(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126444
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】フォトクロミック組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
C09K 9/02 20060101AFI20240912BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/45 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09K9/02 B
C08L101/12
C08K5/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034825
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】小畠 誠也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BG051
4J002EV306
4J002EV316
4J002FD096
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】固体の状態でも退色反応が反応速度論に従い線形性を示すフォトクロミック組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】フォトクロミック化合物と、異なるTgを有するポリマーによるブロック共重合体とを組み合わせることにより、課題を解決する。
【選択図】
図6B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 下記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物
【化1】
(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y
1及びY
2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR
1及びR
2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R
3は、Y
1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
4と互いに結合して環構造を形成しており、Y
1がNである場合には、電子対であり、
R
4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
3と互いに結合して環構造を形成しており、
R
5は、Y
2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
6と互いに結合して環構造を形成しており、Y
2がNである場合には、電子対であり、
R
6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)と、
(ii) α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体、
(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを含む、フォトクロミック組成物。
【請求項2】
前記αのTgが80℃以上であり、前記βのTgが-30℃以下である、請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項3】
前記αが、ポリメタクリル酸エステル系ポリマーであり、前記βが、ポリアクリル酸エステル系ポリマーである、請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項4】
前記ジアリールエテン化合物が下記式(II)で表される、
【化2】
(式(II)中、6つのZは互いに独立して、H又はハロゲンであり、
3つのR
1及びR
2は互いに独立して、アルキル基又は芳香族基であり、
R
3は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
4と互いに結合して環構造を形成しており、
R
5は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
6と互いに結合して環構造を形成しており、
R
4は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
3と互いに結合して環構造を形成しており、
R
6は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
5と互いに結合して環構造を形成している)
請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項5】
前記R1及びR2が、炭素数1~4のアルキル基である、請求項4に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項6】
前記Zがフッ素原子(F)であり、前記R3及びR5がHであり、前記R4及びR6がフェニル基である、請求項4に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項7】
前記ジアリールエテン化合物が下記一般式(III)
【化3】
(式中、TMSはSi(CH
3)
3である)
で表される、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物を含む、温度センサー。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物を含む、識別コード。
【請求項10】
(i) 上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される) と、
(ii) α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体
(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを混合することを特徴とする、フォトクロミック組成物の製造方法。
【請求項11】
(i) 上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)
と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを含む、前駆液。
【請求項12】
ジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体とを含む、所定の温度を管理するためのインジケータ組成物であって、
前記ジアリールエテン化合物が、上記一般式(I)で表され、
(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)
前記ジアリールエテン化合物は、閉環後、所定の温度で分解し、
前記ブロック共重合体のαは、前記所定の温度以上のTgを有し、βは前記所定の温度未満のTgを有する、インジケータ組成物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物又は請求項12に記載のインジケータ組成物を用いる、物品の温度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック組成物、フォトクロミック組成物を含む光機能素子、識別コード、フォトクロミック組成物の製造方法、前駆液、インジケータ組成物及び物品の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低温保存技術、低温輸送技術の発達と普及により、多くの食品や医薬品などの物品が冷凍、又は冷蔵の状態で市場などにおいて流通するようになってきている。ここで、冷凍、又は冷蔵の状態の物品の品質や安全性を保つためには、流通過程や貯蔵過程における物品の温度管理が重要になる。しかし、物品が管理温度以上の条件下に曝されたか否かを判断するのは、物品を見ただけでは容易には判別し難い。
【0003】
そのため、フォトクロミズムの技術を利用して物品の温度を管理することが試みられている。フォトクロミズムとは光によって単一の化学種が変化し、色の変わる現象であり、そのような性質を有する化合物をフォトクロミック化合物という。このフォトクロミック化合物を応用して物品の温度管理を行うことが試みられている。例えば、国際公開WO2007/105699号(特許文献1)には、紫外光の照射により着色し、不可逆的に消色するフォトクロミック材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2007/105699号
