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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126369
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電圧測定装置および電圧測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/24 20060101AFI20240912BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01R15/24 E
G01R19/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034696
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 将実
(72)【発明者】
【氏名】梅本 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】橋場 康人
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松元 大悟
【テーマコード(参考)】
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2G025AA17
2G025AB10
2G025AC01
2G035AA12
2G035AB01
2G035AC01
2G035AD36
2G035AD37
(57)【要約】
【課題】直流計測を実現する電圧測定装置において、急峻な電圧が印加された場合でも電圧を正確に測定できる電圧測定装置を得ること。
【解決手段】電圧測定装置は、センサ部と投受光部と信号処理部とを備える。センサ部は、第1端面と第2端面との間を伝搬する2つの偏光成分に位相差を生じさせる電気光学結晶を含む。投受光部は、光源と、偏光状態が変化した成分の光を検出する光検出器と、を含む。信号処理部は、高圧導体に印加されている電圧を求める。電気光学結晶は、第1端面が高圧導体に電気的に接触し、第2端面が接地導体に電気的に接触する。センサ部は、絶縁物を介して接地導体に埋設された電圧測定電極を有する。信号処理部は、電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、電圧測定電極の信号に基づいて高圧導体に印加されている電圧を求め、それ以外の時間では、光検出器で検出される信号に基づいて高圧導体に印加されている電圧を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象と同電位の高圧導体へ向けられた第1端面と、前記第1端面とは反対側の接地導体へ向けられた第2端面と、を有し、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬する光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、前記第1端面と前記第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる電気光学結晶を含むセンサ部と、
前記光を出力する光源と、前記電気光学結晶について、前記電気光学結晶から出射された光に含まれる成分であって、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を検出する光検出器と、を含む投受光部と、
前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて、前記高圧導体に印加されている電圧を求める信号処理部と、
を備え、
前記電気光学結晶は、前記第1端面が前記高圧導体に電気的に接触するとともに、前記第2端面が前記接地導体に電気的に接触し、
前記センサ部は、絶縁物を介して少なくとも一部が前記接地導体に埋設された電圧測定電極を有し、
前記信号処理部は、前記高圧導体に急峻な電圧が印加された場合に、前記電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、前記電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求め、前記電気光学結晶の前記電歪効果の影響が収まるまでの時間以外の時間では、前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする電圧測定装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記電気光学結晶から測定した第1位相差と前記第1位相差の前に測定した第2位相差との差を位相変化量Δθ13[°]とし、前記第1位相差を検出した時刻と前記第2位相差を検出した時刻との差をΔt[μsec]とし、ポッケルス係数に依存する比例定数をA[kV/°]とし、前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて検出された前記位相変化量Δθ13が次式(1)を満たす場合に、前記電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする請求項1に記載の電圧測定装置。
Δθ13≧50×Δt/A ・・・(1)
【請求項3】
前記センサ部は、同じ電圧を印加した際に生じる位相差が異なる前記電気光学結晶を複数有することを特徴とする請求項1に記載の電圧測定装置。
【請求項4】
前記センサ部は、前記電気光学結晶の前記第2端面と前記接地導体とが電気的に接続された部分を囲むように配置された電界を緩和するシールド電極をさらに有し、
前記電圧測定電極は、前記シールド電極の内側の前記接地導体に前記絶縁物を介して埋設されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電圧測定装置。
【請求項5】
前記電圧測定電極は、前記電気光学結晶の前記第2端面と前記接地導体とが電気的に接続された部分を囲むように、前記接地導体に前記絶縁物を介して埋設される第1部分と、前記高圧導体に面する前記接地導体の面から突出する第2部分と、を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電圧測定装置。
【請求項6】
測定対象に印加される電圧を電圧測定装置によって測定する電圧測定方法であって、
前記測定対象と同電位の高圧導体に電気的に接触された第1端面と、前記第1端面とは反対側の接地導体に電気的に接触された第2端面と、を有する電気光学結晶の前記第1端面と前記第2端面との間に光源からの光を伝搬させ、前記光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、前記第1端面と前記第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる光伝搬工程と、
前記電気光学結晶について、前記電気光学結晶から出射された光に含まれる成分であって、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出される前記電気光学結晶に対応する信号に基づいて、前記高圧導体に印加されている電圧を求める信号処理工程と、
を含み、
前記信号処理工程では、前記高圧導体に急峻な電圧が印加された場合に、前記電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、絶縁物を介して少なくとも一部が前記接地導体に埋設された電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求め、前記電気光学結晶の前記電歪効果の影響が収まるまでの時間以外の時間では、前記検出工程で検出される前記電気光学結晶に対応する信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする電圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気光学効果を利用して電圧を測定する電圧測定装置および電圧測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長距離送電を行うシステムの1つとして、送電効率の高さといった観点から、高電圧直流送電(High Voltage Direct Current:HVDC)システムが注目されている。直流電圧は、直流送電系統と交流送電系統とに接続されて交流電力と直流電力との間の変換を行う交直変換装置、および、交流送電系統同士に接続されて電圧の周波数を変換する周波数変換装置などにおいて、常時監視される。監視の対象とされる系統電圧は数百kVといった高電圧であることから、一般に、分圧器を用いて系統電圧を扱い易い電圧にまで降圧させて、降圧後の電圧が電圧測定装置によって測定される。分圧器は、一般に、抵抗あるいはキャパシタといった温度依存性を有する電気回路素子を組み合わせることによって構成される。このため、分圧器を有する電圧測定装置の場合、設置される環境の温度変化に対する測定精度を保証し得る分圧器を搭載する必要があり、設計および製造に多大な費用がかかる。また、多くの分圧器には、抵抗体を絶縁するための油が使用されていることから、分圧器が破損した際に油が流出するという懸念がある。
