(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126422
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01H33/662 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034788
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏光
(72)【発明者】
【氏名】小宮 玄
(72)【発明者】
【氏名】浅利 直紀
(72)【発明者】
【氏名】濱田 滉太
(72)【発明者】
【氏名】菊池 諒
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【テーマコード(参考)】
5G026
【Fターム(参考)】
5G026RA02
5G026RA03
5G026RB03
(57)【要約】
【課題】絶縁樹脂を付加した際に空隙が発生した場合、電圧印加時に空隙内部の電界が上昇するのを抑制することで、当該空隙内部における部分放電の発生を防止する。
【解決手段】電極E1,E2を離接可能に収容するように、金属部材(2,3,5,6,7)と絶縁部材(1a,1b)を組み合わせて構成された真空容器1と、真空容器を覆うように付加して成型された絶縁樹脂12と、絶縁樹脂に添加され、電気泳動性を有すると共に、電界の上昇を抑制する機能を有する電界緩和手段と、絶縁樹脂を付加した際に絶縁樹脂と金属部材及び絶縁部材との間の界面のうち応力の集中し易い部分に沿って空隙Ag1,Ag2が発生した場合、電界緩和手段を空隙に向けて移動させて近接させる移動近接手段とを具備し、電界緩和手段を空隙に近接させた状態において、電圧印加時に空隙内部の電界が上昇するのを抑制することで、空隙内部における部分放電の発生を防止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極を離接可能に収容するように、金属部材と絶縁部材とを組み合わせて構成された真空容器と、
前記真空容器を覆うように付加して成型された絶縁樹脂と、
前記絶縁樹脂に添加され、電気泳動性を有すると共に、電界の上昇を抑制する機能を有する電界緩和手段と、
前記真空容器を覆うように前記絶縁樹脂を付加した状態において、前記絶縁樹脂と前記金属部材との間の界面、及び、前記絶縁樹脂と前記絶縁部材との間の界面の一方又は双方の前記界面のうち応力の集中し易い部分に沿って、前記絶縁樹脂の存在しない空隙が発生した場合、前記電界緩和手段を前記空隙に向けて移動させて近接させる移動近接手段と、を具備し、
前記電界緩和手段を前記空隙に近接させた状態において、電圧印加時に前記空隙内部の電界が上昇するのを抑制することで、前記空隙内部における部分放電の発生を防止する真空バルブ。
【請求項2】
前記電界緩和手段は、前記空隙の表面全体のうち少なくとも三重点に近接させて配置され、
前記三重点は、前記絶縁樹脂と前記金属部材と前記空隙とが互いに隙間無く接触する部位、並びに、前記絶縁樹脂と前記絶縁部材と前記空隙とが互いに隙間無く接触する部位を指している請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記絶縁樹脂と前記金属部材と前記空隙とが互いに隙間無く接触する前記三重点に近接させて配置された前記電界緩和手段は、前記金属部材に隙間無く接触し、
前記絶縁樹脂と前記絶縁部材と前記空隙とが互いに隙間無く接触する前記三重点に近接させて配置された前記電界緩和手段は、前記絶縁部材に隙間無く接触する請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
前記電界緩和手段は、複数の電界緩和フィラーを備えて構成され、
複数の前記電界緩和フィラーの一部を、前記空隙の表面全体のうち少なくとも前記三重点に近接させて配置させる際に、
