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特開2024-126414内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126414
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/40 20060101AFI20240912BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240912BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D41/34
F02D45/00 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034779
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有冨 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】泉 大樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 章雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 帆南
(72)【発明者】
【氏名】中村 中也
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA04
3G301HA06
3G301JA02
3G301JA18
3G301JA21
3G301LB04
3G301LB11
3G301LC01
3G301MA11
3G301NA01
3G301PB08
3G301PE03
3G301PF03
3G384AA06
3G384AA07
3G384BA13
3G384DA02
3G384DA14
3G384EG01
3G384FA06
3G384FA15
3G384FA58
(57)【要約】
【課題】算負荷を増加させることなく、内燃機関の排気や燃費悪化の要因となる燃圧変動による噴射量ばらつきを防止することができる内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法を提供する。
【解決手段】内燃機関制御装置は、燃料噴射制御計画部と、圧力値取得部と、を備えている。圧力値取得部は、第一燃料圧力値60と、第二燃料圧力値61と、演算燃料圧力値62と、を取得する。第一燃料圧力値60は、燃料ポンプの加圧動作タイミングから、それ以降で初めて燃料噴射弁から燃料が噴射される第一期間で取得される。第二燃料圧力値61は、第一期間の後に、加圧タイミングまでの期間となる第二期間で取得される。演算燃料圧力値62は、第一燃料圧力値61と第二燃料圧力値62で演算される。そして、燃料噴射制御計画部は、第一燃料圧力値60及び第二燃料圧力値61、演算燃料圧力値62のうち少なくとも1種以上の圧力値を選択し、選択した圧力値に応じて、燃料噴射弁の制御量を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する往復動型燃料ポンプと、前記間欠加圧されている燃料を噴射するための燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御するための内燃機関制御装置において、
前記内燃機関の運転状態に応じて、前記燃料噴射弁の開弁または閉弁に係る制御内容を計画する燃料噴射制御計画部と、
前記内燃機関に設けた圧力センサから圧力値を取得する圧力値取得部と、を備え、
前記圧力値取得部は、
前記燃料ポンプの加圧動作タイミングから、それ以降で初めて前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第一期間で取得された第一燃料圧力値と、
前記第一期間の後に、加圧タイミングまでの期間となる第二期間で取得された第二燃料圧力値と、
前記第一燃料圧力値と前記第二燃料圧力値で演算される演算燃料圧力値とを取得し、
前記燃料噴射制御計画部は、前記第一燃料圧力値及び前記第二燃料圧力値、前記演算燃料圧力値のうち少なくとも1種以上の圧力値を選択し、選択した圧力値に応じて、前記燃料噴射弁の制御量を補正する
内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記圧力値取得部は、
前記第一期間中に取得される複数の燃料圧力値の平均値から、前記第一燃料圧力値を演算し、