【0003】
分圧器を使用せずに、高電圧を測定する方式として、1次の電気光学効果であるポッケルス効果を利用した電圧測定装置が開発されている。ポッケルス効果は、電気光学結晶と呼ばれるある種の結晶に電界を作用させた場合に、電界の強さの1乗に比例して結晶の屈折率が変化する現象である。ポッケルス効果による結晶の屈折率変化は、微少であるが、屈折率に異方性が生じる特性を利用することで、透過光の偏光状態の変化として測定することができる。一例では、偏光素子を用いて、電気光学結晶に直線偏光を入射させ、電気光学結晶から出射した光の偏光状態の変化を光の強度変化として測定することで、電気光学結晶に印加された電圧を求めることができる。
【0004】
ポッケルス効果を用いた電圧測定装置は、絶縁性に優れ、装置を小型化および低コスト化できるメリットがある。しかし、電気光学結晶に直流電圧を印加すると、時間が経つにつれて、結晶内の空間電荷が移動し、光が透過する部分の電界分布が変化するため、長時間安定して電圧を測定することが困難であることが知られている。この影響を回避する方法として、特許文献1には、電気光学結晶内で光の進行方向と電界が印加される方向とを同じ向きにする縦型変調方式が提案されている。縦型変調方式では、直流電圧の印加によって電気光学結晶内の電界分布が不均一になったとしても、光は電界が強められた部分と弱められた部分との両方を通過し、電界方向に沿った積分値は一定となるため、電気光学結晶の端面間に印加された電圧を安定して測定することができる。ただし、測定対象の電圧が印加される電極と電気光学結晶との密着性が不十分な場合には、隙間部分の抵抗値が電気光学結晶の抵抗値に対して無視できず、直流電圧を長時間安定して測定することはできない。このため、直流計測を実現する電圧測定装置は、電極に電気光学結晶を密着させた構成とする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-11019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポッケルス効果を用いた電圧測定装置において、直流電圧を長時間安定して計測するために、電極に電気光学結晶を密着させた場合、電気光学結晶に急峻な電圧が印加されると、電気光学結晶の電歪効果の影響により、測定信号にノイズ成分が重畳され、正しい電圧を測定できないという課題がある。電歪効果は、逆圧電効果と呼ばれる、電気光学結晶に電界をかけた際に分極に伴って機械的にひずみを生じる現象によって、結晶が電界方向および電界に垂直方向に固有モードで振動する現象である。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、直流計測を実現する電圧測定装置において、急峻な電圧が印加された場合でも電圧を正確に測定できる電圧測定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の電圧測定装置は、センサ部と、投受光部と、信号処理部と、を備える。センサ部は、測定対象と同電位の高圧導体へ向けられた第1端面と、第1端面とは反対側の接地導体へ向けられた第2端面と、を有し、第1端面と第2端面との間を伝搬する光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、第1端面と第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる電気光学結晶を含む。投受光部は、光を出力する光源と、電気光学結晶について、電気光学結晶から出射された光に含まれる成分であって、第1端面と第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を検出する光検出器と、を含む。信号処理部は、電気光学結晶に対応する光検出器によって検出される信号に基づいて、高圧導体に印加されている電圧を求める。電気光学結晶は、第1端面が高圧導体に電気的に接触するとともに、第2端面が接地導体に電気的に接触する。センサ部は、絶縁物を介して少なくとも一部が接地導体に埋設された電圧測定電極を有する。信号処理部は、高圧導体に急峻な電圧が印加された場合に、電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、電圧測定電極の信号に基づいて高圧導体に印加されている電圧を求め、電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間以外の時間では、電気光学結晶に対応する光検出器によって検出される信号に基づいて高圧導体に印加されている電圧を求める。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、直流計測を実現する電圧測定装置において、急峻な電圧が印加された場合でも電圧を正確に測定できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る電圧測定装置の構成の一例を模式的に示す図
図2】電気光学結晶の構成の一例を示す図
図3】電気光学結晶の構成の他の例を示す図
図4】接地導体および電圧測定電極の構成の一例を示す上面図
図5】接地導体および電圧測定電極の構成の一例を示す断面図
図6】接地導体および電圧測定電極の構成の他の例を示す断面図
図7】光源、偏光子、偏光変調器、検光子および光検出器と光の偏光状態との関係の一例を模式的に示す図
図8】偏光変調器の駆動電圧のモニター信号と光検出器の受光信号との関係の一例を示す図
図9】実施の形態1に係る電圧測定装置を構成するファラデーローテータの効果を説明する図
図10】急峻な電圧が印加された場合の偏光変調器の駆動電圧のモニター信号と光検出器の受光信号との関係の一例を示す図
図11】実施の形態1に係る電圧測定装置における電圧測定回路が高圧導体に印加された電圧を測定する処理手順の一例を示すフローチャート
図12】実施の形態1に係る電圧測定装置における高圧導体に急峻な電圧が印加された場合の電圧測定回路によって出力される電圧値の時間変化の一例を示す図
図13】実施の形態2に係る電圧測定装置の構成の一例を模式的に示す図
図14】実施の形態2に係る電圧測定装置に用いられる2つの電気光学結晶の切り出し方位の一例を示す図
図15】実施の形態2に係る電圧測定装置における2つの電気光学結晶の位相差の関係の一例を示す図
図16】実施の形態2に係る電圧測定装置を構成する電圧測定回路が高圧導体に印加された電圧を測定する処理手順の一例を示すフローチャート
図17】実施の形態3に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す上面図
図18】実施の形態3に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す断面図
図19】実施の形態4に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す上面図
図20】実施の形態4に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す断面図
図21】実施の形態1から4に係る電圧測定装置の信号処理部を実現するハードウェアの一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態にかかる電圧測定装置および電圧測定方法を、図面を参照しながら説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電圧測定装置の構成の一例を模式的に示す図である。実施の形態1に係る電圧測定装置1は、センサ部10と、投受光部20と、信号処理部30と、を備える。センサ部10と投受光部20とは、光ファイバ40で接続される。光ファイバ40は、偏波面保持ファイバ、すなわち光弾性効果または構造変化を利用して、コアの直交する2つの軸方向で実効屈折率が異なる複屈折を生じさせて、伝送する光の偏波面保持特性を高めたファイバである。
【0013】