複数の前記電界緩和フィラーは、前記空隙に近接した領域では凝集し、それ以外の領域では分散している請求項2又は3に記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記絶縁樹脂には、応力の集中し易い部分に発生する前記空隙の周囲に沿って、予め、複数の前記電界緩和フィラーが添加されている請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項6】
前記電界緩和フィラーには、前記絶縁樹脂に導電性を付与する導電性フィラーと、前記絶縁樹脂に誘電性を付与する低誘電率フィラーとが含まれ、
前記絶縁樹脂には、前記導電性フィラー及び前記低誘電率フィラーの一方又は双方が添加される請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項7】
前記低誘電率フィラーの誘電率をε1、前記絶縁樹脂の誘電率をε2とすると、
ε1<ε2なる関係を満足するように、前記低誘電率フィラーの誘電率が設定されている請求項6に記載の真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや大型施設に設けられる受配電用の開閉装置として、例えば、遮断器や断路器などの開閉器を具備したスイッチギヤが知られている。スイッチギヤには、開閉器の構成要素として真空バルブが適用されている。真空バルブは、その内部が真空容器(絶縁容器とも言う)によって一定の絶縁状態に維持されている。この真空容器の内部には、一対の電極が離接可能に収容されている。この場合、一対の電極を離接操作することで、事故電流の遮断や負荷電流の開閉が行われ、スイッチギヤから電力が安定して供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-198278号公報
【特許文献2】特開2021-174587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した真空バルブとしては、真空容器を覆うように絶縁樹脂を付加して成型したもの(例えば、モールド真空バルブ)がある。モールド真空バルブにおいて、真空容器は、一対の電極を囲むように配置されたアークシールドの両端に絶縁碍管を接続させた複合円筒形状を成していると共に、この複合円筒形状の真空容器の両端側に、絶縁碍管に接触すること無く当該絶縁碍管を一部囲むように延出した外部シールドを備えて構成されている。
【0005】
なお、アークシールドは、例えば、銅やステンレス鋼などを主成分とする金属(導電)材料で構成された金属部材である。絶縁碍管は、例えば、アルミナセラミックなどの絶縁材料で構成された絶縁部材である。外部シールドは、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属(導電)材料で構成された金属部材である。
【0006】
ここで、真空容器を覆うように絶縁樹脂を付加した状態において、当該絶縁樹脂と上記した金属部材(即ち、アークシールド、外部シールド)及び絶縁部材(即ち、絶縁碍管)とは、互いに隙間無く密接していることが好ましい。
【0007】
しかしながら、上記した三者(即ち、絶縁樹脂、金属部材、絶縁部材)は、互いに異なる線膨張係数(熱膨張係数とも言う)を有している。このため、例えば、温度変化によって、これら三者の長さや体積が増減変化した場合を想定すると、互いに異なる線膨張係数(熱膨張係数)に応じて、三者それぞれの長さや体積が増減変化する割合も互いに異なったものとなる。
【0008】
そうすると、互いに異なる増減変化の割合の程度によっては、局部的に内部応力が発生することがあり、その発生した内部応力の大きさの程度によっては、絶縁樹脂と金属部材及び絶縁部材との間に局部的な剥離が生じる場合がある。特に、熱硬化性樹脂が適用された絶縁樹脂では、熱硬化に伴うヒケが生じる場合もある。
【0009】
いずれにおいても、絶縁樹脂と金属部材との間の界面、及び/又は、絶縁樹脂と絶縁部材との間の界面に沿って、絶縁樹脂の存在しない空隙(空気溜り、隙間とも言う)が発生する場合がある。
【0010】
