(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126464
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】-SH基含有化合物検出型ラマンプローブ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20240912BHJP
C09B 11/28 20060101ALI20240912BHJP
C07F 7/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N21/65
C09B11/28 E CSP
C07F7/10 V
C07F7/10 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034848
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】村尾 侑大
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 礼任
(72)【発明者】
【氏名】河谷 稔
【テーマコード(参考)】
2G043
4H049
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA14
2G043CA03
2G043DA02
2G043EA04
2G043KA01
2G043KA02
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ67
4H049VQ84
4H049VR24
4H049VW02
(57)【要約】
【解決課題】
新規な-SH基含有化合物(例えば、グルタチオン)検出型ラマンプローブを提供すること。
【解決手段】
-SH基を含有する化合物を検出する方法であって、
(a)以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を、-SH基を含有する化合物と接触させる工程、及び
(b)一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより変化するラマン散乱光を測定する工程
を含む、当該方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-SH基を含有する化合物を検出する方法であって、
(a)以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を、-SH基を含有する化合物と接触させる工程、及び
(b)一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより変化するラマン散乱光を測定する工程
を含む、
当該方法。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
【請求項2】
R1の一価の置換基は、芳香族環における2位又は6位の位置に置換基を有しないか、あるいは、2位及び6位の位置に置換基を有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1の一価の置換基は、ベンゼン環における2位及び6位の位置に置換基を有しない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(I)のキサンテン骨格の3位、6位の窒素原子の少なくとも一方の窒素原子上で環構造が形成されている、請求項1に記載の検出方法。
【請求項5】
(a)の工程において、一般式(I)で表される化合物又はその塩、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩、及び-SH基を含有する化合物を接触させる、請求項1に記載の方法。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
d)(R
e)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
【請求項6】
-SH基を含有する化合物の濃度を定量的に検出することができる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
-SH基を含有する化合物がシステイン残基を有する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
-SH基を含有する化合物がグルタチオンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、-SH基を含有する化合物検出用ラマンプローブ。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。
【請求項10】
以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩を更に含む、請求項9に記載のラマンプローブ。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
d)(R
e)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
【請求項11】
epr-SRS法に利用可能な請求項10に記載のラマンプローブ。
【請求項12】
請求項9又は10に記載のラマンプローブを含む、-SH基を含有する化合物の検出用キット。
【請求項13】
請求項9又は10に記載のラマンプローブを備える、-SH基を含有する化合物の検出用装置。
【請求項14】
【請求項15】
以下の一般式(III)で表される化合物又はその塩。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基であり;
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
c)(R
d)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基であり;
Lは、リンカーである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な-SH基含有化合物検出型ラマンプローブに関わる。
【背景技術】
【0002】
生体内の酸化還元レベルを調節する分子としてグルタチオン(glutathione、GSH)が知られている。GSHは細胞内に0.5-10mMで存在しており、生きた細胞でその濃度を迅速に定量する手法が望まれてきた。
【0003】
本発明者らは、これまでに、特定のローダミン誘導体がGSHと可逆的に反応して吸収・蛍光特性を変化させる特性を見出し、生きた細胞で迅速にGSH濃度を定量可能なQGプローブの開発に成功してきた(非特許文献1)。しかしながら、GSH濃度を定量するために2つの蛍光色素の蛍光ratio値を測定する必要があり、細胞イメージングに汎用される可視光領域を大きく占有してしまうことが課題の1つであった。
【0004】
一方で、分子振動を検出するラマンイメージングは、蛍光イメージングと比べて多色イメージングに秀でたイメージング手法として注目を浴びている。本発明者らが所属する研究室ではこれまでに、silent region(1800―2800cm
-1)で強いラマン信号を示す9CN-pyronin(非特許文献2,3)の誘導体がGSHとの反応性を示すことを見出したため、これらがGSHプローブとして利用可能かどうかを評価してきた。その結果,先述したローダミン類のようなGSHとの可逆的な反応が起こるものの、一部不可逆的な分解も起こることが明らかとなり、9CN-pyronin誘導体を用いて可逆的にGSH濃度を定量するのは困難であることが示唆されていた(
図1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Umezawa, K.; Yoshida, M.; Kamiya, M.; Yamasoba, T.; Urano, Y. Rational Design of Reversible Fluorescent Probes for Live-Cell Imaging and Quantification of Fast Glutathione Dynamics. Nat. Chem. 2017, 9 (3), 279-286.
【非特許文献2】Miao, Y.; Qian, N.; Shi, L.; Hu, F.; Min, W. 9-Cyanopyronin Probe Palette for Super-Multiplexed Vibrational Imaging. Nat. Commun. 2021, 12 (1), 4518.
