(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126374
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】状態特定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240912BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240912BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240912BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N15/10 100Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034703
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 朋之
(72)【発明者】
【氏名】平川 祐子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR41
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR74
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】試料の加熱温度を効果的に特定すること。
【解決手段】状態特定方法は、菌体Cを含む菌体培養液Sに、赤色色素であるビートレッドBを添加し、ビートレッドBを添加した菌体培養液Sを加熱し、ビートレッドBの色調の変化に基づいて、菌体培養液Sが加熱された温度を特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が加熱された温度を特定する状態特定方法であって、
前記試料を含む試料溶液に、所定の色素を添加する添加工程と、
前記添加工程によって前記所定の色素が添加された前記試料溶液を加熱する加熱工程と、
前記所定の色素の色調の変化に基づいて、前記加熱工程によって前記試料溶液が加熱された温度を特定する特定工程と、
を含む状態特定方法。
【請求項2】
前記所定の色素は、赤色色素であるビートレッドである、
請求項1に記載の状態特定方法。
【請求項3】
前記ビートレッドは、ベタニンおよびイソベタニンのうち少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の状態特定方法。
【請求項4】
前記特定工程は、
前記ビートレッドの赤色の消失によって、前記試料溶液が加熱された際の最高温度が140℃以上であることを特定する、
請求項2に記載の状態特定方法。
【請求項5】
前記特定工程は、
前記ビートレッドの赤色の吸光度を測定することによって、100℃から160℃の範囲において前記試料溶液が加熱された際の最高温度を特定する、
請求項2に記載の状態特定方法。
【請求項6】
前記試料溶液は、菌体を含む菌体培養液である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の状態特定方法。
【請求項7】
前記加熱工程によって前記菌体の細胞から抽出された核酸を精製する精製工程、
をさらに含む請求項6に記載の状態特定方法。
【請求項8】
前記加熱工程によって前記菌体の細胞から抽出された核酸を増幅する増幅工程、
をさらに含む請求項6に記載の状態特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菌体培養液を採取し、溶解補助剤を添加し、菌体培養液に含まれる菌体の細胞から核酸を高温高圧条件で抽出する技術(適宜、「高温高圧法」)が知られている。また、容器の加熱処理が必要な工程において、温度に応じて変色するプルシアンブルーやロイコ系色素等の色素の色調を確認することによって容器が加熱された際の温度(適宜、「加熱温度」、「加温」)を特定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5624487号公報
【特許文献2】特開2013-132298号公報
【特許文献3】特開2002-322385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、容器に収容される菌体培養液の加熱温度を効果的に特定することは難しい。例えば、上記のプルシアンブルーの変色を確認する手法では、菌体の細胞から核酸が抽出可能な140℃付近よりも低い121℃付近で変色してしまうので、実際に140℃付近まで到達しているかを確認することが難しい。また、上記のロイコ系色素の変色を確認する手法では、70℃付近で変色し、20℃で元の色に色相が可逆的に変化するので、実際に140℃付近まで到達しているかを確認することが難しい。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、試料の加熱温度を効果的に特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料が加熱された温度を特定する状態特定方法であって、前記試料を含む試料溶液に、所定の色素を添加する添加工程と、前記添加工程によって前記所定の色素が添加された前記試料溶液を加熱する加熱工程と、前記所定の色素の色調の変化に基づいて、前記加熱工程によって前記試料溶液が加熱された温度を特定する特定工程と、を含む状態特定方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、試料の加熱温度を効果的に特定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る加温特定システムの構成例を示す図である。
【
図2】実施形態に係るビートレッドの色素成分の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る加温特定実験の実験結果1の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る加温特定実験の実験結果2の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る加温特定実験の実験結果3の一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験条件1の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験条件2の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験条件3の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験結果1の一例を示す図である。