センサ部10は、高圧導体11と、接地導体12と、高圧導体11および接地導体12の双方と電気的に接触した電気光学結晶13と、接地導体12に絶縁物15を介して埋設した電圧測定電極14と、ファラデーローテータ16と、コリメータレンズ17と、を備える。
【0014】
高圧導体11は、測定対象の電圧Vと同電位の導体である。測定対象の電圧は、一例では、50kVといった電圧である。接地導体12は、基準電位点に接続されている導体である。
【0015】
電気光学結晶13は、1次の電気光学効果であるポッケルス効果を有する結晶である。ポッケルス効果は、電気光学結晶13に外部から電界が加えられた場合に、分極状態が変化し、屈折率が電界に比例して変化する現象である。電気光学結晶13の特定の方向に外部から電界を加えると、電気光学結晶13の屈折率に異方性が生じる。光は、一般に振動方向が互いに直交する2つの偏光成分の合成で表され、屈折率に異方性が生じている電気光学結晶13を透過すると、2つの偏光成分に位相差、すなわち、偏光位相差が生じる。ポッケルス効果では、偏光位相差は電気光学結晶13に加えられている電界の強度に比例するため、偏光素子を用いて、電気光学結晶13を透過した光の偏光状態の変化を測定することによって、電気光学結晶13に印加された電圧を求めることができる。なお、電気光学結晶13としては、ポッケルス効果を有する結晶である、LiNbO3、LiTaO3、NH2PO4(第一燐酸アンモニウム(Ammonium Dihydrogen Phosphate:ADP))、KH2PO4(燐酸二水素カリウム(Potassium Dihydrogen Phosphate:KDP))、SiO2(水晶)、Bi12SiO20、Bi12GeO20、Bi4Ge312、ZnS、ZnTeなどを使用することができる。
【0016】
なお、以下の説明では、電気光学結晶13の端面のうち、高圧導体11へ向けられている端面を第1端面と称し、接地導体12へ向けられている端面を第2端面と称することがある。第2端面は、第1端面とは反対側の端面であって、接地導体12に電気的に接続される。電気光学結晶13に入射する光の進行方向は、電気光学結晶13に印加される電界方向と同じ方向とする縦型変調方式とする。接地導体12側から電気光学結晶13に光を入射させるため、接地導体12に光を透過する孔である透過孔を設ける。光は、接地導体12に設けた透過孔から電気光学結晶13の第2端面に入射し、第1端面側に設けられた図示しないミラーで反射した後、第2端面および接地導体12の透過孔から出射する。
【0017】
電気光学結晶13は、高圧導体11に急峻な電圧が印加されて電歪効果の影響を受ける場合を除いて、高圧導体11に印加されている電圧Vを測定する役割を果たす。図2は、電気光学結晶の構成の一例を示す図である。電気光学結晶13と高圧導体11および接地導体12との間に空間的な隙間がある場合、電気光学結晶13と空間的な隙間とで被測定電圧Vが分圧され、直流電圧を正確に計測することが難しくなる。このため、図2に示されるように、電気光学結晶13の第1端面および第2端面には、蒸着、スパッタ等の成膜法によって導電性の薄膜13a,13bが密着して形成される。電気光学結晶13の第1端面に密着される薄膜13aは、光を反射させるためのミラーの役割も果たす金属膜であり、Al(アルミニウム)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)などを使用することができる。また、電気光学結晶13の第2端面に密着される薄膜13bは、光を透過する必要があり、透明電極膜を使用することができる。図3は、電気光学結晶の構成の他の例を示す図である。図3に示されるように、光が電気光学結晶13の第2端面で反射することを避けるために、第2端面の光が通過する領域、図3の例では、第2端面の中心部分を除いた部分に薄膜13bが形成され、光が通過する領域には、光の端面反射を防止する薄膜13cが設けられてもよい。薄膜13cは、一例では、電気光学結晶13に入射する光の波長の反射光を抑えるように設計された単層または多層の誘電体膜である。
【0018】
図1に戻り、電圧測定電極14は、高圧導体11に急峻な電圧が印加されて電気光学結晶13が電歪効果の影響を受ける場合に、電気光学結晶13の代わりに高圧導体11に印加されている電圧Vを測定する役割を果たす。電気光学結晶13に急峻な高電圧が印加されると、電気光学結晶13の電歪効果の影響により、測定信号にノイズ成分が重畳され、正しい電圧を測定することが難しくなる。このため、高圧導体11に一定の急峻な電圧が印加された場合には、電圧測定電極14により電圧を測定する。電圧測定電極14は、電気光学結晶13に対してかかる電圧よりも十分小さい電圧がかかるように設計する。一例では、図1に示されるように、接地導体12と電圧測定電極14との間に配置する絶縁物15の厚みを高圧導体11と接地導体12との距離よりも充分狭く設定する。ここでは、絶縁物15の厚みを、高圧導体11と接地導体12との間の距離の100分の1程度にすることを想定する。この場合、高圧導体11と電圧測定電極14との間および電圧測定電極14と接地導体12との間の空間的な隙間で被測定電圧が分圧されるため、電圧測定電極14に印加される電圧が十分小さくなり、高圧導体11に急峻な高電圧が印加された場合に正しい電圧を測定することができる。
【0019】
図4は、接地導体および電圧測定電極の構成の一例を示す上面図である。図5は、接地導体および電圧測定電極の構成の一例を示す断面図である。図5は、図4のV-V断面図である。電圧測定電極14は、図4に示されるように、絶縁物15を介して接地導体12に固定されている。電圧測定電極14は導体であり、SUS(Stainless Used Steel)、Fe(鉄)、Alなどの金属である。絶縁物15は、電気絶縁物であり、また、接地導体12に電圧測定電極14を固定する役割を果たす。絶縁物15は、エポキシ樹脂(EPoxy resin:EP)、フェノール樹脂(Phenol Formaldehyde resin:PF)、ポリウレタン(Poly Urethane Resin:PUR)などである。電圧測定電極14の形状は、一例では、円柱状である。電圧測定電極14は、高圧導体11の平面部と面する範囲内で接地導体12に配置される。また、接地導体12と電圧測定電極14との間の絶縁厚が均一になるように、電圧測定電極14は配置される。図4および図5の例では、接地導体12は、高圧導体11の平面部と面する範囲内に接地導体12の平面部に平行な断面が円状の開口部を有する。電圧測定電極14は、接地導体12の開口部にリング状の絶縁物15を介して埋め込まれる。リング状の絶縁物15の径方向の厚さは一定である。
【0020】
図6は、接地導体および電圧測定電極の構成の他の例を示す断面図である。図6は、図4のV-V断面図に対応している。一例では、図6に示されるように、接地導体12は、電圧測定電極14および絶縁物15が配置されている領域を含む接地導体12の下面に設けられる樹脂プレート151を有していてもよい。なお、接地導体12の下面は、高圧導体11と面する接地導体12の平面部とは反対側の平面部である。このような構成の接地導体12は、一例では、接地導体12の下面側に配置した樹脂プレート151によって接地導体12に設けた開口部の中心位置に電圧測定電極14を固定した後、接地導体12と電圧測定電極14との隙間に絶縁物15となる樹脂を注入し、硬化させることによって形成される。
【0021】
図1に戻り、ファラデーローテータ16は、ファラデー効果により、入射した光の偏光面を回転させるローテータ、すなわち回転子である。ファラデー効果は、光の進行方向と平行に磁界を加えると磁界の強さに応じて偏光面が回転する現象である。一般的に、光ファイバ40内を光の位相状態を保持して伝送することは困難である。しかし、入射する光の偏光面を45°回転するように設計したファラデーローテータ16を用いて、光ファイバ40内を往復させることで、光の位相状態を保持して光を伝送することが可能となる。
【0022】
コリメータレンズ17は、光ファイバ40から出射した光を平行光にし、さらに、電気光学結晶13の第1端面で折り返して戻ってきた光を再び光ファイバ40に入射させる役割を果たす。
【0023】
投受光部20は、光源21と、偏光子22と、偏光変調器23と、ビームスプリッタ24a,24bと、コリメータレンズ25と、検光子26a,26bと、光検出器27a,27bと、を備える。
【0024】
光源21は、センサ部10での電圧測定に使用される光を出射する。光源21としては、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)、半導体レーザ、固体レーザ、気体レーザなどを使用することができる。光源21から発せられる光としては、内部光電効果を生じない程度に波長の長い光である、波長750nm以上の赤外光を使用することが望ましい。内部光電効果は、波長の短い光の照射により、絶縁体の電気抵抗が下がり、電流が流れやすくなる現象である。また、光は光ファイバ40内を往復するため、光源21として、干渉性の小さなLED、スーパールミネッセントダイオード(Super Luminescent Diode:SLD)、自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)光源などを使用することが望ましい。