【特許文献2】特願2018-535728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、これまでに、スイッチング機能(紫外光照射による着色)、着色状態の可視光下での優れた安定性、低温環境下(例えば室温以下)での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えたフォトクロミック化合物(ジアリールエテン化合物)を見いだしている(特許文献2)。本発明者は、このフォトクロミック化合物をポリマーに混合し、溶媒を除去して固体の状態にした組成物において、液体の状態では色彩の経時変化が反応速度論に従うにもかかわらず、固体の状態では色彩の経時変化が反応速度論に従わないことがあることを新たに発見した。そのため、そのようなフォトクロミック化合物であっても、固体の状態で退色反応が一次反応の反応速度論に従い、時間tに対して着色物の濃度の自然対数をプロットすると、線形性を示すフォトクロミック組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フォトクロミック化合物と、異なるTgを有するポリマーによるブロック共重合体とを組み合わせることにより、退色反応が一次反応の反応速度論に従い、時間tに対して着色物の濃度の自然対数をプロットすると、線形性を示すフォトクロミック組成物を得ることができることを見いだし、本発明に到った。よって、本発明は、以下の[実施形態1]~[実施形態13]の発明を提供する。
【0007】
[実施形態1]
(i) 下記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物
【化1】
(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y
1及びY
2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR
1及びR
2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R
3は、Y
1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
4と互いに結合して環構造を形成しており、Y
1がNである場合には、電子対であり、
R
4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
3と互いに結合して環構造を形成しており、
R
5は、Y
2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
6と互いに結合して環構造を形成しており、Y
2がNである場合には、電子対であり、
R
6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)と、
(ii) α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体、
(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを含む、フォトクロミック組成物。
【0008】
[実施形態2]
前記αのTgが80℃以上であり、前記βのTgが-30℃以下である、[実施形態1]に記載のフォトクロミック組成物。
【0009】
[実施形態3]
前記αが、ポリメタクリル酸エステル系ポリマーであり、前記βが、ポリアクリル酸エステル系ポリマーである、[実施形態1]又は[実施形態2]に記載のフォトクロミック組成物。
【0010】
[実施形態4]
前記ジアリールエテン化合物が下記式(II)で表される、
【化2】
(式(II)中、6つのZは互いに独立して、H又はハロゲンであり、
3つのR
1及びR
2は互いに独立して、アルキル基又は芳香族基であり、
R
3は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
4と互いに結合して環構造を形成しており、
R
5は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
6と互いに結合して環構造を形成しており、
R
4は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
3と互いに結合して環構造を形成しており、
R
6は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR
5と互いに結合して環構造を形成している)
[実施形態1]~[実施形態3]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物。
【0011】
[実施形態5]
前記R1及びR2が、炭素数1~4のアルキル基である、[実施形態1]~[実施形態4]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物。
【0012】
[実施形態6]
前記Zがフッ素原子(F)であり、前記R3及びR5がHであり、前記R4及びR6がフェニル基である、[実施形態1]~[実施形態5]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物。
【0013】
[実施形態7]
前記ジアリールエテン化合物が下記一般式(III)
【化3】
(式中、TMSはSi(CH
3)
3である)
で表される、[実施形態1]~[実施形態6]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物。
【0014】
[実施形態8]
[実施形態1]~[実施形態7]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物を含む、温度センサー。
【0015】
[実施形態9]
[実施形態1]~[実施形態7]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物を含む、識別コード。
【0016】
[実施形態10]
(i) 上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される) と、
(ii) α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体
(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを混合することを特徴とする、フォトクロミック組成物の製造方法。
【0017】
[実施形態11]
(i) 上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよいフェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)
と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体(ただし、αは、Tgが40℃以上のポリマーであり、βは、Tgが-10℃以下のポリマーである)
とを含む、前駆液。
【0018】
[実施形態12]
ジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体とを含む、所定の温度を管理するためのインジケータ組成物であって、
前記ジアリールエテン化合物が、上記一般式(I)で表され、
(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、
Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、
3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、
R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、
R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、
R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、
R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、
前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)
前記ジアリールエテン化合物は、閉環後、所定の温度で分解し、
前記ブロック共重合体のαは、前記所定の温度以上のTgを有し、βは前記所定の温度未満のTgを有する、インジケータ組成物。
【0019】
[実施形態13]
[実施形態1]~[実施形態7]のいずれか1つに記載のフォトクロミック組成物、[実施形態8]に記載の温度センサー、[実施形態9]に記載の識別コード又は[実施形態12]に記載のインジケータ組成物を用いる、物品の温度管理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、固体の状態でも退色反応が一次反応の反応速度論に従い、時間tに対して着色物の濃度の自然対数をプロットすると、線形性を示すフォトクロミック組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】式(I)で表されるジアリールエテン化合物に紫外光を照射した際の化合物の変化を表す模式図である。
【
図3】式(V)で表されるジアリールエテン化合物(DE-O2-TMS)に紫外光を照射した際の化合物の変化を表す模式図である。
【