【
図10】実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験結果2の一例を示す図である。
【
図11】実施形態に係る加温特定工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係る状態特定方法を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態により限定されるものではない。
【0010】
〔実施形態〕
以下に、実施形態に係る加温特定システム100の構成、各工程の詳細、各工程の流れを順に説明し、最後に実施形態の効果を説明する。
【0011】
〔1.加温特定システム100の構成〕
図1を用いて、実施形態に係る加温特定システム100の構成を説明する。
図1は、実施形態に係る加温特定システム100の構成例を示す図である。以下では、加温特定システム100全体の構成例、加温特定システム100の工程例、加温特定システム100の効果の順に説明する。
【0012】
(1-1.加温特定システム100全体の構成例)
加温特定システム100は、菌体培養容器10、封入容器20および加熱装置30を有する。以下では、菌体培養容器10、封入容器20、加熱装置30の順に説明する。
【0013】
(1-1-1.菌体培養容器10)
菌体培養容器10は、菌体培養液Sを収容する容器である。菌体培養液Sは、菌体C等の微生物を培養する溶液である。なお、
図1の例では、菌体培養容器10は、栓の付いた三角フラスコであるが、菌体培養容器10の形状、材質、容量等は限定されない。
【0014】
(1-1-2.封入容器20)
封入容器20は、加熱用溶液Hを封入する容器である。加熱用溶液Hは、菌体培養液Sに赤色色素であるビートレッドBを添加した溶液である。
図1の例では、封入容器20は、栓の付いたガラスチューブであるが、封入容器20の形状、材質、容量等は限定されない。
【0015】
(1-1-3.加熱装置30)
加熱装置30は、加熱用溶液Hを加熱する容器である。
図1の例では、加熱装置30は、ヒートブロックであるが、加熱装置30の形状、材質、加熱方式等は限定されない。
【0016】
(1-1-4.その他)
図1に示した加温特定システム100には、複数の菌体培養容器10、複数の封入容器20または複数台の加熱装置30が含まれてもよい。また、菌体培養容器10は、封入容器20と統合した構成であってもよい。
【0017】
(1-2.加温特定システム100の工程例)
上記の加温特定システム100の工程例について説明する。以下では、菌体培養液採取工程、色素添加工程、加熱工程、色素確認工程の順に説明する。なお、各工程は、異なる順序で実行することもできる。また、各工程のうち、省略される工程があってもよい。
【0018】
(1-2-1.菌体培養液採取工程)
第1に、加温特定システム100では、
図1(1)に示す菌体培養液採取工程を実施する。例えば、菌体培養液採取工程では、菌体Cとして、大腸菌(Escherichia coli:E.coli)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:S.aureus)を使用し、SCD(Soybean Casein Digest)液体培地において37℃で一晩培養した菌体培養液Sの一部を、滅菌済みのホールピペットを使用して封入容器20に採取する。
【0019】
(1-2-2.色素添加工程)
第2に、加温特定システム100では、
図1(2)に示す色素添加工程を実施する。例えば、色素添加工程では、赤色色素であるビートレッドBを使用し、菌体培養液Sが採取された封入容器20にビートレッドBの水溶液を添加し、栓をすることによって密閉する。このとき、色素添加工程では、菌体Cの細胞の溶解を促進する溶解補助剤を封入容器20にさらに添加してもよい。
【0020】
(1-2-3.加熱工程)
第3に、加温特定システム100では、
図1(3)に示す加熱工程を実施する。例えば、加熱工程では、加熱装置30を設定温度である140℃まで予熱し、封入容器20を加熱装置30に設置し、加熱用溶液Hを封入した封入容器20を140℃、45秒間加熱する。
【0021】
(1-2-4.色素確認工程)
第4に、加温特定システム100では、
図1(4)に示す色素確認工程を実施する。例えば、色素確認工程では、封入容器20に封入されたビートレッドBの赤色が消失していることを目視によって確認し、封入容器20内の加熱用溶液Hが140℃以上に加熱されたことを確認する。このとき、色素確認工程では、封入容器20に封入されたビートレッドBの吸光度を測定し、吸光度の低下に応じた加熱温度を特定することもできる。
【0022】
(1-2-5.その他)
加温特定システム100では、加熱用溶液Hに抽出された菌体Cの核酸を精製する核酸精製工程をさらに実施することができる。例えば、核酸精製工程では、加熱工程後の加熱用溶液Hをカラムに注入し、溶出液を注入することによって、菌体Cから抽出した核酸を精製することができる。
【0023】
加温特定システム100では、加熱用溶液Hに抽出された菌体Cの核酸を増幅させる核酸増幅工程をさらに実施することができる。例えば、核酸増幅工程では、加熱工程後の加熱用溶液HにPCR(Polymerase Chain Reaction)ミックスを添加し、PCR反応を実施することによって、菌体Cから抽出した核酸を増幅することができる。
【0024】
(1-3.加温特定システム100の効果)
以下では、参考技術としての加温特定技術の概要、参考技術の改善点を順に説明した上で、加温特定システム100の効果について説明する。
【0025】
(1-3-1.参考技術1の概要)
特許文献2に記載された参考技術1では、(A)プルシアンブルー、(B)没食子酸プロピル等の没食子酸エステル、および(C)ジシアンジアミド、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類、ニコチン酸アミド等の酸アミド、デンプン等の糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む湿熱加熱変色インジケーター組成物をインキ化して、レトルトパウチ食品の包装体表面に製造年月日や賞味期限等を印字する。そして、上記の参考技術1では、湿熱加熱変色インジケーター組成物は、加熱滅菌処理前は青色を呈するが、処理後は黒色を呈することで加熱滅菌処理を確認できる。
【0026】
(1-3-2.参考技術1の改善点)
