IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特開2024-126436線維症改善用組成物、及びその有効成分のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126436
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】線維症改善用組成物、及びその有効成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240912BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K48/00
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P3/00
C12Q1/6851 Z
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034815
(22)【出願日】2023-03-07
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
(72)【発明者】
【氏名】熊添 基文
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA14
2G045FB02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA16
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZC21
4C086ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】肝線維症や肺線維症等の線維症を改善するために使用される組成物を提供する。
【解決手段】miRNA-12135、アデニル化miRNA-12135、及びこれらのmimicよりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAを有効成分とするコラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤、及びこれを有効成分とする線維症改善用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miRNA-12135、アデニル化miRNA-12135、及びこれらのmimicよりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNA、又は
miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現上昇剤
を有効成分とする、線維症改善用組成物。
【請求項2】
前記マイクロRNAは、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1のシグナルを阻害することを特徴とする、請求項1に記載する線維症改善用組成物。
【請求項3】
線維症改善用組成物の有効成分の候補物質をスクリーニングする方法であって、
被験物質の中から、miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現を上昇させる作用を有する物質を選抜する工程を有する、
前記スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症改善用組成物に関する。より詳細に、本発明は、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害作用を有し、肝線維症や肺線維症等の線維症を改善するために使用される組成物に関する。また本発明は、線維症改善用組成物の有効成分となりえる候補物質を選択するスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線維化とは、コラーゲンなどの細胞外基質が組織に過剰に蓄積する症状であり、肝臓、肺、心臓、腎臓及び腸等の各種組織において深刻な問題になっている疾患の一つである(例えば、非特許文献1等参照)。
【0003】
例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(以下、これを「NASH」と称する)や非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、これを「NAFLD」と称する)において、肝臓組織が障害されると、通常は障害部位が一時的にコラーゲン等に置き換えられたのち修復されるのに対して、慢性的な炎症時においては、活性化した肝星細胞が障害部位にコラーゲンを過剰に産生するようになり、線維化へと進行する。
【0004】
また、突発性肺線維症は、細胞の壁(間質)にコラーゲン等の線維が沈降することによって肺の柔軟性が損なわれ、呼吸不全に陥る疾患である。この疾患には特効薬が存在せず、肺組織の線維化が徐々に進行し、自覚症状が出てからの生存期間は平均で3~5年程度といわれている難病である。
【0005】
こうした組織の線維化現象において、過剰なコラーゲン産生を促す機構としてTGFβ(Transforming growth factor beta)経路が知られている。しかし、TGFβ自体は線維化のみならず、様々な生体維持機構に関与するため、これを標的として線維化抑制を図ることは困難である。
【0006】
このため、線維化に対する安全且つ有効な標的分子の探索、及び線維症改善に有効な治療薬や飲食物の開発が強く求められている。
こうした標的分子として、インテグリンα11が知られている(非特許文献2)。インテグリンα11は、インテグリンβ1とダイマーを形成し、コラーゲン受容体として機能する細胞接着分子の一つである。インテグリンα11を欠失したノックアウトマウスは大きな異常を示さないことから(非特許文献3)、インテグリンα11は、組織の線維化に関連する疾患(例えば、線維症等)を治療するうえで安全な標的分子であると考えられており、インテグリンα11を標的とした医薬の開発が試みられている(非特許文献4)。例えば、非特許文献4では、siRNAを用いてインテグリンα11の発現を抑制することにより、肝硬変への移行を防ぐことができたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】黒瀬ら、総説「心臓の線維芽細胞と線維化」、Journal of Japanese Biochemical Society 94(1): 49-66 (2022)(https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2022.9400049/data/index.html)
【非特許文献2】Sergio Carracedo et al., J Biol Chem., 285(14) : 10434-10445, 2010.
【非特許文献3】Mol. Cell. Bio., 4306-4316 (2007)
【非特許文献4】Ruchi Bansal et al., Exp Mol Med., 49(11): e396, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、線維症の改善に適用することが可能な、新規なコラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤を提供することを課題とする。とりわけ本発明は、線維症を改善するために有効に使用される組成物を提供することを課題とする。また本発明は、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤又は線維症改善用組成物の有効成分としても有用な候補物質を有効に選抜し、提供することができるスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、特定のマイクロRNA又は当該マイクロRNAの発現を上昇させる物質を用いることで、コラーゲン受容体であるITGA11/ITGB1受容体を介したシグナルを阻害することにより、安全且つ有効に組織の線維化現象を抑制することができることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて、更に種々検討することで完成したものであり、下記の実施態様を有するものである。
【0010】
(I)線維症改善用組成物
(I-1)miRNA-12135、アデニル化miRNA-12135、及びこれらのmimicよりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNA、
又はmiRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現上昇剤を有効成分とする、線維症改善用組成物。
ここでマイクロRNAの発現上昇剤には、エクオールは含まれないことが好ましい。
(I-2)前記マイクロRNAは、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1のシグナルを阻害することを特徴とする、(I-1)に記載する線維症改善用組成物。
【0011】
(II)スクリーニング方法
(II-1)線維症改善用組成物の有効成分の候補物質をスクリーニングする方法であって、
被験物質の中から、miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現を上昇させる作用を有する物質を選抜する工程を有する、
前記スクリーニング方法。
(II-2)miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAを発現する細胞を、被験物質の存在下又は非存在下において培養し、被験物質の存在下における前記マイクロRNAの発現の発現が、被験物質の非存在下における当該発現と比較して高い場合の被験物質を選択する工程を有する、(II-1)に記載するスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、線維症の改善に有用な線維症改善用組成物、例えば医薬品、医薬部外品、又は飲食物を提供することができる。
また本発明によれば、線維症改善用組成物の有効成分となりえる候補物質を選抜するために有効なスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験例1(2)にて、ヒト肝星細胞においてエクオールがTGFβ誘導性線維化関連遺伝子(ACTA2、COL1A1遺伝子)の発現に与える影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(Actb)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E.、n =(左から)34,48及び28、** P < 0.01)。
図2】実験例1(3)にて、ヒト肝星細胞においてエクオールがTGFβ誘導性線維化関連タンパク質(αSMA、CL1A1)の発現に与える影響を評価した結果を示す。図2A及びBは、それぞれαSMA及びCL1A1の発現量を評価した結果である(Data are means ± S.E., (A) n = 34, 48, 28 (B) n = 50, 54, 31 ** P < 0.01)。
図3】実験例2にて、ヒト肝星細胞においてエクオールがTGFβ誘導性SMAD2/3のリン酸化に与える影響を評価した結果を示す。
図4】実験例3にて、エクオールがヒト肝星細胞におけるITGA11の遺伝子発現量に与える影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(ACTB)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P< 0.05)。