図4A】比較例1のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図4B】比較例1のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図5A】比較例2のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図5B】比較例2のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図6A】実施例1のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図6B】実施例1のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図7A】実施例2のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図7B】実施例2のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図8A】実施例3のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図8B】実施例3のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図9】DE-O2-TMSヘキサン溶液、比較例2、実施例1、実施例2及び実施例3のフォトクロミック組成物の退色反応の速度定数の温度依存性を示す図である。
【
図10A】比較例3のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図10B】比較例3のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図11A】比較例4のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図11B】比較例4のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図12A】比較例5のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を示す図である。
【
図12B】比較例5のフォトクロミック組成物の時間経過による退色の測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を示す図である。
【
図13】DE-O2-Hepトルエン溶液、比較例3、比較例4及び比較例5のフォトクロミック組成物の退色反応の速度定数の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「x~y」(x,yは具体的値)は、特に断らない限りx以上y以下(即ち、両端の値を含む)を意味する。
【0023】
(フォトクロミック組成物)
本実施形態のフォトクロミック組成物は、ジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体とを少なくとも含む。以下に、組成物の各構成について説明する。
【0024】
(ジアリールエテン化合物)
フォトクロミック組成物に含まれるジアリールエテン化合物は、以下の式(I):
【0025】
【0026】
(式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、前記置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)で表される。
【0027】
フォトクロミック化合物の中でも、熱的に安定なもの(すなわち、紫外光による着色が室温で熱的に元に戻りにくいもの)はPタイプ、熱的に不安定なもの(すなわち、紫外光による着色が室温で熱的に元に戻りやすいもの)はTタイプと呼ばれている。Pタイプのフォトクロミック化合物は、着色状態を長時間維持することができ、光をスイッチとして可逆的に無色体と着色体とを異性化させることができるため、光センサーや光メモリなどへの応用が考えられる。ジアリールエテン化合物は、Pタイプのフォトクロミック化合物であり、無色体である開環体に紫外線を照射することで着色体である閉環体へ異性化する性質を有する。
【0028】
本発明のジアリールエテン化合物において、紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、さらに、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能は、基SiR1
3と基SiR2
3が結合した部位同士の反応性の影響を強く受ける一方、Aの構造の影響はそれほど大きくない。そのため、上記式(I)で表されるジアリールエテン化合物中、Aの構造は上述したような置換基などを有した様々な構成を取り得る。Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であれば特に限定されないが、Aはヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数5~7の二価の炭化水素基であることが好ましく、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~5の二価の炭化水素基であることがより好ましく、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3又は4の二価の炭化水素基であることがより好ましい。
【0029】
炭素数3~7の二価の炭化水素基としては、例えば、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基等の直鎖状アルキレン基、プロピレン基、1,2-ブチレン基、1,2-ジメチルエチレン基等の分岐鎖状アルキレン基等が挙げられる。
置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基等が挙げられ、置換基がハロゲン原子であることが好ましく、ハロゲン原子がフッ素原子(F)又は塩素原子(Cl)であることがより好ましく、Clであることがより好ましい。
【0030】
上記式(I)中、R1及びR2は、互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基から選択されれば特に限定されないが、R1及びR2が置換基を有していてもよい、アルキル基又はフェニル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい、アルキル基であることがより好ましく、置換基を有していてもよい、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがより好ましい。基SiR1
3と基SiR2
3の具体例としては、例えば、Si(CH3)3、Si(CH2CH3)3、Si(CH(CH3)2)3等が挙げられ、Si(CH3)3であることが好ましい。R1及びR2がこれらの構造を有していることで、より紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えた、フォトクロミック組成物としてより優れたジアリールエテン化合物となる。
【0031】
上記式(I)中、Y1は、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、Cであることが好ましい。Y2は、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、Cであることが好ましい。そして、Y1及びY2がともにCであることがより好ましい。
【0032】
上記式(I)中、R3及びR5は、互いに独立して、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成している。置換基については上述の通りである。また、Y1がNである場合、R3又はR5は、電子対である。R3及びR5は、Y1がCであり、Hまたはアルキル基であることが好ましく、H又は炭素数が1~3のアルキル基であることがより好ましく、R3及びR5がともにH又は炭素数が1~3のアルキル基から選択されることがより好ましい。
【0033】
上記式(I)中、R4及びR6は、互いに独立して、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基、もしくはシアノ基、又はR3(R4の場合。R6の場合はR5)と互いに結合して環構造を形成しており、H、フェニル基、または炭素数が1~5のアルキル基から選択されるのが好ましく、フェニル基であることがより好ましく、R4及びR6がともにフェニル基であることがより好ましい。置換基については上述の通りである。
【0034】
ジアリールエテン化合物の好ましい構成は、下記式(II):
【0035】
【0036】
(式(II)中、6つのZは互いに独立して、H又はハロゲンであり、3つのR1及びR2は互いに独立して、アルキル基又は芳香族基であり、R3は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、R5は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、R4は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、R6は、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成している)で表される構成である。
【0037】
上記式(II)中、6つのZは互いに独立して、H又はハロゲンであり、ハロゲンであることが好ましく、6つのZが全てハロゲンであることがより好ましく、ハロゲンがF又はClであることがより好ましく、Fであることがより好ましい。
【0038】
上記式(II)中、R1及びR2は、互いに独立して、アルキル基又は芳香族基であれば特に限定されないが、R1及びR2がアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。R1及びR2が炭素数1~3のアルキル基であることで、より紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えた、フォトクロミック組成物としてより優れたジアリールエテン化合物となる。