前記第二期間中に取得される複数の燃料圧力値の平均値から、前記第二燃料圧力値を演算する
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記圧力値取得部は、
前記内燃機関の複数行程に渡る複数回の前記第一期間中に取得された複数の燃料圧力値の平均から、前記第一燃料圧力値を演算し、
前記内燃機関の複数行程に渡る複数回の前記第二期間中に取得された複数の燃料圧力値の平均から、前記第二燃料圧力値を演算し、
請求項2に記載の内燃機関制御装置。
【請求項4】
記演算燃料圧力値は、前記第一燃料圧力値と前記第二燃料圧力値の平均値である
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記燃料噴射弁の第1の噴射タイミングにおいて、前記内燃機関の運転状態に応じて求められる要求噴射量の過半が噴射される主噴射が実行され、前記第1の噴射タイミングの後に行わる第2の噴射タイミングにおいて、前記主噴射よりも少量で噴射される副噴射が実行され、
前記燃料噴射制御計画部は、
前記副噴射の実行が前記第一期間で計画される場合は、前記第一燃料圧力値に基づいて前記副噴射のための前記燃料噴射弁の制御量を補正し、
前記副噴射の実行が前記第二期間で計画される場合は、前記第二燃料圧力値に基づいて前記副噴射のための前記燃料噴射弁の制御量を補正する
請求項1に記載の内燃機関制御装置。
【請求項6】
燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する往復動型燃料ポンプと、前記間欠加圧されている燃料を噴射するための燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御する内燃機関制御方法において、
前記燃料ポンプの加圧動作タイミングから、それ以降で初めて前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第一期間で取得された第一燃料圧力値として取得する処理と、
前記第一期間の後に、加圧タイミングまでの期間となる第二期間で取得された第二燃料圧力値として取得する処理と、
前記第一燃料圧力値と前記第二燃料圧力値を用いて演算燃料圧力値を演算する処理と、
前記第一燃料圧力値及び前記第二燃料圧力値、前記演算燃料圧力値のうち少なくとも1種以上の圧力値を選択し、選択した圧力値に応じて、前記燃料噴射弁の制御量を補正する処理と、
を含む内燃機関制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンの複数の気筒に燃料を供給する装置として、蓄圧式(コモンレール式)の燃料噴射制御装置が知られている。これは、燃料を供給する配管に、高圧燃料ポンプ等を用いて加圧した燃料を蓄圧し、燃料配管に設けられた燃料噴射弁により噴射するものである。そして、内燃機関制御装置は、内燃機関の運転状態に合わせて、燃料配管内に蓄圧する燃料圧力および噴射弁による燃料噴射量が所望の値となるよう制御している。この際、制御には例えば圧力センサにより所定の周期でサンプリングした圧力値を用いることが知られている。
【0003】
上述した蓄圧式の燃料噴射制御を行う場合には、高圧燃料ポンプから燃料配管への供給(吐出)と燃料噴射弁からの燃料噴射により、燃料配管内の燃料圧力は時々刻々と変動する。特に、近年多くの内燃機関で行われる、高速な分割噴射を行った際には燃料圧力変動(燃圧変動)の増大が懸念される。一方、前述の圧力サンプリング方法ではこれらの変動を逐次捉えることができない可能性があり、燃圧変動が直接燃料噴射量に影響を及ぼしてしまう懸念がある。これにより、エンジンに供給される空気と燃料の混合状態が変化し、排気や燃費の悪化を引き起こしてしまう可能性がある。
【0004】
このような課題を解決するため、例えば、特許文献1に記載されているような技術が開示されている。特許文献1には、燃料噴射中の燃圧変化を算出して、燃圧変化量と噴射開始時の燃圧に基づいて、燃料噴射パルス幅を補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-38857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、燃料噴射中の燃圧変化(燃圧変動)を求めるためには、圧力センサによりサンプリングした燃料噴射開始時の燃料圧力をもとに、燃料ポンプの吐出量と燃料噴射弁の噴射量を用いて逐次演算する必要がある。その結果、特許文献1に記載された技術では、演算負荷および演算回数が増大する、という問題を有していた。