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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126359
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】シート及び容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20240912BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240912BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08L23/12
B65D65/40 D
C08L23/08
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034679
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西島 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】荒木 慶
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB05
3E086CA01
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK62A
4F100AK62C
4F100AK65A
4F100AK65C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100EC182
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100GB15
4F100GB16
4F100JB04A
4F100JD03B
4F100JK10
4F100JL013
4J002BB052
4J002BB121
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】多層バリア容器の剛性、耐熱性及び耐衝撃性を確保しながら、厚みを低減させることが可能なシート及び容器を提供する。
【解決手段】シートは、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、上記エチレン-αオレフィン共重合体は上記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、
前記エチレン-αオレフィン共重合体は前記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する
シート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートであって、
前記プロピレン単独重合体の230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートをa、前記エチレン-αオレフィン共重合体の230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートをbとすると、a/bは0.060以上0.182以下である
シート。
【請求項3】
請求項1に記載のシートであって、
前記混合物に対する前記エチレン-αオレフィン共重合体の混合比率は10wt%以上20wt%以下である
シート。
【請求項4】
請求項1に記載のシートであって、
前記エチレン-αオレフィン共重合体はエチレン-ブテン共重合体である
シート。
【請求項5】
プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなる基材層と、
酸素バリア性を有するバリア層と
を具備し、
前記エチレン-αオレフィン共重合体は前記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する
シート。
【請求項6】
プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなる第1基材層と、
前記混合物からなる第2基材層と、
前記第1基材層と前記第2基材層に挟まれ、酸素バリア性を有するバリア層と
を具備し、
前記エチレン-αオレフィン共重合体は前記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する
シート。
【請求項7】
プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなる基材層と、
酸素バリア性を有するバリア層と
を具備し、
前記エチレン-αオレフィン共重合体は前記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する
シートが成形された容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装に用いられる多層バリア容器に係るシート及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
多層化により酸素バリア性を付与した多層バリア容器は食品等の包装用容器として用いられている。多層バリア容器は、ポリプロピレン等からなる2層の基材層によって酸素バリア性を有するバリア層を挟んだシートを成形した容器であり、被包装品の保存性に優れる(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-143050号公報