【0039】
上記式(II)中、R3及びR5は、互いに独立して、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4(R3の場合。R5の場合はR6)と互いに結合して環構造を形成している。R3及びR5は、Hまたはアルキル基であることが好ましく、H又は炭素数が1~3のアルキル基であることがより好ましく、R3及びR5がともにH又は炭素数が1~3のアルキル基から選択されることがより好ましい。
【0040】
上記式(II)中、R4及びR6は、互いに独立して、H、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基、もしくはシアノ基、又はR3(R4の場合。R6の場合はR5)と互いに結合して環構造を形成している。R4及びR6は、H、フェニル基、または炭素数が1~5のアルキル基から選択されるのが好ましく、フェニル基であることがより好ましく、R4及びR6がともにフェニル基であることがより好ましい。
【0041】
ジアリールエテン化合物のより好ましい構成は、下記式(III)
【0042】
【化6】
(式中、TMSはSi(CH
3)
3である)
で表される構成である。
【0043】
ジアリールエテン化合物が上記式(III)の構造を有していることで、紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、さらに、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えた、フォトクロミック組成物としてより優れたジアリールエテン化合物となる。
【0044】
上記式(I)~(III)のジアリールエテン化合物は、常法により公知の方法によって合成したものを用いてもよいし、市販のジアリールエテン化合物を用いてもよい。合成条件は特に限定されず、出発原料、使用量や混合比、温度、時間、圧力、雰囲気、溶媒の種類や使用量などの反応条件は、製造するジアリールエテン化合物の構造に応じて適宜設定し得る。例えば、上記式(I)~(III)のジアリールエテン化合物の合成は、例えばSeiya Kobatake, Hiroyuki Imagawa, Hidenori Nakatani, and Seiichiro Nakashima “New J. Chem., 2009, 33, 1362-1367”に記載された方法により行うことができる。製造された化合物が所望のジアリールエテン化合物であることは、例えば、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)、質量分析法(MS)などの一般的な有機分析手法により確認することができる。
【0045】
上記式(I)で表されるジアリールエテン化合物は、紫外光照射により、SiR
1
3及びSiR
2
3が結合している2つのチオフェン環同士が環を形成(閉環)し、着色する(スイッチング機能)。この反応についての模式図を
図1に示す。この着色は、可視光下や、所定の温度(Δ)未満では安定であるが、この所定の温度(Δ)以上の条件に曝される(加熱される)ことにより、副生成物に分解されるため、消色(退色)する。この消色(退色)状態は、紫外光や可視光下で安定であり、着色から消色は不可逆的である。
【0046】
紫外光照射により、上記式(I)で表されるジアリールエテン化合物が環構造を形成した後、副生成物に分解される際の温度は、SiR1
3及びSiR2
3の種類による影響を受ける。例えば、SiR1
3及びSiR2
3のR1及びR2が大きい程、化合物が熱的に不安定となるため、より低温で分解されて、消色する。すなわち、SiR1
3及びSiR2
3の種類を調整することによって、所望の作動温度で着色を消色させることができる。
【0047】
(ブロック共重合体)
本実施形態のフォトクロミック組成物は、α-β-α型のトリブロック型及び/又はα-β型のジブロック型のブロック共重合体を少なくとも含む。本実施形態のブロック共重合体は、少なくともTgが40℃以上のポリマー(ポリマーα、以下単にαともよぶ)と、Tgが-10℃以下のポリマー(ポリマーβ、以下単にβともよぶ)とが組み合わされたポリマーである。
【0048】
ブロック共重合体の構成は、α-β-α型のトリブロック型であっても、α-β型のジブロック型であってもよいが、α-β-α型のトリブロック型であることが好ましい。ブロック共重合体はそのポリマーの組成によって相分離が異なり、粒状、筒状、層状などの様々な構造を取り得るが、そのいずれであってもよい。
【0049】
Tgは、ポリマーのガラス転移温度を示し、Tgよりも高い温度領域ではとポリマーはゴム状もしくは液状になり、Tgよりも低い温度領域ではポリマーはガラス状態となる。Tgが高いポリマーは硬いポリマーとなり、Tgが低いポリマーは軟らかいポリマーとなる。本発明者は、Tgが高いポリマーと、Tgが低いポリマーとを組み合わせたブロック共重合体が、フォトクロミック組成物への用途に適していること、そして、上記式(I)で表されるジアリールエテン化合物と組み合わせてフォトクロミック組成物を形成することで退色時に線形性を示すフォトクロミック組成物を得ることができることを新たに見いだしている。
【0050】
αのTgは、40℃以上であり、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがより好ましい。Tgは、例えば示差走査熱量測定(DSC)を行うことで算出することができる。
【0051】
αとしては、Tgが40℃以上となるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリメタクリル酸エステル系ポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。このうち、ポリメタクリル酸エステル系ポリマーであることが好ましい。
【0052】
ポリメタクリル酸エステル系ポリマーとしては、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、Tgは105℃)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリメタクリル酸t-ブチル、ポリメタクリル酸シクロヘキシルが挙げられ、ポリメタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0053】
βのTgは、-10℃以下であり、Tgが-20℃以下であることが好ましく、Tgが-30℃以下であることが好ましく、Tgが-40℃以下であることがより好ましい。
【0054】
βとしては、Tgが-10℃以下となるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸エステル系ポリマー、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリウレタンが挙げられ、ポリアクリル酸エステル系ポリマーであることが好ましい。
【0055】
ポリアクリル酸エステル系ポリマーとしては、例えばポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸ブチル(PBA)、ポリアクリル酸ペンチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリアクリル酸オクチル、ポリアクリル酸デシル、ポリアクリル酸ドデシル、ポリアクリル酸テトラデシル、ポリアクリル酸ヘキサデシル、ポリアクリル酸オクタデシル、ポリアクリル酸イソプロピルが挙げられ、ポリアクリル酸ブチルであることが好ましい。
【0056】
αとβの組み合わせは、上述したα及びβの条件を満たせば特に限定されないが、αのTgが60℃以上かつβのTgが-20℃以下である組み合わせであることが好ましく、αのTgが80℃以上かつβのTgが-30℃以下である組み合わせであることがより好ましく、αのTgが90℃以上かつβのTgが-40℃以下である組み合わせであることがより好ましく、αのTgが100℃以上かつβのTgが-40℃以下である組み合わせであることがより好ましい。αとβがこれらの組み合わせであることで、より成形時に優れた成形性を有しつつ、退色反応が反応速度論に従い線形性を示すフォトクロミック組成物を得ることができる。
【0057】
具体的なαとβの組成比は特に限定されず、任意の重量比で使用できる。例えばαとβの重量比が、α:β=1:10~10:1の範囲であってもよく、α:β=1:3~10:1の範囲であることが好ましく、α:β=1:1~10:1の範囲であることがより好ましい。
【0058】
具体的なαとβの組み合わせとしては、例えばαが、ポリメタクリル酸エステル系ポリマーであり、βが、ポリアクリル酸エステル系ポリマーである組み合わせ等が考えられる。このうち、αが、ポリメタクリル酸エステル系ポリマーであり、βが、ポリアクリル酸エステル系ポリマーである組み合わせが好ましく、αがPMMA、βがPBAである組み合わせがより好ましい。
【0059】
ブロック共重合体は、常法によりポリマーを重合したものや、市販の共重合体を用いてもよい。例えば、市販のPMMA-PBA共重合体としては、例えば株式会社クラレ製のPMMA-PBA-PMMAトリブロック共重合体であるクラリティ(登録商標)LA2140、クラリティ(登録商標)LA2250、クラリティ(登録商標)LA4285等が挙げられる。