特に高速分割噴射を行う際には、特許文献1に記載された技術は、実装上の観点から好ましくなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、演算負荷を増加させることなく、内燃機関の排気や燃費悪化の要因となる燃圧変動による噴射量ばらつきを防止することができる内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるなら、本発明の内燃機関制御装置は、燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する往復動型燃料ポンプと、間欠加圧されている燃料を噴射するための燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御するための内燃機関制御装置である。また、内燃機関制御装置は、内燃機関の運転状態に応じて、燃料噴射弁の開弁または閉弁に係る制御内容を計画する燃料噴射制御計画部と、内燃機関に設けた圧力センサから圧力値を取得する圧力値取得部と、を備えている。
圧力値取得部は、第一燃料圧力値と、第二燃料圧力値と、演算燃料圧力値と、を取得する。第一燃料圧力値は、燃料ポンプの加圧動作タイミングから、それ以降で初めて燃料噴射弁から燃料が噴射される第一期間で取得される。第二燃料圧力値は、第一期間の後に、加圧タイミングまでの期間となる第二期間で取得される。演算燃料圧力値は、第一燃料圧力値と第二燃料圧力値で演算される。そして、燃料噴射制御計画部は、第一燃料圧力値及び第二燃料圧力値、演算燃料圧力値のうち少なくとも1種以上の圧力値を選択し、選択した圧力値に応じて、燃料噴射弁の制御量を補正する。
【0009】
また、本発明の内燃機関制御方法は、燃料を間欠加圧して燃料配管内に吐出する往復動型燃料ポンプと、前記間欠加圧されている燃料を噴射するための燃料噴射弁とを備えた内燃機関を制御する内燃機関制御方法において、以下(1)から(4)に示す処理を含む。
(1)燃料ポンプの加圧動作タイミングから、それ以降で初めて燃料噴射弁から燃料が噴射される第一期間で取得された第一燃料圧力値として取得する処理。
(2)第一期間の後に、加圧タイミングまでの期間となる第二期間で取得された第二燃料圧力値として取得する処理。
(3)第一燃料圧力値と第二燃料圧力値を用いて演算燃料圧力値を演算する処理。
(4)第一燃料圧力値及び第二燃料圧力値、演算燃料圧力値のうち少なくとも1種以上の圧力値を選択し、選択した圧力値に応じて、燃料噴射弁の制御量を補正する処理。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法によれば、演算負荷を増加させることなく、内燃機関の排気や燃費悪化の要因となる燃圧変動による噴射量ばらつきを防止することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態例にかかる内燃機関装置で制御される燃料噴射装置の全体構成図である。
図2】従来の燃料噴射制御の一例を示すタイムチャートである。
図3】実施の形態例にかかる内燃機関制御装置の燃料噴射制御における第1の動作例を示すタイムチャートである。
図4】実施の形態例にかかる内燃機関制御装置の燃料噴射制御における第1の動作例を示すフローチャートである。
図5】実施の形態例にかかる内燃機関制御装置における圧力値の取得方法の一例を示すタイムチャートである。
図6】実施の形態例にかかる内燃機関制御装置の燃料噴射制御における第2の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、内燃機関制御装置及び内燃機関制御方法の実施の形態例について、図1図6を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0013】
1.実施の形態例
1-1.燃料噴射装置の構成例
まず、実施の形態例(以下、「本例」という)にかかる内燃機関制御装置で制御される燃料噴射装置の構成例について、図1を参照して説明する。
図1は、内燃機関制御装置で制御される燃料噴射装置の全体構成図である。
【0014】
本例にかかる内燃機関制御装置は、内燃機関として吸入行程、圧縮行程、燃焼(膨張)行程、排気行程の4行程を繰り返す4サイクルエンジンを制御する制御装置である。この内燃機関は、例えば、4つの気筒(シリンダ)を備えた多気筒エンジンである。なお、内燃機関が有する気筒の数は、4つに限定されるものではなく、3つ又は6つ以上の気筒を有していてもよい。
【0015】
