(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126385
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】火災収束システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A62C 3/07 20060101AFI20240912BHJP
A62C 2/10 20060101ALI20240912BHJP
A62C 31/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A62C3/07 Z
A62C2/10
A62C31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034734
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和秀
【テーマコード(参考)】
2E189
【Fターム(参考)】
2E189AB02
2E189BA02
(57)【要約】
【課題】火災収束システムおよび方法において、車両火災に対する迅速な消火を行うことで火災を早期に収束可能とする。
【解決手段】高速道路の側部に配置される移動体と、移動体に搭載されて火災車両を不燃シートにより覆うことが可能なシート装置と、移動体に搭載されて不燃シートにより覆われた火災車両を消火する消火装置と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速道路の側部に配置される移動体と、
前記移動体に搭載されて火災車両を不燃シートにより覆うことが可能なシート装置と、
前記移動体に搭載されて前記不燃シートにより覆われた前記火災車両を消火する消火装置と、
を備える火災収束システム。
【請求項2】
前記消火装置は、前記不燃シートが前記火災車両を覆うことで形成された空間部に消火剤を供給可能な消火剤供給装置と、前記空間部の気体を排出する排気装置とを有する、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項3】
前記消火装置は、前記空間部に油吸着分解剤を供給可能な油吸着分解剤供給装置を有する、
請求項2に記載の火災収束システム。
【請求項4】
前記シート装置は、前記不燃シートと、前記不燃シートを収納状態と展開状態とに変更可能なシート操作装置とを有する、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項5】
前記不燃シートは、静電気防止機能を有する、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項6】
前記高速道路の側部で車両走行方向に間隔を空けて複数の格納施設が設けられ、前記移動体は、前記格納施設に格納される、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項7】
前記高速道路の側部に車両走行方向に沿って移動可能な格納施設が設けられ、前記移動体は、前記格納施設に格納される、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項8】
前記高速道路での車両火災を検出すると前記移動体を駆動制御して火災発生現場に移動させる管理装置を有する、
請求項1に記載の火災収束システム。
【請求項9】
高速道路での車両火災を検出する工程と、
前記車両火災を検出すると前記高速道路の側部に配置される移動体を火災発生現場に移動させる工程と、
前記移動体が前記火災発生現場に到着すると前記移動体に搭載された不燃シートにより火災車両を覆う工程と、
前記不燃シートにより覆われた前記火災車両を消火する工程と、
を有する火災収束方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高速道路での車両火災が発生したときに、火災車両を早期に消火して収束させる火災収束システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路にて、車両事故や車両故障などにより車両火災が発生したとき、電話などにより消防署に火災発生現場を連絡する。消防署は、火災発生の連絡を受けると、消防車を高速道路の火災発生現場まで行かせる。そして、火災発生現場にて。消防車から火災車両に消火剤を散布することで消火する。従来の消火ロボットによる消火システムとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両火災が発生した場合、火災車両を消火するだけでなく、搭乗者や巻き込まれた人を救助する必要がある。しかし、車両火災は、燃料への引火により爆発の危険もあり、人が火災車両に近づくことは困難であり、消防車の到着を待つこととなる。しかし、消防署が火災発生の連絡を受けてから、消防車が高速道路の火災発生現場に到着するまでには長時間を要してしまい、消火が遅れてしまうという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、車両火災に対する迅速な消火を行うことで火災を早期に収束可能とする火災収束システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の火災収束システムは、高速道路の側部に配置される移動体と、前記移動体に搭載されて火災車両を不燃シートにより覆うことが可能なシート装置と、前記移動体に搭載されて前記不燃シートにより覆われた前記火災車両を消火する消火装置と、を備える。