【0025】
偏光子22は、光源21と偏光変調器23との間に配置され、光源21から出射した光を直線偏光に変換する光学素子である。
【0026】
偏光変調器23は、透過光、ここでは偏光子22からの光の偏光状態を変調する光学素子である。偏光変調器23としては、電気光学素子型の変調器、円筒型圧電素子に光ファイバを巻いて構成される圧電素子型の変調器などを用いることができる。偏光変調器23は、電気光学素子または円筒型圧電素子に外部から電圧を印加することで、直交する2つの偏光成分の間に位相差を与える。偏光変調器23への入射光が直線偏光である場合の出射光は、位相差が0となる電圧を印加したときには入射光と同じ直線偏光になり、位相差がλ/4となる電圧を印加したときには円偏光になり、位相差がλ/2となる電圧を印加したときには入射光の直線偏光に対して90°回転した直線偏光になる。ここで、λは入射光の波長である。
【0027】
ビームスプリッタ24a,24bは、偏光無依存のビームスプリッタであり、入射光の偏光状態を変化させずに、透過光と反射光とを所定の光量比率で分割する光学素子である。ビームスプリッタ24aは、偏光変調器23の後に配置され、偏光変調器23から出射した光を、光検出器27aに入射させる光と、電気光学結晶13に入射させる光と、に分離する役割を果たす。ビームスプリッタ24bは、ビームスプリッタ24aの後に配置され、偏光変調器23から出射した光を、電気光学結晶13に入射させる。また、ビームスプリッタ24bは、電気光学結晶13から戻ってきた光を光検出器27bに入射させる役割を果たす。
【0028】
コリメータレンズ25は、偏光変調器23からの光がビームスプリッタ24bによって90°の方向へ反射された光を光ファイバ40に入射させる役割を果たす。さらに、コリメータレンズ25は、センサ部10を経由し、光ファイバ40から出射した光を平行光にして光検出器27bに入射させる役割を果たす。
【0029】
検光子26aは、光検出器27aの前に配置され、ビームスプリッタ24aで反射する光から直線偏光を取り出す光学素子である。検光子26bは、光検出器27bの前に配置され、ビームスプリッタ24bを透過する光から直線偏光を取り出す光学素子である。
【0030】
光検出器27a,27bは、光-電気変換により、光強度を電気信号として検出する。光-電気変換は、O/E変換とも称される。光検出器27a,27bとしては、一例では、光源21が発する光の波長に高い感度を有するフォトダイオードを使用することができる。光検出器27aは、偏光変調器23から出射した光の偏光状態を測定するために使用する。光検出器27bは、電気光学結晶13内を往復した光の偏光状態を測定するために使用する。
【0031】
信号処理部30は、変調器駆動回路31と、電圧測定回路32と、電圧測定電極用電圧測定回路33と、を備える。変調器駆動回路31は、偏光変調器23を動作させるための駆動電圧を出力するとともに、駆動電圧のモニター信号を電圧測定回路32に出力する。電圧測定回路32は、光検出器27a,27bの受光信号、および偏光変調器23の駆動電圧のモニター信号に基づき、高圧導体11に印加された電圧Vを算出する。電圧測定電極用電圧測定回路33は、電圧測定電極14に分圧された電圧V’を測定し、測定した電圧V’から演算機構により高圧導体11に印加された電圧Vを算出する。算出した電圧Vは、電圧測定回路32に送信する。電圧測定回路32は、算出した電圧Vをアナログ値またはデジタル値として出力する。また、電圧測定回路32は、算出した電圧Vを、図示しない表示器を用いてアナログ表示またはデジタル表示してもよい。
【0032】
以下に、図1を用いて、実施の形態1に係る電圧測定装置1の動作について説明する。光源21から出射した光は、偏光子22に入射する。偏光子22は、入射した光から直線偏光を取り出す。偏光子22で取り出された直線偏光は、偏光変調器23に入射する。偏光変調器23は、変調器駆動回路31から出力される駆動電圧に応じて、入射する直線偏光を楕円偏光または円偏光に変化させる。偏光変調器23から出射した光は、ビームスプリッタ24aによって、透過する光と90°の方向へ反射する光とに分岐される。
【0033】
ビームスプリッタ24aで90°の方向へ反射した光は検光子26aに入射する。検光子26aは、入射した光から直線偏光を取り出す。検光子26aによって取り出された直線偏光は、光検出器27aに入射する。
【0034】
図7は、光源、偏光子、偏光変調器、検光子および光検出器と光の偏光状態との関係の一例を模式的に示す図である。偏光変調器23は、電気光学結晶を用いた変調器であり、駆動電圧VEOを印加すると、駆動電圧VEOに比例して電気光学結晶の軸に垂直な方向と平行な方向との間に屈折率差、つまり偏光位相差θが生じると仮定する。電気光学結晶の結晶軸に平行な方向は、電解方向であり、Y方向であり、Y方向に垂直な方向であるとともに光の進行方向に垂直な方向がX方向である。偏光子22と検光子26aとは、図7に示されるように、透過する直線偏光が偏光変調器23の結晶軸である電界方向に対して45°方向となるように配置される。偏光変調器23に入射する光量をIINとし、偏光変調器23から出射して検光子26aを介して光検出器27aで検出される光量をIOUTとすると、IOUT/IINは、次式(1)で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
図8は、偏光変調器の駆動電圧のモニター信号と光検出器の受光信号との関係の一例を示す図である。図8で、横軸は、偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号を示し、縦軸は、光検出器27a,27bの受光信号を示している。また、実線は、駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27aの受光信号を示し、破線は、駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27bの受光信号を示している。偏光位相差θは、偏光変調器23の駆動電圧VEOに比例するため、偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27aの受光信号は、図8の実線のように表せる。
【0037】
一方、図1に戻り、偏光変調器23から出射し、ビームスプリッタ24aを透過した光は、ビームスプリッタ24bで透過する光と90°の方向へ反射する光とに分岐される。90°の方向へ反射した光は、コリメータレンズ25で光ファイバ40に集光される。光ファイバ40に集光された光は、センサ部10へと伝送され、センサ部10のコリメータレンズ17から出射し、ファラデーローテータ16に入射する。ファラデーローテータ16は、入射した光の偏波面を45°回転させる。ファラデーローテータ16から出射した光は、電気光学結晶13に第2端面から入射し、第1端面に設けたミラーの機能をもつ薄膜13aによって反射され、第2端面から出射する。電気光学結晶13の第2端面から出射した光は、再度、ファラデーローテータ16に入射する。ファラデーローテータ16は、入射した光の偏波面を45°回転させることで、往復で光の偏波面を90°回転させる。ファラデーローテータ16から出射した光は、コリメータレンズ17で光ファイバ40に集光される。光ファイバ40に集光された光は、投受光部20へと伝送される。
【0038】
ここで、ファラデーローテータ16による位相ノイズのキャンセル原理を説明する。図9は、実施の形態1に係る電圧測定装置を構成するファラデーローテータの効果を説明する図である。直線偏光の光を偏波保持ファイバである光ファイバ40の固有軸に対し、45°の傾きで入射させる場合を仮定する。直線偏光をX軸およびY軸方向の直交偏光成分に分け、各偏光成分の位相をそれぞれφxおよびφyとする。一般的に、光が光ファイバ40内を伝搬する際に、光ファイバ40の曲げ、温度変化などの外乱によって、各偏光成分に位相ノイズnxおよびnyが付加される。光ファイバ40から出射した光をミラーでそのまま反射した場合、再度光ファイバ40を透過した後の各偏光成分の位相は、φx+2nxおよびφy+2nyとなる。つまり、光ファイバ40を往復した直交偏光間の位相差Δは、次式(2)で表され、(2)式中の2nx-2nyが光ファイバ40による位相ノイズとなる。
【0039】