内燃機関は、シリンダに燃料を噴射する燃料噴射装置1を備えている。図1に示すように、燃料噴射装置1は、フィードポンプ2及び高圧燃料ポンプ3、コモンレール4、燃料噴射弁を示すインジェクタ10、内燃機関制御装置(ECU:Engine Control Unit)7を備えている。そして、燃料噴射装置1は、内燃機関9の各気筒に適切なタイミングで燃料を噴射・供給する。
【0016】
また、燃料噴射装置1は、フィードポンプ2を介して燃料タンク50から燃料を吸い上げる。また、フィードポンプ2と高圧燃料ポンプ3は、低圧配管8を介して接続されている。高圧燃料ポンプ3には、プランジャ13が摺動可能に保持されている。また、高圧燃料ポンプ3は、吐出弁11と、加圧室12と、吸入弁ユニット30を有している。
【0017】
吸入弁ユニット30は、低圧配管8に接続されており、低圧配管8を介して燃料を吸入する。また、ソレノイド式の吸入弁ユニット30は、加圧室12に連通している。そして、加圧室12は、吐出弁11に接続されている。
【0018】
プランジャ13の一端部は、加圧室12に挿入されており、加圧室12の容積を増減させる。また、プランジャ13の他端部は、プランジャ13は、内燃機関9のシャフトに取り付けられたカム5に当接している。そして、プランジャ13は、カム5の回転駆動によってプランジャ13は、高圧燃料ポンプ3内を往復運動する。このプランジャ13の往復運動により、加圧室12の容積が膨張と収縮する。
【0019】
ここで、カム5は、内燃機関9の図示されない吸気弁または排気弁を駆動するシャフトに取り付けられている。そして、シャフトは、可変バルブ機構40を介して動力を得ている。そのため、可変バルブ機構40が駆動する場合には、内燃機関9と高圧燃料ポンプ3の位相に差が発生する。
【0020】
また、高圧燃料ポンプ3の吐出弁11には、高圧配管14が接続されている。そして、高圧配管14には、コモンレール4が接続されている。コモンレール4は、高圧燃料ポンプ3の吐出口に連通する高圧燃料経路を構成する。そして、コモンレール4は、高圧燃料ポンプ3から圧送されてきた燃料を蓄圧して、燃料圧力を内燃機関9の運転状態に応じた所定圧力に保持するための畜圧容器である。このコモンレール4には、内燃機関9の気筒吸うに応じてインジェクタ10が接続されている。インジェクタ10は、コモンレール4を介して供給された燃料を内燃機関9の各気筒に噴射する。また、インジェクタ10は、ソレノイド式の直動アクチュエータを備えている。そして、インジェクタ10は、ソレノイドへの通電時間によって開閉弁が制御される。
【0021】
上述したように、高圧燃料ポンプ3内では、プランジャ13がカム5により上下駆動する。これにより、加圧室12の容積が膨張・収縮することで、燃料を吸入・加圧して吐出弁11に供給する。加圧室12の圧力が高圧配管14ならびにコモンレール4に満たされている圧力よりも高圧になると、吐出弁11が開弁し、燃料を高圧配管14及びコモンレール4に圧送する。
【0022】
ここで、プランジャ13が上死点から下死点に向かって移動する際には、加圧室12の体積は膨張する。これに伴ってフィードポンプ2から供給されてきた燃料が加圧室12に吸入される。プランジャ13が下死点から上死点に向かう際に吸入弁が開いていると、加圧室12内の燃料は低圧配管8を通って燃料タンク50の方へ逆流する。
【0023】
プランジャ13が下死点から上死点に向かう際に、吸入弁が閉じられていると、加圧室12に残留する燃料の加圧が開始される。そして、圧力がコモンレール4内の圧力よりも高くなると、吐出弁11が開弁し燃料が圧送される。
【0024】
1-2.内燃機関制御装置の構成例
ECU7は、予め決められたプログラムによって演算を行い各機器の制御を行うCPUと、プログラムやデータ、演算結果を記録するRAM、およびROMなどの記憶領域と、信号の入出力を行うインターフェースなどを有する。また、ECU7には、圧力センサ6、クランク角センサ15、アクセル開度センサ16などと接続されており、各センサが検出した信号が入力される。
【0025】
ここで、圧力センサ6は、コモンレール4内の圧力を検出する。クランク角センサ15は、クランク角度を検出する。アクセル開度センサ16は、アクセルの開度を検出する。
【0026】
ECU7は、各センサの検出信号に基づいて、内燃機関9の運転状態を検出する。そして、ECU7は、高圧燃料ポンプ3の吸入側に設けられた吸入弁ユニット30に対して通電制御する。これにより、ECU7は、高圧燃料ポンプ3の吐出量を制御し、吐出圧力をコントロールしている。さらに、ECU7は、各気筒のインジェクタ10での噴射パルス幅Ti(n)を制御し、内燃機関9に供給する燃料の量を制御している。なおnは気筒番号を示す。
