IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピラー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-シール構造 図1
  • 特開-シール構造 図2
  • 特開-シール構造 図3
  • 特開-シール構造 図4
  • 特開-シール構造 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126426
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】シール構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/24 20060101AFI20240912BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20240912BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240912BHJP
   F16J 15/3212 20160101ALI20240912BHJP
【FI】
F16J15/24 Z
F16J15/18 C
F16J15/3232 201
F16J15/3212
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034795
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日名 純
(72)【発明者】
【氏名】山下 辰佳
(72)【発明者】
【氏名】加門 祐介
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AB03
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE50
3J006CA03
3J043AA16
3J043BA02
3J043BA07
3J043CA02
3J043CA12
3J043CB13
3J043CB18
3J043HA01
(57)【要約】
【課題】コンタミネーションを抑制しつつ、低温環境下でのシール性能を向上することができるシール構造を提供する。
【解決手段】互いに対向するシールボックス2の円周面2dと、回転軸50の外周面50aとの間をシールするシール構造10は、外周面50aの径方向外側に設けられ軸方向一方側に開口する環状溝12aを有する合成樹脂製の環状の第1シール部材12と、第1シール部材12の環状溝12aに係合され低温時における第1シール部材12の径方向の収縮を抑制する収縮抑制部13と、第1シール部材12と外周面50aとの間に介在し第1シール部材12よりも低温時の収縮率が小さく且つ第1シール部材12と馴染みやすい材料からなる環状の第2シール部材14と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径方向に対向する内側被シール面と外側被シール面との間をシールするシール構造であって、
前記内側被シール面の径方向外側に設けられ、軸方向一方側に開口する環状溝を有する合成樹脂製の環状の第1シール部材と、
前記第1シール部材の前記環状溝に係合され、低温時における前記第1シール部材の径方向の収縮を抑制する収縮抑制部と、
前記第1シール部材と前記外側被シール面との間に介在し、前記第1シール部材よりも低温時の収縮率が小さく且つ前記第1シール部材と馴染みやすい材料からなる環状の第2シール部材と、を備えるシール構造。
【請求項2】
前記収縮抑制部は、前記環状溝内に嵌め込まれる金属製のOリングにより構成されている、請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記第2シール部材は、膨張黒鉛、膨張黒鉛ヤーン、又は膨張黒鉛パッキンからなる、請求項1又は請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記第1シール部材、前記第2シール部材、及び前記収縮抑制部を一組とするシールユニットが、前記内側被シール面と前記外側被シール面との間において軸方向に複数設けられ、
軸方向に隣り合う前記シールユニットの前記第2シール部材同士の間に介在するスペーサをさらに備える、請求項1又は請求項2に記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブやポンプなどの流体機器において装備されるシール構造として、例えば特許文献1に記載されたグランドパッキンが知られている。このグランドパッキンは、膨張黒鉛により環状に成形され、流体機器の軸(ステム)を包囲するシールボックス(スタフィングボックス)内に設けられる。グランドパッキンは、シールボックス内において軸方向に圧縮されることで径方向に延びるように変形する。この変形によってグランドパッキンの外周面及び内周面が、シールボックスの内周面及び軸の外周面にそれぞれ密着する。これにより、グランドパッキンは、流体機器内の被密封流体が大気側へ漏れるのを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-246973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の膨張黒鉛製のグランドパッキンは、低温時の収縮率が比較的小さいので、低温環境下での使用に適している。しかし、膨張黒鉛製のグランドパッキンは、軸との摺動面(内周面)が摩耗しやすいため、その摩耗紛が異物として被密封流体に混入するコンタミネーションが発生しやすい。このため、コンタミネーションの防止が厳格に要求される環境下では、膨張黒鉛製のグランドパッキンの使用は適さない。