【0007】
また、本開示の火災収束方法は、高速道路での車両火災を検出する工程と、前記車両火災を検出すると前記高速道路の側部に配置される移動体を火災発生現場に移動させる工程と、前記移動体が前記火災発生現場に到着すると前記移動体に搭載された不燃シートにより火災車両を覆う工程と、前記不燃シートにより覆われた前記火災車両を消火する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の火災収束システムおよび方法によれば、車両火災に対する迅速な消火を行うことで火災を早期に収束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の火災収束システムを表すブロック構成図である。
【
図2】
図2は、火災収束システムの配置構成を表す平面図である。
【
図3】
図3は、火災収束システムの配置構成を表す断面図である。
【
図4】
図4は、消火用車両による火災収束方法を説明するための平面図である。
【
図5】
図5は、消火用車両による火災収束方法を説明するための背面図である。
【
図6】
図6は、火災収束システムの第1変形例を表す平面図である。
【
図7】
図7は、火災収束システムの第2変形例を表す概略図である。
【
図8】
図8は、火災収束方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
<火災収束システム>
図1は、本実施形態の火災収束システムを表すブロック構成図である。
【0012】
図1に示すように、火災収束システム10は、高速道路で車両火災が発生したとき、発生した火災を早期に収束させるものである。このとき、火災発生現場は、高速道路であり、火災は、車両事故や車両故障などにより発生した車両が発生源である。
【0013】
火災収束システム10は、消火用車両(移動体)11を有する。消火用車両11は、高速道路の側部に配置される。消火用車両11は、通信装置21と、制御装置22と、駆動装置23と、シート装置24と、消火装置25と、監視装置26とを有する。
【0014】
また、火災収束システム10は、管理装置12を有する。管理装置12は、例えば、警察署、消防署、高速道路管理会社などに設置される。管理装置12は、操作装置31と、表示装置32と、制御装置33と、通信装置34とを有する。
【0015】
管理装置12は、火災検知装置13からの火災通報を受信したとき、消火用車両11を火災発生現場に移動させて消火を行う。ここで、火災検知装置13は、例えば、火災車両の搭乗者や火災車両を発見した人の電話、高速道路に配置された緊急電話、火災車両に搭載された火災検知装置、高速道路に配置されたカメラ、人工衛星に配置されたカメラなどであるが、これに限定されるものではない。
【0016】
操作装置31は、制御装置33に接続される。操作装置31は、作業者が操作可能である。操作装置31は、作業者が操作することで、制御装置33に対して各種の指令信号を入力可能である。操作装置31は、例えば、キーボードやタッチ式のディスプレイである。
【0017】
表示装置32は、制御装置33に接続される。表示装置32は、操作装置31から制御装置33に入力された入力内容、通信装置34から制御装置33に入力された通信内容、制御装置33が処理した処理内容などを表示する。表示装置32は、例えば、モニタであるが、スピーカであってもよい。
【0018】
制御装置33は、操作装置31から入力された入力内容および通信装置34から入力された通信内容に基づいて消火用車両11を制御する。制御装置33は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0019】
通信装置34は、制御装置33に接続される。通信装置34は、火災検知装置13からの火災通報を受信可能である。通信装置34は、消火用車両11の通信装置21との間で通信可能である。
【0020】