【0027】
また、ECU7は、圧力値取得部64と、燃料噴射制御計画部63とを有している(図4参照)。圧力値取得部64は、圧力センサ6から入力された検出値に基づいて、後述する第一燃料圧力値(第一圧力)60、及び第二燃料圧力値(第二圧力)61を取得する。圧力値取得部64は、第一燃料圧力値(第一圧力)60、及び第二燃料圧力値(第二圧力)61から演算燃料圧力値(演算圧力)62を演算する。そして、燃料噴射制御計画部63は、内燃機関9の運転状態に応じて、インジェクタ10の開弁または閉弁に係る制御内容を計画し、インジェクタ10の制御量を補正する。燃料噴射制御計画部63は、例えば、噴射時圧力を複数種類の燃料圧力値から、1種以上の圧力値を選択する。また、燃料噴射制御計画部63は、選択した圧力値に応じて、インジェクタ10の噴射パルス幅Tiや、作動タイミング等の制御量を補正する。
【0028】
2.燃料噴射の制御動作例
次に、図2から図4を参照して、燃料噴射制御の動作例について説明する。
【0029】
2-1.従来の動作例
まず、図2を参照して従来の燃料噴射制御の動作例について説明する。
図2は、従来の噴射制御装置での制御の一例を示すタイムチャートである。なお、図2に示す例では、内燃機関9の燃焼サイクルのうち吸気行程において3段(3回)の多段噴射を行う例を示している。
【0030】
図2に示すように、図中最下段に示したコモンレール圧力は、高圧燃料ポンプ3の加圧により、あるタイミングで上昇する。その後、インジェクタ10に噴射パルスが入力されると燃料が噴射されることで、噴射回数を重ねるごとにコモンレール圧力が低下していく。そして、次のサイクルでは、再び高圧燃料ポンプ3の加圧により圧力が上昇する。この繰り返しにより、燃料サイクルに対して周期的な燃圧変動が発生する。
【0031】
なお、高圧燃料ポンプ3の加圧タイミングは、主に以下の二点の理由により燃焼サイクルに対し独立して変化する。一つ目の理由は、加圧タイミングが吸入弁ユニット30への通電タイミングにともない変動することである。そして、二つ目の理由は、高圧燃料ポンプ3自体が可変バルブ機構40を介したシャフトから駆動力を得ており動作位相が変動することである。
【0032】
そして、変動する燃料圧力に対して、従来の制御動作例では、燃料配管に設けられた圧力センサ6により代表となる燃料圧力値(以下、代表圧力と称す)を取得する。代表圧力は、例えば、所定の周期でサンプリングした圧力値又はそれらの平均値から演算される。そして、従来のECUでは、この代表圧力を噴射時圧力として、要求される噴射量が得られるようにインジェクタ10の噴射パルス幅Tiを補正する。
【0033】
しかしながら、実際の噴射タイミングにおける燃料圧力は、図2に示すように、代表圧力に対して乖離している場合がある。その場合、実噴射量と要求噴射量との偏差が生じてしまう。これにより、内燃機関に供給される空気と燃料の混合状態が変化し、排気や燃費の悪化を引き起こしてしまう可能性がある。図2に示す例では、3段の噴射のうち1段目の噴射が代表圧力よりも高い燃料圧力で噴射され噴射量過多となり、3段目の噴射が代表圧力よりも低い燃料圧力で噴射され噴射量不足となる。
【0034】
2-2.本例の第1の動作例
次に、図3から図4を参照して本例の燃料噴射制御の第1の動作例について説明する。
図3は、本例の燃料噴射制御の第1の動作例を示すタイムチャートである。
【0035】
図3に示すように、本例の第1の動作例では、ECU7の圧力値取得部64は、前述の燃圧変動幅のうち、高い側を第一燃料圧力値(第一圧力)60、低い側を第二燃料圧力値(第二圧力)61として取得する。第一圧力60と第二圧力61の取得方法は、図2に示す代表圧力と同様に、所定の周期において圧力センサ6でサンプリングする。そして、ECU7の圧力値取得部64は、サンプリングした圧力値のうち、高い側を第一圧力60、低い側を第二圧力61に設定する。なお、この第一圧力60及び第二圧力61は、噴射制御を行う前のサイクルで取得した圧力値に基づいて設定される。
【0036】
ここで第一圧力60と第二圧力61の取得期間を第一期間、第二期間とした場合、第一期間は、高圧燃料ポンプ3の加圧動作タイミング(加圧タイミング)から、それ以降で初めてインジェクタ10が噴射されるタイミングまでの期間となる。そして、第二期間は、先の噴射タイミングから、次の加圧タイミングまでの期間となる。
【0037】