【特許文献2】特開2008-162085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シートの厚みを低減させることができれば、容器作製に必要な材料の削減が可能となる。しかしながら、上記シートの厚みを単に低減すると、多層バリア容器の剛性、耐熱性及び耐衝撃性が問題となる。多層バリア容器の剛性が低下すると被包装品の充填時等に取扱性が悪化し、耐熱性が低下すると加熱殺菌工程や被包装品の調理工程等で容器に変形が生じるおそれがある。また、耐衝撃性が低下すると、落下時に破損が生じるおそれがある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、多層バリア容器の剛性、耐熱性及び耐衝撃性を確保しながら、厚みを低減させることが可能なシート及び容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシートは、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、
上記エチレン-αオレフィン共重合体は上記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する。
【0007】
この構成を有するシートから容器を成形することができる。プロピレン単独重合体にエチレン-αオレフィン共重合体を混合させると、エチレン-αオレフィン共重合体は粒子状に分散する。ここで、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径を300nm以上500nm以下とすると、エチレン-αオレフィン共重合体が良好な衝撃吸収作用を有し、シートの厚みを薄くしても十分な耐衝撃性を有する容器を形成することが可能となる。
【0008】
上記プロピレン単独重合体の230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートをa、上記エチレン-αオレフィン共重合体の230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレートをbとすると、a/bは0.060以上0.182以下であってもよい。
【0009】
プロピレン単独重合体のメルトフローレートに対するエチレン-αオレフィン共重合体のメルトフローレートが上記範囲にある場合、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm以上500nmとなるため、シートの厚みを薄くしても十分な耐衝撃性を有する容器を形成することが可能となる。
【0010】
上記混合物に対する上記エチレン-αオレフィン共重合体の混合比率は10wt%以上20wt%以下であってもよい。
【0011】
プロピレン単独重合体に対するエチレン-αオレフィン共重合体の混合比率を10wt%以上20wt%以下としても、プロピレン単独重合体の剛性及び耐熱性は大きく低下しないため、好適である。
【0012】
上記エチレン-αオレフィン共重合体はエチレン-ブテン共重合体であってもよい。
【0013】
エチレン-αオレフィン共重合体としてエチレン-ブテン共重合体を用いることができる。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシートは、基材層と、バリア層とを具備する。
上記基材層は、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、上記エチレン-αオレフィン共重合体は上記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する。
上記バリア層は、酸素バリア性を有する。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシートは、第1基材層と、第2基材層と、バリア層とを具備する。
上記第1基材層は、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、上記エチレン-αオレフィン共重合体は上記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する。
上記第2基材層は上記混合物からなる。
上記バリア層は、上記第1基材層と上記第2基材層に挟まれ、酸素バリア性を有する。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る容器は、基材層と、バリア層とを具備するシートが成形されている。
上記基材層は、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、上記エチレン-αオレフィン共重合体は上記プロピレン単独重合体中に分散し、300nm以上500nm以下の分散径を有する。
上記バリア層は、酸素バリア性を有する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、多層バリア容器の剛性、耐熱性及び耐衝撃性を確保しながら、厚みを低減させることが可能なシート及び容器を提供することができる。しかし、当該効果は本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る容器の平面図である。
図2】上記容器の断面図である。
図3】上記容器を形成するシートの断面図である。
図4】上記シートの材料及び重量比を示す表である。
図5】上記シートが備える基材層の材料である基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の種類と物性値を示す表である。
図6】上記基材層材料の模式図である。
図7】上記基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の種類と物性値を示す表である。
図8】エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm以上500nm以下である上記基材層材料の、衝撃印加時の模式図である。
図9】エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm未満である上記基材層材料の、衝撃印加時の模式図である。
図10】エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が500nmを超える上記基材層材料の、衝撃印加時の模式図である。
図11】本発明の実施例及び比較例に係る容器の測定結果を示す表である。
図12】本発明の実施例及び比較例に係る容器の測定結果を示す表である。
図13】比較例1に係る容器の基材層材料のTEM像である。