図5】実験例4にて、エクオールがアデニル化miRNA-12135の発現量に与える影響を評価した結果を示す。図5Aは、エクオール添加によるmiRNA-12135(Non-adenylated、Adenylated)の発現量の変化を示した図、図5Bは、エクオール添加によるmiRNA-12135の発現量の上昇を示した図である。結果は、内部標準(U6)に対する相対比で示す。
図6】実験例5(2)において、HeLa細胞へのmiRNA-12135 mimic導入がITGA11遺伝子発現量に与える影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(GAPDH遺伝子)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, **P < 0.01)。
図7】実験例5(3)において、HeLa細胞にmiRNA-12135 mimicを導入することで、ITGA11 の3’UTRを組み込んだルシフェラーゼベクターによる化学発光が抑制されることを示した図(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05)。
図8】実験例6において、ヒト肝星細胞にmiR-12135 mimicを導入することによるITGA11のmRNA レベルの発現量(図8A)及びタンパク質レベルの発現量(図8B)を評価した結果を示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05, **P < 0.01)。mRNA レベルの発現量は内部標準として使用したACTBとの相対比、タンパク質レベルの発現量はβ-actinとの相対比で示す。
図9】実験例7にて、ヒト肝星細胞にmiR-12135 mimicを導入することにより、TGFβ処理によって誘導されるITGA11遺伝子の発現量が低下することを示す。横軸の数字はヒト肝星細胞に添加したmiR-12135 mimicの濃度(nM)を示す。結果は、内部標準(ACTB)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05, **P< 0.01)。
図10】実験例8(1)にて、ヒト肝星細胞へのmiR-12135 mimic導入によるSMAD2の遺伝子発現量に与える影響の評価した結果を示す。結果は、内部標準(ACTB)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05)。
図11】実験例8(2)にて、ヒト肝星細胞のTGFβ処理によるTGA11下流機構(JNK及びsmad2のリン酸化)に対する、miR-12135 mimic導入による影響を評価した結果を示す。図11Aはリン酸化JNKの発現量を、図11Bはリン酸化smad2の発現量を示す。結果は、内部標準(GAPDH)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05)。
図12】実験例8(3)にて、NASH誘導マウスを用いて、miR-12135 mimic導入によるITGA11下流機構(JNK及びsmad2のリン酸化)への影響を評価した結果を示す。図12Aはリン酸化JNKの発現量を、図12Bはリン酸化smad2の発現量を示す。結果は、内部標準(GAPDH)に対する相対比で示す(n = 4, ** P< 0.01)。各図において「nc mimic」は、NASH誘導マウスのうち、miR-12135 mimic導入しなかったネガティブコントロール群を意味する。
図13】実験例9にて、ヒト肝星細胞のTGFβ処理によるTGFβ誘導性線維化関連遺伝子(COL1A1遺伝子、フィブロネクチン遺伝子)の発現量に対する、miR-12135 mimic導入による影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(ACTB)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05, **P< 0.01)。
図14】実験例10(1)にて、ヒト肝星細胞のTGFβ処理によるTGFβ誘導性線維化関連タンパク質(COL1A1)の発現量に対する、miR-12135 mimic導入による影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(GAPDH)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05)。
図15】実験例10(2)にて、ヒト肝星細胞のTGFβ処理によるTGFβ誘導性線維化関連タンパク質(A:αSMA、B:COL1A1)の発現量に対する、miR-12135 mimic導入による影響を、免疫蛍光染色法により評価した結果を示す(Data are means ± S.E., (A) n = 27, 59, 32 (B) n = 32, 73, 42, **P < 0.01)。
図16】実験例11にて、マウス線維芽細胞株3T3-L1へのmiR-12135 mimic導入によるITGA11発現量に与える影響を評価した結果を示す。結果は、内部標準(GAPDH)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 4, *P < 0.05)。図中「nc mimic」は、miR-12135 mimic導入しなかった線維芽細胞株(ネガティブコントロール)を意味する。
図17】実験例12において、ITGA11のノックダウンがコラーゲン(COL1A1)遺伝子の発現に与える影響を評価した結果を示す。図中「siITGA11」は、ITGA11 siRNAを意味する。結果は、内部標準(ACTB)に対する相対比で示す(Data are means ± S.E., n = 3, *P < 0.05)。
図18】実験例13の結果を示す。図18Aは、CDAHFD給餌で線維化を誘導したマウス肝臓組織においてITGA11及びαSMA(活性化肝星細胞マーカー)の発現量が増加していることを示す。図18Bは、肝硬変を発症したヒト肝臓組織(線維化組織)においてITGA11及びαSMAの発現量が増加していること、図18Cは、当該線維化組織におけるITGA11の発現量とαSMA の発現量とは正の相関性があることを示す。
図19】実験例14にて、miR-12135 mimic及びアデニル化miR-12135 mimicがNASH誘導マウスの体重ならびに肝臓重量に与える影響を評価した結果を示す。図19AはマウスのNASH誘導及び各miR-mimic投与タイミング、図19BはNASH誘導マウスの体重変化、図19CはNASH誘導マウスの「肝臓重量/体重」比を、それぞれ示す(Data are means ± S.E., n = 5, ** P < 0.01)。
図20】実験例15において、miR-12135 mimic及びアデニル化miR-12135 mimicがNASH誘導マウス肝臓におけるITGA11及びαSMAの発現に与える影響を評価した結果を示す。図20Aは蛍光免疫染色像を、図20Bは、蛍光免疫染色像からITGA11とαSMAの両方を発現している両陽性細胞数(ITGA11/αSMA cells)を示す(Data are means ± S.E., n= 5, ** P < 0.01)。
図21】実験例16(1)において、miR-12135 mimic及びアデニル化miR-12135 mimicがNASH誘導マウスの肝線維化に与える影響を評価した結果を示す。図21Aは肝臓組織のマッソントリクローム染色像を、図21Bは肝臓組織の線維化面積を示す(Data are means ± S.E., n= 5, ** P < 0.01)。
図22】実験例16(2)において、miR-12135 mimic及びアデニル化miR-12135 mimicがNASH誘導マウスの肝臓のヒドロキシプロリン量に与える影響を評価した結果を示す(Data are means ± S.E., n = 5, * P < 0.05,** P< 0.01)。
図23】実験例17において、miR-12135 mimic投与が肺線維化誘導マウスの肺重量及び肺線維化に与える影響を評価した結果を示す。図23Aは肺重量の測定結果(Data are means ± S.E., n= 5, 4, 4, * P < 0.05)を、図23Bは肺線維化の指標であるヒドロキシプロリン量の測定結果 (Data are means ± S.E., n = 5, 4, 4, * P< 0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.線維症改善用組成物
本発明において「コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1」は、細胞と細胞、又は細胞と細胞外マトリックス間の相互作用を担う膜貫通型糖タンパクであるIntegrin alpha-11(本発明では、これを「ITGA11」と称する)とIntegrin beta-1(本発明では、これを「ITGB1」と称する)によって形成された二量体であり、コラーゲン受容体として機能するタンパク質分子である。以下、本明細書では単に「コラーゲン受容体」とも称する場合がある。
【0015】
本発明において「コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル」は、前記コラーゲン受容体から細胞内に伝達されるシグナルであり、その伝達には、JNK(c-Jun-NH2-terminal kinase)、及びSMAD2の2つの伝達因子が関与することが知られている。コラーゲンが細胞膜上のコラーゲン受容体ITGA11/ITGB1に結合し当該受容体が活性化されると、細胞内のJNK及びSMAD2が順次リン酸化され、これにより標的遺伝子の発現制御が行われる。
【0016】
なお、これら2つの伝達因子のうちSMAD2は、TGFβシグナル伝達の主要なメディエーターの一つでもある。TGFβシグナルの活性化は、TGFβが細胞膜上のII型受容体に結合し、II型受容体2分子とI型受容体2分子からなる4量体が形成されることで開始される。次に、活性化されたI型受容体により細胞質内のSMAD2 及び SMAD3(SMAD2/3)がリン酸化され、この活性化されたSMAD2/SMAD3はさらにSMAD4と複合体を形成した後に核内へ移行し、転写因子もしくは転写共役因子と複合体を形成することで標的遺伝子の発現制御を行う。TGFβは細胞の様々な機能を調節する多機能性サイトカインであり、細胞の増殖・分化やアポトーシス、免疫、細胞外マトリックス生産等の制御を行っている。そのため、ひとたびTGF-βシグナル伝達系に異常が生じると、ガンや繊維症といった重篤な疾病へとつながることが知られている。
【0017】
コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤は、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル伝達に関与する前記2つの伝達因子の機能をいずれも阻害する物質である。本発明の線維症改善用組成物は、当該コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤を有効成分とする。 ここで阻害は、結果として前記2つの伝達因子のシグナル伝達機能が阻害されるものであればよく、これには例えばJNK及びSMAD2のリン酸化を阻害することが含まれる。ここで「阻害」は、JNK及びSMAD2の遺伝子発現及び/又はタンパク質発現を阻害する等、JNK及びSMAD2を直接の標的対象としてそれらのシグナル伝達機能を阻害する態様(直接阻害態様)が含まれる。また、JNK及びSMAD2を直接の標的対象とすることなく、JNK及びSMAD2へのシグナル伝達を間接的に阻止することで、結果としてJNK及びSMAD2のリン酸化を阻害する態様(間接阻害態様)が含まれる。好ましくは、後者の間接阻害態様であり、当該態様には、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1の機能発現を阻害する態様が含まれる。
【0018】
コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1の機能発現を阻害する態様には、当該コラーゲン受容体を構成するITGA11及びITGB1のいずれか少なくとも一方のタンパク質の受容体としての機能を阻害する態様も含まれる。また、ITGA11及びITGB1のいずれか少なくとも一方のタンパク質の発現又はその遺伝子の発現を阻害する態様も含まれる。なお、タンパク質発現の阻害は、結果として所望のタンパク質合成が阻害される態様であればよく、例えばmRNAへの転写を阻害する態様、及びタンパク質への翻訳を阻害する態様が含まれる。
【0019】
コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤として好ましくは、ITGA11/ITGB1二量体のうちITGA11の機能発現を阻害することで、前記のシグナル伝達を阻害する作用を発揮するものである。こうした作用を有する物質を、本発明では「ITGA11阻害剤」と総称する。ITGA11ノックアウトマウスは大きな異常を示さないことが知られているため(非特許文献3参照)、ITGA11を標的とした阻害剤は、安全性が高いと考えられる。
ITGA11の機能発現を阻害する態様には、ITGA11の受容体としての機能を阻害する態様、及びITGA11の発現を阻害する態様が含まれる。ここで、ITGA11の発現阻害の意味には、結果としてITGA11のタンパク質生成が損なわれるものであればよく、タンパク質の発現阻害、及び/又は遺伝子の発現阻害の両方が含まれる。
【0020】
なお、本発明及び本明細書全体を通して、用語「阻害」の意味には、対象物の機能(活性を含む。以下同じ。)及び/又はその生成(タンパク質や遺伝子の発現を含む)を完全に消失させる場合だけでなく、一部消失させる場合も含まれる。つまり、用語「阻害」の意味には、対象物の機能及び/又はその生成を一部消失させる場合として、「低下」又は「抑制」の意味も含まれる。
【0021】
本発明の線維症改善用組成物の有効成分として用いられるコラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤、特にITGA11阻害剤は、ITGA11の発現、特にITGA11タンパク質の合成(転写及び/又は翻訳)を阻害する作用を有するマイクロRNA(miRNA)といった核酸分子を有効成分として含むものであることができる。また、コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤、特にITGA11阻害剤は、前記マイクロRNAの発現を上昇させる作用を有する物質を有効成分として含むものであってもよい。ここでいう「発現の上昇」の意味には、前記マイクロRNAの発現を誘導することで、当該マイクロRNAの発現量を増加させる場合も含まれる。かかる作用を有する物質を、本明細書では「マイクロRNAの発現上昇剤」と総称する。
【0022】
ITGA11のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列、並びに遺伝子は公知である。例えば、ヒト(Homo sapiens[Human])のITGA11のアミノ酸配列(アミノ酸数1188)及びそれをコードする塩基配列、並びにその遺伝子情報は、例えば、AlphaFold Protein Structure Database(https://alphafold.ebi.ac.uk/entry/Q9UKX5)等において公表されている(UniProt:Q9UKX5)。
【0023】
<マイクロRNA:miRNA>
コラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤、特にITGA11阻害剤として、前述の通り、ITGA11遺伝子の発現を抑制することができるマイクロRNA(miRNA)を、好適な例として挙げることができる。
本発明で用いるmiRNAは、その標的遺伝子のRNA(ITGA11のmRNA)に対して不完全な相同性をもって結合し、一般に標的遺伝子の3’UTRを認識して、標的mRNAを不安定化するとともに翻訳抑制を行うことで、ITGA11タンパク質産生を抑制する機能を有する。
【0024】
一般的なmiRNAは、連続したプロセスを経て生合成される。miRNAをコードする遺伝子の一次転写産物はPrimary miRNA転写物(pri-miRNA)と呼ばれ、一般的に、ステムループのヘアピン構造を有する。pri-miRNAは、マイクロプロセッサ複合体を構成するRNase III系酵素であるDroshaにより切断され、70塩基程度のヘアピン形態の中間前駆体であるprecursor miRNA(pre-miRNA)が産生される。その後、pre-miRNAは核より細胞質へと移送される。細胞質では、別のRNase III酵素であるDicerによりさらに切断され、mature miRNA(成熟miRNA)が産生される。一般的に、2本鎖のうち、前駆体の5’末端側から発現するものに“-5p”、3’末端側から発現するものに“-3p”を付加し、例えば“hsa-miR-21-5p”、又は“hsa-miR-21-3p”のように表記される。成熟miRNA分子は1以上のメッセンジャーRNA(mRNA)と部分的に相補的であり、その主機能は遺伝子発現の下方制御である。なお、公知のmiRNAは、原則としてmiRBase(http://www.mirbase.org/)に登録されている。
本発明において、用語「miRNA」は、好ましくは前記mature miRNA(成熟miRNA)を意味するが、これに限定されず、pri-miRNA、及びpre-miRNAを含む広い概念のRNA分子を意味する。
【0025】
miRNAは、国際命名法により、予め決定された形式の固有名が次のとおり定められている。
具体的には、成熟miRNAは「sss-miR-X-Y」の形式で命名され、ここで「sss」はmiRNA種を表す三文字コードであり、例えば、ヒトを記号化する「hsa」であり得る。miRで、大文字「R」はmiRNAが、成熟miRNAであることを示す。Xは特定の種のmiRNA配列に割り当てられる、何らかの固有番号である。いくつかの高度に相同性のmiRNAが知られるとき、該番号の後に文字が付される。例えば、「376a」および「376b」は高度に相同性のmiRNAをいう。Yは成熟miRNAがpri-miRNAをコードする遺伝子の5’アーム(この場合、Yは「-5p」)またはその3’アーム(この場合、Yは「-3p」)に対応するpre-miRNAの開裂により得られたかを示す。但し、2本鎖のうち、片方の鎖上にのみmRNAを標的化するmiRNAの存在が知られている場合、通常、末尾に前記Yである「-5p」及び「-3p」といった標記は付加しない。
【0026】
ITGA11遺伝子の発現を抑制することができる好適なmiRNAとして、miR-12135を挙げることができる。より好ましくは、ヒト由来のhsa-miR-12135である。hsa-miR-12135は、前記miRBaseにおいて、Accession ID:MIMAT0049031として登録されている成熟miRNAである。以下、「miRNA」 という用語には、miR-12135が含まれる。また「miR-12135」という用語には、hsa-miR-12135が含まれる。当該hsa-miR-12135には、配列表において「配列番号:1」で示される塩基配列からなるmiRNAが含まれる。
当該miRNA-12135は、ITGA11遺伝子の発現を抑制することができる限り、そのヌクレオチド配列において、1~数個が置換、欠失又は付加されていてもよい。かかる置換、欠失又は付加の態様からなるmiRNAも、ITGA11遺伝子の発現を抑制することができる限り、用語「miRNA-12135」の中に含まれる。miRNAは5’末端側2~8番目のヌクレオチド配列(シード領域)が標的mRNAとのハイブリッド形成・機能発現に主として寄与することが知られているため、miR-12135のヌクレオチド配列中、少なくとも5’末端側2~8番目のヌクレオチド配列は保存されていることが望ましい。置換又は欠失の態様としては、miR-12135のヌクレオチド配列と、それから1~数個のヌクレオチドが置換、欠失又は付加したヌクレオチド配列との相同性が85%以上、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である態様を挙げることができる。その他、付加の態様には、miR-12135のヌクレオチド配列の3’末端側に1~複数個(例えば、1~10個)のアデニル基が結合してなる態様が含まれる。これをポリアデニル化miRNA-12135又は単にポリアデニル化miRNAと称する。
【0027】
ITGA11の発現阻害物質として使用するmiRNAは、生体に存在するmiRNAと同一の形態の一本鎖であっても、又は二本鎖であってもよい。また、生体内で成熟miRNAを生成するように設計された核酸(pri-miRNA、pre-miRNA)を用いることもできる。
【0028】
ITGA11の発現阻害物質として使用するmiRNAは、生体に存在するmiRNAの模倣物(mimic)であることができる。miRNA mimicは、化学修飾を施した二本鎖RNAであり、生体内に存在する内在性の成熟miRNAを模倣し、結果として標的mRNAの翻訳を人為的に抑制することができる。miRNA mimicには、天然RNAからなるガイド鎖と、化学修飾をしたパッセンジャー鎖で構成されるものが含まれる。ガイド鎖は強いRNA活性を示すものの、パッセンジャー鎖はRNA活性を示さない。なお、ガイド鎖は、天然RNAと同様に強いRNA活性を示すものであれば、そのヌクレオチド配列において、1~数個が置換、欠失又は付加されていてもよい。置換、欠失又は付加の態様としては、ITGA11遺伝子の発現を抑制することができる限り制限されないものの、天然RNAのヌクレオチド配列と、それから1~数個のヌクレオチドが置換、欠失、又は付加したヌクレオチド配列との相同性が85%以上、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である態様が含まれる。
【0029】
miRNA mimicとして、好ましくはガイド鎖が、hsa-miR-12135のヌクレオチド配列と同じ、配列番号1で示すヌクレオチド配列からなり、パッセンジャー鎖が配列番号2で示すヌクレオチド配列からなる二本鎖RNAを挙げることができる。また、ガイド鎖が、hsa-miR-12135のヌクレオチド配列の3’末端側がポリアデニル化されてなる、配列番号3で示すヌクレオチド配列からなり、パッセンジャー鎖が配列番号2で示すヌクレオチド配列からなる二本鎖RNAを挙げることができる。これらのmiRNA mimicは、いずれもSigma Aldrich社等から商業的に入手することができる。
【0030】
miRNAの細胞内(好ましくは核内)への取り込みは、自由取り込み(Free uptake)であってもよい。miRNAの細胞内への取り込みの1つの実施態様としては、適当なベクター又はウイルス中に挿入し、更に適当なパッケージング細胞に導入してベクター又はウイルスを調製した後に標的細胞に感染させる態様であってもよい。
上記適当なベクター又はウイルスの種類は特に限定されず、例えば、自律的に複製するベクター又はウイルスでもよいが、パッケージング細胞に導入された際にパッケージング細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであることが好ましい。上記適当なベクター又はウイルスとしては、大腸菌由来のプラスミド(例pBR322、pUC118その他)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pSH19その他)、さらに、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、バクテリオファージ、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス等が挙げられる。組み換えに際しては、適当な合成DNAアダプターを用いて翻訳開始コドンや翻訳終止コドンを付加することも可能である。
【0031】