そのため、管理装置12にて、通信装置34が火災検知装置13からの火災通報を受信すると、火災情報を制御装置33に出力する。制御装置33は、入力した火災情報を表示装置32に表示する。作業者は、表示装置32に表示された火災情報に基づいて操作装置31を操作し、必要な内容を制御装置33に入力する。制御装置33は、操作装置31からの入力内容に基づいて消火用車両11の制御指令を作成する。通信装置34は、制御装置33が作成した制御指令を消火用車両11に出力する。消火用車両11は、制御指令に基づいて作動し、火災車両の消火を行う。なお、制御装置33は、操作装置31からの入力情報を待たずに制御指令を作成して消火用車両11に出力するように、自動制御のプログラムを作成しておいてもよい。
【0021】
<火災収束システムの配置>
図2は、火災収束システムの配置構成を表す平面図、
図3は、火災収束システムの配置構成を表す断面図である。
【0022】
図2および
図3に示すように、高速道路101は、複数の橋脚102により支持される。高速道路01は、中央分離帯103を中心として、幅方向の両側に走行車線104と路側帯105が設けられる。
【0023】
高速道路101は、幅方向の側部に火災収束システム10が配置される。高速道路101は、側部にある側壁106の外側に、高速道路101の車両走行方向に間隔(例えば、10km)を空けて複数の格納施設111が設けられる。消火用車両11は、各格納施設111にそれぞれ格納される。格納施設111は、例えば、車庫形状をなし、路側帯105に面した側部に開閉扉(図示略)が設けられる。消火用車両11は、制御指令に基づいて開閉扉を開放して外部に移動し、高速道路101の走行車線104または路側帯105を走行して火災発生現場(火災車両)まで移動する。
【0024】
<消火用車両>
図4は、消火用車両による火災収束方法を説明するための平面図、
図5は、消火用車両による火災収束方法を説明するための背面図である。
【0025】
図1、
図4および
図5に示すように、消火用車両11は、通信装置21と、制御装置22と、駆動装置23と、シート装置24と、消火装置25と、監視装置26が搭載される。
【0026】
通信装置21は、制御装置22に接続される。通信装置21は、管理装置12の通信装置34との間で送受信が可能である。具体的に、通信情報としては、制御指令、後述する監視機器26を構成するカメラによる画像、酸素濃度センサによる酸素濃度情報、温度センサによる温度情報の他、搭乗者の位置等の各種情報などである。通信装置21は、管理装置12から受信した制御指令を制御装置22に出力する。また、通信装置21は、制御装置22の処理内容を管理装置12に送信する。
【0027】
駆動装置23は、消火用車両11を駆動することが可能である。ここで、駆動装置23は、消火用車両11を走行させるための走行装置(例えば、モータまたは内燃機関など)、消火用車両11を停止させるための制動装置(例えば、ブレーキなど)、消火用車両11を操舵させるための操舵装置などを有する。すなわち、駆動装置23は、消火用車両11を火災発生現場まで移動するために必要な機能を有する。
【0028】
制御装置22は、駆動装置23に接続される。制御装置22は、制御指令に基づいて駆動装置23を駆動制御可能である。すなわち、制御装置22は、駆動装置23を駆動制御することで、格納施設111(
図2参照)にある消火用車両11を火災発生現場まで移動させる。制御装置22は、シート装置24、消火装置25、監視装置26を作動制御可能である。なお、制御装置22は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0029】
シート装置24は、制御装置23に接続される。シート装置24は、火災車両121を不燃シート41により覆うことが可能である。シート装置24は、不燃シート41と、不燃シート41を収納状態と展開状態とに変更可能なシート操作装置42とを有する。
【0030】
不燃シート41は、燃えない材料としての不燃膜材(例えば、ガラス繊維など)により形成されたシートであり、一定時間以上燃え抜けずに気密性を保つ。不燃シート41は、火災車両121を上方から覆うことができる大きさの矩形状をなすシートである。但し、不燃シート41は、この形状に限るものではない。不燃シート41は、例えば、下部が開放された箱型形状や半球形状をなすシートであってもよい。また、不燃シート41はシート越しに火災車両の様子を監視できるように全体または一部が透明であってもよい。
【0031】
不燃シート41は、上方から火災が発生した火災車両121を覆うことで、不燃シート41と火災車両121との間に空間部122を形成する。不燃シート41は、シート操作装置42により不燃シート41を収納状態から展開状態に移動可能である。不燃シート41の収納状態とは、例えば、蛇腹状に折り畳まれた状態であり、不燃シート41の展開状態とは、拡げられて火災車両121を上方から覆った状態である。
【0032】