このとき、空隙が発生した状態で、モールド真空バルブを運転(即ち、電圧印加)すると、空隙内部の電界が上昇して、当該空隙内部に高い電界(即ち、電界強度が高くなった状態)が発生する。そして、電界の高さが空気の部分放電発生電界を超えたとき、空隙内部で部分放電が発生し、この部分放電により、例えば、絶縁樹脂の分解劣化が進展したような場合には、地絡事故に繋がることは否めない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、絶縁樹脂を付加した際に空隙が発生した場合、電圧印加時に空隙内部の電界が上昇するのを抑制することで、当該空隙内部における部分放電の発生を防止するモールド真空バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態によれば、一対の電極を離接可能に収容するように、金属部材と絶縁部材とを組み合わせて構成された真空容器と、真空容器を覆うように付加して成型された絶縁樹脂と、絶縁樹脂に添加され、電気泳動性を有すると共に、電界の上昇を抑制する機能を有する電界緩和手段と、真空容器を覆うように絶縁樹脂を付加した状態において、絶縁樹脂と金属部材との間の界面、及び、絶縁樹脂と絶縁部材との間の界面の一方又は双方の界面のうち応力の集中し易い部分に沿って、絶縁樹脂の存在しない空隙が発生した場合、電界緩和手段を空隙に向けて移動させて近接させる移動近接手段とを具備し、電界緩和手段を空隙に近接させた状態において、電圧印加時に空隙内部の電界が上昇するのを抑制することで、空隙内部における部分放電の発生を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るモールド真空バルブの断面図。
【
図2】応力が集中し易い部分に空隙が発生した状態を示す部分断面図。
【
図3】空隙の表面全体に沿って電界緩和フィラーを近接させた状態を示す断面図。
【
図4】空隙の三重点に電界緩和フィラーを近接させた状態を示す断面図。
【
図5】絶縁樹脂に電界緩和フィラーが添加されている状態を示す断面図。
【
図6】電界緩和フィラーの有無に応じて空隙に発生する電界強度の高低比較図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「一実施形態」
図1は、本実施形態に係る真空バルブPの基本構造を示す図である。真空バルブPは、固定電極E1と、可動電極E2と、真空容器1(絶縁容器とも言う)と、固定側封着金具2と、可動側封着金具3と、気密維持機構4と、アークシールド5と、固定側外部シールド6と、可動側外部シールド7とを具備している。
図1の例において、固定電極E1、可動電極E2、気密維持機構4は、真空容器1に収容されている。
【0015】
図1に示すように、真空容器1は、真空バルブPの中心を規定する仮想軸線Pxを中心とした中空円筒形状を成している。真空容器1は、仮想軸線Px方向(換言すると、後述する電極E1,E2の離接方向とも言う)で見て、その両端が開口されている。双方の開口(固定側開口K1、可動側開口K2)は、固定側封着金具2、及び、可動側封着金具3によって覆われている。即ち、固定側開口K1は、固定側封着部材2によって閉塞され、可動側開口K2は、可動側封着金具3によって閉塞されている。
【0016】
真空容器1は、仮想軸線Px方向(電極E1,E2の離接方向)において、アークシールド5の両端(一端T1、他端T2)に絶縁碍管(固定側絶縁碍管1a、可動側絶縁碍管1b)を接続させて構成されている。即ち、アークシールド5の一端T1に固定側絶縁碍管1aが接続され、アークシールド5の他端T2に可動側絶縁碍管1bが接続されている。
【0017】
絶縁碍管1a,1bは、互いに同一の厚さに構成されている。アークシールド5は、絶縁碍管1a,1bよりも薄肉に構成されている。これら絶縁碍管1a,1b及びアークシールド5は、仮想軸線Pxを中心とした中空円筒形状を成し、それぞれの径寸法(半径、直径)は、互いに略同一に設定されている。これにより、双方の絶縁碍管1a,1bと、これら絶縁碍管1a,1bの相互間に介在させたアークシールド5とは、仮想軸線Pxに沿って延在しつつ互いに真っ直ぐに並んで配置されている。
【0018】