またmiRNAは、必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネーター又は真菌宿主についてはTPI1ターミネーター若しくはADH3ターミネーターのような適切なターミネーターに機能的に結合されていてもよい。組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)及び翻訳エンハンサー配列(例えばアデノウイルスVARNAをコードするもの)のような要素を有していてもよい。
組み換えベクター又はウイルスは更に、該ベクター又はウイルスがパッケージング細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点が挙げられる。
【0032】
組み換えベクター又はウイルスはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体がパッケージング細胞に欠けている遺伝子、又は例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0033】
miRNA又はそれを含むベクター若しくはウイルスを導入して上記ベクター若しくはウイルスを調製するパッケージング細胞としては、高等真核細胞、細菌、酵母、真菌等が挙げられるが、哺乳類細胞であることが好ましい。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入された遺伝子を発現させる方法も公知であり、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0034】
miRNAには、アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて上述したトランスフェクション剤、リポフェクション用担体、DDS剤を、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に適用し得る。
【0035】
例えば、miRNAは、単独で、又は、細胞への取り込みを助けるために使用される、上述した、トランスフェクション剤、DDS剤、リポフェクション用担体と一緒に対象(患者、未発症者等)の患部又は全身に注射などにより投与(患部内投与、静脈投与、腹腔内投与、局所経皮投与、吸入投与等)し、対象(患者、未発症者等)の細胞に取り込ませることができる。
【0036】
<マイクロRNAの発現上昇剤>
本発明の線維症改善用組成物の有効成分として用いられるコラーゲン受容体ITGA11/ITGB1シグナル阻害剤、特にITGA11阻害剤は、前述の通り、ITGA11遺伝子の発現を抑制することができるマイクロRNA(miRNA)の発現を上昇する作用を有する物質(マイクロRNAの発現上昇剤)であってもよい。
当該マイクロRNAの発現上昇剤は、上記作用を有している物質であればよく、その限りにおいて、低分子化合物、核酸(例えば、天然型ヌクレオチド、非天然型ヌクレオチド、及びこれらの糖又は塩基修飾物、並びにアプタマー等が含まれる)、ペプチド、及びタンパク質(例えば、酵素、抗体又はその断片等が含まれる)等の形態や種類に別に特に制限されない。またその由来も制限されず、天然由来であっても(例えば動植物や微生物由来)、また化学合成されるものであってもよい。さらに、単離精製された単品からなる物であっても、また複数成分からなる組成物(例えば、天然由来の粗精製物等)であってもよい。
低分子化合物として、制限されないものの、例えば後述する実験例4に示すように、アデニル化miRNA-12135の発現を誘導し、当該マイクロRNAの発現量を増加させる作用を有するエクオールを好適に挙げることができる。
対象とする物質が、miRNA-12135又はアデニル化miRNA-12135の発現を上昇する作用を有するか否かは、例えば、後述する実験例4に記載する方法に従って評価することができる。実験例4では、マイクロRNAとしてアデニル化miRNA-12135、対象物質としてエクオールを用いた場合の例を記載するが、エクオールに代えて評価対象物質を用いることで、当該物質のアデニル化miRNA-12135に対する発現上昇作用を評価することができるし、またマイクロRNAとしてmiRNA-12135を用いることで、評価対象物質のmiRNA-12135に対する発現上昇作用を評価することができる。
【0037】
<適用対象>
組織の線維化現象は、正常な実質組織が結合組織に置き換わる病理学的な創傷治癒過程である。このプロセス全体は、ヒトを含む哺乳類の生体において必要なものではあるものの、組織損傷が重度または反復性である場合や創傷治癒反応自体の調節に異常が生じた場合には進行性の不可逆的な線維化反応を引き起こす可能性がある。本発明が好適に対象とする線維症は、こうした進行性の不可逆的な線維化反応によって生じる生体の異常現象である。当該線維症には、ブリッジング線維症及び肝硬変等の肝線維症;線維胸;嚢胞性線維症、突発性肺肺線維症、及び進行性塊状線維症等の肺線維症;間質性線維症及び置換性線維症等の心筋線維症;慢性腎不全等の腎臓線維症;クローン病等の腸管線維症;関節線維症;ケロイド、腎性全身性線維症、及び強皮症/全身性強皮症等の皮膚線維症;デュピュイトラン拘縮等の手指線維症;縦隔線維症、骨髄線維症;ペイロニー病;後腹膜線維症などが含まれる。好ましくは、肝線維症、及び肺線維症である。
【0038】
本発明において、用語「改善」には、予防、症状の進行阻止、及び治療の意味が含まれる。具体的には、本発明の線維症改善用組成物は、前述する症状を有する患者に対しては、この症状を治療し緩和するために好適に使用することができる。またその症状の進行阻止のために好適に使用することができる。さらに、本発明の線維症改善用組成物は、前述する症状を発症しえる者に対しては、その発症を予防するために好適に使用することができる。
こうした目的に応じて、本発明の線維症改善用組成物は、医薬品、医薬部外品、又は飲食物として調製され、提供することができる。
【0039】
<医薬品又は医薬部外品>
医薬品又は医薬部外品は、本発明の線維症改善用組成物の効果を妨げないことを限度として、前述する有効成分以外に、様々な目的の各種成分を含有してもよい。例えば、1種以上の医薬的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、酸味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定化剤、コーティング剤、局所麻酔剤、等張化剤などが挙げられる。具体的には、賦形剤としては、水、エタノール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、アミラーゼ、炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、カオリン、ヒドロキシメチルセルロース、微結晶セルロース、滑石、珪酸、粘性パラフィン、ポリビニルピロリドンなどを、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどを、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などを、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどを、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などを、局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどを、等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などを例示できる。
【0040】
上記医薬の投与経路は、有効成分の剤形によって、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。いずれの場合も、経口経路、非経口経路のどちらであってもよい。非経口経路としては、静脈内投与、動脈内投与、経皮投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経粘膜投与などを挙げることができる。
【0041】
剤形は、特に限定されず、上記投与経路に適した剤形であればよい。例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤;経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤;坐剤とすることができる。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0042】
上記医薬に含有される有効成分の量は、該有効成分の用量範囲や投薬の回数などにより適宜決定できる。用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断など応じて適宜選択できる。
【0043】
2.スクリーニング方法
前述する線維症改善用組成物の有効成分の候補物質は、miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135よりなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現を上昇させる作用を指標とすることにより、対象とする被験物質群の中からスクリーニングし、選抜することができる。
【0044】
具体的には、本発明のスクリーニング方法は、miRNA-12135、及びアデニル化miRNA-12135の少なくとも1つを発現する細胞を、被験物質の存在下又は非存在下において培養し、被験物質の存在下におけるこれらのマイクロRNAの量を測定した場合に、当該マイクロRNAの量が、被験物質の非存在下におけるこれらの量と比較して多い(発現が高い)場合に、その被験物質を選択する工程を有する方法により実施することができる。制限されないものの、上記「多い(高い)」の程度としては統計的に有意な差をもって多ければ(高ければ)好ましく、例えば、被験物質の非存在下における前記マイクロRNAの量(100%)に対して、105%以上、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上の場合を例示することができる。制限されないが、発現を誘導することで、発現量が増加する場合も含まれる。
こうした指標により被験物質群の中から選抜される物質は、線維症改善用組成物の有効成分の候補物質になりえる。
【0045】
スクリーニング方法は、上記を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。スクリーニング方法において、miRNA-12135、又はアデニル化miRNA-12135の検出は、RT-PCR等の常法により行うことができる。PCRを行なう場合、プライマーは、miRNA-12135、又はアデニル化miRNA-12135を特異的に増幅できるものであれば特に限定されず、これらの配列情報に基づき適宜設定することができる。
【0046】
かかるスクリーニング方法に供される被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、核酸分子、抗体又はその断片、アプタマー、低分子合成化合物、天然物中に存在する化合物、合成ペプチド、及び人工ヌクレアーゼのいずれであってもよい。又は、被験化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0047】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0048】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0049】
下記の実験例で使用した材料や装置等の入手先は下記の通りである。
エクオール: 東京化成工業株式会社
パラホルムアルデヒド:富士フィルム和光純薬株式会社
イソフルラン:富士フィルム和光純薬株式会社
レモゾール:富士フィルム和光純薬株式会社
ガラスボトムディッシュ:松浪硝子工業株式会社
TGFβ:R&D Systems, Inc.