参考技術1では、以下の改善点がある。第1に、参考技術1は、121℃における変色を確認するものであるが、特許文献1に記載された高温高圧法による核酸抽出技術に有効な処理温度は140℃であるので、121℃で変色してしまう参考技術1では、実際に140℃まで到達したかどうか確認できない。第2に、参考技術1は、色素が変色するために20分程度の時間を要するが、特許文献1に記載された高温高圧処理による核酸抽出技術の処理時間は数十秒であり、それ以上の処理を行うとゲノムDNAが必要以上に分断されてしまい、その後のPCR反応による核酸増幅工程に影響する可能性が大きい。以上より、参考技術1は、菌体Cの核酸抽出を実施する高温高圧法において温度モニタリング手法として適用することは難しい。
【0027】
(1-3-3.参考技術2の概要)
特許文献3に記載された参考技術2では、酸で顕色化する可逆性色素からなる発色剤、所望する色相変化の温度域に融点を有するルイス酸からなる顕色剤、および増感剤の三成分を含有しており、昇温すると発色し、降温すると消色して、可逆的な色相変化を示す感温性色相可逆組成物が提供される。上記の参考技術2では、適当な発色剤の例としてはロイコ系色素が、適当な顕色剤の例としては長鎖カルボン酸が、また適当な増感剤の例としては酸アミド類が、それぞれ挙げられる。
【0028】
(1-3-4.参考技術2の改善点)
参考技術2では、以下の改善点がある。第1に、参考技術2では、ロイコ系色素は、70℃で変色し、20℃で元の色に色相が可逆的に変化するが、特許文献1に記載された高温高圧法による核酸抽出技術に有効な処理温度は140℃であるので、70℃で変色してしまう参考技術2では、実際に140℃まで到達したかどうか確認できない。第2に、参考技術2では、ロイコ系色素は、酸に反応して発色する特徴を持つので、色相変化が反応溶液の性状に左右される可能性があり、プロセスコントロールとして用いることが難しい。以上より、参考技術2は、菌体Cの核酸抽出を実施する高温高圧法において温度モニタリング手法として適用することは難しい。
【0029】
(1-3-5.加温特定システム100の概要)
加温特定システム100では、菌体Cを含む菌体培養液Sに赤色色素であるビートレッドBを添加し、ビートレッドBが添加された菌体培養液Sを加熱し、ビートレッドBの色調の変化に基づいて菌体培養液Sが加熱された温度を特定する。また、加温特定システム100では、加熱によって菌体Cの細胞から核酸を抽出する。また、加温特定システム100では、加熱によって菌体Cの細胞から抽出した核酸を増幅する。
【0030】
(1-3-6.加温特定システム100の効果)
第1に、加温特定システム100は、140℃における色調変化を確認することが可能となる。すなわち、加温特定システム100は、ビートレッドBが140℃においても色調変化があるので、120℃より高温で実施される代表的な殺菌手法であるオートクレーブにおける温度モニタリング手法として適用することが期待できる。
【0031】
第2に、加温特定システム100では、最高到達温度の確認が容易になる。すなわち、インジゲーターとして用いられている素材の中には、処理後に常温に戻した際に色が処理前の状態に戻ってしまうものもあるが、加温特定システム100では、ビートレッドBは高温高圧処理後に常温に戻した際にも最高到達温度での変化が保たれるので、温度モニタリング手法およびプロセスコントロールとして適用することが期待できる。
【0032】
第3に、加温特定システム100は、核酸抽出後の溶媒置換が不要になる。すなわち、加温特定システム100は、抽出後の細胞内容物をその後の工程で使用するにあたり、抽出物そのものやPCR酵素への影響がほとんどないので溶媒置換が不要であり、上記の高温高圧法のプロセスコントロールとして適用することが期待できる。
【0033】
第4に、加温特定システム100は、ビートレッドBが天然色素であるので安全性が高い。すなわち、加温特定システム100では、ビートレッドBは、天然色素であり食品添加物として認められている安全な素材であり、食品工場等でも使用可能である。
【0034】
〔2.加温特定システム100の各工程の詳細〕
図1に示した、試料が加熱された温度を特定する状態特定方法である加温特定システム100の各工程の詳細について説明する。以下では、実施形態に係る各工程について、菌体培養工程、菌体培養液採取工程、色素添加工程、加熱工程、色素確認工程、核酸精製工程、核酸増幅工程の順に説明する。
【0035】
(2-1.菌体培養工程)
以下では、加温特定システム100の菌体培養液採取工程に先立って実施される、試料である菌体Cを培養する菌体培養工程について説明する。
【0036】
(2-1-1.菌体培養工程の具体例)
例えば、菌体培養工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sにおいて、菌体Cを培養する。培養に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養工程では、菌体培養容器10として滅菌したガラス製の栓付き三角フラスコを使用し、菌体Cを培養する。培養する菌体Cの一例について説明すると、菌体培養工程では、大腸菌や黄色ブドウ球菌を培養する。培養する条件の一例について説明すると、菌体培養工程では、SCD液体培地において菌体Cを37℃で一晩培養する。
【0037】
(2-1-2.菌体培養液Sの培養方法)
上記の菌体培養工程で使用される菌体培養液Sは、核酸を有する試料を培養することにより得られる。試料の培養方法は、特に限定されず、例えば、試料を捕集したフィルターを直接固体培地上に置き、フィルターを介して試料を培養する方法(固相培養)が挙げられる。また、試料の別の培養方法としては、例えば、液体培地または固体培地を水に溶解させた溶液の存在下で試料を培養する方法(液相培養)が挙げられる。また、使用する液体培地や固体培地の種類は、培養する試料の種類や生理的条件によって選択される。
【0038】
(2-1-3.菌体培養液Sの試料)
上記の菌体培養工程において、処理対象である試料は、特に限定されない。例えば、処理対象である試料としては、微生物、微生物以外の動物細胞(例えば、昆虫細胞等)、植物細胞、マイコプラズマ、ウィルス等であってもよい。
【0039】