この状態において、アークシールド5は、一対の電極E1,E2を囲むように、具体的には、その内部(内側)に、後述する固定電極E1の固定接点8、並びに、可動電極E2の可動接点10を収容するように配置されている。
【0019】
この場合、固定側封着金具2及び可動側封着金具3は、例えば、ステンレス鋼を主成分とする金属(導電)材料で構成された金属部材である。絶縁碍管1a,1bは、例えば、アルミナセラミックなどの絶縁材料で構成された絶縁部材である。アークシールド5は、例えば、銅やステンレス鋼などを主成分とする金属(導電)材料で構成された金属部材である。
【0020】
また、固定電極E1及び可動電極E2は、仮想軸線Pxを中心に同心状に構成されていると共に、仮想軸線Pxに沿って整列して延在されている。固定電極E1は、固定接点8と、固定通電軸9とを備えている。可動電極E2は、可動接点10と、可動通電軸11とを備えている。固定通電軸9及び可動通電軸11は、互いに同一の直径を有する円柱形状を成し、導電率の高い材料(例えば、銅(Cu)、銅合金、銀(Ag))で構成されている。
【0021】
固定接点8及び可動接点10は、互いに同一の大きさの輪郭形状を有し、対向して配置されている。固定接点8は、固定通電軸9の一端に接続され、固定通電軸9の他端は、固定側封着金具2を介して、仮想軸線Pxに沿って移動不能に真空バルブPに固定されている。可動接点10は、可動通電軸11の一端に接続され、可動通電軸11の他端は、可動側封着金具3を介して、図示しない操作機構に連結されている。
【0022】
このような配置構成において、
図1に示すように、操作機構によって可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させる。これにより、可動接点10を固定接点8に対して離接させることができる。この結果、真空バルブPを開閉操作(即ち、一対の電極E1,E2を離接操作)することができる。
【0023】
また、可動通電軸11と可動側封着金具3との間には、気密維持機構4が配置されている。気密維持機構4は、伸縮性を有するベローズで構成され、ベローズ(気密維持機構)4は、例えば、ステンレスなどの薄い金属で構成されている。ベローズ4は、仮想軸線Px方向に伸縮可能な蛇腹状を成し、可動通電軸11の外側を隙間無く覆っている。
【0024】
ベローズ4は、その一端が可動側封着金具3に隙間無く接合され、その他端が可動通電軸11に隙間無く接合されている。これにより、真空容器1の内部は、常に気密状態(即ち、真空状態)に維持される。この結果、真空バルブPの開閉操作に際し、可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させている間も、真空容器1の内部に大気(空気)が浸入することはない。
【0025】
加えて、上記したような基本構造を有する真空バルブPは、絶縁樹脂12によって、円筒形状の輪郭に成型され、これにより、モールド真空バルブPとして構築されている。この場合、絶縁樹脂12は、真空容器1の外側(即ち、アークシールド5の外周面5s、絶縁碍管1a,1bの外周面1s)を隙間無く覆うように付加されて成型されている。絶縁樹脂12は、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂で構成されている。
【0026】
絶縁樹脂12により円筒形状の輪郭に成型された真空バルブPは、絶縁樹脂12の外側を覆うように設けられた導電性の接地層13を具備している。接地層13は、円筒形状の絶縁樹脂12の外周に沿って、例えば、導電性塗料を塗布して成形され、アースが施されている。
【0027】
更に、真空バルブPには、通電時ないし開極時において、上記した封着金具2,3への電界集中を緩和する外部シールド(固定側外部シールド6、可動側外部シールド7)が設けられている。この場合、固定側外部シールド6及び可動側外部シールド7は、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属(導電)材料で構成された金属部材である。
【0028】
