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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126428
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】生細胞選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240912BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/02
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034799
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】明松 江梨
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AC14
4B065BD15
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は、培地に異物を入れることなく、大量の細胞培養液から生細胞を高速で選別する方法に関するものである。
【解決手段】生細胞と、死細胞と、培地と、を含む細胞培養液から、培地中における生細胞と死細胞との沈降速度の差を利用して、生細胞を選別する生細胞選別方法であって、
培地中における生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定し、前記沈降速度に基づいて、生細胞と死細胞とを遠心分離するために必要な遠心条件を決定する工程Aと、前記遠心条件に基づいて、前記細胞培養液を遠心分離して、前記生細胞を選別する工程Bと、を含む生細胞選別方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞と、死細胞と、培地と、を含む細胞培養液から、前記培地中における前記生細胞と前記死細胞との沈降速度の差を利用して、前記生細胞を選別する生細胞選別方法であって、
前記培地中における前記生細胞及び前記死細胞のそれぞれの沈降速度を決定し、前記沈降速度に基づいて、前記生細胞と前記死細胞とを遠心分離するために必要な遠心条件を決定する工程Aと、前記遠心条件に基づいて、前記細胞培養液を遠心分離して、前記生細胞を選別する工程Bと、を含み、
前記工程Aが下記の工程A1~工程A6を含み、前記工程Bが下記の工程B1~工程B3を含むことを特徴とする生細胞選別方法。
[工程A]
工程A1:細胞培養液の一部を、培地を収容した容器の上部に供給する工程
工程A2:細胞を培地中に沈降させる工程
工程A3:前記容器の下部から、前記細胞培養液を、前記容器内の液面が一定の高さずつ低下するように複数回採取する工程
工程A4:前記工程A3で採取された細胞培養液中の生細胞及び死細胞のそれぞれの数を計数する工程
工程A5:前記工程A4における計数結果から、生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定する工程
工程A6:前記工程A5で得られた生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度に基づいて、細胞培養液から生細胞を遠心分離によって分離するための遠心分離条件を決定する工程
[工程B]
工程B1:前記工程Aで使用しなかった残部の細胞培養液を、培地を収容した遠沈管の上部に供給する工程
工程B2:前記工程A6で得られた前記遠心分離条件で、前記遠沈管を遠心分離機にかける工程
工程B3:前記遠沈管中で遠心分離された前記生細胞を分離回収する工程
【請求項2】
前記工程A4が、生細胞の数、及び、死細胞の数を計数するために、トリパンブルー染色法又は蛍光染色法で生死細胞を検出する工程を含む、請求項1に記載の生細胞選別方法。
【請求項3】
前記工程A1における前記容器は、筒状で、上部にコック又はスライドバルブを有し、下部にコックを有する、請求項1に記載の生細胞選別方法。
【請求項4】
前記工程Aを実施する際の温度及び二酸化炭素分圧の条件が、細胞培養を行う際の温度及び二酸化炭素分圧の条件と同等である環境下で実施する、請求項1に記載の生細胞選別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養液から生細胞を選別する生細胞選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬品の製造やアッセイ等のバイオ実験で動物細胞(CHO細胞等)が使用されている。