上記微生物としては、例えば、アシネトバクター(Acinetobacter)種、アクチノミセス(Actinomyces)種、アエロコッカス(Aerococcus)種、アエロモナス(Aeromonas)種、アルカリゲネス(Alcaligenes)種、バチルス(Bacillus)種、バクテリオデス(Bacteriodes)種、ボルデテラ(Bordetella)種、ブランハメラ(Branhamella)種、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)種、カンピロバクター(Campylobacter)種、カンジダ(Candida)種、カプノシトファギア(Capnocytophagia)種、クロモバクテリウム(Chromobacterium)種、クロストリジウム(Clostridium)種、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種、クリプトコッカス(Cryptococcus)種、デイノコッカス(Deinococcus)種、エンテロコッカス(Enterococcus)種、エリジペロスリックス(Erysipelothrix)種、エシェリシア(Escherichia)種、フラボバクテリウム(Flavobacterium)種、ゲメラ(Gemella)種、ヘモフィルス(Haemophilus)種、クレブシエラ(Klebsiella)種、ラクトバチルス(Lactobacillus)種、ラクトコッカス(Lactococcus)種、レジオネラ(Legionella)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種、リステリア(Listeria)種、ミクロコッカス(Micrococcus)種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)種、ナイセリア(Neisseria)種、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)種、ノカルディア(Nocardia)種、オエルスコビア(Oerskovia)種、パラコッカス(Paracoccus)種、ペディオコッカス(Pediococcus)種、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)種、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)種、プロテウス(Proteus)種、シュードモナス(Pseudomonas)種、ラーネラ(Rahnella)種、ロドコッカス(Rhodococcus)種、ロドスピリルム(Rhodospirillum)種、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種、ストレプトミセス(Streptomyces)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ビブリオ(Vibrio)種、およびイェルシニア(Yersinia)種、メチロバクテリウム(Methylobacterium)種、ラルストニア(Ralstonia)種、スフィンゴモナス(Sphingomonas)種からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0040】
上述した微生物の中には、生育状態によって芽胞や胞子といった形態をとる微生物が存在する。加温特定システム100において、処理対象である試料の形態は、特に限定されない。また、加温特定システム100において、処理対象である試料は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0041】
(2-2.菌体培養液採取工程)
以下では、加温特定システム100の菌体培養液採取工程の後に実施される、試料溶液である菌体培養液Sを採取する菌体培養液採取工程について説明する。
【0042】
(2-2-1.菌体培養液採取工程の具体例)
例えば、菌体培養液採取工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sの一部を封入容器20に採取する。採取に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養液採取工程では、採取する器具として滅菌したガラス製のホールピペットを使用し、封入容器20として滅菌した栓のついたガラスチューブを使用し、菌体培養液Sを採取する。
【0043】
(2-2-2.封入容器20)
上記の菌体培養液採取工程において、封入容器20は、特に限定されない。例えば、封入容器20は、栓のついたガラスチューブの他、栓のついたプラスチックチューブ、マイクロチューブ等であってもよい。また、封入容器20は、密閉可能な構造であって、後述する加熱工程における140℃程度の温度に対する耐久性があればよい。
【0044】
(2-2-3.その他)
上記の菌体培養液採取工程において、菌体培養液Sは、封入容器20に採取される前に前処理されたものであってもよい。例えば、菌体培養液Sは、酵素を添加して一定時間インキュベート(保温)した後の菌体Cを含む懸濁液であってもよい。また、菌体培養液Sは、遠心分離機によって遠心分離を実施し、培地成分を除去した後の菌体Cを含む懸濁液であってもよい。
【0045】
(2-3.色素添加工程)
以下では、加温特定システム100の菌体培養液採取工程の後に実施される、試料である菌体Cを含む菌体培養液Sに、所定の色素を添加する色素添加工程について説明する。
【0046】
(2-3-1.色素添加工程の具体例)
例えば、色素添加工程では、赤色色素であるビートレッドBを脱イオン水(DIW:Deionized Water)に溶解した水溶液を添加する。ここで、色素添加工程では、ビートレッドBは、ベタニンおよびイソベタニンのうち少なくとも1つを含む。なお、色素添加工程では、添加する色素は特に限定されず、目視によって視認できる色彩を有し、加熱温度100℃~160℃程度の範囲で不可逆的に色彩が消失する色素であればよい。
【0047】
(2-3-2.ビートレッドB)
ビートレッドBについて説明する。以下では、ビートレッドBの性質、ビートレッドBの化学的構造、ビートレッドBを含む天然色素の順に説明する。
【0048】
(2-3-2-1.ビートレッドBの性質)
第1に、ビートレッドBの性質について説明する。ビートレッドBは、アカザ科ビート(Beta vulgaris LINNE)の赤い根より搾汁したもの、または室温時~微温時水、酸性水溶液もしくは含水エタノールで抽出して得られたものであり、主色素はベタイン系のベタニンおよびイソベタニンである。また、ビートレッドBは、食品添加物として許可されている天然色素としても知られている。また、ビートレッドBは、性状として、鮮明な赤色色素で、pHによる色調変化が少なく(pH4~7)、水によく溶けるが、無水エタノール、油脂には不溶である。また、ビートレッドBは、熱には不安定で退色し、光や金属イオンによっても変色する。
【0049】
(2-3-2-2.ビートレッドBの化学的構造)