トータルRNA抽出試薬:Tri Reagent[登録商標]、コスモ・バイオ株式会社
miR-12135 mimic:Sigma Aldrich
【表1】
ポリアデニル化miR-12135 mimic:Sigma Aldrich
【表2】
nc siRNA: Sigma negative control 2 HM0003
ITGA11 siRNA:L-008000-00-005, ITGA11b 22801, pool
トランスフェクション試薬:RNAimax、Thermo Fisher Scientific
in vivoトランスフェクション試薬:AteloGene[登録商標](in vivo siRNA/miRNA導入キット)、株式会社高研
ヒドロキシプロリン測定kit:Abcam.com
抗COL1A1抗体:Santa Cruz Biotechnology, Inc.
抗GAPDH抗体:Cell Signaling Technology, Inc.
抗αSMA抗体:Cell Signaling Technology, Inc.
抗ITGA11抗体:Abcam.com
抗ACTB抗体:Sigma Aldrich
抗リン酸化SMAD2/3抗体:Cell Signaling Technology, Inc.
二次抗体:Thermo Fisher Scientific
Alexa Fluor 555 標識 goat抗rabbit抗体 Fab Fragment:Thermo Fisher Scientific
Alexa Fluor 488 標識 goat抗mouse抗体 Fab Fragment:Thermo Fisher Scientific
Hoechst33342:Thermo Fisher Scientific
Fusion:Chemiluminescence Imaging System(Vilber-Lourmat)
Opti-MEM(登録商標):Reduced Serum Media(Thermo Fisher Scientific)
雄性C57BL/6Jマウス:九動株式会社
CDAHFD (コリン欠乏、低メチオニン含有超高脂肪食):New Brunswick, NJ, USA
リアルタイムPCR法:試薬(Takara Bio)、測定機器(Biorad社製)
マッソントリクローム染色:Kyodo Byoriに外注
ヒト肝星細胞株LX-2:Merck
線維化したヒト肝硬変患者組織アレイ:US BIOMAX (Cat#BC03117a)
抗原賦活剤Immunosaver:日新EM株式会社
蛍光染色封入剤VECTASHIELD:Vector Laboratories
蛍光顕微鏡BZ-X700:株式会社キーエンス
Image J(画像処理ソフトウエア):NIH Image リリース
【0050】
実験例1 ヒト肝星細胞においてエクオールがTGFβ誘導性線維化関連遺伝子及びTGFβ誘導性線維化関連タンパク質の発現に与える影響の評価(図1及び2参照)
(1)ヒト肝星細胞株LX-2を5 x 104 cells/mLとなるように、2% FBS-DMEM培地を入れたガラスボトムディッシュに播種し、24時間前培養した。前培養後、培地を、エクオールを終濃度10μMとなるよう添加した2% FBS-DMEM培地に置換し、24時間培養した。培養後、培地を終濃度5ng/mLのTGFβを含む2% FBS-DMEM培地に置換し、更に48時間培養した。
【0051】
(2)TGFβ誘導性線維化関連遺伝子(ACTA2、COL1A1遺伝子)の発現量は、前記培養により得られた培養物からトータルRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを回収し、cDNAを合成後、ACTA2又はCOL1A1遺伝子に特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCRにより測定した。なお、ACTA2は、TGFβ誘導性線維化関連タンパク質であるalpha smooth muscle Actin (αSMA)の遺伝子名である。主に血管平滑筋で発現し、活性化した肝星細胞のマーカーとして知られている。またCOL1A1は、同じくTGFβ誘導性線維化関連タンパク質であるヒトa1鎖I型コラーゲンである。TGFβによって活性化された肝星細胞では過剰に発現することが知られている。内部標準にはACTBを用いた。
ACTA2及びCOL1A1遺伝子それぞれについて発現量を測定した結果を図1A及びBに示す。図1A及びBに示すように、TGFβによって誘導されたACTA2及びCOL1A1遺伝子の発現が、エクオールにより抑制されることが確認された。
【0052】
(3)TGFβ誘導性線維化関連タンパク質(αSMA、COL1A1)の発現量は、前記培養により得られた培養物を下記の免疫蛍光染色法に供することで測定した。
[免疫蛍光染色法]
・2% パラホルムアルデヒドにて細胞固定した後、パラホルムアルデヒドを除去し、1% FBS-PBS-0.2% Tweenにて透過処理する。
・抗αSMA抗体または抗COL1A抗体を添加し、45分間静置する。
・PBSにて洗浄後、二次抗体を添加し、蛍光顕微鏡にて画像撮影する。
数値化にはImage J を用いた。また各画像について Image J を用いてmerge を作製した。
αSMA及びCOL1A1それぞれについて発現量を測定した結果を図2A及びBに示す。図2A及びBに示すように、TGFβによって誘導された線維化関連タンパク質(αSMA及びCOL1A1)の発現上昇が、エクオールによりいずれも顕著に抑制されることが確認された。
【0053】
これらの結果から、エクオールは、TGFβ誘導性線維化関連遺伝子及びTGFβ誘導性線維化関連タンパク質の発現を抑制する作用を有しており、当該作用を介して抗線維化作用を発揮する可能性が示唆された。
【0054】
実験例2 ヒト肝星細胞においてエクオールがTGFβ誘導性SMAD2/3のリン酸化に与える影響の評価(図3参照)
ヒト肝星細胞株LX-2を2 x 104 cells/ mLとなるように2% FBS-DMED培地を入れたガラスボトムディッシュに播種し、24時間前培養した。前培養後、培地を、エクオールを終濃度10μMとなるよう添加した2% FBS-DMEM培地に置換し、24時間培養した。培養後、培地を終濃度5ng/mLのTGFβ含有2% FBS-DMEM培地に置換し、さらに48時間培養した。培養後、下記の免疫蛍光染色法にてリン酸化SMAD2/3レベルを評価した。
【0055】
[免疫蛍光染色法]
・2% パラホルムアルデヒドにて細胞固定した後、パラホルムアルデヒドを除去し、1% FBS-PBS-0.2% Tweenにて透過処理を行う。
・抗リン酸化SMAD2/3抗体を添加し、45分間静置する。
・PBSにて洗浄後、二次抗体を添加し、蛍光顕微鏡にて画像撮影する。
【0056】
結果を図3に示す。図3に示すように、TGFβ誘導性線維化の指標であるSMAD2/3のリン酸化が、エクオール存在下では顕著に抑制されていることが確認された。この結果から、エクオールは、TGFβによって誘導されるSMAD2/3のリン酸化を抑制する作用を有すると考えられる。この結果と前述する実験例1の結果から総合すると、エクオールは、TGFβによって誘導されるSMAD2/3のリン酸化を抑制し、その結果、TGFβ誘導性線維化関連遺伝子及びTGFβ誘導性線維化関連タンパク質の発現を妨げることで、抗線維作用を発揮する可能性が示唆された。
【0057】
実験例3 ヒト肝星細胞においてエクオールがITGA11の遺伝子発現量に与える影響の評価(図4参照)
ヒト肝星細胞株LX-2を5 x 104 cells/mLとなるように2% FBS-DMED培地にて12 well plateに播種し、24時間前培養した。前培養後、エクオールを終濃度10μMとなるように添加し、24時間培養した。培養後、トータルRNA抽出試薬にてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてITGA11の遺伝子発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。なお、ITGA11は細胞表面上に存在するレセプタータンパク質であり、ITGB1と二量体を形成し、コラーゲン受容体として働くことが知られている。またITGA11ノックアウトマウスは、大きな異常がないことも知られている。
結果を図4に示す。図4に示すように、ヒト肝星細胞にエクオールを添加することによりITGA11の遺伝子発現量が有意に抑制された。このことから、エクオールにはITGA11の遺伝子発現を抑制する作用があると考えられる。
【0058】
実験例4 エクオールがアデニル化miRNA-12135の発現量に与える影響の評価(図5参照)
ヒト子宮頸がん細胞株HeLa細胞を5 x 105 cells/mLにて10% FBS-DMEM にて10mL dish に10mLずつ播種し、24時間前培養した。前培養後、培地を、エクオールを終濃度10μM含む2% FBS-DMEM培地に置換し、24時間培養した後、トータルRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを回収した。得られたサンプルをHiseqにより解析した(150 bpペアエンド、Cell innovatorに委託)。得られた塩基配列のうちアダプター(A:アデニル塩基)がついているものを抽出し、ポリアデニル化されたmiRNA-12135(以下、「miR-12135」とも称する)をスクリーニングし、エクオール添加による変動を解析した。結果を図5Aに示す。
【0059】