【非特許文献3】Fujioka, H.; Shou, J.; Kojima, R.; Urano, Y.; Ozeki, Y.; Kamiya, M. Multicolor Activatable Raman Probes for Simultaneous Detection of Plural Enzyme Activities. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142 (49), 20701-20707.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な-SH基含有化合物(例えば、グルタチオン)検出型ラマンプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのような中、本発明者らは前期共鳴(electronic pre-resonance、EPR)ラマン条件下におけるキサンテン色素の指紋(fingerprint、FP)領域の振動が比較的シャープなsingleピークとして検出できることを見出した。さらに、10位元素の置換を行った誘導体間で当該ピークのラマンシフト値が大きく変化することが実測・計算スペクトルから明らかとなった。以上のことから、10位元素の置換などの構造展開によって、異なるrhodamine類をFP領域で分離検出可能であることが示唆された。
【0008】
本発明者らは、これらの知見も勘案して、新規GSH定量型ラマンプローブの開発をするために検討したところ、ローダミン骨格の3,6位のN原子上の置換基や9位のベンゼン環上の置換基の構造展開によって最適な吸収波長、GSH応答性を有する色素母核を得ることができるのではないかと着想して、鋭意検討した結果、GSH応答性のローダミン誘導体とGSH非応答性のローダミン誘導体を開発することができ、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1]-SH基を含有する化合物を検出する方法であって、
(a)以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を、-SH基を含有する化合物と接触させる工程、及び
(b)一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより変化するラマン散乱光を測定する工程
を含む、当該方法。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
[2]R
1の一価の置換基は、芳香族環における2位又は6位の位置に置換基を有しないか、あるいは、2位及び6位の位置に置換基を有しない、[1]に記載の方法。
[3]R
1の一価の置換基は、ベンゼン環における2位及び6位の位置に置換基を有しない、[2]に記載の方法。
[4]一般式(I)のキサンテン骨格の3位、6位の窒素原子の少なくとも一方の窒素原子上で環構造が形成されている、[1]~[3]のいずれか1項に記載の検出方法。
[5](a)の工程において、一般式(I)で表される化合物又はその塩、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩、及び-SH基を含有する化合物を接触させる、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
d)(R
e)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
[6]-SH基を含有する化合物の濃度を定量的に検出することができる、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]-SH基を含有する化合物がシステイン残基を有する化合物である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]-SH基を含有する化合物がグルタチオンである、[7]に記載の方法。
[9]以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、-SH基を含有する化合物検出用ラマンプローブ。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。
[10]以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩を更に含む、[9]に記載のラマンプローブ。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
d)(R
e)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。)
[11]epr-SRS法に利用可能な[10]に記載のラマンプローブ。
[12][9]又は[10]に記載のラマンプローブを含む、-SH基を含有する化合物の検出用キット。
[13][9]又は[10]に記載のラマンプローブを備える、-SH基を含有する化合物の検出用装置。
[14]以下の式で表される化合物又はその塩。
[15]以下の一般式(III)で表される化合物又はその塩。
(式中、
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
Xは、酸素原子、Si(R
a)(R
b)、C(R
a)(R
b)又はP(=O)R
cから選択され、
ここで、R
a及びR
bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
cは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基であり;
R
1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよく;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
8及びR
9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基であり;
R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合している一価の置換基であり;
Yは、酸素原子、Si(R
d)(R
e)、C(R
c)(R
d)又はP(=O)R
fから選択され、
ここで、R
d及びR
eは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
R
fは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基であり;
Lは、リンカーである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規な-SH基含有化合物検出型ラマンプローブを提供することが可能である。
また、本発明により、-SH基含有化合物、例えばグルタチオン(GSH)応答性のローダミン誘導体とGSH非応答性のローダミン誘導体とを併用することにより、グルタチオンの濃度を定量的に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】9CN-pyroninの誘導体のGSHとの反応性を模式的に示す。
【
図2】一般式(I)の化合物又はその塩と一般式(II)の化合物又はその塩本を併用する発明の検出方法の模式図を示す。
【
図4】DMSO中で測定したSiP誘導体の正規化した吸収スペクトル(a)及び蛍光スペクトル(b)を示す。
【
図5】DMSO中で測定したSiP誘導体の正規化したSRSスぺクトルを示す。
【
図6】K
d,GSH値を最適化するためのISiPおよびTMSiPの構造進化(構造設計)を示す。
【
図7】吸収スペクトルとSRSスペクトルに基づく4COOH-SiR700による[GSH]分析結果を示す。
【
図8】吸収スペクトルとSRSスペクトルに基づく4COOH-2,6diMe-SiR650による[GSH]分析結果を示す。
【
図9】SiR700とGSHの可逆反応の結果を示す。
【
図10】pH7.4の0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液中で、4COOH-SiR700と4COOH-2,6diMe-SiR650のSRSスペクトルの同時検出を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「アルキル」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個(C1~6)、炭素数1~10個(C1~10)、炭素数1~15個(C1~15)、炭素数1~20個(C1~20)である。炭素数を指定した場合は、その数の範囲の炭素数を有する「アルキル」を意味する。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0013】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【0014】