【0060】
フォトクロミック組成物中のジアリールエテン化合物の含有量は特に限定されない。例えば、フォトクロミック組成物中のジアリールエテン化合物の含有量は、フォトクロミック組成物の全重量の0.5~20重量%の範囲であってもよく、1~10重量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
フォトクロミック組成物中のブロック共重合体の含有量は特に限定されない。例えば、フォトクロミック組成物中のブロック共重合体の含有量はフォトクロミック組成物の全重量の70~99.9重量%の範囲であってもよく、75~99.5重量%の範囲であることが好ましく、80~99重量%の範囲であることがより好ましく、85~99重量%の範囲であることがより好ましい。
【0062】
フォトクロミック組成物には、フォトクロミック組成物を製造する際に用いる有機溶媒が微量に含まれ得る。有機溶媒としては、ジアリールエテン化合物を溶解し得る化合物が挙げられ、例えば、アセトン、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素等が挙げられる。
【0063】
フォトクロミック組成物には、ジアリールエテン化合物やα-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体以外にも、必要に応じて添加物が含まれていてもよい。添加剤としては例えば、可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、防かび剤、充填剤等が挙げられる。これらの添加剤は、フォトクロミック組成物の全重量の20重量%以下で含まれていてもよく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。
【0064】
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリオール、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル等の脂肪族ポリカルボン酸エステル、テレフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、安息香酸エステル等の芳香族ポリカルボン酸エステル、ポリエステル等が挙げられる。可塑剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
老化防止剤としては、例えば、芳香族第二級アミン系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、ベンツイミダゾール系化合物、亜燐酸系化合物等が挙げられる。老化防止剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
難燃剤としては、例えば、リン及びハロゲン含有有機化合物、臭素又は塩素含有有機化合物、ポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤等が挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
防かび剤としては、亜ヒ酸、亜酸化銅、酸化水銀、有機硫黄化合物、フェノール系化合物、ベンズチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、第4アンモニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、ベンズイミダゾール系化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。防かび剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
充填剤としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、カーボンブラック、タルク、マイカ、ベントナイト、活性白土、ガラス繊維、ガラスビーズ、窒化アルミニウム、炭素繊維等が挙げられる。充填剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
(温度センサー)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物を含む温度センサーも提供する。上述したように、本発明のフォトクロミック組成物は、紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、さらに、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えている。そのため、上述したフォトクロミック組成物を温度センサーとして好適に使用できる、例えば、本発明のフォトクロミック組成物を冷凍した物品(例えば冷凍食品など)の包装に塗布し、紫外光を照射して発色させることで、該物品の保存状態を管理することができる。特に、本発明のフォトクロミック組成物は退色時の退色速度(の一次プロット)が、反応速度論に従い線形性を有するため、退色した組成物の吸光度を測定することによって該物品がどのような状態で保存されていたかについて逆算、計算することができる。そのため、物品の管理性という観点から優れている。
【0071】
(光機能素子)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物を含む光機能素子も提供する。上述したように、本発明のフォトクロミック組成物は、温度センサーとして優れた性質を有している。そのため、本発明のフォトクロミック組成物を含む温度センサーと、本発明のフォトクロミック組成物とは温度に対する反応性が異なる別の温度センサーとを組み合わせることにより、温度変化を容易に管理することができる。
図2に、光機能素子の一例を示す。
図2には、基板上にそれぞれ異なる温度で色彩が変化する、UVによるスイッチング機能を有する3つの温度センサーが設けられた光機能素子が示されている。
図2に記載の光機能素子に紫外光を照射すると、スイッチング前の状態(左図)から、各温度センサーが発色して温度管理が開始される(中央図)。その後、温度上昇が起こると、一部の温度センサー(
図2では本発明のフォトクロミック組成物)が消色する。これにより、光機能素子から、温度が変化したという情報、そしてどのような温度変化が生じたかについての情報を取得することができる(右図)。
【0072】
(識別コード)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物を含む識別コードも提供する。本発明のフォトクロミック組成物は、紫外光照射による着色、着色状態の可視光下での優れた安定性、さらに、低温環境下での温度上昇による再生不可能な消色という機能を兼ね備えている。そのため、上述したフォトクロミック組成物を用いて識別コードを形成することにより、冷凍・冷蔵保存中の物品の温度変化が起こったという情報を機械的に取得することが可能になる。例えば、本発明のフォトクロミック組成物を一部に用いた二次元コードを設計する。この二次元コードは、本発明のフォトクロミック組成物が発色している場合と、消色している場合とでは異なるデータが読み取れるように設計されている、あるいは、消色している場合は二次元コードのスキャナーが該二次元コードを識別できないように設計されている。この二次元コードを輸送する物品に貼り付け、紫外光を照射して発色させることで、輸送時の物品の温度が上昇した場合に、本発明のフォトクロミック組成物の退色、消色が生じる。これにより、二次元コードのパターンが変化するため、二次元コードのスキャナーが物品の輸送開始時とは異なるパターンを識別する、或いは、二次元コードのスキャナーがパターンを読み込めなくなるため、二次元コードのスキャナーがエラーを通知する。これによって、物品に温度変化が生じたことについての情報を取得することができる。
【0073】
(粘着製品)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物を含む粘着製品も提供する。粘着製品は、基材と、基材の片面に接するように形成されたフォトクロミック組成物層と、フォトクロミック組成物層とは異なる面に形成された粘着剤層によって構成される。
【0074】
フォトクロミック組成物層は、本発明のフォトクロミック組成物から構成される。フォトクロミック組成物層は均一の厚みを有していてもよいし、表面がでこぼこであってもよい。フォトクロミック組成物層の厚みは特に限定されないが、1~200μmであることが好ましい。
【0075】
粘着剤層は、当業者が粘着剤として使用可能なものであれば特に限定されない。例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。アクリル系粘着剤としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル、アクリルアミド等から選択されるモノマーの重合体やその架橋物が挙げられる。シリコーン系粘着剤としては、例えば、ジメチルシロキサン系、ジフェニルシロキサン系のもの等が挙げられる。ポリエステル系粘着剤としては、例えば、官能基を2つ以上有するカルボン酸成分及びジオール成分を重縮合して得られるポリエステル等が挙げられる。ウレタン系粘着剤としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネート化合物を反応させて得られるウレタン系ポリマー等が挙げられる。ゴム系粘着剤としては、例えば、スチレンイソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム等の合成ゴムや天然ゴム等が挙げられる。ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、フェノール系樹脂、石油樹脂等の粘着付与剤が加えられていてもよい。
