNMRスペクトル、13CNMRスペクトル及びマススペクトルを図5~7に示す。
【0111】
[実施例2:5位置換体の合成]
下記工程1-1及び1-2に従い、カルバゾール5位置換体(化合物4;実施例2)を合成した。
【0112】
工程2-1:中間体の合成
【0113】
【化16】
【0114】
テトラベンゾ[a,c,f,h]シクロデセン-9,18-ジオン(CAS:5162-38-9、0.90g、2.5mmol)及び濃硫酸(10mL)を容量50mLのナスフラスコに入れた。この混合物に対して、N-ブロモスクシンイミド(CAS:128-08-5、1.8g、10mmol)を加えた。混合物を室温で11時間攪拌した。混合物を氷に注いだ。得られた溶液を炭酸水素ナトリウムにより中和した。混合物に塩化メチレンを加えて分液操作を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、乾燥剤を濾過により除いた。得られた溶液から溶媒をエバポレーターで留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた固体を再結晶(塩化メチレン/メタノール)によりさらに精製した。以上の操作により化合物3(白色固体、0.25g、0.37mmol)を収率15%で得た。化合物3のHNMRスペクトル、13CNMRスペクトル及びマススペクトルを図8~10に示す。
【0115】
工程2-2:カルバゾール環の導入
【0116】
【化17】
【0117】
化合物3(19mg,28μmol)、カルバゾール(CAS:86-74-8、25mg,0.14mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)-クロロホルム付加体(CAS:52522-40-4、3.8mg,3.7μmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(CAS:131274-22-1、3.0mg,10μmol)及びナトリウムt-ブトキシド(CAS:865-48-5、27mg,0.28mmol)をシュレンクフラスコに入れ、容器内を窒素で置換した。混合物に対して脱気・脱水したトルエン(1.5mL)を加えた。混合物を120度で24時間加熱した。混合物を室温まで冷却させた。混合物に対して塩化メチレンを加え、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、乾燥剤を濾過により除いた。得られた溶液から溶媒をエバポレーターで留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた固体を再結晶(塩化メチレン/メタノール)によりさらに精製した。以上の操作により化合物4(黄色固体、13mg、13μmol)を収率39%で得た。化合物4のHNMRスペクトル、13CNMRスペクトル及びマススペクトルを図11~13に示す。
【0118】
[試験例1:化合物の光学的特性]
合成した実施例1(カルバゾール4位置換体)及び実施例2(カルバゾール5位置換体)の光学的特性は、上述の各試験方法によって評価した。
【0119】
紫外可視吸収スペクトル及び発光スペクトルについては、実施例1の結果を図14に、実施例2の結果を図17に示す。その結果、実施例1については発光ピークトップが525nmで、半値幅は2640cmー1であった。実施例2については発光ピークトップが540nmで、半値幅は2590cmー1であった。
【0120】
その他の発光特性の結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1及び2はいずれもΔEstが低く、且つ蛍光量子収率(ΦF)及びg値が高かった。よって、実施例1又は2を含む発光材料は、高効率な円偏光発光材料として有用であり得る。特に、実施例1は、異なる寿命を有する2成分の蛍光を示したことから、熱活性化遅延蛍光を示したといえる。一方で、実施例2は、熱活性化遅延蛍光及び円偏光発光を示すことが既に知られているどの有機分子よりも高いg値を示した(7.1×10-3図19参照)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19