固定側外部シールド6は、固定側封着金具2を覆いつつ、真空容器1(即ち、固定側絶縁碍管1a)の外側を一部囲むように仮想軸線Px方向に中空円筒形状を成して延出している。可動側外部シールド7は、可動側封着金具3を覆いつつ、真空容器1(即ち、可動側絶縁碍管1b)の外側を一部囲むように仮想軸線Px方向に中空円筒形状を成して延出している。
【0029】
ところで、このようなモールド真空バルブP(真空容器1)において、上記した絶縁樹脂12、金属部材(即ち、封着金具2,3、アークシールド5、外部シールド6,7)、絶縁部材(即ち、絶縁碍管1a,1b)は、互いに異なる線膨張係数(熱膨張係数とも言う)を有している。そうすると、例えば、温度変化によって、これら三者の長さや体積が増減変化する割合は互いに異なったものとなる。
【0030】
これにより、絶縁樹脂12と金属部材(2,3,5,6,7)及び絶縁部材(1a,1b)との間に局部的な剥離が生じたり、絶縁樹脂12自体の熱硬化に伴うヒケが生じたりする虞があり、そうなると、絶縁樹脂12と金属部材(2,3,5,6,7)との間の界面、及び/又は、絶縁樹脂12と絶縁部材(1a,1b)との間の界面に沿って、絶縁樹脂12の存在しない空隙Ag1,Ag2(空気溜り、隙間とも言う)が発生し、その結果、当該空隙Ag1,Ag2内部の電界が高くなり、部分放電が発生する場合がある。
【0031】
そこで、モールド真空バルブPには、空隙Ag1,Ag2内部における部分放電の発生を防止すべく、真空バルブPの運転時(即ち、電圧印加時)に空隙Ag1,Ag2内部の電界が上昇するのを抑制するための構成(
図3~
図5参照)が施されている。
図1には一例として、絶縁樹脂12と固定側絶縁碍管1aとの間の界面に沿って発生した空隙Ag1と、絶縁樹脂12と固定側外部シールド6との間の界面に沿って発生した空隙Ag2が示されている。
【0032】
図2は、
図1に示された空隙Ag1,Ag2周りの構成拡大図である。
図2には、真空容器1を覆うように絶縁樹脂12を付加した状態が示されている。この状態において、空隙Ag1は、絶縁樹脂12と固定側絶縁碍管1aとの間の界面のうち応力の集中し易い部分に沿って発生している。空隙Ag2は、絶縁樹脂12と固定側外部シールド6との間の界面のうち応力の集中し易い部分に沿って発生している。
【0033】
応力の集中し易い部分としては、固定側絶縁碍管1a及び固定側外部シールド6のそれぞれの端部(縁部)を想定することができる。これ以外の他の金属部材(即ち、封着金具2,3、アークシールド5、可動側外部シールド7)や絶縁部材(即ち、可動側絶縁碍管1b)の端部(縁部)も、応力の集中し易い部分として想定することができる。
【0034】
図2には一例として、円弧形状の断面輪郭を有する空隙Ag1,Ag2が示されているが、これ以外にも、例えば、矩形状や三角形状などの断面輪郭を有する空隙Ag1,Ag2も想定される。また、特に図示しないが、空隙Ag1,Ag2の平面輪郭として、例えば、円形状、楕円形状、三角形状、矩形状などの輪郭形状を想定することができる。
【0035】
更に、空隙Ag1,Ag2は、中空円筒形状を成す固定側絶縁碍管1a並びに固定側外部シールド6の界面に沿って発生している。この場合、空隙Ag1,Ag2は、その大多数が互いに間隔を存して点在している状態が一般的であると想定されるが、使用環境や使用状態によっては、周方向に連続する場合も想定される。
【0036】
なお、空隙Ag1,Ag2の大きさについては、例えば、真空容器1を覆うように絶縁樹脂12を付加する際の当該樹脂の流動状態、当該樹脂が固化するまでの移行状態、モールド真空バルブPに作用する温度状態、上記した三者(即ち、絶縁樹脂、金属部材、絶縁部材)の線膨張係数(熱膨張係数)の状態、そして、線膨張係数(熱膨張係数)に応じて三者それぞれの長さや体積が増減変化する割合状態などに応じて増減変化するものと想定されるため、ここでは特に限定しない。
【0037】
ここで、真空バルブPは、その運転時(即ち、電圧印加時)に、上記した空隙Ag1,Ag2内部の電界が上昇するのを抑制するための構成として、電界緩和手段と、移動近接手段とを有している。なお、電界緩和手段は
図3~
図4を参照して、移動近接手段は
図5を参照して、それぞれ後述する。
【0038】
図3~