Δ=(φx+2nx)-(φy+2ny
=φx-φy+2nx-2ny ・・・(2)
【0040】
これに対して、図9に示されるように、偏光面を45°回転することができるファラデーローテータ16を挿入した場合には、光ファイバ40から出射した光は、ファラデーローテータ16を往復することで、偏光面が90°回転し、直交偏光成分が入れ替わる。つまり、光ファイバ40を往復した後は、各偏光成分に位相ノイズnx+nyが付加される。このときの直交偏光の位相差Δは、次式(3)で表され、光ファイバ40による位相ノイズnxおよびnyが除去される。
【0041】
Δ=(φx+nx+ny)-(φy+nx+ny
=φx-φy ・・・(3)
【0042】
図1に戻り、センサ部10の電気光学結晶13内を往復し、光ファイバ40を介して、投受光部20に伝送された光は、コリメータレンズ25で平行光となり、ビームスプリッタ24bと検光子26bとを透過した後、光検出器27bで検出される。検光子26bは、図7に示されるように、透過する直線偏光が偏光変調器23の電気光学結晶の結晶軸の方向である電界方向に対して45°方向となるように配置される。偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27bの受光信号は、光検出器27aの受光信号に対する位相差をθ13とすると、図8の破線のように表せる。以下では、電気光学結晶13を含めて、光が透過した全ての光学素子に自然複屈折がない、かつ、光路長による光の時間遅延が無視できると仮定する。高圧導体11の電圧Vがゼロの場合、光検出器27bの受光信号の位相は、光検出器27aの受光信号の位相と同じになり、位相差θ13は0となる。
【0043】
高圧導体11に電圧Vが印加されると、高圧導体11および接地導体12は、それぞれ電気光学結晶13の第1端面に密着した薄膜13aおよび第2端面に密着した薄膜13bと導通しているため、電気光学結晶13に電圧Vが印加される。電気光学結晶13に電圧Vが印加されると、電圧Vに比例して光の偏波面の直交する2方向に屈折率差、つまり偏光位相差θ13が生じる。信号処理部30の電圧測定回路32は、光検出器27aの受光信号、光検出器27bの受光信号、および変調器駆動回路31から出力される駆動電圧VEOのモニター信号に基づいて位相差θ13を算出する。さらに、次式(4)で表される関係を利用して、予め取得した比例定数Aに基づいて、電圧Vを算出する。比例定数Aは、電気光学結晶13のポッケルス係数に依存する。比例定数Aの単位は、kV/°である。
【0044】
V=A*θ13 ・・・(4)
【0045】
高圧導体11に急峻な電圧Vが印加された場合、電圧測定電極用電圧測定回路33は、次式(5)に示されるように所定の分圧比Cで電圧測定電極14に分圧された電圧V’を測定し、測定した電圧V’の電圧データから演算機構により電圧Vを算出する。算出した電圧Vは、電圧測定回路32に送信する。
【0046】
V=(1/C)V’ ・・・(5)
【0047】
電圧測定回路32は、取得した位相差θ13に基づき高圧導体11に急峻な電圧が印加されていないと判定した場合には、電圧測定回路32内で位相差θ13から(4)式を用いて算出した電圧Vを出力する。一方、電圧測定回路32は、取得した位相差θ13に基づき高圧導体11に急峻な電圧が印加されていると判定した場合には、電気光学結晶13の電歪効果の影響が収まるまでの時間、電圧測定電極用電圧測定回路33から受信した電圧Vを出力する。
【0048】
図10は、急峻な電圧が印加された場合の偏光変調器の駆動電圧のモニター信号と光検出器の受光信号との関係の一例を示す図である。図10で、横軸は、偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号を示し、縦軸は、光検出器27a,27bの受光信号を示している。また、実線は、駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27aの受光信号を示し、破線は、駆動電圧VEOのモニター信号に対する光検出器27bの受光信号を示している。電気光学結晶13は、急峻な電圧が高圧導体11に印加された場合には、電歪効果の影響により、図10の破線に示されるように、光検出器27bの受光信号にノイズ成分が重畳され、正しい電圧を測定することが困難となる。電歪効果の影響は、電気光学結晶13に印加される電圧が大きいほど大きくなる。ここで、電歪効果の影響が収まるまでの時間は、一例では1秒以内の比較的短時間となる。これに対し、電圧測定電極14は、急峻な高電圧が高圧導体11に印加された場合においても、光検出器27bの受光信号にノイズ成分が重畳されることなく、正しい電圧を測定することができる。ここでは、高圧導体11と電圧測定電極14との間および電圧測定電極14と接地導体12との間の空間的な隙間で被測定電圧が分圧されるため、電圧測定電極14に印加される電圧を測定することで、高圧導体11に印加される電圧を求めることが可能となる。なお、電歪効果の影響を無視できる時間の範囲における直流電圧を電圧測定電極14により測定した場合、高圧導体11と接地導体12との間の抵抗値が絶縁物15の抵抗値に比べ極めて大きくなることから分担電圧は極めて小さく、電圧測定電極14により直流電圧を測定することは困難である。
【0049】
図11は、実施の形態1に係る電圧測定装置における電圧測定回路が高圧導体に印加された電圧を測定する処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、電圧の測定に当たり、電気光学結晶13の第1端面と第2端面との間に光源21からの光を伝搬させ、光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、第1端面と第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる。これは、光伝搬工程に対応する。次いで、電気光学結晶13について、電気光学結晶13から出射された光に含まれる成分であって、第1端面と第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を光検出器27aで検出する。これは、検出工程に対応する。その後、信号処理部30は、電気光学結晶13に対応する信号に基づいて、高圧導体11に印加されている電圧を求める。これは、信号処理工程に対応する。図11は、信号処理工程の詳細を示している。
【0050】
電圧測定回路32は、光検出器27aの受光信号、光検出器27bの受光信号、変調器駆動回路31から出力される偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号に基づいて、電気光学結晶13の位相差θ13を測定する(ステップS11)。電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相差θ13について前回の測定値からの位相変化量Δθ13を算出する(ステップS12)。つまり、第1時刻に電気光学結晶13から測定した位相差θ13である第1位相差と、第1時刻よりも前の第2時刻に電気光学結晶13から測定した位相差θ13である第2位相差と、の差を位相変化量Δθ13とする。
【0051】
次に、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある定められた閾値θT以上であるかを判定する(ステップS13)。閾値θTは、電気光学結晶13が電歪効果の影響を無視できなくなる高圧導体11の電圧変化量ΔVに基づいて決定される。一例では、1μsec以内で50kVを超えるような急峻な電圧が高圧導体11に印加された場合、電気光学結晶13の電歪効果の影響により、光検出器27bの受光信号にノイズ成分が重畳され、正しい電圧を測定することが困難となり得る。位相変化量Δθ13の測定ピッチΔtと急峻な電圧50kVとから、(4)式より、閾値θTは次式(6)で表される。なお、位相変化量Δθ13の測定ピッチΔtは、第1時刻と第2時刻との差である。また、位相変化量Δθ13の単位は°であり、時刻の単位はμsecである。
【0052】
θT=50×Δt/A ・・・(6)
【0053】
電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θT未満である場合(ステップS13でNoの場合)には、(4)式より、電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて、高圧導体11の電圧Vを算出して出力する(ステップS14)。閾値θTが50×Δt/A未満である場合は電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて算出した高圧導体11の電圧Vを出力することが望ましい。また、閾値θTが75×Δt/A未満である場合には位相差θ13に基づいて算出した高圧導体11の電圧Vを出力することがより望ましく、閾値θTが100×Δt/A未満である場合には位相差θ13に基づいて算出した高圧導体11の電圧Vを出力することがさらに望ましい。一例では、電気光学結晶13の半波長電圧V13πが25kVである場合、位相差θ13が0≦θ13<2πとなる電圧Vが0≦V<50kVの電圧測定範囲となる。その後、処理がステップS11に戻る。