シート操作装置42は、例えば、蛇腹状に折り畳まれた不燃シート41を火災車両121の前後方向に広げる第1テレスコピック43と、蛇腹状に折り畳まれた不燃シート41を火災車両121の左右方向に広げる第2テレスコピック44とを有する。消火用車両11が火災車両121の幅方向の隣に配置された状態で、第1テレスコピック43と第2テレスコピック44を伸長動させることで、不燃シート41を収納状態から展開状態に変更する。不燃シート41は、展開状態になると、火災車両121を上方から覆うことで空間部122を形成することができる。
【0033】
なお、シート操作装置42は、第1テレスコピック43と第2テレスコピック44とから構成されるものに限定されない。例えば、シート操作装置42は、複数の折り畳みアームや、複数の折れ曲がりアームなどにより構成してもよい。また、不燃シート41の外周部に鎖などの錘やシール部材を装着させておくことで、不燃シート41の外周部が高速道路101の路面に接地されるようにしてもよい。不燃シート41の外周部が高速道路101の路面に隙間なく接地されると、空間部122が密閉状態に近い状態となる。すると、火炎の拡散や外部への燃料(例えば、ガソリンなど)の漏洩が抑制される。
【0034】
また、不燃シート41は、静電気防止機能を有する。不燃シート41の静電気防止機能としては、例えば、不燃シート41にアースを接地したり、静電気防止用のLEDライトなどを設けたりする。
【0035】
消火装置25は、不燃シート41により覆われた火災車両121を消火する。消火装置25は、消火剤供給装置51と、排気装置52とを有する。
【0036】
消火剤供給装置51は、不燃シート41が火災車両121を覆うことで形成された空間部122に消火剤を供給可能である。排気装置52は、空間部122の気体を外部に排出する。
【0037】
消火剤供給装置51は、不燃シート41の内部である空間部122に消火剤を供給可能である。消火剤供給装置51は、消火剤を充填した消火剤ボンベを有する。本実施形態にて、消火剤は、不活性ガスが好ましいが、水、強化液、泡などであってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンが適用可能であるが、2種類以上のガスを混合したものであってもよく、イナージェンガス(窒素ガス、二酸化炭素、アルゴンの混合ガス)でもよい。
【0038】
排気装置52は、空間部122の気体を外部に排出する。排気装置52は、真空ポンプを有する。真空ポンプを作動すると、吸引力が空間部122に作用し、空間部122にある空気などの気体を外部に排出することができる。なお、真空ポンプを含む系統に排出されるガスに含まれる煙等を除去するフィルタを設置してもよい。
【0039】
また、消火装置25は、油吸着分解剤供給装置53を有する。油吸着分解剤供給装置53は、空間部122に油吸着分解剤を供給可能である。空間部122の外部への燃料(例えば、ガソリンなど)の漏洩が生じた場合には空間部122外部への油吸着分解剤を供給してもよい。
【0040】
監視装置26は、消火用車両11に搭載され、監視用ドローン(監視用無人航空機)を有している。監視用ドローンは、カメラ、酸素濃度センサ、温度センサなどの監視機器が装着される。管理装置12の作業者は、操作装置31により監視用ドローンを遠隔操作して飛行させる。但し、監視用ドローンは、設定されたプログラムによる自動運転でもよい。不燃シート41により火災車両121が覆われた後、監視用ドローンは、不燃シート41の空間部122に移動する。そして、作業者は、監視用ドローンを操作することで、監視機器を作動することができる。但し、監視機器の作動は設定されたプログラムによる自動操作でもよい。このとき、カメラは、空間部122における火災車両121の火災状況を撮影し、酸素濃度センサは、空間部122の酸素濃度を計測し、温度センサは、空間部122の温度を計測する。監視機器は、撮影した空間部122の画像(または、映像)と、空間部122の酸素濃度と、空間部122の温度等の情報を管理装置12に送信する。なお、監視用ドローンは空間部122の外部からカメラ、酸素濃度センサ、温度センサなどの監視機器により火災車両の状態を監視してもよい。
【0041】
管理装置12には、カメラが撮影した空間部122(火災車両121)の画像が入力され、表示装置32に表示させる。管理装置12は、酸素濃度センサが計測した空間部122の酸素濃度が入力される。制御装置33は、空間部122の酸素濃度等の情報に基づいて消火剤供給装置51による消火剤の供給量あるいは種類等を調整制御する。以下の具体的な説明にて、制御装置33は、空間部122の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置51による消火剤の供給量調整制御するものとして説明する。制御装置33は、空間部122が有人であるとき、人命を確保しつつ消火を行うために、空間部122の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤供給装置51から空間部122に供給される窒素ガスの供給量を調整する。但し、空間部122における酸素濃度の範囲は、多少(13%から15%など)変更してもよい。また、制御装置33は、空間部122が無人であるとき、空間部122の酸素濃度が15%以下になるように消火剤供給装置51から空間部122に供給される消火剤の供給量を調整する。なお、酸素濃度を15%とした根拠は、限界酸素指数が約16.5%であることから、約16.5%に対して安全側の15%とした。なお、限界酸素指数(LOI)とは、物質の燃焼に必要な酸素の最小濃度をパーセンテージで表したものである。