図5に示すように、電界緩和手段は、絶縁樹脂12に添加され、電気泳動性を有すると共に、電界の上昇を抑制する機能を有している。移動近接手段は、電界緩和手段を空隙Ag1,Ag2に向けて移動させて近接させる機能を有している。そして、電界緩和手段を空隙Ag1,Ag2に近接させた状態において、電圧印加時に空隙Ag1,Ag2内部の電界が上昇するのを抑制することで、空隙Ag1,Ag2内部における部分放電の発生を防止することができる。
【0039】
電界緩和手段は、複数の電界緩和フィラーF1,F2(
図3~
図5参照)を備えて構成されている。これら複数の電界緩和フィラーF1,F2は、その一部を空隙Ag1,Ag2の表面全体のうち少なくとも後述する三重点P1,P2に近接させて配置させる。
【0040】
三重点P1,P2は、絶縁樹脂12と金属部材(2,3,5,6,7)と空隙Ag1,Ag2とが互いに隙間無く接触する部位、並びに、絶縁樹脂12と絶縁部材(1a,1b)と空隙Ag1,Ag2とが互いに隙間無く接触する部位を指している。
【0041】
図2には一例として、絶縁樹脂12と固定側絶縁碍管1aと空隙Ag1とが互いに隙間無く接触する三重点P1、並びに、絶縁樹脂12と固定側外部シールド6と空隙Ag2とが互いに隙間無く接触する三重点P2が示されている。
【0042】
図3及び
図4は、電界緩和フィラーF1,F2の配置構成図である。
図3には、空隙Ag1,Ag2の表面全体に亘って電界緩和フィラーF1,F2を近接配置させた状態が示されている。
図4には、空隙Ag1,Ag2の三重点P1,P2に電界緩和フィラーF1,F2を近接配置させた状態が示されている。
図3及び
図4では一例として、空隙Ag1に近接配置させた電界緩和フィラーが符号F1で示され、一方、空隙Ag2に近接配置させた電界緩和フィラーが符号F2で示されている。
【0043】
この場合、三重点P1に近接配置された電界緩和フィラーF1は、固定側絶縁碍管1aに隙間無く接触させることが好ましい。一方、三重点P2に近接配置された電界緩和フィラーF2は、固定側外部シールド6に隙間無く接触させることが好ましい。なお、電界緩和フィラーF1,F2は、必ずしも三重点P1,P2に隙間無く接触させる必要は無く、当該三重点P1,P2付近(即ち、三重点P1,P2に対して非接触な位置)に近接させるだけでもよい。
【0044】
図5は、移動近接手段の概念図である。
図5に示された移動近接手段では、予め電界緩和フィラーF1,F2が添加された絶縁樹脂12を真空容器1の外側に付加し、所定の形状に成型した後、空隙Ag1,Ag2が発生している界面に隣接した金属部材並びに帯電させた絶縁部材に直流電圧を印加する。
図5では一例として、固定側外部シールド6並びに帯電させた固定側絶縁碍管1aに、それぞれ直流電圧を印加する。
【0045】
このとき、予め絶縁樹脂12に添加された電界緩和フィラーF1,F2は、当該絶縁樹脂12中において、空隙Ag1,Ag2に近接した領域では凝集し、それ以外の領域では分散していることが好ましい。
【0046】
ここで、電界緩和フィラーF1,F2には、それぞれ、絶縁樹脂12に導電性(即ち、電気を通り易くする特性)を付与する導電性フィラーと、絶縁樹脂12に誘電性(即ち、電気を通り難くする特性)を付与する低誘電率フィラーとが含まれる。この場合、絶縁樹脂12には、導電性フィラー及び低誘電率フィラーの一方又は双方が添加される。
【0047】
この場合、絶縁樹脂12に導電性フィラー及び低誘電率フィラーの双方を添加しておくことが好ましい。導電性フィラーは、これが絶縁部材(即ち、絶縁碍管1a)に隣接した空隙Ag1に近接配置された場合、金属異物として作用するといった課題を生じるが、絶縁樹脂12に導電性フィラー及び低誘電率フィラーの双方を添加しておくことで、当該空隙Ag1に対して、導電性フィラーと低誘電率フィラーの双方を近接配置させることができ、上記課題を解消させることができる。
【0048】
一方、低誘電率フィラーは、これを帯電させておくことが好ましい。低誘電率フィラーは、電気を通り難くする特性を発揮するが、予め帯電させておくことで、電気泳動性を有する電界緩和フィラーF1,F2とすることができる。
【0049】