本明細書において、ある官能基について「置換されていてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基、ジアルキルアミノ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0015】
本明細書中において、「アリール」は単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含む芳香族複素環であってもよい。この場合、これを「ヘテロアリール」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。アリールが単環および縮合環のいずれである場合も、すべての可能な位置で結合しうる。単環式のアリールの非限定的な例としては、フェニル基(Ph)、チエニル基(2-又は3-チエニル基)、ピリジル基、フリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、2-ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリダジニル基、3-イソチアゾリル基、3-イソオキサゾリル基、1,2,4-オキサジアゾール-5-イル基又は1,2,4-オキサジアゾール-3-イル基等が挙げられる。縮合多環式のアリールの非限定的な例としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-インデニル基、2-インデニル基、2,3-ジヒドロインデン-1-イル基、2,3-ジヒドロインデン-2-イル基、2-アンスリル基、インダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,2-ジヒドロイソキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、ベンゾフラニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-2-イル基、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-2-イル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、フルオレニル基又はチオキサンテニル基等が挙げられる。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアリールアルキル基など)のアリール部分についても同様である。
【0016】
本明細書中において、「アリールアルキル」は、上記アリールで置換されたアルキルを表す。アリールアルキルは、任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アシル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリールアルキルの非限定的な例としては、ベンジル基、2-チエニルメチル基、3-チエニルメチル基、2-ピリジルメチル基、3-ピリジルメチル基、4-ピリジルメチル基、2-フリルメチル基、3-フリルメチル基、2-チアゾリルメチル基、4-チアゾリルメチル基、5-チアゾリルメチル基、2-オキサゾリルメチル基、4-オキサゾリルメチル基、5-オキサゾリルメチル基、1-ピラゾリルメチル基、3-ピラゾリルメチル基、4-ピラゾリルメチル基、2-ピラジニルメチル基、2-ピリミジニルメチル基、4-ピリミジニルメチル基、5-ピリミジニルメチル基、1-ピロリルメチル基、2-ピロリルメチル基、3-ピロリルメチル基、1-イミダゾリルメチル基、2-イミダゾリルメチル基、4-イミダゾリルメチル基、3-ピリダジニルメチル基、4-ピリダジニルメチル基、3-イソチアゾリルメチル基、3-イソオキサゾリルメチル基、1,2,4-オキサジアゾール-5-イルメチル基又は1,2,4-オキサジアゾール-3-イルメチル基等が挙げられる。
【0017】
本明細書中において、「アルコキシ基」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、シクロプロピルメトキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロプロピルエチルオキシ基、シクロブチルメチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロプロピルプロピルオキシ基、シクロブチルエチルオキシ基又はシクロペンチルメチルオキシ基等が好適な例として挙げられる。
【0018】
1.-SH基を含有する化合物を検出する方法
本発明の1つの実施態様は、-SH基を含有する化合物を検出する方法であって、
(a)以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を、-SH基を含有する化合物と接触させる工程、及び
(b)一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより変化するラマン散乱光を測定する工程
を含む、
当該方法である(以下「本発明の検出方法」とも言う)。
【0019】
【0020】
本発明の検出方法においては、一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより変化するラマン散乱光を測定する。本発明の検出方法においては、好ましくは、一般式(I)で表される化合物又はその塩が-SH基を含有する化合物と反応することにより、減弱するラマン散乱光を測定する。
【0021】
一般式(I)において、R1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよい。
【0022】
R1が示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、R1が示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR1が示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。また、例えばR1が示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、R1が示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
【0023】
本発明の検出方法においては、ラマンスペクトルの測定は、好適には、epr-SRS法によるSRS測定が行われ、その測定では水中で高濃度(100μM程度)の色素を用いる必要があるため、ベンゼン環上にR1として水溶性官能基を導入することが好ましい。水溶性官能基としては、好ましくは、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。
【0024】
また、式(I)で表される化合物又はその塩が、-SH基を含有する化合物との間で求核付加-解離平衡反応を行うことが好ましい。
かかる特性を有するために、式(I)で表される化合物又はその塩は、9位のベンゼン環上の置換基R1が特定の位置に導入されることが好ましい。
1つの好ましい態様においては、R1の一価の置換基は、芳香族環における2位又は6位の位置に置換基を有しない。
また、もう1つの好ましい態様においては、2位及び6位の位置に置換基を有しない。
9位のベンゼン環が置換基R1との関係で上記のような構造を有することにより、当該ベンゼン環上の置換基の立体障害が減少するため、-SH基が9位のベンゼン環が結合する位置に求核付加することができ、-SH基を含有する化合物を有効に検出することができる。また、更に、ラマンスペクトルの強度変化により-SH基を含有する化合物の濃度を定量的に検出することが可能である。
【0025】
一般式(I)において、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。
R2及びR3の少なくとも1つがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。例えば、R2及びR3が示すアルキル基は、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R2及びR3がともに水素原子である場合、又はR2及びR3がともにフッ素原子又は塩素原子である場合がより好ましい。
【0026】
R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。
R4及びR5の少なくとも1つがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。例えば、R4及びR5が示すアルキル基は、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R4及びR5がともに水素原子である場合、又はR4及びR5がともにフッ素原子又は塩素原子である場合がより好ましい。