動物細胞は、培地中を浮遊しながら増殖する浮遊細胞と、培養ディッシュ(シャーレ)等の接着材に接着して増殖する接着細胞と、に分類される。また、接着細胞においても、培地を攪拌しながら培養して接着材への接着を阻止することで、浮遊細胞のように、培地中を浮遊させながら培養することができる。
【0003】
ところで、動物細胞を培養する過程で、細胞は増殖し、死滅する。そのため、培養を継続していくと、培地中には、生細胞と死細胞とが混在するようになる。抗体製造や各種実験においては、死細胞は培地中で夾雑物・不純物となるため、除去することが望ましい。
【0004】
特許文献1には、流体中の複数の成分を分離するための装置であって、複数の層流を形成し、最上層の第1の流れ中に複数の成分を含む被処理液を注入し、ホログラフィック光トラップシステムを利用して第1の流れ中の各成分を選択的に沈降させ、被処理液中の各成分を各層流ごとに選別する方法が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、死細胞を含む培地にマイクロビーズおよび結合バッファーを添加して、死細胞を磁気標識し、培地をマグネットセパレータに装着したカラムに通して死細胞を吸着除去し、スロースルーに生細胞画分を集める方法が記載されている。
非特許文献2には、生死細胞の物理特性に基づき、磁力により細胞の浮揚をコントロールして生細胞と死細胞とを分離する方法が記載されている。
【0006】
このほかにも、遠心分離により上澄みを除去することで死細胞を除去する方法はある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5789178号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ミルテニーバイオテク株式会社、「Single Cell 解析のためのサンプル調製」、[2022年11月22日検索]、インターネット URL:https://www.miltenyibiotec.com/_Resources/Persistent/5bf05e6a60af659b7e706ebdefdb639d5eee4b50/JP_Sample_prep_for_Single_cell_analysis.pdf
【非特許文献2】バイオストリーム株式会社「独自の磁気浮揚技術によるラベルフリーでの生死細胞分離」、[2022年11月22日検索]、インターネット URL:https://www.biostream.co.jp/manufacturer/index/9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法は、血液成分を分離する方法に限定しており、細胞の分離に適用できない。
非特許文献1に記載の方法は、培地に薬剤という異物を添加する必要があり、細胞培養によって産生された抗体を抗体医薬品として体内に導入するためには、最終的にこの培地から異物を除する処理を行う必要がある。また、バイオ実験においても、純粋な生細胞を獲得する方法としては、培地に異物を添加するこの方法は適用し難い。
非特許文献2に記載の方法は、薬剤の添加を必要としないが、処理量が少なく、また、分離に長時間を要するという課題がある。
遠心分離による方法は、遠心分離の条件(回転数や時間等)が個人の経験に依存するという課題がある。
【0010】
本発明は、培地に異物を入れることなく、大量の細胞培養液から生細胞を高速で選別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
生細胞と、死細胞と、培地と、を含む細胞培養液から、前記培地中における前記生細胞と前記死細胞との沈降速度の差を利用して、前記生細胞を選別する生細胞選別方法であって、
前記培地中における前記生細胞及び前記死細胞のそれぞれの沈降速度を決定し、前記沈降速度に基づいて、前記生細胞と前記死細胞とを遠心分離するために必要な遠心条件を決定する工程Aと、前記遠心条件に基づいて、前記細胞培養液を遠心分離して、前記生細胞を選別する工程Bと、を含み、
前記工程Aが下記の工程A1~工程A6を含み、前記工程Bが下記の工程B1~工程B3を含むことを特徴とする生細胞選別方法。
[工程A]
工程A1:細胞培養液の一部を、培地を収容した容器の上部に供給する工程
工程A2:細胞を培地中に沈降させる工程
工程A3:前記容器の下部から、前記細胞培養液を、前記容器内の液面が一定の高さずつ低下するように複数回採取する工程
工程A4:前記工程A3で採取された細胞培養液中の生細胞及び死細胞のそれぞれの数を計数する工程