次に、ECU7の圧力値取得部64は、取得した二つの圧力値から演算により演算燃料圧力値(演算圧力)62を求める。例えば、従来の制御動作例において代表圧力を燃焼サイクルとは独立した周期でサンプリングした圧力値とした場合、その値が必ずしも燃圧変動の中央値を捉えることができない可能性がある。この場合においても、第一圧力60と第二圧力61の平均値又は中央値を演算圧力62とすることで、燃圧変動の中央値を正確に捉えることが可能となる。そして、圧力値取得部64は、第一圧力60及び第二圧力61、演算圧力62を燃料噴射制御計画部63に出力する。
【0038】
これにより、ECU7の燃料噴射制御計画部63は、第一圧力60及び第二圧力61、演算圧力62の複数の圧力値を取得することができる。そして、燃料噴射タイミング計画部63は、複数の圧力値のうち、以降に噴射が行われる際にどの圧力値が噴射圧に近いかを選択する。そして、燃料噴射制御計画部63は、選択した圧力値に応じて噴射パルス幅Tiを補正する。
【0039】
なお、圧力値の選択には、補正する噴射の噴射タイミングおよび加圧タイミングの対応関係を用いる。具体的には図3に示すように、加圧タイミング以降初めての噴射である1段目の噴射には第一圧力60を選択する。そして、1段目の噴射を受けて燃料圧力が低下した後に噴射を迎える2段目の噴射には演算圧力62を選択する。さらに燃料圧力が低下した後に噴射を迎える3段目の噴射には第二圧力61を選択する。
【0040】
その結果、本例の燃料噴射の動作例では、一段目のパルス幅<二段目のパルス幅<三段目のパルス幅という噴射パルス幅補正が行われ、燃圧変動による噴射量のばらつきを低減することができる。なお、圧力値を取得するサイクルと補正を反映する噴射タイミングの間に猶予時間が少ない場合、例えば前サイクルで取得した圧力値を用いて、次サイクルの噴射パルス幅を補正してもよい。
【0041】
[第1の動作例の動作フロー]
次に、図4を参照して、第1の動作例の動作フローについて説明する。
図4は、本例の内燃機関制御装置の燃料噴射制御における第1の動作例を示すフローチャートである
【0042】
図4に示すように、まず、ECU7は、内燃機関9の運転状態などに応じて高圧燃料ポンプ3の加圧タイミングを演算する(ステップS10)。次に、ECU7の燃料噴射制御計画部63は、運転状態などに応じてインジェクタ10の噴射タイミング(制御内容)を演算する(ステップS21)。
【0043】
その後、ECU7は、圧力値取得部64を用いて、第一燃料圧力値(第一圧力)60を取得する(ステップS30)。また、ECU7は、圧力値取得部64を用いて、第二燃料圧力値(第二圧力)61を取得する(ステップS31)。そして、圧力値取得部64は、取得した第一圧力60及び第二圧力61に基づいて、演算燃料圧力値(演算圧力)62を演算する(ステップS32)。
【0044】
次に、燃料噴射制御計画部63は、第一圧力60及び第二圧力61、演算圧力62の複数の圧力値から、実際の噴射時圧力に近い圧力値を選択する(ステップS40)。ステップS40における実際の噴射時圧力は、予め測定され、ECU7の記憶部に格納されたデータが用いられる。
【0045】
そして、燃料噴射制御計画部63は、選択した圧力値に基づいて噴射パルス幅Tiの補正値を演算する(ステップS41)。次に、燃料噴射制御計画部63は、演算した補正噴射パルス幅Tiとなるように、制御信号をインジェクタ10に出力する(ステップS42)。これにより、本例の内燃機関制御装置による燃料噴射制御の第1の動作例が完了する。
【0046】
なお、本例では、圧力値取得部64で取得及び演算し、燃料噴射制御計画部63で選択する圧力値として、第一圧力60及び第二圧力61、演算圧力62の3つの圧力値とした例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第一圧力60と演算圧力62の中央値及び第二圧力61と演算圧力62の中央値を圧力値取得部64でさらに演算し、5つの圧力値から所定の圧力値を、燃料噴射制御計画部63で選択してもよい。このように、圧力値取得部64で演算される圧力値は、1つに限定されるものではなく、2つ以上の圧力値を演算してもよい。なお、圧力値取得部64で取得及び演算される圧力値の数は、燃料が噴射される段数に応じて設定することが好ましい。
【0047】
2-3.圧力値の取得方法
次に、図5を参照して圧力値の取得方法の一例について説明する。
図5は、圧力値の取得方法の一例を示すタイムチャートである。
【0048】