【0076】
粘着製品に用いられる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドのフィルム、炭素繊維、紙、織布又は不織布、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、又はこれらの金属の合金からなる箔又は板等が挙げられ、厚みも特に限定されない。
【0077】
フォトクロミック組成物層や粘着剤層の形成は、例えば基材の片面にフォトクロミック組成物を塗布し、その後上述した粘着剤層を形成する粘着剤を塗布することで形成できる。フォトクロミック組成物の塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーター、グラビアコーター、アプリケーター、マルチコーター、ダイコーター、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、又はナイフコーター等を用いることができる。基材に直接フォトクロミック組成物を塗布する代わりに、剥離処理されたPETフィルム(剥離フィルム)等にフォトクロミック組成物を塗布し、これに基材を貼り合わせてもよい。また、フォトクロミック組成物を直接塗布する代わりに、後述する前駆体を基材に塗布してもよい。
【0078】
このようにして得られた粘着製品を温度センサー、光機能素子、識別コードなどの用途として用いる事ができる。
【0079】
(前駆液)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物を形成するための前駆液を提供する。具体的には、(i) 上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体とを含む、前駆液を提供する。前駆液に含まれるジアリールエテン化合物とブロック共重合体は、上述したフォトクロミック組成物に含まれるジアリールエテン化合物とブロック共重合体とを用いる事ができる。本発明の前駆体は、上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物と、ブロック共重合体とが液体中に溶解又は懸濁した形態をとっている。
【0080】
液体としては、これらの物性に影響を与えることなくジアリールエテン化合物と、ブロック共重合体とを混合できるのであれば特に限定されないが、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、親水性の有機溶媒と疎水性の有機溶媒のいずれを用いてもよい。親水性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。疎水性の有機溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン及びイソオクタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1-クロロブタン又はクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。前駆液の一例としては、例えばアセトンに本発明のジアリールエテン化合物とブロック共重合体とを加え混合したものが挙げられる。
【0081】
製造された前駆液は、液体を除去することで本発明のフォトクロミック組成物となる。液体の除去方法は特に限定されず、加熱、脱気、乾燥などの任意の方法を用いる事ができる。
【0082】
(インジケータ組成物)
本発明は、ジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体とを含む、所定の温度を管理するためのインジケータ組成物であって、ジアリールエテン化合物が、上記一般式(I) (式(I)中、Aは、ヘテロ原子や置換基を含んでいてもよい、環を形成している炭素数3~7の二価の炭化水素基であり、Y1及びY2は互いに独立して、炭素原子(C)又は窒素原子(N)であり、3つのR1及びR2は互いに独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基又は芳香族基であり、R3は、Y1がCである場合には、水素原子(H)、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR4と互いに結合して環構造を形成しており、Y1がNである場合には、電子対であり、R4は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR3と互いに結合して環構造を形成しており、R5は、Y2がCである場合には、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR6と互いに結合して環構造を形成しており、Y2がNである場合には、電子対であり、R6は、H、置換基を有していてもよい、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基もしくはシアノ基、又はR5と互いに結合して環構造を形成し、置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、並びに、炭素数4までの、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルコキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される)で表され、ジアリールエテン化合物は、閉環後、所定の温度で分解し、ブロック共重合体のαは、前記所定の温度以上のTgを有し、βは前記所定の温度未満のTgを有する、インジケータ組成物についても提供する。インジケータ組成物に含まれる上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物については上述したフォトクロミック組成物に使用できるものを用いることができる。
本発明のインジケータ組成物は、所望作動温度で着色を消色させることができつつ、退色時の退色速度(の一次プロット)が、反応速度論に従い線形性を有するようにできる。これにより、様々な物品を様々な温度で管理することができるという優れた性質を有している。
【0083】
所定の温度は、発色後のインジケータ組成物が消色する温度である。インジケータ組成物の発色は、インジケータ組成物に対して紫外光を照射し、インジケータ組成物に含まれるジアリールエテン化合物を閉環させる(SiR1
3を有する炭素とSiR2
3を有する炭素とを結合させる)ことで行うことができる。所定の温度は、インジケータ組成物を用いたい条件に応じて適宜設定することができる。そして、この設定された所定の温度に応じて、ブロック共重合体のα及びβの組み合わせをそのTgに基づいて決定する。これにより、インジケータ組成物中のジアリールエテン化合物が所定の温度で分解する際に、退色時の退色速度(の一次プロット)が、反応速度論に従い線形性を有するようにすることができる。所定の、所望作動温度で着色を消色させることができつつ、退色時の退色速度(の一次プロット)が、反応速度論に従い線形性を有するようにできる。これにより、様々な物品を様々な温度で管理することができる。
【0084】
具体的な所定の温度は特に限定されないが、例えば-65℃~90℃で設定でき、-40℃~70℃であることが好ましく、-30℃~50℃であることがより好ましく、-30℃~30℃であることがより好ましく、-20℃~20℃であることがより好ましく、-10℃~10℃であることがより好ましい。
【0085】
ブロック共重合体のαは、前記所定の温度以上のTgを有し、βは前記所定の温度未満のTgを有する。ブロック共重合体のα及びβの候補としては、上述したフォトクロミック組成物に用いられるブロック共重合体のα及びβに用いることができるものから選択することができる。αは、前記所定の温度の20℃以上のTgを有しているのが好ましく、40℃以上のTgを有していることがより好ましく、60℃以上のTgを有していることがより好ましく、80℃以上のTgを有していることがより好ましい。βは、前記所定の温度より10℃以上低いTgを有しているのが好ましく、20℃以上低いTgを有しているのがより好ましく、30℃以上低いTgを有しているのが好ましい。α及びβがこのようなTgを有していることで、より優れた成形性を有しつつ、退色反応が反応速度論に従い線形性を示すインジケータ組成物とすることができる。
【0086】
インジケータ組成物には、ジアリールエテン化合物と、α-β-α型及び/又はα-β型のブロック共重合体の他に、本発明のフォトクロミック組成物に用いることができる添加物が含まれていてもよい。添加物については上述の通りである。これらの添加剤は、フォトクロミック組成物の全重量の20重量%以下で含まれていてもよく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。インジケータ組成物は、上述した光機能素子、温度センサー、識別コードとして用いることができる。また基材に塗布することで上述した粘着製品としても用いることができる。
【0087】