第2に、
図2を用いて、ビートレッドBの化学的構造について説明する。
図2は、実施形態に係るビートレッドBの色素成分の一例を示す図である。ビートレッドBは、ベタニンおよびイソベタニンを主成分とする。
図2の構造式において、側鎖Rがグルコースである構造がベタニンである。また、イソベタニンは、ベタニンの立体異性体である。なお、ビートレッドBは、デキストリンまたは乳糖を含むものであってもよい。
【0050】
(2-3-2-3.天然色素)
第3に、ビートレッドBが分類される食品添加物として認められている天然色素について説明する。食品添加物として認められている天然色素は、ビートレッドBが分類される赤ビート色素の他、赤キャベツ色素、赤ダイコン色素、アナトー色素、イカスミ色素、ウコン色素、カカオ色素、カロテン類、クチナシ赤色素、クチナシ青色素、クチナシ黄色素、クロロフィル、コウリャン色素、コチニール色素、サフラン色素、シソ色素、シタン色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、チョウマメ色素(バタフライピー色素)、トウガラシ色素、トマト色素、ハイビスカス色素、ブドウ果皮色素、ヘマトコッカス藻色素、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、ベリー類色素、マリーゴールド色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、植物炭末色素等を含む。
【0051】
(2-4.加熱工程)
以下では、加温特定システム100の色素添加工程の後に実施される、所定の色素が添加された試料溶液を加熱し、試料である菌体Cの細胞から核酸を抽出する加熱工程について説明する。
【0052】
(2-4-1.加熱工程の具体例)
例えば、加熱工程では、色素添加工程でビートレッドBを添加した加熱用溶液Hを収容する封入容器20に、試料である菌体Cに細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、封入容器20の蓋を閉めることによって密閉し、密閉した封入容器20をヒートブロック等の加熱装置30を用いて140℃、45秒間加熱することによって、菌体Cの細胞から核酸を抽出する。
【0053】
(2-4-2.溶解補助剤の種類)
加温特定システム100の加熱工程では、水のみでも上記効果を発揮するが、試料から核酸をより効率的に抽出する目的で、水以外に、界面活性剤、アルカリ、酸、酸化還元剤およびタンパク質変性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶解補助剤を含むことが好ましい。溶解補助剤は、試料の膜構造を溶解させる能力を有する。溶解補助剤が試料の膜構造に作用することで、試料を破壊しやすくなり、試料から核酸をより効率的に抽出することができる。以下では、溶解補助剤の種類について説明する。
【0054】
(2-4-2-1.界面活性剤)
溶解補助剤として使用する界面活性剤は、例えばイオン性であってもよく、非イオン性であってもよい。非イオン性の界面活性剤としては、例えばオクチルフェノールエトキシレート(C14H22O(C2H4O)n)等が挙げられる。加温特定システム100の核酸抽出工程では、市販品のオクチルフェノールエトキシレートを用いることができ、例えばSIGMA社製のTritonX-100(C14H22O(C2H4O)n,n=100)等が挙げられる。
【0055】
また、イオン性の界面活性剤は、陰イオン性であってもよく、陽イオン性であってもよく、両イオン性であってもよい。陰イオン性の界面活性剤としては、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS:Sodium Dodecyl Sulfate)等が挙げられる。陽イオン性の界面活性剤としては、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB:Cetyltrimethylammonium Bromide)等が挙げられる。両イオン性の界面活性剤としては、例えばベタイン等が挙げられる。ここで、「ベタイン」とは、正電荷と負電荷とを同一分子内の隣り合わない位置に持ち、正電荷をもつ原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、分子全体としては電荷を持たない化合物の総称のことである。ベタインの代表例としては、トリメチルグリシンが挙げられる。
【0056】
(2-4-2-2.アルカリ)
溶解補助剤として使用するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、または水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0057】
(2-4-2-3.酸)
溶解補助剤として使用する酸としては、例えば塩酸(HCl)、または硫酸(H2SO4)等が挙げられる。
【0058】
(2-4-2-4.酸化還元剤)
溶解補助剤として使用する酸化還元剤としては、例えば過酸化水素水、β-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等が挙げられる。
【0059】
(2-4-2-5.タンパク質変性剤)
溶解補助剤として使用するタンパク質変性剤としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等が挙げられる。
【0060】
(2-4-2-6.その他)
溶解補助剤の成分として、キレート剤を使用してもよい。溶解補助剤として使用するキレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic Acid)等が挙げられる。
【0061】
また、上述した溶解補助剤の中でも、加温特定システム100の溶解補助剤は、界面活性剤を含むことが好ましく、SDSと、オクチルフェノールエトキシレートとのいずれか一方または両方を含むことがより好ましい。
【0062】
例えば、加温特定システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸を高感度で検出したい場合にはSDSを用いるとよい。これに対し、加温特定システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸を、SDSによって阻害される酵素反応に用いる場合には、試料の膜構造に対してSDSよりも温和に作用するオクチルフェノールエトキシレートを用いるとよい。
【0063】