【0027】
R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である。
また、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である。
ここで、本発明の検出方法において、好ましくは、一般式(I)のキサンテン骨格の3位、6位の窒素原子の少なくとも一方の窒素原子上で環構造が形成されている。GSH応答性の色素として、キサンテン骨格でこのような環構造を形成することにより、吸収波長がより長くなるため、検出系のノイズなどの影響を受けづらく、検出感度が高く精度よくGSHなどの-SH基含有化合物を検出することが可能である。
【0028】
本発明の検出方法の1つの好ましい側面は、一般式(I)の化合物又はその塩は以下の(1)~(4)のいずれかの構造を有する。
(1)R6又はR7は、R2又はR4と一緒になって、R6又はR7が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しているか、
(2)R6及びR7は、夫々、R2及びR4と一緒になって、R6及びR7が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、
(3)R8又はR9は、R3又はR5と一緒になって、R8又はR9が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しているか、あるいは
(4)R8及びR9は、夫々、R3及びR5と一緒になって、R8及びR9が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、又は
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよい、
【0029】
本発明の検出方法の1つのより好ましい側面は、一般式(I)の化合物又はその塩は以下の構造を有する。
(1)R6又はR7は、R2又はR4と一緒になって、R6又はR7が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しているか、あるいは
(2)R6及びR7は、夫々、R2及びR4と一緒になって、R6及びR7が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、
及び
(3)R8又はR9は、R3又はR5と一緒になって、R8又はR9が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しているか、あるいは
(4)R8及びR9は、夫々、R3及びR5と一緒になって、R8及びR9が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよい。
【0030】
本発明の検出方法の1つの更に好ましい側面は、一般式(I)の化合物又はその塩は以下の構造を有する。
(2)R6及びR7は、夫々、R2及びR4と一緒になって、R6及びR7が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよく、
及び
(4)R8及びR9は、夫々、R3及びR5と一緒になって、R8及びR9が結合している窒素原子を含む5~7員のヘテロシクリル又はヘテロアリールを形成しており、
該ヘテロシクリル又はヘテロアリールは環構成員として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1~3個の更なるヘテロ原子を含有していてもよい。
【0031】
上記のヘテロシクリル又はヘテロアリールは、炭素数1~6個のアルキル、炭素数2~6個のアルケニル、又は炭素数2~6個のアルキニル、炭素数6~10個のアラルキル基、炭素数6~10個のアルキル置換アルケニル基で置換されていてもよい。
また、このようにして形成されるヘテロシクリル又はヘテロアリールとしては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
一般式(I)において、Xは、酸素原子、Si(Ra)(Rb)、C(Ra)(Rb)又はP(=O)Rcから選択される。
ここで、Ra及びRbは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基である。
また、Rcは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。
【0033】
本発明の検出方法の好ましい態様においては、(a)の工程において、一般式(I)で表される化合物又はその塩、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩、及び-SH基を含有する化合物を接触させる。
【0034】
【0035】
一般式(II)の化合物又はその塩においては、R
aは、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合しており、好ましくは、香族環上の2位及び6位の両方の位置に結合している。これにより、9位のベンゼン環上の置換基の立体障害が増大するため、-SH基が9位のベンゼン環が結合する位置に求核付加することができず、-SH基を含有する化合物と非反応性(非応答性)となす。その結果、一般式(II)の化合物又はその塩は、-SH基を含有する化合物の存在に関わらず、そのラマン強度が一定になる。そして、前述した一般式(I)の化合物又はその塩が、-SH基を含有する化合物の存在(好ましくは、その濃度)によってラマン強度が変化するため、両化合物のラマン強度を対比することにより、-SH基を含有する化合物の濃度の定量的な検出が可能となる。一般式(I)の化合物又はその塩と一般式(II)の化合物又はその塩を併用する場合の本発明の検出方法の模式図を
図2に示す。
【0036】
一般式(II)において、R1は、芳香族環上に任意に存在する一価の置換基を表し、当該一価の置換基が2以上存在する場合は、同一又は異なっていてもよい。
【0037】
R1が示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、R1が示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR1が示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。また、例えばR1が示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、R1が示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
【0038】
本発明の検出方法においては、ラマンスペクトルの測定は、好適には、epr-SRS法によるSRS測定が行われ、その測定では水中で高濃度(100μM程度)の色素を用いる必要があるため、ベンゼン環上にR1として水溶性官能基を導入することが好ましい。水溶性官能基としては、好ましくは、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。
【0039】
また、上記したように、式(II)で表される化合物又はその塩においては、Raの一価の置換基が、芳香族環上の2位及び6位の少なくとも1つの位置に結合しており、好ましくは、香族環上の2位及び6位の両方の位置に結合している。これにより、9位のベンゼン環上の置換基の立体障害が増大する。
Raの一価の置換基としては、炭素数1~6の置換又は無置換のアルキル基、炭素数1~6の置換又は無置換のアルコキシ基、ニトリル基、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)等が好ましい。また、当該アルキル基、アルコキシ基が有することができる置換基としては、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0040】
一般式(I)において、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。
R2及びR3の少なくとも1つがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。例えば、R2及びR3が示すアルキル基は、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R2及びR3がともに水素原子である場合、又はR2及びR3がともにフッ素原子又は塩素原子である場合がより好ましい。
【0041】
R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。