【0042】
一般的に、空気中の酸素濃度は、通常21%程度であり、酸素濃度18%が人体に対する一般的な安全の下限値である。酸素濃度が16%以下になると、呼吸や脈拍が増加し、頭痛や吐き気が発生すると言われている。酸素濃度が12%以下になると、めまいや吐き気が発生すると言われ、酸素濃度が10%以下になると、顔面蒼白で意識不明となり、嘔吐すると言われている。そして、酸素濃度が8%以下になると、失神し、7分から8分以内に死亡すると言われている。酸素濃度が8%以下になると、瞬時に昏倒し、呼吸停止し、けいれんが発生して6分で死亡するものと言われている。
【0043】
そのため、制御装置33は、空間部122の搭乗者が生存していれば、空間部122の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように窒素ガスの供給量を調整し、空間部122の搭乗者が生存していなければ、空間部122の酸素濃度が15%以下になるように消火剤の供給量を調整する。ここで、空間部122が有人であるか否かの判断は、車両火災が発生したときに得られた情報、または、監視用ドローンに装着されたカメラによる映像や集音機(マイク)からの音声等から判断する。
【0044】
制御装置33には、温度センサが計測した空間部122の温度が入力される。制御装置33は、空間部122の温度等に基づいて火災車両121の火災の消火、つまり、火災の収束を判定する。制御装置33は、空間部122における火災車両121の火災が収束したと判定すると、消火装置25の作動を停止する。この場合、再燃火災を防ぐために、火災の収束を判定してから所定時間の経過後に消火装置25の作動を停止することが好ましい。なお、生存者がいる場合には火災の消火状況を判断しながら、可能な限り速やかに救助を行う。救助者は救助用車両11の内部から事故車両121にアクセスし搭乗者を救出する。救助者が自ら生存者を救助するのではなく、救助用車両11に装備したマニピュレータ等により搭乗者を救助してもよい。
【0045】
<第1変形例>
図6は、火災収束システムの第1変形例を表す平面図である。
【0046】
図6に示すように、火災収束システム10は、2台の消火用車両(移動体)11,11Aを有する。消火用車両11は、通信装置21と、制御装置22と、駆動装置23と、シート装置24と、監視装置26とが搭載される。消火用車両11Aは、通信装置21と、制御装置22と、駆動装置23と、消火装置25と、監視装置26とが搭載される。
【0047】
すなわち、第1変形例では、消火用車両11にシート装置24が搭載され、消火用車両11Aに消火装置25が搭載される。そのため、シート装置24による不燃シート41の展開作業と、消火装置25による火災車両121の消火作業を独立して並列作業として実施することができる。なお、消火用車両11,11Aは、3台以上であってもよい。
【0048】
<第2変形例>
図7は、火災収束システムの第2変形例を表す概略図である。
【0049】
図7に示すように、高速道路101は、幅方向の側部に火災収束システム10Aが配置される。火災収束システム10Aは、高速道路101の側部にある側壁106に、車両走行方向に沿って移動可能な格納施設111Aが設けられる。消火用車両11は、格納施設111Aに格納される。格納施設111Aは、例えば、モノレールであり、側壁106の外側に敷設されたレール107に沿って移動可能である。格納施設111Aは、制御指令に基づいてレール107に沿って移動し、高速道路101に沿って移動して火災発生現場(火災車両)の近傍まで移動する。消火用車両11は、制御指令に基づいて格納施設111Aの開閉扉を開放して外部に移動し、火災発生現場(火災車両)まで移動する。
【0050】
<火災収束方法>
図8は、火災収束方法を表すフローチャートである。
【0051】
図1、
図4および
図5に示すように、火災収束方法は、高速道路101での車両火災を検出する工程と、車両火災を検出すると高速道路101の側部に配置される消火用車両を火災発生現場に移動させる工程と、消火用車両11が火災発生現場に到着すると消火用車両に搭載された不燃シート41により火災車両121を覆う工程と、不燃シート41により覆われた火災車両121を消火する工程と、搭乗者を救助する工程とを有する。
【0052】