(フォトクロミック組成物の製造方法)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物の製造方法についても提供する。フォトクロミック組成物は例えば以下のようにして得ることができる。
【0088】
上記一般式(I)で表されるジアリールエテン化合物に液体を加えジアリールエテン化合物を溶解又は懸濁する。ジアリールエテン化合物については上述の通りであり、ジアリールエテン化合物を溶解又は懸濁する液体については、上述した前駆体の欄で記載した液体を用いる事ができる。
【0089】
ジアリールエテン化合物の溶液又は懸濁液に、ブロック共重合体を添加する。ブロック共重合体については上述の通りである。ブロック共重合体は、このようにジアリールエテン化合物の溶液又は懸濁液に添加してもよいし、先にブロック共重合体を液体に溶解又は懸濁した後にジアリールエテン化合物を加えてもよいし、ブロック共重合体とジアリールエテン化合物に同時に液体を加えてもよい。これによりフォトクロミック組成物の前駆液を得ることができる。
【0090】
得られた前駆液から液体を除去することで本発明のフォトクロミック組成物となる。液の除去方法は特に限定されず、加熱、脱気、乾燥などの任意の方法を用いる事ができる。また、前駆液を基材などに塗布してから液体を除去してもよい。これにより基材などに直接フォトクロミック組成物を形成してもよい。
【0091】
上述したフォトクロミック組成物の製造方法と同様にして、インジケータ組成物についても得ることができる。
【0092】
(物品の温度管理方法)
本発明は、上述したフォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を用いる物品の温度管理方法についても提供する。上述したように、本発明のフォトクロミック組成物及びインジケータ組成物は、退色速度(の一次プロット)が、反応速度論に従い線形性を有する。そのため、紫外光を照射することで発色させ、所定の温度を超えることで退色した組成物の吸光度を測定することによって、該物品がどのような状態で保存されていたかについての情報を得ることができる。物品がどのような状態で保存されていたかについての情報としては例えば、フォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を付した物品が所定の温度を超えたという情報、フォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を付した物品が一度でも所定の温度を超えたかどうかについての情報、フォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を付した物品が所定の温度を超えていないという情報、フォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を付した物品が所定の温度以上の温度にどれだけ晒されたかについての情報等が挙げられる。このように、フォトクロミック組成物又はインジケータ組成物を用いることで、様々な情報を取得することができるため、物品の温度を精度よく管理することができる。
【実施例0093】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0094】
実施例1:フォトクロミック組成物の製造1
以下の手順で合成したジアリールエテン化合物と、ブロックコポリマーとを混合して、フォトクロミック組成物を製造した。以下にその手順について説明する。
【0095】
(ジアリールエテン化合物の合成)
文献「Seiya Kobatake, Hiroyuki Imagawa, Hidenori Nakatani, and Seiichiro Nakashima “New J. Chem., 2009, 33, 1362-1367”」に記載された方法により、下記式(IV)で表されるジアリールエテン化合物を合成した。
【0096】
【0097】
文献「Daichi Kitagawa, Koki Tanaka, Seiya Kobatake “J. Mater. Chem. C, 2017, 5, 6210-6215”」に記載された方法により、下記式(V)で表されるジアリールエテン化合物を合成した(以下、この化合物を「DE-O2-TMS」ともよぶ)。
【0098】
【化8】
(式中、TMSはSi(CH
3)
3である)
【0099】
(ブロックコポリマー)
ブロックコポリマーとして、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル-ポリメタクリル酸メチルのトリブロック共重合体(PMMA-PBA-PMMA)であるクラリティLA2140(クラレ社製、共重合体中のPMMA比率は20%)を用いた(以下、このブロックコポリマーをPMMA-PBA-PMMA1ともよぶ)。PMMA-PBA-PMMAは以下の式(VI)のように表すことができる。
【0100】
【0101】
(前駆液の調整)
トルエンに対して、ポリマー濃度が12wt%になるよう上記PMMA-PBA-PMMA1を添加し、ポリマー溶液を調整した。このポリマー溶液170mg~500mgにDE-O2-TMSを10mg加えて溶解させ、フォトクロミック組成物の前駆液を調整した。
【0102】
フォトクロミック組成物の調整
上記前駆液のうち、20μlを分取し、三角セル中の壁面に塗布した。室温で溶媒のほとんどを除去し、その後ホットプレートを用いて110℃で30分アニーリングして溶媒を除去した。これにより実施例1のフォトクロミック組成物を製造した。実施例1のフォトクロミック組成物は、粘着性を有さず、製品として成型可能な硬度及び強度を有していた。
【0103】
実施例2:フォトクロミック組成物の製造2
ブロックコポリマーとして、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル-ポリメタクリル酸メチルのトリブロック共重合体(PMMA-PBA-PMMA)であるクラリティLA2250(クラレ社製、共重合体中のPMMA比率は30%、以下、このブロックコポリマーをPMMA-PBA-PMMA2ともよぶ)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のフォトクロミック組成物を製造した。実施例2のフォトクロミック組成物は、粘着性を有さず、製品として成型可能な硬度及び強度を有していた。
【0104】
実施例3:フォトクロミック組成物の製造3
ブロックコポリマーとして、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル-ポリメタクリル酸メチルのトリブロック共重合体(PMMA-PBA-PMMA)であるクラリティLA4285(クラレ社製、共重合体中のPMMA比率は30%、以下、このブロックコポリマーをPMMA-PBA-PMMA3ともよぶ)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のフォトクロミック組成物を製造した。実施例3のフォトクロミック組成物は、粘着性を有さず、製品として成型可能な硬度及び強度を有していた。
【0105】
比較例1:比較例のフォトクロミック組成物の製造1
ブロックコポリマーの代わりに、ポリメタクリル酸メチルポリマー(PMMA:和光純薬社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のフォトクロミック組成物を製造した。
【0106】
比較例2:比較例のフォトクロミック組成物の製造2
ブロックコポリマーの代わりに、ポリアクリル酸ブチルポリマー(PBA、25-30%トルエン溶液:Aldrich社製)をトルエンで希釈して所定の濃度になるようにして用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のフォトクロミック組成物を製造した。比較例2のフォトクロミック組成物は粘性が高く、室温では粘着性のある高粘度液体として振舞った。
【0107】
[比較例1のフォトクロミック組成物の熱退色実験]
比較例1のフォトクロミック組成物に対して紫外光を照射し、発色させた後、温度を変化させることで退色を生じさせた。この退色の程度を測定した。
Ocean Insight社製のCUV-QPOD-MPKITに、比較例1のフォトクロミック組成物が封入された三角セルをセットし、-10℃まで比較例1のフォトクロミック組成物の温度を低下させた。-10℃にした比較例1のフォトクロミック組成物に対して紫外光を照射して発色させた。紫外光の光源としては、朝日分光社製の300Wキセノンランプ(MAX-301)を用い、313nmの紫外光を、比較例1のフォトクロミック組成物が十分に発色するまで照射した。発色後の比較例1のフォトクロミック組成物を、-5℃になるまで昇温(この温度を昇温温度とよぶ)し、時間経過によるフォトクロミック組成物の退色を測定した。測定中の温度は、この昇温温度を維持した。測定用の光源としてはOcean Insight社製のDH-mini小型重水素ハロゲン光源を用い、検出器としてはOcean Insight社製のFLAME-Sを用い、DE-O2-TMSの閉環体の吸収極大波長である590nmの吸光度の減衰を測定した。なお、上記試験では昇温温度を-5℃としたが、新たに比較例1のフォトクロミック組成物を用意し、昇温温度を0℃、5℃又は10℃のいずれかの温度にした場合についても同様の試験を行って退色を測定した。参考に、DE-O2-TMSの閉環体への変化及び分解についての模式図を
図3に示した。
【0108】
比較例1のフォトクロミック組成物(に含まれるジアリールエテン化合物)の時間経過による退色をプロットした結果を