図14】実施例1に係る容器の基材層材料のTEM像である。
図15】実施例2に係る容器の基材層材料のTEM像である。
図16】比較例3に係る容器の基材層材料のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る容器について説明する。
【0020】
[容器の構成]
図1は本実施形態に係る容器100の模式図であり、図2は容器100の断面図である。容器100は例えば米飯容器であるが、用途及び形状は特に限定されない。以下、図2に示すように、容器100の内側の面を表面100aとし、外側の面を裏面100bとする。
【0021】
容器100は、多層バリア容器と呼ばれる容器であり、シートが成形されて構成されている。図3は、容器100を構成するシート110の断面図である。図4は、シート110の材料及び重量比(wt%)の例を示す表である。図3に示すようにシート110は、第1基材層111、第1接着層112、バリア層113、第2接着層114及び第2基材層115を備える。
【0022】
第1基材層111は図3に示すように、容器100のうち裏面100b側に露出する層である。以下、第1基材層111の材料を「基材層材料」とする。基材層材料については後述する。
【0023】
第1接着層112は、第1基材層111に積層され、第1基材層111とバリア層113を接着する。第1接着層112は、接着樹脂からなり、例えば無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレンである「モディック(登録商標)AP P604V」(三菱ケミカル株式会社製)からなる。
【0024】
バリア層113は、第1接着層112の第1基材層111とは反対側に積層され、酸素バリア性を有する。バリア層113は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH:ethylene vinylalcohol copolymer)からなり、例えば「エバール(登録商標)F171B」(株式会社クラレ製)からなる。
【0025】
第2接着層114は、バリア層113の第1接着層112とは反対側に積層され、バリア層113と第2基材層115を接着する。第2接着層114は、例えば上述の「モディック(登録商標)AP P604V」(三菱ケミカル株式会社製)からなる。
【0026】
第2基材層115は第2接着層114のバリア層113とは反対側に積層され、容器100のうち表面100a側に露出する層である。第2基材層115は、第1基材層111と同様に基材層材料からなる。
【0027】
シート110は以上のような構成を有する。シート110の厚みは例えば0.45mmである。多層バリア容器成形用のシートは一般に0.52mmの厚みを有するが、シート110は厚みを0.45mmに低減させることができる。シート110は第1基材層111及び第2基材層115でバリア層113を挟んだ構成とすることで、バリア層113により酸素の透過を防止し、被包装品の品質を維持することが可能である。
【0028】
シート110は、多層押出機を用いて各層の材料を押出しながら積層し、作製することができる。容器100は、シート110を、圧空成形機を用いて成形することで作製することができる。
【0029】
[基材層材料について]
第1基材層111及び第2基材層115の材料である基材層材料について説明する。基材層材料はプロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなる。プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合比は、プロピレン単独重合体が80wt%以上90wt%以下、エチレン-αオレフィン共重合体が10wt%20wt%以下が好適である。プロピレン単独重合体が90wt%を超え、エチレン-αオレフィン共重合体が10wt%未満だと落下強度が劣り、プロピレン単独重合体が80wt%未満、20wt%を超えると座屈強度が劣る。特に、プロピレン単独重合体が90wt%、エチレン-αオレフィン共重合体が10wt%が、落下強度と座屈強度が優れ、より好適である。
【0030】
プロピレン単独重合体はプロピレンのみが重合したポリプロピレンであり、ホモポリプロピレンとも呼ばれる。プロピレン単独重合体としては例えば、「ノバテック(登録商標)EA9FTD」(日本ポリプロ株式会社製)を用いることができる。
【0031】
エチレン-αオレフィン共重合体は、オレフィン系エラストマーであり、プロピレン単独重合体の柔軟化剤として機能する。エチレン-αオレフィン共重合体としてはエチレン-ブテン共重合体を用いることができ、エチレン-ブテン共重合体としては例えば、「タフマー(登録商標)DF」(三井化学株式会社製)を用いることができる。
【0032】
図5は、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体として検討した各種のエチレン-αオレフィン共重合体(図5中、「EO」)の物性値を示す表である。図5中、「グレード」は「タフマー(登録商標)DF」(三井化学株式会社製)のグレードを示し、「MFR(230℃)」は230℃でのメルトフローレートを示す。同図に示すように、各種のエチレン-αオレフィン共重合体の間で、メルトフローレート、融点及び密度は相違する。メルトフローレートと融点の相違は主にエチレン-αオレフィン共重合体の分子量によるものであり、密度の相違は主に共重合の比率によるものである。
【0033】
基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は密度が0.87g/cm以下のもの(図5中、EO1~3、EO6)である。密度が0.87g/cmを超えると容器の耐衝撃性が低下する(実施例参照)ためである。
【0034】
また、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は分散径が300nm以上500nm以下のものである。図6は基材層材料の模式図である。同図に示すように基材層材料はプロピレン単独重合体(図6中、PP)に粒子状のエチレン-αオレフィン共重合体(図6中、EO)が分散した状態となる(実施例参照)。