【0054】
電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θT以上である場合(ステップS13でYesの場合)には、電圧測定電極14からの信号に基づいて電圧測定電極用電圧測定回路33により算出された高圧導体11の電圧Vを出力する(ステップS15)。その後、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θTを超えてから、電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過しているかを判定する(ステップS16)。この時間Tは、高圧導体11に急峻な高電圧が印加されてから、電気光学結晶13に対する電歪効果の影響が収まり、電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて、正しい電圧を測定することができるようになるまでの時間であり、おおむね10msec以内である。電圧測定回路32は、電気光学結晶13に対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過していないと判定した場合(ステップS16でNoの場合)には、ステップS15に戻り、電気光学結晶13に対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過するまで繰り返す。一方、時間Tが経過したと判定した場合(ステップS16でYesの場合)には、処理がステップS11に戻り、上記処理が繰り返される。以上のように、急峻な電圧を判断する閾値θTを適切に設定することで、直流電圧と急峻な電圧とを正確に測定することができる。
【0055】
次に、実施の形態1に係る電圧測定装置1で高圧導体11に急峻な電圧が印加された場合の測定結果の一例を説明する。図12は、実施の形態1に係る電圧測定装置における高圧導体に急峻な電圧が印加された場合の電圧測定回路によって出力される電圧値の時間変化の一例を示す図である。この図において、横軸は時刻を示し、縦軸は電圧を示す。また、この図において、黒色の丸印は、電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて測定された電圧Vを示し、白色の丸印は、電圧測定電極14に基づいて測定された電圧Vを示す。また、破線は、実際に高圧導体11に印加される電圧を示し、実線は、電圧測定回路32によって出力される電圧を示している。急峻な電圧が印加される前の時刻t1までは、電圧測定回路32は、図11のステップS11からステップS14に示したように、電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて、高圧導体11の電圧Vを算出して出力する。一方、急峻な電圧が印加された時刻t1の直後は、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過するまで、図11のステップS15からステップS16に示したように、電圧測定電極14の信号に基づいて電圧測定電極用電圧測定回路33によって算出された高圧導体11の電圧Vを出力する。電気光学結晶13の電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過した後の時刻t2以降では、電圧測定回路32は、図11のステップS11からステップS14に示したように、再び電気光学結晶13の位相差θ13に基づいて、高圧導体11の電圧Vを算出して出力する。
【0056】
以上のように、実施の形態1の電圧測定装置1では、センサ部10は、第1端面と第2端面との間を伝搬する光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、第1端面と第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる電気光学結晶13と、第1端面に接続される測定対象と同電位の高圧導体11と、第2端面に接続される接地導体12と、接地導体12に貫通するように設けられた円形の開口部に厚さの一様な絶縁物15を介して設けられる電圧測定電極14と、を有する。高圧導体11に急峻な電圧が印加されない場合には、電気光学結晶13を通過させる光の偏波面の直交する2方向に生じる屈折率差を用いて高圧導体11に印加される電圧を算出し、高圧導体11に急峻な電圧が印加される場合には、電圧測定電極14で測定される信号に基づいて高圧導体11に印加される電圧を算出する。このような構成によって、電圧測定装置1において、直流計測を実現するだけでなく、急峻な電圧が印加された場合においても、電圧を正確に測定できるという効果を有する。
【0057】
実施の形態2.
実施の形態1に係る電圧測定装置1では、電気光学結晶13の位相差θ13を測定できる範囲は0≦θ13<2πであり、高圧導体11に印加される電圧Vが0≦V<2V13π[V]の範囲外になる場合には、電気光学結晶13の位相差θ13のみを用いて正しい電圧Vを測定することができない。そこで、実施の形態2では、高圧導体11に印加される電圧Vが0≦V<2V13π[V]の範囲外でも、電気光学結晶13の位相差θ13のみを用いて正しい電圧Vを測定することができる電圧測定装置について説明する。
【0058】
実施の形態2に係る電圧測定装置は、実施の形態1に係る電圧測定装置1に対して、電気光学結晶13に加えて、電気光学結晶13と同様に、高圧導体11と接地導体12とに電気的に接触した他の電気光学結晶をさらに備える。また、他の電気光学結晶の半波長電圧は、電気光学結晶13の半波長電圧V13πと異なることとする。電気光学結晶13の半波長電圧V13πと他の電気光学結晶の半波長電圧とが異なるようにする方法としては、一例では、以下の3つの方法がある。
(1)電気光学結晶13と他の電気光学結晶とで同じ材質の結晶を使用し、結晶を切り出す方位を変化させる方法。
(2)電気光学結晶13と他の電気光学結晶とで同じ材質の結晶を使用し、波長の異なる光を入射させる方法。
(3)電気光学結晶13と他の電気光学結晶とで違う材質の結晶を使用する方法。
【0059】
以下では、一例として上記(1)の方法を採用した構成の電圧測定装置について説明を行う。
【0060】
図13は、実施の形態2に係る電圧測定装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。実施の形態2に係る電圧測定装置1Aは、センサ部10Aと、投受光部20Aと、信号処理部30Aと、光ファイバ40,40Aと、を備える。
【0061】
センサ部10Aは、実施の形態1のセンサ部10に対して、他の電気光学結晶である電気光学結晶13Aと、ファラデーローテータ16Aと、コリメータレンズ17Aと、をさらに備える。ファラデーローテータ16Aおよびコリメータレンズ17Aは、それぞれファラデーローテータ16およびコリメータレンズ17と同じ部品であり、同様の機能を有している。電気光学結晶13と電気光学結晶13Aとは、同じ電圧を印加した際に生じる位相差が異なるが、電気光学結晶13Aは電気光学結晶13と同様の機能を有している。
【0062】
投受光部20Aは、実施の形態1の投受光部20に対して、ビームスプリッタ24cと、コリメータレンズ25Aと、検光子26cと、光検出器27cと、をさらに備える。ビームスプリッタ24c、コリメータレンズ25A、検光子26cおよび光検出器27cは、それぞれビームスプリッタ24b、コリメータレンズ25、検光子26bおよび光検出器27bと同じ部品であり、同様の機能を有している。また、光ファイバ40Aは、コリメータレンズ17Aとコリメータレンズ25Aとの間を接続している。光ファイバ40Aは、光ファイバ40と同じ部品であり、同じ機能を有している。
【0063】
信号処理部30Aは、信号処理部30と同様の機能を有している。
【0064】
電気光学結晶13Aは、電気光学結晶13と同様に、第1端面および第2端面に導電性の薄膜が密着して形成され、接地導体12および高圧導体11と電気的に接続される。図14は、実施の形態2に係る電圧測定装置に用いられる2つの電気光学結晶の切り出し方位の一例を示す図である。電気光学結晶13と電気光学結晶13Aとは、同じ材質の結晶であるが、図14に示されるように、結晶軸に対する切り出し方を変化させることで、半波長電圧を異なる値に調整することができる。