工程A5:前記工程A4における計数結果から、生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定する工程
工程A6:前記工程A5で得られた生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度に基づいて、細胞培養液から生細胞を遠心分離によって分離するための遠心分離条件を決定する工程
[工程B]
工程B1:前記工程Aで使用しなかった残部の細胞培養液を、培地を収容した遠沈管の上部に供給する工程
工程B2:前記工程A6で得られた前記遠心分離条件で、前記遠沈管を遠心分離機にかける工程
工程B3:前記遠沈管中で遠心分離された前記生細胞を分離回収する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、培地に異物を入れることなく、大量の細胞培養液から生細胞を高速で選別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、細胞培養液を容器内の培地に添加する様子を示した模式図である。
図2図2は、細胞培養液を容器内の培地に添加する様子を示した模式図である。
図3図3は、容器内で細胞がその沈降速度に応じて分離する状態を示した模式図である。
図4図4は、沈降速度に応じて分離された各細胞のサンプリングの仕方の例を説明する図である。
図5図5は、本発明の生細胞選別方法の工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
培養細胞に用いられる代表的な動物細胞の形状は球状である。そして、培地中の細胞には、球状の生細胞、断片化された死細胞(以下、死細胞Fとする)、及び、生細胞に類似したサイズで球状の死細胞(以下、死細胞Dとする)が存在する。細胞を含む培地(以下、細胞懸濁液という)を遠心分離すると、生細胞、死細胞D、死細胞Fの順で沈降する傾向がある。
本発明の生細胞選別方法は、この生細胞、死細胞D、死細胞Fの夫々の沈降速度差を利用したものである。
【0015】
本発明の生細胞選別方法の一実施形態について以下説明する。
以下では、CHO細胞(Chinese hamster ovary cells)を、DMEM培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium)で培養した細胞培養液について本発明を実施した例に基づいて説明する。
本発明が対象とする細胞培養液は、生細胞と、死細胞Dと、断片化された死細胞Fと、培地と、を含む。
培地中における、死細胞の沈降速度Vと、生細胞の沈降速度Vと、断片化された死細胞の沈降速度Vとは次の関係式(1)を満たす。
>V>V ・・・(1)
【0016】
[工程Aについて]
工程Aは、生細胞及び死細胞の培地中におけるそれぞれの沈降速度を決定する工程である。
培地中における生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定し、前記沈降速度に基づいて、生細胞と死細胞とを遠心分離するために必要な遠心条件を決定する工程である。
本発明の生細胞選別方法を実施するに際しては、上記V、V、及び、Vのおおよその値を求めておく必要がある。
各細胞の沈降速度の決定方法について、図1~5を参照して説明する。
工程Aは以下の工程A1~工程A6を含む。
【0017】
工程Aにおいて、生細胞および死細胞の沈降速度、遠心分離条件を正確に算出するためには、工程A2及び工程A3の実施中に生細胞が死滅しないようにしなければならない。
そのため、工程A2及び工程A3を実施している間は、容器を細胞培養時と同じインキュベーター内に設置するなどして、培養時と同じ温度および二酸化炭素分圧とすることが望ましい。
【0018】
(工程A1)
工程A1は、細胞培養液の一部を、培地を収容した容器の上部に供給する工程である。
まず、図1に示すような、細胞を沈降させるための容器を用意する。
図1に示す容器1は、筒状で上部に上部コック2、下部に下部コック3を有している。
容器1の下部コック3を閉じ、容器1の上部から細胞を含まない培地4を上部コック2との境界部まで入れた後、上部コック2を閉じる。さらにその上から、細胞培養槽中の細胞培養液の一部を採取した細胞培養液5を入れる。
本実施形態では、培地8mLを収容した容器の上部に細胞培養液2mLを供給した。
容器1としては、各細胞の沈降速度の差を測定することができるものであればよく、例えば、容器1に代えて図2に示すような容器1’を用いることもできる。この容器1'は、筒状で上部にスライドバルブ2’を有し、下部に下部コック3を有している。
また、容器1の上部コック2中に形成される流路Sの直径、及び、容器1'のスライドバルブ3によって形成される開孔の直径は、それぞれ容器1の内径及び容器1'の内径と等しくすることが好ましい。