【0005】
コンタミネーションを抑制するために、膨張黒鉛よりも摩耗しにくい合成樹脂製のシールリングを用いることが考えられる。しかし、合成樹脂製のシールリングは、低温時の収縮率が比較的大きいため、低温環境下で使用されると、シールリングの収縮によって、その外周面とパッキンボックスの内周面との間に隙間が発生し、シール性能が低下してしまう。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コンタミネーションを抑制しつつ、低温環境下でのシール性能を向上することができるシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示は、互いに径方向に対向する内側被シール面と外側被シール面との間をシールするシール構造であって、前記内側被シール面の径方向外側に設けられ、軸方向一方側に開口する環状溝を有する合成樹脂製の環状の第1シール部材と、前記第1シール部材の前記環状溝に係合され、低温時における前記第1シール部材の径方向の収縮を抑制する収縮抑制部と、前記第1シール部材と前記外側被シール面との間に介在し、前記第1シール部材よりも低温時の収縮率が小さく且つ前記第1シール部材と馴染みやすい材料からなる環状の第2シール部材と、を備えるシール構造である。
【0008】
本開示のシール構造によれば、内側被シール面の径方向外側に合成樹脂製の第1シール部材が設けられるので、第1シール部材における内側被シール面との摺動面(内周面)は摩耗しにくい。これにより、前記シール構造が流体機器に用いられても、流体機器の被密封流体へのコンタミネーションを抑制することができる。
また、収縮抑制部が、低温時における第1シール部材の径方向の収縮を抑制するとともに、第1シール部材と外側被シール面との間には、第1シール部材よりも低温時の収縮率が小さい第2シール部材が介在する。このため、前記シール構造が低温環境下で使用されても、第1シール部材及び第2シール部材が径方向に収縮するのを抑制できる。さらに、第2シール部材は、第1シール部材と馴染みやすい材料からなるので、第2シール部材の内周面を第1シール部材の外周面に密着させることができる。これにより、低温環境下におけるシール構造のシール性も向上することができる。
【0009】
(2)前記(1)のシール構造において、前記収縮抑制部は、前記環状溝内に嵌め込まれる金属製のOリングにより構成されているのが好ましい。
この場合、シール構造を軸方向にコンパクトに構成することができるので、内側被シール面と外側被シール面との間が軸方向に狭い場合でもシール構造を設けることができる。
【0010】
(3)前記(1)又は(2)のシール構造において、前記第2シール部材は、膨張黒鉛、膨張黒鉛ヤーン、又は膨張黒鉛パッキンからなるのが好ましい。
この場合、第2シール部材は、低温時の収縮率を効果的に小さくすることでき、且つ合成樹脂製の第1シール部材との馴染み性も優れたものとなる。これにより、コンタミネーションを効果的に抑制しつつ、低温環境下でのシール性能を効果的に向上することができる。
【0011】
(4)前記(1)から(3)のいずれか一のシール構造において、前記第1シール部材、前記第2シール部材、及び前記収縮抑制部を一組とするシールユニットが、前記内側被シール面と前記外側被シール面との間において軸方向に複数設けられ、軸方向に隣り合う前記シールユニットの前記第2シール部材同士の間に介在するスペーサをさらに備えるのが好ましい。
この場合、複数のシールユニットを軸方向に押圧し、各シールユニットの第2シール部材を第1シール部材と外側被シール面とに密着させる際に、各第2シール部材は、自身に隣接するスペーサによって軸方向に圧縮される。その結果、複数のシールユニットの第2シール部材を軸方向へ均等に圧縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示のシール構造によれば、コンタミネーションを抑制しつつ、低温環境下でのシール性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るシール構造を備えた軸封装置を示す断面図である。
図2】締付機構により複数の第2シール部材が軸方向に圧縮される前の状態を示す断面図である。
図3図2に示すシールユニットの拡大断面図である。