【0065】
以下では、例として、電気光学結晶13,13AにBi4Ge312を使用し、光源21の波長を850nmとした場合を仮定する。図14に示されるように、電気光学結晶13は結晶軸方向に沿って切り出すのに対し、電気光学結晶13Aは結晶軸[001]に対してφだけ傾けて切り出す。一例では、φ=10°である。この場合、電気光学結晶13の半波長電圧V13πは25kVとなり、電気光学結晶13Aの半波長電圧V13Aπは26.5kVとなり、電気光学結晶13Aの半波長電圧V13Aπは、電気光学結晶13の半波長電圧V13πの1.06倍になる。この場合、電気光学結晶13単独で測定できる電圧Vの範囲は、0≦V<50kV(=2V13π)であり、電気光学結晶13A単独で測定できる電圧Vの範囲は、0≦V<53kV(=2V13Aπ)である。図15は、実施の形態2に係る電圧測定装置における2つの電気光学結晶の位相差の関係の一例を示す図である。図15では、横軸は電気光学結晶13の位相差θ13を示し、縦軸は電気光学結晶13Aの位相差θ13Aを示している。図15に示されるように、電気光学結晶13の位相差θ13と電気光学結晶13Aの位相差θ13Aとの関係を利用することで、電圧Vの測定範囲を-400kV≦V≦+400kVを超える範囲に拡大することができる。なお、測定可能になる電圧範囲は、電気光学結晶13の半波長電圧と電気光学結晶13Aの半波長電圧との比によって決まる。つまり、測定可能になる電圧範囲は、電気光学結晶13Aの結晶の切り出し角度φを変化させることにより調整することができる。
【0066】
図16は、実施の形態2に係る電圧測定装置を構成する電圧測定回路が高圧導体に印加された電圧を測定する処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、電圧測定回路32は、光検出器27aの受光信号、光検出器27bの受光信号、光検出器27cの受光信号、および変調器駆動回路31から出力される偏光変調器23の駆動電圧VEOのモニター信号に基づいて、2つの電気光学結晶13,13Aそれぞれの位相差θ13,θ13A、を測定する(ステップS31)。
【0067】
次に、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相差θ13について前回の測定値からの位相変化量Δθ13を算出する(ステップS32)。その後、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θT以上であるかを判定する(ステップS33)。閾値θTは、電気光学結晶13および電気光学結晶13Aの両方が電歪効果の影響を無視できなくなる高圧導体11の電圧変化量ΔVに基づいて決定される。
【0068】
電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13が閾値θT未満である場合(ステップS33でNoの場合)には、図15に示されるように、2つの電気光学結晶13,13Aそれぞれの位相差θ13,θ13A、すなわち電気光学結晶13の位相差θ13と電気光学結晶13Aの位相差θ13Aとの関係を利用して、高圧導体11の電圧Vを算出して出力する(ステップS34)。その後、処理がステップS31に戻る。
【0069】
一方、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θT以上である場合(ステップS33でYesの場合)には、電圧測定電極14からの信号に基づいて電圧測定電極用電圧測定回路33にて(5)式によって算出された高圧導体11の電圧Vを出力する(ステップS35)。
【0070】
次に、電圧測定回路32は、電気光学結晶13の位相変化量Δθ13がある閾値θTを超えてから、2つの電気光学結晶13,13Aに対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過しているかを判定する(ステップS36)。この時間Tは、高圧導体11に急峻な高電圧が印加されてから、2つの電気光学結晶13,13Aに対する電歪効果の影響が収まり、電気光学結晶13の位相差θ13と電気光学結晶13Aの位相差θ13Aとの関係を利用して、正しい電圧を測定することができるようになるまでの時間であり、おおむね10msec以内である。
【0071】
電圧測定回路32は、2つの電気光学結晶13,13Aに対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過していないと判定した場合(ステップS36でNoの場合)には、ステップS35に戻り、2つの電気光学結晶13,13Aに対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過するまで繰り返す。
【0072】
一方、電圧測定回路32は、2つの電気光学結晶13,13Aに対する電歪効果の影響が無視できる時間Tが経過したと判定した場合(ステップS36でYesの場合)には、処理がステップS31に戻り、上記処理が繰り返される。
【0073】
このように、実施の形態2に係る電圧測定装置1Aは、電気光学結晶13に加えて半波長電圧が異なる電気光学結晶13Aをさらに備えることで、高圧導体11に直流、かつ、0≦V<2V13π[V]の範囲外の電圧Vが長時間印加されていた場合でも、正しい電圧を測定することができる。
【0074】
また、センサ部10Aは、同じ電圧を印加した際に生じる位相差θ13,θ13Aが異なる電気光学結晶13,13Aを複数備えることで、電圧測定範囲を広げることが可能であり、広範囲な電圧範囲において直流電圧と急峻な電圧とを正確に測定することができる。
【0075】
実施の形態3.
実施の形態3に係る電圧測定装置は、実施の形態1,2に係る電圧測定装置1,1Aにおいて、電気光学結晶13と接地導体12との接続部の電界を緩和するために接続部外周に配置されるリング状の電界緩和シールド電極をさらに備える。また、実施の形態3に係る電圧測定装置では、電圧測定電極14は、電界を緩和するリング状の電界緩和シールド電極18の内側の接地導体12に絶縁物15を介して埋設される。
【0076】
図17は、実施の形態3に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す上面図である。図18は、実施の形態3に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す断面図である。図18は、図17のXVIII-XVIII断面図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。実施の形態3に係る電圧測定装置は、実施の形態1に係る電圧測定装置1に対して、シールド電極である電界緩和シールド電極18をさらに備える。電界緩和シールド電極18は導体であり、接地導体12と電気的に接続される。電界緩和シールド電極18は、一例では、図18に示されるように断面が半円型であり、図17に示されるように電気光学結晶13と接地導体12との接続部を囲むようにリング形状である。この例では、電界緩和シールド電極18は、接地導体12の高圧導体11と面する平面部上に配置される。電界緩和シールド電極18を配置することで、電気光学結晶13と接地導体12との接続部の電界を緩和することができる。つまり、電界緩和シールド電極18は、電気光学結晶13の第2端面と接地導体12とが電気的に接続された部分である接続部を囲むように配置された電界を緩和する電極である。
【0077】
実施の形態3においては、電圧測定電極14を電界緩和シールド電極18の内側に配置する。この例では、電界緩和シールド電極18と同心円状にリング状の電圧測定電極14が配置される。リング状の電圧測定電極14の外周部および内周部に絶縁物15が配置される。ここでも、絶縁物15の厚さが一様となるように絶縁物15が設けられる。このような構成とすることで、接地導体12に絶縁物15を介して埋設した電圧測定電極14に電界が集中することを抑制し、絶縁弱点部となることを抑制する。電圧測定電極14の形状は、図17に示されるようにリング状でもよいし、実施の形態1で示したように円柱状でもよい。
【0078】
このように、実施の形態3に係る電圧測定装置は、電気光学結晶13と接地導体12との接続部の電界を緩和するために接続部を囲むように配置されるリング状の電界緩和シールド電極18と、電界緩和シールド電極18の内側に配置される電圧測定電極14と、を有する。これによって、絶縁破壊、部分放電の発生を防ぐこと、つまり、接地導体12に埋設した電圧測定電極14が絶縁弱点部になることを防ぐことが可能となる。この結果、長期的かつ安定的に直流電圧と急峻な電圧とを正確に測定することができる。
【0079】
実施の形態4.