R4及びR5の少なくとも1つがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。例えば、R4及びR5が示すアルキル基は、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R4及びR5がともに水素原子である場合、又はR4及びR5がともにフッ素原子又は塩素原子である場合がより好ましい。
【0042】
R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である。
また、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である。
【0043】
Yは、酸素原子、Si(Rd)(Re)、C(Rd)(Re)又はP(=O)Rfから選択される。
ここで、Rd及びReは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~6個のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基である。
また、Rfは、炭素数1~6個の置換又は無置換のアルキル基、又は置換又は無置換のフェニル基である。
【0044】
本発明の検出方法においては、好ましくは、-SH基を含有する化合物の濃度を定量的に検出することができる。
【0045】
一般式(I)及び(II)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。一般式(I)及び(II)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、本発明においては、これらの物質も用いることができる。
【0046】
一般式(I)及び(II)で表される化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、本発明においては、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体なども用いることができる。
【0047】
一般式(I)及び(II)で表される化合物の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、及び反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、一般式(I)、(II)で表される化合物を製造することができる。
【0048】
本発明の検出方法は、好ましくはepr-SRS法を利用して行われる。epr-SRS法とは、前期共鳴 (electronic pre-resonance; epr)効果と誘導ラマン散乱 (stimulated Raman scattering; SRS) を組み合わせたラマンイメージング法である。
この方法では、分子の電子吸収帯よりやや長波長側の光によって励起する(前期共鳴条件)ため、光褪色や蛍光によるバックグラウンド上昇を抑えることができ、ストークス光による誘導放出によってさらに高感度なイメージングが実現できる。従来のSRS顕微鏡ではストークス光の波長変化に秒オーダーの時間がかかるため、スペクトル解析やスペクトルイメージングを行う際には測定時間が長くなってしまうのが課題の1つであったが、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の小関研究室で開発された高速SRS分光顕微鏡では1秒当たり30波数分変化させる高速イメージングが可能である(Ozeki, Y., Biological Imaging Based on Stimulated Raman Scattering. Seibutsu Butsuri, 2014. 54(6): p. 311-314)。
高速SRS分光顕微鏡を用いるラマンイメージング法は、上記のOzekiの論文を参照して行うことができる。また、高速SRS分光顕微鏡でイメージングを行うに際しては、信号対雑音比を高めるため、in vitroでの測定ではデータを5~10回程度、in celluloでの測定ではデータを100~1000回程度取得して、平均化を行うことが好ましい。
【0049】
本発明の検出方法においては、キサンテン色素の指紋領域(fingerprint region;1400-1700cm-1)において検出を行うことから、これに対する励起光は888nmであるため、当該epr-SRS法の装置を用いる場合は、前期共鳴がかかる波長域がおよそ650~790nmであるラマンプローブを用いるのが好ましい。
本発明のラマンプローブを用いる検出方法には、上記の高速SRS分光顕微鏡を好適に用いることができるが、当該高速SRS分光顕微鏡を用いた方法に限定されるものではない。
【0050】
本発明の検出方法においては、-SH基を含有する化合物は、好ましくはシステイン残基を有する化合物である。
-SH基を含有する化合物としては、グルタチオン、タンパク質中のシステイン残基、ホモシステイン、グルタチオンパースルフィド等が挙げられ、好ましくはグルタチオン(GSH)である。
【0051】
細胞内のGSH濃度は0.5-10mMとされており、本発明の検出方法においてはこの濃度範囲に対して適切な応答性を有するローダミン色素を使用することが好ましい。GSHとの応答性の尺度として、Kd,GSHを用いると、GSH応答性色素である一般式(I)の化合物又はその塩のKd,GSHは、好ましくは0.5~10mMであり、GSH非応答性色素である一般式(II)の化合物又はその塩のKd,GSHは、好ましくは>10mMである。
【0052】
本発明の検出方法において、通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに上記式(I)で表される化合物又はそれらの塩、及び、場合により式(II)で表される化合物又はそれらの塩を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、ラマンスペクトルを測定すればよい。本発明のラマンプローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【0053】
また、本発明の検出方法においては、一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む溶液を、細胞又は組織の試料に散布すること等により行うこともできる。この場合、一般式(II)で表される化合物又はそれらの塩を、一般式(I)で表される化合物又はその塩と一緒に溶解した溶液を細胞又は組織の試料に散布してもよく、また、一般式(II)で表される化合物又はそれらの塩を含む溶液を別に調製して、当該溶液を細胞又は組織の試料に散布してもよい。
【0054】
2.-SH基を含有する化合物検出用ラマンプローブ
本発明のもう1つの実施形態は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、-SH基を含有する化合物検出用ラマンプローブである(以下「本発明のラマンプローブ」とも言う)。
【0055】
【0056】
一般式(I)の化合物又はその塩の詳細については、本発明の検出方法で詳述した通りである。
【0057】
本発明のラマンプローブは、好ましくは、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩を更に含む。
【0058】
一般式(II)の化合物又はその塩の詳細については、本発明の検出方法で詳述した通りである。
【0059】
本発明のラマンプローブは、好ましくは、epr-SRS法に利用可能である。
【0060】
本発明のラマンプローブの使用方法は特に限定されず、従来公知のラマンプローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに上記式(I)で表される化合物又はそれらの塩、式(II)で表される化合物又はそれらの塩を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、ラマンスペクトルを測定すればよい。本発明のラマンプローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【0061】
本発明のもう1つの実施態様は、本発明のラマンプローブを含む、-SH基を含有する化合物の検出用キットである。
【0062】
当該キットにおいて、通常、本発明のラマンプローブは溶液として調製されているが、例えば、粉末形態の混合物、凍結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の形態の組成物として提供され、使用時に注射用蒸留水や適宜の緩衝液に溶解して適用することもできる。
【0063】
また、当該キットには、必要に応じてそれ以外の試薬等を適宜含んでいてもよい。例えば、添加剤として、溶解補助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いることができ、これらの配合量は当業者に適宜選択可能である。
【0064】
本発明のもう1つの実施態様は、本発明のラマンプローブを備える、-SH基を含有する化合物の検出用装置である。