以下、火災収束システム10を用いた火災収束方法について具体的に説明する。ステップS11にて、管理装置12は、火災通報があったか否か、つまり、火災検知装置13により高速道路101での車両火災が検出されたか否かを判定する。ここで、管理装置12は、火災通報がない、つまり、火災検知装置13により高速道路101での車両火災が検出されていないと判定(No)すると、このルーチンを抜ける。
【0053】
一方、管理装置12は、火災通報があった、つまり、火災検知装置13により高速道路101での車両火災が検出されたと判定(Yes)すると、ステップS12にて、管理装置12は、消火用車両11を起動して火災発生現場に移動させる。このとき、消火用車両11は、制御装置22が制御指令に基づいて格納施設111の開閉扉を開放する。制御装置22は、駆動装置23を駆動制御することで消火用車両11を外部に移動し、高速道路101の走行車線104または路側帯105を走行させて火災発生現場(火災車両121)に向かわせる。
【0054】
ステップS13にて、管理装置12は、消火用車両11が火災発生現場に到着したか否かを判定する。消火用車両11が火災発生現場に到着したか否かの判定は、例えば、消火用車両11の位置を全地球測位システム(GPS)により計測したり、消火用車両11に搭載されたカメラの映像を用いて計測したりして判定すればよい。ここで、管理装置12は、消火用車両11が火災発生現場に到着していないと判定(No)すると、消火用車両11が火災発生現場に到着するまで待機状態となる。一方、管理装置12は、消火用車両11が火災発生現場に到着したと判定(Yes)すると、ステップS14に移行する。
【0055】
消火用車両11は、火災発生現場に到着すると、火災車両121の側方に停止する。ステップS14にて、管理装置12は、まず、消火用車両11に搭載されたシート装置24を作動させる。シート装置24は、シート操作装置42により収納状態にある不燃シート41を展開して展開状態に変更することで、不燃シート41により火災車両121を上方から覆って空間部122を形成する。
【0056】
ステップS15以降にて、管理装置12は、次に、消火装置25を作動する。すなわち、ステップS15にて、消火剤供給装置51が作動し、消火剤を空間部122に供給する。同時に、ステップS16にて、排気装置52が作動し、空間部122の気体を外部に排出する。また、ステップS17にて、油吸着分解剤供給装置53が作動し、空間部122に油吸着分解剤を供給する。なお、火災の状況または搭乗者の状況に応じてステップS15、16、17の順序を変更したり、一部のステップを省略したりしてもよい。
【0057】
なお、管理装置12の制御装置33は、空間部122(火災車両121)の内部の搭乗者が生存しているか否かを判定する。ここで、制御装置33は、空間部122の内部の搭乗者が生存していると、空間部122の酸素濃度設定値を12%から15%の範囲に設定する。一方、制御装置33は、空間部122の内部の搭乗者が生存していない(無人である)と、空間部122の酸素濃度設定値を15%以下に設定する。そして、監視機器26が空間部122の酸素濃度を計測し、制御装置33は、空間部122の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置51により消火剤の供給量を調整する。なお、火災に伴う高熱や発生が予想される爆発により搭乗者の生命が脅かされると判断した場合には、一刻も早く消火し、搭乗者を救助するために酸素濃度設定を12%以下に下げ、搭乗者が失神したとしても救助後に蘇生する選択をしてもよい。
【0058】
ステップS18にて、管理装置12は、車両火災が消火されたか否かを判定する。車両火災が消火されたか否かの判定は、例えば、監視機器に設けられた温度センサが計測した空間部122の温度に基づいて判定したり、監視機器に設けられたカメラの映像に基づいて判定したりすればよい。ここで、管理装置12は、車両火災が消火されていないと判定(No)すると、車両火災の消火作業を継続する。一方、管理装置12は、車両火災が消火されたと判定(Yes)すると、ステップS19にて、消火装置25の作動を停止し、車両火災の消火作業を終了する。
【0059】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る火災収束システムは、高速道路101の側部に配置される消火用車両(移動体)11と、消火用車両11に搭載されて火災車両121を不燃シート41により覆うことが可能なシート装置24と、消火用車両11に搭載されて不燃シート41により覆われた火災車両121を消火する消火装置25とを備える。
【0060】
第1の態様に係る火災収束方法によれば、火災車両121を不燃シート41により覆うことで空間部122を形成し、消火装置25により空間部122の火災車両121に対して消火作業を実施する。そのため、空間部122は、不燃シート41により覆われることで外部からの空気の流入が減少し、酸素濃度が低下することで火災車両121が早期に消火されることとなる。その結果、車両火災に対する迅速な消火を行うことで火災を早期に収束することができる。