上述した説明では、高圧燃料ポンプ3の加圧とインジェクタ10の噴射による燃圧変動のみについて説明してきた。しかしながら、実際の圧力波形は、図5に示すように、高周波脈動を伴うと考えられる。高周波脈動の要因の一つとしては、高圧配管14ならびにコモンレール4などから成る配管系内の液中共振が考えられる。そのため、無作為に第一圧力60及び第二圧力61をサンプリングした場合、高周波脈動分の変動をサンプリングしてしまう可能性がある。
【0049】
これに対して、本例の圧力値取得部64は、例えば各期間中に高周波脈動の周期より長い時間に渡って複数回のサンプリングを行う。そして、圧力値取得部64は、サンプリングした複数の圧力値に対して、平均処理を行うことで、第一圧力60及び第二圧力61を取得する。さらに、圧力値取得部64は、加圧と噴射により形成される複数回のサイクルに渡ってサンプリングを行い、平均処理をして各圧力値を求めてもよい。これにより、高周波脈動分の変動に影響を受けることなく、第一圧力60及び第二圧力61を正確に取得することができる。
【0050】
このように、本例の内燃機関制御装置によれば、演算負荷を増加させることなく、燃圧変動による噴射量ばらつきを防止することができる。
【0051】
2-4.本例の第2の動作例
次に、図6を参照して本例の燃料噴射制御の第2の動作例について説明する。
図6は、本例の燃料噴射制御の第2の動作例を示すタイムチャートである。
【0052】
近年では、燃焼改善の観点から複数の燃焼行程に渡り燃料を分割して噴射する内燃機関が増える傾向にある。そして、図6に示す第2の動作例では、内燃機関9の運転状態に応じて求められる要求噴射量の過半を噴射する主噴射と、それよりも少量で噴射される副噴射に分割して噴射する場合に適用したものである。
【0053】
図6に示すように、内燃機関9の吸気行程における主噴射に加えて、圧縮行程にて少量の副噴射を行っている。これに伴う燃圧変動として、高圧燃料ポンプ3の加圧タイミングとインジェクタ10の噴射タイミングに応じて、主噴射と副噴射の間に加圧タイミングが入らないケース1と、加圧タイミングが入るケース2の2つのケースが考えられる。
【0054】
この場合は、副噴射が、第1の動作例で示す第一期間、または第二期間のどちらで噴射されるかにより、圧力値を選択することが好ましい。具体的には、図6に示すように、加圧タイミングが入らないケース1(図6の実線で示すケース)の場合、副噴射時の圧力値は、第一圧力60が選択される。また、加圧タイミングが入るケース2(図6の一点鎖線で示すケース)の場合、副噴射時の圧力値は、第二圧力61が選択される。そして、燃料噴射制御計画部63は、選択した圧力値に応じて、噴射パルス幅Tiを補正する。
【0055】
その結果、ケース1の副噴射パルス幅>ケース2の副噴射パルス幅という噴射パルス幅補正が行われる。これにより、燃圧変動による副噴射の噴射量ばらつきを低減することができる。さらに、要求噴射量のうち過半が主噴射により噴射されることから、全体の燃圧変動は主噴射により支配されると考えられる。これにより、主噴射の補正に関しては第1の動作例と同様の手法を適用することが可能であり、主噴射の噴射量ばらつきも低減することができる。
【0056】
このように、副噴射を行う第2の動作例においても、第1の動作例と同様に、演算負荷を増加させることなく、燃圧変動による噴射量ばらつきを防止することができる。
【0057】
なお、本発明は、上述し、かつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0058】
例えば、上述した実施の形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ここで説明した実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることは可能であり、さらにはある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…燃料噴射装置、 2…フィードポンプ、 3…高圧燃料ポンプ、 4…コモンレール、 5…カム、 6…圧力センサ、 7…ECU(内燃機関制御装置)、 8…低圧配管、 9…内燃機関、 10…インジェクタ、 11…吐出弁、 12…加圧室、 13…プランジャ、 14…高圧配管、 15…クランク角センサ、 16…アクセル開度センサ、 30…吸入弁ユニット、 40…可変バルブ機構、 50…燃料タンク、 60…第一燃料圧力値(第一圧力)、 61…第二燃料圧力値(第二圧力)、 62…演算燃料圧力値(演算圧力)、 63…燃料噴射制御計画部、 64…圧力値取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6