【0035】
以下、粒子状のエチレン-αオレフィン共重合体の粒径(図6中、D)のうち最大のものを「分散径」とする。なお、分散径は、基材層材料をTEM(透過電子顕微鏡)等により観察して最大の粒子を見つけ、測定器によってその粒径を計ることによって特定することができる。基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は、この分散径が300nm以上500nm以下のもの(図5中、EO2、3)とする。分散径がこの範囲である場合、容器の耐衝撃性が良好となる(実施例参照)ためである。
【0036】
このように、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は、密度が0.87g/cm以下かつ分散径が300nm以上500nm以下のものとする。このエチレン-αオレフィン共重合体をプロピレン単独重合体に混合することにより、シート110の厚みを小さくしても容器の耐衝撃性を確保することができる。また、10wt%以上20wt%以下のエチレン-αオレフィン共重合体を混合してもプロピレン単独重合体に対して剛性及び耐熱性は大きく低下しないため、シート110の厚みを小さくしても容器の剛性及び耐熱性も確保することができる。
【0037】
さらに、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は、メルトフローレートが所定範囲内のものが好適である。図7は、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体として検討した各種のエチレン-αオレフィン共重合体のメルトフローレート(図7中、MFR)を示す表である。なお、各メルトフローレートは、エチレン-αオレフィン共重合体を230℃とし、「ISO 1133-1:2011」に規定された測定方法(荷重2.16kg)により測定されたものである。
【0038】
図7に示すように、各エチレン-αオレフィン共重合体のメルトフローレートを「b」とする。また、基材層材料を構成するプロピレン単独重合体のメルトフローレートを「a」とする。プロピレン単独重合体として「ノバテック(登録商標)EA9FTD」(日本ポリプロ株式会社製)を用いる場合、「a」は0.4である。図7にはこの場合の「a/b」を示す。
【0039】
基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体としては「a/b」が0.060以上0.182以下のもの(図7中、EO2-4)が好適である。「a/b」がこの範囲だと、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm以上500nm以下となるためである。一方、上記のようにエチレン-αオレフィン共重合体は密度が0.87g/cmを超えると耐衝撃性が低下する。したがって、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体としては密度が0.87g/cm以下かつ「a/b」が0.060以上0.182以下のもの(図7中、EO2、3)が好適である。
【0040】
さらに、基材層材料の成形性について検討すると、「a/b」が小さすぎる(図7中、EO5、6)場合、シート110からの容器成形時に流れムラが生じ、成形が困難(図7中、「×」)となる。エチレン-αオレフィン共重合体とプロピレン単独重合体のメルトフローレートが離れすぎていると、相溶性が悪化するためである。エチレン-αオレフィン共重合体の「a/b」が0.060以上0.182以下である場合(図7中、EO2-4)、成形性は良好(図7中、「〇」)となる。
【0041】
このように、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体は、密度が0.87g/cm以下、「a/b」が0.060以上0.182以下のもの(図7中、EO2、3)とすることにより、シート110の厚みを小さくしても容器の耐衝撃性、剛性及び耐熱性を確保することができる。
【0042】
[エチレン-αオレフィン共重合体の分散径について]
基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の、分散径による耐衝撃性への影響について説明する。図8乃至図10は、この分散径による耐衝撃性への影響を示す模式図である。図8(a)は、分散径が300nm以上500nm以下のエチレン-αオレフィン共重合体を含む基材層材料の模式図(実施例参照)である。この基材層材料に衝撃が加えられると、図8(b)に示すように、個々のエチレン-αオレフィン共重合体の粒子に衝撃(図中、矢印)が伝達され、図8(c)に示すようにエチレン-αオレフィン共重合体の粒子が変形(図中、矢印)する。この変形により、基材層材料に加えられた衝撃が吸収され、高い耐衝撃性が得られる。
【0043】
これに対し図9(a)は、分散径が300nm未満のエチレン-αオレフィン共重合体を含む基材層材料の模式図(実施例参照)である。この基材層材料に衝撃が加えられると、図9(b)に示すように、個々のエチレン-αオレフィン共重合体の粒子に衝撃(図中、矢印)が伝達され、図9(c)に示すようにエチレン-αオレフィン共重合体の粒子が変形(図中、矢印)する。この際、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が小さいため、変形による衝撃の吸収が不十分となり、高い耐衝撃性が得られない。
【0044】
また、図10(a)は、分散径が500nmを超えるエチレン-αオレフィン共重合体を含む基材層材料の模式図(実施例参照)である。この基材層材料に衝撃が加えられると、エチレン-αオレフィン共重合体の粒子間の隙間が大きいため、図10(b)に示すように割れ(図中、C)が伝播しやすい。
【0045】
以上のように、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm以上500nm以下の場合、基材層材料の耐衝撃性大きく、容器の耐衝撃性も良好となる。一方、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm未満又は500nmを超える場合、基材層材料の耐衝撃性が小さく、容器の耐衝撃性も不十分となる。