ヒト肝星細胞株LX-2を5 x 104 cells/mLとなるように2% FBS-DMEM培地にて12 well plateに2 mLずつ播種し、24時間前培養した。前培養後、エクオールを終濃度10μMとなるように添加し、3時間培養した。培養後、トータルRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてmiR-12135の発現量を測定した。なお、内部標準としてU6を用いた。結果を図5Bに示す。
【0060】
図5Aに示すように、エクオール添加によりアデニル化miR-12135が顕著に誘導された。この結果から、図5Bにおいて、エクオール存在下で増加したmiR-12135の発現量の多くアデニル化miR-12135であると考えらえる。このことから、エクオールには、アデニル化miR-12135の発現量を増加させる作用があると考えられる。また、この結果から、前述する実験例3で確認されたエクオールのITGA11の遺伝子発現抑制作用は、アデニル化miR-12135の発現増加作用に起因している可能性が示唆された。
【0061】
実験例5 miR-12135の標的遺伝子の同定、及びその評価
(1)ヒト子宮頸がん細胞株HeLa細胞(ATCC)を5 x 104 cells/mLにて10% FBS-DMEMに懸濁し、12 well plateに 1 mLずつ播種し、24時間前培養した。次いで、トランスフェクション試薬を用いて、このHeLa細胞に、10 nMのmiR-12135 mimic又はポリアデニル化miR-12135 mimicをそれぞれ導入した。mimic導入から、48 時間培養後にトータルRNA抽出試薬500 μLにてTotal RNAを回収し、次世代シーケンサーに供した (Cell innovator に依頼、Nova Seq)。次世代シーケンサーで得られたデータをBase space Hub (Illumina Inc.) を用いて解析した。
その結果、miR-12135 mimic及びアデニル化miR-12135 mimicは、いずれもHeLa細胞におけるITGA11遺伝子の発現を顕著に抑制した。
【0062】
(2)ヒト子宮頸がん細胞株HeLa (ATCC)を5 x 104 cells/mLの割合で12 well plateに播種して、10% FBS-DMEMにて24時間前培養した。前培養後、トランスフェクション試薬を用いて、10 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から、48時間培養後にトータルRNA抽出試薬750μLにてTotal RNAを回収し、そのうち500μLよりcDNAを合成した。リアルタイムPCR法にてITGA11遺伝子の発現量を測定した。内部標準としてGAPDH遺伝子を使用した。結果を図6に示す。図6に示すように、HeLa 細胞にmiR-12135 mimicを導入することによりITGA11遺伝子の発現量が顕著に低下した。
前記(1)及び(2)の結果から、miR-12135及びそのmimicの標的遺伝子はITGA11遺伝子であり、miR-12135はITGA11mRNA レベルを抑制するように作用することが明らかになった。
【0063】
(3)HeLa細胞を、10% FBS-DMEM培地にて1.0 x 104 cells/mLの割合で96 well plateに200μLずつ播種し、24時間前培養した。前培養後、2% FBS-DMEM培地 100μLに置換し、トランスフェクション試薬を用いて、ITGA11の3’UTRが結合したルシフェラーゼ発現ベクターを導入した。ベクター導入と同時に、トランスフェクション試薬を用いて、miR-12135 mimicを終濃度10 nMとなるように導入した。具体的には、Opti-MEM 255μLに対しRNAimax 3.06μLを添加したもの、及びOpti-MEM 255μLに対しmiR-12135 mimic (20 nM) 1.53μLを添加したものを混合し、5分静置した後に、20μL/wellとなるように添加した。
mimic導入から48時間後、培地を除去し、ルシフェリン含有細胞溶解Bufferを添加して細胞を回収し、プレートリーダーにてルシフェラーゼ活性に対応する化学発光を測定した。
結果を図7に示す。図7に示すように、HeLa細胞にmiR-12135 mimicを導入することで、ITGA11 の3’UTRを組み込んだルシフェラーゼベクターによる化学発光が有意に抑制された。
これらのことから、miR-12135及びそのmimicはITGA11を直接の標的分子としてその遺伝子発現を抑制することが明らかになった。
【0064】
実験例6 ヒト肝星細胞においてmiR-12135がITGA11の遺伝子発現量及びタンパク質発現量に与える影響の評価(図8参照)
(1)ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLとなるように、2% FBS-DMEM培地を入れた12 well plateに播種し、24時間前培養した。前培養後、10 nM及び20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から48時間後に、培養した肝星細胞からトータルRNA抽出試薬を用いてTotal RNAを回収し、cDNA合成後、リアルタイムPCR法にてITGA11の遺伝子発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。結果を図8Aに示す。
【0065】
(2)前記mimic導入から72時間後に、培養した肝星細胞を細胞溶解バッファーで処理した。次いで、抗ITGA11抗体及び抗ACTB抗体を用いて、ウエスタンブロット法にてITGA11のタンパク質発現量を測定した。内部標準としてβ-actinを使用した。検出はFusionを用いた。結果を図8Bに示す。
【0066】
図8A及びBに示すように、ヒト肝星細胞にmiR-12135 mimicを導入することで、ITGA11の発現が mRNAレベル及びタンパク質レベルの両方で顕著に抑制された。このことから、肝線維化において中心となる肝星細胞において、miR-12135及びそのmimicによりITGA11の発現が抑制されることが明らかになった。
【0067】
実験例7 miR-12135が活性化肝星細胞におけるITGA11の遺伝子発現に与える影響の評価(図9参照)
ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLの割合で、2% FBS-DMEM培地を含む12 well plateに播種し、24時間前培養した。その後、10 nM及び20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から24時間後に終濃度5 ng/mLのTGFβを添加した。TGFβ添加から48時間後にトータルRNA抽出試薬にてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてITGA11の遺伝子発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。
結果を図9に示す。図9に示すように、ヒト肝星細胞においてTGFβによって本来であれば誘導されるITGA11の遺伝子発現が、miR-12135 mimicを導入しておくことで、顕著に抑止されることが確認された。このことから、miR-12135及びそのmimicは、肝星細胞のTGFβによる線維化誘導時(肝星細胞の活性化時)のITGA11遺伝子発現上昇を抑制する作用を有すると考えられる。
【0068】
実験例8 miR-12135がITGA11下流機構に与える影響の評価(図10~12参照)
(1)in vitro評価(その1)
ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLの割合で、2% FBS-DMEM培地を含む12 well plateに播種し、24時間前培養した。その後、10 nM及び20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から48時間後にトータルRNA抽出試薬にてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてSMAD2の遺伝子発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。
結果を図10に示す。図10に示すように、ヒト肝星細胞にmiR-12135 mimicを導入することによりSMAD2 mRNA レベルでの発現が有意に抑制された。このことから、miR-12135を用いることでSMAD2の遺伝子発現を抑制することができると考えられる。
【0069】
(2)in vitro評価(その2)
ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLの割合で、2% FBS-DMEM培地を含む12 well plateに播種し、24時間前培養した。その後、20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から24時間後に終濃度5 ng/mLのTGFβを添加した。TGFβ添加から0.5時間後にJNK及びsmad2のリン酸化レベルをウエスタンブロット法で評価した。内部標準としてGAPDHを使用した。
リン酸化JNK及びリン酸化smad2の発現量を、それぞれ図11A及びBに示す。図11A及びBに示すように、ヒト肝星細胞にmiR-12135 mimicを導入することによりTGFβで誘導されたJNK及びsmad2のリン酸化上昇が抑制されることが確認された。
【0070】