実施の形態3では、電界緩和シールド電極18を備える電圧測定装置を説明したが、この電界緩和シールド電極18に、急峻な電圧の計測を行う電圧測定電極14の機能を持たせてもよい。
【0080】
図19は、実施の形態4に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す上面図である。図20は、実施の形態4に係る電圧測定装置の電気光学結晶と接地導体との接続部の構成の一例を模式的に示す断面図である。図20は、図19のXX-XX断面図である。なお、実施の形態1,3と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。実施の形態4に係る電圧測定装置は、電界緩和シールド電極18を接地導体12に絶縁物15を介して埋設する。具体的には、実施の形態3に係る電圧測定装置に対して、電圧測定電極14と電界緩和シールド電極18とを一体化する。電圧測定電極14の機能を持たせた電界緩和シールド電極18は、一例では、図20に示されるように接地導体12の上面から露出した部分は半球形状であり、絶縁物15を介して接地導体12に埋設された部分は矩形状である。そして、図19に示されるように、電気光学結晶13の延在方向から見た場合には、電界緩和シールド電極18は、電気光学結晶13と接地導体12との接続部を囲むようにリング形状となる。電界緩和シールド電極18の半球形状の部分は電界を緩和するシールド電極の機能を持ち、絶縁物15を介して接地導体12に埋設した矩形状の部分は急峻な電圧が印加された際に電圧を計測する電圧測定電極14の機能を持つ。
【0081】
あるいは、別の見方をすると、電圧測定電極14は、電気光学結晶13の第2端面と接地導体12とが電気的に接続された部分である接続部を囲むように、接地導体12に絶縁物15を介して埋設される第1部分と、高圧導体11に面する接地導体12の面から突出し、電界を緩和する機能を有する第2部分と、を有するともいえる。第1部分は、急峻な高電圧が印加されたときの電圧を測定する実施の形態1から3に示した電圧測定電極14の機能を有し、第2部分は、電解を緩和する電界緩和シールド電極18の機能を有する。
【0082】
実施の形態4においては、電圧測定電極14の機能を電界緩和シールド電極18に持たせることで、電圧測定電極14と電界緩和シールド電極18を一体化することができる。つまり、電界緩和シールド電極18を接地導体12に絶縁物15を介して埋設することによって、電気光学結晶13と接地導体12との接続部の電界緩和と急峻な電圧の計測機能とを一本化することが可能である。そして、このような構成によっても、長期的かつ安定的に直流電圧と急峻な電圧とを正確に測定できる。
【0083】
次に、実施の形態1から4に係る電圧測定装置1,1Aの信号処理部30,30Aのハードウェア構成について説明する。図21は、実施の形態1から4に係る電圧測定装置の信号処理部を実現するハードウェアの一例を示すブロック図である。信号処理部30,30Aは、一例では、図21に示される構成のハードウェア、すなわち、プロセッサ91、メモリ92およびインタフェース93により実現される。プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、システムLSI(Large Scale Integration)などである。メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などである。インタフェース93は、信号処理部30,30Aが周辺の回路、一例では、投受光部20,20Aとの間でデータを受け渡すための回路である。インタフェース93は、電圧の測定結果を外部の機器に出力する場合にも使用される。
【0084】
信号処理部30,30Aは、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた処理回路で実現してもよい。
【0085】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0086】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0087】
[付記1]
測定対象と同電位の高圧導体へ向けられた第1端面と、前記第1端面とは反対側の接地導体へ向けられた第2端面と、を有し、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬する光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、前記第1端面と前記第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる電気光学結晶を含むセンサ部と、
前記光を出力する光源と、前記電気光学結晶について、前記電気光学結晶から出射された光に含まれる成分であって、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を検出する光検出器と、を含む投受光部と、
前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて、前記高圧導体に印加されている電圧を求める信号処理部と、
を備え、
前記電気光学結晶は、前記第1端面が前記高圧導体に電気的に接触するとともに、前記第2端面が前記接地導体に電気的に接触し、
前記センサ部は、絶縁物を介して少なくとも一部が前記接地導体に埋設された電圧測定電極を有し、
前記信号処理部は、前記高圧導体に急峻な電圧が印加された場合に、前記電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、前記電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求め、前記電気光学結晶の前記電歪効果の影響が収まるまでの時間以外の時間では、前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする電圧測定装置。
[付記2]
前記信号処理部は、前記電気光学結晶から測定した第1位相差と前記第1位相差の前に測定した第2位相差との差を位相変化量Δθ13[°]とし、前記第1位相差を検出した時刻と前記第2位相差を検出した時刻との差をΔt[μsec]とし、ポッケルス係数に依存する比例定数をA[kV/°]とし、前記電気光学結晶に対応する前記光検出器によって検出される信号に基づいて検出された前記位相変化量Δθ13が次式(1)を満たす場合に、前記電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする付記1に記載の電圧測定装置。
Δθ13≧50×Δt/A ・・・(1)
[付記3]
前記センサ部は、同じ電圧を印加した際に生じる位相差が異なる前記電気光学結晶を複数有することを特徴とする付記1または2に記載の電圧測定装置。
[付記4]
前記センサ部は、前記電気光学結晶の前記第2端面と前記接地導体とが電気的に接続された部分を囲むように配置された電界を緩和するシールド電極をさらに有し、
前記電圧測定電極は、前記シールド電極の内側の前記接地導体に前記絶縁物を介して埋設されることを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の電圧測定装置。
[付記5]
前記電圧測定電極は、前記電気光学結晶の前記第2端面と前記接地導体とが電気的に接続された部分を囲むように、前記接地導体に前記絶縁物を介して埋設される第1部分と、前記高圧導体に面する前記接地導体の面から突出する第2部分と、を有することを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の電圧測定装置。
[付記6]
測定対象に印加される電圧を電圧測定装置によって測定する電圧測定方法であって、
前記測定対象と同電位の高圧導体に電気的に接触された第1端面と、前記第1端面とは反対側の接地導体に電気的に接触された第2端面と、を有する電気光学結晶の前記第1端面と前記第2端面との間に光源からの光を伝搬させ、前記光のうち振動方向が互いに直交する2つの偏光成分に、前記第1端面と前記第2端面との間において作用する電界の強さに応じた位相差を生じさせる光伝搬工程と、
前記電気光学結晶について、前記電気光学結晶から出射された光に含まれる成分であって、前記第1端面と前記第2端面との間を伝搬したことによって偏光状態が変化した成分の光を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出される前記電気光学結晶に対応する信号に基づいて、前記高圧導体に印加されている電圧を求める信号処理工程と、
を含み、
前記信号処理工程では、前記高圧導体に急峻な電圧が印加された場合に、前記電気光学結晶の電歪効果の影響が収まるまでの時間、絶縁物を介して少なくとも一部が前記接地導体に埋設された電圧測定電極の信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求め、前記電気光学結晶の前記電歪効果の影響が収まるまでの時間以外の時間では、前記検出工程で検出される前記電気光学結晶に対応する信号に基づいて前記高圧導体に印加されている電圧を求めることを特徴とする電圧測定方法。
【符号の説明】
【0088】
1,1A 電圧測定装置、10,10A センサ部、11 高圧導体、12 接地導体、13,13A 電気光学結晶、13a,13b 薄膜、14 電圧測定電極、15 絶縁物、16,16A ファラデーローテータ、17,17A,25,25A コリメータレンズ、18 電界緩和シールド電極、20,20A 投受光部、21 光源、22 偏光子、23 偏光変調器、24a,24b,24c ビームスプリッタ、26a,26b,26c 検光子、27a,27b,27c 光検出器、30,30A 信号処理部、31 変調器駆動回路、32 電圧測定回路、33 電圧測定電極用電圧測定回路、40,40A 光ファイバ、151 樹脂プレート。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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