図4】第2実施形態に係るシール構造を備えた軸封装置を示す断面図である。
図5】第3実施形態に係るシール構造を備えた軸封装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本開示の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
<軸封装置>
図1は、第1実施形態に係るシール構造10を備えた軸封装置1を示す断面図である。軸封装置1は、例えばポンプ、バルブ、又はドレッサージョイント等の流体機器に設けられ、流体機器内の被密封流体が外部へ漏れるのを抑制するために用いられる。流体機器は、軸線C回りに回転するとともに軸線C方向に往復移動する回転軸50を備えている。なお、本実施形態の流体機器では、回転軸50の軸線Cが水平方向に配置されているが、当該軸線Cが鉛直方向に配置されていてもよい。
【0015】
以下、本明細書では、軸線Cに沿う方向を「軸方向」、軸線Cと直交する方向を「径方向」、軸線C回りの方向を「周方向」という。また、便宜上、図1の左側を軸方向一方側といい、図1の右側を軸方向他方側という(図2図5についても同様)。
【0016】
軸封装置1は、シールボックス2と、締付機構3と、シール構造10と、を備えている。シールボックス2は、回転軸50を包囲している。シールボックス2の軸方向他方側の端面2aには、複数(図1では1個のみ図示)のネジ穴2bが周方向に間隔をあけて形成されている。シールボックス2の内周には、径方向に延びる環状の段差面2cと、段差面2cの外周端から端面2aまで延びる円周面2dと、が形成されている。円周面2dは、回転軸50の外周面50aと径方向に対向している。シールボックス2の円周面2dと、回転軸50の外周面50aとの間には、環状空間Sが形成されている。
【0017】
シール構造10は、環状空間Sに配置され、シールボックス2の円周面(外側被シール面)2dと、回転軸50の外周面(内側被シール面)50aとの間をシールする。本実施形態のシール構造10は、複数のシールユニット11と、複数のスペーサ18と、を備えている。シールユニット11の個数とスペーサ18の個数は、同数(図1では4個)である。シールユニット11及びスペーサ18の各個数は、本実施形態に限定されず、2個以上であればよい。
【0018】
複数のシールユニット11及び複数のスペーサ18は、環状空間Sにおいて軸方向に交互に隣接して配置されている。各シールユニット11は、第1シール部材12、収縮抑制部13、及び第2シール部材14を一組として構成されている。シールユニット11及びスペーサ18の詳細については後述する。
【0019】
締付機構3は、複数のシールユニット11及び複数のスペーサ18を軸方向一方側に押圧し、各シールユニット11の第2シール部材14を軸方向に圧縮する機構である。図2は、締付機構3により複数の第2シール部材14が軸方向に圧縮される前の状態を示す断面図である。図1及び図2において、締付機構3は、押圧部材4と、ネジ軸5と、ナット6と、を有している。
【0020】
押圧部材4は、回転軸50の径方向外側に設けられた円筒部4aと、環状のフランジ部4bと、を有している。円筒部4aは、シールボックス2及び回転軸50に対して軸方向に移動可能である。円筒部4aの軸方向一方側の端部は、環状空間Sに挿入されている。
【0021】
フランジ部4bは、円筒部4aの軸方向他方側の端部から径方向外側に延びている。フランジ部4bには、シールボックス2のネジ穴2bと同数の貫通孔4cが、周方向に間隔をあけて形成されている。貫通孔4cは、フランジ部4bの厚み方向(軸方向)に貫通して形成されている。
【0022】
ネジ軸5は、押圧部材4の各貫通孔4cを貫通し、シールボックス2の各ネジ穴2bに締め込まれて固定されている。これにより、シールボックス2の端面2a側には、ネジ穴2bと同数のネジ軸5の一端部が固定されている。各ネジ軸5の他端部は、押圧部材4よりも軸方向他方側に突出している。各ネジ軸5は、押圧部材4の軸方向への移動をガイドする機能を有している。各ネジ軸5の他端部には、ナット6が締め込まれている。各ネジ軸5にナット6が締め込まれることで、押圧部材4は軸方向一方側へ移動し、円筒部4aの軸方向一方側の端面4a1が、複数のシールユニット11及び複数のスペーサ18を軸方向一方側に押圧する。そうすると、各シールユニット11の第2シール部材14が軸方向に圧縮される。
【0023】
<シールユニット>
図3は、図2に示すシールユニット11の拡大断面図である。図2及び図3において、シールユニット11の第1シール部材12は、合成樹脂製の環状の部材からなる。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)等が挙げられる。本実施形態の第1シール部材12は、ポリテトラフルオロエチレンからなる。第1シール部材12は、環状空間Sにおいて回転軸50の外周面50aの径方向外側に設けられている。
【0024】