このようにすることにより、上部コック2又はスライドバルブ3を開くと、上部コック2又はスライドバルブ3の上に供給された細胞培養液の全量を一気に、かつ極力初速度を与えずに、上部コック2又はスライドバルブ3の下方の培地中に流入させることができる。
【0019】
(工程A2)
容器1の上部コック2を開けて、所定時間静置して各細胞を培地中で沈降させる。
各細胞は粒径及び比重が異なるため、その粒径及び比重に応じて培地4中における沈降速度が異なる。図3に示すように、各細胞は、生細胞、死細胞D、死細胞Fの順で沈降する。
【0020】
(工程A3)
工程A3は、容器1の下部から、細胞培養液を、容器内の液面が一定の高さずつ低下するように複数回採取する工程である。
容器1の下部コック3を開け、容器1の下部から容器1内の液を容器内の液面が一定の高さずつ低下するようにサンプルとして採取する。
図4に示した例では容器1内の液体を高さ10mmずつ採取してサンプル1~5を得た。
【0021】
(工程A4)
工程A4は、工程A3で採取された細胞培養液中の生細胞及び死細胞のそれぞれの数を計数する工程である。
計数は、例えば、トリパンブルー染色法又は蛍光染色法で生死細胞を検出する。
トリパンブルー染色法では、染色試薬としてトリパンブルーを用いる。
トリパンブルーは、死細胞では細胞膜を透過し、細胞質を青く染色するので、死細胞をトリパンブルーで染色することで生細胞と、死細胞D及び死細胞Fとを判別することができる。
また、蛍光染色法では、蛍光染色試薬として、生細胞の細胞膜を透過できず、死細胞のみ浸透して染色する試薬を用いることで生細胞と、死細胞D及び死細胞Fとを判別することができる
【0022】
死細胞が染色された各サンプルについて、顕微鏡や生死判別機器を用いて、各サンプル中の、生細胞、死細胞D、及び、死細胞Fのそれぞれの細胞数を計測する。具体的な計測手段としては、トリパンブルー染色後の顕微鏡下での計測のほか、蛍光染色後の顕微鏡下での計測またはフローサイトメーターを用いた計測ができる。
細胞数の計測例を表1に示す。
表1に示した数値は、光学顕微鏡の視野1mm×1mm当たりの細胞数である。
【0023】
生細胞数が最も多かったサンプル(「最多生細胞サンプル」という)、死細胞Dが最も多かったサンプル(「最多死細胞Dサンプル」という)、及び、死細胞Fが最も多かったサンプル(「最多死細胞Fサンプル」という)を選定する。
【0024】
【表1】
【0025】
(工程A5)
工程A5は、前記工程A4における計数結果から、生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定する工程である。
上記表1に示された結果に基づいて、次のデータを得る。
・[最多生細胞サンプル]に基づいて、生細胞の培地中における最小沈降距離を判別する。
・[最多死細胞Dサンプル]に基づいて死細胞Dの培地中における最小沈降距離を判別する。
・[最多死細胞Fサンプル]に基づいて死細胞Fの培地中における最小沈降距離を判別する。
なお、「最小沈降距離」という用語について説明する。
例えば図4において、「サンプル1」は、容器最下部のゾーンのサンプルである。
細胞がこのゾーンに到達するには、容器の上部に供給された培養液中の細胞が少なくとも40mm分の距離を沈降する必要がある。本願明細書では、「サンプル1」については、この40mm分の距離を「最小沈降距離」という。
【0026】
上記で得た結果に基づいて、生細胞、死細胞D、及び、死細胞Fのそれぞれの細胞のおおよその沈降速度を決定する。
上記の手順によって、各細胞の1000秒当たりの最小沈降距離を測定し、これに基づいて沈降速度を算出したところ、次の表2に示すような結果が得られた。
なお、容器内での細胞の沈降速度は培地の成分・濃度、温度等に影響される。表1および表1から導き出される表2に記載の数値は、容器内培地はDMEM培地、細胞はCHO細胞を用い、容器をCO濃度5%、温度37℃に制御されたインキュベーター内に入れ、一定時間の細胞沈降を経たのち、容器をインキュベーターから取り出し、一定量ずつ複数回採取して得られた実験および計算の結果である。
【0027】
【表2】
【0028】
(工程A6)
工程A6は、工程A5で得られた生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度に基づいて、細胞培養液から生細胞を遠心分離によって分離するための遠心分離条件を決定する工程である。