図4Aに示した。
図4Aでは、測定開始時の値を1とした。
図4Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ反応速度を解析してプロットした結果(
図4Aの縦軸の値を自然対数で表している。すなわち、ある時間における吸光度Aを初期の吸光度A
0で割った値の自然対数ln A/A
0を時間に対してプロットしている。以下についても同様)を
図4Bに示した。
図4Aより、-5℃、0℃、5℃又は10℃のいずれの測定結果についても時間経過によりジアリールエテン化合物の退色が発生していることが分かった。
図4Bより、これらの退色反応は線形性を示さないことが分かった。ここで、フォトクロミック組成物中に含まれるジアリールエテン化合物が一定の反応速度定数を示す場合、
図4Bのような一次プロットの結果は直線となる。しかし、
図4Bの結果は直線にはなっていない。これは、比較例1のフォトクロミック組成物中のジアリールエテン化合物において、それぞれの分子の反応性が異なっていることを示している。このように、退色反応が線形性を示さない場合、フォトクロミック組成物はサンプルの状態や紫外光の照射時間等の条件によって一次プロットの曲線が変わってくる。そのため、ある時点の発色を測定してもその発色から実際にどれくらいの時間が経過したのか等を特定することは困難である。これらのことから、比較例1のフォトクロミック組成物を実際の温度センサーなどの製品に用いるのには不向きである。
【0109】
[比較例2のフォトクロミック組成物の熱退色実験]
比較例2のフォトクロミック組成物に対しても、上記[比較例1のフォトクロミック組成物の熱退色実験]と同様の熱退色実験を行った。比較例2のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図5Aに示した。そして、
図5Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ反応速度を解析してプロットした結果を
図5Bに示した。
図5Aより、-5℃、0℃、5℃又は10℃のいずれの測定結果についても時間経過によりジアリールエテン化合物の退色が発生していることが分かった。そして、
図5Bより、これらのプロットはほぼ直線であることが分かった。
図5Bの結果から、比較例2のフォトクロミック組成物はフォトクロミック組成物として優れた性質を有しているようにも見える。しかし、比較例2のフォトクロミック組成物は非常に柔らかく、高粘度の液体に近いような性質を有しているため、機械的強度が低く、粘着性も有しており、成形性も乏しい。そのため、比較例2のフォトクロミック組成物をオーバーコート無しで実際の温度センサーなどの製品に用いるのには不向きである。
【0110】
[実施例1~3のフォトクロミック組成物の熱退色実験]
実施例1~3のフォトクロミック組成物に対しても、上記[比較例1のフォトクロミック組成物の熱退色実験]と同様の熱退色実験を行った。実施例1のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図6Aに示した。
図6Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図6Bに示した。実施例2のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図7Aに示した。
図7Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図7Bに示した。実施例3のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図8Aに示した。そして、
図8Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図8Bに示した。
図6A、7A及び8Aより、-5℃、0℃、5℃又は10℃のいずれの測定結果についても時間経過によりジアリールエテン化合物の退色が発生していることが分かった。そして、
図6B、7B及び8Bより、これらのプロットはほぼ直線であることが分かった。以下の表1に、直線の傾きから算出した比較例2、実施例1~3のフォトクロミック組成物の退色反応の速度定数について記載する。
【0111】
【0112】
実施例1~3のフォトクロミック組成物は、実際の製品に用いるのに十分な機械的強度を有している。すなわち、実施例1~3のフォトクロミック組成物は、退色反応が線形性を示しつつ、実使用に十分な機械的強度を兼ね備えていた。これは、ポリマーとしてTgの高いPMMA(Tg=105℃)と、Tgの低いPBA(Tg=-45℃)とのブロック共重合体を用いたことによる。すなわち、ブロック共重合体として機械的強度の高いTgの高いポリマーの部分と、機械的強度の低いTgの低いポリマーの部分とを兼ね備えることで、機械的強度の高いTgの高いポリマーの部分によって組成物の機械的強度を保持しつつ、Tgの低いポリマーの部分でDE-O2-TMSの均一な反応を生じさせることができる。つまり、ブロック共重合体としてTgの高いポリマーの部分とTgの低いポリマーの部分とを兼ね備えることで、DE-O2-TMSを加えた際に、ブロック共重合体中でDE-O2-TMSの偏在が生じている。そして、Tgの低いポリマーの部分にDE-O2-TMSが偏在することで、DE-O2-TMSの均一な反応が生じていると本発明者らは考えている。このような現象はこれまでに知られておらず、本発明者らが新たに見いだしたことである。
【0113】
比較として、DE-O2-TMSをヘキサンに溶解した試料を作製して、上記熱退色実験と同様の退色測定実験を行い、速度定数を算出した結果についても、上述した実施例1~3、比較例2のフォトクロミック組成物の速度定数の温度依存性とそれから得られる活性化エネルギー(Ea)と頻度因子(A)をあわせて、
図9及び表2に示した。
【0114】
【0115】
図9より、実施例1~3のフォトクロミック組成物中のDE-O2-TMSは、液体中のDE-O2-TMSの測定値と同様の結果となる事が示された。
【0116】
比較例3:比較例のフォトクロミック組成物の製造3
DE-O2-TMSの代わりに、以下の式(VII)で表されるジアリールエテン化合物を用いてフォトクロミック組成物を製造した。
【0117】
【0118】
式(VII)で表されるジアリールエテン化合物は、式(VII)の「R7」の部分が式(V)で表される本発明のジアリールエテン化合物とは構造が異なる(以下、この化合物をDE-O2-Hepともよぶ)。この化合物を用いたこと以外は、比較例1と同様にして比較例3のフォトクロミック組成物を得た。
【0119】
比較例4:比較例のフォトクロミック組成物の製造4
DE-O2-TMSの代わりにDE-O2-Hepを用いたこと以外は、比較例2と同様にして比較例4のフォトクロミック組成物を得た。
【0120】
比較例5:比較例のフォトクロミック組成物の製造5
DE-O2-TMSの代わりにDE-O2-Hepを用いたこと以外は、実施例2と同様にして比較例5のフォトクロミック組成物を得た。
【0121】
比較例3~5のフォトクロミック組成物に対して、昇温温度を45℃、50℃、55℃及び60℃にしたこと以外は、上記[比較例1のフォトクロミック組成物の熱退色実験]と同様の実験を行った。比較例3のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図10Aに示した。また、
図10Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図10Bに示した。比較例4のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図11Aに示した。また、
図11Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図11Bに示した。比較例5のフォトクロミック組成物の時間経過による退色をプロットした結果を
図12Aに示した。また、
図12Aに示された測定結果を微分方程式に当てはめ、反応速度を解析してプロットした結果を
図12Bに示した。
【0122】
図10A、11A及び12Aより、45℃、50℃、55℃又は60℃のいずれの測定結果についても、時間経過によりジアリールエテン化合物の退色が発生していることが分かった。そして、
図10B、11B及び12Bより、これらのプロットはほぼ直線であることが分かった。以下の表3及び
図13に比較例3~5のフォトクロミック組成物の速度定数(と活性化エネルギー)について記載する。比較として、表3及び
図13には、DE-O2-Hepをトルエンに溶解した試料を作製して、上記熱退色実験と同様の退色測定実験を行い、速度定数を算出した結果についても記載する。
【0123】
【0124】
以上の結果より、DE-O2-Hepを用いて作製したフォトクロミック組成物は、いずれのポリマーを用いても退色反応が線形性を有し、一次反応の速度式に従うことがわかった。このことから、本願発明のDE-O2-TMSを用いたフォトクロミック組成物について起こった、ポリマーによっては一次反応の速度式に従わなくなる現象は、ジアリールエテン化合物に対して一般的に生じる反応ではなく、DE-O2-TMS特有の現象であることが分かった。本発明者らは、このような現象について今回新たに見いだしている。なお、比較例3~5のフォトクロミック組成物は、昇温温度を45℃、50℃、55℃又は60℃に設定しているように、低温での消色性を有しておらず、本願発明のような冷凍・冷蔵品の温度センサーとしては使用できない。