第1シール部材12は、軸方向一方側に開口する断面凹形状の環状溝12aを有している。また、第1シール部材12は、環状溝12aの軸方向他方側に形成された円環部12bと、環状溝12aの径方向内側に形成された内筒部12cと、環状溝12aの径方向外側に形成された外筒部12dと、を有している。
【0025】
円環部12bの軸方向の厚みは、環状溝12aの軸方向の深さよりも短い。内筒部12cは、円環部12bの径方向内端から軸方向一方側に延びている。内筒部12cの径方向の厚みは、環状溝12aの径方向の幅よりも短い。本実施形態の内筒部12cは、断面視において径方向内方に突出するように略円弧状に形成されている。内筒部12cの内周面12c1における軸方向中央部は、回転軸50の外周面50aに接触している。なお、内筒部12cは、断面視において軸方向に真っ直ぐ延びて形成され、内周面12c1全体を回転軸50の外周面50aに接触させてもよい。
【0026】
外筒部12dは、円環部12bの径方向外端から軸方向一方側に延びている。本実施形態の外筒部12dは、断面視において軸方向に真っ直ぐ延びている。外筒部12dの径方向の厚みは、環状溝12aの幅よりも短い。
【0027】
収縮抑制部13は、低温時(特に極低温時)における第1シール部材12の径方向の収縮を抑制するものである。本実施形態の収縮抑制部13は、合成樹脂製の第1シール部材12よりも収縮率が小さい金属製のOリング131により構成されている。Oリング131は、断面視において中空環状に形成されている。
【0028】
Oリング131は、その全体が第1シール部材12の環状溝12a内に嵌め込まれることによって、環状溝12aに係合されている。Oリング131は、環状溝12aに係合された状態で、第1シール部材12の内筒部12c及び外筒部12dを、それぞれ径方向内方及び径方向外方に押圧している。また、内筒部12c及び外筒部12dは、軸方向一方側から環状溝12a内に流入する被密封流体の圧力によっても、それぞれ径方向内方及び径方向外方に押圧される。
【0029】
内筒部12cが径方向内方に押圧されることで、第1シール部材12の内周面12c1が回転軸50の外周面50aに密着するので、第1シール部材12は、環状空間Sの径方向内側(回転軸50側)から、被密封流体が外部へ漏れるのを抑制することができる。また、外筒部12dが径方向外方に押圧されることで、低温時において第1シール部材12の外筒部12dが径方向内方に収縮するのを抑制することができる。
【0030】
第2シール部材14は、第1シール部材12とシールボックス2の円周面2dとの間に介在する環状の部材である。第2シール部材14は、第1シール部材12よりも低温時の収縮率が小さく、且つ第1シール部材12と馴染みやすい材料からなる。このような材料としては、例えば、膨張黒鉛、膨張黒鉛を用いたヤーン(編み糸)である膨張黒鉛ヤーン、又は膨張黒鉛パッキン(例えば、複数本の膨張黒鉛ヤーンを編組して構成されたグランドパッキン)等が挙げられる。本実施形態の第2シール部材14は、膨張黒鉛からなる。
【0031】
第2シール部材14は、断面矩形状に形成されている。第2シール部材14の径方向の厚みは、第1シール部材12の径方向の厚みよりも大きい。締付機構3が第2シール部材14を軸方向に圧縮する前の状態(図2参照)において、第2シール部材14の軸方向の幅は、第1シール部材12の軸方向の幅よりも大きい。
【0032】
図1に示すように、締付機構3が第2シール部材14を軸方向に圧縮すると、第2シール部材14の外周面14bは、シールボックス2の円周面2dに密着する。これにより、第2シール部材14は、環状空間Sの径方向外側(シールボックス2側)から、被密封流体が外部へ漏れるのを抑制する。また、低温時における第2シール部材14の収縮率が小さいので、第2シール部材14は、低温時に径方向に収縮しても円周面2dとのシール性能を維持することができる。
【0033】
また、締付機構3が第2シール部材14を軸方向に圧縮すると、第2シール部材14の内周面14aは、第1シール部材12における外筒部12dの外周面12d1に馴染んで密着する。これにより、第2シール部材14は、環状空間Sにおける第1シール部材12と第2シール部材14との間から、被密封流体が外部へ漏れるのも抑制する。
【0034】
さらに、第2シール部材14は、締付機構3により軸方向に圧縮されることで、径方向両側に延びようとする。このため、低温時において第1シール部材12の外周面12d1が径方向内方に収縮しても、その収縮に追従して、第2シール部材14は、第1シール部材12の外周面12d1に密着しながら径方向内方へ延びる。したがって、低温時において第1シール部材12が収縮しても、第1シール部材12と第2シール部材14との間のシール性能を維持することができる。
【0035】
<スペーサ>
図1及び図2において、スペーサ18は、金属製の環状の板部材からなる。スペーサ18は、図2に示す状態において、各シールユニット11における第2シール部材14の軸方向他方側に隣接して配置されている。これにより、軸方向に隣り合うシールユニット11の第2シール部材14同士の間には、スペーサ18が介在している。また、最も軸方向他方側に配置された第2シール部材14と押圧部材4(円筒部4a)との間にもスペーサ18が介在している。