加温特定システム100の溶解補助剤は、必要に応じて緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤としては、例えばトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)等が挙げられる。
【0064】
(2-4-3.核酸の種類)
上記の加熱工程において、抽出される核酸の種類は、特に限定されない。例えば、抽出される核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA:Deoxyribonucleic Acid)であるゲノムDNA、プラスミドDNA等や、リボ核酸(RNA:Ribonucleic Acid)であるメッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNA等であってもよい。
【0065】
(2-5.色素確認工程)
以下では、加温特定システム100の加熱工程の後に実施される、所定の色素の色調の変化に基づいて、加熱工程によって試料溶液が加熱された温度を特定する特定工程である色素確認工程について説明する。
【0066】
(2-5-1.色素確認工程の具体例)
例えば、色素確認工程では、ビートレッドBの赤色の消失によって、試料溶液が加熱された際の最高温度が140℃以上であることを特定する。すなわち、色素確認工程では、目視によってビートレッドBの赤色が消失し、黄色に変化した場合には、菌体Cを含む加熱用溶液Hが140℃以上に加熱されたことを確認することができる。
【0067】
また、色素確認工程では、ビートレッドBの赤色の吸光度を測定することによって、100℃から160℃の範囲において試料溶液が加熱された際の最高温度を特定する。すなわち、色素確認工程では、吸光度計を用いて、535nmでの吸光度を測定し、吸光度0.11のときは最高温度100℃、吸光度0.10のときは最高温度110℃、吸光度0.09のときは最高温度120℃、吸光度0.07のときは最高温度130℃、吸光度0.05のときは最高温度140℃、吸光度0.04のときは最高温度150℃、吸光度0.02のときは最高温度160℃に到達したことを確認することができる。
【0068】
(2-6.核酸精製工程)
以下では、加温特定システム100の加熱工程の後に実施される、菌体Cの細胞から抽出された核酸を精製する核酸精製工程について説明する。
【0069】
(2-6-1.核酸精製工程の具体例)
例えば、核酸精製工程では、核酸を吸着する吸着担体を有するカラムに注入した後に、カラムに核酸を溶出する溶出液を注入することによって核酸を精製する。
【0070】
(2-7.核酸増幅工程)
以下では、加温特定システム100の加熱工程の後、または核酸精製工程の後に実施される、菌体Cの細胞から抽出された核酸を増幅する核酸増幅工程について説明する。
【0071】
(2-7-1.核酸増幅工程の具体例)
例えば、核酸増幅工程では、加熱工程によって抽出された核酸を含む溶液に対してPCR反応を実施することによって核酸を増幅する。また、核酸増幅工程では、核酸精製工程によって精製された核酸を含む溶液に対してPCR反応を実施することによって核酸を増幅する。
【0072】
〔3.各種実験結果〕
図3~
図10を用いて、実施形態に係る加温特定システム100による各種実験結果について説明する。以下では、加温確認実験に関する実験結果、PCRアンプリコン測定実験に関する実験結果の順に説明する。
【0073】
(3-1.加温確認実験)
図3~
図5を用いて、加温特定システム100による加熱温度を確認する加温確認実験に関する実験結果1~3について説明する。
図3~
図5は、実施形態に係る加温確認実験の実験結果の一例を示す図である。以下では、実験手順を示しつつ、加温確認実験の実験結果1~3を順に説明する。
【0074】
(3-1-1.加温確認実験の実験手順)
加温特定システム100による加温確認実験に関する実験手順の例について説明する。第1に、ビートレッドBとして、三栄源エフ・エフ・アイ社製の粉末「サンビートLF」を0.05g/mLの濃度で脱イオン水に溶解させ、ビートレッド溶液を調製する。第2に、1%SDS、Tris-HClを含む溶解補助剤溶液38μLに対して、調製したビートレッド溶液を2μL添加する。第3に、耐熱性のマイクロチューブに、上記のビートレッドBと溶解補助剤の混合溶液40μLを封入し、45秒間加熱する。第4に、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)社製の吸光度計「NanoDrop(UV-VIS)」で吸光度を測定する。
【0075】
(3-1-2.加温確認実験の実験結果1)
図3を用いて、加温確認実験の実験結果1について説明する。
図3は、加熱をしていない混合溶液である陰性対照試料「NC」、90℃で加熱した混合溶液である「90℃」、100℃で加熱した混合溶液である「100℃」、110℃で加熱した混合溶液である「110℃」、120℃で加熱した混合溶液である「120℃」、130℃で加熱した混合溶液である「130℃」、140℃で加熱した混合溶液である「140℃」、150℃で加熱した混合溶液である「150℃」、160℃で加熱した混合溶液である「160℃」の加熱後のマイクロチューブの各状態を示す。
【0076】
(3-1-3.加温確認実験の実験結果1の考察)
図3では、「NC」では赤色の消失が見られないが、加熱した温度が高くなるにつれて赤色の消失の度合が大きくなることが視認できる。また、
図3では、破線で示した140℃以降で特に赤色の消失の度合が顕著である。
【0077】
加温確認実験の実験結果1より、加温特定システム100では、上述した高温高圧法の処理条件である140℃、45秒間の加熱によって、ビートレッドBの色調の変化を視認することによって、各試料が140℃以上に加熱したことを確認することができる。
【0078】
(3-1-4.加温確認実験の実験結果2)
図4を用いて、加温確認実験の実験結果2について説明する。
図4は、加熱をしていない混合溶液である陰性対照試料「NC」、90℃で加熱した混合溶液である「90℃」、100℃で加熱した混合溶液である「100℃」、110℃で加熱した混合溶液である「110℃」、120℃で加熱した混合溶液である「120℃」、130℃で加熱した混合溶液である「130℃」、140℃で加熱した混合溶液である「140℃」、150℃で加熱した混合溶液である「150℃」、160℃で加熱した混合溶液である「160℃」の加熱後の混合溶液の各吸光スペクトルを示す。
【0079】
(3-1-5.加温確認実験の実験結果3)
図5を用いて、加温確認実験の実験結果3について説明する。