各細胞の沈降速度と下記式(1)のストークスの沈降速度式とから、遠心分離装置で、細胞培養液に所定の遠心加速度をかけたときに、各細胞が遠沈管の底面に到達する時間を算出し、細胞場溶液にかける重力加速度及び到達時間を設定する。
【数1】
但し、式(1)中の記号の意味は以下の通りである。
v:沈降速度[m/s]
a:粒子の直径[m]
ρ:粒子の密度[kg/m
ρ:流体の密度[kg/m
g:重力加速度[m/s
η:流体の粘度[kg/(m・s)]
p=「particle(粒子)」
f=「fluid(流体)」
【0029】
[工程B]
工程Bは上記工程Aで決定された遠心分離条件に基づいて、前記細胞培養液を遠心分離して生細胞を選別する工程である。
工程Bは以下の工程B1~工程B3を含む。
工程B1~B3を図5に基づいて説明する。
【0030】
(工程B1)
工程B1は工程Aで使用しなかった残部の細胞培養液を、培地を収容した遠沈管の上部に供給する工程である。
まず、図5Aに示すように、遠沈管10を準備する。
そして、図5Bに示すように、遠沈管10に培地4を収容し、次いで培地4を収容した遠沈管の上部に細胞培養液5を供給する。
【0031】
[工程B2]
工程B2は工程A6で得られた前記遠心分離条件で、前記遠沈管を遠心分離機にかける工程である。
遠心加速度(遠心力)及び遠心時間を調節して、図5Cに示すように、生細胞が沈殿物P1として遠沈管10の底面までに沈降し、死細胞D、Fが上澄みF1に残るように遠心分離操作を行う。
遠心分離後に、図5Dに示すように、死細胞D、Fを含む上澄みF1を遠沈管10から除去し、遠沈管10の底部に生細胞の沈殿物P1を残留させる。
具体例のサンプルでは、遠心加速度を100gとし、25秒間の遠心分離操作で多くの生細胞が沈殿する分離状態が得られた。
【0032】
[工程B3]
工程B3は、遠沈管中で遠心分離された前記生細胞を分離回収する工程である。
遠沈管10から生細胞を含む沈殿物P1を採取する。これにより、死細胞D及び死細胞Fが除去され、ほぼ生細胞で構成された細胞懸濁液を得ることができる。
【0033】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
(1)生細胞と、死細胞と、培地と、を含む細胞培養液から、前記培地中における前記生細胞と前記死細胞との沈降速度の差を利用して、前記生細胞を選別する生細胞選別方法であって、
前記培地中における前記生細胞及び前記死細胞のそれぞれの沈降速度を決定し、前記沈降速度に基づいて、前記生細胞と前記死細胞とを遠心分離するために必要な遠心条件を決定する工程Aと、前記遠心条件に基づいて、前記細胞培養液を遠心分離して、前記生細胞を選別する工程Bと、を含み、
前記工程Aが下記の工程A1~工程A6を含み、前記工程Bが下記の工程B1~工程B3を含むことを特徴とする生細胞選別方法。
[工程A]
工程A1:細胞培養液の一部を、培地を収容した容器の上部に供給する工程
工程A2:細胞を培地中に沈降させる工程
工程A3:前記容器の下部から、前記細胞培養液を、前記容器内の液面が一定の高さずつ低下するように複数回採取する工程
工程A4:前記工程A3で採取された細胞培養液中の生細胞及び死細胞のそれぞれの数を計数する工程
工程A5:前記工程A4における計数結果から、生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度を決定する工程
工程A6:前記工程A5で得られた生細胞及び死細胞のそれぞれの沈降速度に基づいて、細胞培養液から生細胞を遠心分離によって分離するための遠心分離条件を決定する工程
[工程B]
工程B1:前記工程Aで使用しなかった残部の細胞培養液を、培地を収容した遠沈管の上部に供給する工程
工程B2:前記工程A6で得られた前記遠心分離条件で、前記遠沈管を遠心分離機にかける工程
工程B3:前記遠沈管中で遠心分離された前記生細胞を分離回収する工程
(2)前記工程A4が、生細胞の数、及び、死細胞の数を計数するために、トリパンブルー染色法又は蛍光染色法で生死細胞を検出する工程を含む、上記(1)に記載の生細胞選別方法。
(3)前記工程A1における前記容器は、筒状で、上部にコック又はスライドバルブを有し、下部にコックを有する、上記(1)又は(2)に記載の生細胞選別方法。
(4)前記工程Aを実施する際の温度及び二酸化炭素分圧の条件が、細胞培養を行う際の温度及び二酸化炭素分圧の条件と同等である環境下で実施する、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の生細胞選別方法。
【符号の説明】
【0034】
1、1’ 容器
2 上部コック
2’スライドバルブ
3 下部コック
4 培地
5 細胞培養液
10 遠沈管
F1 上澄み
P1 沈殿物
S 流路
図1
図2
図3
図4
図5