【0036】
スペーサ18の外径は、第2シール部材14の外径と略同一である。スペーサ18の内径は、第2シール部材14の内径以下、且つ回転軸50の外径以上である。本実施形態のスペーサ18の内径は、第1シール部材12の内径と略同一である。
【0037】
図2に示す状態から、締付機構3のナット6が締め込まれ、押圧部材4が軸方向一方側へ移動すると、各スペーサ18は、自身の軸方向一方側に隣接する第2シール部材14の軸方向他方側の側面14c全体を、軸方向一方側へ押圧する。そして、図1に示すようにナット6の締め込みが完了した状態で、各スペーサ18の径方向内側部は、第1シール部材12における円環部12bの軸方向他方側の側面12b1に当接する。
【0038】
<作用効果>
本実施形態のシール構造10によれば、回転軸50の外周面50aの径方向外側に合成樹脂製の第1シール部材12が設けられるので、第1シール部材12における回転軸50の外周面50aとの摺動面(内周面12c1)は摩耗しにくい。これにより、流体機器の被密封流体へのコンタミネーションを抑制することができる。
また、収縮抑制部13が、低温時における第1シール部材12の径方向の収縮を抑制するとともに、第1シール部材12の外周面12d1とシールボックス2の円周面2dとの間には、第1シール部材12よりも低温時の収縮率が小さい第2シール部材14が介在する。このため、シール構造10が低温環境下(特に極低温環境下)で使用されても、第1シール部材12及び第2シール部材14が径方向に収縮するのを抑制できる。さらに、第2シール部材14は、第1シール部材12と馴染みやすい材料からなるので、第2シール部材14の内周面14aを第1シール部材12の外周面12d1に密着させることができる。これにより、低温環境下におけるシール構造10のシール性も向上することができる。
【0039】
また、収縮抑制部13は、第1シール部材12の環状溝12a内に嵌め込まれる金属製のOリング131により構成されている。これにより、シール構造10を軸方向にコンパクトに構成することができるので、回転軸50の外周面50aとシールボックス2の円周面2dとの間が軸方向に狭い場合でもシール構造10を設けることができる。
【0040】
また、第2シール部材14は、膨張黒鉛からなるので、低温時の収縮率を効果的に小さくすることでき、且つ合成樹脂製の第1シール部材12との馴染み性も優れたものとなる。これにより、コンタミネーションを効果的に抑制しつつ、低温環境下でのシール性能を効果的に向上することができる。
【0041】
また、軸方向に隣り合うシールユニット11の第2シール部材14同士の間にはスペーサ18が介在している。これにより、複数のシールユニット11を軸方向他方側から押圧し、各シールユニット11の第2シール部材14を、第1シール部材12の外周面12d1とシールボックス2の円周面2dとに密着させる際に、各第2シール部材14は、自身に隣接するスペーサ18によって軸方向に圧縮される。その結果、複数のシールユニット11の第2シール部材14を軸方向へ均等に圧縮することができる。
【0042】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係るシール構造10を備えた軸封装置1を示す断面図である。図4において、本実施形態のシール構造10は、単一のシールユニット11だけで構成されている。このシールユニット11の第2シール部材14は、締付機構3における押圧部材4の円筒部4aにより直接押圧されている。本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
本実施形態のシール構造10においても、回転軸50の外周面50aの径方向外側に合成樹脂製の第1シール部材12が設けられるので、第1シール部材12における回転軸50の外周面50aとの摺動面(内周面12c1)は摩耗しにくい。これにより、流体機器の被密封流体へのコンタミネーションを抑制することができる。また、シール構造10が低温環境下(特に極低温環境下)で使用されても、第1シール部材12及び第2シール部材14が径方向に収縮するのを抑制できる。さらに、第2シール部材14の内周面14aを第1シール部材12の外周面12d1に密着させることができる。これにより、低温環境下におけるシール構造10のシール性も向上することができる。また、シール構造10は、単一のシールユニット11だけで構成されているので、シール構造10を軸方向にさらにコンパクトに構成することができる。
【0044】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係るシール構造10を備えた軸封装置1を示す断面図である。本実施形態のシール構造10は、第2実施形態の変形例である。図5において、本実施形態のシール構造10では、第1シール部材12と第2シール部材14の各形状、及び収縮抑制部13の構成が、第2実施形態と相違している。
【0045】