【0046】
なお、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径と粘度の関係としては、エチレン-αオレフィン共重合体の粘度がプロピレン単独重合体の粘度に近い程、エチレン-αオレフィン共重合体が高分散となり、分散径が小さくなる(実施例参照)。エチレン-αオレフィン共重合体とプロピレン単独重合体の粘度は、上述した「a/b」(図7参照)によって規定でき、「a/b」の値によってエチレン-αオレフィン共重合体の分散径を制御することができる。
【0047】
[変形例]
シート110は上述のように、第1基材層111、第1接着層112、バリア層113、第2接着層114及び第2基材層115を備え(図3参照)、第1基材層111及び第2基材層115は上述した基材層材料からなるとした。しかしながら、シート110は、上記した基材層材料からなる基材層を少なくとも1層備えるものであればよい。
【0048】
例えばシート110は、第1基材層111及び第2基材層115のいずれか一方のみが上述した基材層材料からなり、他方は他の材料からなるものであってもよい。また、シート110は、上述した基材層材料からなる基材層のみを備えるものであってもよく、上述した基材層材料からなる基材層を3層以上備えるものであってもよい。
【実施例0049】
上記実施形態に係る、5層構造のシート(図3参照、厚み:0.45mm)を作製した。このシートを単発圧空成形機「WAKITEC FVT-400」を用いて成形し、図1に示す容器を作製した。図11に各容器を構成するシートの基材層材料を示す。
【0050】
実施例1、2及び比較例1~3はいずれも、基材層材料がプロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、混合比はプロピレン単独重合体が90wt%、エチレン-αオレフィン共重合体が10wt%とした。プロピレン単独重合体は「ノバテック(登録商標)EA9FTD」(日本ポリプロ株式会社製)とし、エチレン-αオレフィン共重合体はエチレン-ブテン共重合体である「タフマー(登録商標)DF」(三井化学株式会社製)とした。
【0051】
実施例1及び2は、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の密度が0.87g/cm以下であり、分散径が300nm以上500nm以下のものである。比較例1及び3は基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の分散径が300nm未満又は500nmを超えるものである。比較例2は、基材層材料を構成するエチレン-αオレフィン共重合体の密度が0.87g/cmを超えるものである。
【0052】
実施例及び比較例に係る容器を成形した際の成形性を図11に示す。実施例1、2及び比較例1、2に係る容器は成形性が良好(図11中、「〇」)だったものの、比較例3に係る容器は流れムラが発生し、成形性は不十分(図11中、「×」)であった。
【0053】
実施例及び比較例に係る容器について、座屈強度を測定した。座屈強度は圧縮試験機を用い、23℃、10mm/sの条件で耐圧縮時の最大強度を測定した。実施例及び比較例に係る容器を10個ずつ測定し、平均値を算出した。座屈強度は実施例及び比較例に係る容器のいずれも基準値を超え、実施例及び比較例に係る容器は十分な剛性を有するといえる。
【0054】
また、実施例及び比較例に係る容器について、落下強度を測定した。落下強度は、各容器に水180gを入れてシールし、5℃で一晩保管した後、落下試験機にて容器底面から2回ずつ、所定の高さからコンクリートへ落下させ、容器の割れを確認することによって行った。実施例及び比較例に係る容器を10個ずつ測定し、割れがない容器の数を計数した。
【0055】
図12は測定結果を示す表であり、落下高さと割れがない容器の数を示す。なお、比較例4は、基材層材料がプロピレン単独重合体である「ノバテック(登録商標)EA9FTD」(日本ポリプロ株式会社製)のみからなり、シートの厚みは0.45mmである。比較例5は基材層材料がブロックポリプロピレンである「ノーブレン(登録商標)AH1311」(住友化学株式会社製)のみからなり、シートの厚みは0.52mmである。図12に示すように実施例1、2に係る容器は比較例1、2、4に係る容器に対して割れにくく、比較例5に係る容器(シート厚:0.52mm)と同等の割れにくさを有する。
【0056】
図11には耐衝撃性の評価結果を示す。落下高さ150cmにおいて割れがない容器の数が5以上の容器を耐衝撃性が良好(図11中、「〇」)とし、5未満の容器を耐衝撃性が不十分(図11中、「×」)とした。同図に示すように、実施例1及び2に係る容器は耐衝撃性に優れるといえる。
【0057】
さらに、実施例及び比較例に係る容器について、基材層材料のTEM(透過電子顕微鏡)観察を行った。図13乃至図16は、各基材層材料のTEM像であり、各図(a)は倍率2万倍、各図(b)は倍率1万2千倍である。各TEM像において灰色の領域がプロピレン単独重合体であり、黒色の領域がエチレン-αオレフィン共重合体である。これらの図に示すように「a/b」(図11参照)が大きい、即ちエチレン-αオレフィン共重合体の粘度がプロピレン単独重合体の粘度に近いほど、エチレン-αオレフィン共重合体の分散径が小さくなることがわかる。
【0058】
以上から基材層材料を、プロピレン単独重合体とエチレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、エチレン-αオレフィン共重合体の密度が0.87g/cm以下、分散径300nm以上500nm以下の分散径を有するもの(実施例1、2)とすることにより、剛性及び耐衝撃性に優れ、成形性も良好な容器とすることが可能であるといえる。
【符号の説明】
【0059】
110…シート
111…第1基材層
112…第1接着層
113…バリア層
114…第2接着層
115…第2基材層
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