加えて、低誘電率フィラーの誘電率ε1を、絶縁樹脂の誘電率ε2よりも小さくなるように(即ち、ε1<ε2なる関係を満足するように)設定することが好ましい。低誘電率フィラーの誘電率ε1が絶縁樹脂の誘電率ε2よりも大きい場合、金属部材(即ち、固定側外部シールド6)に隣接した空隙Ag2の電界強度を高めてしまうといった課題を生じるが、ε1<ε2なる関係を満足させることで、上記課題を解消させることができる。
【0050】
これによれば、固定側外部シールド6並びに帯電させた固定側絶縁碍管1aに、それぞれ直流電圧を印加すると、導電性フィラーと帯電させた低誘電率フィラーの双方を、いわゆるゲルタイム(即ち、絶縁樹脂12がその流動性を失って粘性が急激に増加するまでの時間)よりも短い時間で、効率よく、直近の空隙Ag1,Ag2に向けて移動させて近接させることができる。
【0051】
図6は、電界緩和フィラーF1,F2の有無と、空隙Ag1,Ag2に発生する最大電界強度との関係を示す比較図である。これによれば、電界緩和フィラーF1,F2が無い場合に比べて、空隙Ag1,Ag2の表面全体(或いは、少なくとも三重点P1,P2付近)を覆うように、電界緩和フィラーF1,F2を近接配置させた場合は、当該空隙Ag1,Ag2に発生する最大電界強度が格段に小さくなることが分かる。
【0052】
以上、本実施形態によれば、真空容器1を覆うように絶縁樹脂12を付加した際に空隙Ag1,Ag2が発生した場合、空隙Ag1,Ag2の表面全体(或いは、少なくとも三重点P1,P2付近)を覆うように、電界緩和フィラーF1,F2を近接配置させる。これにより、真空バルブPの運転時(即ち、電圧印加時)に、空隙Ag1,Ag2内部の電界が上昇するのを抑制(換言すると、空隙Ag1,Ag2内部に発生する電気的ストレスを緩和)することができる。この結果、当該空隙Ag1,Ag2内部における部分放電の発生を防止することができる。
【0053】
この場合、空隙Ag1,Ag2の表面全体を覆うように、電界緩和フィラーF1,F2を近接配置することで、当該空隙Ag1,Ag2内部に発生する電界強度を大幅に低減することができる。ここで、空隙Ag1,Ag2の三重点P1,P2付近の電界強度は空隙Ag1,Ag2の中で最も高いので、当該三重点P1,P2付近を覆うように、電界緩和フィラーF1,F2を近接配置した場合も、空隙Ag1,Ag2の表面全体を覆った場合と同様の電界緩和効果を達成することができる。
【0054】
更に、本実施形態によれば、予め絶縁樹脂12に電界緩和フィラーF1,F2を添加させておくことで、新たな製造プロセスを構築すること無く、かつ、通常行われる製造プロセスをそのまま利用して、当該電界緩和フィラーF1,F2を空隙Ag1,Ag2に近接配置させることができる。この結果、製造コストの上昇を伴うこと無く、空隙Ag1,Ag2内部における部分放電の発生を防止することができる。
【0055】
「変形例」
本変形例において、絶縁樹脂12には、応力の集中し易い部分に発生する空隙Ag1,Ag2の周囲に沿って、予め、複数の電界緩和フィラーF1,F2が添加されている。これにより、いわゆるゲルタイム(即ち、絶縁樹脂12がその流動性を失って粘性が急激に増加するまでの時間)よりも短い時間で、効率よく、直近の空隙Ag1,Ag2に向けて移動させて近接させることができる。なお、その他の構成及び効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0056】
以上、本発明の一実施形態及び変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
P…真空バルブ、Px…仮想軸線、E1…固定電極、E2…可動電極、1…真空容器、1a…固定側絶縁碍管、1b…可動側絶縁碍管、K1…固定側開口、K2…可動側開口、2…固定側封着金具、3…可動側封着金具、4…気密維持機構、5…アークシールド、6…固定側外部シールド、7…可動側外部シールド、8…固定接点、9…固定通電軸、10…可動接点、11…可動通電軸、12…絶縁樹脂、13…接地層、Ag1,Ag2…空隙、P1,P2…三重点、F1,F2…電界緩和フィラー。