【0065】
-SH基を含有する化合物の検出用装置としては、好ましくは、前記した高速SRS分光顕微鏡などが挙げられる。
【0066】
3.本発明の化合物
本発明のもう1つの実施形態は、以下の式で表される化合物又はその塩である(以下「本発明の化合物1」とも言う)。
【0067】
また、本発明のもう1つの実施形態は、以下の一般式(III)で表される化合物又はその塩である(以下「本発明の化合物2」とも言う)。
【0068】
【0069】
一般式(III)で表される化合物又はその塩は、上記した一般式(I)で表される化合物又はその塩と、一般式(II)で表される化合物又はその塩をリンカーで結合した構造を有する。
ここで、一般式(I)で表される化合物又はその塩に関わる構成と、一般式(II)で表される化合物又はその塩に関わる構成は、本発明の検出方法で詳述した通りである。
【0070】
リンカーとしては、種々のものを使用することができるが、例えば、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)、アリーレン(ヘテロアリーレンを含む)、シクロアルキレン、アルコキシル基、ポリエチレングリコール鎖、及び、これらの基から選択される2種以上の基が任意に結合して構成される基からなる群から選択される。
【0071】
本発明の一般式(I)で表される化合物又はその塩と一般式(II)で表される化合物又はその塩とをリンカーを介して結合させることで,細胞内のGSH濃度を定量可能なラマンプローブの提供が可能となる。
【0072】
本発明の化合物1及び2は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。本発明の化合物1及び2は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、本発明においては、これらの物質も用いることができる。
【0073】
本発明の化合物1及び2は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、本発明においては、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体なども用いることができる。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0075】
[原料]
合成に使用した全ての化学物質は、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)、シグマアルドリッチ(株)から購入した。 さらに精製することなく使用した。
【0076】
[測定機器]
NMRスペクトルは、重水素化溶媒中を用い、JEOL JNM-ECZL400S[1H 400MHz、13C 101MHz]で得た。
高分解能ESI質量スペクトルは,Bruker microTOF II(ESI)で得た。
HPLC精製は、Inertstil-ODS-3カラム(Φ10×250mm(セミ分取)およびΦ20×250mm(分取))を備えたJASCO PU-2080 Plusポンプ(GL Science Co.、Ltd.)およびMD-2015検出器(JASCO)で行った。
HPLCに使用した溶媒は、和光(株)より入手した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、中圧分取液体クロマトグラフYFLC-Al560(山善株式会社)を用いて行った。
TLCは、シリカゲルプレートF254(0.25mm(分析);Merck、AKG)で行った。
UV-visスペクトルは、Shimadzu UV-1800分光光度計で得た。
蛍光スペクトルは、F-7000 (日立)で取得した。
SRSスペクトルおよびSRS像は、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻小関研究室で開発された高速SRS分光顕微鏡で取得した。ポンプ光パルスおよびストークス光パルスの波長は888nmおよび1014-1046nm、パルス時間幅は約5ピコ秒、スペクトル分解能は5/cmである。水浸対物レンズを用い、その開口数は1.05である。フレームごとにストークス光パルスの波長を変化させ、500×500ピクセルの画像を毎秒30フレーム取得した。信号対雑音比を高めるためにデータをin vitroで5回取得し、平均化を行った。
【0077】
1.SiP誘導体の開発検討
キサンテン環の構造によってラマンシフト値が変化しうる可能性(計算でのスペクトル予測など)を考えて、
図3に示すような6種類の異なるSiP骨格を用意してこれらの実測スペクトルを比較することで分離検出可能な色素ペアの探索を行った。
ここで、
図3に示す化合物QSiP1の合成手順、化合物JSiP1及びJSiP2の機器データを以下に示す。
【0078】
[合成例1]
QSiP1の合成
以下のスキームでQSiP1を合成した。
【0079】
化合物1は既報(Nie, H.; Jing, J.; Tian, Y.; Yang, W.; Zhang, R.; Zhang, X. Reversible and Dynamic Fluorescence Imaging of Cellular Redox Self-Regulation Using Fast-Responsive Near-Infrared Ge-Pyronines. ACS Appl. Mater. Interfaces 2016, 8 (14), 8991-8997.)に基づいて合成した。
【0080】
QSiP1の合成
化合物1(79.9mg、0.17mmol、1eq)を脱水テトラヒドロフラン5mLに溶解し、アルゴン雰囲気化、-78℃で攪拌した。1.2Msec-ブチルリチウムシクロヘキサン、n-ヘキサン溶液(0.29mL、0.34mmol、2 eq)をゆっくり加え、1時間攪拌した。脱水テトラヒドロフラン5mLに溶解させたジクロロジメチルシラン(22.2mg、0.34mmol、2eq)をゆっくり添加し、室温に戻して4時間攪拌した。2N塩酸水溶液を加え、10分間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=97/3→76/24)により精製し,crudeの化合物2(19.9 mg)を得た。得られたcrudeの一部(6.8mg)をジクロロメタン2mLとメタノール2mLに溶解し,十分量のクロラニルを加え室温で20分間攪拌した。溶媒を減圧除去し、残渣をHPLC(eluent A (H2O with 1% MeCN and 0.1% TFA)and eluent B(MeCN with 1% H2O))(A/B=90/10 to 0/100 for 40 min)で精製し、QSiP1(4.1mg、19% in 2 steps)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.68 (s, 1H), 7.33 (s, 2H), 7.24 (s, 2H), 3.56 (t, J = 5.6 Hz, 4H), 3.26 (s, 6H), 2.67 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 1.87 (quin, J = 2.0 Hz, 4H), 0.44 (s, 6H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 361.20945, Found, 361.21075 (-1.3 mDa).
【0081】
化合物JSiP1の機器データ
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.48 (s, 1H), 7.20 (s, 2H), 3.49 (t, J = 6.0 Hz, 8H), 2.81 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 2.65 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 1.95-1.84 (m, 8H), 0.54 (s, 6H); HRMS (ESI
+): Calcd for [M]
+, 413.24075, Found, 413.24137 (-0.6 mDa).
【0082】
化合物JSiP2の機器データ
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.73 (s, 1H), 7.25 (d, 2H), 5.57 (d, J = 1.2 Hz, 2H), 3.60 (t, J = 5.2 Hz, 4H), 2.85 (t, J = 6.0 Hz, 4H), 1.46-1.41 (m, 16H), 1.19 (s, 6H), 0.58 (s, 6H); HRMS (ESI
+): Calcd for [M]
+, 493.30335, Found, 493.30187 (1.5 mDa).