(3)NASH誘導マウスを使用したin vivo評価
雄性6週齢 C57BL/6J のマウスを用いて実験した。
マウス(雄性5週齢)は、購入後、1週間、MF食 (KBT Oriental) を給餌し、自由摂食、自由飲水、室温20±3℃、相対湿度40±20%、12時間の明暗サイクルにて順化した。その後、平均重量が均等となるよう割り付けを行い、CDAHFD(コリン欠乏超高脂肪、0.1%メチオニン添加食) を給餌し、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)を誘導させた。なお、CDAHFDは、コリン及びメチオニンを欠乏又は不足させることにより、肝線維化疾患であるNASHを誘導する食餌である。またNASHは脂肪肝の進行により肝臓組織が線維化する疾患である。
NASH誘導群のうち、miR-12135 mimic投与群には、CDAHFD給餌開始5日目から週2回のタイミングで、miR-12135 mimicを3 nmol/mouseの割合で徐放性局所投与用製剤AteloGene(登録商標)を用いて腹腔内投与した。投与開始20日目に肝臓を摘出し、JNK及びsmad2のリン酸化レベルをウエスタンブロット法で評価した。内部標準としてGAPDHを使用した。
リン酸化JNK及びリン酸化smad2の発現量を、それぞれ図12A及びBに示す。図12A及びBに示すように、miR-12135 mimicの投与によりNASH誘導群で認められたJNK及びsmad2のリン酸化上昇が抑制されることが確認された。
【0071】
これらの結果から、miR-12135やそのmimicのITGA11発現阻害作用によって、コラーゲン受容体のシグナル伝達が抑制されるとともに、TGFβによって誘導されるシグナル伝達も抑制されることが確認された。
【0072】
実験例9 ヒト肝星細胞においてmiR-12135がTGFβ誘導性線維化関連遺伝子の発現に与える影響の評価(図13参照)
ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLの割合で、2% FBS-DMEM培地を含む12 well plateに播種し、24時間前培養した。その後、10 nM及び20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から24時間後に終濃度5 ng/mLのTGFβを添加した。TGFβ添加から48時間後にトータルRNA抽出試薬にてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてTGFβ経路下流遺伝子(TGFβ誘導性線維化関連遺伝子)であるヒトa1鎖I型コラーゲン(COL1A1)遺伝子およびフィブロネクチン遺伝子の発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。
結果を図13に示す。図13に示すように、TGFβによって誘導される線維化関連遺伝子(COL1A1遺伝子、フィブロネクチン遺伝子)の発現量は、いずれも miR-12135 mimic導入により顕著に抑制された。このことから、miR-12135は、肝星細胞においてTGFβによって誘導される線維化関連遺伝子の発現を抑制することで、線維化を抑制する作用(抗線維化作用)を発揮すると考えられる。
【0073】
実験例10 ヒト肝星細胞においてmiR-12135がTGFβ誘導性線維化関連タンパク質の発現量に与える影響の評価(図14及び15参照)
(1)ヒト肝星細胞株LX-2を、1 x 104 cells/mLとなるように2% FBS-DMEM培地を入れた12 well plateに播種し、24時間前培養した。前培養後、20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から24時間後に終濃度5 ng/mLのTGFβを添加し、72時間後に細胞溶解バッファーで処理した後、溶解物を回収した。次いで、抗COL1A1抗体及び抗GAPDH抗体を用いて、ウエスタンブロット法にてCOL1A1のタンパク発現量を測定した。内部標準としてGAPDHを使用した。検出はFusionを用いて行った。
結果を図14に示す。図14に示すように、TGFβによって誘導されるCOL1A1(TGFβ誘導性線維化関連タンパク質)の発現上昇が miR-12135 導入により顕著に抑制された。この結果は、前述する実験例9の結果と整合するものであった。
【0074】
(2)ヒト肝星細胞株LX-2を、2 x 104 cells/mLとなるように2% FBS-DMEM培地を入れたガラスボトムディッシュに播種し、24時間前培養した。前培養後、20 nMのmiR-12135 mimicを導入した。mimic導入から24時間後に終濃度5 ng/mLのTGFβを添加し、48時間培養した。培養後、下記の免疫蛍光染色法にてTGFβ誘導性線維化関連タンパク質(αSMA、COL1A1)の発現を評価した。
[免疫蛍光染色法]
・2% パラホルムアルデヒドにて細胞固定をした後、パラホルムアルデヒドを除去し、1% FBS-PBS-0.2% Tweenにて透過処理する。
・抗αSMA抗体又は抗COL1A1抗体を添加し、45分間静置。
・PBSにて洗浄後、二次抗体を300倍希釈となるように添加し、蛍光顕微鏡にて画像撮影。
数値化はImage J を用いた。また、各画像についてImage Jを用いてmerge を作製した。
【0075】
αSMA及びCOL1A1の結果を、それぞれ図15A及びBに示す。図15A及びBに示すように、TGFβによって誘導される線維化関連タンパク質(αSMA、COL1A1)の発現レベルは miR-12135 mimic導入により顕著に抑制された。
【0076】
前記(1)及び(2)の結果から、miR-12135やそのmimicは、肝星細胞においてTGFβによって誘導される線維化関連タンパク質の発現を抑制することで、線維化を抑制する作用(抗線維化作用)を有すると考えられる。
【0077】
実験例11 マウス線維芽細胞株3T3-L1へのmiR-12135導入がITGA11の発現に与える影響の評価(図16参照)
マウス線維芽細胞株3T3-L1を、1 x 104 cells/ mLとなるように10% FBS-DMED培地を入れた12 well plateに播種し、24時間前培養した。前培養後、マウス線維芽細胞株に10 nMのmiR-12135 mimicを導入し、72時間後に細胞溶解バッファーを用いてタンパク質を回収した。抗ITGA11抗体及び抗GAPDH抗体を用いて、ウエスタンブロット法にてITGA11の発現量を測定した。内部標準としてGAPDHを使用した。検出はFusionを用いた。
結果を図16に示す。図16に示すように、線維芽細胞にmiR-12135 mimicを導入することによりITGA11の発現が有意に抑制された。このことから、miR-12135は線維芽細胞(線維化誘導時)においてITGA11の発現を抑制する作用を有すると考えられる。
【0078】
実験例12 ITGA11のノックダウンがコラーゲン(COL1A1)遺伝子の発現に与える影響の評価(図17参照)
ヒト肝星細胞株LX-2に、nc siRNA又はITGA11 siRNAを、それぞれ5 nMの割合で導入し、siRNA導入から24時間後に、終濃度5 ng/mLとなるようにTGFβを添加した。TGFβ添加から48時間後にトータルRNA抽出試薬にてtotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法にてCOL1A1遺伝子の発現量を測定した。内部標準としてACTBを使用した。
結果を図17に示す。図17に示すように、ITGA11 siRNAによってITGA11をノックダウンすることで、TGFβによって誘導される線維化関連遺伝子であるCOL1A1遺伝子の発現が抑制されることが確認された。このことから、TGFβによって誘導される線維化は、ITGA11を標的とし、その発現を阻害することで抑制できると考えられる。
【0079】
実験例13 ITGA11発現量とNASH関連タンパク質の発現量との相関性評価(図18参照)
(1)NASH誘導マウスを使用した評価
雄性6週齢 C57BL/6J のマウスを用いて実験した。
マウス(雄性5週齢)は、購入後、1週間、MF食 (KBT Oriental) を給餌し、自由摂食、自由飲水、室温20±3℃、相対湿度40±20%、12時間の明暗サイクルにて順化した。その後、平均重量が均等となるよう割り付けを行い、CDAHFD(コリン欠乏超高脂肪、0.1%メチオニン添加食) を給餌し、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)を誘導させた。
【0080】
給餌開始28日目にイソフルラン麻酔下で腹部大動脈より採血するとともに肝臓を摘出し、4% パラホルムアルデヒドに浸漬し、パラフィン切片を作製した。得られたパラフィン切片をレモゾールを用いて脱パラフィン処理を行った。具体的には切片をレモゾール第1槽10分間、第2槽10分間、第3槽10分間処理したのち、100% EtOH にて第4槽5分間、第5槽5分間、第6槽5分間処理した。