図5は、加熱をしていない混合溶液である陰性対照試料「NC」、90℃で加熱した混合溶液である「90℃」、100℃で加熱した混合溶液である「100℃」、110℃で加熱した混合溶液である「110℃」、120℃で加熱した混合溶液である「120℃」、130℃で加熱した混合溶液である「130℃」、140℃で加熱した混合溶液である「140℃」、150℃で加熱した混合溶液である「150℃」、160℃で加熱した混合溶液である「160℃」の加熱後の混合溶液の波長535nmにおける各吸光度を示す。
【0080】
(3-1-6.加温確認実験の実験結果2および実験結果3の考察)
図4では、「NC」、「90℃」「100℃」、「110℃」、「120℃」、「130℃」、「140℃」、「150℃」、「160℃」の順に吸光度が低下することが確認できる。また、
図5では、
図4の実線で示した波長535nmにおいて測定した吸光度について、「NC」、「90℃」「100℃」、「110℃」、「120℃」、「130℃」、「140℃」、「150℃」、「160℃」の順に直線的に吸光度が低下することが確認できる。
【0081】
加温確認実験の実験結果2および実験結果3より、加温特定システム100では、加熱処理後のビートレッドBの吸光度を測定することによって、各試料の最高到達温度を特定することができる。
【0082】
(3-2.PCRアンプリコン測定実験)
図6~
図10を用いて、加温特定システム100によるPCRアンプリコン(Amplicon)を測定するPCRアンプリコン測定実験に関する実験結果1、2について説明する。
図6~
図8は、実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験条件の一例を示す図である。
図9および
図10は、実施形態に係るPCRアンプリコン測定実験の実験結果の一例を示す図である。以下では、実験手順を示しつつ、PCRアンプリコン測定実験の実験結果1、2を順に説明する。
【0083】
(3-2-1.PCRアンプリコン測定実験の実験手順)
図6~
図8を用いて、加温特定システム100によるPCRアンプリコン測定実験に関する実験手順の例について説明する。第1に、大腸菌NBRC3972株をSCD培地で一晩培養した菌体懸濁液にビートレッドBを添加し、高温高圧法による高温高圧処理(140℃、45秒間加熱)を実施する。第2に、高温高圧処理後の混合溶液を1/100に希釈し、希釈液を調製する。第3に、希釈液20μLと実験条件1、2に示すPCRミックス20μLとを混合し、実験条件3に示す温度サイクル条件でPCR反応を実施する。第4に、PCR反応後の溶液をアジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社製の「Agilent 2100 バイオアナライザ電気泳動システム」を用いて電気泳動し、PCR増幅の有無を確認する。
【0084】
(3-2-1-1.実験条件1)
第1に、
図6を用いて、PCRアンプリコン測定実験のプライマーに関する実験条件1について説明する。
図6の例に示すように、フォワードプライマーは、プライマーの名称「16S 290f_2」、塩基配列「GACACGGCCCAGACTCCTAC」、アンプリコンの塩基対「211b.p.」である。また、リバースプライマーは、プライマーの名称「16S 500r+GG」、塩基配列「GTATTACCGCGGCTGCTGG」、アンプリコンの塩基対「211b.p.」である。
【0085】
(3-2-1-2.実験条件2)
第2に、
図7を用いて、PCRアンプリコン測定実験の試薬に関する実験条件2について説明する。
図7の例に示すように、PCRアンプリコン測定実験の試薬として、「プラチナム(Platinum)Taq DNAポリメラーゼ」を1.0U/μL、0.20μL/tube、「高温高圧処理液」を20μL/tube、「フォワードプライマー」を10.0μM、0.8μL/tube、「リバースプライマー」を10.0μM、0.8μL/tube、「硫酸マグネシウムMgSO4」を50mM、1.60μL/tube、「dNTP(deoxynucleoside triphosphate)ミックス」を2.00mM、4.00μL/tube、「10×PCRバッファー」を10倍濃度、4.00μL/tube、「ミリQ水」を8.60μL/tubeを混合し、合計40.00μL/tubeとする。
【0086】
(3-2-1-3.実験条件3)
第3に、
図8を用いて、PCRアンプリコン測定実験の反応条件に関する実験条件3について説明する。
図8の例に示すように、PCRアンプリコン測定実験の反応条件として、「活性化(Activate)」過程を98℃、120秒、1サイクルの条件で実施する。また、「変性(Denature)」過程を98℃、15秒、「アニーリング(Annealing)」過程を58℃、25秒、「伸長(Extension)」過程を72℃、15秒で、35サイクルの条件で実施する。また、「追加伸長(add. Extension)」過程を72℃、120秒、1サイクルの条件で実施する。
【0087】
(3-2-2.PCRアンプリコン測定実験の実験結果1)
図9を用いて、PCRアンプリコン測定実験の実験結果1について説明する。
図9Aは、ビートレッドBを添加しない混合溶液である陽性対照試料「PC」の電気泳動図である。
図9Bは、高温高圧処理をしていない混合溶液である陰性対照試料「NC」の電気泳動図である。
図9Cは、ビートレッドBおよび溶解補助剤を添加した混合溶液である「ビートレッド法(溶解補助剤あり、1/100希釈)」の電気泳動図である。
図9Dは、ビートレッドBを添加し、溶解補助剤を添加していない混合溶液である「ビートレッド法(溶解補助剤なし)」の電気泳動図である。
【0088】
(3-2-3.PCRアンプリコン測定実験の実験結果2)
図10を用いて、PCRアンプリコン測定実験の実験結果2について説明する。
図10Aに示すビートレッドBを添加しない混合溶液である陽性対照試料「PC」は、PCRアンプリコンのモル濃度が307.2nmol/Lである。
図10Bに示す高温高圧処理をしていない混合溶液である陰性対照試料「NC」は、PCRアンプリコンのモル濃度が38.8nmol/Lである。
図10Cに示すビートレッドBおよび溶解補助剤を添加した混合溶液である「ビートレッド法(溶解補助剤あり、1/100希釈)」は、PCRアンプリコンのモル濃度が112.9nmol/Lである。
図10Dに示すビートレッドBを添加し、溶解補助剤を添加していない混合溶液である「ビートレッド法(溶解補助剤なし)」は、PCRアンプリコンのモル濃度が255.0nmol/Lである。
【0089】
(3-2-4.PCRアンプリコン測定実験の実験結果1および実験結果2の考察)
図9および
図10より、ビートレッドBを添加した混合溶液を用いてPCRを行った結果(