【0061】
第2の態様に係る火災収束システムは、第1の態様に係る火災収束システムであって、さらに、消火装置25は、不燃シート41が火災車両121を覆うことで形成された空間部122に消火剤を供給可能な消火剤供給装置51と、空間部122の気体を排出する排気装置52とを有する。これにより、排気装置52により空間部122の気体が排出されることで、空間部122の酸素濃度を早期に低下させることができ、消火剤供給装置51が火災車両121に消火剤を供給することで、車両火災を早期に収束することができる。
【0062】
第3の態様に係る火災収束システムは、第2の態様に係る火災収束システムであって、さらに、消火装置25は、空間部122に油吸着分解剤を供給可能な油吸着分解剤供給装置53を有する。これにより、火災車両121から燃料が漏洩している場合であっても、油吸着分解剤により吸着した燃料を水や二酸化炭素などに分解するため、燃料への引火を防止することができる。
【0063】
第4の態様に係る火災収束システムは、第1の態様から第3の態様のいずれか一つに係る火災収束システムであって、さらに、シート装置24は、不燃シート41と、不燃シート41を収納状態と展開状態とに変更可能なシート操作装置42とを有する。これにより、不燃シート41を収納状態として消火用車両11により容易に搬送可能となり、火災発生現場で不燃シート41を展開状態として火災車両121を適切に覆うことができる。
【0064】
第5の態様に係る火災収束システムは、第1の態様から第4の態様のいずれか一つに係る火災収束システムであって、さらに、不燃シート41は、静電気防止機能を有する。これにより、不燃シート41により火災車両121を覆った後に、静電気による引火を防止することができる。
【0065】
第6の態様に係る火災収束システムは、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る火災収束システムであって、さらに、高速道路101の側部で車両走行方向に間隔を空けて複数の格納施設111が設けられ、消火用車両11は、格納施設111に格納される。これにより、高速道路101で火災車両が発生した場合であっても、各格納施設111に格納された消火用車両11を火災発生現場に早期に移動して消火を迅速に行うことができる。
【0066】
第7の態様に係る火災収束システムは、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る火災収束システムであって、さらに、高速道路101の側部に車両走行方向に沿って移動可能な格納施設111Aが設けられ、消火用車両11は、格納施設111Aに格納される。これにより、高速道路101が渋滞していたり、事故車両があったりして走行することができない場合であっても、格納施設111Aを移動することで、消火用車両11を火災発生現場に早期に移動して消火を迅速に行うことができる。
【0067】
第8の態様に係る火災収束システムは、第1の態様から第6の態様のいずれか一つに係る火災収束システムであって、さらに、高速道路101での車両火災を検出すると消火用車両11を駆動制御して火災発生現場に移動させる管理装置12を有する。これにより、高速道路101で車両火災が発生したとき、管理装置12は、火災発生現場に最も近い消火用車両11を駆動制御して火災発生現場に移動させることができる。
【0068】
第9の態様に係る火災収束方法は、高速道路101での車両火災を検出する工程と、車両火災を検出すると高速道路101の側部に配置される消火用車両(移動体)を火災発生現場に移動させる工程と、消火用車両11が火災発生現場に到着すると消火用車両に搭載された不燃シート41により火災車両121を覆う工程と、不燃シート41により覆われた火災車両121を消火する工程とを有する。これにより、空間部122は、不燃シート41により覆われることで外部からの空気の流入が減少し、酸素濃度が低下することで火災車両121が早期に消火されることとなる。その結果、車両火災に対する迅速な消火を行うことで火災を早期に収束することができる。
【0069】
なお、上述した実施形態では、移動体を消火用車両11や格納施設111Aおよび消火用車両11Aとしたが、この構成に限定されるものではない。移動体は、例えば、ドローン(無人航空機)であってもよく、ドローンを格納施設111,111Aに格納すればよい。
【符号の説明】
【0070】
10,10A 火災収束システム
11,11A 消火用車両(移動体)
12 管理装置
13 火災検知装置
21 通信装置
22 制御装置
23 駆動装置
24 シート装置
25 消火装置
26 監視装置
31 操作装置
32 表示装置
33 制御装置
34 通信装置
41 不燃シート
42 シート操作装置
51 消火剤供給装置
52 排気装置
53 油吸着分解剤供給装置
101 高速道路
111,111A 格納施設