【0083】
これら誘導体の吸収・蛍光スペクトルの測定を行った結果を
図4に示す。
図4は、DMSO中で測定したSiP誘導体の正規化した吸収スペクトル(a)及び蛍光スペクトル(b)を示す。また、SiP誘導体光物理特性を以下の表1に示す。
【0084】
【0085】
6種類のSiP誘導体に対してFP領域におけるSRSスペクトルの測定を行った。結果は
図5に示す通りである。
図5は、DMSO中で測定したSiP誘導体の正規化したSRSスペクトルを示す。また、SiP誘導体光物理特性を以下の表1に示す。
これらの誘導体の中から,分離検出可能な色素母核のペアとしてラマンシフト値が十分離れていてかつS/Bが優れていたTMSiPとISiPを選択してプローブ化を行うこととした。
【0086】
(2)SiR誘導体の開発検討
SiP誘導体のSRS測定の結果から、プローブの母核構造としてTMSiPとISiPを選定した。これらの骨格を組み合わせてGSH定量を可能とするために、それぞれの骨格をGSH応答性・GSH非応答性のローダミン色素へと構造展開することにした。ここで、GSH応答性の色素としてはより波長が長く検出感度が高いISiP母核を用いることとし、残りのTMSiP母核をGSH非応答性とすることした。
ここで化合物SiR700、4COOH-SiR700及び4COOH-2,6diMe-SiR650は、以下の手順で合成した。
【0087】
[合成実施例1]
化合物SiR700の合成
以下のスキームでSiR700を合成した。
【0088】
【0089】
化合物3は既報(Kushida, Y.; Hanaoka, K.; Komatsu, T.; Terai, T.; Ueno, T.; Yoshida, K.; Uchiyama, M.; Nagano, T. Red Fluorescent Scaffold for Highly Sensitive Protease Activity Probes. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22 (12), 3908-3911.)に基づいて合成した。
【0090】
SiR700の合成
ブロモベンゼン(122mg、0.78mmol、10eq)を脱水テトラヒドロフラン5mLに溶解し、アルゴン雰囲気化、-78℃で攪拌した。1.2Msec-ブチルリチウムシクロヘキサン、n-ヘキサン溶液(0.65mL、0.78mmol、10eq)をゆっくり加え、30分間攪拌した。脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解させた化合物3(27.1 mg、0.078mmol、1eq)を添加し、室温に戻して2時間攪拌した。その後2N塩酸水溶液を加えた。水で希釈した後ジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をHPLC(eluent A(H2O with 1%MeCN and 0.1% TFA)and eluent B(MeCN with 1%H2O))(A/B=90/10 to 0/100 for 60 min) で精製し、SiR700(21.5mg、68%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 7.54-7.52 (m, 3H), 7.21-7.18 (m, 2H), 7.12 (s, 2H), 6.71 (t, J = 1.6 Hz, 2H), 3.79 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 3.20 (s, 6H), 2.90 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 0.53 (s, 6H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 409.20945, Found, 409.20899 (0.5 mDa).
【0091】
[合成実施例2]
化合物4COOH-SiR700の合成
以下のスキームで4COOH-SiR700を合成した。
【0092】
化合物5は既報(Numasawa, K.; Hanaoka, K.; Ikeno, T.; Echizen, H.; Ishikawa, T.; Morimoto, M.; Komatsu, T.; Ueno, T.; Ikegaya, Y.; Nagano, T.; Urano, Y. A Cytosolically Localized Far-Red to near-Infrared Rhodamine-Based Fluorescent Probe for Calcium Ions. Analyst 2020, 145 (23), 7736-7740.)に基づいて合成した。
【0093】
4COOH-SiR700の合成
化合物5(248mg、0.96mmol、10eq)を脱水テトラヒドロフラン8mLに溶解し、アルゴン雰囲気化、-78℃で攪拌した。1.2Msec-ブチルリチウムシクロヘキサン、n-ヘキサン溶液(0.80mL、0.96mmol、10eq)をゆっくり加え、30分間攪拌した。脱水テトラヒドロフラン5mLに溶解させた化合物3(31.3mg、0.096mmol、1eq)を添加し、室温に戻して2時間攪拌した。その後2N塩酸水溶液を加えた。水で希釈した後ジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し,溶媒を減圧留去した。残渣をトリフルオロ酢酸3mLに溶解し、室温で1時間攪拌した。水で希釈した後ジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をHPLC(eluent A(H2O with 1% MeCN and 0.1%TFA)and eluent B(MeCN with 1% H2O))(A/B=90/10 to 0/100 for 40 min)で精製し、4COOH-SiR700(23.6mg、54%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.15 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.31 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.14 (s, 2H), 6.63 (s, 2H), 3.80 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 3.21 (s, 6H), 2.89 (t, J = 7.6 Hz, 4H), 0.54 (s, 6H); 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ 167.7, 164.4, 157.0, 150.4, 145.1, 133.1, 132.8, 130.7, 129.4, 129.2, 128.3, 114.7, 54.2, 48.3, 48.1, 47.9, 47.7, 47.5, 47.2, 47.0, 32.4, 25.8, -2.6; HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 453.19928, Found, 453.19900 (0.3 mDa).