次いでPBSにて洗浄したのち、抗原賦活化液中に浸漬し、電気ポットを用いて45分間95℃で抗原賦活化処理を行った。その後、ブロッキング液 (1% FBS、 0.1% アジ化ナトリウム、PBS) にて45分間ブロッキングを行ったのち、1次抗体溶液 (抗ITGA11 抗体、希釈倍率 x200、ブロッキングバッファーにて希釈、及び抗ASMA抗体、希釈倍率 x200、ブロッキングバッファーにて希釈)を添加した。4℃にてオーバーナイトで放置したのち、PBSにて3回洗浄後、2次抗体溶液 (Alexa Fluor 555 標識 goat抗rabbit抗体 Fab Fragment、希釈倍率 x1000、ブロッキングバッファーにて希釈、Alexa Fluor 488 標識 goat抗mouse抗体 Fab Fragment、希釈倍率 x1000、ブロッキングバッファーにて希釈、及びHoechst33342、10000倍希釈) を添加し、染色を行った。45分間処理後、スライドをPBS にて3 回洗浄し、VECTASHIELDにて封入を行い、電子顕微鏡にてx40倍レンズを用いて画像を撮影した。
【0081】
結果を図18Aに示す。図18Aの上段の画像はNASH非誘導マウス(コントール群)の肝臓組織画像、下段の画像はNASH誘導マウス(CDAHFD群)の肝臓組織画像を示す。図18Aに示すように、NASH誘導マウスの肝臓組織において、ITGA11及びαSMA(活性化肝星細胞マーカー)はいずれも高発現していた。このことから、NASH誘導マウスの線維化した肝臓組織においてITGA11が高発現していることが確認された。
【0082】
(2)ヒト肝硬変患者組織を使用した評価
ヒト肝硬変患者組織アレイを用いて、前記(1)と同様の処理をして、当該ヒト肝臓組織におけるITGA11及びαSMAの発現の程度を評価した。また得られた画像を Image Jを用いて数値化した。
結果を図18B及びCに示す。図18Bに示すように、ヒト肝硬変肝臓組織において、ITGA11及びαSMA(活性化肝星細胞マーカー)はいずれも高発現しており、線維化した肝臓組織にITGA11が高発現していることが確認された。また図18Cに示すように、ITGA11及びαSMAの発現は正の相関関係にあること、つまり組織線維化とITGA11の発現との間に相関関係があることが確認された。
【0083】
実験例14 miR-12135及びアデニル化miR-12135がNASH誘導マウスの体重ならびに肝臓重量に与える影響の評価(図19参照)
雄性6週齢C57BL/6JマウスにCDAHFD(コリン欠乏、低メチオニン含有超高脂肪食)を給餌して、肝細胞内に脂肪を蓄積させて肝線維化を誘導した(NASH誘導)。コントロール群にはMF食を給餌した(NASH非誘導)。NASH誘導のうち、miR-12135 mimic投与群(NASH+miR-12135 mimic)には、CDAHFD給餌開始5日目から週2回のタイミングで(図19A参照)、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを、それぞれ3 nmol/mouseとなるように、徐放性局所投与用製剤AteloGene(登録商標)を用いて腹腔内投与した。開始20日目に体重を測定した。その後屠殺し、肝臓の重量を測定した。
体重変化を図19Bに、「肝臓重量/体重」比の結果を図19Cに示す。図19Cに示すように、CDAHFD給餌によって誘導されたNASHの指標である「肝臓重量/体重」比の上昇(「NASH+nc mimic」の結果参照)は、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを腹腔内投与することで抑制されることが確認された(「NASH+miR-12135 mimic」及び「NASH+Adenylated mimic」の結果参照)。このことから、in vivo 試験においても、miR-12135、アデニル化miR-12135、又はこれらのmimicを導入することで、肝線維化が改善されることが確認された。
【0084】
実験例15 miR-12135ならびにアデニル化miR-12135がNASH誘導マウス肝臓におけるITGA11の発現に与える影響の評価(図20参照)
雄性6週齢C57BL/6JマウスにCDAHFDを給餌して、肝細胞内に脂肪を蓄積させて肝線維化を誘導した(NASH誘導)。CDAHFD給餌開始5日目から週2回のタイミングで、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを、それぞれ3 nmol/mouseとなるように、徐放性局所投与用製剤AteloGene(登録商標)を用いて腹腔内投与した。開始20日目に肝臓を摘出し組織切片を作成し、抗ITGA11抗体及び抗αSMA抗体を用いて免疫蛍光染色を実施した。蛍光免疫染色像を図20Aに示す。当該染色像から、ITGA11陽性細胞、及びITGA11及びαSMAの両方に陽性を示した細胞(ITGA11/αSMAcells)の数をカウントした。
図20A及びBに示すように、CDAHFD給餌によって誘導されるαSMA及びITGA11の発現上昇(「NASH+nc mimic」の結果参照)が、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを腹腔内投与することでいずれも抑制されることが確認された(「NASH+miR-12135 mimic」及び「NASH+Adenylated mimic」の結果参照)。このことから、NASH誘導モデルの線維化肝組織において認められるITGA11タンパク質の発現上昇、及びTGFβ誘導性線維化関連タンパク質であるαSMAの発現上昇は、いずれもmiR-12135、アデニル化miR-12135、又はこれらのmimicを導入することで抑制できることが確認された
【0085】
実験例16 miR-12135及びアデニル化miR-12135がNASH誘導マウスの肝線維化に与える影響の評価(図21及び22参照)
(1)雄性6週齢C57BL/6JマウスにCDAHFDを給餌し、肝線維化を誘導した。CDAHFD給餌開始5日目から週2回のタイミングで、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを、それぞれ3nmol/mouseとなるように、徐放性局所投与用製剤AteloGene(登録商標)を用いて腹腔内投与した。開始20日目に肝臓を摘出した。
摘出した肝臓について組織切片を作成し、マッソントリクローム染色(MT染色)を実施した。肝臓組織のMT染色像を図21Aに示す。この染色をもとに、肝臓組織の線維化度合いを判定した。具体的には、MT染色による染色像の青色の輝度から赤色の輝度を減じることで、線維化面積を算出した。その結果を図21Bに示す。
図21Bに示すように、CDAHFD給餌により誘導された肝線維化(「NASH+nc mimic」の結果参照)が、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを腹腔内投与することで低減することが確認された(「NASH+miR-12135 mimic」及び「NASH+Adenylated mimic」の結果参照)。
【0086】
(2)前記で摘出した肝臓について、ヒドロキシプロリン測定kitを用いてヒドロキシプロリン量を測定した。なお、ヒドロキシプロリンはコラーゲンに特徴的な成分であり、コラーゲンの3本鎖らせん構造を安定化する作用を有する。
結果を図22に示す。図22に示すように、CDAHFD給餌によって誘導された線維化肝臓中のヒドロキシプロリン量の上昇が、miR-12135 mimic又はアデニル化miR-12135 mimicを腹腔内投与することで抑制され、肝細胞中のコラーゲンの蓄積が抑制されることが確認された。
【0087】
(1)及び(2)の結果から、in vivo 試験によっても、miR-12135、アデニル化miR-12135、又はこれらのmimicを導入することで、肝線維化が抑制及び改善されることが確認された。
【0088】
実験例17 miR-12135投与が肺線維化誘導マウスの肺線維化に与える影響の評価(図23参照)
雄性6週齢C57BL/6Jマウスにブレオマイシンを1 mg/kgの割合で気管内投与し、肺線維症を誘導した。ブレオマイシン投与7日目から週2回のタイミングで、miR-12135 mimicを、3 nmol/mouseの割合で腹腔内投与した。開始21日目に肺を摘出し、肺重量を測定した。また摘出した肺において、ヒドロキシプロリン測定kitを用いてヒドロキシプロリン量を測定した。
肺重量の測定結果を図23Aに、肺のヒドロキシプロリン量の測定結果を図23Bに示す。図23Aに示すように、肺障害(肺線維症)の指標である肺重量の増加(「nc mimic」の結果参照))が、miR-12135 mimicを腹腔内投与することで低減した。また図23Bに示すように、線維化の指標であるヒドロキシプロリン量の増加がmiR-12135 mimicを腹腔内投与することで低減した。
これらのことから、in vivo試験においてmiR-12135やそのmimicによって、肺線維化が抑制及び改善されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、アンメットメディカルニーズの高い線維症、特に肝線維症に対して、それを改善(予防及び/又は治療)するうえで有用な組成物を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1は、miR-12135 mimicの二本鎖RNAのガイド鎖の塩基配列を示す。miRBaseにおいてAccession ID:MIMAT0049031として登録されているhsa-miR-12135の成熟miRNAの塩基配列でもある。配列番号2は、miR-12135 mimicの二本鎖RNA又はポリアデニル化miR-12135 mimicの二本鎖RNAのパッセンジャー鎖の塩基配列;配列番号3は、ポリアデニル化miR-12135 mimicの二本鎖RNAのガイド鎖の塩基配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
2024126436000001.xml