本実施形態の第1シール部材12は、Vリングからなり、第2実施形態と同様に、環状溝12a、円環部12b、内筒部12c、及び外筒部12dを有している。環状溝12aは、断面V字形状に形成されている。円環部12bの軸方向他方側の側面12b1は、その径方向の中央部が軸方向他方側に突出するように形成されている。第2シール部材14は、第2実施形態よりも軸方向に長く形成され、シールボックス2の段差面2cと押圧部材4の端面4a1との間に配置されている。
【0046】
収縮抑制部13は、第1アダプタリング133、第2アダプタリング134、及び弾性部材135によって構成されている。第1アダプタリング133及び第2アダプタリング134は、金属製の環状の部材からなる。第1アダプタリング133及び第2アダプタリング134は、第2シール部材14よりも径方向内側において、第1シール部材12の軸方向一方側及び軸方向他方側にそれぞれ隣接して配置されている。
【0047】
第1アダプタリング133は、軸方向他方側に突出する環状の係合部133aを有している。係合部133aは、第1シール部材12の環状溝12aに係合している。係合部133aは、環状溝12aに対して軸方向他方側に移動することで、第1シール部材12の内筒部12c及び外筒部12dをそれぞれ径方向内方及び径方向外方に押し広げるように形成されている。第1アダプタリング133の軸方向一方側の側面133bは、径方向全体にわたって平坦に形成されている。
【0048】
第2アダプタリング134の軸方向一方側には、軸方向他方側に窪む環状の係合溝134aが形成されている。係合溝134aは、その径方向の中央部が軸方向他方側に窪むように形成されている。係合溝134aには、第1シール部材12の側面12b1が係合している。第2アダプタリング134の軸方向他方側の側面134bは、径方向全体にわたって平坦に形成されている。第2アダプタリング134の側面134bには、押圧部材4(円筒部4a)の端面4a1が当接している。
【0049】
弾性部材135は、例えば圧縮コイルスプリングからなる。弾性部材135は、第2シール部材14よりも径方向内側、且つ第1アダプタリング133よりも軸方向一方側に配置されている。弾性部材135の軸方向一端は、シールボックス2の段差面2cに当接している。弾性部材135の軸方向他端は、第1アダプタリング133の側面133bに当接している。これにより、弾性部材135は、その付勢力によって、シールボックス2の段差面2cに対して第1アダプタリング133を軸方向他方側に押圧している。なお、弾性部材135は、圧縮コイルスプリングに限定されず、例えば皿バネ等であってもよい。
【0050】
以上の構成により、第1アダプタリング133は、弾性部材135によって軸方向他方側へ押圧され、第2アダプタリング134は、締付機構3(押圧部材4)により軸方向一方側へ押圧される。これにより、第1アダプタリング133の係合部133aによって、第1シール部材12の内筒部12c及び外筒部12dは、それぞれ径方向内方及び径方向外方に押し広げられた状態で保持される。また、内筒部12c及び外筒部12dは、軸方向一方側から環状溝12a内に流入する被密封流体の圧力によっても、それぞれ径方向内方及び径方向外方に押圧される。
【0051】
内筒部12cを径方向内方に押圧されることで、第1シール部材12の内周面12c1が回転軸50の外周面50aに密着するので、第1シール部材12は、環状空間Sの径方向内側(回転軸50側)から、被密封流体が外部へ漏れるのを抑制することができる。また、外筒部12dが径方向外方に押圧されることで、低温時において第1シール部材12の外筒部12dが径方向内方に収縮するのを抑制することができる。
【0052】
本実施形態の他の構成は、第2実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。なお、第3実施形態のシールユニット11は、第1アダプタリング133と第2アダプタリング134との間に、複数の第1シール部材12を有していてもよい。
【0053】
本実施形態のシール構造10においても、回転軸50の外周面50aの径方向外側に合成樹脂製の第1シール部材12が設けられるので、第1シール部材12における回転軸50の外周面50aとの摺動面(内周面12c1)は摩耗しにくい。これにより、流体機器の被密封流体へのコンタミネーションを抑制することができる。また、シール構造10が低温環境下(特に極低温環境下)で使用されても、第1シール部材12及び第2シール部材14が径方向に収縮するのを抑制できる。さらに、第2シール部材14の内周面14aを第1シール部材12の外周面12d1に密着させることができる。これにより、低温環境下におけるシール構造10のシール性も向上することができる。
【0054】
[その他]
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
2d 円周面(外側被シール面)
10 シール構造
11 シールユニット
12 第1シール部材
12a 環状溝
13 収縮抑制部
14 第2シール部材
18 スペーサ
50a 外周面(内側被シール面)
131 Oリング
図1
図2
図3
図4
図5