【0094】
[合成実施例3]
化合物4COOH-2,6diMe-SiR650の合成
以下のスキームで4COOH-2,6diMe-SiR650を合成した。
【0095】
化合物8、9は既報(Takahashi, S.; Kagami, Y.; Hanaoka, K.; Terai, T.; Komatsu, T.; Ueno, T.; Uchiyama, M.; Koyama-Honda, I.; Mizushima, N.; Taguchi, T.; Arai, H.; Nagano, T.; Urano, Y. Development of a Series of Practical Fluorescent Chemical Tools To Measure PH Values in Living Samples. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140 (18), 5925-5933.、及び、Koide, Y.; Urano, Y.; Hanaoka, K.; Terai, T.; Nagano, T. Evolution of Group 14 Rhodamines as Platforms for Near-Infrared Fluorescence Probes Utilizing Photoinduced Electron Transfer. ACS Chem. Biol. 2011, 6 (6), 600-608)に基づいて合成した。
【0096】
化合物8(94.8mg、0.33mmol、3.5eq)を脱水テトラヒドロフラン8mLに溶解し、アルゴン雰囲気化、-78℃で攪拌した。1.2Msec-ブチルリチウムシクロヘキサン、n-ヘキサン溶液(0.28mL、0.33mmol、 3.5eq)をゆっくり加え、30分間攪拌した。脱水テトラヒドロフラン5mLに溶解させた化合物9(30.2mg、0.093mmol、1eq)を添加し、室温に戻して2時間攪拌した。その後2N塩酸水溶液を加えた。水で希釈した後ジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をトリフルオロ酢酸3mLに溶解し、室温で30分間攪拌した。水で希釈した後ジクロロメタンで3回抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をHPLC(eluent A(H
2O with 1%MeCN and 0.1%TFA)and eluent B(MeCN with 1%H
2O))(A/B=90/10 to 0/100 for 40min)で精製し、4COOH-2.6diMe-SiR650(33.6mg、85%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 7.87 (s, 2H), 7.36 (d, J = 2.8 Hz, 2H), 7.01 (d, J = 9.6 Hz, 2H), 6.77 (dd, J = 9.6, 2.8 Hz, 2H), 3.33 (s, 12H), 2.03 (s, 6H), 0.59 (s, 6H); HRMS (ESI
+): Calcd for [M]
+, 457.23058, Found, 457.23170 (-1.1 mDa).
【0097】
[実施例1]
細胞内のGSH濃度は0.5~10mMとされており、この濃度範囲に対して適切な応答性を有するローダミン色素を開発するべく上記の合成を行った。9位のベンゼン環上の置換基の立体障害を減少・増大させることでGSH応答性を最適化し、K
d, GSHが4.1mMのGSH応答性色素SiR700と25mM以上の非応答性色素2,6diMe-SiR650の開発に成功した。
SRS測定では水中で高濃度(100μM)の色素を用いる必要があるため,ベンゼン環上に水溶性官能基であるカルボキシ基を導入した誘導体4COOH-SiR700および4COOH-2,6diMe-SiR650の開発も行い、このような官能基導入ではK
d,GSHが大きく変化しないことを確認した。
図6に、K
d,GSH値を最適化するためのISiPおよびTMSiPの構造進化(構造設計)を示す。
【0098】
開発した誘導体とGSHとの反応を実際にラマンスペクトルで評価可能か検討を行った。まずGSH応答性の4COOH-SiR700の水溶液に様々な濃度のGSHを添加したサンプルのSRS測定を行ったところ、SRSスペクトルでも吸収スペクトルと同様にGSHの添加濃度に応じてピークの信号強度が低下していく様子が観測された。GSH濃度とSRS信号強度のプロットをフィッティングしたシグモイド曲線は,吸収によって得られたシグモイド曲線とよく一致し、K
d,GSHは3.0 mMと算出された。
図7に、吸収スペクトルとSRSスペクトルに基づく4COOH-SiR700による[GSH]分析結果を示す。
【0099】
一方でGSH非応答性の4COOH-2,6diMe-SiR650ではGSH濃度に関わらず信号強度がほぼ一定であることがSRSスペクトルからも確認された。
図8に、吸収スペクトルとSRSスペクトルに基づく4COOH-2,6diMe-SiR650による[GSH]分析結果を示す。
【0100】
なお,GSH応答性色素であるSiR700はGSH添加後にスカベンジャーであるNEMを添加することで吸収が回復することが確認され、GSHと可逆的に応答可能であることが示唆された。
図9に、SiR700とGSHの可逆反応の結果を示す。
実験条件としては以下の通りである。
左の吸収スペクトル:SiR700を0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に終濃度1μMになるように希釈した水溶液の吸収スペクトルを測定(before)した後、終濃度5mMになるようにGSH溶液を添加して吸収スペクトルを測定(+5mM GSH)し、GSH添加によって吸光度が低下することを確認した。その後終濃度5mMになるようにNEM溶液を添加して吸収スペクトルを測定(+5mM GSH + 5mM NEM)し、NEM添加によって吸光度がBeforeと同程度に回復することを確認した。
右の経時変化:色素・溶液・添加物の条件は上と同じ(1μM SiR700/0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)である。690nmの吸光度の時間変化を測定しており、30秒後に終濃度5mMになるようにGSHを添加、90秒後に終濃度5mMになるようにNEMを添加した。
【0101】
開発した2種類の誘導体を混合した水溶液のSRSスペクトルを取得したところ、混合溶液中でもそれぞれのピークを同定することができた。
図10は、pH7.4の0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液中で、4COOH-SiR700と4COOH-2,6diMe-SiR650のSRSスペクトルの同時検出を測定した結果を示す。