図9D、
図10D)は、ビートレッドBを添加しない混合溶液を用いてPCRを行った結果(
図9A、
図10A)の陽性対照試料「PC」に対して83%となる。
【0090】
PCRアンプリコン測定実験の実験結果1および実験結果2より、加温特定システム100では、核酸抽出工程および核酸増幅工程において影響を及ぼさないことが確認できる。
【0091】
〔4.加温特定システム100の処理の流れ〕
図11を用いて、実施形態に係る加温特定システム100の工程の流れについて説明する。
図11は、実施形態に係る加温特定工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS101~S104の工程は、異なる順序で実施することもできる。また、下記のステップS101~S104の工程のうち、省略される工程があってもよい。
【0092】
第1に、加温特定システム100では、菌体培養液採取工程を実施する(ステップS101)。第2に、加温特定システム100では、色素添加工程を実施する(ステップS102)。第3に、加温特定システム100では、加熱工程を実施する(ステップS103)。第4に、加温特定システム100では、色素確認工程を実施し(ステップS104)、加温特定工程を終了する。なお、加温特定システム100では、色素確認工程の実施後に、核酸精製工程、核酸増幅工程を実施することもできる。
【0093】
〔5.実施形態の効果〕
最後に、実施形態の効果について説明する。以下では、実施形態に係る工程に対応する効果1~8について説明する。
【0094】
(5-1.効果1)
第1に、上述した実施形態に係る工程では、試料を含む試料溶液に、所定の色素を添加し、所定の色素が添加した試料溶液を加熱し、所定の色素の色調の変化に基づいて試料溶液が加熱された温度を特定する。このため、実施形態に係る工程では、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0095】
(5-2.効果2)
第2に、上述した実施形態に係る工程では、所定の色素は、赤色色素であるビートレッドBである。このため、実施形態に係る工程では、視認性が高く安全性が高い色素を使用することによって、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0096】
(5-3.効果3)
第3に、上述した実施形態に係る工程では、ビートレッドBは、ベタニンおよびイソベタニンのうち少なくとも1つを含む。このため、実施形態に係る工程では、加熱温度に応じて可逆的に色調が変化する色素を使用することによって、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0097】
(5-4.効果4)
第4に、上述した実施形態に係る工程では、ビートレッドBの赤色の消失によって、試料溶液が加熱された際の最高温度が140℃以上であることを特定する。このため、実施形態に係る工程では、140℃以上の加熱処理において、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0098】
(5-5.効果5)
第5に、上述した実施形態に係る工程では、ビートレッドBの赤色の吸光度を測定することによって、100℃から160℃の範囲において試料溶液が加熱された際の最高温度を特定する。このため、実施形態に係る工程では、100℃~160℃の範囲における加熱処理において、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0099】
(5-6.効果6)
第6に、上述した実施形態に係る工程では、試料溶液は、菌体Cを含む菌体培養液Sである。このため、実施形態に係る工程では、菌体Cの細胞から核酸を抽出する高温高圧法において、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0100】
(5-7.効果7)
第7に、上述した実施形態に係る工程では、菌体Cの細胞から抽出された核酸を精製する。このため、実施形態に係る工程では、菌体Cの細胞から抽出された核酸の精製に影響を及ぼすことなく、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0101】
(5-8.効果8)
第8に、上述した実施形態に係る工程では、菌体Cの細胞から抽出された核酸を増幅する。このため、実施形態に係る工程では、菌体Cの細胞から抽出された核酸の増幅に影響を及ぼすことなく、試料の加熱温度を効果的に特定することができる。
【0102】
〔システム〕
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0103】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0104】
〔その他〕
開示される技術特徴の組合せのいくつかの例を以下に記載する。
【0105】
(1)試料が加熱された温度を特定する状態特定方法であって、前記試料を含む試料溶液に、所定の色素を添加する添加工程と、前記添加工程によって前記所定の色素が添加された前記試料溶液を加熱する加熱工程と、前記所定の色素の色調の変化に基づいて、前記加熱工程によって前記試料溶液が加熱された温度を特定する特定工程と、を含む状態特定方法。
【0106】
(2)前記所定の色素は、赤色色素であるビートレッドである、(1)に記載の状態特定方法。
【0107】
(3)前記ビートレッドは、ベタニンおよびイソベタニンのうち少なくとも1つを含む、(2)に記載の状態特定方法。
【0108】
(4)前記特定工程は、前記ビートレッドの赤色の消失によって、前記試料溶液が加熱された際の最高温度が140℃以上であることを特定する、(2)または(3)に記載の状態特定方法。
【0109】
(5)前記特定工程は、前記ビートレッドの赤色の吸光度を測定することによって、100℃から160℃の範囲において前記試料溶液が加熱された際の最高温度を特定する、(2)~(4)のいずれか1つに記載の状態特定方法。
【0110】
(6)前記試料溶液は、菌体培養液である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の状態特定方法。
【0111】
(7)前記加熱工程によって前記菌体の細胞から抽出された核酸を精製する精製工程、をさらに含む(6)に記載の状態特定方法。
【0112】
(8)前記加熱工程によって前記菌体の細胞から抽出された核酸を増幅する増幅工程、をさらに含む(6)または(7)に記載の状態特定方法。
【符号の説明】
【0113】
10 菌体培養容器
20 封入容器
30 加熱装置
100 加温特定システム